「オドレ等、そこに座れやぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
──その日、塔にはそんな怒声が響いた。
銀一の手引き──というか、銀一が予めポスターを全撤去していた為(無論それらは己の手の中)いつもの様に萌え血に沈む事も無く、やっとこさアシュタロスと対峙する事の出来た救出部隊御一行。
そして今、その場──大広間には救出部隊一同が集結。
対するはアシュタロスとハニワ兵数十体。
横島達はモニターにて様子見。
それは良いのだが──戦闘は長く始まらず、各々の口上が述べられて。
そのそれぞれは己の主張のみで、横島の気持ちを無視したものらで。
・・鬼道がキレたのである(爆)
「何で正座なんかしなくちゃいけないのよこの私がっ!!しかもアシュタロスと一緒に!!」
「そうよ!!大体ヨコシマは私のモノなのよっ!!」
「何ですってぇ!!」
「何よぉ!!」
「・・大体何で鬼道先生がこんな所にいるんですか・・!!」
「マーくん〜、横島クンはどこ〜?」
「てめぇっ!!俺にケンカ売る気だったら買ってやるぜ!?なんなら、横島賭けて勝負すっか!?」
「・・屈辱だ・・ていうか何者なんですかアナタ!?僕の横島さんに何やらかしたんです!?」
「・・僕に正座をさせるとは・・いい度胸だ・・!!横島クンを取り戻した暁には、その首を落としてあげよう・・」
有無を言わせず正座させられ、ご立腹な美神とそれに呼応するかの様に上がる、横島姫救出部隊の声。
・・殆どは鬼道への怒声やら殺気を込めた敵対心丸出しの言葉。
しかしそこから、相変わらずというか──仲間内(救出部隊内)で誰が横島に相応しいだとかの言い合いやら張り合いやらに発展していく。
鬼道への敵意や殺意を持ちつつも、いつものパターンにはまっていく一同。
だが、それらに加わっていないのも何人か。
元より姫争奪戦に加わる気は無かったものの、友人を助ける為だと部隊の中には入っていたタイガー。更にその為に事ある毎に恋人さんと引き離される日々。・・色々な思いの込められた涙を流す姿がいと哀れ。
ぶっちゃけ暇潰しやら何やら、あとは己の発明品の具合が見れればいいか、程度のノリで来ているカオス。他にも理由はあるのだが、ここでは割愛。
カオスと共に、こちらは横島の事を純粋に心配しているものの、危険を感じている為か、それとも無意味な事だと理解している為か、口論には参加していないマリア。
そして己の無力と相変わらずな連中に頭を抱える聖職者、唐巣神父。
・・一応この四人も正座はしていたが。
因みに妙神山の神魔族はこの場にはいない。・・出遅れすぎである。
「ううう・・またこんな事に・・」
今の情けなさ全開の呟きは、本来大ボスの筈の魔神アシュタロス(久々魔神形態)のものである。
塔での日常生活で培われたトラウマからきている本気の嘆きだ。
先程まで大広間にいた筈のハニワ兵達は横島の元へと避難中。・・最早アシュタロスを主人だとか創造主だとか認識しているのか怪しい所である。
そして──・・鬼道はそんな連中を前に、沈黙していた。
別に圧倒されている訳では無い。
相も変わらずなペースで言い合う連中に、幾許かの呆れと──静かに底から沸き上がってくる怒り故の沈黙である。
「・・そうか・・」
──と、ぽつりと漏らす。
怒鳴り散らせばその倍返されるのがオチ。
しかも理不尽と不条理と無理と無茶を伴って、勢いで押し切られると判断して。
「・・そうやって、結局ずーっと横島の事放って、自分等の事ばっかで・・。呆れられて、期待もされず、馬鹿やって・・終いには愛想尽かされる訳やな」
『な゛っ!!?』
静かに、しかしハッキリと聞き取れる程度の声量で吐かれた鬼道の言葉に、一斉に顔を向ける一同。
「ヒイィ・・」
・・唯一魔神はこそこそと這って逃げようとしていたが、無駄に長い髪を踏まれて逃げ損なった(爆)
「・・ん、そのまま、ちょっと黙って聞き。な?・・今からオドレ等が端から見てどんなんやったか説明すると同時・・自己を省みる、いう事も覚えてもらうからな?」
にっこりと、しかしどこか薄ら寒くなる様な笑みと共に、優しげな口調で──・・随分と静かすぎる声で、鬼道が言う。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
一同、何故かは解らないが、気圧された。
反論をする事が許されない様な、言葉を発する事を躊躇わせる様な・・。そんな空気を感じた為なのか。
一同は、沈黙した。
・・が。
「・・アンタなんかがこの私に説教でもするって言うの?」
・・こんな時でも引く事のできない、色々と不幸な者もいたりして。
「・・説教・・説教なぁ・・。オドレ等にきちんと理解できればの話やけどな?」
「なんですって・・!!」
にっこりと。
怒りのあまり、逆に張り付いた笑みしか浮かばなくなった鬼道の状態に気付かず。
その言葉に引く事のできない不幸な者──美神令子が怒りを露にし、立ち上がる。
しかし、無論。
「・・ええから正座」
・・鬼道の方が怒りは深い。
「アンタ何様のつもり!?たかだか一教師の、しかも六道家のお情けで飼われてるだけの分際でっ!!」
(((えげつなっ!!)))
思わず誰か達がそんな感想を心の中で抱いた(笑)
そして、美神は更にヒートアップ。
「大体横島クンを護って信頼されてるなんていうもんだから、少しばかり警戒する必要があるかと思えば・・アンタ程度の腐れ式神使いがそんな立場にいられる訳ないでしょーがっ!!考えてみれば、本当にそうなってれば横島クン助け出してる筈だもの!!さぁ!!とっととそこ退きなさいよ!!横島クンは私の丁稚なんだからっ!!私が連れて帰るのが道理ってモンでしょーが!!」
だが鬼道は張り付いた笑みを向けたまま、
「・・ん、横島に嫌われるんは確定やな♪」
爽やかに断言した。
・・この時点で鬼道の持つ怒りゲージの限界点はとっくに振り切り、宇宙の彼方へと旅立っていたらしい。
だが美神は怒りの為にそんな事には気付けない。
「何でアンタにそんな事が解るのよーーーっ!!!」
当然の様にブチ切れ。
そして。
怒りが、いわゆる我慢の限界──普段押し止めていられる、冷静さを何処かに持って会話出来る量の一定値を越えてしまった為。
「オドレ等みたいな馬鹿そのもの連中が誰に好かれるかこんドアホ共ォォォーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
・・鬼道も更にブチ切れました(爆)
そして始まる説教大会。
「・・此処に来て、アンタ等が何回か来たトコも見てたけど・・ハッキリ言うで?そこの魔神とアンタ等は同類や、同類。・・大体塔に来て、やる事と言えば仲間同士の足の引っ張り合い、身勝手な主張の押し付け、暴走・自爆!!毎度毎度横島の不本意極まり無いあないな腐れポスターに沈みおってからに!!オドレ等がアホやっとる間に横島がどんな目に遭っとったか知っとるんか!?てゆーか想像つくやろがっ!!」
『あうあうあう・・』
「その上魔神と対峙してもそのまんまいつもと同じっ!!なんやそれ!?オドレ等、そないな事やっとる自分等が横島にどう思われるか考えた事も無いんか!!」
「・・それについては謝るわ・・」
鬼道の言葉に口を開いたのは、美神美智恵。
横島をスパイとして潜り込ませた事について、かなりの罪悪感と後悔を持ち。そして横島を丁稚として扱き使っている娘へ、教育を間違ったと嘆く──Gメン隊長にて美神令子の母親である。
そして更に言い募ろうとする。
「でもこの子達は横島クンの事を本気でっ!!」
「・・アンタの事も見とったで」
──が、冷えた声での鬼道の言葉に固まる。
「・・なんでアンタも一緒に、ドサクサ紛れに横島の所有権主張しとった?」
・・二の句告げず。
「いえ、それは・・」
それでも何とか弁明しようとするのだが。
「・・ええか。ボクは、子供を護れん大人は大人として駄目やと思っとる。そちらさんにも色々事情はあったろうが、横島を救出する言う目的があるなら、アンタがきっちり指揮して然るべきやないのか?それを他の連中といっしょくたに騒いで主張して結局いつも自爆と共に撤退や。来んかった初めの内は上の連中に掛け合ったりして大人として尽力もしてたらしいけど、その後がいかんな。・・もう一度尋くで。横島の所有権の主張・・娘とか無視して、『自分のモノ』呼ばわりしとったな?」
一斉に視線が美智恵へと集まる。
汗ジトの美智恵。なんだか痛い沈黙。冷えた空気。
そして、美智恵の発した言葉は。
「・・てへ♪」
「かわいこぶるなぁーーーーーっっ!!!」
・・娘が誰より先に反応して絶叫した。
・・そんなこんな、結局鬼道の説教大会(最早説教地獄と称するべきかもしれない)が続いていた頃。
その様子をモニターで見ているのは、捕らわれし姫と、魔王(爆)
・・でも此処の方が姫にとっては安全だったり、この魔王は姫にとっては味方側だったりする。
「・・なぁ銀ちゃん・・俺、此処にいていーのか?」
困った様に尋く横島に、
「ああ、構わんて。今あそこに出てったらそれこそ危険やからなー、いろんな意味で」
軽く銀一が答える。
「うぅ・・確かにそーだけど・・」
「・・とにかく今は、様子見しとこ」
「う、うん・・」
銀一は己の言葉に頷いて、心配そうにモニターを見詰める横島を横目で見ながら。
(・・さぁて・・話はどう展開して、鬼道さんはどうするか・・)
そう心の中で呟いて、ふと。
「・・横っち。一回だけ尋く。・・あそこにいる中で、一番目につくん、誰や?」
「へ?・・いや、そりゃ・・鬼道、だけど・・?」
それはそうだろう。
何せ、今は鬼道による説教大会(地獄)真っ最中なのだから。
しかし──
「・・ん。そーやな。ずっと鬼道さん見とったし」
「へ!?」
視線はずっと、鬼道に固定されていた。
「・・そのまんまか、違う事になるか・・それで決まるわな・・」
「・・銀ちゃん・・?」
銀一の呟きに眉を顰める横島だが、銀一はそんな横島に、ただ微笑を向けるだけだった。
「・・まぁ、その事は置いといて・・」
「ちょっとママ!?」
娘の叫びを無視して口を開く美智恵。
その顔はGメン隊長としてのもの。
真剣な表情と雰囲気に変わった美智恵に、一同無言で注目する。
「貴方は横島クンにとって何ですか?」
「・・何、とは?」
「・・人・魔・神・・。三界の決定は静観。けれど私達の行動は黙認。結局、私達の出す結果が全て」
「・・それで?」
「・・貴方が此処に残り、横島クンを護っていたのなら・・何故横島クンを此処から連れ出さなかったのですか?」
先程の美神の台詞にもあったが、確かにそうである。
魔神から護っていたというのなら、何故此処から助け出さなかったのか──
「・・此処が一番安全だったからや」
その疑問に、鬼道は溜め息と共に、アッサリと答えた。
「・・安全・・って・・」
「・・まぁ、ぶっちゃけた話、魔神を止める事は出来ても、倒す事は出来んボクの力不足の為に断念したんや。魔神を倒す事が出来んのなら、横島はこの塔からは出られん様になっとったんでな。・・それと、このアホ・・」
ギッ、と、大人しく正座しつつも逃走する隙を窺っていた魔神を睨み付ける。
「あああああっ!?嫌な予感がぁーーーっ!?」
「あんなシーン一発目から見せられて放置しておけるかアホがぁぁーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
ずっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!
「ごぶふうぅっ!!?」
その時の怒りがぶり返したのか、思わずハリセン一閃。
なんだかステキな擬音を引き連れて、顔面から床へと着地する某魔神。
一同沈黙。
「・・それでなんとかこのアホ魔神が少しはマトモになる様に説教し続けてきたんやけど、効果が今一つでなー・・」
右手に持つハリセンを担ぐ形で肩にポンポンあてながら、溜め息と共に愚痴を漏らす。
「・・っと、それは少し話がズレとるな。まぁ、何にしろ、横島を塔の外に物理的に出せんから、ボクもいろんな意味で放っとけんかったし残っとった訳やけど──・・」
そこで言葉を止め、一同を見回す。
一同も『一発目に見たあんなシーン』とやらが気になってはいたのだが、無論尋く事も出来ず。
ぽつりと、鬼道が小声で呟く。
「・・夜叉丸。ハニ。切り」
それは、合図。
「・・あ、あれ!?」
横島が声を上げた。
突然、モニターの映像が途切れたのだ。
「ど、どーしたんだ!?ハニ!?」
「ぽぽー?」
白々しく首を傾げるハニワ兵。
「ぽー?」
本気で解っていないハニワ兵も首を傾げてたりするが。
(・・聞かせ辛い事か・・)
ただ一人、銀一だけが大広間のある方向へと、冷静に目を向けていた。
「・・鬼道・・」
心配そうに顔を歪ませている横島は、見ないフリで。
「・・出せたとして、外に出て──静観を決めとった連中やらに狙われたりしたらコトやろ」
「うっ・・」
美智恵が呻く。
確かにそれはあった。
静観。つまりは、横島を生贄とした人界。
それが世界中に広まればどうなるか。
・・核を奪われ、手は出せず、GS達に一任・・というより、やっぱり実情は放棄と放置。
他に手段が無かったとはいえ──世界を救う為、という名目の下に、個人を切り捨てるお偉方。
・・皆、良い気がする訳が無い。
今までだって全面的な信用があった訳では無いのだし、多少の混乱もあるだろう。
・・情報規制の圧力を掛ける位ならまだいいが──手っ取り早いのは・・。
「・・命を、狙われる・・」
「ま、そうやな」
苦々しい思いで漏らした呟きに、鬼道がさらりと肯定する。
まぁ、実際はそこまでする事は無いだろう。そんな事をすれば、潰されるのは自分達だ。
こんな情報を積極的に流す馬鹿もそうはいないだろうし、最悪、金を撒いて収拾をつけるという手もある。
ただ、それが解ってない一握りの、情報を漏らさない為、保身の為、財産を護る為に手段を選ばない馬鹿共がいないとも限らない。
そして、神魔の方も、手を出してこない保証は無いのだ。
アシュタロスに恨みを持つ者にでも捕らえられたらどうなるか。
・・大体横島一人を手に入れる為の大掛かりな作戦。
それに、真の目的を知らずに加わっていた者達もいるだろう。大部分は神魔両陣営に潰されたものの、逃げ延びた奴も少なからずいる。
更には、単なる興味本位でチョッカイを出そうとしてくる阿呆もいるかもしれないし。
・・ならば、現実塔に護られていて不特定多数には手が出せない今の状態が一番良い。
不本意ながらも、取り敢えずはそんな結論に至った訳である。
「・・それではもし此処から出られたとしても・・連れ出す事は無かったと?」
「・・多分な」
「私達ではそういう輩から、横島クンを保護する事が──護る事が、出来ないと・・?」
「いや、その前にアンタ等が危険やから」
間。
・・実の所、それが一番大きな理由だったりする。
外に出た所で、ぶっちゃけ、横島にとって安心して帰れる安全な場所が無いのだから。
「・・どういう意味かしら?」
「・・さっきまでの自分等の言動思い出しや」
更に間。
「・・つまり自分がアシュタロスから横島クンを護って、尚且つ外からはそういう輩の攻撃受けない此処が一番安全だと!?しかも私達もそういう連中と同一視!?冗談じゃないわ!!」
美智恵、激昂。
それでは、今までの自分達の行動は何だったのか。
勝手な事を言い、横島と過ごしていたという事実に幾らかの嫉妬やら何やらもあって、鬼道を睨み──
「大体、貴方は何の権利と資格があって此処にいて、私達の邪魔をするというの!?私達はアシュタロスを倒し、横島クンを救う為にやって来たのよ!?確かに皆の暴走はやりすぎだったけれど、貴方にそこまで言われる筋合いは無いし、どうせこの子達はツメが甘いんだから、誰か一人が横島クンゲットできる訳無いのよ!?潰し合った挙句、この私に総取りされるのがオチだもの!!それに、そんな馬鹿な輩、この子達にぶつけてやれば横島クンと私との逃避行の時間位稼げるわ!!そして、この私が横島クンを護ってみせる!!」
拳を握り締めて熱血ふぁいやーに力説。
・・美神美智恵(人妻)、なんだか物凄い事になっている。
旦那はどーしたのかと、小一時間程問い詰めたいカンジだ。
そしてこの後に産まれてくる筈のもう一人の娘の存在がどーなってしまうのかも心配である。
「・・マ・・ママ・・」
流石に引く美神。
「・・うわー、美智恵クンの一人舞台だー」
思わずどこかイッちゃった様な虚ろな目で棒読みちっくに呟いている唐巣。
(・・うぅむ・・人間は本当にタチ悪いな・・)
魔王にも勝るとも劣らんな、などと失礼な事を心の中で思っていたりする魔神。
・・他は一様に固まっていた。
「・・そうやな。まぁ、勝てるならそれで良いわ。倒せるならそれに越した事は無い。一応基本的にはそれが目的やったんやし・・。でもなぁ・・それ、無理やろ」
こめかみを指で押さえつつも、取り敢えず色々スルーして、話を進める鬼道。
「・・断言する訳ね・・!?」
美智恵、何故だかこの場にいる誰よりもヒートアップ。
「・・あないなポスター群に沈んでおいて、何か反論出来るんか?・・ていうか・・まぁ、実際の話──もう此処から連れ出した時点でアシュ倒そうが倒すまいが横島は危険なんやけどな」
「・・ッ!!」
言葉に詰まる。
改めて、現状認識。散々言っている事ではあったが。
既にもう、少なくとも神魔界には知れ渡っているアシュタロスの奇行。
今更外に連れ出せた所で、やっぱり色々と付いて回る。
・・本末転倒な感じだが──事実、今の状態が、いろんな意味で皮肉にも一番安全なのだ。
横島がアシュタロスの手に落ちた時点で、こうなる事は決まってしまっていたのかもしれない。
だが、それでは。そのままでは、何の解決にもならない。
「・・なら──・・貴方はこのまま此処にいるつもりなの・・?横島クンを、一生此処に閉じ込めておくつもり!?」
「そんな事は言うとらん。・・横島が望むなら、出来る事はしてやりたいしな。色々問題は出るやろうが、大抵の事はどうにか出来るやろーし。横島が此処出たい言うなら、命賭けてもどーにかする。・・ボクは、横島の保護者やから」
鬼道は静かにそう言う。
「・・別に権利も資格も無い。単に"自称"の保護者でしかあらへん。けど、自分で決めた事や。途中で放る気は無い」
どこまでも真剣な、本気の瞳で。
「・・更に言うなら、アシュへの説教とアンタ等への説教は、教育者、教職者の義務やと思うとる。・・言われたないなら、アンタ等こそもちっと横島の事考えや。保護者としては、今のアンタ等に横島任すなんて無謀な事は出来ん」
その鬼道の言葉に、美智恵は瞳を細めた。
色々と話が飛んだり脱線したり、長々と状況説明が入ったり、うだうだと言ってたりしてはいたが、とどのつまり、結局は──
「・・貴方は、横島クンにとっての保護者。立場と役目は理解したわ。でも、肝心な所が抜けているわね。貴方は、横島クンをどう思っているの?ただの保護対象?それとも──私達と、想いを同じにする者なのかしら?」
そこに、行き着く。
モニターの映像が繋がる。
「あっ!?鬼道っ・・」
(・・ココからが本題や。・・さぁ、どうする?鬼道さん)
モニターの中の鬼道の姿に声を上げる横島と、今までどうやってか盗聴していたらしく、タイミングを見計らってモニターの回復をハニ達にやらせた銀一。
そして、モニターからは──
「・・ボクは、保護者や。それ以上でもそれ以下でもない。・・ボクは、そういう役割と立場やから横島の傍にいられる」
静かで、真剣な眼差しと声。
・・答えになっていない、本心も見えにくい言葉ではあったが──とにかく、美智恵は判断した。
"敵"だと。
──なので。
「そう・・それなら・・保護者としての貴方の力を試してあげるわぁぁっ!!」
叫びつつ、手にした神通棍を飛び掛かりながら思いっ切り降り下ろす。
・・いきなりである。そして殺る気マンマンである(爆)
「・・そんなんやからっ・・!!」
ぎりぃっ、と歯を軋ませ。
「横島を任せられんのやろがぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
ばしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!
「きゃーーーーーーーっっ!!?」
降り下ろされた神通棍を弾き飛ばすと共に、その勢いで美智恵自身も吹っ飛ばす。
「力任せに物事進めんのも時には必要かもしれへんけど、今はそないな場合やないやろがっ!!」
ハリセン突き付け、怒鳴る鬼道。
「まず横島に言う事があるやろ!?大体試すてなんやねんっ!!本人いない所で本人の意思無視して騒ぎおって!!手本になるべき大人がそんなやから・・」
「あああああっ!!?」
説教再開。
「ど、どーすんのよアレ・・」
「アンタの母親でしょ!?全く、どんな母親なのよ、もう!!」
「アンタなんて生みの親元凶のアホ魔神じゃないのっ!!」
「うぐぅ!!」
「でもチャンスですよ!!今の内に・・」
「確かにな・・」
「もーココにいても説教の餌食になるだけだし・・」
「うぅ・・マーくんこわい〜」
「ああっ暴走はやめてくれ冥子くん!!」
そんな光景を横目に、ぼそぼそ相談している救出部隊(横島狙い)の面々。
魔神は既にこそこそと地を這いながら逃走途中。
しかし──
「・・お主、そのハリセンはどうした?」
その流れを止めたのは、カオスの言葉。
「ん?これか?妙神山にいる神魔族から託されたもんや。自分等は動けんからって」
『なぁっ!!?』
一同、その答にはビックリである。
「ほぅ・・。成程。神気が宿っておるのはそういう事じゃな?しかし・・小竜姫達のものにしては、高すぎるが・・」
目を細め、ハリセンを怪訝そうに観察する。
「あぁ・・上司とやらに頼み込んで、力込めてもらったらしいで。・・脅したカンジやったけどな」
苦笑しながらの鬼道の答に、一同思わず納得。
それ位でなければ、美智恵がアッサリと吹き飛ばされる訳が無いと。
・・どんな認識だ、この女傑(爆)
「・・そんでオドレ等──何相談しとった?」
『あああっ!?』
美智恵だけではなく、今度は一同全体に、鬼道の目が向く。
魔神も例外では無かったが、鬼道が行動を起こす前に。
「ふぇっ・・」
一同──救出部隊の中から、そんな声が漏れた。
震える声。涙交じりの、か弱い、幼子の様な、その声。
『あああああっっ!!?』
しかし、それは──
「マーくんのばかぁぁぁ〜〜〜!!!」
ある意味この場では最凶の、災厄の声。
・・冥子の暴走である。
色々と溜まっていたらしい。恐怖とか。
溢れ出すかの様に、勢いと力と強さを伴って、冥子の影から飛び出してくる式神達。
だが、一方。
「・・止まり」
鬼道は冷静に、式神達を見据えて一言。
途端、式神達の動きが止まる。
「・・え!?え?え?あれ〜?どーして〜!?」
慌てたのは冥子である。思わず涙も止まり、オロオロしている。
式神達も何が起きているのか解っていない様に、ただその場に留まり、こちらもオロオロと冥子と鬼道を交互に見ていた。
「・・流石に夜叉丸に取り込む訳にはいかんしな・・。ちと制御させてもらうで、冥子はん」
「ど、どういう事〜?」
「・・いつぞやの式神デスマッチの時と同じや。暴走は通用せん」
「うぅ〜〜〜!!」
・・一同、絶句。
美神とおキヌはその場にいたので、その事は知っていたが・・見据えただけでコレである。
「・・複数の式神を同時に使うとると霊波に隙が多なる。せやから、その隙をつかれ、奪われて取り込まれる・・。勿論ボクにそんな気ィないから、動き止めとるだけやけどな」
あっさりとそう言う鬼道。
当時が当時だ。式神を取り込んだり思う様に操る事に自信が無いというのもあるだろうが・・動きを止めるだけとはいえ、見据えて全十二匹制御。・・今なら取り込んでも平気な気もする。まぁ、それぞれの自我はきっちり残しているのが気になるが。
何にせよ、今、この場で。
暴走は通用しない。
「・・それにしても冥子はん。いつも言うとるでしょう?感情に任せたまま式神を使うのは・・」
「ふえぇ〜ん!!またマーくんのお説教が始まっちゃった〜〜〜!!!」
・・何と言うか。
冥子が最凶なら、鬼道は最強であるらしい。
「とにかくオドレ等、もっぺん正座や!!全員やど!!」
『ああああああああっっ!!?』
説教がまた再開されかける。
──が。
「・・鬼道さん、次は俺が話しますわ。少し、横っちの事見とって下さい」
そこに、銀一が現れた。
・・逃げようとしていた魔神の前に立ちはだかり、その頭を踏み潰しつつ。
この瞬間、この場にいる『最凶』は、この男に移った。
──本当は、全て無視して、横島を連れて逃げても良かったのだ。
しかし、銀一は横島を、鬼道に預けた。
横島の為に。
・・無論、一時的に預けるだけ、だが。
「・・ボクにどうしろと?」
「・・俺も行きますよ、後で」
他に聞こえない程度の声量で少しばかり会話を交わし、場所を交代する。
(・・敵に塩送る気は無かったんやけどなー・・。まぁ、ハッキリしてもらおか。なんや苛々するしな、このまんまは。それにこのままやと話も・・いや、説教もいつまで経っても終わらんやろーし)
基本的に、銀一は横島至上主義である。
横島さえ幸せなら、あとの事は殆どどーでもいい。
・・今、横島と鬼道を二人っきりにするのは自分にとって得策ではない事は解っている。
それでも、鬼道には本心を話させなければ、自分は納得出来ない。
本心を隠して、自分も傷ついて、後悔抱えて離れてもらっても鬱陶しいだけだ。
それでは横島も自分でも解らない何かを抱えて止まってしまう可能性だってある。
・・実際、残してきた横島の様子はどこかおかしかったし。
ここで二人にしたとしても、何も言わずに終わるのかもしれないし、やはり本心を隠したまま、今の『保護者』を貫くのかもしれないが──それならそれで、そこまでだ。
・・結局、底では認めているのかもしれない。
そんな事を思っている時点で、認めているという事だろう。
(・・けど横っち泣かせたら潰すけどな)
・・そう心に決めつつも。
「・・あんた、確かアイドルの・・?何してんのよ、こんなトコでっ!?」
新たに登場した人物に見覚えがあり、更に自分を放って勝手に話を進めた事に機嫌を悪くして、喧嘩腰に声を掛ける美神。
『最強』な鬼道がこの場から離れたせいもあるのかもしれないが。
・・知らないって怖い。
銀一は美神達に視線を向けて。
「・・俺は横っちの幼馴染み、堂本銀一や。オドレ等に言わんといかん事が多々あってなぁ・・」
「なっ・・!?横島クンの!?・・って、二匹の内の一匹ってアンタかぁ!!」
「どういう事!?大体何でヨコシマと一緒に・・って、本当にただの人間だしぃ!?」
「・・霊能力、持ってねぇ、よな・・?こいつ・・」
「・・普通の人間が・・何でこんな所に・・?」
次々に発せられる一同の言葉に、視線を鋭くさせて。
機嫌が悪いのか、それともこれが素なのか、一同が気に入らなかったのか、己の行動が何をもたらすのかを考えてしまっていたせいなのか。
「黙っとれや。阿呆共」
・・銀一の言葉には、容赦の欠片も無かった。
「あうあうあう・・」
モニターに映し出されるその様子を見詰めつつ、オロオロする横島。
「・・はぁ・・どうする気やろうなぁ・・」
そして一同が銀一に注目した隙に戻って来た鬼道が溜め息をつく。
(・・宇宙の卵いうのに隠れろ言うたけど・・横島がそんなん了承する訳無いしなぁ・・)
そのモニターの中で、銀一が、少し笑う。
──これから言う事、行う事はハッキリ言って、鬼道にはともかく、横島には見せたくはないし、見せられない。
・・そんな訳で。
「ハニワ兵共!!打ち合わせ通り頼むでぇっ!!」
その言葉を受け──
『ぽぽーーー!!!』
「えっ!?わっ!?な、何っ!?」
「おおっ!?なんやぁっ!?」
姫と最強保護者の傍──というか、足元にいたハニワ兵達が、一斉に二人を担ぎ上げ──
『ぽーーーっっ!!!』
「「わーーーーーーっ!?」」
・・どこかへ運んで行った。
「なっ、何!?何したのよアンタ!?」
「あ、気にせんでええ。今までのコト、全部モニターで見とったからな、横っち」
『・・・・・・・・・・え゛?』
一同、動きが止まる。
「そのモニターの前から、少し遠ざけただけや」
「・・ナンノタメニデスカ?」
モニターの事は知っていた為と、魔王の外道な行動には不本意ながらも慣れていた為、アシュタロスが──しかしカタカナ語で尋いてみる。
魔王・・いや、銀一はその問いに、にっこりと爽やかに笑んで──
ぽいっ、と、無言で、無造作に。
"何か"を、投げた。
「ぽ!!」
「ぽぽ・・?」
「ぽー!!」
それ"ら"を感じたのは、少数。
しかし、確かに感じて。
『ぽぽーーー!!』
・・様々な場所にそれぞれ待機していたハニワ兵達が、驚きとも焦燥ともつかぬ叫びを上げていた。
「・・なっ!?これは・・!!」
魔力が急激に抜かれていく感覚。
見れば、宙に浮く小さな指輪の輪の中に、己の魔力が流れ込んでいく。
「・・!!魔王っ!!貴様・・何をしたっ!!?」
叫びと共に魔王──銀一へと顔を向ける。
そこに佇むは腹黒魔王。
腕を組み──いつの間に移動したのか、部屋の端の壁に背を預け、薄く笑んでいた銀一は。
アシュタロスへと、爽やか笑顔で親指立ててのサムズアップをかましながら一言。
「・・滅べ♪」
しかもその手は下にぐりんっと回された。
無論親指は真下に向いて。
「酷ッ!?」
思わず声を上げる魔神。
「むむ・・アレは、確かわしが若い頃に作った、対魔族用の・・?強力で危険すぎるシロモノなんで、封印していた筈じゃが・・?」
カオスが目の前の光景に、首を傾げ顎に手をあてながら呟く。
「って貴様の作品かぁ!!」
「はっはっは、嫌ですなぁ、ドクターカオスvこの前売ってもらったんやないですかー♪」
「いつの間に!!」
「おお!!そういえば!!」
「聞けいっ!!」
突っ込む魔神の声なんぞ無視しまくって、爽やかな銀一の言葉に、手をぽん、と打って納得する・・というか、思い出すカオス。
因みに一億程だった。・・銀一の財産やら給料やらはどれ程のものなのか気になる所だ。
それはともかく。
「なんて危険極まりない事をーーー!!!」
「大丈夫や、それは『目標物』に設定されとるオドレにしか効力発揮せんから」
「それで私にとって何が大丈夫なんだコラーーーッ!!!」
「やかましいわ阿呆がっ!!GS連中ぶちのめす事も出来んヘタレが吠えるんやないわ!!まぁ、心配すなや・・オドレの墓くらいひっそりと作ったる!!そんで、『姫に嫌われたヘタレ魔神此処に眠る』とか墓石に刻んだるから往生せいやぁ!!」
「どっ、どちくしょーーーっっ!!!」
そんな、いつもより規模は大きいとはいえ相変わらずのやり取りをしているそこへ。
「・・ちょっ・・ちょっと待ちなさいよっ・・!!」
「おや、美神さん。・・どうかしましたか?皆して倒れ伏して」
今まで発言の無かった救出部隊の面々は──何故か、皆して床に倒れ伏していた。
無事なのはカオスとマリアのみ。
魔族であるルシオラまでもへたり込んでいる。
「・・わ・・私達も霊力吸い取られてるわよっ!?」
「・・そーなん?」
美神の悲鳴に近い声に、カオスへと振る銀一。
「それはそうじゃろう。魔力吸収、霊力吸収・・。ぶっちゃけ、生命力そのものを吸収するからのぅ。一点に集中し、目標を一人に定めたとしても、強力すぎて周りまで巻き込んでしまうのじゃ。一度使えば周り全てが死に絶えると言われた程のものじゃからこそ、封印を・・」
「元から作るなそんなモン!!」
怒鳴る美神だが、息も絶え絶えである。
「大体アンタ等は何で平気なのよっ!?」
「む、それは当然じゃろう。わしが作ったのじゃぞ?この服自体、その効力を他に向ける様にできておる。特殊な繊維で作られておるし、数多くの呪法も編み込まれておるでな」
バサッ、とマントを翻しつつ得意満面。
「他にも色々効能があるのじゃがなー。すっかり忘れてしもたわい」
などと言いつつ、わっはっは、とか快活に笑うカオス。
(((こっ・・この野郎・・!!)))
思わずぶるぶる震えつつ心の中で呟く救出部隊一同。
「因みに俺や横っち達にはセットで付いてきた、効力他に向けるっつー指輪持っとるから効かんしな♪」
随分と用意周到で愉しげな銀一に、なんだか疑問を感じるアシュタロス。
「・・貴様・・もしかしてこの連中も一網打尽にするつもりかっ!!」
そんな魔神の言葉に──
「・・さぁ?」
にぃっ、と笑んで、そう返す魔王。
・・空気が冷えた。
(イヤアァァァァ!!何なのコイツーーー!!!)
(ヨ・・ヨコシマーーー!!!)
(て・・敵はもしかして・・奴かっ!!!)
一同、真っ青で固まりつつ心の中で色々と絶叫。
「・・まぁ、本当なら、取り敢えずオドレ等で潰し合って・・いやいや、美神さん達に魔神倒してもらって、とっとと横っち連れ出して、他の連中が脱出する前にこの空間閉じてからゆっくり横っちを口説き・・。いや、これも違うか。まぁ、何にせよ、アンタ等が来たと同時に鬼道さんが説教モードに入ってしもたんでなー。こういう流れになってもうたわ。堪忍なー♪」
ひらひらと手を振って、お気楽な笑顔で銀一。
一同絶句。
「ほほぅ・・。なかなか悪どいのー、お主」
自分には影響が出ない為か、顎に手をあてつつ面白そうに言うカオス。
「・・まっ・・待ちなさいっ・・!!」
「ん?・・ああ、旦那さんいらっしゃるのに横っち喰おうとした美神さんのお母さん」
「うぐっ・・」
力を吸われながらも口を開くものの、銀一の言葉にたじろぐ美智恵。
しかし、黙ってはいられない。
「・・貴方・・こんな事をして・・タダで済むと思っているの・・!?それに横島クンを連れ出したとして、一人で横島クンを護っていけるとでも──」
「ああ、そこらは平気や。核で脅すから」
・・止まった。なんか、色々と。
「またそれかぁっ!!魔王!!」
「やかましいわ魔神!!心配すなや、オドレが滅ぶ前に残した遺言として、横っちが天命全うせず、どっかの馬鹿に殺されたりしたら問答無用で核発射されるて伝えたるから!!オドレも一人の人間深く愛しすぎた、不器用な悲しくも一途な魔神とか曲解してもらえるかもしれんで!?あっはっはっはっは!!本望やろ!?」
「横島クーン!!最強保護者ーーー!!!ヘループ!!此処にこの世で一番タチが悪く説教が必要なイキモノがぁーーーーーーーーっっ!!!」
「・・失礼な。俺は横っちさえ無事なら他はどーでもいいだけや」
「言い切りやがった!!」
「だかまし!!」
げしっっ!!!
「ああっ!!この場面でまた足蹴っ!!」
「・・そ、そう上手くいくかしら!?神魔が襲ってくるかもしれないのよ!?」
目の前で繰り広げられる魔神と魔王の漫才に戸惑いつつもそう言う美智恵だが、
「そん時はまぁ・・妙神山にでも保護求めればええし。神魔のゴタゴタなんぞ、横っちには関係あらへんからなー。勝手にやり合ってもらうわ。奴等も横っちには借りがあるやろうし、邪険には出来んやろ。・・第一、神魔連中も一部除けば殆ど気にしとらんみたいやし。アシュの目的のせいで加担してた連中もやる気なくしたり投げ遺りになったりで、そう危険やないらしいで?鬼道さんはそこらかなり気にしとったみたいやけどな。真面目に考えすぎるし心配性からなー、あの人は」
苦笑しながらの銀一の言葉に、引き攣る一同。
どうも、いろんな情報を持っているらしい。
「・・まぁ、それに神魔族には知れ渡るじゃろうしなぁ・・魔神を罠に掛け、姫を助けに来た連中毎滅ぼした、手段を選ばぬ"ヒト"が傍に付いておるというのはな・・」
カオスが息を吐きつつ呟く。
「ははは、いやですなぁ、俺なんぞ大した脅威になりませんてー」
朗らかに銀一が返す。
「・・それでも・・もし、横島クンに何かあったら・・殺されでもしたら・・どうするつもり!?」
力を振り絞っての美智恵の言葉に、
「地球全域、宇宙空間、どうにか空間繋げて神魔界、異空間、無差別にありったけ、核発射させます♪」
爽やかに断言。
「なにゆえーーーっっ!!?」
「いや、勿論横っちと共に皆で逝く為に」
「そんなアッサリ!?」
「・・小僧はそんな事望まんと思うぞ?」
「・・まぁ、単なる俺の憂さ晴らしですが」
カオスの言葉に苦笑しながら答えて。
「基本的に俺、横っちいない世界なんぞいらんですから。俳優業出来なくなるんは少しばかり残念やけど、仕方あらへんし。横っち否定した世界で演じて、顔も知らん連中に喜んでもらっても虚しいだけやしなー」
あっけらかんと言う銀一に、一同呆然である。
嫌な汗とか出てきたりする。
「・・しかし・・この状況を打破し、貴様を潰してしまえば、貴様の野望も企みもそこで終わるっ!!」
そんな中、一人雄々しく吠えるのは魔神。
「・・打破?オドレ、今、俺に攻撃も出来ん癖に何ほざいとる?」
銀一は酷薄な笑みでそう返す。
「・・いい度胸だ・・!!魔神を敵に回した事を後悔するのだな・・!!!」
空気が、変わる。
プレッシャーを伴った、"魔"を纏った、魔神の放つモノによって。
それは、正しく魔神としての強さであり、力であり、恐怖であり、憤怒であり・・。
「滅べ・・人間ッッ!!!」
絶対的な、殺意と殺気。
だが──
「遠慮するわ♪」
軽い声と共に、ぱちんっ、と指を鳴らす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッッ!!!
「・・ぬ、が・・ッ!?」
魔力、霊力、生命力を吸い取る力が格段に上がる。
動く事──立っている事さえきつくなる。
「因みに、他に効力向ける指輪・・。コレあると、力吸われとる奴からの攻撃も吸ってる方へひん曲がっていくらしいから、ぶっちゃけ意味ないで、魔神♪」
「ごふぁっ!!?」
・・心が折れてしまったのか、べしゃっ、と崩れ落ちる魔神。
「・・こりゃー魔王と呼ばれる訳じゃのー・・タチ悪すぎじゃわい」
思わず呟かれたカオスの言葉は、この場にいる一同の感想の代弁だった。
・・その厄介な指輪を作ったのはカオス本人であるが(爆)
「そんなら俺は行くわ。あ、それと──・・」
てこてこと出口へと歩き。一旦止まって振り返り。
「その指輪、オドレが大量生産かましとった『宇宙の卵』と空間繋がっとって、オドレから奪った魔力そこらに放出しとるんで、多分・・オドレの魔力吸い尽くすまで止まらんと思うで?」
一同、引き攣る。物理的に動けない現状に加え、その内容に精神的にも動けなくなる。
そんな一同に、銀一は続ける。
「まぁ、オドレの魔力吸い尽くした時点で壊れる位の耐久力らしいから、他の連中も頑張ってそれまで生き残ってれば多分平気やで♪『目標物』やないんやし、何とかなるやろ。『宇宙の卵』の方も、試作品とはいえ、よさそーな生命誕生までいっとらん空に近いの何個か見繕っといたし、そうコワイ被害もないやろ。てなワケで、ま、生き残っとったらまたな♪」
銀一、ステキに恐怖を撒き散らして、笑顔で退場。
その場に沈黙が落ちた。
そこに生じる音は、指輪の輪の中に吸い込まれていく、魔力と霊力の混じり合った奔流の発するもののみ。
刻一刻と、一同(マリアとカオス除く)の力は吸われていく。
救出部隊の大半は、もう既に気を失っていたりするし。
「・・くっ・・あんの魔王ーーーっ!!!」
ちょっぴり涙を浮かべつつ、魔神が指輪へと魔力放出の攻撃を仕掛ける。
──が、寸前で止まり。
「魔力吸収しとる時に魔力そのものを使った攻撃しても意味なかろう」
カオスの言う通り、輪の中へアッサリと吸い込まれた。
「ぐっ・・!!ならば・・!!」
物理攻撃。
シンプルに殴り掛かるが、指輪は壊れず、魔力と霊力を吸い続ける。
「ぐぅっ・・!!」
息が上がる。
このまま魔力が吸われ続け──吸い尽くされれば。
自分は、一旦消える。
・・が、また復活するだろう。
それが、魂の牢獄。
だが──それがいつになるのかは解らない。
少なくとも、人の身には長すぎる時間を要するだろう。
そうなれば、来世などならともかく、今の横島と会う事は、ほぼ不可能。
そんな事になるのは勘弁してもらいたい。
それに──・・
「負けっぱなしで!!しかもこんな所で終わってたまるかぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
涙を迸らせつつ、魂からの叫びを上げた。
一方、横島と鬼道は。
「・・つーか、ココ何処?」
「・・『宇宙の卵』とやらの中・・らしいけど・・」
ちょっぴり困惑していた。
そこは、密林。
四方八方草だらけ。見た事も無い植物と、聞いた事の無い、動物と思わしきものの鳴き声響くジャングルの真っ只中。
・・ワケわからん。
「ぽー?」
「ぽぽー!!」
足元ではハニワ兵達も右往左往。
あれよあれよとハニワ兵達に連れて来られた横島と鬼道。
それでも、一応それなりに説明はちょこちょこと受けていたらしく。
「・・銀ちゃんは逃げ回れって言ってたけど・・どーすりゃいーんだ?」
「ん〜・・。どっかに次元の穴あるらしいから、そこ見付けてみよか」
「ぽー!!ぽぽー!!」
「え?それなら解るって?」
「ぽー!!」
「・・作れる?」
「ああ、そういや異次元とかと空間繋げられるとかも言うとったなー、ハニ達は」
「でも作るって・・道具・・はいらねーの?あーそっか、魔法陣・・。でも描くトコ無いぜ?」
「ぽ!!ぽー・・」
しょんぼりハニワ兵。
「ぽぽー!!」
元気付けるハニワ兵。
「ぽー!!」
それに乗るハニワ兵。
なんだかこの場の一同は、ほのぼのと。
「・・まぁ、そーいうの探知する能力も持っとるらしいしな・・。自爆機能とか外す代わりに、色々やったなぁ、魔神も」
「んー、まぁ、そんじゃ行ってみっか。案内頼むぜ、ハニ!!」
『ぽーーー♪』
・・呑気だった。
──今の所は。
通路にて。
待たせてあったハニワ兵達と合流し、横島達のいる所へ向かい、走る銀一。
「・・お、そろそろか?」
呟くと同時。
──パキン──
・・そんな乾いた音が、耳に響いた気がした。
そして、唇を笑みの形に歪ませながら。
銀一は、横島の元へと走る。
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