「・・クッ・・クククッ・・!!あの人間・・殺してやるっ・・!!」
取り込む。
殺し、殺し、殺し。
その力を。
その憎悪を。
その魂を。
その身に取り込んで。
「この俺をコケにした分・・この俺に屈辱を味あわせた分・・倍にして返してやる・・!!」
禍々しい角を持ち。
黒き肢体を持つ、その魔族は。
「ククッ・・ククク・・ッハーハッハッハーーー!!!」
魔界の空の下、狂った様に笑い声を上げていた。
「うぅっ・・アシュ様ぁ〜・・」
「もーいーかげんにしなよ・・。そんなに気になるんなら、塔行って決着つけてきな!!」
「うぅ・・だってぇ〜・・」
「いーから行きなっ!!」
「あう〜〜〜・・」
「ったく・・」
飲んだくれ、未だに泣きべそかいてる蜂の化身を荒っぽく送り出して、一息ついて。
「・・フン・・。ま、私もちぃと掻き回しに行ってやろーかねぇ。横島の奴とは因縁もある事だし・・」
そう呟いて、蛇女は。
にぃぃっ、と。
「さぁて・・どーしてやろうかねぇ?」
愉しそうな、タチの悪そうな笑みを浮かべた。
朗らかに笑いつつ。
弟に対する様な、子供に対する様な、柔らかくて優しい眼差しで。
一片の悪意も欲も無く、姫の頭を最早条件反射の如く撫でる最強保護者。
そんな、いつの間にやら日常と化した、自分達にとってとことん羨ましく口惜しい光景を眺めつつ。
「・・完全に保護者やからなー・・付け入る隙があらへんわ・・。多少横っちに邪な想いでも抱いとれば潰せるのになぁ・・」
ちっ、とか舌打ちをかましつつも、諦めを滲ませながら銀一。
「・・"保護者"でなければ・・いや、"教育者"でなければ他の連中と同じく横島クン萌えポスターで沈んでいた筈だしな・・。うぅ、あの時問答無用で殺しておけばっ!!もしくはどこか異空間にでも飛ばしておけばっ!!」
「・・そーなったら横っち壊れとったかもな」
「う゛っ!!」
「・・俺も出遅れたからなぁ・・ちっ、一生の不覚やで・・。よりにもよって横っちの事で他の奴に出し抜かれるなんてなぁ・・!!」
「瘴気出すな魔王ー!!」
「やかましいわボケェッ!!・・ま、一つ言える事は──・・」
滲んだ汗を拭いつつ。
「・・鬼道さんが黒属性やなくて良かったっつー事やな・・!!」
間。
・・思わず二人して、黒い最強保護者を想像してみる──・・
黒い笑み。
両手にハリセン。しかもそのハリセンは何故か黒光り。
眼光鋭く、足元には下僕となったハニワ兵達が転がってたり整列してたり。
・・もしかして転がっているのは逆らってはたかれたハニワの残骸かもしれない。
ちょっぴり無惨に土くれが散乱していた。
後ろに控えるは式神夜叉丸。
・・何故か着物が血染め。
表情は無い筈だが、今回に限り裂けた様な紅い口が笑みの形に張り付いている。
鬼道の笑みの形に歪む口が言葉を紡ぐ。
瞳が鈍い光を放つ。
その口から漏れた音は他者を蔑み潰す唄。
その瞳の鈍い光は他者の存在を打ち消し焼き尽くす、闇を含んだ昏い光。
・・ていうかなんだこの想像。
──かなり間違った想像終了。
「「・・コ・・コエェ・・」」
魔神と魔王、冷や汗だくだく流しつつ、ぶるぶる震えて異口同音。
・・まず第一に、勝てない。
物理的に殺す事は出来ても、勝てない。
この場合の勝ち負けは横島の信頼だとか好意だとかによって左右されるので、純粋な力はぶっちゃけ関係無いし。
・・その前にただでさえ精神的に勝てない最強保護者だ。黒入ったらどうなるのか考えたくもない。
そして・・黒でも横島は気付かんだろうし(爆)
最早確固たる地位やら何やらを持つ最強保護者。
・・それが己の黒い意思にて行動したら。それも横島ゲットにでも動いたら──
((負けるっ!!てか潰されるっっ!!!))
・・とっても絶望的な答えがこの上無く明確に導き出されてしまった。
「・・いかんいかん、恐ろしすぎること想像してしもた・・!!」
額に浮かんだ汗を拭いつつ銀一。
「・・本当に恐ろしすぎるぞオイ・・!!つまり最強保護者で腹黒魔王で説教の全ては罵詈雑言と私の存在を容赦無く否定する言葉を交えた正論・・コワァッ!?」
もし鬼道がそんなんだったら既に精神崩壊を起こしているだろう。
──と。
横島の頭を撫でながら、鬼道が二人に顔を向け──にぃっ、と。
嗤った。
硬直。
魔神も魔王も、面白いくらい解り易く、強固に固まった。
そして鬼道はそんな二人に構わず、横島に何事か話しつつその背を押しながら、ハニワ兵数体と一緒にどこぞへと去って行った。
「・・イマノエミハナンデスカ?」
「・・ハ・・ハハハ・・単なる演技や・・。俳優舐めたらアカンで・・。し・・しかし・・」
硬直したまま、引き攣りながら、随分と硬い声で。
「・・良かったなぁ、あの人・・。底に起こしたらえらい事になるコワイもん飼ってそうやけど・・黒やなくて」
「・・同感だ」
最強保護者の消えた先から目を離せず、そんな会話をかます二人。
・・因みに数時間後、ハニワ兵と共に横島がメシの時間を知らせにくるまで、二人は硬直しっぱなしだったりする。
・・しかし、何気に現実逃避をかましている頭のどこかでは冷静に。
(・・あの人は微妙に天然な白だからこそ強い気もするけどな・・)
とかも思ってたりする腹黒だった。
・・そして多分それは、正解である。
「ちったぁ懲りたかなぁ?」
「ん?何がだ?鬼道?」
「あぁ、ちょっとなぁ。一度お灸据えんといかんかなぁ、と思て」
「?」
「ぽー?」
「ぽぽー?」
苦笑しながらの鬼道の言葉に、首を傾げる横島とハニワ兵達。
「はは、大した事やないよ」
横島達と平和そのもので廊下をてこてこ歩きつつ、先程の己の行動には苦笑が止められない。
・・やっぱり演技だったらしい。
(・・やっぱあーゆーんは慣れんなー・・)
基本的に、他者を見下すという事が出来ないタチなのか、どうにもああいう行動には抵抗があるらしく、なんだか落ち着かなかったりする。
説教と違って諭すでも怒るでも、間違いを指摘するだのでもなく、ただ単に優位に立って、優越感に浸りつつ見下すのは・・やはり慣れない。
・・まぁ、六道との色々のせいで、変な負け犬根性が染み付いているのかもしれないが(哀)
──因みに、その頃の六道の娘は。
「ああ〜ん!!横島クンとちっとも会えない〜!!マー君もなんか行方不明みたいだし〜!!」
・・六道家、自室にてじたばた暴れていたりする。
「冥子〜!!あなたの暴走もその要因の一つでしょう〜!?しっかりしなさいよ〜!!」
「ああ〜んっ!!そんな事言われても〜皆怖いんですもの〜!!」
「全くもう〜!!・・でも〜・・鬼道先生はちょくちょく学校に出てはいるそうよ〜?私が様子を見に行くと、何故かいないんだけど〜・・」
首を傾げつつそう言う母の言葉に、
「ええ〜!?そうなの〜!?・・なんで〜?」
こちらも首を傾げつつ冥子。
・・似た者親子である。
「・・やっぱり〜・・冥子のお目付け役にしたのがマズかったのかしら〜?」
「お母様ひどい〜!!私のどこがそんなに悪いっていうの〜!?」
「どこもかしこもよ〜〜〜!!!」
「あああ〜〜〜ん!!!」
母親に式神奪られて凄まれて。
「助けて〜令子ちゃ〜〜〜ん!!!」
・・なんだかとっても無理な事を叫ぶ冥子である。
そして、そんな娘と対照的に。
(・・でも〜・・塔にいたっていう情報もあるのよね〜。・・魔神に操られでもしてるのかしら〜?なんにしても、あのコがいないと色々と困るのよね〜。・・どうせ塔にいるのなら、横島クン懐柔して攫ってきてくれれば良いのに〜。そうすれば幾らでも冥子とくっつけられるし〜♪)
娘を式神で脅しつつ、そんな事を考えていたりする六道当主。
・・冥子が、母親のこういう所にまで似ない事を願っておこう。
そして塔では。
一人の魔神が考える。
──解らない事ばかり。
多分解れば解る程、身動きできなくなるばかり。
・・だから。
もう、いっその事。
「・・殺してしまおうか・・」
邪魔な人間達を。全てを。
そうして、憎まれて、恨まれて、嫌われて──・・その心の奥底に、己の存在を刻み込む。
もしその心が壊れてしまっても、構わない。
好き勝手してやる。
自分は、魔神なのだから。
「ぽー?」
「ぽぽー・・?」
足元で首を傾げるハニワ兵達の存在にさえ気付かぬ様に、アシュタロスは自分の考えに入り込んでいく。
またテンパっているらしい。
想像する。
血にまみれた己の手。
足元に転がる人の形をした肉の塊。
虚ろな瞳に何も映さずその場にただ在る姫。
・・もしも、本当に、そうなったら。
「・・私は──・・」
瞬間、空気が変わる。
「あ!!アシュ!!こんな所に!!」
「うをっ!!横島クン!!」
「何やってんだよ?メシだぞメシ!!」
腰に手をあて、怒った様にそう言ってくる横島に、なんだか圧倒されつつ目をぱちくりさせて。
「・・ら、らじゃー!!」
取り敢えず姿勢を正し、敬礼と共に返事。
「さ!!行くぞ!!」
「あぁっまた襟引っ掴んでずるずるとぉーーーっ!?」
「とっとと来ねーてめーが悪いっ!!」
「ぽぽー!!」
「ぽー♪」
喚きながらずるずる引き摺られていくアシュタロス(因みにやっぱり相変わらずの人間形態)と、その後ろをついていくハニワ兵達。
・・魔神の纏っていた空気は既に無い。
危険な思考は、いつも横島の登場と共に霧散する。
その事に気付いていないのか、気付こうとしないのか。
・・そして、『そうなったら』の後に続いたであろう、口にしようとした言葉。
きっと自分も壊れるだろうと。
自覚していない癖に、どこかで解っている答。
それを望むか恐れるか。
・・どちらにしても、そうなればロクな未来は待っていないだろうが。
──と。
声が、響く。
それら全てを吹き飛ばす、日常的なそれぞれの声が。
「ぬあ!!私のコロッケを!!」
「おお、ハニワ達も喰うんか!!ほれほれ、喰えー♪」
「ぽぽー♪」
「やめんかぁぁっ!!私のを喰わせるんじゃないぃー!!大体ハニワ兵達は栄養摂取など基本的に必要無い・・ってドサクサで喰いやがった!!横島クン!!気付け!!この無慈悲なる魔王にっ!!」
「やかましいわアホめ!!大体オドレが横っちの手料理喰うなんぞ間違っとんねんっ!!横っちの料理が穢されるんじゃボケーーーッ!!!」
「流石に酷っ!!!」
「でーいっ!!やめんか二人共っ!!」
「・・そこの二人、説教部屋にて連続十二時間決定」
「「決定してるーーーーーー!!?」」
「・・倍にしたろか?」
「「メッソーモナイーーー!!!」」
「・・鬼道って、メシ時に騒ぐと怖いよな・・」
「・・ふっ・・幼少時、あのクソ親父のせいで平均的な小学生の幸福や食事含めた生活も・・せやから、折角横島が僕等の為に作ってくれたメシ!!ちゃんと感謝しながら与えられた分をきっちり喰わんかいそこの二人ぃっ!!」
「「個人的理由!!?」」
「・・ハニワ達、あの二人は横島が折角作ってくれたメシいらんそうや。喰ったれ」
「「「ぽぽぽーー♪」」」
「「ゴメンナサイーーーーー!!!」」
「・・き、鬼道・・アシュはともかく銀ちゃんの分までってのは・・」
「そんな!?魔神差別だぞ横島クン!!」
「横っち〜!!やっぱり俺の味方やな!?ああっ!!こんなヘタレ相手にしとったせいで俺にまでとばっちりがぁ!!」
「ドサクサで抱きつきやがったぁ!?おのれ魔王!!」
「・・二人共、二十四時間決定」
「「シマッターーーーーーーーーーー!!?」」
「あ、あはは・・」
・・とにもかくにも、今日も塔は平和らしい。
──そんな塔の様子とは裏腹に。
「だぁかぁらぁっ!!塔にいるのは誰なのよっ!?吐けっ!!吐かんかーーーっ!!」
「ノオォーーーッ!?あああっ、わしってばまたこんな役ーーーっ!?」
美神除霊事務所では。
土偶羅が美神にぶんぶんシェイクされていた(爆)
取り敢えず塔から逃げ出して(というか銀一に外に捨てられて)救出部隊に捕まった土偶羅。
詳しく内情暴露をしないのは、魔神への忠誠心などより、某腹黒への恐怖心の為である。
「くっ・・!!肝心な所話さないんじゃ意味無いでしょーがっ!!横島クンは一体どーなってるってゆーのよぉぉっ!?」
不透明な状況に、ヒステリーを起こす美神。
「くうっ!!ヒャクメに調べさせるのが一番早いのに、まーだ諸々の事情だとかで自由に動けないとか言ってるし!!・・ああもうっ!!ウチの丁稚を返しなさいよーーーっ!!!」
「本当にもう・・!!協力できないなんて随分だわっ!!まだ放置しとくつもり!?・・こっちもパピリオの能力で核で脅すわよ!?・・流石にアシュ様の所にある分には手が出せないけど・・ヨコシマ・・きっと私が助け出してあげるからね!!」
そこにぷりぷり怒りながら入ってきたのはルシオラである。
相変わらず、人、神、魔の面々は、静観の構えを崩さないらしい。
そんなルシオラへ、美神は八つ当たり気味に。
「何言ってんのよ元敵の一味!!ていうか犯人の娘っ子が!!大体あんな事になる前にどーにかできなかったの!?」
「アシュ様があんなんだなんて知らなかったんだから仕方無いでしょ!?ていうかヨコシマを丁稚呼ばわりしないでよ!!守銭奴雇用者!!」
「なぁんですってーーー!!」
「なによーーー!?」
「うぅ・・わしに安息の場はないのか・・!!」
この二人にとってはいつもの言い合いを前に、涙を流しつつ呟く土偶羅。・・因みにその場から逃亡しようとして──
「・・どこ行く気ですか?」
「はひぃっ!?」
・・おキヌに止められた。
「・・美神さんもルシオラさんも・・駄目じゃないですかぁ・・土偶羅さんを置いて喧嘩なんかしたら・・」
瞳が笑っていない微笑みを浮かべておキヌ。
「「は・・はい・・」」
美神とルシオラ、何故か青くなりつつ返事。
そしておキヌの手にはネクロマンサーの笛。
「うふふふふ・・そろそろ楽になりましょうよ、土偶羅さん・・」
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!?」
土偶羅絶叫。
「「あああああ・・」」
何故か手を取り合ってぶるぶる震える美神とルシオラ。
なんだかとっても機嫌が悪かったり怖かったりするおキヌ、何やらストレスが溜まっているらしい。
「あぁ・・横島さんの萌えポスター・・私が一番手に入れた数少ないなんてーーーっ!!!」
「「「そこなのーーーーーーーーーーっっ!!?」」」
・・事務所は、絶叫と悲鳴と笛の音に彩られていた。
他の場所でもそんなこんなやってる日々。
塔でも絶叫やら悲鳴やらは普通に満ちる。
・・主に、某魔神のものが。
・・某魔王によって。
「大体オドレ、無駄に時間あるんやったらアレやろ。まず横っちガキの時に見付けて、さりげなく近付いて取り入って信用させて両親抱き込んで周りを固めてくのが常套手段っつーもんやろ。そんでそれに気付いた時には戻れんくらい自分にどっぷり浸る程に依存させておいてそっからトドメにジワジワ調教やろがぁ!!このツメの甘い直情ヘタレ魔神がっ!!まぁ本来は気付かせん様うまくやらんと他の勢力に潰されるがな・・。魔神の癖にその程度の事も考えつかんか三流!!」
・・なんだか言ってる事が初っ端からおかしい魔王。
「・・い・・いや・・それには色々事情がアリマシテ」
かなり気圧されている魔神。
「ボケがぁっ!!大体オドレ、駒の魔族使ったんやろ!?しかも三姉妹!!男に女!!その上更にその魔族等には心も感情もある!!・・こんなクソッタレ人類共に利用されて心細うなっとる横っちにこの状況!!そして横っちのあの性格!!傍におれば横っちの価値はどんな阿呆でも気付くんやどカスがっ!!そんならどうなるか位解るやろがっ!?第一手ェ出すの遅いんじゃマヌケがぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
「ヒィィィッ!!スイマセンーーーーーーーーーーーッッ!!!」
ごず
・・魔王の後頭部にハリセンの柄がめり込みました(爆)
「・・鬼道さん、痛いです」
「レクチャーに聞こえるで、今の内容は」
「今更できんから言うとるんですが」
「この魔神がどんな反則技使うか解らんやろ」
「・・俺がその前に潰します。・・やっぱ股間に酸でもぶっかけますか」
「どーせ効かんからやめとき」
「・・ちっ」
「・・横島クン・・人間コワイヨー!!」
魔神、思わず漢泣き。
ドサクサ紛れに逃亡を図るが、ハニワ兵達が足にわらわらしがみついてたりしてきた為失敗。
・・鬼道の命らしい(爆)
「どちくしょう!!私が一体一体丹精込めて焼き上げた兵鬼達まで最強保護者の手の中にっ!!」
魔神、更に漢泣き(哀)・・ていうか手焼きかハニワ兵。
「・・取り敢えずハリセンどけてほしいんですが」
そんな魔神を無視して銀一。・・まだハリセンは後頭部にめり込んだままだったらしい。
「・・すまん、抜けん」
「抜けんて!!」
「・・ていうかさっき言っとった事・・自分がやろーとしとった事やないんか?」
「・・ガキの頃はここまで横っちに執着しとりませんでしたから。・・まぁ、いつでもすぐ隣にいるとかずっとこのままだとか無意識に思ってたせいでしょうなぁ・・。引っ越しもあってそれから色々あって・・くっ!!その頃今くらいに黒ければっ!!」
「・・そんな子供嫌やな。・・つーか自分の黒さ認めとるなー、この上無く」
「自分の本性把握は生きる上で必要ですやん。それに俺は横っち以外の誰にどう思われよーと構いませんし」
(・・お手上げやなぁ、こいつには・・)
魔神よりタチ悪し。
最強保護者はそう結論を出した。・・まぁ、今更だが。
「徹底しとるからなぁ・・」
呟きつつ、こきゅこきゅハリセンを動かして、ぽん、とかいう音と共に後頭部から抜く。
「・・鬼道さん、最近俺に対して容赦ありませんな・・」
後頭部をさすりつつ銀一。
「・・する必要あるんか?」
「・・いや真顔で問われても・・」
微妙に天然な鬼道と汗ジトで答えに困る銀一のその横で。
「くそぅっ!!相変わらず無視されてないがしろっ!!この隙に横島クンの元へと飛んでいきたいとゆーのにハニワ兵共め!!創造主より最強保護者に従うとは何事だぁっ!!壊すっ!!欠片一つ残さずに粉砕してくれるぅっ!!」
・・ちょっぴり拗ねたりキレたりした魔神がハニワ兵達に攻撃を加え様としていた。
「ってコラァ!?」
「・・魔神、嫌われる事確実やなぁ・・♪」
それに気付くのが遅れた鬼道の叫びも、にやり、とか笑みつつぼそりと漏らされた銀一の呟きも耳に入らず。
『ぽぽーーー!!!』
「逝ってこいぃ!!」
わたわたしているハニワ兵達に向け、攻撃を──・・
「やめんかバカッ!!!」
べしゃあぁんっっ!!!
「ぺぎゅ!!!」
──・・できる筈も無く、ハリセン炸裂と共に間抜け悲鳴を上げて床へと顔面ダイブ。
「ハニ達に何する気だアシュ!!」
姫登場である。
「・・むぅ、此処は誰で私は何処かな?」
「ベタなギャグかましてんじゃねぇっ!!」
べしぃぃっっっ!!!
「へぶぅっ!!!」
もう一発追加。
姫こと横島、ご立腹である。
「ぽー!!ぽぽー!!」
「ぽぽぽー♪」
「ぽーv」
ハニワ兵達、ここぞとばかりに横島の後ろに隠れたり擦り寄ったり胸に抱かれたり。
((どちくしょう!!!))
魔神と魔王、思わずシンクロ。
「・・すまん、気付くんが遅れた」
そんな二人を置いて、ハニワ兵達に謝罪する鬼道。
『ぽぽぽー♪』
ハニワ兵一同、しゅたっ!!と腕を上げてそれに応える。・・別に気にしてないらしい。
「・・鬼道はともかく・・お前等は?」
「「は?」」
「ハニ達に、ごめんなさいは?」
「・・俺も?」
「・・いやしかし横島クン、私はそいつらの創造主で、なのに最強保護者の手の中に堕ちていった挙句私に牙を剥いたいわば裏切り者・・」
「ご・め・ん・な・さ・い・は?」
「「あうあうあう・・」」
にこにこにこぉっと笑みながら、謝罪強要。結構な迫力があった。
今に限ってみれば、優先順位の一番はハニ達らしい(笑)
「アシュも銀ちゃんも、ハニ達に謝れ!!色々と酷使してる癖に感謝足りねーぞ!!」
(しまった何か感付いとる!?・・ハニワ共何かチクッたか!?)
(いやそいつら兵鬼デスヨ!?)
心の中で危機感持ったり突っ込んだりしても、無論横島には解らないし届かない。
そんな二人を睨みつつ。
「・・・・・・・・・・・・・もう口きいてやんない」
「「ゴメンナサイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」」
姫からぽつりと漏らされた呟きに、魔神と魔王全面降伏。
「・・やっぱり横島が一番強いなぁ・・」
しみじみとした鬼道の言葉に異議を唱える者は、当然誰もいなかった。
──と。
「ぽぽー♪」
「ん?何だ?ハニ?」
差し出されたのはラッピングされた袋。
「ぽぽー!!」
「?」
促され、開けてみる。
「・・エプロン?」
「カフェエプロンやな。腰に巻くタイプの。・・あんまりエプロンの役目果たしてないよーな気もするけどなー」
「ふーん?」
「あぁっ萌えが足りないではないかハニワ兵達よ!!私はお前達をそんなふーに育てた覚えはっ!!」
「だかましっ!!」
べしぃっ!!
「ぴぶぅっ!!」
・・もうノリが戻っている。
「アホ・・。しかしそれやと・・短パンの上から着けると巻きスカートみたく見えんか?」
「はぅあ!!」
鬼道の心配そうな言葉に呻く横島。
「むぅ!!・・うむ、それはそれで・・」
「あほぉっ!!」
エプロン一つで賑やかな事である。しかも二回目。
「ぽー?」
「ぽぽー?」
「ぽー・・」
「ん?いや、嬉しいぜ?サンキュな♪」
不安そうに首を傾げたハニワ兵達の頭を撫でる横島。
『・・ぽー♪』
嬉しそうに声を上げるハニワ兵達。
「・・むぅ。表情は大して変わっていない筈なのに物凄く幸せそうに見えるな。・・くっ、羨ましか!!」
「どこの言葉やそれは。しっかしこの上無く懐いとるなーハニ兵等は」
「おぉ、喜びの舞いを踊っとる。くるくると」
・・ムダにほのぼのしすぎな塔の中である。
「ぽー!!」
「ぽぽー!!」
「ぽーっ!!」
「あはは、今度はフツーのやつくれるって?」
どうやらハニワ兵達のお手製らしい。ハニワマンとかの衣装を作っていてハマッたのかもしれない。裁縫とかに。
「しかも胸にハニワのプリント付けるか・・」
「・・何か母の日の子供からのプレゼントみたいやなー」
「む!!その時は是非ピンクのフリフリエプロンを!!」
「「「却下ぁ!!!」」」
『ぽぽぽーーー!!!』
「むが!!ハニワ兵達まで!!」
ほのぼのしすぎな塔の中。
魔神は孤立無援だった(爆)
──その後、一段落して食事も摂って。
「なぁ、横っち?」
「んー?」
「横っち、誰が好きなん?」
「んなっ!?」
横島にあてがわれた部屋で。
銀一が横島に、唐突に核心部分の質問をかましていた。
「・・ルシオラ、とかゆー人か?美神、とかゆー人か?なんか救出部隊の中であの二人だけ目立っとったけど」
「うぅ!?」
突っ込んだ事を尋いてくる銀一に、横島は呻きつつ後退る。
随分と困る問いだった。
ルシオラの事は気になる。
それは事実だ。
しかし、今の段階、この状況では・・正直、よく解らない。
美神は大事な人だ。
それは確信できる。
だが・・それ以上、恋愛感情なのかと言われれば──やはりよく解らない。
しかも、その二人をも含めた救出部隊の萌え血やらに沈む姿を見続けてきたせいか、なんだか・・あんまり真剣に考えられなくもなっていて。
「・・じゃ、今一番頼りにしとるんは?」
「鬼道!!」
・・それは即答だった。
「・・やっぱなー・・」
苦笑する銀一。予想通りだった様である。
「あ、でも銀ちゃんもだぜ?鬼道は先に来たんだし・・護ってくれたし・・」
「ん、解っとるよ。俺は横っちの幼馴染みやからな。横っち護るんは当然や。・・けど、鬼道さんは、なんで横っち護ってくれるんやろなー?」
にっこり笑いながら尋いてみる。内心など全く見せない、穏やかで自然な笑みで。
「・・なんで・・って・・」
その問いに考え込んで──ぽつりと漏らす。
「・・教職者だから・・とか?」
困った様な──どこか寂しそうな表情で。
(・・無意識なんやろーなぁ、この顔・・)
表面上は笑みのまま。銀一は内心で溜め息を吐く。
それが何を意味するのか──少なくとも、銀一は気付いていた。
(・・今んトコ、自覚もなんもあらへんけど・・恋なんてもんになるかどうかも怪しいトコやけど・・今の横っちにとって、鬼道政樹は"特別"や・・)
それは、確信だ。
(・・鬼道さんも鈍そうやし・・付け入る隙はぎょうさんあるわな。しかしまぁ・・)
目の前で、鬼道が自分を護ってくれている理由をうんうん唸りながら考えている横島の姿に、可愛らしいなぁ♪などと思いつつ、朗らかな笑顔のままで。
(・・感情未発達魔神、天然純粋教職者、ニブチン総受け姫・・ククッ・・オモロイ所やなぁ、此処は・・。さぁ、最後に勝つんは・・誰になるやろなぁ・・?)
・・腹黒い笑みを、内心で浮かべていた。
しかし未だに鬼道の事でうんうん唸っている横島を放っておくのもなんなので。
「・・あ、ハニ兵等は?」
「・・ほえ?」
唐突な質問に、一瞬呆けて首を傾げる。
そんな姿に密かに萌えつつ、
「あいつらも、横っちの事大好きやしなー」
けらけら笑いつつの銀一の言葉に、横島も苦笑して。
「何言ってんだよ銀ちゃんてばー」
「ははっ、まぁ、俺も横っちの事好きやしなー」
「・・へっ?」
ドサクサ紛れに軽く言って。
「そんじゃ、俺自分の部屋帰るわ」
「えっ、あっ、うん・・」
(・・どーせなら俺の事で唸って考えてほしいもんなー)
相変わらず笑みを浮かべながら、とっとと自室へ直行。
・・なんだかやっぱり、この腹黒はタチが悪そうだ。
ただその笑みには、他の複雑な感情も含まれていた様だったが。
一方事務所。
「・・横島クンが、信頼してるっていうの・・!?」
「アシュ様を・・圧倒して・・!?」
連日の土偶羅への質問(・・拷問?)の末──その素性は結局明らかにはならなかったものの、塔の中の様子はなんとなく知れた。
・・因みにおキヌの功績である。
その話は信じられない──というか、信じたくない類のものだった。
なにせ、自分達が救出を失敗しまくっている間に、いつの間に入り込んだのか、二匹のただの人間が──横島と信頼関係を築いているというものなのだから。
「・・でも、まだ・・大丈夫よね?」
「と、当然じゃない・・!!」
そうは言うものの、心配しているのか、俯いて沈黙する二人。
「・・とにかく、早く助けに行きましょう!!」
「え、ええ、そーね、おキヌちゃん」
元の調子に戻ったおキヌに、多少のビクつきを残しながらも同意する美神。
ところで、何故か事務所にいる(気にしたら負けだ!!)獣っ娘二人は──
「キュ〜ンキュ〜ン」
「ク〜ンク〜ン」
・・何故か怯えて部屋の隅で鳴いていた(爆)
危機感を抱いていたりする救出部隊一同だが、そんな事は露知らず。
塔では相変わらずの日常が、まったりと続いていたり。
「・・♪」
いつもの様にぽふぽふと。
頭を撫でていた鬼道が、ふと漏らす。
「・・横島、お前・・髪伸びたなぁ」
「んー?」
撫でられる事にもう慣れきっているのか、目を閉じて気持ち良さそうにその感触を甘受していた横島が、その言葉に目を開ける。
確かに、塔に来てから随分と経つ。
「・・そーいや、一回も髪切ってねーなぁ」
ハニワ辺りに頼めば、ちゃんと切ってくれる様な気もするが。
「いつもはどーしてたんや?やっぱ髪切りに行っとったん?」
「そんな金かかる事しねーよ。まぁ、自分でちょこちょこと」
手先は器用な方であり、それであまり不都合は無かったらしい。
「ん〜・・」
改めて見てみる。
多少くせっ毛な所がある為、あまり目立たなかったが──水に濡れたりきちんと整えたりすれば、結構な長さになりそうである。
「・・まぁ、とにかく切った方が・・」
「ちょーーっと待ったぁ!!」
髪を撫でながらの鬼道の言葉を遮って、アシュタロス登場。因みに先程まで二人の様子を恨めしそうに指を咥えて見ていたり。
「話は聞いたぞ横島クン!!私の為に身だしなみを整えようとは!!うむ!!本望!!」
「そんなら本能のまま逝けぇ!!」
どがずっ!!
「ぶげぶっ!!」
馬鹿をほざいていた魔神、後ろから蹴り飛ばされて撃沈。
「・・んで、切るんか?」
何事も無かったかのよーに会話に加わってくる銀一。因みにこちらも二人の様子を表面上穏やかに、内心苦々しく眺めていたり。
「え、ああ・・。やっぱ切った方がいいかな?」
「まーそのまんまでもかわええし、いいと思うけどな」
「何言ってんだよ銀ちゃん〜」
「まぁ、邪魔やないなら別にええと思うけどなー」
相変わらず頭を撫でながら鬼道。
殆ど無意識。だからある意味困ったり文句言えなかったりどちくしょうだったりでタチ悪い。
・・それはともかく。
「まー、切るにしても、その前に色々試してみるのもええんやないか?前髪上げるとか結ぶとか。折角長いんやし」
「・・銀ちゃん、その手に持ってるブラシやら何やらは・・」
「・・やる気マンマンやなー」
「いやー、スタイリストさんとかヘアメイクさんやらに色々教わってるんでなー。もっとかわいくしたるでー♪」
「銀ちゃん〜〜〜」
「ぬぅ!!待てぃ!!私もーーー!!」
「あ、魔神も復活したな」
『ぽーーー!!』
「お前等もかぁ!?」
・・無駄に平和だった(爆)
因みにこの後。
「ぽー!!」
「女ァ!?」
「何しとんねんハニワァ!?」
「・・そうか!!姫やから女に!」
「・・お、俺って一体・・」
『ぽぽーーー♪』
「喜ぶなぁ!!」
「むぅ!!ドレスがお似合いだな横島クン!!・・いや、姫!!さぁ今一度私に囚われるがいい!!」
「「「アホかっ!!?」」」
べしぃっ!!! ×3
「しまった!!ここは攫って監禁するべきだったか!?」
「「「アホかぁぁぁっっ!!!」」」
『ぽぽぽーーー!!!』
「ぬお!!ハニワ兵達にまで怒られた!!」
悪ノリした魔王と魔神とハニワ兵達が暴走したりして。
『姫』とか刻まれた文珠を何故かハニワ兵が発動させたり、それによって横島が女の姿になって髪も腰より下の長さになってハニワ兵達が喜んでみたり。横島も女の姿にされただけでなく、それも文珠の効果なのか、フリフリピンクなドレスまで身につけてて落ち込んでみたり。
そして当然。
「オドレ等、正座ぁぁぁっっ!!!」
鬼道の説教が始まったり(今回は珍しく悪ノリした一部のハニワ兵達も一緒)
・・結局姫の髪は、元の姿に戻ってからちゃんと切ってもらった様である。
・・そんなこんなと塔の中。
日常で馬鹿はやっていても、夢は。
それと関係無く見るもので。
──冷たい。
冷たい、闇の中。
冷たい、檻の中。
鍵は──開いていた。
だが、そこに留まったまま。
そこから見ている。
外を、無言で。
瞳は虚ろ。
そのままただ、外を見る。
──闇が、唐突に割れる。
光。
そして。
「・・あ?」
声が漏れた。
そこに、眩しいものを見る。
──笑み。
・・誰かの、笑顔。
無意識に引き寄せられ、近付こうとして──止まって。
俯く。
踵を返し、戻ろうとして──手を、引かれた。
そして、見上げた先には──
笑顔、笑顔、笑顔。
でも、消える。
そのまま、永劫、続きはしない。
「・・次は俺かいな・・。ちっ、けったくそ悪い・・」
ボリボリ頭を掻きながら、溜め息と共に。
「・・ただのつまらん現実やないか」
呟いた。
「・・今日は一段と機嫌が悪いな、魔王は・・」
「外行っとったからなー。仕事で何かあったんやないか?」
何気にびくびくしている魔神と、掃除しながら冷静に最強保護者。
「ぽぽー!!」
「ぽー♪」
ハニワ兵達もお手伝い。
なんだかんだと仕事にはきっちり出ているらしい魔王と最強保護者。
勿論片方が出る時は片方が残るのだが。
最近は魔神も姫に被害の出そうな危険な暴走はしないので、さして心配もせずに外出している今日この頃であるらしい。
因みにこのせいで、この二人が土偶羅から聞き出した"二匹"だとは気付かず、考えも及ばなかったりする。・・微妙に鬼道の情報を六道当主が得ていたりするが、基本的に救出部隊にはノータッチ、静観である。
積極的に関わるのも面倒だし、漁夫の利が好きだからだ。ヘタに手を出すと家がお偉いさん方に危険と判断され、ヤバイ事になるかもしれないし。救出部隊に娘がいるが、もみ消しは馴れてるし(爆)
そして最大の理由は・・ぶっちゃけ楽しんでいるのだろう、この現状を。
・・タチの悪い女傑である。
てゆーか何が目的なんだ、この人。
それはともかく、魔王だが。
(・・モロに聞こえとるわ、阿呆が・・)
内心で毒を吐いていた。
別に、仕事で何かがあった訳では無い。
ただ、嫌な奴と会っただけだ。仕事関係では無く。
そして、あの夢。
・・光を見付けた時の夢。
その後、離れる事になって、それからの事をも思い出してしまった為の、不機嫌だった。
更に言えば、会ってしまった嫌な奴は、その光と離れる事になった元凶である。
(・・クソが・・)
そんな、不機嫌オーラを放出している銀一の気配が、唐突に変わる。
それは、無意識の──本能の成せる技。
自分でさえ意識的に気付く前に自然にコントロールされるそれ。
そんな銀一の肩をぽんぽん叩き。
「銀ちゃん、ココア飲まねぇ?」
「・・横っち?」
「なっ?」
目線を合わせて笑みを向けてきたのは横島で。
「・・ん♪」
こちらもつられた様に、微笑み返す。
「・・うむぅ、現金な・・おのれ魔王!!」
「アレが一番やろ。機嫌、ようなるで。・・しかし横島入って来た途端気配変わったな」
「・・むぅ。・・姫の前での猫被りか?」
二人連れ立って部屋を出て行く二人を見送り。
「・・って、魔王だけか?・・ひいき?」
「拗ねるなや魔神。・・アレが、一番なんやから・・」
「・・むうぅ」
その部屋には、唸る魔神と、静かに二人の消えた先を見る鬼道。
「ぽー?」
「ぽぽー?」
そして魔神と鬼道の様子に、首を傾げるハニワ兵達が残された。
「ほい、銀ちゃん♪」
「おう、おおきに、横っち♪」
ココアの入ったカップを受け取り、満面の笑みで礼を言う。
並び、一緒にココアを飲みながら。
「・・色々あるみてーだけど、あんま無理すんなよ?」
「・・おう」
横島は、基本的に、恋愛感情だの、向けられる好意だのに、疎い。
けれど。
「俺でよけりゃー話位聞くし。・・世話になってばっかだしな」
「・・はは、平気やって」
「そっかぁ?」
「おう!!」
「・・ん。じゃ、俺、メシの用意あっから」
「・・ん、解った」
「疲れてんだったら、ちゃんと休めよー」
・・それ以外の事には、結構聡い。
横島の前では決して出さない、出そうとしない、銀一の内に押し込めた苛立ちにも気付き。
そして、欲しい言葉もくれたりする。
優しい微笑と共に。
だから。
「・・おおきに、横っち・・」
だからこの魔王は癒され。
その光の笑みを見ていたいと思うのだ。
せめて今、この時だけでも。
自分の為の、光の笑みを。
過ぎる日々は。
同じに見えて、確かに違う。
そうしていつか。
変化も起こる。
──それは、孤独。
気が狂う程の長い時間の中で。
長い、永い刻の中で。
満たされる事も無く。解放される事も無く。
・・その中で。
そんな地獄の中で。
やっと見付けた、唯一手に入れたいと思った存在──・・・・・・
「なのに何故こんな事にぃぃっ!!」
「やかましいわボケ魔神!!オドレのせいやねんから黙って説教聞いとけやぁ!!」
「・・二人共、黙り」
「「はいぃ!!」」
・・塔の中。
今日も今日とて説教中。
しかも、アシュタロス(勿論人間形態)、銀一共にである。
因みに横島は既に就寝中だ。
もう説教の時間は五時間を越えている。
まぁ、原因は言わずもがな。
いつも通り、であるのだが・・。
「オドレ等、横島の事好きやな?」
静かな表情と瞳を向け、鬼道が尋く。
唐突な、そして答えの解り切った質問だった。
しかし、真剣なものだと感じられたので。
二人は、頷く。同じ様に、真剣な顔で。
「・・そうか」
そう呟き、沈黙。
何事かを考え込んでいる様子の鬼道に、怪訝そうに眉を顰めるアシュタロスと、表情を変えず、その姿を見詰め続ける銀一。
いつもは、文字通り教えを説く、人間の常識、倫理、理屈、良心・・様々な事を聞かせるのが常なのだが、今回は質問だ。
しかも、その後は沈黙。
「・・で?」
そして、また唐突に口を開く。
「・・その自分の中にある気持ち・・説明できるか?」
「・・何?」
「・・・・・・・・」
その問いに眉根を寄せるアシュタロスと、瞳を細めるだけで、声は出さない銀一。
「・・『好き』も色々や。考え。特に魔神。オドレは、深い所が解っとらん」
「なっ・・何だと!?」
「こればっかりは、他人がどーこー言っても意味ない。・・せやから、考え。・・自分で答見付けんと、オドレはどこまでいっても横島には届かん。肝心な所が、な」
「ぬぅ・・?」
反論もできずに、押し黙る。
・・しかし、もう一人は。
「・・俺は解っとりますよ。・・それ言うなら、アンタも考えるべきやないですか?」
鋭い視線を鬼道に向ける。
「・・ボクは教育者で、保護者や。親愛の情はあっても、その他のモンはない」
「・・変わりますよ。人の心は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
対峙。
何故か一触即発な雰囲気だ。
(何故いきなり修羅場ちっくにーーー!?)
魔神、心の中で絶叫。
今まで数多くの戦場を見てきた。その中心にいた事もある。
しかし──
(ここまで重苦しくコワイ空気はハジメテダーーー!!!)
・・恐るべし、魔神に腹黒魔王、そして最強保護者と称された人間二人。
──敵を引き裂き、その逆も当然の様にあった日々。
滅ぼし、滅ぼされ、しかし解放は与えられず、それらを繰り返す下らない日々。
真に勝つ事も完全に滅ぶ事も許されない世界。
魂の牢獄。地獄の日々。絶望の具現の如き世界。
勝手に決められた、理不尽で不愉快な──・・
しかしそれでも、何より欲しいと思った、思えた存在。
そんなもの達より強く心に入り込んできた存在。
渇望したそれ。
譲れぬそれ。
・・今傍らに、在るそれ。
けれど──心は己に向く事の無い・・その存在。
失いたくはない。
逃したくはない。
そして周りに在る者達。
どうすればいいのか・・というか──
永く生きてきた癖に恋愛だとかに疎いのもどうかだとかそーいえば昔すぎる事はあんまり覚えていないなとか大体人の理屈だ常識だとか魔神に解らなくて当然だろう?なのにハニワ兵達まで引き込みおってこんちくしょう!!ああ横島くんの作ってくれたご飯食べたいなーだとか、支離滅裂・・というか訳解んなくなってる魔神の思考。
(・・ハッ!!・・いかんいかん、思わず現実逃避を・・)
なんとか復帰。
(し、しかし・・)
ちらり、と二人の様子を窺ってみる。
沈黙。冷えた空気。緊張感。色々と迸ったりしている瘴気やら何やら。霊圧なのか殺気なのか、ピリピリと肌に刺す様に感じる身体によくなさそーなものだとか。
片方は説教する側、もう片方は説教される側。
腕を組んでの仁王立ちと、正座ながらも下からの睨め付け。
どこまでこの状態が続くのかはサッパリだ。
この場にいたくないと心底思う魔神である。
(・・うむ、逃げるべし!!)
即決。
(む、どーせなら横島クンの元へ夜這いに行くか!!うむ、いい考えだ!!流石だぞ私!!)
自画自賛しつつ、その場からこっそり逃げ様として。
「ぽーぽぽー?」
「ぽー!!」
「ぽぽぽー!!」
「むあ!!また最強保護者の命に従うか貴様等ぁ!!」
ハニワ兵達に阻まれた(爆)
もう創造主とかは関係無いっぽい。
「・・どこ行く気じゃコラ・・」
「・・吊るすで魔神・・」
二人の矛先がアシュタロスへと向く。
(・・グッバイ青春♪)
魔神はその後、現実逃避をかましつつ、シャレにならんプレッシャーを朝方まで受け続け、意味不明な台詞と共に逝きかけたりする。
──そんな朝。
「ハニ、今日メシ何作るー?」
「ぽぽー?」
・・横島(とハニ)だけが、平和だった。
その外では──
「・・もう容赦はしないわよ・・!!」
・・そんな呟きを漏らす女と、その他に幾人もが。
いつもとは桁違いの闘気や殺気を伴って、塔を睨んでいたりした。
外の様子など知らぬげに朝の食卓。
「てゆーか銀ちゃんその手に持つモノは何!!」
「これは魔神滅殺する為に色々混ぜて作ったその名も『滅殺汁』や!!かけても飲んでもステキな結果になる事請け合いやでー!!」
「何だそのネーミングセンスはーー!!」
「解りやすくてええやないか!!大体オドレに合わせてダサくしてやったんや!!有難く思え!!」
「ムチャ言いなさる!!」
「・・いつも思うけど、どっからの提供やねん、それ・・」
「・・まぁそれはそれとして、さぁ喰えや魔神!!横っちのメシは俺が喰ったるからなーー!!」
「横暴だーーー!!!」
「オドレ等・・そんなに説教好きか・・」
「「ソンナマサカ!?」」
「ああもう・・あっ、ハニ!?」
『ぽぽぽー♪』
「「ハニワに喰われたぁぁっ!!?」」
「・・ハニの勝ちやな」
なんだかんだといつもの様なやり取りしつつ。
色々あった事は横島には見せぬ様に。
それぞれの日常を過ごす塔の中。
──警報が、響く。
D,様の前々回のレスのネタ使わせて頂きました〜。でも半端な感じです(爆)すいません(汗)因みにバイオレンス表記は一応で。
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