俺はさっきまで自分が文珠として存在していた場所の目の前で、耳をすましていた。
それは
「こ、の……馬鹿犬がーー!!!」
「きゃうん!!お、狼でござるよぅ……」
そんな大声が聞こえてくるからだ。
すんまへん!!すんまへん!!美神さん……シロの所為にしないであげてください……俺が悪いんですから、俺がーー!!うわーーーーーん!!
横島は心の中でそう叫ぶ。
ちなみにシロを馬鹿犬と言ったのは美神だ。まだ登場していない狐さんの念が伝わったのかもしれない(だったら早く出しなさいよ!!)
横島の姿を端から見れば、小さめな小屋の前で、だらだらと脂汗と涙を流しながら立ちすくんでいる男。
つまり、かなり怪しい。
悪霊を倒した後、あっさりとそんな状態に追い込められるくらいの危機に横島は対面しているのである。
さっきまでこのあたりを埋め尽くすかのように存在していた悪霊たちはその者たちを呼び起こした横島自身の力によって、成仏させられていた。
以前は不気味な暗さが残っていた森を今ではまるで神社のような清涼な空気が漂う森へと変えた横島。
その変化を考えても、横島はほとんどこの森に居る全ての無念を成仏させたのだろう。
普通の人々では時間と人員を多く使わなければ出来ないはずの行為に、彼女たちが気付かないはずない。
そう、腹をくくって横島が小屋に帰ったとき、丁度さっきの怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
何で俺が体を作ったとわかんないんだろう?文珠の性質とか考えればできそうな事なのに……
そう横島は思うが、決してこれは美神たちの察しが悪いという事ではない。
元々、文珠とは貴重かつ大変珍しい能力である為に何ができるか。そして、それがどういう風に行われるのか等の研究は全く手がつけられていない。
そういった理由でとにかく美神たちは見張りの途中で寝てしまったシロを美神たちは責めているわけである。
「うぅ……やっぱ出ていかんとまずいよなぁ……このまま逃げたら、シロに悪いし……そ、それに逃げた事がバレたら!!……(がたがたぶるぶる)」
そんな考えの中、ぴくぴくと震える手で横島がドアノブに手をかけたその時!!
ガチャン!!
突然、物凄い力と勢いでドアが開く。
「ごふぉああああ!!」
空に舞う血!!ついでに横島×1<備品扱い!?
そして、横島たちを吹き飛ばした彼女たちは、その勢いのまま水平に空中を飛んでいる横島を抱き締める。
ザザァァァァっと大地に沿ってかなりの勢いで滑る横島。
その体は木にぶつかってようやく止まった。
その時、横島に抱きついていたのはある意味、彼に最も縁が深いモノたちの一人だった。
「ヨコチマァ……」
そう舌ったらずな声で横島を呼ぶパピリオ。
少し背が伸び、霊力自体も非常に練れたものへと変わっている。
それ以外に外見は変わっていないのだが、横島を見る目に幼さが無いのは何故だろう……(滝汗)
その瞳はとろんと潤んでるようで、その瞳を見た瞬間、一瞬横島の鼓動は跳ね上がった。
「パ、パピリオ…」
唖然とする横島にはもう二本、腕が絡みついている。
「ヨコシマ……」
吐息のような小さな言葉で彼の名前を言い、横島の体を抱きしめる女性。
その黒い髪、そしてひょこひょこと動いている触角に横島は目を奪われる。
まさか、そう思いながらその女性が顔を上げる。
「ル、ルシオラ……ルシオラ!?」
わかってくれたんだ……
横島は心の底から安心してしまう。
不安に思っていたのだ。自分の姿は変わっているのかもしれないという事に。
想像は時に自分を、愛する人を美化する。
そこには変わる事への恐怖と期待があるからだ。
停滞を望まず、自分への過度の期待を無くし、自分の体を自分自身をしっかりと見据えて体を作らなければ自分は変わってしまう。
それが怖かった。だが、ルシオラは間違いなく自分を見てくれた。
それが……とても横島には嬉しく、涙が静かに流れた。
あとがき
すんません;;突如として小さなネタから書き始めたので、結構遅れてしまいました;;
すんません;;(平謝り)しかも、今回短いし……。つ、次は面白く、そしてある程度の長さを持たせますのでどうか!!平にご容赦を!!(時代劇、好きなタイプなんです;;)
えっと、ここからはレスへの返しです。
HN未定さんへ
ありがとうございます。独特な雰囲気ですか……それは裏に潜められた設定の匂いかもしれません。
あんまり他の人がやらないネタもやりそうですから。
後、誤字に対しても教えてくれてありがとうございます。それにすいません;;
これからは気をつけます。何か、一発で出たんで安心しちゃって……;;
九尾さんへ
うわーうわー、九尾さんにレスもらっちゃった。
俺も色んなところに出没してるんで、九尾さんの名前は何度か見たことがあるので嬉しかったです。
体が無い間に……うーん、見せ場をついてきますね。
この話で何故、たった一人で森という巨大な場所を浄化できたのかもそこでわかりますので、待っててください。
期待してくれてるみたいなので、しっかりと頑張りますので!!
文珠での解決策は後一個あります。それはまた別の機会に書きます。
これが俺にとっての横島らしさですから、頑張って書きました(^^)
D,さんへ
本当に自分であるかの証明。それも思いつきましたが、ある出来事によって横島はそれに対する心配は無いんです。
その代わりと言っては何ですが、今回の最後の場面で明らかになる心配が横島にはありました。
他にも喪って、得た体だからこその違い。変わってない事への安心をこれから書くつもりですので、良ければ見てくださいね。
でも、さすがに皆さん全員が非常に鋭く色んな核心に迫る中で一番焦ったのはD,さんでした。
以前はそれでやろうと思ってたので……すごいですね。やっぱり。
それでは、また次で会いましょう。