人はそれを見た瞬間、視神経が加速し、自分の死に対する原因をしっかりと見ることが出来る。
そう例えば
「この……ドアホがーーーー!!!」
と叫び、明らかに音速の壁を突き破りながらこちらに向かってくる美神の拳とか。
「げふぅ!!」
吹っ飛び、床に倒れる横島。頭からは血が噴出し、顔は……誰?といいたくなる程に変形している。
さすがに恋人であるルシオラは少し動揺した。
だが、「色んな人に心配かけたんだから」という考えがあった為かそこからの連続攻撃、ってか投げから空中コンボという乱舞を止めようとはしなかった。(危なっ!!)
「まったく……あんたの所為でどれだけ私が出費しなくちゃいけなくなったと思ってんのよ!!それにね、一番むかつくのは何でいなくなったのよ!!その体に戻ってすぐに!」
乱舞の最後の定番であるサマーソルトを華麗に決めた後、倒れている横島に指を突きつけて美神はさらに激昂する。
「うぅ……うぅう、う、ううぅ、う」
「ちゃんと喋れーー!!!」
舌にまでダメージがあるのか、はっきりと喋れない横島。
「ま、まーまー」
といつも通りに美神を止めたのはおキヌだ。
「横島さんだって、何か理由があっての事でしょうし……」
「そりゃそうでしょ?……じゃなきゃ、私、こんな技で止めなかったわよ」
ぞくぅっ!!!
美神の言葉に思わず横島の背筋が寒くなる。
あ、あの技で手加減していた!?
思わず、ジェットストリームアタックを破られた黒い三連星の「俺を踏み台にした!?」と同じ発音でそう思う横島。
恐怖の余り、横島は貴重な文珠さえ使って、傷を「癒」した。
「み、美神さん……すんませんでしたーー!!俺が、俺が悪いんす!!俺が体を作った時に漏れ出した霊力が回りの悪霊を活性化させてしまったみたいで……」
「………」
形容しがたい顔で美神は土下座をしている横島を見ながら、押し黙ってしまう。
ま、またか!?またなのか!?
その様子を見て、横島はまた乱舞を食らうのかと身構えるが、美神にそんな兆候は無い。
それは当然だ。
美神が押し黙ったのは、横島の余りにも無知な行動に対してだが、ふと「横島君に私……何か教えてたかなぁ〜……」っと考えてしまっていたのだ。
そうして、美神自身が自分の立場が悪くなると感じた場合のいつもの対処法をする。
あ、あははははははは……ごすっ。
「痛っ!!」
横島に対する八つ当たりである。
「な、何で殴るんすか!!美神さん!!」
「うるさいうるさいうるさい!!しっかりやらないあんたが悪い!!……ったくもう、これでお終い。後はこれからの対処法だけど……もう遅いわ。それは明日からにしましょう?」
前半の台詞は回りの人間に誤魔化す為だったが、後半の台詞はうつらうつらを船をこぎだしたパピリオとシロの様子を見かねたからだ。
美神令子の能力が一番良く使用されるのは、こういうリーダシップを発揮する場所であるのかもしれない。
場所は変わって、オカルトGメンが持つ基地。
あのアシュタロスとの戦いの時に用いられた基地で秘密の会議が行われていた。
「この件に関しての報告は以上です」
いつも通りの何気ない武装や世界情勢についてのGメンの立場を決定した後、その中でも高位の席についている赤色の髪をした女性が手を上げた。
「美神様、どうぞ」
発言権を与えられ、美智恵が静かに立ち上がる。
「あのアシュタロス事件の際の英雄、横島忠生についての追加報告です」
その言葉に会議に集まった多くの重役たちは内心動揺し、その動揺を静かに押し隠した。
重役たちの動揺に気付いていながらも、美智恵は静かに話し始めた。
「以前、ご報告した通り、彼はアシュタロス事件の後、文珠の姿となって、亡くなった彼の恋人ルシオラさんを復活させました。その後、彼は文珠の状態でここ数年の間護衛を率いて暮らしていましたが、昨日未明に人としての姿を取り戻したようです」
重役たちはその報告に対して、眉をひそめる。
それはそうだろう。救国の英雄たる彼という存在、そして、その彼に対する政府の一部が行った行為。
それら全ては争いを生む可能性を作るからだ。
「アシモト総理、どうぞ」
この中で最も重要な人物ともいえる人間の挙手にすぐさま議長は反応した。
「彼自身が持つ危険性については改善もしくは解決されたのですか?」
「いえ、人の姿を取り戻した事でようやく文珠の公式化・悪用の可能性が消えただけです」
横島自身を凝縮したあの文珠。
あの状態でも文珠としての力は使えるのだ。横島自身の強い意思は彼自身にすらその思いを刻むから。
ならば、その状態で彼自身を強い力によって洗脳したらどうなるだろうか。
それは全てに対する有効な牙となる。神や魔族すらもその力を上手く使えば、退けられるのだ。
ジハード。
今まで戦力が足りなかった事で苦渋を舐めていたが、その聖なる戦いはその牙によって始める事が出来るかもしれない。
そう考えたテロリストが居た。それを防ごうと、先に横島を手に入れようとする国もあった。
そして、もっと深く考えた者たちがいた。
彼のあの姿は老いる事も無いのだろう。
それは、一種の永久機関としての可能性すらも秘めている事になる。
そんな永久に機能する力。そして、その力は人間を不老不死にさせる事すら可能かもしれない。
あの力を手に入れる事で永遠に全てを手にする事が出来るかもしれない!!
そんな多くの可能性を持つ力を力を求める者たちは見逃さなかったのだ。
科学者たちは横島の力を公式化したかった。
それが自分に扱えなくてもいい。あの力を理解したい。
それは科学者なりの物欲なのだろう。
そうして、多くの人、神、魔が彼を狙った。
だが、彼らの願いは叶えられなかった。
人ではオカルトGメン、GS協会、赤髪のGS、巫女、幽霊がその恩を、そして自分の欲求に正直に彼を守る事を望んだ。
神では最高神やデタント派は元より妙神山の神々が協力を。
魔族でもまた最高神やそれに連なる一族はアシュタロスという一柱によって人界への悪影響に責任を感じて協力し、ワルキューレやジーク、パピリオ、べスパは自分自身の意思によって彼をそして彼の中にいるルシオラを守ろうと想った。
人狼たちはアシュタロスの事件で閉じてしまった門を神々によってこじ開けてもらい、彼の援護に回った。時にその封じられた山は横島たちの隠れ家ともなっている。
それら全ての柱、人、妖怪が彼を守る事を決意したから。彼は自分の意志とその体を今も持っている事が出来たのである。
「それでは何も変わりはしないだろう」
「ふぅ、いや、状況は悪化したとも言える」
がやがやと急に騒ぐ会議室の中で美智恵は静かに拳を握り締めた。
血をたらしながらも、彼女は机を力を込めて叩く。
バン!!
その音にようやく騒ぎが収まった。
「私たちは彼に対して恩赦を与えなければならない立場にあります!!それをおわかりですか!?」
その言葉の後、静かに会議は進行した。
美智恵は思う。何故、こんな事に……と。
会議の中。
ただ一言、ある男が言ったこの言葉だけが今後の世界の対応を見通していたのかもしれない。
その言葉はこの会議中何も発言しなかった男が言った。
その男の名前はシンム。漢字では神無と書く男だ。
「保護、もしくは死」
横島という人としてか。それとも……それ以外の何かとしてか。
そこに主語は無く、そこに意思は無く、ただ世界の意思の流れ自体がそう言っているように思えた。
三尾の迷い狐編
あの小屋の中で横島用に割り当てられた部屋のベッドの中で子供のようにとまではいかないが、体を丸めて寝ている横島。
その傍に陽光によって鮮やかに光る金髪を三つに分けた少女。
その少女の形を本来持つ妖狐の名前はタマモ。傾国の美女とも呼ばれる九尾の妖狐である。
だが、その少女は本来のタマモとは違い、九房に分けられるはずの髪がたった三房にしか分けられていない。
「少し痛いけど………ごめんね」
そう言いながら、唇を横島の肩口に近づけ、かぷっ。噛み付き、少し牙をたてる。
「んっ……」
その痛みにうめく横島。
だが、まだ起きる気配はない。
ぺろりと垂れた血の一滴を舐め取る。
「ふふ、やっぱり」
にっこりとそう言いながら淫靡に笑うタマモを模した者。その笑みを形作っている唇が少し動く。
斬!!
踏み込みの音すら遅れて聞こえてくるような早く、そして静かな斬撃。
だが、それはタマモの前で発生した透明なフィールドによって防がれていた。
「何者でござるか!!」
タマモに対して凄まじい勢いで切りかかったのはシロだ。その霊波刀は太く、両側に刃のついた西洋風の剣へと形を変えていたが、そこに込められる霊力は以前より遥に強く練りこまれている。
「この障壁の展開速度。やっぱり間違いないみたいね……」
にやりと邪悪に笑いながら、タマモは、いやタマモとは別の妖狐がそう言った。
「たかが、三つの尾しかもたないあなたが私の形を得るなんて……おこがましいわ。あまり私を侮辱しないでもらえる?」
六房の髪という本来の尻尾の数とは違う髪をかきあげながら、“もう一人の”タマモがそう言い、何もなかったはずの場所から表れたのだ。
タマモは周囲の風景をそのまま自分の周りに微弱に展開した霊力の上に張り合わせる事で、布の代わりに霊力を使った忍術・隠れ身の術をやってのけたのである。
「貴様!!」
すぐさまその三房に分けた金髪を持つ妖狐はオリジナルの口調を捨てて、自己主張を始めた。その瞳はさっき横島の血を舐めた事が原因なのか、赤色に変わる。
いや、瞳だけではない。
そのタマモもどきが放つ妖気、髪、そして、服が赤黒く染まっていく。
幼さを感じさせる顔立ちをしながらも、その力は
その雰囲気は
本来の九尾の狐たるタマモすら圧倒する大妖しかもてないものだった。
そんな騒ぎの中で、横島は覚醒しながらもその身体を動かしはしない。
──シロの奴、霊力をしっかりと凝縮しきれてないな……
赤い妖狐が持つ雰囲気に圧倒され、冷や汗をかくシロ。
そのシロが作り出した霊波刀いや霊波剣を見ながら、そう考え、すぐにその視線は赤黒い妖気を放つ妖狐に向けられる。
──お前が……今回、俺を狙う存在なのか?
そう、思いながらも横島は静かに時を待つ。
この騒ぎが、自分に託された物が作り出す騒ぎじゃない事を。
わかっていても、願いたかったから。
それに横島の思いとは別に。起きないのは、足に抱きつくように寝ているパピリオ、ルシオラを起こさないように自分が抜け出す手段が思いつかなかったからでは……ないのかもしれない。
あとがき
はぁ……最近、思いっきりトラブルに巻き込まれまくっていて、投稿が遅れてしまったヴルドです。
ちなみにそのトラブルは、盗難事件の犯人にされかかった+その所為で悪い噂が通っている所にまで流れていて、周りの視線が痛いというものです……うぅぅ;;…その心労で風邪引いて、倒れちゃうし……
まぁ、とりあえずトラブルは忘れて…。
えと、横島、噛まれても起きないっておかしいですかね?(俺は猫に足を噛まれまくってても起きませんでした、まる)
文章的にネックだったのは後半、二人のタマモの表現の違いがわかり難い;;それはまぁ、よくはないけどいいのですが……挙句の果てに好きなネタだからといって、○○もどきの設定を“また”使っちゃってたりします;;ぎゃふん!
うぅ……とりあえずはこの後、この三尾の狐編を終えて、タマモが登場した後から一気にラスト(長いから、ラストっぽくないだろうけど)へ行こうかと思っております。
三尾の狐編でまた横島の謎が増えるのでー、それを説明しなきゃいけないんです。ファイトって自分に言っております(カオスレギオン?)
では、レス返しです。
九尾さま
ご感想、ありがとうございます。
シロは人界の事件によって、神族や横島を知る者たちによって横島の護衛に担ぎ出されたんです。何せ一番弟子ですから!!
トラブルの所為とはいえ、執筆が遅れがちになってしまい、書き上げるのが遅くなってしまって大変申し訳ありませんでした……(土下座)
原作との違い……うーん;;実は古本屋にあったのが、アシュ編終わりまでで、その後は知らないんです;;
なので、その先を知る為にSSを読み漁ってたら、自分が書きたくなっていたっていう始末で;;
なので、ある意味、斬新な展開のGSにはなると思いますよ。えっと、この事実を知っても見捨てないで下さいね?
D,さま
前回に引き続き、読んで下さってありがとうございます。
実は俺もそう思って、横島×1はやりました。
ちなみに元ネタは角川スニーカー文庫のある単行本なのですが……知ってたら嬉しいっす。
幼児化、人形化…………その手があったかーーーー!!!<チョット待て、気付かなかったのか!!
実は……その案を使って、ある事を仕組もうかと……ふ、ふふふふふ(邪笑)
ま、期待して待っていてくださいな!(にっこり)
でも、待つ時間の長さに首が長くなりすぎて、キリンさんになるかもしれませんですが……は、ははははは;;
キャメラン&大魔球さま
感想、ありがとうございます!!
パピリオ様。彼女も又、シロと同様に横島を守るために妙な神様の住む山、略して妙神山(違う!!)からおりてきました。戦いの中、色んな人との絆をつくり、深め、彼女もまた女性として目覚めた。
と設定しております。
実は感想を書いてくれたサービス+次も感想かいてくれたらなぁってな下心で、パピリオ様をちょいーっと横島の布団に侵入させてあげたりなんて……してませんったらしてません♪(おかまか、自分。ノリが)
えっと、本当にこの作品に感想を書いてくれた方、ありがとうございました。
次もまたよろしくお願いします。それではまた会いましょう。
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