カツーーン カツーーン
狭い下水道の中を、俺達は進んでいる。
下水道の中を何人も通ってては身動きが取り難くなるので、唯ちゃんは今回上で留守番という事になっている。
そうして進んでいると、前方から悪霊のものと思われる霊気を感じた。
そっちの方は美神さんも気付いたらしいが、後方に隠れている微弱な霊気の方は気付いてないようだ。
話そうかとも思ったが、ここが一番危険が無く自分の力不足を知ってもらえる場所なので、俺は黙っていることにした。
『死ねやあ!』
「出たわね。 食らえ!」
下水道の中から、ザバッと音を立てながら悪霊の奴が出てきやがった。
だが、そちらの方は気付いていたので、美神さんはなんなくお札で撃退した。
「やーれやれ、片付いたわ。 早いとこ、こんな場所から・・・」
「!! 美神さん、まだ・・・」
「え・・・!?」
おキヌちゃんの呼びかけに反応した美神さんに、別の方角から来た奴の下半身が突っ込んでくる。
当たる寸前の所であらかじめ作っておいたサイキック・ソーサーを投げて、なんとか助ける。
「あ、ありがとう、横島君。 助かったわ。」
「いえ、いいっすよ。 それより、こっちは俺がやりますから、そっちをお願いします。」
お礼を言ってきた美神さんに、俺は下半身と対峙しながらそう言った。
美神さんが訝しげにしたが、俺の指差した方向にいる上半身を見て驚いたような顔になった。
「な!? さっきのお札が効いてないの!!」
さっきの下半身の事も含めてこれで今の自分の力に不足を感じてくれれば、妙神山行きのフラグは立つな。
そう思いながら、俺は目の前の下半身を倒すために前に出た。
* * * * * *
「・・・と言う訳で、横島君のおかげで無傷だったけど、ここん所調子悪いんですよねー。」
俺達はあの悪霊を倒して上の唯ちゃんと合流した後に、美神さんに連れられて唐巣神父の教会に来る事となった。
どうやら、無事に妙神山行きのフラグは立ったみたいだな。
「・・・そうか、実は近頃、私も苦戦が多くてね。」
師弟の会話はほっといて、俺達は俺達で話をしますか。
「よう、ピート。 この間はすまんかったな。」
「あ、よ、横島さん。 い、いえ、気にしないで下さい。」
せっかく俺がふれんどりぃに話しかけたのに、顔をひきつらせて引き気味になりやがった。
・・・・・失礼なやっちゃな。
「でも、なんでこんな所にピートさんがいるんですか? ブラドー島に住んでるんでは無いんですか?」
顔をひきつらせていたピートに、今度は唯ちゃんが話しかけた。
「ああ、僕は先生の弟子ですから。」
「え、じゃあこの人がこの前会うはずだった、美神さんとピートさんの先生なんですか?」
パキッっという何かにヒビが入るような音が聞こえた・・・・・・・・具体的に言うと、唐巣神父の方から。
「ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふ。」
「せ、先生。」
こ、壊れた?
「そうだね、前回は私は皆に忘れられたからね。 置いてけぼりをくったからね。」
「あ、あはははははははは。」
あ〜〜あ、こりゃあ正気に返るまで時間がかかりそうだな。
「どうせ私は髪も影も薄いさ、ちくしょーーー、ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
* * * * * *
あの後、なんとか神父を正気に返して妙神山への紹介状を書いてもらった俺達は、現在険しい山を登っている最中である。
「唐巣神父のお話では、かなり危険な修行場らしいですけど、どうしても行かなくちゃいけないんですか?」
危険な場所だから置いて行こうとしたが、なんやかんやで結局一緒に来る事となった唯ちゃんがそんな事を言ってきた。
「この前みたいなザコを相手にてこずってるよーじゃ、商売あがったりだから。 霊格を上げれば、同じ武器を使ってもより強力な攻撃を出せるし、今のうちにレベルアップしとかないと、他のスイーパーに出しぬかれるわ。 少々ヤバくてもこの機会を逃したくはないの。」
真剣な顔でそう言う美神さんに、唯ちゃんは何も言えなくなったようだ。
まあ、美神さんは内心では地球が吹っ飛んでも生き残って見せる、とか思ってるんだろうけどね。
そうしてまた黙って歩く事さらに数時間、ようやく修行場の門までたどり着いた。
「『この門をくぐる者 汝 一切の望みを捨てよ 管理人』ですか。」
「ハッタリよ、ハッタリ!」
唯ちゃんが門に貼ってあった注意書きを読んで、美神さんがそれを聞いて言葉を返しながら門を叩いた。
・・・って、そういやあ、耳を塞いどいた方が・・
「何をするか無礼者ーッ!!!」
ぐああ、間に合わなんだ。
耳が痛えよ、くそったれ〜〜〜〜。
「我らはこの門をまも 「うっさいわ!!」 ぐべろっ!!」
とりあえず、マジでうっさいんで右の鬼門にサイキック・ソーサーをかましといた。
「み、右のーーー!」
「た、忠夫さん? ち、ちょっと今のは。」
「いいの、唯ちゃん。 こいつらにはこれっ位がちょうど良いんだから。」
その光景を見た唯ちゃんが冷や汗を流しながらそう言ってきたのを、俺は即座に却下した。
んでもって、こんどは左の方が文句みたいな事を言ってきやがった。
「横島、これは我らの役割みたいなものなのだから、今のは酷いと思うぞ。」
「だとしても、もうちょい小さな声にしろ。 こんな至近距離でお前らのでけえ口から出てきたでけえ声を聞いてたら、思いっくそ耳が痛えんだよ。」
「むう、しかし、迫力と威厳というものがな・・・」
そうやって鬼門と言い合ってたら、変な視線が向けられるのを感じた。
何だと思って振り返って見ると、皆が目をあんぐりとさせながらこっちを見てるでやんの。
・・・・・・・・・・・しまった、勢いでやっちまったが、考えてみりゃあこうなるのは当たり前だろが、自分。
そんな事を考えていると、最初に正気に返った美神さんが声をかけてきた。
「あの〜〜〜〜、横島君? 何がどうなってんの?」
「あ、あはははははは。 いや、まあ、実はここは 「横島さん!!」 ごぶら!」
俺が説明しようとした瞬間に、小龍姫様が門をぶち破ってでてきた。
まあ、なんつうか、歴史は繰り返すってやつだな。
そんな事を考えながら、今回も俺は意識を失った。
* * * * * * *
「じゃあ、あんたがここの管理人なの?」
あの後に門の下から引っ張り出されて起こされてから、自分は美神さんの所に行くまではここで修行していたと言って何で言わなかったと聞かれたのを「ははは、タイミングを外しちゃいまして。」と帰した所、久方ぶりに美神さんの折檻を受けてピクピクしている俺の横で美神さんが小竜姫様にそう尋ねた。
ちなみに、さっきのあれは今まで連絡を一度も入れなんだ事に対して怒っていた小竜姫様が、タイミングを見計らってわざとやったものだと鬼門が言っていた。(門の裏で聞き耳立てていたらしい)
「ええ。 私がここの管理人、小竜姫です。」
「ふ〜〜〜〜ん、外見からではわかんないけど、横島君の師匠なら凄い力を持ってるんでしょうね。」
以前は小竜姫様の外見から侮った態度をしていたが、ここでは俺がここで修行していたという事を知ったので神妙にしているみたいだ。
「いえ、彼に武を教えたのは私ではなく、私の師匠ですから。 私は姉弟弟子みたいなものですよ。 ・・・・・・・・・・・・ああ、それと横島さんの3番目の恋人でもあります♪」
ピシッ!
空気が変わりましたよ、ええ具体的に言うと俺にヒーリングをかけてくれている人の纏っている空気が。
「ええっと、一応あんたって神族なのよね? ・・・・・・・・良いの?」
「ええ、愛に種族は関係ありませんから♪」
すいません、ごめんなさい、定期連絡しなかったのは謝りますから、それ以上僕を追い詰めないで下さい。
そろそろここいらの空気が致死性のものになってしまいそうですから。
涙目になりながら、俺は必死になって二人にSOSの信号を目線で送った。
「さ、それじゃあまずは着替えをしてもらいますね。」
流さないでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
* * * * * *
唯SIDE
あの後、師匠に挨拶に行ってくると言った忠夫さんと別れて、私達は脱衣場のような所にいた。
美神さんは小竜姫様と修行のコースについて話していた。
小竜姫様、修行場である妙神山の管理人で竜神、そして・・・・・・・・複数いるらしい忠夫さんの恋人の一人。
この前あったヒャクメという人の時は感情に任せた行動でうやむやになったけど、今回は聞かなければ。
「あの。」
「はい? なんですか、唯さん?」
美神さんとの話しを終えた小竜姫様に私は声をかけ、尋ねたかった事を聞いてみる。
「聞きたいことが有るんです。 あの人の、忠夫さんの事について。」
「横島さんについてですか?」
「はい、忠夫さんには小竜姫様を含めて多数の恋人がいるんですよね。 確かに忠夫さんはナンパとかしますけどそれは挨拶みたいなものだと言ってたし、・・・・・私には忠夫さんがそんな不誠実な事する人には思えないんですが。」
私の言ったことに対して小竜姫様はきょとんとしていたが、すぐに我に返ったのかくすりと笑って、
「神族は一夫多妻は珍しくないから、不誠実なんて事はありませんよ。」
なんて返してくれた。
・・・・・・・・・・・えっと、神族がそういう倫理観であっても、この場合忠夫さんについての事なんだから。
「あれ、あ、え、えっと。 た、忠夫さんは人間ですよ!」
頭を混乱させたままそう叫んだ私を見て、小竜姫様はお腹を抱えるようにして笑い出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・忠夫さんのことも含めて、この人はやっぱり敵だと思う。
「あははははははは、はあ、すいません。 ええ、横島さんは人間です。 ・・・・・・でも、あの人には色々な事があったんです。 そして、その果てにそういう選択をしたんですよ。」
笑っていたのを止めて顔を上げると、小竜姫様はいきなり真剣な顔になった。
そして、私の目を正面から見据えながら言葉を続ける。
「あなたが本当にあの人が好きだと言うのなら、・・・・・全ては語れませんが、知るべき事は語りましょう。」
* * * * * *
忠夫SIDE
二人の人影が交錯する。
蹴りが、拳が、空中でぶつかり合い、その度に距離をとる。
幾度目かの攻防を経た後、二人は間合いをとりにらみ合いを始める。
次の一撃で終わる、・・・・・・その二人の間にある空気がそれを感じさせる。
先に動いたのがどちらかはわからない、だが硬直より数瞬後に二人はお互いに向かって駆け出す。
そして二人がぶつかり合った後、一方の男が地に崩れ落ちる。
1P WIN
「だ〜〜〜〜〜〜、また負けたか〜〜〜〜!」
「かっ、当たり前じゃ。 そう簡単に、師が弟子に負けてたまるかい。」
コントローラーを放り投げるようにしながらそう呟いた俺に、老師が笑いながらそんな事を言ってきた。
いや、あんたにゲームについての指導を受けた覚えは無いんだがな。
「で、ヒャクメからなんか追加の連絡ありました?」
とりあえずゲームから頭を離して、俺は老師にそんな事を尋ねた。
「いや、そんなものは無かったぞ。 それより、せっかく来たんじゃ、こっちも一本やってくか?」
俺が尋ねた事にそう言って返した後、老師は愛用の根を取り出してこっちに向けた。
「そうっすね。 これから何が起こるかわかんないっすから、体を訛らせないように一本お願いしますわ。」
武神流の奥義も、まだ全部会得したわけじゃないからな。
これからの為に少しでも強くなっておかなならんから、俺より遥かに強い老師との組み手がやれる時は絶対にやっとかないとな。
「では、行くぞ。」
そう言った老師と一緒に、何時も修行の時に使っていた妙神山の一番奥にあるだだっ広い部屋まで歩いて行った。
こっちの世界に来てからはここに来るのは初めてだけど、武神流を会得するための修行は何時もここでやってたから、なんか色々思い出すな。
「さて、始めるとするか。」
色々な事を思い出しながらぼうっとしていた俺に、老師が戦闘準備をすっかり整えた様子で言ってきた。
「おう、いつでも良いぜ、老師!」
その老師にそう言って返したが、俺の頭の中では今までのここでの修行風景、そして、ここで武神流を修める切っ掛けとなったあの事件の事が頭をよぎっていた。
* * * * * *
同時刻
美神除霊事務所の前に二人の人影があった。
二人とも着ている服が所々破れて、髪の毛には木の枝が刺さっていたりしていた。
一人がどんどんとドアを叩き始めたが、もう一人が休業中の張り紙を指差してそれを止める。
ドアを叩いていた方はそれを見てガビ―ンという顔になって落ちこむが、すぐに気を取りなおしたらしく勢い良く背筋を伸ばし走り出す。
もう一人はやれやれとばかりにため息をつき、その後を追う。
二人が進む方角は、横島達がいる妙神山の方角であった。
後書き
はっはっはっ、これもいわゆる寸止めになるんですかね。
・・・・・・・・・・・いや、ここが一番切るのにちょうど良かったからであって、寸止めしようと思ってやった訳じゃ無いですよ。
さて次回からは過去編、そしてその中に所々で唯ちゃんと小竜姫との会話等を入れて進んで行く予定です。
結構長い話になる予定なんで、5,6話以上それが続くと思います。
あ、後、修羅場を期待してた人にはすいませんです。
修羅場の方は最後の方で出る予定なんで、それまで待っててくだせえますだ。
ちなみに、最後に出てた二人が誰だかはバレバレだと思うんですが、過去編終わったら正体を明かしますんでお楽しみに♪
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