二次試験のやり方は一次試験を行った午後に二次試験の二回戦まで行う。そして正式にGS試験に合格した三回戦出場者だけで翌日、一日かけて優勝者を決める。当然、横島含めた全員、合格は果たした。印象的な試合としてはタイガーが合格を決めた時、人目も避けずに号泣していた。
「うおおおおおお!!!何故か知らんですけど、涙が……涙が止まらんですケン!!!」
その姿を見ていた、オカルトGメンの顧問である美神美智恵の言葉。
「彼からは試合中に、怨念にも似た執念を感じました。彼自身ではなく、何かが長い間苦労したような……彼は今回が初めてのはずなんですけど……。」
やはり、前世の……いや、多くは語るまい。心から彼の合格に祝福を送ろう。
そして本日。優勝者を決める三回戦以降の試合が始まった。
「それにしても、別段何も起こりませんでしたね。」
観客席にいる小竜姫がそう呟く。その横に陣取っている美神も
「そうね……と言う事は、今日は本番と言うわけかしら。」
と試合会場を見ながら呟いた。
「しかし、悪意は感じ取られませんが……。」
辺りを隙なくうかがう唐巣神父。そこに会場周辺のチェックを終えた蛇神がやってきた。
「これと言って、変わった奴や変わった箇所なんて無かったよ。」
「……と言うことは、受験者の中にいるってワケ?」
エミがそう言うと、小竜姫が答える。
「もしそうなれば、受験者である横島さん達に任せるか、何か起こった時に素早く対応するかしか、方法はありませんね。」
その言葉に、一同何があってもすぐに対応できるように準備だけは万全にし、試合を見始めた。
「……まだ、泣いてやがるぜ……。」
三回戦の相手であるタイガーに陰念が呆れるように呟く。
「何故かは知らんです……しかし、昨日から涙が止まらんですケン!!」
「……いい加減にしろよ。もうすぐ試合だぞ。」
いつもの彼のキャラではない言葉が続く。普段の彼なら、ヤンキーの如く「鬱陶しい!」と絡んでいただろう。しかし、今のタイガーの涙の前には何故かそう言った感情はわいてこなかった。そんな、今だ涙を流すタイガーと呆れ半分の陰念は試合のための結界内へと入っていった。その横では我らが横島が三回戦の試合を始めようとして、審判に文句を言っていた。
「こら待て!相手は二人じゃねえか!!意義ありだ!!」
見ると、そこには黒尽くめの服に身を包んだ黒髪の男とその横には金髪のショートカットの女性が立っていた。
「彼の横にいるのはアンドロイドだ。いわゆる、道具としての使用である。よって何の問題もない。」
審判の言葉に横島が叫び声をあげる。
「ふざけんな!あれのどこがアンドロイドだ!どっから見ても人間じゃねえか!!」
その言葉に男――ドクターカオスが口を開く。
「これは、ワシが作成した正真正銘のアンドロイドじゃ。金属骨格に生きた細胞を纏わせてメタ・ソウルを注入した、最高傑作じゃ。ヒトと何ら変わらぬアンドロイドじゃ。」
「つまり、ヒトだって事じゃねぇか!」
「ヒトではない。ヒト以上じゃ!」
依然として、カオスと横島の言い合いが続く。その姿を見ていた小竜姫が隣の美神に尋ねる。
「以前カオスさんに会ったときは、ご老人だったはずですが……?」
「ああ、何でも若返りの薬の調合に成功したとか言っていたわ。それで過去の記憶と今の技術を合わせて作ったのが『マリア』って言うあの横に立っているアンドロイドらしいわ。」
言い合いを続けている横島とカオスを見続けながら美神がそう言った。結局、横島の言い分は聞き遂げられずに、試合は始まった。
結果だけいうと横島の勝ち。最初はカオスとマリアの連携の前に言霊を放つ隙もなかったが、カオスが止めをさす瞬間、マリアの攻撃が横島からカオスに変更。あっという間に、カオスダウン。横島勝利となった。横島は何が起こったかまったく解らなかったが、ただ一つ解っている事、それは結界から出る時マリアの口から聞えた言葉。
「横島・さん・マリア・また会えて・とても嬉しいです。」
自分の恐怖存在が、また一つ増えた事だけだった。
そんな試合の隣で行われていた陰念VSタイガーはごくごく普通の試合でタイガーが勝利した。試合内容は割愛する。ただ、陰念ダウン直前の陰念自身の呟き
「影が薄いって、お前言われてるけど……本当に薄いのは俺なんだぞ……。」
の言葉は、何故かタイガーの心にしみた。
試合は進み、今度は横島VS雪之丞となった。
「雪之丞!負けたら承知しないからね!!」
「横島君、がんばりなさいよ!!」
観客席から蛇神と美神のゲキが飛ぶ。雪之丞は蛇神の思惑を知ってか、苦笑いを浮かべる。恐らく、ここで雪之丞が横島を叩きのめせば、それをうまく使って横島に言い寄る積もりなのだろう。しかし、横島は美神の声など耳に入ってはいないようだ。
「どうした、横島。せっかく声かけて貰ったんだから、手ぇぐらい振ったらどうだ?」
雪之丞の言葉に横島は視線を下げたまま、肩が細かくゆれていた。恐らく笑っているのだろう。
「なんだ?気味悪いなぁ。」
「……雪之丞……俺は嬉しいんだ。……お前と直接戦えるなんてな。」
雪之丞はバトルジャンキーと自負している。しかし、横島はむしろ争いを避けるような性格である事を、長い間の親友付き合いで知っている。よってそんな言葉を口にするなど、今まで一度もなかった。
「?お前…「雪之丞……お前、しゃべったな?」……!あ、あれは俺も命が懸かっていたんで……」
流石の雪之丞、横島が何に反応しているか気がついて、慌てて言い訳をするが横島は聞いてはいない様子。
「いや……その事については仕方がない。命が懸かっていれば喋らざるをえないだろう。……問題は、何故そう言う事態になったか、と言う事だ。お前が不用意に口にしなければ、そんな事にはならなかったんじゃないのか?」
「何故、その事を!!」
その時、雪之丞側から声がした。
「ゴメンねぇ。横島ちゃんにはアタシが喋っちゃったのよ〜。」
振り向くとそこには勘九郎が立っていた。
「お前!なんで、そんな事言った!!」
「はずみよ、は・ず・み!」
そんなやり取りを尻目に横島は審判に試合開始を願う。審判もその言葉に従った。
「雪之丞、助かったよ!試合中なら、例えやり過ぎても試合中なら、事故扱いだからな!!」
霊波刀を発現させて雪之丞に向かって叫びながらかかっていく。雪之丞も慌てて魔装術を纏った。しかし、
「無駄だぁ!『我、命ずる!解除せよ!!』」
その言葉に、雪之丞の魔装術が霧のように消えていく。
「バカな!!」
慌ててサイキック・ソーサーで横島の霊波刀を受け止める。
「『我、命ずる。吹き飛べ!』」
その言葉の通り、雪之丞は結界の壁まで吹き飛んでいく。そしてそのまま結界の壁に張り付くような形で動けなくなった。
「雪之丞、最後はどんなのがいい?」
「お前、キャラが違うぞ!」
横島の言葉に雪之丞が噛み付く。そんな姿を観客席で見ていた美神と蛇神。
「よ…横島君の力って……すごいとは思っていたけど、ここまでだなんて。」
「雪之丞は、うちでもトップになれる素質を持っていたんだけどねぇ……。」
結局、雪之丞が貼付け状態で必死に横島に謝って、お詫びになんぞ奢ると言う事で横島は雪之丞を許し、そのままTKOとなり横島の勝利となった。
「だらしがないわねぇ。」
「やかましい!お前が、横島に要らん事、言うからだ!」
「……別に、勘九郎が言わんでも、もう蛇神さんから話は聞いていたんだけどな。」
「………。」
後に、勘九郎に噛み付く雪之丞にジト目で横島が突っ込む姿が印象的だったと、美智恵は語っていた。
更に、試合は続き準々決勝。横島は既に結界内へと入っている。後は相手がやってくるのを待つだけだった。心を静めるため、目を瞑って静かに待つ横島。その時、横島の耳にこれからの絶望の時間の訪れを告げる声が聞えた。
「すみません、遅れてしまいました。」
女の声だ。横島は脂汗を流しながら、ゆっくりまぶたを開いた。そして、目に入ってきたのは忍び装束に身を包んだ女性だった。
「お相手させて頂きます、九能市と申します。お手柔らかに。」
そう言って微笑む相手に横島は、先ほどの雪之丞戦とは正反対に、体が固まってしまった。
「どうしたのかしら?」
観客席から見守る蛍が呟いた。横島が試合が開始されようとしている時に構える様子もない。
「フム……体が硬いな。」
優太郎も冷静に事態を見守っている。そんな中、試合が開始された。
「……不用意には、かかって来ない…と言う訳ですか。」
一応、試合開始の合図で横島も構えを取るが、間合いをつめる事はしない。そんな様子に九能市は痺れを切らすように、そう口にした。
「ま、まあな…。(あなたが怖くて、近づけませんとは、言えんよ……。)」
内心を、うまく隠してそう答える横島。
「では……私から!!」
そう言って、九能市は自分から横島に飛び掛っていった。
続く
後書き
試合の途中ですが、この辺で一度区切りました。次回は、九能市さんの続きとタイガー、孫さんに登場して貰うつもりです。横島君の本気を引き出す事が出来るキャラは一体……なんてね。
それでは途中ではありますが、ご意見ご感想をお待ちしております。