「そうだね、久しぶり・・・十年ぶりね、恵」
「十年ぶりね、ティオ女王様」
「それで、どうなの?あっちは」
「一言で言うと退屈ね。実務は専門家がやるし。
何か騒ぎが起きた時こそ出番なんだけどたいてい『宰相』が親衛騎団率いて鎮圧しちゃうから・・・
する事あんまなくて結局前任者が残した色んな記録媒体見てるの」
「『宰相』か・・・ガッシュ君どう?」
「騒ぎが起きない限り朝から晩まで鍛錬か、親衛騎団のパム−ンやア−スらと
組み手ばっかしてるわ」
「あの時、ブラゴ君と相打ちになったのがよほど悔しかったのね」
その結果、最後に残ったティオが魔界の女王となったのである。
ところで「女王」と「王妃」は根本的に別物なの。
「『清麿の手を借りながら負けたのは、わたしが弱いからだ』とか言ってんの。ホンット馬鹿よね」
「で・・・ガッシュ君とお付き合いしてるの?」
シュボンと真っ赤になるティオ。
「ななななななに言ってんのよ。ホラあのそのなんだ、あたしたちまだ子供だし」
ちなみに魔物の成長の度合いは大体人間の1/6なので、まだ人間で言う十才にもなっていない。
「そんなこと関係ないわよ。で、どうなの」にまっとした笑顔を見せる恵嬢。
「・・・そっちはまったくもって全然駄目。そもそもガッシュが、コルルとパティとあたしの三人がかりで口説いてるってのに
惚れられてる自覚がないんだもん」
やれやれと肩をすくめる恵。
これでは自分の子供をティオらの子供の友達にするどころかティオ達自身の友達になってしまいそうである。
その時壁のスピ−カ−から映画「マイ・フェア・レディ」の挿入歌「時間通りに教会へ」が流れてはじめた。
「時間みたいね」
「ね・ね・恵、ブ−ケの裾持たせてくれる?」
「もちろんよ。わたしのだんなさまの知り合いの女の子が持ちたいって言ってるそうだから
その子らと一緒にね」
「ブ−ケちょうだい、ブ−ケ」
「それはティオが無事掴めたら、の話よ」「そんなのずる−い」
重々しくドアが開き、純白のドレスを纏った女性がしずしずと姿を表す。
そして、2Mほどのドレスの裾を持っているのは四人の少女。
(アタシの晴れ姿だぜ!皆本きちんと撮ってるか!)
(もうちっと待っとってや。ウチが皆本はんの横にこのドレス着て並んだるからな)
(それはアタシだっての)
(・・・薫ちゃんも葵ちゃんもずるい・・・)
(お願いだから暴れんでくれよな・・・頼むから・・・)
「ね−ね−、あの人ちょっといいね。カメラ抱えておろおろしたり祈ったりしてるあの人。
あれ誰かなぁ?」
「鈴芽・・・少しは新聞読みなさいよ。あの人は高嶺君と共同研究の末・・・なんってったっけ?(とデ−タパッドを調べる)
えっと、『人間の意思と精神による物理的エネルギ−の発生と制御』って論文書いて
超能力と魂の実証を科学的に解き明かしてどっかの教授を引退に追い込んだ人よ。
ついでに高嶺君はそれでみっつめのノ−ベル賞とってるわ。
確か皆本・・・光一っていうの。
高嶺君とコンビで「世界最後の総合科学者(ネクシャリスト)」とか「科学における人類の決戦的存在」とかいった
異名を持ってるんだって」
「詳しいね」
「招待客リストに載ってる若い男はチェックしてるわ。
乙女の常識よ。アンタもちったぁ危機感持ちなさい」
「ヴヴヴヴウヴヴヴヴヴ・・・高嶺く−ん」
そんな一般席の騒ぎをよそに、わたしは祭壇へと向かう。
そこには丸眼鏡をかけたいささか額の広い・・・唐巣とかいう神父があのひとと共に待っている。
なんでもあの神父はあのひとの知人なのだとか。いったいどこで知り合ったのか少々気になる。
他にも銀髪銀眼の拳法使いとかとかくあの人の知人は変わり者で一杯だ。
今度ゆっくり聞かせてもらおう。
あのひととわたしには、この先いくらでも時間があるのだから。
「汝、高嶺清麿は病める時もうんぬんかんぬん、永遠に彼女を愛する事を誓いますか?」「はい、誓います」
「汝、大海恵は中略、誓いますか?」「はい、誓います」
これにて一巻の終わり、です。
魔物の成長が人間の1/6というのは、
1 世代が四回変われば、それより前の事はまず伝わらない。伝わっても歪んで信頼されない。
2 世代が四回(以上)変わるとしたら人間では百五十年といったところか。
3 千年を百五十年扱いするとしたら・・・約1/6?
と計算して出した数字です。
この後あとがきを一本書いて、本当に終了します。