血溜まり。
所々で燻る炎。
アシュタロスの精神エネルギーで作られている為か、瓦礫や砂ボコリなどは皆無。
・・それが不自然さを感じさせ、違和感を生む。
実際にはそんな事にはならない筈だが、己の目にはそう映っている。
だが、そんな事はすぐに忘れた。
その血溜まりの中心に倒れているのは、人間。
やはり肉体は魔族のそれとは違い、あまりに脆い。
ただの人間である彼は、魔族の攻撃一つで、両足を奪われていた。
根元から千切られた足は、そこからさほど離れていない場所へ、炭と化し、転がっている。
・・これでは、助からないだろう。
そんな思いと共に近付く。
・・生きては、いる。
息は・・荒いが、まだある。
だが、口から大量に血を吐いた跡。近くで見て、その状態に気付く。
胴体は真横に深く裂かれ、臓物がはみ出ていた。骨も何本か折れているらしく、皮膚を突き出ているものもあり。
「・・生きているか・・人間」
「・・見りゃ・・わか・・やろ、魔神・・!!」
声を掛けるアシュタロスに、苛立ちを孕んだ瞳を向け、答える。
死に瀕したこの人間は、今の状態に苛立っている。
そう、魔神は判断した。
その理由も、何となく解る。
・・だから。
「魔神・・どーにか俺を助けろや・・!!」
・・そう言われた事に、驚きはなかった。
「・・この状態から貴様を救うのは・・貴様が人である限り、無理だ」
「なら、何でもええ・・魔族にするでもサイボーグにするでも好きにしろや・・!!」
胸倉を掴んで、そう言ってくる。
苦しみの為か、苛立ちの為か、低い、負の感情の篭りまくった声で。まるで脅迫でもするかの様に。
対する魔神は、静かに問う。
「・・横島クンが悲しむと、解っているだろう?」
「・・あぁ、せやな」
その、確認の様な問いに、銀一も静かに答える。
そんな事は解り切っている。
・・けれど。
「・・ムカツクやないか・・こんな弱っちい俺自身が・・!!このままやったら俺は死ぬ・・!!そん時、俺はいないんやど!?慰める事もできんやないか!!・・そんなら、人でないモンになっても、生きてた方がええ・・!!」
・・本気の瞳で。
魔神を見返して、言い放つ。
血を吐きながら。
「・・それを私が了承しなかったら?」
「オドレを地獄に道連れにするまでとり憑く」
「ギャーーー!?」
・・この期に及んでどんなノリだこの二人。
「・・まぁ、冗談はともかく、や・・」
「冗談じゃないだろう今の!!とこっとん本気だったろ!?」
魔神が何事か喚くが、銀一は無視して続ける。
「・・横っちの記憶を消せ」
「・・なっ!?」
「ぶっちゃけ、コレもオドレのせいやろが・・嫌われるで?オドレ・・。せやから・・俺が死んだら、俺に関する記憶を消せ」
「・・貴様・・」
「文珠あれば・・どーにか、なる・・やろが・・。オドレにとっても、悪い・・話、や・・ない、やろ・・?」
「・・そこまで・・横島クンが大切か・・。己の存在を消す事になっても悲しませたくないか!!」
「・・当然やろが・・ボケが・・。横っちが悲しむくらいなら、俺の生きた証なんぞいらん・・!!俺が覚えとれば、それでいい・・!!」
「・・ッ!!」
狂気に近い、想い。
ここまでくれば。ここまでの覚悟があれば。
それはもう、尊敬の対象だ。・・まず畏怖の対象ではあるが。
「・・そこまで・・横島クンに執着する理由は何だ・・?」
「・・さぁな?」
様々な感情を押し殺した様な声で問う魔神に、銀一はふっ、と笑う。
色々な理由はあるだろうが、明確な答えはない。
説明できるモノでもない。
「・・ただ──・・横っちとおると・・笑えるんや・・」
「・・笑える・・?」
「・・あー・・どーもな・・。他の連中は、全部隠しとる・・どいつもこいつも・・顔だの芸歴だの見て・・俺本人見て・・俺に笑顔くれたんは・・横っちが・・最初・・で・・」
段々と声が小さくなっていく。
「・・その笑顔につられて・・笑えて・・一度離れ・・けど・・また・・会って・・あったかく・・なって、なぁ・・」
瞳から光が失われていく。
「・・あぁ・・横っちいてくれた・・から・・俺、生きとるんやなぁ・・って・・思った・・」
満足そうに、呟いて。
微笑う。
途切れ途切れの言葉。
その心を完全に推し量るには足りない、それら。
だが、それで良いのだろう。
本人が解っていれば、良いのだ。
・・自分は、多分、解ってもいない。
自分の心を。
内に篭って思考に埋もれそうになる魔神の胸倉が、銀一のいつの間にか力無く下ろされていた手で、ぎり、と。また掴まれる。
「・・魔神・・覚えとけや・・。俺が死んだ後でも・・横っち泣かせたら・・地獄からオドレを引き摺りこみにきたる・・!!」
光が失われた筈の瞳を見開いて。
口許を笑みの形に歪め。
──言い放った。
「・・ソンナユメミマシター」
しくしく泣きながら、しかもカタカナ語で・・いや、既にカタコトでアシュタロス。
かなりの精神ダメージを受けたらしい。
「・・また痛い夢やなー」
汗ジトで鬼道。思わず渋面になっていたりする。
「しっかしなんつーシチュエーションやねん・・」
「・・多分私に恨みのある神魔の連中の攻撃に巻き込まれたのだと・・」
「・・ボクはその時一体?」
「・・横島クンと一緒にどこか安全な場所にいるか敵をハリセンで薙ぎ倒してるのではないか?」
「・・ボクは一体何者やねん」
「最強保護者」
「・・即答かい」
「まぁ、立場的にはとことんその通りだと思いますよ」
音も無く銀一出現(爆)
「ギャー!!出たー!!」
「・・覗きはやめとき」
「まぁ、ええやないですか。・・つーか魔神、俺はゴキブリか?それともオバケか?魔神のくせに何悲鳴なんぞ上げとるかあぁん!?」
「ギャーーー!!やっぱり魔王の影がぁ〜〜〜!!!」
「誰が魔王じゃゴルァ!!」
最早前回で正式に決定済みだが。
「横島クンこの男の本性に気付けぇーーー!!!」
「オドレ目玉抉るぞゴルァァ!!」
「チンピラか貴様はーーー!!!」
「でーいっ!!やめいやオドレ等ぁ!!!」
ずっぱぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!! ×2
「「ぐべぶっ!?」」
ハリセン炸裂♪
「りょ・・両刀・・!?」
「何故!!」
疑問の声を上げる両名に、両手に持ったハリセンを掲げ。
「片方は魔神用の神器ハリセンで片方は人間用のハリセンや!!」
「俺用っ!?」
「・・人間用ではなく魔王用の間違いでは・・」
「だかましっ!!」
げしっ!!
「足蹴っ!?」
「・・なんや、いじめっ子といじめられっこみたいやなぁ・・」
一方、横島は──
「ハニ、そっちの皿取ってくれるかー?」
「ぽー!!」
「お、サンキュ。悪ィなー、手伝ってもらって」
「ぽー!!」
ふるふるっ
「あははっ、サンキュ♪」
なでなでっ♪
「ぽぽー♪」
・・なんだかハニワ兵と相変わらず親交を深めていた(笑)
「しかし・・魔神の夢、か・・。予知っぽくて嫌やなぁ、それ。しかも二回目やし。・・いや、厳密に言えば三回やけど」
「確かに・・。いや、流石にこの前のハニワマンはともかくな。・・けど──・・」
ちらり、と銀一の顔を見て。
「・・殺しても死なない様な気がするのはボクの気のせいやろか?」
「・・そんな真面目くさった顔で言われても俺にはどう返事をすればいいのかサッパリなんですが」
流石に銀一も汗ジトで鬼道の言葉にそう返す。
そして、魔神は。
(・・死んでもどこかから身体調達して死神抱き込んでこの世に舞い戻ってきそうだ・・!!)
・・こちらも汗ジトでそんな事を思っていた。
口に出さない分利口である。
だが──それもあんまり関係無い。
「・・何かつまらん事思うとるやろ、魔神・・」
「イイエメッソーモナイ!?」
「目が泳いどるんじゃボケェェッ!!俳優相手に嘘通じると思とんかあぁあっ!?」
「俳優コエーーー!!!」
「いや、今のは解り易すぎるやろ」
そんなこんなのいつものやり取りは、横島が昼食に呼びにくる三十分後まで続くのだった。
で。
その三十分後。
「今日は手巻き寿司だぞー」
いつもの事であるやり取りには最早頓着せずに。
用意を終えて呼びに来て、ずるずると一同を引っ張ってきた横島の言う通り。
そこにはきちんと分けられた材料それぞれ。
「お、マグロー。・・つーか、こういうのどーゆー経緯で持ってきとんねん」
魔神をジト目で見ながら言ってくる銀一に、反応する魔神。
「む、何だその目は!!ちゃんと貨幣でハニワ兵に買いに行かせているぞ!!」
因みにそういう役割のハニワ兵には幻術を掛け、人の姿に見せている。前は適当な人間の姿だったが、最近は銀一が薬をぶち撒けた時のあの姿で出していたり。
おまけとかつけてくれてお得らしい(爆)
「金って・・。稼いだんか?工事現場とかで」
天然炸裂。
「日雇い!?・・いや、基地作ってる時に金を発見して日本で通貨に換えたのだ」
「・・悪魔と取引する日本企業・・笑えんなー」
なんだかんだとわいのわいのと。
「ぽぽー♪」
「あ、サンキュ、ハニvじゃ、自分で好きな具取って巻いてなー」
ハニ達に海苔を渡されて、食事開始。
──食事も終わり。
「ぽ!!」
「ん?どしたー?ハニ?」
食器を洗う為にエプロン(普通のもの。決してフリフリタイプではない)を着け様とする横島の後ろにぴょこぴょこ近付いて。
「ぽー!!」
「え?結んでくれるのか?」
「ぽーv」
どうやら後ろの紐を結ぶ気らしい。
「ああっ!?待つのだハニワ兵!!エプロンは横島クンが後ろ手で結ぶから良いのではないかっ!!そこはかとない色気!!萌え!!」
「黙れ変態!!」
べしぃっ!!
取り敢えず横島、手製のハリセンで一発。
「ああっ漢の夢なのにっ!?」
「やかましいっ!!」
なんてやってるその横で。
「ぽっ!!」
「ぽぽー!?」
「ぽー・・」
『ぽーーー!!』
「同意すなーーーっ!!」
姫と魔神とハニワ兵達がばたばたしている様子を眺めつつ。
「・・フッ、甘いで、魔神・・。横っちの一挙手一投足自体全てが萌えやというに・・」
・・何やら妖しい笑みを浮かべながらのたまう銀一。
「・・アンタ等なぁ・・」
そして鬼道は呆れた様に溜め息を吐き。
「片付けは皆でやるでー。いつも横島に飯作ってもらっとるんやしな。横島は休んどき」
「え、でも・・」
「えーからえーから」
仕切りつつ、横島からエプロンを外す。
「むお!!なんかエロッ!?おのれぇっ!!最強保護者めー!!己の立場を利用するとは小癪なぁぁ!!!」
過剰反応する馬鹿魔神。
「ちょお待て!!なしてエロやねん!?」
「横島クンの露出度が高い為、エプロン着けると裸エプロンちっくでそれをいやらしい手付きで外している為に!!」
「んなぁっ!!」
魔神の叫びに顔を赤くする横島。
「いやらしいとは何やねん!!」
こちらも顔を赤くして鬼道。但し怒りの為のみで。
因みに横島の服装は、水色のノースリープのシャツと短パンである。
エプロンも水色系なので紛らわしいと言えば紛らわしいのだが・・。
「って、流石に裸エプロンには見えんやろ。・・けどまぁ、確かに下は正面から見ると何も穿いとらんよーにも・・」
「銀ちゃんっ!!」
「いや冗談やて横っちv」
「ふっ!!甘いな魔王!!心の眼で視るのだ!!ビバ視姦!!」
流石念写野郎である(爆)
しかし色々と間違っている気が多々する。
何はともあれ。
「死んでしまえぇ!!!」
ごべしぃぃっ!!!
「堕ちや(地獄の底へ)」
ベギャアアァ!!!
「ドアホウッッッ!!!」
めぎゃぁぁっ!!!
・・三連発で地に沈む魔神。
「・・も・・萌えは不滅也・・!!」
「「「やかましいっ!!!」」」
ぶっちゃけ日常なその光景を尻目に。
「ぽー!!」
「ぽぽー!!」
「ぽー♪」
ハニワ兵一同が、後片付けを開始していた。
──そんな毎日の中。
「・・む?」
勿論何事も無かったかのよーに復活した魔神が、ピクリ、と反応する。
この異空間に侵入した者がいるらしい。
塔の中には入ってきていないが──・・。
「・・ストレス解消の獲物が来たな♪」
ニヤリ、と笑って、魔神は人間形態から元の姿に戻り、愉しそうにそう呟いた。
──塔、入口付近。
「ぽー!!ぽぽー!!」
何だか怒った様に腕を振り回しつつ声を上げるハニワ兵。
「フン・・こんなオモチャ達に警備を任せておくとは・・。流石人間などに執着する愚か者・・。魔神などと呼ばれてはいるが、所詮・・」
ハニワ兵達を前にブツブツ言っているのは──魔族。
・・名前はまだ無い(爆)
「ぽっ・・ぽぽー!!」
無視されてご立腹な様子で、ハニワ兵の一体がずずいっと一歩前に踏み出し、何事か言っている。・・が、意味は通じていない。
・・駄目じゃん(爆)
それはともかく、それに気付いたその魔族。
「ふん・・たかが土くれの存在で・・」
手をかざす。手の平に集まっていく魔力。周りの空気が歪む程の力。
「ぽ・・!!」
思わず怯むハニワ兵。
しかし、退かない。
「ぽ・・ぽぽぽーーー!!」
ハニワ兵は、アシュタロスに造り出された兵鬼だ。
多少の自我と意思を持ってはいるが、命令があれば、己の存在など二の次にして、敵を撃破する。
無論、今現在、自分達に命じられているそれを全うし、消える事にも──躊躇はしない。
ハニワ兵全鬼に今命じられているのは、横島を護るという事。
・・塔への侵入を阻むというものがまず第一なのだが、アシュタロスからは、それが最優先の命令であり。
そしてそれは──ハニワ兵達全鬼の願いでもあった。
彼等も横島の事は慕い──好いているのだから。
因みにこれは、横島救出部隊には適応されない。横島の関係者には攻撃しない様にプログラムされているのだ。
鬼道がアッサリと普通に入ってきたのも、これが原因である。玄関からチャイム鳴らして、という礼儀正しさもその一端は担っていたのかもしれないが(笑)
まぁ、救出部隊に適応されていたとしても、ぶっちゃけ必要は無いだろう。だってすぐに萌えポスターで撃沈するから(爆)
と、そんな訳で。
「ぽぽーーー!!!」
突撃!!
がしっ!!
「ぽ?」
頭鷲掴み。
ぷらーん、と吊り上げられつつ。
「ぽー・・?」
器用に首を傾げるハニワ兵。
と、くるり、と身体が回され、視界が変わる。
「・・何をしているのだ、お前は」
そこには、呆れた様な顔をした、創造主。
魔神、アシュタロスの姿。
「ぽ!!」
久々に見る人間形態ではない主人にビックリしつつ、
「ぽぽーー!?」
じたばた暴れる。
・・どうやら抗議しているらしい。
「・・何?何故邪魔をするのか、だと?・・お前達がそんな事をする必要が無いからに決まっているだろう。大体、お前達の自爆機能はもう外しているのだから、ハッキリ言ってお前達、そっち方面では役に立たんぞ?」
「ぽ!!」
ガビーン!!とかショックを受けるハニワ兵。
「・・仕方なかろう。お前達がそんな事になると横島クンが悲しむ。取り敢えず、お前達は雑用要員という事で一つ」
苦笑交じりに言いつつ、ぽん、とハニワ兵を地に置いて。
わしわし、と、無駄にでかい手で頭を撫でて。
「むぅ・・やはりうまくできんな」
などと独りごちて。
「・・しかしお前達はいつも横島クンに頭撫でられていて、どちくしょうな感じだな」
・・なんか愚痴ってきやがった(爆)
「ってオイ!!」
そこで無視され続けていた魔族が、怒りの声を上げる。
我慢も限界らしい。・・さもありなん。
「・・む?ああ、スマンスマン。待たせてしまったな。では、戦ろうか」
気軽に言って、その手に己の力を集約する。
「ほぅ・・?話が早いな・・」
「どうせ貴様も私を倒して名を上げようだの、私が横島クンにメロメロになったのが気に喰わないだの、そういう類のモノだろう?そういう輩ならば、遠慮無くぶちのめせるのでなっ♪」
満面の笑みで、愉しそ〜〜〜に言う魔神アシュタロス。
ストレス解消する気満々である(笑)
「・・ず、随分と軽いな・・。まぁ良い・・死ね!!」
こちらも力を集約して──・・
「──時に、君は、誰かを愛した事はあるかね?」
「んなっ!?」
思わずずっこける魔族。体勢を少しばかり崩しただけで持ち直したが。
「クッ・・!!戯言を!!魔族の本能は破壊と殺戮!!それ以外は不要よ!!」
「うっわ、つまらん人生だな。いや、魔生か?」
「黙れ!!」
そして、戦闘開始。
ボロクズと化した魔族さん。
「・・ここで殺すと後が面倒だな・・。魔界と空間繋げて捨てるか・・」
ふむ、と顎に手をあてつつ考えるアシュタロス。
「・・それにしてもストレス解消には随分と足りなかったな・・。むぅ・・手加減もやりすぎると逆にストレスになってしまう・・。しかし人間魔王相手にするよりこっちの方が遥かに楽とはこれいかに・・」
ふぅ、とか息を吐きつつ遠い目をする魔神。
背には哀愁が漂っていたりする。
(・・しかし、破壊と殺戮か・・。それだけなら楽だったろうに、な・・)
自嘲気味な笑みもひっそりと浮かべていたり。
しかし、それも長くは続かずに。
「・・流石ヘタレでも魔神やな。横っちに関係無い奴には強いなー」
「ギャーーー!!」
いきなり聴こえた声に、思わず悲鳴。
「ぽ!!ぽぽー!?」
「ぽー!!」
「おう、ハニ兵達、横っちはこの事気付いとらんから、何体かそっち行ったれや。一応鬼道さんついててくれとるけどな」
「ぽー・・」
「ぽぽー!!」
「ぽー!!」
わたわたしていたハニワ兵達に言葉を返し、にかっと笑う銀一。ハニワ兵はそれを受け、一体が安堵の息をつき、一体が皆に呼び掛け、一体がそれに応える。
それぞれ頷き合って、計三体、横島の元へとぽてぽてぽてと走って行った。
・・コミュニーケーション、意思の疎通はバッチリだ!!(笑)
他のハニワ兵達は、アシュタロスの言った通り、魔界と空間を繋げる作業に取り掛かっている。
そして。
「あぁ・・魔王に見付かった!!」
「ケンカ売っとんのか魔神っ!!」
げしっ!!
「また足蹴っ!!」
・・相変わらずのやり取りを一通り終え。
「・・ま、こーゆー事しとんのは知っとったけどな。この場所に来れりゃあ誰でも入れるトコやし。横っち救出部隊来とる時はそのオーラに圧倒されとんのか、こーゆー奴の影も形も見えんけどなー」
「・・つまり、最強保護者も知っていると」
「人間舐めたらアカンなぁ?」
ニヤリ、と笑む銀一に、引き攣る魔神。
「・・横島クンのみか、知らないのは」
「知られたいか?」
「勿論嫌デスヨ?」
「当然やな」
「うぅぅ・・」
ククク、と邪悪な笑みをその顔に刻む腹黒魔王に、トホホな涙を流す魔神。
・・なんかもうどーしようもない。
補足として──塔からは、外の様子を知る事はできない様になっている。
と、いうか──外にいる者の霊気やら魔力などは感知できない様になっているのだ。
塔の中にいる以上、知れる筈が無いのである。こういう輩の来訪は。
ただ、外に出られる連中には・・言わずもがな。
銀一も鬼道も、外には出られるらしい。・・魔神がとっとと出て行ってくれる事を望んでいる為か、それとも立場的にこの二人の方が強い為か。・・しかし最後の意地か、安全を考えてか、横島だけは別であり。
そんな訳で、他の連中と違い、塔から自由に出られない横島のみが知らないという事で。
「・・グッ・・」
と、呻きと共に微かに動くボロクズ。
「・・む、なかなかタフだな。手加減しすぎたか?」
「殺すと神魔のパワーバランスがどうとかいう、アレか?結局今も静観の構えやしな、大部分」
「うむ、だからこそ単独が多いのだ。無鉄砲な個人が殆どなのでな。・・私としてはもう二、三匹来てもらった方が楽しめて良いのだが・・」
「やめい。流石にそれやと横っちに気付かれる」
「・・その時は新たな異空間でも形成してそこに引き摺り込んでやるので大丈夫だ」
「・・その隙に異空間の入口でも閉じて、時間稼ぎしとる間に逃げられそうやなぁ♪あぁ、できればその異空間ごと消滅させたいけどなー」
「・・ハ・・ハラグロ・・」
「普通やろ」
「貴様等ァァッ!!!」
完全無視に会話を展開する二人に、ボロクズ・・もとい一魔族がぐぁばっ!!と立ち上がり──
「殺してや・・」
ズベギャアァァァッ!!!
「ぶげぶっ!?」
言い終わらぬ内──攻撃に移る暇さえ無く、顔面に襲ってきた打撃に声を上げて吹っ飛ぶ一魔族。
「・・やはり何か仕込んでいたなそのハリセン・・」
「魔神仕様やからなー。そこらの魔族なんぞイチコロやでー♪」
「・・タチ悪・・」
「鬼道さんのやつの方が威力あるやろ。あっちは正規の神器やし。それにもう瀕死やろ?フツーのハリセンでも飛ぶんやないか?」
「・・貴様魔族舐めてるだろ」
「危険やと思ったら出てこんわ。横っちに関わらん事で命張る気無いしな」
「・・そこまでキッパリ爽やかに言い切られるともう何も言えんな」
「ぽぽー!!」
「む、準備ができた様だな。ではな、名も無き一魔族よ。やられ役、ご苦労」
ぽーいっ、と、繋げられた空間の中へ放り投げられる哀れな一魔族。
「・・こ・・今度は・・その人間・・を・・こっ・・殺・・」
・・途切れ途切れの言葉を残し、しかしまたもや言い終える前に、空間の入口が閉じられた。
「・・不屈だな」
にやり、と笑んでアシュタロス。
「・・次は実験させてもらうか」
それより数倍邪悪な笑みで銀一。
「・・何する気だ人間・・」
その言葉と笑みに対し、嫌な汗と共に呻く様に尋く魔神に、
「いや、人間外に効きそーな、どこぞのマッドサイエンティストの作った『何か』の実験体に」
銀一は爽やかに言い放った。
ステキなアイドルスマイルである。なんかキラキラしてたりもする。
「・・ホンライノターゲットハダレデスカ?」
カタカナ語で問い掛けてくる魔神に、にっこりと笑みを向け──そのまま沈黙。
幾許かの時が過ぎ、
「さ、横っちの所帰るでー♪」
笑みを崩さずそう言って、さっさと塔の中に入っていく銀一に。
「ソノエミハナンデスカーーーーーーーーー!!?」
魔神、絶叫。
その叫びのせいなのか、銀一は塔へと入ろうとする所で──
「・・・ククッ・・」
一瞬振り向き、にぃっ、と、先程のものより遥かに悪意やら何やらが含まれた笑みを向け、小さく、低くそう漏らし。
固まる魔神を置いて、塔の中へと消えた。
(・・断言しよう。あの夢は無理!!・・ああなる奴の姿など考えられんっ!!・・ていうかあれは私の願望と厳しすぎる現実のブレンドな気が!?しかも現実の方が強い・・ああいう事は普通に言いそうだが、しかし絶対ああはならんっ!!寧ろ相手が返り討ち!!・・やられたとしても奴は自力で地獄の底から蘇ってくる!!)
・・魔神は何やら悲しい現実からくる確信を心の中で反芻しつつ、滂沱の涙を流していた。
その周りで。
「ぽぽぽー・・」
「ぽー・・」
「ぽ・・ぽぽぽ・・」
黒さ全開腹黒魔王と、創造主のへたれっぷりに汗ジトなハニワ兵達だった。
──塔の中。
「・・なー、鬼道ぉ・・。なんか銀ちゃんとアシュ、外で騒いでねぇ?・・またケンカしてんのかなー・・」
「んー・・まぁ、別にどうにかなる訳でもないやろ。気にせんとき」
「・・ん〜・・そりゃそーなんだけどさぁ・・」
ハニワ兵を抱き込みつつ、少しばかりつまらなそうな横島に、
「・・なんや、構ってもらえんで寂しいんか?」
揶揄う様に鬼道。
「なっ!!なんで俺がっ!!」
顔を真っ赤にして怒る横島。
・・顔が真っ赤になったのは怒りの為のみか、それとも他に理由があるのか。
「・・そんならボクが構ったるよ」
くすくす笑いながら、横島の髪を柔らかく撫でる。
「・・あぅ」
横島、今度は解り易く照れの為に頬を染め上げた。
「ぽ・・?」
「ぽ・・ぽー」
「ぽぽー・・」
その二人のいい雰囲気に、ハニワ兵達が顔を見合わせ、何やら相談・・だかなんなんだか──
その内に。
「・・ぽ!!」
一体が横島に抱きつき。
「ぽー!!」
その一体を別の一体が離そうとし。
「ぽー・・ぽぽぽー!!ぽっ!!ぽーぽぽぽー!!!」
一体が鬼道に何事か訴えていた。
「な、なんだなんだ?どーしたお前等!?」
「・・いや・・ボクは別に横島をどーこーとは・・へっ?フツーに横島に懐いとるのと・・ぬぁ!?参戦者・・!?やめいや!!そんなんややこしいっ!!」
・・なんか色々とあるらしい。
そして、その様子を物陰から見ていたのは──どうにも出て行きにくかった銀一で。
(・・侮れんな、ハニワ・・!!)
一筋の汗と共に、拳を握りつつ、少しばかりの危機感を持ったりするのだった。
まぁ、そんなこんなありつつ。
やっぱりなんだかんだと平和だったりする今日。
塔の状況を知らない、横島の関係者の方々がご来訪。
その塔の入口にて。
「今日こそ横島クンを取り戻すわよー!!」
『おおーーー!!!』
士気上がる横島救出部隊の皆さんが、表面上の一致団結をかましていた。
そして、城内では──
「うむ、やはり茶にはイモヨーカンに限る・・」
畳の敷き詰められた和室にて。
「いやー、栗ヨーカンもええで?」
設置されたコタツにそれぞれ入りつつ。
「定番でミカンだろ!!コタツには!!」
相も変わらず四人一緒に。
「コタツ入りながら喰うアイスもオツなモンやないか?」
・・和んでいた(爆)
魔神も相変わらずの人間形態、服装も至ってフツーの物であり、最早ただのにーちゃんにしか見えない。
「・・にしてもジジむさいなぁ、魔神。もー枯れとるんやないかー?」
いつもの様に魔神にはとことん容赦の無い銀一がそんな事を言いつつ、アシュタロスの目の前にあったイモヨーカンの一切れを摘んで、一口で食べた。
「ってああっ!?何をする人間っ!?見たか横島クン!!悪魔のよーなこの仕打ちっ!!てか魔王!!魔王だぞこの男っ!!既に前回決定済み!!」
「だかましっ!!イモヨーカンの一切れくらいでピーピー騒ぐなやこのヘタレ!!大体オドレ魔神やろ!!メシ喰わんでも生きていけるやろがボケがっ!!」
「ぬぁ!!反省の色皆無!!横島クン!!こんな男とは縁を切るんだーー!!」
「オドレ目ェ抉って酸飲ますかゴラァッ!!」
「ギャー!!なんかボコボコいって煙出してるどー見ても未知の液体持ってるーーー!?」
・・どたばたしている二人を余所に。
「・・あー・・平和やなー」
「平和だなー」
和みまくっている鬼道と横島。
まったり空間形成中。
・・もう魔神と腹黒のこの程度の小競り合い(?)は、二人にとっても単なる日常であるらしい。
ぽてぽてぽてっ
「ん?おー、ハニ。どした?」
「ぽぽー♪」
ぽてぽてぽてっ ぴょんっ ぽてっ♪
「んー?」
膝に乗ってきたハニワ兵に首を傾げつつ、もう条件反射っぽくなった頭なでなで♪をする横島。
因みに争っていた魔神と魔王は動きを止めてハニワ兵達に色々なものを込めた視線を投げていた。
・・大人気ない。
「「おのれハニワマン・・」」
・・しかも何か色々と間違った事を呟いていた。
まぁ、銀一の場合、目撃した先日の事があるので、睨んだりするのは仕方無い気もするのだが──
そして鬼道は。
「・・ハニワ兵、横島にとっての癒し要員やなー」
そんな事を言いながら、先日のハニワ兵達との意思疎通タイムの事は頭の隅に追いやりつつ。
今横島にくっついているのはただの天然、純粋に横島に懐いている者だと判断し、ズズーッと呑気に茶を啜っているのだった。
・・そういえば。
救出部隊の面々は、魔神の念写ポスター(笑)の横島天使羽根付きラッピング姿(ピンクのリボンでぐるぐる巻き)の微妙に時期外しのバレンタイン仕様バージョンを始めとする様々な萌えポスターに、またもや地に沈む事となった。
・・これらのポスターの事を知った横島が文珠を魔神に連発したり、当然の如く鬼道の説教が始まったり、銀一がちゃっかりとそれらのポスターを手中に収めてたりしたのは──・・まぁ、お約束である。
そして、余談ではあるのだが──
「あ、あのさ、タイガー・・。ここんとこ、忙しそうだったし、我慢しとこうと思ったんだけどさ・・い、一応、コレ、な!!」
赤くなってしまっている顔は相手から隠す様にして。
視線を決して合わさぬ様に、手に持った袋を突き出して。
「ま、魔理しゃんっ・・!!」
そして、それを受け取るのは巨漢の男。
感激の為か、涙を流しながらそれを大事そうに胸に抱え込む。
「ううっ、有難うですジャー、魔理しゃんっ・・!!」
「こ、こんな事位で泣くなよ、タイガーってば・・」
──バレンタインという、特に日本人の乙女達にとっては。そして恋人達にとっては物凄く重要なその日。
お約束の様にタイガーは姫奪還の為強制参加させられ。
数日程経ってやっとのイベント堪能を出来たこの時。
ささやかな幸せに包まれている恋人さん達は。
「いたわねタイガー!!何してんのよアンタはぁ!?」
「ふふふ・・自分だけ幸せになるなんてナシだよ、タイガー・・」
「ごめんなさい、魔理さん・・借りますね♪さ、早く行きましょうね〜」
「あああっ!!魔理しゃーーーん!!!」
「ああっタイガーーー!!!どうか無事でーーー!!!」
・・やっぱり(主に人の幸せが気に喰わないのであろう)救出部隊の面々に、引き離されてしまうのだった。
・・合掌。
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