なんだかんだで妙神山を後にした一行。結局、美神の事務所に異空門を開く事で決着がついた。最後まで、小竜姫は横島の部屋に直結させる事を望んだが、事務所側女性陣の猛反発と老師の説得により、それは回避された。そして当の横島は新しい力には目覚める事が出来たが、結局自分自身の力が上がらなければ役に立たない力なので、終業後は事務所のトレーニングルームで基本的な修練を行うのが日課になっていた。当然そこには、
「横島さん、自分の中にある霊力の流れを感じるのです。」
小竜姫がアドバイザーとしてついている。自分の仕事はどうするつもりなのか。横島が小竜姫がいつもいることに、それとなく反論すると返ってきた答えは
「老師が横島さんについてあげろと、仰られたので。」
との事。間違いなく、横島を玩具にするための下準備なのだろうと言う事は、横島にも解ったが反論材料が見当たらずにそのままとなっている。しかも
「横島君、そうじゃなくて……いい?こうするの。」
と横島を後ろから包むような格好で、横島の霊力の流れに乗せて自分の霊力の流れを体で教える美神。
「トレーニング、終わりました?」
と、修練終了後に横島にマッサージを施すおキヌ。その上、
「汗かいたでしょ?」
と、事務所に備え付けられているバスルームに水着姿(当初は裸だったが、横島含む事務所全員に猛烈な反論を受けた)で、背中を流す。ちなみにそれぞれの役目は日替わりだ。そんな他人がうらやむ環境で横島は生活をしている。
「毎日が地獄だ……。」
朝起きての第一声がこれ。今日は休日。横島もそう口にしながらいつもよりはさわやかな表情をしている。しかし、彼が背負いし業はこのささやかな休みをも、奪おうとする。
ピンポーン
玄関からチャイムの音が響いた。横島はジーパンとTシャツを着ると玄関に出た。そこで目にしたものは、
「初めまして。今日から隣でお世話になる、芦優太郎と言う者です。」
と、中々の顔立ちをした男性。横島も、頭を下げ挨拶を交わした。その時だ。
「あなた、私たちも挨拶に。」
と出てきたのは二人の女性。
「初めまして。蜂美(ふみ)と申します。主人共々、よろしくお願いします。」
少しキツイ感じを受ける顔つきだが、表情は優しさを漂わせている。
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
横島も、その幸せそうな顔に恐怖よりも先に挨拶が出た。その横で横島を見上げる形で声をかけた少女が、
「初めまして。胡蝶(こちょう)でちゅ。今度、一緒に遊ぶでちゅ!」
と、元気な声で横島に挨拶をしていた。流石の横島も、このような小さい子供までにも恐怖を感じる事はない。
「初めまして。そうだね、時間のある時遊ぼうね。」
としゃがんで目線を下げて、答えた。その時だった。
「パパ、ママ。置いて行かないでよ。」
と女性が慌てた様子でやってきた。
「仕方ないだろう。引越しの荷物の大部分がお前の訳の解らない発明品とか言うものばかりなのだから。自分でキチンと管理しなさい。」
優太郎が視線を向ける先に黒髪のボブの女性が息を切らせている。
「ちょ、ちょっとぐらい待っていてくれても……」
そう言って、息を整えて横島の方に顔を向ける。
「初めまして、蛍です。よろしくお願いしま……す?……どこかでお会いしませんでしたっけ?」
横島に挨拶をしながら、ふと沸いて出た疑問を口にする蛍。その言葉に芦一家も
「そう言えば……」
「ええ。私もそう感じていたところなのよ。」
「私もでちゅ!」
先に訪れた三人も口々にそう言った。
「初めてだと思うんですけど……。」
横島は言い知れない気持ちでそう答えた。実は横島も何かを感じていたのだ。
(なんだ、この感じ……。だが、ここでこの疑問に対して肯定するととんでもない事が起こる気がするんだ。)
しかし、宿命と言うものは横島を徹底的に玩具扱いするつもりなのだ。
「間違いないわ!!あなたと私は前世で結ばれるはずだったのよ!!それが、悲しい出来事でかなう事はなかった。それで、現世で再びであったの!!間違いないわ!!!」
「はぁ!?」
ほぼ正解ではあるが、前世は前世。前世と現世では別人である。前世の人間関係を持ち出すのは間違いである。魂は受け継がれていくが人間関係は正味の話、『死んだらお終いよ』である。普通、そんな事を言い出す人間は危ないとみなされ社会的地位を失う事もありうる。しかし悲しいかな、この場にいるのは横島と芦一家だけ。しかも芦一家は
「なるほど。では、大いに愛を育みなさい。」
と優太郎。
「そうね。ロマンチックじゃない。」
と蜂美。
「うらやましいでちゅ。」
と胡蝶。
「うん、がんばるよ!私。」
と蛍。まともな人はいない。
「冗談じゃねぇ!俺は、そんな物、信じねえぞ!!」
元来、前世の結びつきと言うのは男女の関係に大きい関係をもたらす事が多い。しかしこの場合、横島にとっては実質的な死刑判決である。蛍の『愛してる』の言葉は横島の耳には『殺してやる』と同義語に聞える。
「俺は、知らん!知りたくもない!!」
と早々に、扉を閉めようとするが、優太郎がすばやく扉の間に足を滑り込ませる。
「まぁまぁ。私の娘の世紀を超えた愛に協力してくれ。」
「お前、絶対おかしいぞ!父親として、そこは娘の暴走を止めるべきだろ!」
横島の言葉に優太郎は笑顔で答えた。
「いや、私も前世の結びつきとしか思えない感情で妻を愛したものでね。」
「まぁ、あなたったら……。」
優太郎の後ろで蜂美が頬を染めている。しかし、そんな事は横島にとってはどうでもいい。
「お前がどうだったとか、そんなん知らん!」
「そんなに照れなくてもいいじゃない。」
いつの間にか、横島の後ろに回り込んで抱きつく蛍。
「うおぉぉ!!どっから入ったぁ!!」
「あそこ。」
蛍が指差した先は隣との非常用通路。そこには大きな穴が開いている。
「あそこは非常時しか、使っちゃいけないんだぞ〜!!!」
「運命の相手を逃がすなんて、非常時じゃない。」
「頼むから、帰ってくれ〜。」
部屋を走り回る横島に振り落とされまいと、しっかり抱き締めて離さない蛍。それを羨ましそうに見る胡蝶。
「蛍ちゃん……おんぶしてもらっていいでちゅね〜。」
少し、ピントがずれているのはしょうがない
そんなこんなで、横島の休日は終わりを迎えるのであった。
しかし、横島の苦労はまだ終わらない。翌日。
「何で、君がーーー!!!」
事務所に出社して早々のお客に向かって横島が叫んだ台詞である。目の前には芦優太郎と芦蛍が立っていた。
「おお、未来の婿君ではないかね。」
「はぁ〜い♪あ・な・た♪」
その言葉に、反応するのは当然、
「何ですって!!」
「何をおっしゃてるんですか!!」
「何言ってんのよ!!」
美神、おキヌ、タマモ、である。
「何って、私と忠夫さんは前世で離れ離れになった、運命の恋人同士ですもの。」
あっさり答える蛍に優太郎も満足そうにうなずく。
「だから、俺は知らんと言うてるやろがーーー!!!」
全力で反論するも、誰一人として聞いていない。
「前世なら、私だって運命を……いえ、宿命を感じています!!」
と反論するおキヌに美神は、
「二人とも!!前世だなんて、ふざけた事言ってるんじゃないの!!私なんて前世どころか前々世からの強い繋がりを感じてるんですからね!!」
そんな三人にタマモも噛み付く。
「前世とか、前々世とか訳のわからない事を言って……。私なんて今の横島に抱いてもらったんですからね。(誇張表現)」
女三人揃うと姦しい、とはよく言ったもの。しかも、今は四人もいる。その凄まじさと言えば、尋常ではない。唯一の救いはこの場に小竜姫が居なかったことであろう。
「いやぁ、未来の婿君はモテモテだねぇ。」
「婿って言うな。この親馬鹿…馬鹿親がーー!!」
ちなみに優太郎と蛍がこの事務所を訪れた経緯は、蛍がGSになりたいとの事で有名な事務所を回って弟子入りを願うためだったそうだ。当然、この話を聞けば事務所総出で反対するであろう事件だ。しかし、優太郎も一代で芦コーポレーションを築き上げた力の持ち主。恐らくあの手この手でこの事務所にねじり込むであろう。事務所の人数がもう一人増えるのは、時間の問題だ。
<あれ?アシュタロスは魂そのものを開放したのでは?>
<いや、あのままじゃべスパもかわいそうになってな。それでこそっと残っとった魂の欠片を培養して人間に転生させたんや。そんでその事べスパに話したら自分も人間になるっちゅうて。ついでやから、ルシオラの転生先にしたろと思てな。んでここまでやったらパピリオもやろっちゅう事で、こなうった訳や。>
<ほう……しかし、ルシオラの転生体……蛍と言いましたかね。かなり性格が……>
<まぁ、ずいぶんと待たされたって感じやったしな。しゃ〜ないやろ。タダやんにとっても、今更一人二人増えたところでなぁ。>
<ま、確かにそうですね。>
後書き
ルシオラの転生体である蛍はこの作品を書くにあたって、一番書きたかったキャラです。本来ならもう少し壊れるはずだったんですが、あまり壊しても問題がありそうだったんで、これくらいです。ちなみに
芦優太郎 (アシュタロス)
芦蜂美 (べスパ)
芦胡蝶 (パピリオ)
となっております。
次回は横島君の友達を登場させたいな〜と、思ってます。
ご意見ご感想、お待ちしております。