「小竜姫、だれぞ来おったか?」
一行の目に入ったのは二足歩行で口にキセルを銜えたサル。
「なんでサルが?」
つい、口に出たのはタマモ。その言葉に慌てて小竜姫がいさめる。
「こ、この方は妙神山の最高責任者の斉天大聖老師ですよ!」
その言葉に驚いたのは美神。
「何でそんな大物がここにいるのよ!」
「ジジイのただの隠居先じゃ、気にするな。小竜姫も慌てるな。サルであることには、間違いないワイ。」
と笑いながら答えた、斉天大聖老師。
「まぁ、たまに気が向いた時に修行に付き合ってやるぐらいしか今は、働いとらんしのう。」
その言葉に、横島がすばやく反応する。
「老師!!俺に修行をつけて下さい!!!」
すばやく斉天大聖の足元に土下座し、願いを請う横島。前世の『強くありたい』『みんなを守るだけの力が欲しい』などの思いが、現世の横島の頭に過ぎった…………訳ではなく、このままでは女性と一緒に女性と修行と言う状況になるのは必至。それを回避しようとしただけ。しかし、そんな気配はおくびにも出さずに老師に願い出たのだ。
いきなりの願い出に小竜姫は慌てふためく。
「そ、そんな!見たところ、まだ霊能力の基本中の基本しかわかっていないような方に老師の修行を課すなんて出来ませんよ!」
しかし、横島は額を地面につけたまま微動だにしない。その姿に老師は口を開いた。
「何故かは問わぬが、本気のようじゃのう………よかろう。ワシが修行の面倒を見てやろう。小竜姫、そっちの嬢ちゃんの方は頼むぞ。」
老師の言葉に小竜姫も何も口出しできずに、心配そうな顔をするも、うなずくだけだった。
「それと、付き添いの嬢ちゃん達も悪いが、ワシの修行は門外不出でのう。修行者のみで行うので、そっちの嬢ちゃんと一緒に行ってくれるかのう。」
心配そうな美神を小竜姫が案内した後、残ったタマモとおキヌに老師はそう言うと、二人を小竜姫と美神が進んだ先へと案内した。そして残ったのは老師と横島二人だけ。
「話は神界の上層より聞いておる。」
老師のその言葉に横島は慌てて立ち上がり、老師の顔を見る。
「別段、隠す事ではないが言いふらす事でもないしのう。何も言わぬわ。しかし、修行は修行じゃ。きっちりやってもらうぞ。」
横島の事情を知り、その上で修行も受けさせてもらえる。その喜びに横島は涙を流さんばかりの喜びを感じた。
「あ……ありがとうございます!!」
しかし、その感情もすぐに間違いと気づく事になる。その潤む涙さえなければ、老師のニヤリとした口元に気がつくことが出来たであろう。
「この部屋はワシが特別に作った術でなっておる。この中で極限を体験し、その極限の中で自分の力を引き出すのじゃ。」
そう言って案内されたのは数ある部屋の中で一番奥にあった部屋の前。
「極限?」
「入ってみればわかるじゃろうて。さぁ、逝くがよいわ。」
首をかしげる横島に、微妙にニュアンスの違う言葉を送りながら部屋の扉を開いて横島を入れた。
「中は、広いんだな。」
部屋の中央に闘技場のようなリングがある部屋。辺りを見回す横島に老師の言葉が聞えた。
『その中での行動は、ワシが逐一見ておるから安心して、修行に励め。部屋の中央にある魔方陣の中に立て。』
老師の声だけが響く部屋で横島は、老師の言うとおりに魔方陣の中に立った。
『まずは、準備体操からじゃ。』
その言葉と共に、横島の周りに四体の人型ののっぺらしたものが立った。
『こやつ等を滅する事が最初の課題じゃ。こやつらは、お主の四つのチャクラ穴に接続しておる。こやつ等を滅する事により、四つだけのチャクラ穴を開放させ、本修行にはいる準備が出来上がると言う訳じゃ。他にも方法があるにはあるんじゃが、その方法よりも、効果的に修行が出来るでのう。それでは、初め!!』
老師の説明が終わり、初めの合図があると四体の人型は横島めがけて飛び掛った。
戦闘模様見ていた老師は、ほほうとばかりにそれを見ていた。
(前世の横島と同じ変則型霊波刀『栄光の手』を発現させたか……しかし、見たところ文珠の素質があるとは思えんが……。いやもっとも当時の横島に文珠が使える素質が見えたかと聞かれれば、答えは『無い』なのだがな。現世の横島も、何ぞ面白い物を見せてくれそうじゃのう。)
一方、戦闘中の横島。
(一体はサイキック・ソーサーで何とか出来たが、それ以降の奴にはそれが通用しなかった。結果、霊波を調節して出したのがこの霊波刀。……いきなりレベルアップしちゃったけど、これもあの両指導者の贈り物のお陰かな。)
そんな事を思いながら最後の一体に止めを刺した。
『よう、やったわ。それでは続いて本修行に入るぞ。これから出てくるのはお主の『恐怖』じゃ。その恐怖に打ち勝つ事によって、新しい力を手に入れることが出来る。』
「え?恐怖?」
老師の言葉に、ヒッジョ〜〜〜に嫌な予感を感じる横島。しかし、横島の答えを聞かずに老師は先に進める。
『それでは、本修行開始じゃ!』
合図と共に、一瞬辺りが暗くなる。横島はスキ無く霊波刀を構えた。そして暗かった辺りが元の視界に戻った瞬間、横島の目に入ってきた相手は……
「「「「いらっしゃ〜〜い♪」」」」
薄絹を纏った、四人の美女だった。
「んぎゃーーーーーー!!!!!!」
横島の絶叫が老師の施した結界をも砕かんばかりの勢いで発せられる。
<<『わははははははは!!!!!』>>
気のせいか、ずいぶん前に聞いたことのある声とついさっき聞いた声での大爆笑が聞えた気がした。いや、少なくともさっき聞いたばかりの声は実際に聞えている。
「そんな、危ないものなんて振り回さないで、楽しい事しようよ。」
「フフフ。そんなに慌てなくても、私に任せなさい。」
「お兄ちゃん……私の事、そんなに嫌い?」
「あ、あの……よろしくお願いしますっ。」
横島の目の前に現れた四人の美女はそれぞれ、はち切れんばかりの若さと巨乳をもった女子高生風と、艶のある色気を振りまくこれまた巨乳の妙齢の女性。それに自分を慕う妹のような女の子にメガネをかけた少しオドオドした女の子。ちなみに、決して作者である私の好みによる人選でない事をここに明記しておく。ちがうったらちがう!!
とにかく四人の様々なタイプの女性に囲まれた横島は
「く、くんなー!近寄んなー!ぐんなーーー!!!」
と霊波刀をやたらめったらに振り回し、滝涙流しながら完全拒否の姿勢である。
『こら横島。それでは修行にならんし、何時まで経ってもそこから出られんぞ。』
笑いを堪えた声で老師の声が響く。
「やかましい!こらサル!こうなる事を、最初から解ってたな!!」
横島が手を休めずに声を荒げる。それに対しても老師は飄々と答える。
『ほう、まだそんな風に受け答えが出来ると言う事は、そんなに追い込まれておらんようだ。もう少し、人数増やして見るかのう。』
とのたまう。
「勘弁しろー!!!」
横島の絶叫空しく、四人の女性が分身するが如く八人に増える。
「あべらぶぎゃらべらぷぎゃらーーー!!!」
発狂寸前である。本来のこの修行は、自分の闇である自分自身の影と一対一で戦う修行である。霊能者と言う人々は常に、自分の力の暴走を潜在的に恐れている。よって、その恐怖に打ち勝つ事によって、潜在能力を完全に支配して新しい力に目覚めると言うわけである。ただ、横島にとっては、その恐怖より女性への恐怖のほうが大きかっただけなのだ。
様子を見る老師。様子は依然として変わらず。発狂したか如く、霊波刀を振り回すだけの横島。しかし、次の瞬間電池の切れたおもちゃ(実際おもちゃ扱いなのだが)のようにピタリと動きが止まった。
『(いやはや、やり過ぎたかのう。)横島、しっかりせんか。意識をしっかり持たんと……』
老師が声をかけた時、動かないのを良い事に背中から抱き締めた妙齢の女性が横島の声と共に跳ね飛ばされた。
「触れるな!」
その飛ばされ方は尋常ではなかった。凄まじい勢いで壁まで跳ね飛ばされて壁にぶつかり、女性は寄り代へと戻ってしまった。
『言霊か!しかし、言霊にこんなにも力がるとは思えん!』
しかし、うつむいたままの横島は近くにいた二人の女性の腕を掴むと叫ぶ。
「消えろ!」
すると、煙のようにその姿が消えてなくなった。そしてそのまま流れるような動作で
「消えうせろ!!」
の絶叫と共にまばゆい光が部屋全体を包んだ。光は一瞬で消えて、その場に残っていたのは横島ただ一人であった。
「自分の内なる恐怖に打ち勝ってこそ、新しい力を手に入れるのだが……やつは、自分の身を守るために効果的な技を自分で作り上げたと言う事か…。これは、文珠より厄介な力じゃぞ。」
その場にへばってしまった、横島を抱えて部屋を出ながら老師はそう呟く。
「まったく。横島の転生者であるといった時点で、何かしらの厄介ごとを抱えるであろうとは思っていたが……仕方が無いのう、ワシがある程度『制約』をつけてやるか……。」
目が覚めた横島の最初に見た映像。目の前に美神とおキヌとタマモのアップ。結果、
「ひぎゃあぁぁぁー!!」
絶叫、である。
「ちょ、ちょっと横島君、私よ!」
「横島さん!私です!」
「ヨコシマ!落ち着いて!」
そんな横島を見て小竜姫が老師に詰め寄る。
「老師!横島さんに何をしたのですか!!」
「わしゃ、修行をつけてやっただけじゃよ。大方、いきなりの顔に驚いただけじゃろ。」
と何事も無く答える。
「(静まれ俺の心臓。修行は終わった。いつものメンバーだろう。慣れて…はいないが、なんぼかマシだろ)……すみません。いきなりで驚いてしまって……。」
「ほらのう。」
横島の言葉に老師も答える。
「それで小竜姫。嬢ちゃんの方はうまくいったのか?」
老師の尋ねに小竜姫はうなずきながら答えた。
「はい。シャドウでの修行により、全体的なスキルアップに成功しました。ついでと言う事で、おキヌさんにも少し修行をつけて、ヒーリングの力を発現されました。」
「そっちの、嬢ちゃんは?」
タマモを指差しながら尋ねる老師に今度はタマモが答えた。
「私は、今は寝ぼけてる様なもんだから、その内力も知識も思い出せると思ったから何もしてないわ。ところで、ヨコシマはどんな修行を受けたの?」
その問いに横島はうっと詰まってしまう。
「(女性と戯れていました……なんて言えないし、しかも滅茶苦茶ビビッてましたなんて間違っても口に出来ない……どうしよう)……え〜っとぉ」
そこで老師が口を挟む。
「修行の内容には答えることは出来んのでな。勘弁してもらえるかのう。変わりに横島の新しい力について説明してやろう。」
これ幸いと、横島もその言葉に乗った。
「そういえば俺、自分でもどんな力に目覚めたか知らないんですけど……。」
「そりゃそうじゃ。終わった途端、気を失ってしまったのじゃから。横島の新しい力は一言で言えば『言霊』じゃ。しかし一般的な言霊ではなく、『己の発言した言葉が発現する』と言う能力じゃ。制約は頭に『我、命ずる。○○○○○せよ。』とつけることじゃな。」
その説明に横島を含めて一同が驚きを隠せなかった。
「つ、つまりは言ってしまえばどんな事でも出来てしまうってことですか!」
「まぁ、お主の霊力で出来る、分をわきまえた範囲……と言うのが大前提ではあるがな。大抵のことは出来るじゃろう。ただ、その発現させる事象を事細かに想像できん事にはどうしようもないがな。」
考え込みながら美神は呟いた。
「そんな、創造者のような力が横島君に……」
「確かに……。そんな大きな力を一人の人間が持っているなんて事が神界や魔界に知れたら、厄介な事になりませんか。」
美神の呟きに小竜姫も続くが、老師は首を振って答えた。
「じゃから、己の分をわきまえた範囲と言ったじゃろう。分をわきまえぬ大きな事象は発現することなく、不発に終わるじゃろう。横島の新しい力は力でありながら技でしかないと言う事じゃ。己が強くならん限りは出来る事もわずかしかない。どんな名刀も達人でなければ宝の持ち腐れと言うわけじゃ。そして、いくら横島が強くなろうとも所詮はヒト。驚異的な力ではあるが、警戒するような力ではないワイ。」
そこまで言うと、キセルを取り出し一服つける老師。
「まぁなんにせよ、ヨコシマはすごいって事ね。」
「すごいです!横島さん!」
タマモとおキヌがそう締めくくると、横島も苦笑しながらありがとうと答えた。
「斉天大聖がそう言うんだったら、問題ないでしょ。それじゃ、帰るわよ。」
美神の言葉に一同帰りの準備を始めたときだった。
「もう、遅いですし、一泊されては?」
と小竜姫が横島に声をかけた。
「い、いえ……今日は修行で疲れたし、早く家に帰って休みたいな〜と……。」
「休むのでしたら、ここでの方が。温泉もありますし、ゆっくり出来ますよ。」
横島の答えに小竜姫、更に食い下がる。
「あ〜、小竜姫?よこ「何ですか?老師。」……いや、ワシに反論は無い。」
先ほど、死ぬほど笑い転げた老師も流石にと思い、小竜姫を止めようと声をかけたが、その小竜姫の表情を見てすぐさま意見を反転させた。
(こらサル!しっかりせんか!)
自分の事情を知っている老師に向かい内心、そう叫びながら笑顔の横島。心なしか引きつって見える。
「なんでしたら、私がお背中を流して差し上げますし……。」
と、頬を染めながら言う小竜姫の言葉に最初は温泉があると聞き、留まろうかと悩んでいた事務所側女性陣の反応がガラリと変わる。
「明日も仕事だし、帰るわよ!横島君!(私ですら、雇用者である私ですらした事の無いような事をさせるもんですか。って言うかこの女、明らかな敵ね!)」
「そうです!横島さん、帰りましょう。(何ほざいてるんですか、この人…神様は。私だったら、背中流して、その後のマッサージも……何でしたら、その後のマッサージも、キャッ♪)」
「ヨコシマ!早く帰らないと、明日の仕事に差し支えるわよ。(一緒にお風呂か……前は一方的だったし、今度洗いっこのおねだりでもして見ようかなぁ。)」
「あら、お仕事でしたら、美神さんやおキヌさんでも十分こなせますよ。今日の修行で十分な力は手に入ったはずです。(私はここに括られているから、少しでも横島さんと一緒にいる時を、逃すわけには行かないんです。邪魔はさせません!)」
そんな、女の水面下の戦いを尻目に横島は老師に詰め寄っている。
「固羅、サル。さっき俺の修行見て大爆笑してやがったろ。」
「ウキッ!」
「今更、モノホンのサルの真似で誤魔化せると思うな!」
「まぁ、横島。ワシもここしばらく面白いゲームが無くてのう。せっかくの娯楽を奪うでないワイ。」
「やかましい!人の娯楽にされてたまるか!!」
「わしゃ、神様じゃ。」
「揚げ足取りはいい!!」
<いや〜、斉天大聖老師にお教えしておいて、よかったですね。>
<せやなぁ。久々に爆笑したで。これからも楽しみやな。>
なんだかんだで終わる。
いや、続くよ。
後書き
妙神山修行編の終わりです。次は、GS試験受けさせる前のワンクッションです。この作品を書こうと思ったきっかけとなったキャラが登場します。乞うご期待。
ご意見、ご感想お待ちしております。