『忠夫さん、そっちに行きましたよ!』
手に持った通信機から唯ちゃんの声が聞こえると同時に、向こうの方から、数体の悪霊がこちらに来た。
それを確認した俺は、栄光の手を出して、そいつらに向かって行った。
「でりゃーーーー!」
掛け声と共に一閃。
切り裂いた悪霊は、うめき声を上げながら消えて行った。
「ご苦労様です。 忠夫さん。」
悪霊を追いこんでいた唯ちゃんが、そう言いながらこっちに走り寄ってきた。
その後に、おキヌちゃんの姿も見える。
「ん、これでこの依頼は完了だね。」
今回、美神さんがなにかデカイ仕事が来る予感がする、と事務所に居残っているので俺達だけの除霊とんなっている。
唯ちゃんは、免許を持っている人間の同行無しでの除霊はだめだのとか、本当は雨が嫌なだけなんじゃないですかとか言っていたが、美神さんになにか渡されて口を噤んでいた。
・・・・・・・・・・何か嫌な予感がするんだよな。
「はい、このビルに憑いた悪霊は今ので最後です。」
唯ちゃんは笑顔を浮かばせながら、そう言った。
・・・やっぱ、気になるよな。
「・・・なあ、唯ちゃん」
「はい?」
「事務所で美神さんに何か渡されてたけど、何貰ってたの?」
俺がそう聞くと、唯ちゃんはニヤアっといったような普段とはまったく違う類の笑みを浮かべ、こう囁いた。
「ふふっ、忠夫さんに見せてあげろって、すっごい大胆な下着を貰ったんですよ。 今夜、見せてあげますね♪」
「は、はい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「な、なに言ってるんですか、唯さん!!」
俺は顎が外れんばかりに驚き、その横からはおキヌちゃんが唯ちゃんに詰め寄って行った。
その詰め寄って行ったおキヌちゃんに、唯ちゃんはのりくらりとかわすが如く会話している。
・・・・・・・・まいった。
あのデート以来、唯ちゃんがこうやってふざけるような、兆発するような事をす言うようになってしまったのだ。
同様に、ナンパなどをした時に、しばかれることが全く無くなり、頬を膨らませてぴったりくっ付くようになるという変化もある。
美神さん曰く、
『あんたにデートに誘われたって事で、余裕みたいなのができたのよ。 だから、余裕が無かった時と違って、あんたの色んな時の反応を楽しむようになってきたってとこね。 ・・・・まあ、兆発に乗ってきても、それはそれで良しとか思ってるんでしょうけどね。』
だそうだ。
いや、とりあえず、唯ちゃんにはまだ全部俺の事を話した訳じゃないし、ここですべき事を全部終わらせるまで、誰ともそういった事はする気はないんだけどな〜〜〜〜〜。
つーか、この前のデートで、そこん所を伝えたつもりなんだけどな〜。
「何黄昏てるんですか、忠夫さん。 早く帰りましょ♪」
「む〜〜〜〜〜。」
後から唯ちゃんはそう言いながら右手に腕を絡めてきて、おキヌちゃんはむくれるような声を出しながら左肩にちょこんと手を乗せるようにくっ付いてきた。
「ん〜〜、あ〜〜、そうだね。 帰ろっか。」
俺はそんな二人に苦笑しながら、事務所への道を歩いて行った。
唯SIDE
腕を絡めながら見上げると、忠夫さんの苦笑する顔が見える。
それが自分の今やっていることに対してのものだと思うと、なにかむっと来るので、腕に胸を押し付けるようにぎゅっと力を込めた。
途端に忠夫さんの顔が赤くなり、しどろもどろに離れてくれみたいな事を言い始めた。
大成功だ、ブイ。
・・・・・こうやっていると、私はまた変わったな、と思う。
忠夫さんと出遭って、どんどん変わってきている。
まあ、最近までは少し余裕が無いような面もあったけど、それもこの前のデートで決着がついた。
* * * * * *
「本当に楽しかったです、忠夫さん。」
後を歩いている忠夫さんを振り返りながら、私はそう言った。
本当に、こんな楽しいクリスマスは初めてだと思ったから。
映画を一緒に見て、ショッピングモールを練り歩いて、少しお洒落なレストランで食事して。
一つ一つは何でも無いような事かも知れないけど、忠夫さんとの初デートというものあるからか、やる事成す事が全部いつもと違って感じられる。
「ん、楽しんでいただけて光栄だよ、唯ちゃん。」
そう言って、忠夫さんが微笑むのを見て、私はうっとなってしまった。
うわあ、多分私の顔、すっごい赤くなってるだろうな。
湯気まで出てるんじゃないかな。
そう考えながら、私はこれからどうするのかを同時に考えた。
最初に言われたのは、映画と食事だけで、それはもう終わっている。
そして今、空には星が輝いてる時間帯。
つまり、あれですよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お父さん、お母さん、今日、唯は大人になります。
って、イヤイヤ、それはまだ早いような、でも、覚悟はできてると言うか。
「あ、あの〜〜〜〜、唯ちゃん。 どしたの?」
あ、忠夫さんが引きつった顔して、こっちを見てる。
・・・・・・・・・やっちゃった(汗)
「え、え〜〜〜〜っと、な、何でも無いですよ。 それより、これからどうしますか?」
「ん、そうだね。 適当にぶらついてから帰ろっか。」
・・・・・・・・・・・・はい?
それだけですか? それだけなんですか?
って、何期待してたのよ、わたしは!
普通そうでしょうが、全く。
いくらなんでも、最初のデートでそんな事、・・・・・・・・いや、でも少しくらい期待してもいいような気が、特別な日のデートなんだし、・・ああ、でも!
「俺はさー、唯ちゃん。」
忠夫さんの声に我に返った私は、彼の方に顔を向けた。
忠夫さんは、空を見上げるようにして穏やかな顔をして笑っている。
その顔を見ると、私はなんとも言えないような気分になってしまった。
なにか、心と体に暖かく心地よい感触が満ちてくるのだ。
「唯ちゃんの事、大好きだよ。」
忠夫さんの言葉に、私の頭は沸騰した。
ああ、やっぱりこれは、今日という日に逝くとこまで逝っちゃおうと言う事なのね。
で、でも、やっぱり、早過ぎると思うの、・・・・・・・・ううん、お母さんだって、この人だと決めたなら時間なんて関係無い、なんとしてでもモノにしなさいって言ってたもの。
そう、そうよ、・・・・・・・・・忠夫さん、覚悟完了です!!!
「ただ 「美神さんも、おキヌちゃんも、冥子ちゃんも、皆々大好きだよ。」 ・・・・・ハイ?」
今度の忠夫さんの言葉は、私の頭を真っ白にしてくれやがりました。
・・・・・・・・・・・・・お、乙女の覚悟をなんだと思ってるんですか、あなたは!
「 ビクッ な、なんか、感じない?」
忠夫さんは辺りをきょろきょろし始めた。
その、慌てたような必死な様子を見て、頭の方に篭った熱が冷めるのを感じる。
・・・・・・・・まっ、自分でも早いかなって思ったんだし、少なくとも好きって言ってくれたので良しとしましょう。
「いえ、何も感じませんよ。 で、何でそんな事を言い出したんですか?」
内面はともかく、外面の方はなんとか取り繕って、忠夫さんにそう尋ねた。
「あ、ああ、ん、いや、俺って、まだ色々喋ってない事とか多いからさ、少なくともこれくらいは言っとこうかなって。 俺には色々言えない目的があって、それに都合が良いからここに居る だけど、皆の事が大好きだってのは本当の事だってね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・信じてくれっかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ。」
何を言ってるんですかね、この人は。
・・・・・・・なんか、むっときたので意地悪開始♪
「・・・・・目的があってここにいるって言う事は、私達を何かに利用しようと思ってるってことですか?」
「なっ、ち、違うって! さっき言った通り、目的の為に都合が良い場所だとは思ってるけど、本当に皆が好きなんだって!!」
「良いですよ、そんな事言わなくて。 私なんて、勝手に忠夫さんに懐いちゃってた女の子なんですから、気にしないで下さい。 自業自得です。」
「いや、だから、ほら! 俺を信じてって、いや、隠し事とかしてっけどね、いや、えっと!!」
「大丈夫です。 自業自得ですから。 むしろ、思い出をくれて、有り難うございますって言いたいほどですよ。」
「あ〜〜〜〜〜〜〜っ、くそ!!!」
うきゃ〜〜〜〜、た、忠夫さんが抱きしめてくれた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
こ、これは、や、役得って奴ですか!?
「何度も言うけど、俺が皆の事好きってのは本当の、事、で・・・・・・・・・・
アノ、ユイサン、ナゼニニヤケテルンデスカ?」
「ん〜〜〜〜〜〜、思わぬ展開に喜んでしまってます♪」
あ、忠夫さんが呆然となってる。
ん〜〜〜〜〜〜、でもま、いっか。
ついでに頬擦りでもしとこ。
「え、えっと、な、なぜに。」
「いや、あまりにも馬鹿らしい事を言ってるんで、お仕置きをと考えたんですけどね。」
「ば、馬鹿って! 一応、真剣に考えての言葉なんだぞ!!」
何怒ってるんですかね、まったく。
どうやら、徹底的に話し合う必要があるようですね。
私は一旦離れた後、息を吸い込んで、一気に捲し立てる。
「あのですね、忠夫さん。 自分がどれくらい怪しい人間だったか、自覚ありますか? あれだけの力と技を持っていて、しかも今まで全然知られていなかった。 加えて、自分の事を話そうともせずに、契約書に黙秘権を盛り込んでるんですよ。 もう、怪しさの大安売りですよ。 隠してる目的がある? はっきり言って、もはや、それがどうしたって所ですよ。」
一言言う度に忠夫さんに迫ると、彼はどんどん小さくなるようにしながら後に下がった。
その顔と言ったら、本当にヤバイくらいに可愛くシュンとしてます。
写真に、いや、DVDに永久保存決定ってくらいです、ああ、もう、なんて顔するんですか、忠夫さんは、私を何処まで、あああ、もう、・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、そうじゃないって。
「・・・・ん、ああ、こほん。 とにかく、そんな怪しい忠夫さんと今も一緒にいるんですよ。 もう、とっくの昔にこれ以上無いくらいに信じてますよ、私達は。」
それを聞いた瞬間、忠夫さんは一瞬呆然とした後、今までで一番嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
・・・・・・・・・・・あ、だめ、これをこれ以上見てたら、本当にKOされちゃうや。
そう思った私は、忠夫さんの手を取って、そのまま帰るように促す。
「も、もう、話しは終わりですね? じゃあ、そろそろ帰りましょう。 おキヌちゃんを起こしてあげないといけないし、これ以上ここで突っ立てたら、風邪を引きますから。」
私のその行動を見て、忠夫さんは「はいはい。」と余裕ぶった態度を見せた。
むっ、何かむかつきますね。
・・・・・・・・・・・・・・・良し。
「ああ、それと、さっき信じてると言いましたけど、追加です。 私も大好きですよ、忠夫さん♪ チュッ 」
それを言うと共に、背伸びして忠夫さんのほっぺにキスをした。
まあ、唇の方はできれば最初は相手の方からやって欲しかったんで止めたんだけど、十分だったようだ。
真っ赤になっちゃって、慌てたような顔になってる。
さっきの時と良い、本当に、・・・・・・・・・・・・・・・・・癖になりそ♪
* * * * * *
そして、・・・・・・・・・・・・
見事に癖になってしまったのよね。
いや、忠夫さんが慌てたりする様子が、なんか妙に可愛いから。
すでに、それ用のアルバムも用意してたりする。
「えっと、唯ちゃん、どうかしたの?」
忠夫さんがそう言って、私の方を見ていた。
「いえ、ちょっと考え事をしていただけですよ。 さ、行きましょう。」
そう言って、私は歩き出す。
忠夫さんの腕に抱きついて、おキヌちゃんも一緒に、美神さんの待つ事務所に向かって。
後書き
向こうの方で『竜いじめ』を終わらせるまで出さないつもりだったんですが、ある事情により急遽こちらを優先しました。
・・・・・・・・・・・・・いやね、実はここ1ヶ月で出した改丁版以外の完全新作の作品が、全部18禁だったのに気がついて。
しかも、初の18禁を出してから約1ヶ月ですでに六個の18禁を出しているのに気がついたんすわ。
・・・我ながら、そんなに18禁が得意なわけでは無いくせに何を突っ走ってんだか
というわけで、ここらで18禁以外の完全新作を書こうと思いましたんすよ。
今回の話は幕間のようなものです。
本当はピートを出す予定だったんですが、デートでの事を何も書かずに次に行くのもなんだしと思い、追加したエピソードです。
唯ちゃんに子悪魔属性を追加してみたんですけど、どうでしょうか?
では、また次回にて。
らなよさ!