警告 このお話はNTRと呼ばれるジャンルになります 注意
嫉妬に狂った浮世の鬼を、退治てくれよう桃太郎!
だんだん意味がわからなくなってきたね
第五話
「ちぃっス」
気の抜けた挨拶をしながら、横島忠夫は自分の教室のドアをくぐった。
「ちょっと待て! お前今週全部登校しやがって! 貴様は我々を破産させる気か!? え? どうなんだああああ!」
「知るかー!!!」
今日もクラスメイトに迎えられ、彼の青春の1ページが綴られようとしていた。
『でも実際珍しいんだもの。私の愛が伝わった? それともこれがノーパン効果!』
「本当にノーパンだったんかい!」
怒鳴り疲れ、愛子の身体に倒れこんでいた横島が目をクワッと見開き驚く。
『有言実行! それくらいで主役で青春でゴニョゴニョが得られるのなら!』
身体と言ってもそれは机妖怪たる愛子の本体、つまり机の事なのだが。その彼女が猛々しく拳を天にかざす。
「横島さん! お久しぶりですジャー」
『今の私なら神にも悪魔にもゲッターにも打ち勝てる!』
「こ、この下には絶対幸福領域が! このスカートの中には禁断の園が!」
「いやあ、ワッシも厳しい修行のすえ一皮剥けました」
『気になる? ちょっとだけよ』
一度姿を消した後、横島の目の前の机、愛子の本体から改めて彼女は現れた。そして彼女は恥ずかしげにスカートの裾を掴み、ゆっくりと上にめくった。
「んな! きょ、今日はなんて良い日なんだあ! ドッキリとかじゃないよな? な?」
愛子の白い生足がゆっくりと現れる。ごくり、と生唾を飲んでそれを凝視する横島。が、すぐにその足は黒い布地に覆われはじめ、肌色の締める割合が一気に減少した。
『ざんね〜ん、スパッツでした! ね、ドキドキした?』
「やっぱりドッキリかよ!」
「皮が剥けたと言っても例のアレじゃないですよ? ワッシの場合、保険が利かんしノー」
血の涙を流しながら叫ぶ横島。が、彼はすぐにある事に気が付いた。
「な、なあ、まさかスパッツ生履き?」
『そりゃノーパンだし』
はじめて着る服を彼氏に見せる様にくるっ回り、今度は後を見せる。形の良いお尻がピチッとした布地に浮びあがっている。それが横島の顔の目の前に迫っている状況であり、女性特有の香りに彼は吸い寄せられるように手を伸ばす。が、触れる寸前にまた愛子破くるっと正面に向きなおした。
「俺のおヒップ様が! カムバック尻!」
『もう、横島君ったら』
照れながらもスカートはめくったまま。横島の目の前に広がる宇宙。それはぷっくりと膨らんだ恥丘。そこにピチッとした布地に浮ぶすじ一本。愛子の零距離攻撃だ。
「も、もう辛抱たまらーん!」
こうかはばつぐんだ!
『きゃあ! ダメよ横島君! ほら、小鳥やリス達が見てる♪』
台詞とは裏腹に、暴走した横島を抱きしめる為に両手をつきだす愛子。その体勢で、唇も突き出す様に構えていたのだが、彼女はその体勢で放置される事になる。
「一人で良い思いしてんじゃねー!」
「滅びろ害虫! この羨ま悔しい!」
「死ね! なんだかんだで何時もお前ばっかり!」
クラスの男子による机や椅子の十字放火が横島に炸裂。声を出す暇もなく、横島は滅びた。
「くそ、普通死んでるぞ。ちょっと理性の箍が外れたくらいで酷え事しやがって」
「その、今ピンピンしてる横島さんもどうかしてると思いますけど」
見た目ボロボロになりながらも、改めて席について愚痴ってる横島。そんな彼の不死身っぷりに呆れるピート。
「他人事のように言うな! お前も巨大な鉄球投げつけやがって! ちゃんとお前の『ピエトロ、裏切りの飛び道具!』って声は聞いてんだぞ!」
「それはさて置き、僕もちゃんとノーパンなんです」
「さて置くな。そして近寄るな。ズボンに手を当てるな! そして脱ぐな!」
「残念ながら僕には露出癖がありません。そんな僕がパンツの代わりにこれを履くのは自然の摂理!? 見て下さい! 男が男に惚れる赤いフンドシ、通称赤フンを!」
教室ひらひらとなびく赤い布地。耽美と刺繍されたそれは、風も無いのにぶ〜らぶら。
「ピートさんが壊れた! ワッシの居ない間になにが起こってたんジャー!」
「あれ? タイガー、何時から居たんだ?」
「横島さん、あんた酷!」
『愛子ちゃんプンプ〜ン!』
「キャラが違うぞお前!」
昼休み、朝の騒動の事をネに持つ愛子が、横島の食事を邪魔しながらまとわりついていた。
「それにしても居たんですねタイガーさん」
「ピートさんまで! ワシは要らない子供なんジャー!」
大泣きしながらピートから搾取した弁当を食べるタイガー寅吉。
「いや、お前って体格に反比例して存在感が薄いもんな。いや、絵的にはあるんだが文章だとほら、な?」
「そーいう事言いますくぁあああ!? 鬼じゃあ! 子鬼がおる!」
「人聞き悪いな」
「しかも横島さんに良く似た子鬼ジャー! げふ」
よく叫ぶタイガーのあごに、横島は霊気を集束させた拳で殴りかかった。タイガーの巨体が宙を舞い、机などを薙ぎ倒しながら落下した。
タイガー寅吉 死亡確認。
「美味しいですね」
「ああ、美味いな」
『ね、これ家庭科室借りて作ったの。初めてだから自信無いんだけど』
静かな昼食が進む。
「ダメなヤツはなにやってもダメなんジャー!」
食事を終え、なんと無しに最近の話題などを語っていた横島たち。その後でむくりと置きあがったタイガーが叫んだ。
「いや、昨日な、ちょっといい事があって」
「お金でも拾いましたか?」
「無視せんでくださーい!」
「でかい図体して本気で泣くなよ」
「だって、だって」
『男泣きとはちょっと違うのね』
少女チックに泣くキモい物体。
「と、いう訳でワッシの武勇談を聞いてください。あれはエミさんに頼まれた依頼が切欠でした」
遠い所を見るような視線を何所かに送りながら、タイガーはゆっくりと語りだした。
「邪教団体の調査をエミさんが警察の方から依頼されたんですが、そういった人間相手の仕事には、修行によって新たな力に目覚めたワシがピッタリだったのです!」
『で、良い事って何? 缶詰の特売とか』
「頼むから聞いてください!」
「俺は聞いてるよ。で、その新たな力ってなんだよ?」
話の腰を折る愛子を窘めながら横島はタイガーに付き合う事にした。そうしないと不憫に思えてきたから。
「良くぞ聞きました! ワシが精神感応能力に優れているのは知っての通り。それを生かした幻覚攻撃の事は知っての事だと思います」
「一応な。食らった事あるし」
椅子を三つほど並べ、その上に横になりながら横島が答える。
「その幻覚攻撃を強化してみたんですジャー! 説明しますと、幻覚とい一口で言っても色々ありまして、えっと、なんだったかノー? そうじゃ、五感! 五感を惑わすのが一般的なんじゃがって聞いてますか?」
「あ、良いから続けろ」
『ほら動かないで』
何時の間にか愛子に膝枕されながら耳掃除を受けている横島。妙に静かなピートが不気味である。
「ぬが! で、皆さんが幻覚というと真っ先に思い浮かべるのは視覚に作用する物だと思うんですジャ」
「そうだな」
「それをワッシは他の感覚、とりわけ触覚と嗅覚に能力を集中させ特化させる事に成功したんですジャー!」
「触覚はわかるが嗅覚って意味あんの?」
匂いを騙す意味を理解できず訪ねる横島。
「例えばですノー、戦いの最中に急に強い血の匂いを感じたら。ガスやアーモンド臭を嗅ぎわけたら。エミさんの話だと、相手が有能なほどそれが効くそうなんですジャー!」
「それは凄い! 確かに騙されます。強力な妖怪、特に魔族なども匂いを感じる能力はありますからね。能力が効くかどうかは別にして」
「だからこそ一つの感覚に特化させたんですジャー! まぁ、魔族相手に試した事はないんだがノー」
ピートの賞賛に気を良くし、自身満万に語るタイガー。
「少なくとも人間相手にはバッチリでした! 幻触は相手に殴られたとか切られた、熱っしられた鉄の棒を押し付けられたといった感覚を与え、相手を無傷で無効化できるんですジャー! 凄いぞワシ!」
「どっちかってーと対人能力だな。霊より人間に効きそうだし」
「あったり前ジャー! 最後に立ちふさがるのは人間! どんだけ悪霊退治できても人間に勝てなければ負け犬のままなんジャー!!! おろろ〜ん」
「はぁ?」
「あぁ、GS試験の事ですね。確かに言ってる事はわかりますが」
ゴーストを退治する能力を同じGS候補を倒す事で証明させるGS試験。こっそりと、ひとりだけGS免許を持ってない事。それがトラウマのタイガーが必至になるのも無理なからろう。しかし対GSの能力ばかり鍛えてどうするのだろうとピートは不安になった。
「エミさんの所はよく警察関係からの依頼が来るんです。で、生け捕りとかそういった依頼も多いわけでして。そして! 今回受けてた任務で邪教徒どもをワッシの新能力でちぎっては投げちぎっては投げ! 襲い来るモッコスどもを一網打尽にしたんですジャー!」
「へ〜 凄いな。ああ凄かった」
『でしょ? こんなに大きいの取れるんだもの。もっと綺麗にしなきゃだめよ。ほら〜、頭ゴロゴロさせないの』
「フトモモとはこれほど柔らかいものなのか! 凄いぞ! 凄すぎる!?」
ぶちっ
教室に何かが切れる音が響きました。
「さっきから何一人で学園天国なんジャー! やりたくないが横島さんのためなんで食らってください! 必殺ベノムストライク!」
効果音無し。効果エフェクト無し。しかし、タイガーの放った能力は確実に横島に襲いかかっていた。
「くさ! 硫黄くさ! 温泉玉子臭いぞ! こらたまらん!」
『うえ!? 違うよ! 私じゃない!』
「どうジャー! この能力!」
「恐ろしいな。タイガーの屁は」
「ムガー! 屁じゃないです! 幻嗅で悪臭を作ったんですジャー」
「タイガーなのにスカンクみたいとはこれいかに。俺はアレをスカンクプーと名付けた」
「スカンクって横島さん、せめてカメムシとか」
あいも変わらず膝枕を受けていた横島。しかし、タイガーをフォローするピートの声が頭上から聞こえて驚愕する。
「なんでお前に入れ替わってんだー!」
「あ、時間で交代するって約束していたので」
さらっと事なしげに言い放つピート。そう、横島はピートの膝枕をうけていたのだ。周りの女性徒が耽美耽美と騒ぐわけである。
「汝、暗転入滅せよ!」
「酷!」
横島の訳のわからない攻撃で昇天するピート。長いあいだ御苦労様でした。
「あ、もう終わりか」
昼休み終了のチャイムが鳴り響く。土曜日は半日で終了の為、横島たちは帰りの仕度をした。用事も無いのに残っていたのは勿論ピートが集める飯の為であり、一人学校に残る少女の為でもあった。
「き、来たのは良いのですけど」
放課後、弓かおりは横島の通う名称不明高校にやって来ていた。思えばよく勢いだけでここまで来てしまったものだ。改めて考える。目的は横島に会い、文珠を返す事。そして知っているならずっと休んでいるキヌの事を尋ねる。
「別にやましい事もおかしな事もありませんですわよね?」
女子校通いのかおりには、共学の学校の空気はとても緊張するものだった。しかも用事が男性を尋ねてきたというものだからと緊張は増す。
「しかし、ここで引く事は許されません」
横島に暴行を加え、逆に優しく手当てされたあの日、当然の様に帰宅が遅れたかおりは厳格な父に咎められた。嘘はつきたくなかったのだが、かおりは怪我をしたところを青年い助けられたと父に報告した。無言でかおりの話を聞いていた父は彼女が握り締めている文珠について尋ねた。借り受けたと言ったかおりに父がした文珠の説明は彼女が思っていた通りのものだった。稀少で高価、簡単に人に譲るような物ではない。文殊とはそういうものだと。
「その男の名はなんと言う」
「横島さん! 横島
その、ただおさんです」
「そうか。しっかりと礼をするのだぞ」
「はい。わかっております」
横島忠夫。先日から沈みがちで心配していた娘をそいつは救ってくれたみたいだ。何やら隠し事もあるようだがここは追求しまい。元気な笑顔を見せてくれるだけでもよしとしたかおりの父。
「後はそいつがかおりに相応しいかどうか、ふむ、面白くなってきた」
父がなにやら画策している事は知らず、しかしその父から横島に礼を尽す事を言われたかおりはここで引く事を許されていなかった。
「さぁ、勇気を出すのですかおり!」
校門でブツブツ言ったり、顔色を赤とか青とかに変えたりしている他校の女学生を不審がる学生達。そんな不審者を、ある理由である生徒が現れるのを待っていた少女、花戸小鳩は見逃す事が出来ず声をかけたのだった。
「あの、何かご用でしょうか?」
「え? その、人を尋ねてきたのですが」
自分に話しかけてきた小鳩に対し、かおりは親切な人もいるもんだと素直に応対した。
「もしかして、横島さんですか?」
「はい。 え? なんでわかりましたの!? まさか、新手の能力者!」
数日前に何らかのショックを受けて倒れかけていた少女の事を、小鳩は忘れていなかった。その時の彼女の反応から、小鳩はかおりが横島の件で色々あったのだと察していた。
「違いますよ。私、あなたに会ったことあるんですけど。やはり覚えていませんか」
小鳩の言葉に該当する記憶を思い出せないかおり。
「ほら、公園で。もう体調は良いみたいですね」
「公園? あ! あの時の。あの時は申し訳ございませんでした。折角のご好意を無視するような態度をとってしまって。改めてあの時の礼をさせてもらいわすわ。本当にありがとうございました」
やっとその記憶に思い至り、かおりは小鳩に深々と頭を下げた。
「そんな! 気にしないでください。結局私は何も出来なかったんだし、ね?」
「いえ、正しく礼を受けたならこちらも正しく礼を返す。当然の事です」
『えらい真面目な女やのう』
「え!?」
小鳩を守護する福の神の貧ちゃんが、ヤレヤレだぜっといった感じで小鳩の背後から現れた。いくら緊張して気が回らなかったとはいえ、その存在に気がつかなかった事にかおりは驚く。
『最近じゃ珍しいタイプやな。ワイは福の神の貧っちゅうもんや。よろしゅうな』
「あ、はい。私、弓家の長女、かおりと申します。知らぬ事とはいえご無礼を働いた事、ひらにご容赦頂きたく」
『あ〜 、ええ、ええ。そんな硬くならんといて。それでな、横島のボンに用があるんやろ?』
仏を奉る家に生まれたかおりは貧ちゃんにも最大の敬意をはらおうとしたが、ケツの穴まで痒くなるとそれを止めさせた。そして改めてかおりに最初の用件を尋ねた。
「はい。その」
「あ! ごめんなさい。申遅れました。私は花戸小鳩といいます。小鳩とお呼びください」
「はい。その、横島さんとはお知り合いなのですか?」
「そうですよ。横島さんならもうすぐここを通ると思いますから、暫くここで待っていれば会えますよ」
「そうですか。どうもありがとうございます」
急に訪れる沈黙。二人の少女が校門の前にただ静かに。
「あの」
「なんでしょう?」
先に沈黙に絶えきれなくなったのはかおりだった。
「横島さんってどんな人なのでしょう」
自分の持っていた先入観。それを全て払うようなあの時の彼。横島の知人なら、彼の事をどう思っているのか、どう言う人物なのかを聞いてみるのも良いと思い、さり気なく小鳩に尋ねてみた。
「横島さん、ですか」
小鳩にとって横島は最愛の男性である。これの良さを理解し、彼と共に歩めるという自信はある。彼の良さを理解できる人間である事を誇りにすら思っていた。ここでかおりに適当な事を言う事も出来る。だが、それは小鳩自身が許さなかった。
「はい、不躾ではあるとは思いますが、良かったらお教え貰えないでしょうか」
かおりの態度は真剣そのものだった。ならば自分もそれに答えなければならない。正々堂々、彼女と勝負する為に。
「横島さんの事を説明するより、私とあの人の事を話したほうが良いみたいですね」
「何故ですか?」
「私の話から弓さんが自分で彼の事を判断してください」
「宜しいのですか?」
小鳩の態度から、それが世間話の類などではなく、とても大切な話しだと伺える。その事をあってまも無い他人の自分に話して良いのかと尋る。
「ええ。私と横島さんは」
瞳を閉じ、ゆっくりとその時の事を思い出しながら小鳩は語り出した。
「私と横島さんは、結婚した事があるんですよ」
「え?」
唐突な台詞だった。結婚。最初は無意識にそれを理解する事をかおりの脳は拒んだのだが、小鳩の話はゆっくりと進むうちに納得し、理解していった。
「貧ちゃんがまだ貧乏神だった頃」
親族の業を背負い、貧乏神の厄にみまわれていた頃の話。お金が無く、学校にも通えず。病気の母を持ち、その日の食事にもありつけなかった日々。そんな時に手を差し伸べ、自分の為に尽してくれた人が現れた。
「それが横島さん?」
「はい」
自分の為に貧乏神を祓おうとしてくれた事から事態はさらにおかしくなっていった。その結果、プロのアドバイスで横島と婚姻を結び、縁を結んだ。
「そうだったのですか」
「そうなんです。まだ横島さんが必要な年齢に達してなかたんで正規のものではないんですけどね」
そこに美神が絡んでややこしい事になり、結果として横島と美神が結婚する事になった。
「えええ!! 美神お姉様と横島さんが! そんな、そんなぁ」
「いえ、私と一緒で真似事ですよ。そう、真似事だったんです」
貧乏神を祓う方法がわかり、横島がそれを行う事になった。それは大変な試練であり、成功する確率はとても低かったという。しかし、横島はそれを成し遂げ、貧乏神は表裏一体である福の神へと生まれ変わったのだった。
「こうして私は学校に通えるようにもなり、幸せに暮らす事が出きるようになったんです」
「そんな事が」
貧乏神を祓うという事の大変さは理解できる。それは父から習った事があるからだ。しかし、それが大変だという事を知っているだけで、実際はどういうものかはわからない。今わかるのは、横島が小鳩の為に偉業を成し遂げたという事だけだ。
「あ、ごめんなさい。私用事があるんでこの辺で失礼しますね」
「こちらこそお引止めして申し訳ございませんでした」
突然、小鳩はかおりに別れを告げこの場を立ち去った。
「では」
「ごきげんよう」
校門を抜け、自分の姿がかおりから隠れると同時に小鳩は走り出した。
『なぁ、いいんか?』
「うん、大丈夫」
ある程度走った後、小鳩は呼吸を整えながらゆっくりと歩き出した。
『何が大丈夫や。ライバル増やしてどうすんねん』
「貧ちゃんあのね、あの時さ、もしも美神さんが貧ちゃんに攻撃しなければ」
何度も考え、何度も思い描いた『もしも』
「私はまだ横島さんの奥さんだったのかな」
『小鳩、銭の花は血のように赤いっていうか、その』
「平気よ貧ちゃん。まだ諦めたわけじゃないもの」
心配する貧ちゃんに力強く微笑み、小鳩はバイト先に向かってもう一度駆け出した。
「あれぁ? 弓さんじゃないか。どうしたのこんな所で?」
小鳩が居なくなって直ぐ、横島はかおりの前に現れた。
「あ、あの、こんにちは! 良い天気ですわね」
「そ、そうか?」
どんより雲が空をおおっていた。
「ぐ、偶然ですわね」
「偶然なの? そりゃそうだよな。うちの学校になんかあったの?」
偶然なわけなかった。
「それよりも! それよりも、その、このあいだはすいませんでした。あのような事が許されるとは思っておりません。どのような処罰も受ける覚悟です」
「へ? なにを急にそんな!」
唐突過ぎた。
「それと、その、お借りした文珠を返しに参りました」
「本当に返しに来たんだ。あの時も言ったけどそれは弓さんにあげた物だし」
やっと本題に入れた。
「そういうわけにはまいりません。これでも私は六道女学院で学ぶ身、物の価値は理解しているつもりです。ただであのような貴重な品物を頂くわけにはいきません」
「参ったな。ただでって事はなにか俺にしてくれれば受け取る気はあるって事?」
「ま! まぁ、私が出来る事ならなんでもしますわ。勿論、怪我の治療のお礼を兼ねてですけど」
礼をするにも高飛車だった。
「いいの! ならデートしてとかもあり!? そのあと熱い夜を一緒に過ごすとか!」
「で、デートですって!」
デート 逢引き 熱い夜 二人っきり 若い男女 迸る熱いパトス 想い出を裏切るなら いやん
「いや、冗談! そんな怖い顔しないで! 美人が台無しだって! ゴメン! だからぶたないで!」
重なる影 重なる唇 重なる身体 愛の繋がり かおりよ神話になれ
「弓さん! 弓さん!」
「はへ?」
「はへってアンタ、どうしたの急に」
マヌケな顔で呆けて居たかおりの肩を横島が必至で揺すっていた。その結果、かおりはやっと正気を取り戻したのだった。
「いえ、その、そういう事はちゃんと準備とか段階とか儀式とか契約とかそういう事をしっかりと踏まえ、真剣に考え悩み、一撃必殺の心構えを持ってですね!」
「そんな必至にならんでも。真面目なんだな弓さんは」
遠回しに否定されていると思い、横島は何時もの事だと苦笑した。
「当然です! こういう事はしっかりとですね!」
「冗談だって。そんなムキなられるとへこむわ、ほんま」
「いえ、そんな! そういった意味じゃなくてその!」
腕をブンブン振って全身で否定しているのでは無いと表現してみた。
「馴れてるから気にせんといて。むしろフォローされた方が惨めや。そういや気になってたんだけどちょっと文珠見せてくれないかな」
「え? あ、はい!」
話題を変える為、横島は少し気になっていた事を調べる事にした。横島の目の前で制服の胸元を緩め、そこからお守りを取り出す。少しだけ見える胸の谷間に横島は喜んだりした。
「はい! これです」
緊張の為そんな獣の様子気づく事も無く、かおりは文珠を取りだし横島に渡した。
「ええもん見た〜 は! そうじゃなくってさ! 悪いね。おお〜」
受け取った文珠を横島はじっと見つめ、暫く観察してからまたそれをかおりに返した。
「いやさ、効果を発揮させてからこんなに持続する文珠って初めてでさ。自分でも驚いちゃったよ」
「そうなんですか。怪我のほうは受け取ったその日の晩のうちに回復しまして。その時以外は余り使って無いからと思います」
たまに心の安らぎを与えてくれていました、とは説明できようもなかった。
「へぇ、俺も成長してんだな。そうだな、少し心配だから新しいのと交換しとこうか」
「え? いや! こっち! これが良いんです! 私はこっちのほうが!」
新しい文殊と交換すると言う申し出にかおりは困惑、当惑し、大事な絆が失われないよう必至に訴えた。
「わかったよ。じゃ、それは弓さんが持っててな」
「はい!」
「じゃ、悪いけど俺行くところがあるから」
用件が済んだと判断し、横島は予定していた事を成す為にかおりに別れを告げた。
「そ、その前に一つ尋ねたい事があるんです!」
「なに? スリーサイズは秘密。恋人は常に募集中! 好きな笑いは関西系で。最近は関東のうどんも捨てたもんじゃないと見直してる。あ、おでんに昆布はアレだな、出汁が他の具に付いてせっかくの出汁が」
「氷室さん! その、氷室さんがずっと学校をお休みしているので、一緒に働いている横島さんは何か存じていないかと、その」
ついでのような形でキヌの事を尋ねる事になった事を少し後悔する。
「あ、じつは俺、これからおキヌちゃんの様子を見に行くつもりだったんだ。よかったら一緒に行くか?」
「はい! 是非に!」
願っても無い申し出であった。
「じゃ、行こか」
「はい!」
つづく
親知らずを抜く。記憶では親知らずが生えているのはオールドタイプの証だという。と、いう事は! それを抜いた今の私は次の世代に辿り着いたという事なのだろうか!? ま、とにかく痛いヨ(挨拶)
ども、天戸です。なんかもう、前半の会話って必要あるのでしょうか? 日常とそれを取り巻く人間模様を描かないとそれが崩れて行くのを実感できないとか思って…… はい、言い訳でした。
さて、前回のレス返しです。
>武者丸様
はい、私も投稿するまで気が付きませんでした。『続きを投稿』を選ぶとハンドルも引き継いでくれるので訂正するのも面倒とか思っている秘密。少しづつでも話が進むように祈っててください。直ぐ脱線しちゃうのです。
>九尾様
おキヌちゃんがなにを考えているかは次回以降で。この話では弓嬢と雪之丞は友達以上、恋人未満って感じで。キスどころか手を繋いだ事も無いって仲でして。話がもう少し進んでいたら(パピオラあたり)この話も展開が変わったかも。
>紅蓮様
そ〜んな〜 なんか以前も同じ失敗をした事があるかも。まだまだヘタレで申し訳ないです。
>disraff様
まったりといきましょう。オジャ!
>初(略)様
壊れマークは壊れの話を読んでもらおうと思っているときに使ってました。今回の場合は壊れは話のメインではないので使わなかったという訳です。壊れ目的で読まれても肩透かしをくわせる事になりますし。と、言うのが私の基準です。正確な指針があるのなら直ぐに訂正します。んでもって今回もノーパン。
>司様
清純派? あ、私の事か。やはりおキヌちゃんの事は次回以降で。タイガーの登場で馬鹿漫才はさらに長くなってしまいました。どうしましょう。こいつ等の馬鹿話だけで話を切り分けるべき?
>偽バルタン様
じつはすでに出来あがっているこの話。どう考えてもおキヌちゃんが貧乏籤っ惹を引いてます。可哀想に。雪之丞のフォローと甲斐性がどう言う結果をもたらすのか? 場合によっては新しく書き直すかも。
>槍持ち奴様
そっか! 動物プレイか! くぅ、シロが居ないのは何故なんだ! 本当に原作時に何所に居たんでしょ? みんな幸せになりたくて足掻くんです。でも足掻いて余計に沈むのも世の常でして。そういう時はどうするべきか? 助けを求める=誰に?
>MAGIふぁ様
くふぅ! 痛い所を突かれました。なんというか、テレビドラマの目まぐるしく場面が変わるさまを表現しようとしたのですが、上手く出来なかったようです。体調は常に悪いですよ。カモン、ドナー!
>TF様
人生を坂道を下るが如くってアレですね。コロコロ〜 それにしても不思議です。私が書くと好きなキャラほど奇行に走る。今更ピートが真面目な発言しても説得力無いしなぁ。そうだ! あれは父親の変装だったとか? ムリッポ。