警告 このお話はNTRと呼ばれるジャンルになります 注意
自分が不幸な時に笑ってるヤツってむかつかない?
むかつく! でもさ、それってただの嫉妬だよね
第三話
「えー! 横島さん来ないんですか」
「そーよ。言ったでしょ? 今回のターゲットは色霊だって。しかも女性の」
美神令子の運転する自動車の助手席で、彼女のアシスタントの氷室キヌが声をあげた。
「でもでも! 私、凄く不安なんですけど」
キヌは横島が学校の単位が足りないと悩んでいることを聞かされていた。だから1度学校に言った横島が後で合流するものと信じて疑わなかったのだ。
「あのね、あんな見習がいなくっても私がいるじゃないの。それともなに? 私じゃあてにならないって?」
「そんなわけじゃ!」
美神は台詞こそきついもの、その表情は穏やかであった。
「ならがんばりなさい。大丈夫、おキヌちゃんは対悪霊怨霊、魑魅魍魎のエキスパートなのよ? それにね、ここだけの話、なにがどうであれ横島クンは連れてくるわけにはいかないのよ」
「なんでです?」
「色霊よ、色霊! つまりはエロ霊! 被害者はみんな男性! 生気吸われてスッカラカンって事なの」
「エロってそんな露骨な」
美神の表現に冷や汗をかくキヌ。
「依頼主は敷上温泉組合。そこの温泉地に現れるようになったってのがエロ霊。綺麗な女性が突然現れてエッチな事させてくれる。しかし、その正体は色霊で被害者は性交を介してその生気を吸い取られる」
「あは、あははは、性交ですか」
美神の説明の内容を想像しようとし、しかしそれが上手くいかずにいるキヌ。エロとか性交とかそういった単語が妙に頭に残る。
「私より先に男性のGSが除霊にあたったそうだけど、その馬鹿、生気といっしょに霊気まで吸収されてポックリ。で、エロ霊パワーアップってわけよ」
「横島さんを連れて来れる筈ないですね」
間違い無く横島がいたらその霊に誘惑されるだろう。そして生気と霊気を吸収される。間違い無い。美神もキヌもその考えは一致していた。
「で、改めて女性の強力な悪霊払いが必要になったってね。おキヌちゃん、あなたの事だからね」
「はい! ってえええ! 強力ってそんな、私なんてまだ新米のひよっこのどじでマヌケなニンジャなタートルで!」
いまだに自分が美神達の足手まといになってないかと不安になるキヌ。折角ある事件で横島に払ってもらったそんな不安も、後の出来事で帳消しになっていたりする。
「だから私も一緒に居るんだって。横島クンが今回来ない理由は納得できた?」
「はい。それはもう! でも横島さんならその霊を逆に襲っちゃいそうなんですけどね」
自分が幽霊だったとき横島は襲ってきたんだ。そんな初めての出会いのエピソードをキヌは思い出す。あの時は必死で逃げたんだ。正直怖かった、と。
「有得るから怖いのよ。ここ最近アイツの物の怪の惹き寄せ率が高すぎない? 良く考えたら乙姫の時って完璧にアイツの巻き添え、とばっちりじゃない」
夏の事件、横島に浦島太郎との思いを重ねた乙姫に監禁された事件の事だ。
「あの人、本当に横島さんの事好きだったのでしょうか?」
「さあ? 良く似た他人に思い出の人を重ねる、な〜んてのはありがちだし。まさか本当に横島クンが浦島太郎の生まれ変わりって事も、ね」
乙姫が生まれ変わりを信じてずっと横島の事を待っていた。そう仮定するとこれは悲恋ではないだろうか? キヌは牢で乙姫の被害者を見た。多分横島以外の男性も同じようにさらわれ閉じ込められていたのだろう。しかし、それでも乙姫は横島、いや浦島の事をあきらめてはいなかった。
「生まれ変わっても相手を好きでい続けるって凄いですね」
キヌは自分が幽霊のときの記憶を一時期だが無くしていた。しかし今現在、横島への思いをそのままにいられる奇跡に感謝したい、そう思っていた。想い出を無くし、なにも知らずに生活していたあの時のいかに空虚な事か。
「そうでもないわよ。私ならゴメンだわ!」
平安時代から続く魂の絆。そんなものが自分と横島にある事を知った美神は、キヌのようには考えられなかった。昔は昔、今は今。横島はバイトで部下で丁稚で、そしてすこし認め難いが良いパートナー。今はそれだけだし、それだけで十分だ。
「そうですか」
「そうよ。とにかく今回はおキヌちゃんのネクロマンシーの技でぱぱっと終わらせちゃうのよ! で、美味しいもの食べて温泉入ってお酒飲んで! さ、そうと決まったら飛ばすわよ!」
今は、それだけで。
はぁ、そんな息を吹きかけないでぇ。んん! うん、そう強く抱きしめて。あぅぅ、あ! そんなキスなんてぇ、みんな見てるのにぃ。
「横島さん、もう、横島さん! ホームルームくらい起きててくださいよ。もうみんな帰っちゃってますよ」
「んあ? もうそんな時間か。なんかすげー良い夢見てた気が」
寝ぼけた頭をムクリと上げ、教室の正面にかかった時計を確認する。そして1度大きな欠伸をした後、横島はゆっくりと覚醒していった。
『いやん、いやん』
「ってわりい。机にヨダレ垂らしてた」
自分のヨダレでベトベトの机をハンカチで拭う。机妖怪愛子がなにやら悶えていたが、まぁそれはいつもの事なので気にしない。
「じゃ、僕も帰りますんで。また明日」
確か今日はピートは用事があると飯時に言っていた。それでも律儀に横島の事を起してから帰るのだからうん、友情とは素晴らしい。
『誰も居ない放課後の教室に愛し合う男女の影。夕日に浮ぶそのたそかれぞ? 青春ってこういう事を言うのね〜』
時々妄言に近い事を唄いだす愛子にビビリつつも、横島は翌日も学校にやって来る事を彼女に約束し、一人下校して行った。愛子はその横島の影が校門の向うに消えて行っても、しばらく窓の外を見つめ続けていた。
『やっぱ難しいものね』
妖怪、物の怪の愛情というものは人間のそれよりも純粋である事が多い。それは見返りすら求めない時もあるものだったりする。あってもそれはただ傍にというもの。生まれが器物、モノであるのなら尚更だろう。それの至福は使われる事であり、傍にいられる事なのだ。即ち、付くも神が求めるは縁也。では、より人間に近い価値観を持つ彼女はどうなのだろう?
『わかんない。でも、それが青春ってものじゃない?』
ふと、気が付いたら、弓かおりは昨日と同じ公園に居た。
「なん で?」
氷室キヌはいない。だが、伊達雪之丞はどうだろうか。どんな理由があり、いやどんな理由がそこにあるにせよ、このまま泣き寝入るように身を引くのはプライドが許さない。とにかく雪之丞を1発ぶん殴ってスッキリしたいのだ。そうだ、自分には悲劇のヒロインなんて似合うはずもない。
「そうよ、ええそうよ!」
しかし、足がこれ以上先に進まない。後ほんの数メートル先にあるアパートまでの距離をかおりは進む事が出来ない。この公園までこれたのだって奇跡だ。しかし怒りと激情に任せて来れたのはここまでだった、という事か。
「もう、こんな時間」
日も暮れ、辺りから人の流れも消えて行く。それがまるで自分だけが周りから切り離され、置いて行かれてしまうような錯覚を助長している。そんな事をぼおっと考えていた。
横島がそんな彼女を見付けたのは偶然だった。人のいない公園、夕闇に浮ぶ見覚えのある学生服。あれは六道女子の制服ではないか。ベンチに座って動かない少女を良く見てみれば、その顔には見覚えがあった。
「おキヌちゃんの友達の娘じゃないか」
去年、あのアクシデントだらけだったクリスマスパーティーであった事がある。ピートの野郎のせいでって、あれ? あのときピートっていたっけ? いたよな? うん、いた。とにかく、横島自身は彼女とあまり親しくした事はない。友達の友達、顔と名前を知っている程度の仲だ。
「ま、美人をほっとく事もできんが」
横島から見て、弓の状況はあまり良いものではなかった。こんな公園で一人待ちぼうけ。キヌでも探しているのだろうか? こうして横島は珍しくも下心もなくかおりに近づいて行った。
「お嬢さん、こんな所で一人でどうしましたか? とにかくここは冷えます。良かったらそこらの喫茶店でお茶でもご一緒しませんか」
改心の出来だったと思う。下心なんて欠片も見せない最高の一時接触だと、横島は手応えを感じていた。
「結構です」
が、かおりの対応は横島が普段通りに受けるものだった。忠夫君ショック。
「いや、その俺だよ、弓さん、美神さんとこの横島忠夫。えっと、覚えてます、よね?」
不安だったので美神の名前を出してみる。これで忘れてっていうか最初から覚えられていなかったらさらにショック。
「横島、さん? ああ、横島さん」
かおりも別に横島の事を忘れていたわけではない。こんなインパクトの強い人間を簡単に忘れる事も出来ない。が、今思っていることはそんな事ではなかった。横島忠夫。氷室キヌの彼氏。
「貴方が」
氷室キヌ。伊達雪之丞の本当の彼女。
「横島さん、貴方が」
弓かおり。ふられナオン。
「俺が?」
「貴方がもっと、ちゃんと氷室さんの事を愛していれば! 私が、私が!」
理不尽、わかってる。百も承知。しかし、私がこんなに辛く悲しいのに
「貴方が! 貴方が! 貴方が!」
同じようにふられているはずのこの人は、なんて穏やかな顔をしているんだ! なんで自分と同じような絶望を味わっていないんだ!
「ちょっと、痛いって! グーは止めて! ぐばぁ!」
自分と同じ苦しみを味わってる筈が何故? 私だけ? 私だけが何故!?
「ぐるば! べきゅう! ひぐま!」
泣きながら横島に拳をふるうかおり。子供の頃から父親に教わっている格闘術が冴え渡る。踊る様にずたぼろになっていく横島。女性からの理不尽な暴力になれてしまっている彼は、取敢えずなされるがままに殴られ続けていた。
「すんません! かんべんしてくだグどぅバアア いたくああ!」
声にならない声をあげ、型も何も無いでたらめな暴力をふるい続けるかおり。ふと、横島はその変化に気が付き、見た事も無い表情の女性をどう止めるべきか悩む。が、それが休むに似たりと気がつき、とにかく行動に出る事にした。
「ちょっと待てよ! いい加減にしろ!」
そういって横島は無造作に振り下ろされるかおりの腕を掴む。
「離しなさい!」
「出来るかあほんだら! 自分の手をよう見てみい! ベコベコやないか」
かおりの手は腫れあがりボロボロの状態になっていた。殴られていたはずの横島は、その妖怪じみた頑強さでケロッとしてるのがどうにも。凶器を使った美神の折檻のほうがよほど極悪だし。
「貴方頭がおかしいんじゃありあません!? なんでこの状況で私の心配が出来るんです!」
「うるせー!」
「ひぅ!」
「良いから手を出せ。ったく、これ骨にいっちゃってるんじゃねえか?」
横島にこのように怒鳴られるとは思っていなかったかおり。思わず言われるがままにその血塗れの両手を差し出した。
「痛い! 何するんです」
「治療の真似事だ。普段から理不尽な暴力を受けてるからな。包帯ぐらい常備しとる」
制服のポケットから取り出したテープと包帯を使い、かおりの手を固定して行く。
「おキヌちゃんならもっと上手くできるんだけどな」
横島の出したおキヌという言葉にビクっと震えるかおり。その様子から、珍しく横島は彼女がキヌとの間になにか問題を抱えているのだと察した。本当に珍しい事だが。
「貴方もしかして」
「なに?」
ここに来て、かおりは横島がなにも知らないという考えに思い至った。何も知らないから優しく出来る。何も知らないから。
「なんでも、ありません。 聞かないんですか?」
「なにを」
「なんで私が貴方をその、あの」
自分を攻撃した理由を聞けとは、なんと滑稽な事か。これではまるで、かまって欲しくてかんしゃくを起した子供見たいではないか。そう思い至り、羞恥で顔を顰める。
「むしゃくしゃしてやった。相手は誰でも良かった。今は反省している。だろ?」
苦笑を浮かべる横島。その言いぐさだと私が少年犯罪を犯したみたいではないか。あ、もしかしなくてもこれって傷害罪だ。
「確かに、反省しています。ご、ごめんなさい」
「相手が俺だから良かったもの、っていうのもなんだが、ま、こんなもんか」
かおりの手のひらはテーピングで固定されていた。変に動かささない為の処置だろう。
「今は麻痺してるみたいだけど、直に激痛が来るぞ」
「本当に、申し訳ありません。でも何故? 何故ここまでしてくれるのです」
同情? 彼は私の事情など知らない。彼は私が憎くないのか? 私は彼の事が
「なんでって、そりゃさ、最初から弓さんが心配で声をかけたんだし。ちょっと不用意かなって今じゃ思うけどさ」
「心配? 私が」
彼の事を、私は何故憎んでいたんだ? わかっている。ただのやつあたりだったのだ。自分以外の人間がすべて幸せそうに見えて妬ましかったんだ。とにかく理由と敵を作って汚れた心をどうにかしたかったのだ。
「だってなぁ、一人で暗いトコで沈みこんでんだ、ほっとけるわけないだろ」
実際、そんな深い理由で横島が彼女に接触したわけではない。が、知人がどうにかなっていて、それをほっとく事ができなかっただけだ。
「お人よし、ですのね」
「お人よしついでにさ、やるからこれ持ってきな」
そう言って横島は【癒】という文字の浮んだ綺麗な珠をかおりに寄越した。
「これって文珠! そんな、ダメです貰えません」
多少なりとも知識がある霊能力者であれば知っている文珠。最近、一人の使い手の出現でその認知度が上がっているわけだが。
「気にすんな。元手無しのタダみたいなもんなんだ。ああ〜出力を抑えて効果時間を延ばしたから。しばらく握ってろな。こう、手を合わす感じでさ」
使い手の認識と周りの認識のずれ。元々オカルトアイテムは恐ろしく高価であり、文珠もその例に漏れないはずだ。
「こう、ですか」
そう言ってかおりは、手のひらに文珠を乗せ、その上に片方の手を重ねた。
「うわぁ、気持ち良い」
ゆっくりと浸透していくヒーリング効果が、痛み出した手を癒しだす。
「もう無茶すんじゃねーぞ」
自分にたいして向けられた優しい微笑み。それが今は、嬉しくて、恥ずかしくて、そして
「ご、ごめんなさ、う、うぅ うぐ、んぐ、ごめん」
悲しくて
「ってなんで泣く! ちょっと、ねえ!」
どうしても止まらない涙を抑えようと、かおりは両手で文珠を胸に当て、ゆっくりと呼吸を整える。
「あたたかい」
「じゃ、ちゃんと帰れよ」
「わかってます。あの、私が人前で涙を見せるなんて、そんな事本当は有得ないんですからね。わかってますか」
「誰にも言わないって、じゃあな」
暫くのち、横島はかおりを駅まで送って行った。冷静さを取り戻したかおりは、それなりに必至に非礼を詫び、そして見せてしまった醜態を忘れることを強要した。
改札口をぬけ、かおりが見えなくなってやっと安心したのか横島は小さくため息をついた。
「美神さんが年下だったらあんな感じなのかな?」
自分があの少女をほっとけなかった理由、それををなんとなしに考えながら、彼も帰路についていった。
「横島さん、か」
思えば自分はどうかしていた。彼の事もそうだが、今回は自分で勝手に想像し、勝手に暴走して傷ついて、酷い事して。今までの自分では考えられない愚かさだ。これが恋は盲目とか言われる現象なのだろうか。けっきょく横島にはなにも話していない。そうだ、相談してみよう。キヌの事、雪之丞の事。誤解なら誤解とちゃんとそれを解かなくては。そうしよう。そのためにまた彼に会ってみよう。
手のひらの文珠があたたかい。
「これも返さなくてはいけませんしね」
でも、返すまでは私をあたためていてほしい。かおりはもう1度それを胸に当て、安らぎを求め、感じていた。
一方その頃
「決めるぜ! 必殺交差法! GSクロスカウンター!」
「るっぱっぱー! かっぱっぱー!」
遠野の森と呼ばれるその場所で、雪之丞は身の丈七尺一寸はある巨大な河童と肉弾戦をしていた。
「てめえ、やるな?」
「にやり」
救助者とか天狗とかはどうした?
つづく
暴力反対! 痛いのはいやん(挨拶)
ども天戸です。何故か80年代テイストになってしまいました。なんか弓がとても駄目な娘みたいに書かれてますね。キャラの改悪良くない。女性キャラの白痴化も避けたいものです。
さて前回のレス返しです。
>田辺様
うっす、天戸なアマドです。うん、たいして変わりませんね。この話では今までと作風をガラっと変えてみました。意欲作とか自分で言ってみる。でも痛モノ。ハーレムでみんなハッピー、とはいきません。どうする愛子!? ん? 何故に愛子?
>九尾様
愛子が優遇されるのはそこに位置的な差別があるから。愛子スキーとしては当然ですか? 弁当の件は原作で横島に食べられると知っていてもピートに弁当を渡すってエピソードの裏読みです。邪推です。妄想ともいう。
>紅蓮様
やつあたり気味な弓嬢に萎えって所でしょうか。困った娘です。嘘です、ゴメンナサイ。クラスメート、べつに狙ってるというか下心があるというかそういう風な空気は薄いものと思ってください。ラブよりライク。
>司様
丸くデスカ? 難しいですねぇ。この年頃の少年少女が傷ついて傷つけて傷つけられてってのがテーマにある限り。何所かで誰かが我慢しなくちゃいけないものですし。なんて話書いてんでしょうね、まったく。
柳野雫様
>えっと、お久しぶりです。アマド金閣デス。結局横ちんはモテているって事で。それを本人が自覚できないほど自然に。そう、男にも漢にも女にも! 彼の心を掴むのは誰? 現在ピートが一歩リード。すぐ後に雪之丞。出番を待つアシュタロスにも目が離せない。
>矢沢様
気が利いたことは出来ませんでしたが、横島なりに頑張りました。なるべく女の友情のドロドロさ、しかも男が絡んだ物、は控えたいって理由で魔理の出番が減っています。タイガーもその巻き沿い。
>>林檎
だから意味はありませんって。当りですけど