「狐だ……。」
地獄(横島主観)の事務所勤めが今日も終わり、自宅へ帰る途中に見つけたそれ。道端でうずくまるそれを見つけた横島の一言だ。
「何で?……ん、怪我してるな。見つけちゃったし、これもなんかの縁だろ。」
と、怪我をしてうずくまる狐を抱えるとそのまま自宅へ向かった。
自宅へ着いてから足の傷の手当を施すと、「やっぱ、狐には油揚げだろ。」と、帰る途中に買ってきた油揚げを狐に食わしてやった。
「んじゃ、明日も仕事があるし寝るか。」
と誰に言うわけでもなく呟くと、布団を敷いてもぐりこんだ。そこに油揚げを食べ終えた狐ももぐりこんで来る。
「お?ああ、お前も一緒に眠るか?」
横島はそう言うと、その狐を抱え込んだ。狐は少し恥ずかしそうな嬉しそうな顔をしてそのまま大人しく、横島に抱かれていた。
「それじゃ、お休み。」
そんな狐に声をかけると眠りに着いた。
それが、自分にとっての新しい恐怖の始まりだと言う事はまったく思いもしなかっただろう。
次の日、出かけようとする横島に構って欲しいのか、離れようとしない狐に苦笑交じりで横島は
「しょうがねえな。お前も一緒に行くか。」
とひょいと狐を抱えると事務所へ向かった。
「おはようございます。」
「おはよう、横島君。」
「おはようございます、横島さん。」
事務所を訪れた横島に二人が挨拶を返す。その時、美神が横島が何か抱えているのに気がついた。
「何?横島君、それ。」
美神の問いに横島は苦笑交じりに答えた。
「実は昨日の帰りに拾ったんですけど、今朝出掛ける時に中々離れてくれなくて。んで、仕方ないんで一緒に来たってわけです。」
「そう……ん?何か、その狐から霊気を感じるわね。」
横島の話を聞きながら狐に目を向けると微かに狐から霊気を感じ取る事が出来た。そこで美神は
「とりあえず、その狐を洗ってからこっちに持ってきて。」
昨日、横島は自宅についてから狐を洗ってはいない。
「確かに、少し汚れてますね。シャワー借りますね。」
横島は狐を抱えたままバスルームへ向かおうとする。すると急に腕の中の狐が暴れだした。
「な、なんだ!?こら、暴れるな。汚ぇから綺麗にすんだよ!」
暴れる狐を逃げ出さないように、抱き締めながら再びバスルームへと向かった。その光景を見ていた二人。共通の思いに駆られていた。
((なんでだろう。あの狐がすごーく、うらやましく感じてしまうのは。ただの狐なのに。))
まだなお暴れる狐を小脇に抱えて横島はシャワーの準備を行う。
「こら!観念しろぃ!」
そう言いながら、何故かあった動物用シャンプー(何故あったかを考えちゃいけねぇ)を自分の手につけてあわ立てるとシャワーを浴びせた狐を洗い始めた。
「うりゃ!うりゃ!!どうだ?気持ち良いだろ。」
そう言いながら、ワシワシと洗っていく横島。狐も段々大人しくなっていく。
頭、背中、手足、と洗っていきお腹を洗うと狐がピクリと反応する。
「ん?そういえば、動物は腹を触られるのを嫌う事があるって聞いたことがあったな。」
そう呟くとそこは手早く洗って、前足の付け根から胸にかけてを洗いはじめる。すると腹の時よりも過剰な反応を示した。
「あ?なんでそんな反応みせんだ?猫なんかは胸元かいてやると喜ぶけど……って狐か。」
そんな事呟きながら、今度は後ろ足の付け根あたりを洗い始めた。すると狐は再び、横島の手から逃げ出そうとする。
「あ!こら!まだ洗い終わってねぇよ!」
無理やり狐を押さえ込み、また洗い出したときだった。
「もう、勘弁してよ〜!!」
その声と共に、狐が人間の姿になった。年のころなら15〜6歳。乾けばフワッとしそうな金色の髪の毛は今は濡れて体に張り付いている。体もそれなりにメリハリが見える。年の割にはそれ以上の色気も感じる……そんな裸体が横島の目に飛び込んできた。
「うぎゃあああぁぁぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!!」
女の子と横島の絶叫に何事かと美神とおキヌが慌ててバスルームに駆け込んでくる。そこで目に入ったのは濡れた体を隠すようにうずくまる女の子と、ヒクヒクと気を失った横島の姿だった。
「それで……あんた、だれなの。」
バスルームにいきなり現れた女の子は、今はおキヌの洋服を借りて美神の前に座っている。おキヌの服を借りたときその女の子が「胸元が少し苦しい」と呟いたのはご愛嬌。横島はその横のソファに横になっている。今だ覚醒せず。
「私はタマモ。九尾の狐よ。とは言ってもまだ全然霊力は戻っていないけど。ついこの前目が覚めたばかりだから。」
少し、不機嫌なおキヌが更にたずねた。
「それでなんで横島さんと一緒にいたんですか。」
「何故かは解らないけど、目が覚めた時にそこの男の顔が浮かんで会いたくなったから殺生石からここまで歩いてきたの。それで、疲れで気を失ったところを拾ってもらったってわけ。こうして人の姿になれたのは今、そこの男と一緒に寝た時と体を洗ってもらっていた時にその手から霊力を分けてもらったから。」
その時、横島が目を覚ました。
「うう……うわぁあぁ!!」
目を覚ました先にタマモがいたのに驚き、つい声が出てしまった。
「何よ。そんなに驚く事無いじゃない。」
「誰だよ、お前!狐はどこに行った!!」
混乱状態の横島に軽くため息を吐きながら
「そこの人に聞いて。同じ事何度も話すのは好きじゃないわ。」
そこで美神から説明を受ける横島。その顔が見る見るうちに青くなっていく。
(あの狐、妖怪だったのか。いや、そんな事よりもこの俺が女と一緒に寝て、その体を洗ってやった……し、死にそうだ……。)
「それで、あなたはこれからどうしたいの?って言っても貴方ぐらい強い妖怪は、まだ完全に覚醒してはいないとはいえ、おそらくGSの元での保護と言う形になると思うんだけど。」
美神は、横島に説明を行ったあとタマモにたずねた。
「そうね……出来るなら、そこの男……ヨコシマだっけ。その男と一緒に暮らしたいんだけど。彼の霊力をそばで分けて貰いたいし。」
「「ダメ!!」」
美神とおキヌの声がピッタリと一致する。
「あ、いや、その…そ、そうよ!さっき、GSの保護って言ったでしょ!彼はまだGSではないの!だからダメなのよ!」
「そ、そうです!それに一緒に暮らして何かあった時には……。」
「何か?別に私はいいけど。」
タマモの言葉に美神が更に噛み付く。
「だから!そんな事が起きた時のために、GS対応していくのよ!だからGSじゃない横島君の下ではダメなの!」
「あぁ、そっちの事。それは、確かに困るわね。」
タマモが想像した『何か』は青い横島の顔が更に青くなったところから想像して欲しい。無論、おキヌが言った『何か』も同じ事なのだが、美神がうまくすりかえたのだ。
「それじゃ、ミカミだっけ。私を保護してよ。そうすれば、GSの保護って言うのも問題ないし、ここにいればヨコシマのそばを離れることなく霊力分けて貰えるし。」
しかし、新たなる自分の敵と成りかねないタマモを美神は保護したくはない。
「そんな面倒ごとはゴメンよ!他のGS紹介してあげるから。」
そう言う美神にタマモは爆弾を落とす。
「そう。なら良いわよ。私が自分で探すから。……ねぇヨコシマ。私を保護してくれるGSが見つかるまで私泊めてよ。外に出る時は狐の姿で霊力を抑えるから、そう簡単にばれないし。いいでしょ?」
更に青かった横島の顔が青を超えて、死相へと変わっていく。
「わーわーわー!!!解ったわ!解ったわよ!!私が保護するから!させてもらうから!!」
「……別に無理やりしてもらう事ないけど……まぁ、ごねる事でもないし。それじゃ、お願いね。」
タマモは笑顔でそう言った。
(((とりあえずは助かった。)))
三人が一斉にそう心の中で呟いた。もちろん、美神とおキヌの考えと横島の考えが違う事は言うまでもない。そんなタマモが最後に本日一番の爆弾を落とす。
「それじゃ、ヨコシマ。早くGSになって私をもらってよね。私の事抱き締めたり、体中触ったりしたんだからキチンと責任は取ってね。」
横島は再び、気を失った。
(フフフ。理由は解らないけど、ヨコシマとずっと一緒にいたいし。とりあえずはこんなところかしら。)
(タマモって言ったわね。金毛白面九尾の狐……侮れないわ。)
(タマモちゃん……美神さん以上の敵である事は間違いないわね。)
(おい、神様とやら。俺になんの恨みがあるんだ。殺すんなら、ズバッとやってくれ!!)
<キーやん。あんな事言うてるで。>
<恨みなどありませんよ。ましてや殺すなんて、もったいない!>
<せやな。こんなおもろい事、久しぶりやし。たっぷり楽しまな、損やで。>
後書き
タマモ登場。タマモの場合、正確には前世うんぬんではなく前世の横島君がお亡くなりになってから、ずっと休眠状態にいたことになっています。過去の記憶が戻るかどうかはこれから次第です。
次回は霊能力の素質は大きい横島君に霊能力の覚醒の修行の場へ逝って貰います。
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