部屋に帰った横島は布団に顔を埋めながらこれからの事について考えていた。
「とりあえず、霊能力のことは良しとしよう。しかし、もう一つの方は……。」
長い間そんなことを考えていた横島だが、考えた挙句
「考えても仕方がねえ。なるようにしかならんだろう。」
吹っ切れた。
吹っ切れてからの行動は早かった。顔なじみである唐巣神父からGSの事については聞いていた。唐巣自身GSである。横島自身も神より授かった力か、GSの知識があった。
「神父〜。弟子にしてくださいっ!」
部屋から教会まで一直線。第一声がそれだった。横島自身の力は前世の横島忠夫の最盛期の力と同じである。しかし、だからと言って仕事がすぐに出来るわけではない。色々と踏まねばならない手順があるのだ。その一つに『弟子入り』がある。先人GSの下で修行を行い、そのGSの推薦をもって試験を受けて研修を経て初めて、GSと名乗る事が出来るのだ。そのための第一歩、『弟子入り』。しかし、神父は
「すまないな、横島君。ここにおいて置くことは出来ないんだ。」
との返事。皆さんもお分かりの事とは思いですが、ここのGSとしての経営は前世と同じ。真っ赤である。従って人を雇う事など出来はしない。
「しかし、私の弟子だったGSへの推薦状を書いてあげよう。」
そう言って奥へと引っ込んでいった。
(神父は俺の体質を知ってるから、その辺を考慮してくれるだろう。)
と、残念な中にもあまり深く考えずに神父の帰りを待った。その考えがいかに甘いかと言う事を実感するのは、もう少し後。
「たしか、この辺だったと……」
神父に貰った推薦状と地図を頼りに事務所を探す横島。その目に看板が目に入る。
《美神GS事務所》
「あぁ、あれだあれだ……ん?」
事務所を見つけてその扉を開けようとした時、背筋に寒気を感じた横島。
(この寒気は!いやしかし、神父の紹介だ。そんな訳がない!!)
頭によぎった、言わば女性恐怖症におけるニュータイプ的嫌悪感を振り払いながら扉を開いた。次の瞬間、多大な後悔がやってきた。
「いらっしゃい。私がここの責任者の美神令子よ。連絡は先生から聞いてるわ。」
美しい。おそらく百人が百人美しいと答えるだろう。しかし、横島にとってはその美しさも恐怖を倍増させる要因以外の何者でもなかった。
「これが推薦状ね。」
かすかに震える横島の手から美神宛の神父よりの推薦状を受け取りその中身を確認する。そして、
「横島君ね。いいわ、助手として雇うことにするわ。給与とか詳しい事を決めるから、そこに座って。それとこれ、先生からよ。」
今だ動けずにいる横島に席を勧めながら、一通の手紙を差し出す美神。横島は、その手紙を受け取るとソファに座りながら中を確認する。そこにはこう書かれていた。
『横島君。これを機会に女性恐怖症に立ち向かってはどうかね。君もいつまでも逃げてばかりではいけないだろう。私も応援しているよ。』
「よ…余計な事をぉぉぉ。」
美神には聞えないような小声で呟くが、思い直す。
(しかし、敵は一人。何とかしたい体質である事は確かだし……ここは神父に感謝……)
その時だ。
「あれ?お客さんですか?」
と部屋に入ってきたのは、セーラー服姿の黒髪の美少女。美神の溢れ出るような美しさとは対照的な、慎ましやかな美しさを持っていた。しかし、それも横島にとっては(以下略)
「ああ、おキヌちゃん。紹介しとくわ。彼は、今日からこの事務所で助手として勤める事になった横島忠夫君。私の先生からの推薦状付きだから、力のほうは問題なしだと思うわ。横島君、彼女は私が少し前の事件でお世話になった神社の娘さんでGSになりたいって事で、私が預かってるの。」
おキヌは横島のほうを向くとかわいらしい笑顔で言う。
「初めまして、氷室キヌです。これからよろしくお願いします。」
「こ…こちら、こそ……。」
横島も辛うじて笑顔で返したが、予想外の敵の出現に驚きを隠せないでいた。
「それじゃぁ、給与は……基本給が時給5000円で拘束時間が10時間。休暇は月に……」
美神が横島の待遇について事細かに説明に入ったが横島は途中から半分以上意識は無かった。ただ、
(神父……そんなつまらん事に気を回すから、頭があんなになったんだ……。)
等と、筋違いも甚だしい愚痴を心の中で呟いていた。
一方、美神は横島に説明をしながら、別の事を考えていた。
(何だろう。横島君に初めてあった時に感じたこの感じ。絶対に今度は離さないって……今度?初対面のはずなのに……。ううん、そんな事はどうでもいいわ。おキヌちゃんはその内に自分の神社に帰るだろうし、後は残るのは私と横島君だけ。二人でこの事務所を続けてゆくゆくは、夫婦GSとしてやって行く……いやん、夫婦だなんて!まだベッドも共にしていないのに!こうなったら、絶対私のものにして見せるんだから!!……私が横島君の所有物になるって言うのも……ウフフ……。)
顔色一つ変えずに、妄想逞しい美神。
その一方横島にお茶を出すためにキッチンへ向かったおキヌはと言うと……
(横島さんかぁ。何だか知らないけれど……カッコいいって言うか、独り占めしたいって言うか、誰にも渡さないって言うか……はっ!私ったら、まだ抱き締めても貰っていないって言うのに!ゆくゆくは二人で神社で細々とGSをしながら、平和に二人っきりで暮らしましょうね。フフフ……横島さん、浮気は許しませんよ!)
誰も回りにいないのをいい事に、黒いオーラを漂わせながら、妄想にふけるおキヌ。
二つの何かを感じ取った横島はハッと気がついた。
(待てよ。推薦状を貰ったからといって、無理にここに入る必要も無いんだ。「横島君、ここに名前とハンコ押して。」「ハイ、ここですね。」神父には悪いけど、ここは……ん?)
全てに気がついた時は、何もかもが手遅れだった。
「それじゃ、これからよろしくね。ああ、それと契約に違反した場合はきっちりと違反公約に基づいてしてもらいますからね。」
笑顔で言う美神の言葉に慌てて、契約書を読むと
『……以上の契約を両者の合意による退職、雇用者による免職が訪れるまでの期間まで続ける事をここに証明します。尚、この契約に違えた行為を行った場合、雇用者の一方的な命令による罰則事項を科せられることにも、同じく同意します。』
つまりは、美神が辞めさせない限り永久にこの事務所にいる事となる、という事だ。しかも、その下にはしっかり自分の名前とハンコが押してある。待遇については申し分無い。時給5000円、拘束10時間、休暇は予定が入っていなければ前日までに届け出ればOK。GSライセンス取得後は個人で仕事をこなした場合、手取りの20%を事務所に納めて残りは給与に上乗せ。確かに待遇には問題はない。この計算だと、自分の父母の稼ぎをあわせた物ぐらいになる。ライセンス取得後ならば、余裕で越えるだろう。重ねて言う。待遇には何の問題も無い。ただ……職場環境に多大なる問題があるのだ、横島的には。
しかし、それも後の祭り。どう足掻こうとどうする事も出来ない。それは美神の顔を見ればわかる。
(何だろう……この肉食獣を目の前にした草食獣の気持ちは……。)
表情はなんら変わってはいないのだが、絶対逃がさないといった感じをヒシヒシと受ける横島だった。
その時、事務所の扉が再び開いた。
「あら、お客さん?」
「ママ。」
「まだ、いるのかよ!!」
<なんだか、彼女の雰囲気というか性格が前世と正反対ですね。>
<前世のハーレムに唯一、入らなかった人やからねぇ。性格も魂の反動を受けとるんと違うか?>
<その割には、もう一人の方はあまり変わっていませんが……。>
<……それは触れたらアカン……。>
続く
後書き
ハイッ!というわけでっ!前世と同じよう美神さんの元へ勤める事とあいなりました、横島君です。
最後にちょろっと、美智恵さん登場ですが詳しくは次回。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
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