あの、海での騒動から1週間ほどたった。
あのままのんびりした後に帰る予定だったのに、美神さんは海上保安庁の幽霊船狩りに参加することになったと言って俺達を引っ張りまわした。
まあ、その幽霊船狩りもほぼ記憶通りだったし。
見えないから良いだろうって事で呪符爆雷に紛れさせて、文珠をぶち込んでやった。
美神さん達は何か変だと感じていたみたいだが、目の前で起こったおっさん達の殴り合いに乗じてなんとか誤魔化せた。
平穏を乱された事に対してむかついたとはいえ、少しうかつだったな。
帰ってきた後は、あの精霊の壷を今度はおキヌちゃんではなく、俺が見つける事になった。
当たり前な事だが、開けるのなんて真っ平ゴメンだった。
よって、文珠で厳重に封印して川に捨ててやった。
まあ、100年くらい経てば封印も解けるから、そん時にがんばってくれや。
そして、本日は俺の二度目の時間の中で、最大級の試練の一つが訪れようとしていた。
「きょ・・・協同作戦!? まってよ! そんな話聞いてないわよっ!!」
現場で依頼人に仕事についての補足を聞いていた美神さんは、思いっきり引きまくっていた。
まあ、協同作戦の相手が彼女だからな。
「令子ちゃんと一緒にお仕事できるなんて〜。 冥子、とってもうれし〜の〜。」
うーん、マイルド。
あいかわらず、のんびりした空気を身に纏った娘やのー。
「ちぃっ! これを知ってて逃げたのね、唯ちゃんは!」
「それは、疑いすぎでしょう。」
そう、今回の仕事に唯ちゃんは不参加なのだ。
何でも学校の課題で事故が有って、怪我をしてしまった級友達にヒーリングを掛け続けたせいでダウンしたのだと言う。
「さっきから言っている様に、新築マンションなのに建物の相が悪かったらしく、周辺の霊が集まってきて人が住めんのです。 なにしろ千体以上も除霊するわけですし、早急に作業を進めるためにも、お二人で協力していただきたいと思いまして。」
「私が令子ちゃんも呼んだ方がいいって言ったの〜。 お願い〜、いいでしょ〜?」
「同業者は私だけじゃないでしょ!? ほかをあたって、ほかを!」
「令子ちゃんがいいの〜!! 令子ちゃんじゃなきゃイヤ〜!!」
冥子ちゃんが駄々をこね出して話が進まないから、とりあえず話しかけてみた。
「あー、お取り込み中すいませんが、そっちの可愛い人は美神さんのお友達っすか?」
「お友達というか・・・まっ、知り合いよ。」
「ひどお〜い。 お友達じゃないの〜。」
冥子ちゃんはそう言ってから、俺に挨拶してくれた。
「はじめまして〜。 六道冥子です〜。」
「あ、どうも。 俺は、横島忠夫って言います。 ところで、この仕事の後はお暇ですか? よかったら一緒にお茶でもしませんか?」
俺は、唯ちゃんも居ない事だからといきなり冥子ちゃんをナンパしてみた。
すると、
バシュッ バシュッ
いきなり、式神に襲われた。
ちょっと待たんかい!
今回は手すら握っとらんぞ!
「すいません〜、霊の気配でこのコたち殺気立ってるんです〜。 だめですよ〜、あなたたち〜。」
「冥子は式神使いと言って、12匹の鬼を自在に操る能力があるのよ。」
「おおおおおおおおおおおお!!」
んなこといってないで、助けて欲しいんだがな。
こっちとしては。
「〜と、そんなことより令子ちゃん〜一緒にお仕事してよ〜。 でないと〜、わたし〜。」
「わかった!! やる!! やります!!」
「令子ちゃん好き〜♪」
「くすっ なんのかんの言っても、やさしいんですよね。美神さんって。」
「・・・あんたは式神使いの恐ろしさを知らないのよ!!」
十分すぎるくらいに今味わってるから、はよ助けてくれ〜。
つーか、こんな目にあっとる俺を無視して話を進めるなよ。
「横島君。 遊んでないで、とっとと行くわよ。」
ヒドッ! 自分で何とかしろってか。
しゃーない、やるか。
「フンッ!!」
気合を入れると同時に、特殊な呼吸法によって溜めた氣を全身から放出する、武神流の初技〔瀑布〕を使って式神を振りほどいた。
武神流――アシュタロス戦後にとある事情により、再び妙神山に訪れた時に、猿神に教わった武術。
何でも、遙か昔の武人が、人の身で武神の領域まで己の武を高めるために編み出したものらしい。
肉体を維持する“気”と、霊体を維持する“霊気”を特殊な呼吸法によって融合・増幅した“氣”を使い、様々な技を繰り出すものだ。
色々な事があり、俺はこれを会得しなければいけなかったので、必死になって修行したものだった。
・・・・・・まだ、完全にモノにした訳じゃないけどな。
軽くだったから、式神達も驚いた程度ですんだようだ。
やりすぎて式神に怪我でもさせたら、冥子ちゃんのプッツンが起きるだろうからな。
「あ〜、苦しかった。」
そう言って一息ついた俺に、美神さんが声をかけてきた。
「あれ? 何で傷一つないの?」
「ああ。 うちの流派では、硬気功ってのを瞬間的に出せるように訓練してるんですよ。」
「・・・あんた、ホントに人間?」
うわっ、何か本気で言ってるみたいだよ!
タダチャン、ショーック。
* * * * * *
「このマンションは採光を考えて、上階へいくほど面積が小さくなっています。 なるべくユニークなデザインにしようということで、複雑な多層構造にしたんですが・・・」
あの後にすねた振りなどをした俺をほっておいて、美神さんたちは除霊に関する話し合いを始めていた。
おキヌちゃんだけは、すねた俺を慰めようとしてくれた。
オキヌちゃん・・・あんた、ほんまにえー子や。
「最上階のこの部分が、鬼門から霊を呼びこんでしまうアンテナになっちゃってるわね。 どうするの? これじゃあ祓っても祓っても霊が集まってきちゃうわよ。」
「私がまわりの霊を食い止めてる間に〜、令子ちゃんは結界を作って霊の進入を止めてほしいの〜。」
「・・・その後にたまった霊を除霊すれば、問題の部分を改築して人が住めるよーになるってわけね。 OK! それじゃあ、さっそくかかりましょう。」
そう言って、持ってきた除霊道具一式を身に付けた美神さんに、俺はへーいという返事を返した。
「すご〜い。 令子ちゃんって攻撃系の道具はほとんど使えるのね〜。・・・あれ〜? 横島君は道具はどうしたの〜?」
「あっ、俺は道具はいらないんすよ。 これらがありますから。」
そう言って俺は、右手に栄光の手(霊波刀状態)、左手にサイキック・ソーサーを出して見せた。
「わ〜、横島君もすご〜い。 私なんか霊能者っていっても〜、自分では何もできないのよ〜。」
「そんなことより中は悪霊でいっぱいよ! 用意はいい!?」
「は〜い。 バサラちゃん〜、たのむわよ〜。」
美神さんの言葉を聞いて冥子ちゃんが式神を出したのを合図に、俺達はマンションの中に入っていった。
ちなみに、おキヌちゃんは今回も留守番である。
* * * * * *
「誰だ・・・!?」 「誰だ・・・!?」 「近寄るな・・・!!」 「近寄れば殺す!!」
マンションの中は、本当に悪霊だらけだった。
「悪いけどそういうわけにはいかないのよ!」
そう言って美神さんが神通棍を構えた瞬間に、冥子ちゃんの式神のバサラが凄い勢いで悪霊を吸い込み出した。
「ンモーッ!!!」
うぞぞぞーっ ずご−っごごごお
「・・・あいかわらず、すさまじいわねー。」
そう美神さんが呆れたような声を出している横で、冥子ちゃんは新しい式神を出していた。
「インダラ! サンチラ! ハイラ! 出ておいで〜。」
* * * * * *
あれから、俺達はバサラが悪霊を吸い込んでくれているおかげで、安全に最上階を目指すことができていた。
途中で冥子ちゃんが美神さんに一緒にインダラに乗ろうと誘っていたが、さすがに美神さんはそれを断っていた。
「思い出すわ〜。 令子ちゃんと初めて会ったのも〜、こーしてインダラに乗ってる時だったわね〜。」
「そーだったかしら?」
「ほら〜! ゴーストスイーパーの資格をとりに、国家試験受けに言った時よ〜。」
そう言って、冥子ちゃんはやや上の方に視線を向けた。
どうやら、その時の情景を思い出しているようだ。
「うれしかったわ〜。 私に声かけてくれる人なんて初めてだったんですもの〜。」
はっはっはっ、そらーそうだな。
四六時中式神を出してるんだから、並の人間じゃあ声なんてかけれないわな。
「ほんとよ。 令子ちゃんにはなんでもないことかもしれないけど、私は本当にうれしかったの。」
「冥子・・・」
おお、冥子ちゃんのセリフが間延びしてない。
美神さんもちょっとジーンってきてるみたいだな。
「でもどーして他の人は私のこと避けるのかしら〜。 いまだに分からないわ〜。」
「ははは・・・」
あっ、美神さんが乾いた笑い声を出してる。
まあ、気持ちはわかるけどね・・・って!
「危ない! 美神さん!!」
そう言って俺は、美神さんの後ろから迫ってきていた悪霊を切り払った。
「霊の数が多すぎてバサラの吸引力が弱まってるわ! このままだと数分で満腹になっちゃう!! 急ぎましょう!」
その美神さんの声を聞いた俺達は、もうすぐそこまで迫っていた最上階に向かって走り出した。
そして、なんとか今の所は無事に目的地まで着くことができた。
「私が結界を作るから、横島君と冥子は奴らを近づけないでよ!!」
そう美神さんに言われた俺達は、どんどん集まってくる悪霊に対しての戦闘を始めた。
一匹一匹は弱いが、こう多いと本当に厄介だな、冥子ちゃんの式神達もどうやらバテてきたようだ。
「あと、3枚で完成よ!」
「急いでね〜。 そろそろみんなバテてきたわ〜。」
冥子ちゃんがそう言うのと同時に、悪霊達は冥子ちゃんに狙いを定めはじめた。
「れ、令子ちゃん〜。 なんだか私を狙いうちしだしたみたい〜。」
「終わったら手伝うから待ってて! 結界さえ完成すれば、外から新しい霊が入ってこれなくなるわ!」
そう言っている間にも、悪霊の攻撃は激しくなり。
とうとう、その攻撃のうちの一発が式神の防壁を通りぬけて冥子ちゃんの頬をかすった。
まずい!!
「あ・・・血が・・・ ふ・・・ふぇ・「わー、冥子ちゃん!! ほらほら、もう大丈夫だから!!」」
俺はそう言って、冥子ちゃんの近くに走り寄ってサイキック・フィールドを展開した。
「ヒック・・・ヒック・・・ ふぇえええええ・・・」
だけど、冥子ちゃんのグズリは止まらずに更にカウントダウンが進んでいる様子だ。
それを見て、俺は最終手段に出ることにした。
冥子ちゃんを抱き寄せて、頭を撫でながら優しく声をかけた。
「大丈夫だよ、冥子ちゃん。 冥子ちゃんは、俺が守ってあげるからねー。」
最初は少し硬くなっていたようだった冥子ちゃんだが、撫でられるのが気持ち良かったのも手伝ったらしくグズリも止んで落ち着いたようだ。
そして、そうこうしている内に美神さんの結界もなんとか完成したみたいだ。
「結界は完成したわよ! イチャつくのは後にして、さっさと終わらせるわよ!」
「いや、イチャついてた訳ではないんすけどね。」
その美神さんの声を聞いて、俺は冥子ちゃんをはなして仕事に戻ろうとした・・・が、なぜか冥子ちゃんが服をしっかり掴んでいるので離れられなかった。
「あのー、冥子ちゃん。 離してくれ「いや〜。 もっと頭撫でてもらうの〜。」」
「ちょっと! 冥子!! ふざけてないで、とっとと「い〜や〜!!」」
やべえ、別の意味でまずい事になったよ。
冥子そう言って俺から離れようとしなかった。
つーか、頭を撫でるのを止めるとグズリ出すようになっていた。
追加が無くなったとは言え、まだかなりの数の悪霊が残っている。 美神さん一人じゃあまずい。
「しゃーねー。 美神さん! 大技を使うんで、伏せといて下さい!!」
俺は、呼吸法によって体内に膨大な氣を練りこみ始めた。
そしてそれを悪霊のみを滅する、清浄な属性をもった氣に変換していった。
別に文珠を使っても良いが、今の時点であれだけ幅広い応用のきく万能性の高い術を見せるとまずい
文珠があればなんでもできるなんて思われるようになったら、小竜姫様と対面するための妙神山での修行っていうフラグが立たなくなるかもしれんからな。
「な、なんてとんでもない気を発するのよ!」
俺が体内に溜めた氣に、美神さんは驚いた様子だ。
冥子ちゃんはそんなことは関係無いとばかりに、俺に撫でられながら頬をこすりつけていた。
・・・冥子ちゃん、気が抜けそうだから勘弁してください。
「武神流 絶技 閃光・浄瀑布!!」
その掛け声と同時に、俺は体に溜めこんだ全ての氣を放出した。
放出した氣は、暴風となって窓ガラスをぶち破りながら周囲の悪霊全てを浄化した。
後に残ったのは、放出した氣にあてられて気絶した美神さんと・・・未だに冥子ちゃんを撫で続ける俺がいるだけだった。
* * * * * *
あの後は大変だった、冥子ちゃんを説得するのもそうだし、俺が使った技に対しての美神さんの追求をかわす事も有った。
美神さんの方は最初の交渉の折に出しておいた条件を出す事によってなんとかなったが、冥子ちゃんの方は大変だった。
結局あの後一回暴走をさせるはめになってしまった。
まあ、前と違ってマンションを壊す事はなかったから良かったが、それでも暴走は勘弁して欲しかったよ。
そして、それから数日後。
「こんにちは〜。」
「あれ、冥子さん。 今日はどうしたんですか?」
訪ねてきた冥子ちゃんに、唯ちゃんがそう言って対応していた。
唯ちゃんは六道女学院に通っているので、冥子ちゃんと面識があったらしい。
冥子ちゃんの母親である理事長に気に入られたので、その筋からとのことだ・・・・・・・・・・・・・・かわいそうに。
「おひさしぶり〜、唯ちゃん〜。 今日は横島君に会いに来たの〜。」
「ピクッ ・・・そうですか。 忠夫さん、冥子さんが呼んでますよ。」
すでにかなりの冷たさを込められた声が怖かった。
「や、やあ。 冥子ちゃん。 何か用かい?」
「この前の仕事で〜、お茶しましょっていってくれたでしょ〜。 この前は行けなかったから〜。 今日は私から誘いにきたの〜。」
そう言って冥子ちゃんは、俺の腕を取った。
背後からの殺気が、危険なまでに膨れ上がっていた。
「じゃあ〜、行きましょ〜。」
背後からの殺気が増えとる!
やばい、まじでやばい!
危険が迫っていることはわかったが、俺は冥子ちゃんの笑顔を見ながら、このデートの後に起こるであろう惨劇にため息を吐くことしか出来なかった。
「俺が何をしたんだよ?」
ああ、今日も空が青い。
後書き
ども、ほんだら参世っす。
全国の冥子ちゃんファンの皆様、お待たせしました、冥子ちゃん登場です!
ついでに、横島君の新技『武神流』の登場です!
この技は、唯ちゃんのと違って、かなり重要なものになる予定です。
なんせ最後は○○○○の○○○○○を越えて、○○○○○と同格の力を得ることになるって設定ですからね。
前回の『狐いじめ』での質問の集計で、今の所『館いじめ』と『竜いじめ』で行こうかなと考えています。
『竜いじめ』に関しては、レスを読んでいるうちに“炉”マン回路が回ったんで、なんとか行けそうです。
でも、多分『館いじめ』が先になると思いますがね。
とは言っても、とりあえず『素晴らしい日々へ』の改丁版を全部出してから書き始めるんで、要望があったらレスに書いといてください。
まあ、あくまで順番を決めるために聞いたことなので、他の話もぼちぼち書くつもりです。
・・・・・・・・・多分、かなり遅くなるだろうけど(汗)
んでは、また次回にお会いしましょう。
グッバイ!!
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