「大丈夫ですよ。 残された人の気持ちって奴はイヤと言うほど知ってますから。 俺が目指すのは、犠牲の上に成り立つ皆の幸せな日々ってやつじゃあないですよ。 誰も犠牲にせずに成り立つ、皆との素晴らしい日々ってやつですよ。」
なんていうような俺的には、最高にカッチョ良い言葉を小竜姫様に言ってから1週間程がたった。
あれから、自分で決めた通り美神さんの事務所に入った。
その際に、事務所の場所を言い忘れたということで落ち込んでいた唯ちゃんに出会い頭に抱きつかれたりした ・・・・と言うか、タックルされた。
何で場所がわかったのかという質問に対しては、「美神さん程のGSなら、GS協会に聞けば直ぐに分かるよ。」という言葉を返した。
唯ちゃんはその言葉に、何でそんな簡単な事に気が付かなかったんだろうって様子で赤くなっていた。
同じように心配していたらしいおキヌちゃんも、俺が来たことを喜んでくれた。
美神さんは、その後直ぐに俺と雇用契約のようなものを交わしてくれた。
その際に、あの時は唯ちゃんが側にいた事と何とか役に立ちそうな俺を助手にしようとしてあんな時給を言ったが、今では少し後悔している様子の美神さんに、いくつかの条件を飲んでくれれば半額で良いと交渉してみた。
これに対しては美神さんは嬉々として受け入れてその条件を受け入れてくれた。
こうして俺は正式に美神除霊事務所に所属する事になった。
ちなみに、この前の車の弁償としてかなりの額の請求書も渡されてしまった(涙)。
「平和ですね〜。」
俺の隣でおキヌちゃんはそんな事を言っていた。
「俺とおキヌちゃんが入社してから、一軒も依頼がきてないからね〜。」
この世界での俺の戸籍の方は小竜姫様がなんとかしてくれると言って実際何とかなったが、その際に年齢を20歳としてしまったので高校に入る事もできない。
最初は勉強なんてしたくないからいいやって思っていたが、2・3日も経つと何となく学校というものが懐かしくなってきた。
原因はここ1週間依頼が無くて暇だということと、この事務所の中ににいると昔を思い出してしまうという事だろう。
「こんなことなら小竜姫様に頼んで、17・8歳ってことにしてもらうんだったな。」
「ん? 何か言いましたか、横島さん?」
「あ、いや、なんでもないよ、おキヌちゃん。」
などという会話を交えながら、俺はおキヌちゃんが入れてくれたお茶を楽しんだ。
なんか、このままだと老け込みそうで怖いな。
盆栽でも始めちまったりして。
「トランプでもしようにも、二人じゃあ出来ることなんてたかが知れてるし。 美神さんは出かけているし、唯ちゃんは学校だしな〜。 どっちでも良いから早く帰ってこないかな〜。」
俺のその言葉が天に届いたのか、事務所のドアを開けて美神さんが帰ってきた。
「あっ、美神さん。 お帰りなさ〜い。 ・・・あれっ、後ろの方達はどなたですか?」
おキヌちゃんの声に降りかえってみると、そこには美神さんと一緒に何処かで見た覚えの有る二人組がいた。
「ただいま、おキヌちゃん。 後ろの二人は、今回の依頼の除霊対象よ。」
* * * * * *
「銀行強盗ですか?」
あの後、唯ちゃんが帰って来るのを待って今回の依頼についての話を聞いた。
「そう。 この二人はね、銀行強盗に押し入ろうとする前に事故で死んじゃったのよ。 その後に、逃げる途中ならまだしも、押し入る前に死ぬなんて納得がいかないっていう理由で成仏が出来ないの。 ちょうどよくその銀行で来週に防犯訓練があるから、その訓練で強盗をやって成仏をしてもらおうってことなの。」
そういやあ、そんな事があったな〜。
「まっとうな人の道を外しかけた天罰が落ちたとか思えないんですか! 幽霊になってまで、道を外そうとするなんて。」
唯ちゃんは少し怒り気味だ。
彼女は結構堅物な所があるから、こういうのは許せないんだろうな。
「でも、それって訓練なんですよね? そんなんで成仏できるんですか、その二人?」
「その点に関しても大丈夫。 私達が奪うのは依頼料になるものなのよ。」
「へ?」
「奪ったお金がそのまま私達のものってこと。 これなら二人も強盗って事で納得できるでしょう。」
俺の質問に対して美神さんはこう答えた。
あ〜、そうだった、そうだった。
「とにかく、すべては1週間後よ。 道具の方はこっちで用意しておくから、皆はそれまで自分たちの判断による用意をしておいて。 あ、おキヌちゃんには頼みたい事があるから、一緒に来てくれない。」
そう言って美神さんはおキヌちゃんを連れて、部屋から出ていった。
唯ちゃんの方はあの二人に説教をしていた、人としてとかいう言葉があっちから聞こえてきた。
巻き込まれんうちに逃げとこ。
* * * * * * *
そうして、1週間後のAM8:55。
「銀行強盗は閉店前が定石じゃないのか?」
「相手は私達が来ることを知ってるのよ。 ウラをかいて開店直後を襲うの!」
美神さん達が話し合っている横で、唯ちゃんが渡された銃をジーっと見ていた。
「美神さん、これはまさか本物じゃあないですよね?」
「当たり前でしょ。 少し改造がしてあるけど、おもちゃの銃よ。」
流石に唯ちゃんがいるから、本物の銃を用意する事はなかったようだ。
「さあ、開店よ! 横島君、GO!」
「へ〜い。」
俺は美神さんの号令を聞いて、婆さんの変装をしながら銀行に向かった。
ウィーン
自動ドアを通った後に真っ直ぐ受付に向かった。 4 ・ 3
「いらっしゃいませー!」
「あのー、ちょっとすいませんけど・・・」
2 ・ 1 ・ 0
「強盗だっ! 全員手を上げてカウンターの外に出ろっ!!」
俺が行動を起こすと同時に、美神さん達も銀行内に押し入ってきた。
「シャッターを閉めろ!!」
「余計なマネするとぶっぱなすわよ!!」
パンッパンッ
警報を鳴らそうとしたカウンターの女の子に、美神さんは銃弾を打ちこんだ。
ネヴァー
「ひいいいいいい!」
「時給500円でやとった低級霊よ。」
おお、ひさしぶりだな、この弾を見るのも。
しかし、低級霊が何に金を使うんだろう?
やっぱ線香とかかな。
「金庫開きました!!」
「30秒よ!! 始めて・・・!!」
しかし本当にプロだよな〜、誰がどう見たって。
手馴れているように見えるのは、おれだけじゃないだろうな。
「29!! 28!! 27!! 警備から警察に連絡がいった頃よ!! 25!!」
あっ、唯ちゃんが頭を抱えてるよ。
「あと5秒!! いくら入った!?」
「3つ・・・!! 約3億!!」
その声に、頭を抱えていた唯ちゃんが反応した。
「3億ですって!! ちょっと美神さん!!」
「よし!! 引きあげよ!! 全員床に伏せて目をつぶれ!!」
美神さんはそう銀行員達に脅しをかけると、外に置いてある車に向かった。
「美神さん!!」
「まあまあ、唯ちゃん。 その話は後にしようよ。」
怒鳴る唯ちゃんを宥めながら、俺も車に向かった。
ファオファオファオ
車に乗って走り去る俺達の後ろで、サイレンの音が聞こえた。
「やったあ!! ポリが来るより先に逃げたぞっ!!」
「やりましたね、アニキー!!」
「ああ・・・。」
「し・あ・わ・せ・・・!!」
2人の霊は満足したのか、満足そうに成仏していった。
「思ったより早く成仏したわね。」
「そんなことより、美神さん!! 3億ってどういうことですか! そんな法外な代金を取る気なんですか!?」
2人の霊の成仏の確認をした美神さんに、唯ちゃんが食って掛かった。
「ああ、その事なら・・・」
バシュッ ドギャギャギャアア
いきなり車のタイヤがパンクしてスリップを起こした。
「来たわね!!」
美神さんはそう叫ぶと、ハンドルを巧みに操作して車の体勢を立て直した。
って、
「なんでパンクしたのに、そんなことができるんですか!?」
「前に暇つぶしに見た漫画を参考にして、二重構造のタイヤでパンク箇所に圧縮ウレタン樹脂を自動で噴出してあっという間に塞いでしまうようにしてあるの。 凄いでしょ♪」
その言葉を聞いて、俺は開いた口がふさがらなかった。
どういうギミックだよ、他にも色々なギミックがあるんだろうけど、この車にいくらかけたんだよ。
「そ、そんなことより、何でタイヤがパンクしたんですか!?」
「ああ、それなら。 後ろの奴らの仕業よ。」
美神さんの言葉を聞いて後ろに振り返ってみると、何台かの黒塗りの車が凄い勢いでこちらに向かってきていた。
「な、なんすか、ありゃあ?」
「ふっふっふっ、 かねぐら銀行特殊窓口部隊・車両班。 別名、かねぐらの黒い流星群よ!」
「「か、かねぐらの黒い流星群?」」
俺と唯ちゃんの声がハモった。
何てネーミングセンスだよ、ていうか車両班って何よ?
「過去、かねぐら銀行を襲った強盗達を何回も捕らえてきたかねぐら銀行特殊窓口部隊、その中でも最後の砦とされている部隊よ。 構成員は全てプロが裸足で逃げ出す位の凄腕のドライバー、そのテクニックで最高のチューンを施されたマシーンを操り、どんな強盗でも逃がしはしないそうよ。」
美神さんからの説明で、後ろの連中についてはわかったが、俺としては何故に美神さんはそんな楽しそうな笑みを浮かべているのか、という方が気になります、はい。
「何で、そんなに楽しそうなんすか、美神さん!!!」
「ん、だって、どんな強盗でも逃がしはしないなんてほざいてる連中の鼻を明かしてやるのよ。 考えただけでも楽しいじゃない♪」
「♪じゃないですよ、美神さん! もう仕事は終わったんですよ、だったら逃げる必要なんて無いじゃないですか!!」
唯ちゃんの叫びが聞こえたが、美神さんは絶対に止まらないだろうな。
そう思った俺は、唯ちゃんの肩に手を当ててこう言った。
「唯ちゃん。 諦めた方がいいよ、こうなったら美神さんは絶対に止まらないから。」
「な、なんですか? そのそこはかとない哀愁と諦観、それに絶大な説得力を感じさせる表情は!」
ああ、美神さんの生態は知り尽くしているからね、それこそ論文にして学会に発表できるくらいに。
だから、もう駄目って事はわかってるのさ、笑うしかねーんだよね、これは。
「はははっははっははははは、風の声が聞こえるさーーーーーー!」
「きゃー、忠夫さんが壊れたー!! しっかりして、忠夫さん! こんな状況で、私を一人にしないでくださいーーーーーーーー!!!」
唯ちゃんが何か叫んでいるなー。
この期に及んで正気を保ってたら損なのになー、逝っちゃったもん勝ちさ、イェーーーーー!
「ほほほほほほほほーーーーーーー!! 何人たりとも私の前は走らせないわよーーーーー!!!」
「HAHAHAHAHAーーーーー! GO GO GOーーーーーーー!!」
「もういやーーーーーーーー! 誰か助けてーーーーーーーーー!!」
* * * * * *
数時間後
「ふっ、いい勝負だったわ。」
「そうね。」
そう言って、美神さんとかねぐら銀行特殊窓口部隊・車両班 別名 かねぐらの黒い流星群の隊長さんは、向かい合っていた。
そこだけ見れば、戦いの後の清々しいワンシーンに見えるんだけどなー。
「・・・美神さん、ここどこでしょうかね?」
「・・・・・・・言わないでよ。」
あの後、どう走ったのかは全然覚えていないが、気が付いたら何故か昼なお暗い森の中だった。
車はガス欠、携帯は圏外、コンパスなんかは持ってねえときたもんだ。
まあ、サバイバル知識は嫌と言うほどあるから、どんだけ迷っても生き残る自信はあるけどね。
「うう、皆勤賞狙ってたのに。 こんな事で駄目になるなんて〜。」
「・・・唯ちゃん。 この状況で、そんなことを気にするんかい!」
強い子だよ、ほんまに。
まあ、それはいいとして、一応決着がついたんだから、趣味にでも走りますか。
「いや〜。 災難でしたよね、皆さん。 ところで、よかったら帰った後に、一緒にお茶でもしません?」
俺は挨拶代わりの軽いナンパをしてみた。 しかし、次の瞬間。 一筋の閃光が見えた。
ああ、空が青い。
後に聞いた事だが、俺はあの時唯ちゃんのアッパーカットによって宙を舞ったらしい。 その唯ちゃんのアッパーの軌跡には、虹が見えたと言う・・・・・勝利の虹かよ!!!
後書き
ども、ほんだら参世です。
これまでのレスを見て、自分のデビュ−作にあたるこの作品が愛されてたんだなって思い、ほろっときとります。
これからも応援してやってください。
今回の話は、改訂前はほぼ原作通りだったんで、ラストの部分を少し変えてみました。
どうでしょうかね?
ではまた次回にて。
ばいなら、ばいなら、ばいなら。
BACK<
>NEXT