俺は、今妙神山の修行場に続く山道を歩いている。
逆行の原因と思われる事が起こったあの瞬間にいたのが、妙神山だったのでというのが理由だ。
もしかしたら、あの場にいた老師や小龍姫様、タマモにシロにヒャクメにパピリオも一緒に逆行しているかも、ということを確かめるという理由もある。
「お。 見えてきたな。」
道の先に、見なれた門が見えてきた。
なんか緊張してきたな。
美神さんやおキヌちゃんの時は慌ててたりで気が回らなかったけど、知り合いから初対面のような反応をされるのはけっこうきついよな。
俺が記憶喪失になってたって時は、皆にこんな想いをさせたのかな?
そんなことを考えながら、俺は門の方に歩みを進めた。 すると、
「「おお、横島。 やっと来たか。」」
戸の両側に顔を付けている鬼門が、声をハモらせながら俺を迎えてくれた。
そおいやあ、こいつらもいたんだよな。
「俺がわかるって事は、お前らも巻き込まれたのか! だったら、小龍姫様は?他の皆はどうなんだ?」
「落ち着け。 他の奴らはどうかわからんが、小龍姫様と老師様はわし等と同じだ。 この門の向こうにちゃんと居るから、自分で「横島さん!!!!!」ゲフォッ!」
鬼門達と話している途中で、小龍姫様が門をぶち破ってでてきた。
「横島さん! 横島さんが来たんじゃないんですか!! どこですか、横島さん!」
ここに居ますよ、小龍姫様。
あなたが踏んづけている門の下にいますよ、俺は。
薄れていく意識の中で、俺はそんな事を思っていた。
「のう、右の。」
「なんだ、左の。」
「わしらの出番はこれで終わりなのかのー。」
「・・・・・いうな。」
そんな会話がされている上で、小龍姫様は自分の足元に居る俺をを必死で探していたとさ。
「横島さーーーん!!」
* * * * * * *
「すいません!」
目の前には、お茶を飲んでいるハヌマンの老師と真っ赤になって頭を下げている小龍姫様がいた。
あの後来てくれた老師に言われるまで、小龍姫様は足元の俺に気が付かなかったという。
「気にしないで下さいよ。 俺はそんなに気にしてないんですから。 むしろ、あんなに慌てる程心配してくれて、嬉しいくらいなんですから。」
そう、小龍姫様があんなに慌てた原因は俺を心配してのことだったのだ!
時間を逆行したという事はわかったのだが、俺が目の前に居なかったという事からかなりの不安を味わっていたのだと言う。
「いえ、横島さんは私の大切な人なんですから。 心配するのは当たり前です。」
耳まで赤くしながらそんな事を言ってくれた。
やべぇよ、小龍姫様。
あんた、なんでそんなに男心をくすぐる行動をとるんですか。
萌え狂ってしまいそうですよ。
あ〜、ちくしょう。
ほとんどなくなったはずの煩悩が、ムクムクと大きくなってきそうだよ。
「小龍姫さ「オホンッ。」ま」
俺の言葉を遮って、老師の咳払いが聞こえた。
やべっ、老師のことを忘れていたよ。
「二人とも。 イチャつくのは構わんが、とりあえずは我慢せい。 まずは、これからのことなどを話し合うのが先決じゃろう。」
その老師の言葉を聞いて、小龍姫さまは下を向きながら小さくなってしまった。
当然、耳まで赤くなったままだ。
うん、これはこれで萌えるな。
「そうですね、まず聞いておきたいんですが。 シロとタマモとパピリオとヒャクメはどうなったんですか。 老師達が無事ならあいつらも無事なんですよね?」
その俺の質問に対しては、小龍姫様が答えてくれた。
「ヒャクメに関してはすでに無事が確認されてます。 彼女も私達と同じです。 シロちゃんとタマモちゃんも時間差はあるみたいですが、私達と同じように飛ばされているはずです。 ただ、パピリオに関してですが・・・」
「パピリオがどうかしたんですか!」
「いえ、パピリオに関しても私達と同じように飛ばされているはずなんですが、彼女は今の時間では生まれていない上に最初は敵方に居たので。」
「確認が難しいと。」
その俺の言葉に、小龍姫様は頷いた。
くやしいが、今は確認の方法がないのか。
無事で居てくれよ、パピリオ。
「そういえば、横島。 なぜお主は若返っておらんのだ? この時代の肉体に移ったのではないのか。」
少し暗い雰囲気になりかけた所に、老師のそんな言葉が入った。
「そういえばそうですね。 何かあったんですか、横島さん?」
「ああ、その事なんですけど。 この世界は厳密な過去ではなくて、パラレルワールドの過去らしいんですよ。」
「ぱられるわーるどって、たしか平行世界のことですよね?」
「はい。 ここに来る前に、この世界の美神さんと俺、あとおキヌちゃんにあったんですけど。 ここの世界の俺は女なんですよ。」
「ほう、お主が女か。 それで? またナンパなんぞしよったのではないのか、お主のことだからな。」
老師は少しニヤッと笑いながら、そんな事を言った。
やめてほしいよな〜、本当に。
小龍姫様の視線が痛いんだから。
「まさか。 あの娘は言ってみれば妹のようなもんになるんですよ。 そんな娘をナンパなんかしませんよ、流石に。 実際、初めて会った時もナンパしようとしなかったんですから。(逆に責任を取ってお嫁に行きます発言みたいなことはされたけどな)」
そんな事を言いつつ、小龍姫様の視線をかわす為に話を進めた。
「それで、これからの事なんですけど。」
「うむ。 今の所お主には三つの選択肢がある。 一つは元の時代に戻るという事。 だが、これはやめておけ。 ここが平行世界だというなら、原因がわからん限り次はどんな未来に行く事になるか見当もつかん。 下手をすれば、まったく異なる世界の未来へ行く事になりかねん。」
(・・・・・・・帰れないか。)
俺はその老師の言葉を聞き、元の世界のおキヌちゃん・・・俺を救ってくれた最初の人の笑顔を浮かべた。
「・・・・・・原因に関してはヒャクメに調査を依頼しています。 だから、それまでは他の二つの選択肢から選んで行動しようと思います。」
小竜姫様は俺が何を想ったかを聞かずにいてくれた。
この人はわかってくれているのだろう、俺が心の内で想った事を。
俺は本当に身内に恵まれている、心の底からそう思った。
「それで、あと二つの選択肢なんですけど。 これから先の未来は私達の知っている未来と同じか、もしくはそれに近いものになるはずだと思われます。 そこで、その未来における負担を少しでも小さくする為に、裏で動くか。 それとも、美神さんと一緒に行動していき、実際に誘導していくか。 その二つのうち一つになります。」
そう言った小龍姫様の顔を見ると、俺がどの道を選ぶのかわかっているらしい事が見える。
同時に、その事に対して俺を心配しているだろう事も。
「そうですね、俺は美神さんと一緒に行動する道を選びます。 近くに居た方がいざと言う時に都合が良いですからね。」
俺のこの言葉に小龍姫様は、やっぱりというようなため息を吐いた。
「つらいですし、難しいですよ。」
その言葉に込められた意味は理解できますよ。
親しかった人達に他人を見る目で見られることは、相当つらいもんですからね。
それに、未来を知っている事がばれないように注意しなくちゃいけませんしね。
「覚悟の上ですよ。 せっかくの機会なんですから、失敗のないように確実な道をえらばなくちゃ。」
俺がそう言うと、小龍姫様は今度は違う不安がでてきたらしく、俺にこう言った。
「横島さん。 自分を犠牲にして、というような事は無しにして下さいよ。」
俺はその言葉に少しふざけて返そうとしたが、本当に不安そうな小龍姫様を見て真面目に返すことにした。
「大丈夫ですよ。 残された人の気持ちって奴はイヤと言うほど知ってますから。 俺が目指すのは、犠牲の上に成り立つ皆の幸せな日々ってやつじゃあないですよ。 誰も犠牲にせずに成り立つ、皆との素晴らしい日々ってやつですよ。」
そう、せっかくの機会なんだらな、この世界では皆救ってやる。
ルシオラを、そして、出来得るモノならアシュタロスを。
あの戦いの後に、俺と同様に大切なもの―アシュタロス―を失って苦しんだべスパを、俺は見ている。
そして、そのべスパに、アシュタロスが何故あの戦いを始めたのかを聞いている。
あの時、俺はべスパに「・・・だったら、捕まってた時に、宴会でもやって愚痴を聞くような事をしてりゃあ、別の結果になってたかもな。」なんて言ったもんだ。
まあ、あの時の俺が、そんな事をできる訳がないんだけどな。
出来るかなんてことはわからんが、やれる事はやるつもりだ。
俺はそんな事を考えながら、これから先に対する覚悟を決めた。
余談ではあるが、最後の方で話に入ってこれなかった老師がすねてしまい。
外で、これまたすねている鬼門達と愚痴を言いあいながら酒を飲んでいたと言う。
後書き
どうも、ほんだら参世です。
前回では、自分が思ったより沢山の人がこの作品を覚えていてくれたわかって、感動の嵐でしたよ。
自分が最初予想していたレスの数を大幅に上回る結果です。
とりあえず10話までは、前の連載の改訂版が続きます。
某所でやっているもう一本の連載の最終話や、他所で出す予定の新ネタを書きながらですが、すでに改訂自体はほぼ出来あがってるんで、一,二日に一本の割合で出すことになると思います。
それでは、次回にてまた。
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