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「Tales of the Negima! 第十五節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-03-12 16:18)
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「あの……お兄ちゃん」
「うるさい、話しかけるな」

 Tシャツ姿でシンクは背を向けてネギに返す。シンクのYシャツを着たイオンはジ〜っと自分の胸を見ている。

「よりによって……何で女に……」
「何かナタリアとか言う女の人のコト考えてて集中力乱したそうよ」
「バ……!」
「アンタか!? アンタの所為か!?」

 アッサリとバラす明日菜の言葉に、シンクはアッシュに詰め寄る。アッシュは気まずそうに視線を逸らし、小さい声で答える。

「イイじゃねぇか……分割できたんだから」
「そうですよ、シンク。クヨクヨしていても何も始まりませんよ」
「アンタは自分の身体のコトなのに、どうしてそう暢気なんだよ!?」

 ネギ、明日菜、のどかの3人は、イオンがアッサリと自分の状態を受け入れているのは勿論、何より女になっても今までと違和感が無いから、そっちの方に驚いた。

「はぁ……何かもう全てを放り出して帰りたい気分」
「火山の火口にか?」
「殺すよ?」
「やってみろ」

 バチバチ、と火花を散らすシンクとアッシュ。が、その間にイオンが割って入った。

「まぁまぁ。シンクもアッシュも落ち着いてください。アッシュも悪気があったわけじゃないですし、僕も別にこの身体で不自由しませんから……」
「流石は導師。見事な判断力だ」
「(単にコイツが暢気なだけだ)」

 シンクとしては、自分と同じ身体が女になったようなもので、自分も同じように感じて気持ち悪かった。しかし、イオンは持ち前の性格ですっかり女として受け入れてしまっている。シンクからしてみれば、頭痛のタネだった。

「おーい! アスナー!」
「このか!? 来たの!?」

 と、そこへ木乃香の声がしたので振り返る。そして、やって来た人物達を見て、シンク達は唖然となった。

「お〜っす、アスナ!」
「お、シンク君にイオン君もいるじゃん」

 当初の予定では刹那、木乃香、アリエッタの3人と合流する予定だった。しかし、彼女らに加え、ハルナと夕映、朝倉までもが付いて来てしまっていた。
 刹那はシンクとイオンが別々にいるコトに驚き、アリエッタはソレに加えてアッシュの姿に驚いている。

「アレ?」

 合流し、木乃香はイオンを見て首を傾げた。カッターシャツ一枚で尚且つ、シンクはTシャツとズボン。ハルナもピクッと反応し、恐る恐るシンクに尋ねた。

「シ、シンク君……まさか、イオン君と禁断の薔薇……」
「違う!!」
「すいません、ハルナさん。今まで黙ってましたが、僕、女なんです」
「「「「女!?」」」」
「ハイ。警備員をする上なら、女より男の方が甘く見られない、という考えで……」

 勝手なコトを想像するハルナに突っ込むシンク。イオンは苦笑して誤魔化すが、ソレには木乃香達は驚愕した。

「イオン様、女だったですか?」
「そ、そうだったんですか……いや、殿方にしては綺麗だと……」
「アンタ達まで驚くなよ……」

 特にアリエッタに関しては何年付き合ってると思うのか、とツッコミを入れたいシンク。そこへ、アッシュが刹那とアリエッタにだけ聞こえるように言った。

「俺が2人を分割したんだが、失敗して導師……イオンだけ女になっちまったんだ」
「アッシュ……何でいるですか?」
「何でって……」

 意外にも冷たい反応をしてくるアリエッタに、アッシュは表情を引き攣らせる。そこへ、何でイオンがカッターシャツ一丁なのかシンクを質問攻めにしているハルナがアッシュに気付く。

「ねぇ、アスナ。このデコ広いお兄さん誰?」
「デコ……!?」
「んとね〜……イイ人か悪い人か聞かれたら多分、ギリギリで何とか辛うじて寸前でイイ人っぽいお兄さん」
「つまり不良予備軍?」
「どっちかって〜と悪人予備軍ね」
「待たんか、お前ら! 勝手に人を不良やら悪人やらに仕立て上げるな!!」

 色々とツッコミを入れたい台詞ではあるが、アッシュがこのままでは彼女らの中で自分は最低な人間に位置づけられてしまいそうなので、この場は自分にフォローを入れる。

「でも『屑』が口癖です」
「後、何度も自分に好意寄せてる女泣かせてる」
「本当は優しいんですけど……素直になれないのが難点ですね」
「やっぱ悪人じゃん?」
「予備軍でも、レギュラー寄りかな?」
「だから違ああああああぁぁぁぁう!!!!!!」
「僕らも裏切ったしね〜」

 イオンを女性化にした仕返しだろうか、楽しそうな笑顔でシンクが悪人たるトドメの一撃を放つ。アッシュは膝を突くと、急に「フフフ……」と静かに笑い出す。
 そして、ゆらりと立ち上がると手を高々と掲げた。

「テメーら、まとめてぶっ飛………ば………す……」

 超振動を使いそうな勢いのアッシュだったが、寸前でアリエッタが背後から石で頭をどついた。漫画みたいに大きなタンコブを作って倒れるアッシュ。ドクドクと血が流れ出て、ピクピクと痙攣する彼をネギ達は顔を引き攣らせて見る。

「とっとと行くです」

 石を川に捨ててアッシュを引きずるアリエッタ。

「あの、アリエッタ……それじゃあアッシュが汚れ……」
「別にアリエッタが汚れないです」
「そうですか……」

 イオンはそれ以上言わず、引き下がった。


 結局、12人+1匹と言う大所帯で行く事になった一行。怪我は負っていないが、無茶な自身の魔力供給を行い、体力を使い果たしたネギは、シンクに背負われ恥ずかしそうに言った。

「ゴメン、お兄ちゃん」
「…………動けないんだ。仕方ないだろ」

 謝るネギに、シンクは特に文句を言わず答えた。今までシンクに、こんな風にされたコトなかったので、ネギは嬉しくなってつい顔を埋めた。

「それにしても桜咲さん、どういうコトなの? 何で朝倉達まで……」

 明日菜は木乃香とハルナ、夕映に聞こえないよう、小声で刹那に質問する。

「いえ、それがその、今さっきそこで、朝倉さんたちに捕まってしまいまして……」
「んふふ♪ 私から逃げようなんて100年早い」

 朝倉は不敵に笑って説明した。実は彼女、刹那達がシネマ村を出る際、刹那の鞄にGPS付きの携帯を忍ばせ、後を尾けてきたという訳だ。

「ちょっと朝倉! アンタ、この危険さ全然わかってないでしょ!?」
「あ、見て見て。アレ、入り口じゃない!?」

 朝倉に怒鳴る明日菜だったが、そこへ前方に大きな門を見つけたハルナの声が響いた。

「レッツゴー!」

 言うや否や、木乃香、ハルナ、夕映、のどかの4人は門に向かって走って行く。

「あ〜! ちょ、ちょっと皆〜! そこは敵の本拠地なのよ〜!」
「何が出て来るか……」

 慌てて、明日菜とネギが戦闘態勢に入るが、中に入ると意外な光景が待っていた。

「「「「お帰りなさいませ、このかお嬢様ーーーっ!!」」」」

 そこには、沢山の巫女服を着た女性達が並び、木乃香に頭を下げて出迎えた。余りの事にポカンとなるネギと明日菜。木乃香は照れ臭そうな笑みを浮かべる。
 シンクも呆気に取られてしまい、イオンとアリエッタも何が何だか分からない様子だった。

「さ、桜咲さん! これって、どういう事!?」
「えっと、つまりその……此処は関西呪術協会の総本山であると同時に、このかお嬢様のご実家でもあるのです」
「ええ〜!? それ初耳よ! 何で先に言ってくれなかったの〜!?」

 驚愕して明日菜は、詰め寄ると刹那は、しどろもどろになって答えた。

「す、すいません。今、御実家に近付くと、お嬢様が危険だと思ったのですが、シネマ村では、それが裏目に出たようですね」

 しかし、総本山である実家に入れば、もう安全だと刹那は説明する。木乃香の実家は、大きな日本家屋の屋敷で、桜が咲き乱れていた。 

「アスナ、ウチの実家おっきくて引いた?」
「え? ううん、ちょっとビックリしただけ」

 不安げに聞いてくる木乃香に対し、あやかの実家を何度も見ている明日菜にとって、大きさ自体は大して驚くコトでもなかった。
 一同は中に招かれると、そこには沢山の巫女が和楽器を弾いたりして迎え入れてくれた。尚、イオンは即座に服を着るため、皆と別れた。
 しばらくすると、奥から柔らかな声がした。

「お待たせしました」

 階段から痩せた長身の眼鏡をかけた男性が降りてきた。神社の神主のような格好をしている男性――近衛 詠春はネギ達に挨拶する。

「ようこそ、明日菜君、このかのクラスメートの皆さん、そして担任のネギ先生と、シンク君」
「お父様、久しぶりや〜!」

 木乃香は、嬉しそうに詠春へ飛びついた。

「はは、これこれこのか」
「このかさんのお父さんが、西の長だったんだ〜」
「こんなお屋敷住んでる割に、普通の人だね〜」
「てゆーか、ちょっと顔色悪い感じだけど」

 ハ〜と感心しているネギの後ろでハルナと朝倉に対し、明日菜はブルブルと震えて言った。

「し、渋くて素敵かも」
「え〜!?」
「アンタの趣味は分から〜ん!」

 渋いおじ様が好きな明日菜に、詠春は見事ヒットしていた。
 ネギは、親書を手に、詠春の元へ歩み寄る。

「あ、あの長さん。東の長、麻帆良学園学園長、近衛 近右衛門から西の長への親書です。お受け取り下さい」
「確かに承りました、ネギ君。大変だったようですね」
「い、いえ」

 詠春は親書を受け取り、中身を読むと何でか苦笑いを浮かべる。何か変な事でも書いてるのだろうか?
 詠春は親書を読み終えると、笑顔でネギに頷いた。

「イイでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。任務御苦労! ネギ・スプリングフィールド君!」
「は、はい!」
「おー! 何か分かんないけど、おめでとーネギ君!」
「ご苦労様〜!」

 何に苦労したのか分かっていない朝倉やハルナがネギを祝福すると、詠春は微笑みながら言った。

「今から山を降りると日が暮れてしまいます。君達も今日は、泊まっていくと良いでしょう。歓迎の宴をご用意致しますよ」
「え〜! やった〜!」
「ラッキ〜!」

 宴と聞いて喜び合う朝倉とハルナ。

「あ、でも僕達、修学旅行中だから早く帰らないと」
「それは大丈夫です。私が身代わりを立てておきましょう」

 それを聞いて、ネギ達は一安心した。


 宴会では、ハルナと朝倉を筆頭に、皆がワイワイと楽しんでいた。

「どうです? 似合いますか?」
「だから何で僕に尋ねるんだよ!?」

 巫女服に着替えたイオンは、シンクの前でクルッと回って尋ねる。シンクからすれば、余り関わって欲しくないが、イオンは積極的に関わって来た。

「僕、あの地核以来、シンクとこうして話をしたかったんですよ」
「…………」
「あの、シンク……僕のこと、やっぱり嫌いですか?」
「僕の出生の上で、どうアンタを好きになれと?」

 シンクのコンプレックスの塊であるイオン。そんなのと仲良く話なんて出来る筈無い。シンクがソッポを向くと、イオンは悲しそうに顔を伏せた。

「けっ! いつまでも昔のコトを愚痴愚痴と……」

 そこへ後頭部を氷で冷やしながらアッシュが割って入る。もう片方の手には徳利が握られており、顔もほんのりと赤い。

「放っといてよ。オリジナルには分かんないよ」
「フン……オリジナルにはオリジナルなりの苦労があんだよ」

 相変わらず険悪な雰囲気で背を向け合う2人。イオンとアリエッタはヤレヤレと溜息を吐いた。

「刹那君」

 一方、ネギと話をしていた刹那の所へ詠春が話しかける。

「こ、これは長。私のようなものにお声を……」
「はは、そうかしこまらないで下さい。
 この二年間、このかの護衛をありがとうございます。私の個人的な頼みに応え、よく頑張ってくれました。苦労をかけましたね」
「ハッ、いえ……お嬢様の護衛は元より私の望みなれば……勿体無いお言葉です。しかし申し訳ありません。私は結局今日お嬢様に……」
「話は聞きました。このかが力を使ったそうですね」
「はい、重傷のはずの私の傷を完全に治癒するほどのお力です」
「それで刹那君が大事に至らなかったのならむしろ幸いでした。
木乃香の力の発現のきっかけは君との仮契約かな? ネギ君」
「恐らくは……」
「えう!?」

 ネギは話を振られ、修学旅行へ行く前、明日菜のカードを羨ましがった木乃香に頬にキスされ、スカカードが出来たコトを思い出して慌てた。カモに至っては帽子を被ってドコかへ逃げ出そうとしている。

「そ、そ、そ、そうなんですか!? あの僕、す、す、す、すいませ……」
「ははは、イイのですよネギ君。このかには普通の女の子として生活してもらいたいと思い秘密にしてきましたが……ずれにせよこうなる日は来たのかもしれません。刹那君、君の口からそれとなくこのかに伝えてあげてもらえますか?」
「長……」

 刹那は、詠春の頼みに、その場だけは素直に頷けなかった。


 宴を終えると、明日菜、刹那、アリエッタの3人は大浴場で疲れを癒していた。

「ふぃ〜っ♪ 今日は色々あって汗かいたから、サッパリする〜〜〜」
「フフ……疲れもしっかり洗い流してくださいね」
「…………」

 明日菜と刹那は身体にお湯をかけている間、アリエッタは既に湯につかり顔まで沈ませている。頭にタオルを載せている姿が妙にシュールだったりする。

「にしても広いお風呂よね〜」

 屋敷の広さにも驚いたが、人が10単位で入れるかもしれない風呂の広さにも感嘆する明日菜。

「あれ? このかのお父さんが関西呪術協会の長ってコトは……えーとつまりこのかは?」
「そ、それはあの……」
「強い素養を持った魔法使い……です」

 素質だけならばサウザンドマスターの息子であるネギと遜色ないだろうとアリエッタが説明する。しかし、今更なので明日菜は「ふ〜ん」で済ますと、刹那に詰め寄った。

「あ、それより聞いたわよ。シネマ村で、このかのコト身を挺して守ったんだってね。
 何か刹那さんってお姫様を守る騎士って感じだよねー。ただのボディーガードってゆー関係じゃないってゆーか」
「なっ、そそそ、そんな関係じゃありませんよ!
 そーゆー神楽坂さんはどうなんですか!?
「へ?」
「神楽坂さんがネギ先生にあんなに一生懸命協力するのはちょっとおかしいです!」
「な、ななな、何の話してんのよ!」

 2人とも顔を赤くしながら口論する。恥ずかしがる少女2人の横で聞いていたアリエッタが呟く。

「別に大事だと思う人を守るのは恥ずかしいコトじゃない」
「へ?」
「アリエッタさん?」
「何でもないです……」
「はぁ、そうですか………あ、神楽坂さん」
「神楽坂って言いにくいでしょ? 明日菜で良いわよ」
「あ、はい。それじゃあ私も刹那で……。
 あの、明日菜さん。色々と話したいことがあるので、後でこのかお嬢様と一緒に、このお風呂場に来て頂けますか?」
「え、うん、イイけど……」

 頷く明日菜。と、その時、脱衣所の方から声が聞こえた。

「何でアンタなんかと……」
「他にするコトもねぇんだ。文句言うな」

 シンクとアッシュの声だった。明日菜達は慌てて岩の陰に隠れた。

「ふぅ……イイ湯だ」
「どうでもイイけど何で頭にタオル巻いてんの?」
「格好イイじゃねぇか」
「…………まぁ、アンタがイイなら構わないけど」

 頭にタオルを巻いているアッシュに呆れつつ、2人は湯に浸かる。

「ふぅ……生き返る」
「ホントに生き返ってるでしょ」
「…………情緒の無い奴め」
「ま、同意はするけどね」

 フゥ、と2人揃って息を吐く。

「ねぇ……アンタ、いつからこっちにいるの?」
「そうだな……かれこれ3年ぐらいだな」
「…………3年、ね」
「お前は?」
「1年ちょっと。色々あったよ」
「ふん。お前も負けたというコトは、奴らはヴァンの元まで辿り着いた、というコトか」
「アンタがくたばった所為で、アイツが第二超振動なんて化け物みたいな力を身に付けたんだよ……そもそも6対1は分が悪過ぎる」

 遠回しに1対1で負けた奴に偉そうに言われたくない、と言っているように聞こえたアッシュは血管を浮かべる。

「はぁ……随分と遠くまで来ちゃったね。僕もアンタもアリエッタも……」
「俺は何が何でも帰るがな……お前はどうする?」
「…………未練は無いさ。あっちには」
「だろうな……」

 シンクの言葉に、アッシュは納得した様子で顔を伏せる。
 岩陰で聞き耳を立てていた刹那と明日菜だったが、いまいち内容が良く分からなかった。

「ちょっと、アリちゃん、何なの今の話?」
「…………いずれ話すです」

 少なくとも、こんな所で素っ裸のまま話すような話じゃないと答えるアリエッタ。

「しかし10歳で先生とは、やはり凄い」
「いえ、そんな……」
「このかのコト、よろしくお願いしますよネギ先生」
「はい、分かりまし……あれ? お兄ちゃんにアッシュさん?」
「おお、お2人も一緒でしたか」

 そこへ、ネギと詠春も入って来た。2人も湯に浸かると、唐突に詠春が謝ってきた。

「この度はウチの者たちが迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。
 昔から東を快く思わない人はいたのですが、今回は実際に動いた者が少人数で良かった。後のコトは私達に任せて下さい」

 現在、人手不足で西の腕利きのものは殆ど出払ってしまっているが、明日の昼頃には戻って来るので、今回の件の犯人達は全てひっ捕まえると詠春は約束する。

「そういえば、結局、あのサル女の目的は何だったの?」
「サル? ああ、天ヶ崎 千草のことですか。彼女には色々と西洋魔術師に対する恨みのようなものがあって……いや、困ったものです」
「何でアンタの娘を狙うんだ? 奴ら、子供教師の親書以上に、アンタの娘を狙っていたようだが……」
「切り札が欲しかったのでしょう」

 詠春の話によれば、木乃香は魔法使いの血統であり、その潜在魔力はネギの父親であるサウザンドマスターをも上回るモノで、その力を利用すれば、西を乗っ取り、東を討つコトも容易いと相手は判断したのだろうと説明する。

「ですから、このかを守るために安全な麻帆良学園に住まわせ、このか自身にもそれを秘密にしてきたのですが……」
「なるほどね」
「あ、あれ? ところでサウザンドマスターのことを御存知なんですか?」

 ふとネギは先程の説明で、サウザンドマスターが自分の父親であるコトを知っていた詠春に尋ねると、彼は何かを思い出すように笑った。

「君のお父さんの事ですか? フフ、良く存じてますよ。何しろ私は、あのバカ………ナギ・スプリングフィールドとは腐れ縁の友人でしたからね」

 グッと親指を立てて答える詠春。それに唖然となるネギ。
 するとその時、脱衣所から騒がしい声が聞こえた。

「ですから、あのシネマ村の一件はどう見ても不可思議なのです!」
「だからもー、CGだってばCG」
「私をこのかさんと一緒にしないで下さい」

 どうやら他の女子達も入って来たようだ。

「おやおやご婦人方が……これはいけませんね! 緊急事態です、お三方! 裏口から脱出しますよ!」
「え、あっ、長さん!?」
「逃げるよ、アッシュ!」
「あ、ああ」

 詠春に続き、ネギが逃げる。更にスケベ大魔王などという不名誉な称号を頂いたシンクは血相を変えて逃げようとするので、アッシュは驚く。
 しかし、悲しくも4人が逃げた方向には、明日菜達が隠れている岩があった。
 そして、ネギは足を滑られて前に倒れると、明日菜は「きゃあ!」と悲鳴を上げた。

「あ!?」
「おや?」
「げ……」
「ぐぁ……」

 明日菜の上に乗っかり、彼女の胸を掴んでしまっているネギ。シンクは素っ裸で唖然となってるアリエッタを見て顔を引き攣らせ、アッシュは鼻血を垂らして湯の中に倒れた。

「朝倉さん、私に何か隠してるでしょう!?」
「からみ上戸だね〜、ゆえっち」
「私は酔ってませーん!」

 更にそこへ、朝倉、のどか、ハルナ、夕映、そして木乃香までもが入って来た。そして、目の前の光景に大声を上げて騒いでしまった。


「あいたた……アリエッタの奴……」
「大変でしたね」

 アリエッタに叩かれた頬を押さえながらボヤくシンクに、薬を塗るイオンは苦笑した。ちなみに今のイオンの格好は花柄の黄緑色の浴衣である。

「アンタ、女の格好楽しんでない?」
「新鮮な気持ちを味わえて楽しい所もありますね」
「…………たまに、その能天気な性格が羨ましく感じるよ」
「ハハ……ですが、元の世界に戻ったらどうしましょう? アニスに怒られちゃいます」
「アンタも元の世界に戻りたいクチ?」

 シンクのその質問に、イオンは「勿論です」と笑顔で頷いた。イオンにとって、元の世界は色々なコトに気付かせてくれた仲間がいる世界だ。帰りたいと思うのも当然だろう。

「アリエッタも戻りたいって言ってるし……僕だけかね、あっちに未練が無いのは」
「それは違いますよ、シンク」
「?」
「元の世界に未練がないと言うより……こちらの世界に大切なモノが出来たんじゃないですか?」
「…………そんなんじゃ……」
「素直に、ですよ」
「〜〜〜〜〜!」

 ポン、とガーゼを張って薬箱に蓋をするイオン。シンクは何も言い返せず、歯噛みする。が、そこでハッと表情が変わり、立ち上がった。

「ど、どうしましたか?」
「…………」

 シンクは徐に襖を開けて周囲を見回す。

「…………静か過ぎる」
「え?」
「人の気配が感じられない」

 そう言われて、イオンも周りを見ると、明かりは元より人の声がまるで聞こえなかった。

「シンク、これは……」
「来い!」

 シンクとイオンは走り出す。何か妙に嫌な予感がした。
 廊下を走っていると、廊下の角から小さな声がした。2人が角を曲がると、ネギと刹那、そして身体の半分が石化している詠春がいた。

「長さん!?」
「お兄ちゃん! イオンさん! 無事だったんだ……」
「どうなってるんだ、これ?」
「皆さん……も、申し訳ありません。本山の守護結界を聊か過信していたようです」
「待ってください。すぐに僕の治癒術で……」
「いえ!」

 イオンが治癒術をかけようとしたが、詠春はそれを拒否した。

「この石化を治す魔力があるなら温存しておいてください。皆さん、白い髪の少年と、仮面をつけた少年に気をつけなさい。格の違う相手だ」

 そう言うと、詠春の石化の進行が首にまで達する。

「頼み……ます……」

 そして詠春は完全に石になってしまった。ネギと刹那は愕然となるが、シンクはその2人に言い放つ。

「ショックを受けてる暇なんて無さそうだよ」
「え?」
「獅子戦吼!!!」

 突然だった。獅子の形を持った衝撃波が襖を破り、4人に襲い掛かって来た。

「ぐぁ!」

 それと一緒にアッシュも吹き飛んで来て、地面に叩きつけられる。

「アッシュさん!?」
「ちぃっ! クソッタレが!!」

 アッシュは口許の血を拭い、前方を睨みつける。そこには、大きな鎌を携えた黒獅子がいた。

「ラルゴ!?」
「やはり敵か!」

 刹那とネギは咄嗟に黒獅子に向かって武器を構えるが、その前にシンクが立った。

「お兄ちゃん?」
「コイツの相手は僕。アンタらは、とっとと木乃香を助けて来い」
「え?」
「早く行け!」
「は、はい!」
「すいません!」

 ネギと刹那は頷き、急いでその場から離れた。残ったシンクは、カードを出し、『来れ(アデアット)』と唱えると、彼の両腕に銀色に輝く手甲が現れる。イオンも杖を出して身構えた。

「アッシュ、悪いけどアリエッタを探してよ。手傷を負ってるアンタは邪魔だ」
「…………けっ」

 渋面を浮かべながらも、アッシュもその場から離れた。

「アッシュ、弱くなりましたか?」
「違うね……そこの記憶喪失野郎が、僕らと違ってこっちの世界でも修羅場を潜って来たんだよ」

 アッシュも決して弱くない。しかし、黒獅子は、こちらの世界で記憶を失い、それでも戦いの中に身を置いてきた。昼は何とか運良く勝てたが、今度は勝てるか分からない。黒獅子も先の戦いで、ウィークポイントを克服しているかもしれない。
 が、ココは退くわけにもいかず、シンクは拳を強く握り締めた。


「行かせないよ」

 一方、木乃香のもとへ向かっていたネギと刹那だったが、その途中で相手の妨害に遭遇した。仮面をつけ、緑色の髪をポニーテールにした少年だった。
 2人は、目の前の少年が詠春の言っていた人物の一人だと確信し、武器を構える。

「僕と戦う気かい? 面白い……一つイイ事を教えてあげるよ」

 仮面の少年は、杖を回し、ピタッと2人に突きつけた。

「僕には未来が分かる…………君達2人、僕の足許で這い蹲るよ」


「クソ……」

 思わぬ深手を負ったアッシュは、アリエッタを探さず森の中へ移動していた。木にもたれ掛かり、唇を噛み締めながら携帯を取り出す。

「あの記憶喪失の屑野郎……次はやられねぇからな」

 愚痴りつつ、ドコかに電話するアッシュ。

「俺だ。本山に入ったが、敵に襲撃を受けた…………そうだ。誰でもイイ。とっとと援軍を寄越せ!」


 後書き

 アッシュ、ヘタレ街道爆進中。やはり、テイルズ主人公一のヘタレのオリジナルなだけはあります。この小説で最も苦労人なのはシンクですが、不幸なのはアッシュかもしれません。


 レス返し

 >そろーさん
 初めまして〜。イオン様の女性化は私も冒険でしたが、重ね重ね好評で良かったです。流石、発売したとき女だと思って私を興奮させただけのお方です。


 >エのさん
 アッシュはゲームの時からボケ役でしたからね〜。彼の脳内はナタリアが60%を占めています。なので、イオン様の女性化は避けられなかったのです。
 ラルゴ強いですよ。1年以上、基礎トレしかしてないシンクと、ずっと傭兵として実戦に身を置いていた差は大きいです。フェイトは今回、出番すらありませんでした。


 >冬さん
 後、アニスにはフローリアンがいますしね〜。でも、シンクとイオンって双子よりも近い存在ですからね。遺伝子的にも肉体的にも。それは、それで萌えるものがありますけど。


 >覇邪丸さん
 やめてください!! ルクイオ、実は好きです! そんなコト言われたら、やりたくなっちゃうじゃないですか!←ダメ人間の主張。

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