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「Tales of the Negima! 第十四節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-03-10 15:54)
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「シンク君?」
「下がってなよ」

 グイッと明日菜の身体を押して、シンクは黒獅子と対峙する。

「お前か……」

 イオンからシンクへと替わった目の前の少年を見て、黒獅子は表情を引き締め、鎌を彼に向かって振り下ろした。しかし、シンクは手甲を交差させて防ぐ。

「ぬ……!?」
「(アレ……アーティファクト?)」

 明日菜は、イオンと共に出現したシンクの仮契約カードを思い出す。アレには、今、彼がしているものと同じ銀色に輝く手甲が描かれていた。

「喰らえ!」
「!?」

 シンクは黒獅子の鎌を弾くと、一気に間合いを詰めて身体を回転させる。

「流影打!!」

 ラリアットのように、黒獅子のボディに回転で勢いをつけた拳を浴びせる。遠心力の付いた拳の威力はかなりのもので、体格差がありながらも、黒獅子の表情が苦痛に歪む。
 しかし、黒獅子は踏ん張ると鎌の柄を地面に叩き付けた。

「地龍吼破!!」

 すると地面が割れ、土砂が巻き上がる。シンクは石つぶてを手甲でガードするも、そこへがら空きの鳩尾に黒獅子の蹴りが決まった。

「ぐ……!」

 吹き飛ばされ、竹に叩きつけられるシンク黒獅子は、その間に腰を落とし、力を溜める。

「本気で行くぞ! 業火に呑まれろ!」

 周囲を全て焼き尽くしそうな炎が鎌に宿る。

「ちょ、ちょっとちょっと! アレって何かヤバくない!?」
「!?」

 明日菜が声を荒げ、シンクは眉を寄せる。黒獅子は、この一撃で決めるつもりだ。炎の宿った鎌を大きく振り上げる。

「紅蓮旋衝ら……」
「連撃行くよ!!」

 黒獅子が鎌を振り下ろそうとした瞬間、シンクは竹に足をかけ、撓りの反動を利用し、相手に向かって突っ込んで来た。そのスピードは、正に『緑の閃光』と呼ぶに相応しく、一瞬で黒獅子との間合いを詰めた。
 そこからは、シンクの拳と蹴りの嵐だった。相手の急所に的確に叩き込んでいく。

「が……ぁ……!」
「トドメ! 疾風雷閃舞!!」

 最後に魔力を込めた拳を鳩尾に決める。腹部に見事に埋まっている拳を引き抜くと、黒獅子は膝を突いた。

「バカ……な……」
「昔からアンタは大技出すと隙が出来る。僕がスピードタイプだっていうのを忘れてたのがアダになったね」

 黒獅子は呻き声を上げ、ドサッと倒れた。
 フゥと息を吐いて口元の血を拭うシンクへ、明日菜が駆け寄って来る。

「シンク君!」
「よ」
「凄い! あの怪物に勝っちゃうなんて!」
「…………昔のコイツだったら分かんなかったけどね」

 倒れている黒獅子を見て呟くシンク。2人はネギ達と合流する為、その場から離れた。


「の、のどかさん?」

 突然、現れたのどかにネギ、カモ、ちびせつなは唖然となった。のどかは、アッシュを見て彼が頷くと、倒れている小太郎に質問した。

「あ、あの小太郎君。ココってどうやったら出られるの?」
「は……ア、アホか。そんなん教える訳……」

 が、のどかは最初から小太郎が素直に答えてくれるなど思っていない。のどかは、本に浮かび上がったコトをネギ達に伝えた。

「こ、この広場から東へ六番目の鳥居の上と左右三箇所の隠された印を壊せば良いそうです」
「えぇ!?」
「な、何でや!? 何で分かったんや!?」
「と、とにかく急いで出ましょう!」

 何でのどかがココにいるとか、そんなコトが分かるのが疑問だったが、ネギ達は、彼女の言われた鳥居の印を破壊しようとする。
 が、そこへ小太郎が「待て!」と一同を引き止めた。フラフラながらも立ち上がると、小太郎はネギ達を睨みつける。

「こ、この俺が、お前らを素直に行かせる思うんか?」
「何?」
「ネギ・スプリングフィールド……お前はココで俺がやる!」

 すると、ゴキゴキッと小太郎の関節が変化し、髪の毛と尻尾が真っ白になって、筋肉が膨れ上がった。

「んなぁ!?」
「あわわわ……」
「そんな! まだ戦えるの!?」
「行かせへんで。この俺のプライドに懸けてな!」

 地面を蹴って小太郎が突っ込んできて腕を振り下ろすと、衝撃だけで地面が抉れた。
 獣化による彼のスピードとパワーは、先程までとは比べ物にならないぐらいアップしていた。ネギは、仕方なく再び自身に魔力供給を行おうとする。が、アッシュが剣を持って、彼の前に出た。

「アッシュさん?」
「安心しろ。手は出させん」

 そう言うと、アッシュは剣を高く掲げた。

「手加減してやるよ!」

 するとアッシュの体が激しく光り輝き、小太郎はその衝撃に飲み込まれる。

「うああああああああああ!!!!!」

 悲鳴を上げる小太郎。アッシュは更に剣を地面に突き刺すと、足元に陣が浮かび上がった。

「絞牙鳴衝斬!!」

 光は更に輝きを増し、小太郎にダメージを与える。やがて光が収まると、黒髪に戻った小太郎は無言で地面に倒れた。

「し、死んじゃったんですか?」
「えぇ!?」

 ピクリとも動かない小太郎を見て、恐る恐るネギがアッシュに尋ねる。アッシュは笑みを浮かべて答えた。

「心配するな。死んじゃいない。派手にやったが、かなり手加減した。むしろ俺よりお前の与えたダメージの方がデカい」

 ネギの渾身の魔力のこもったパンチを食らった後、至近距離での電撃。そんな大ダメージを受けた後に、無理に獣化して突っ込んで来た。小太郎の身体は既に限界だった。
 ネギとのどかは、死んでいないのでホッと安堵する。すると、竹林の中から明日菜の「ネギ〜!」と呼ぶ声が聞こえた。

「アスナさん! イオンさん!」
「ネギ! 無事だった!?」
「はい!」

 竹林から出てくるなり、明日菜はネギにどこも怪我していないかと駆け寄って来る。

「約束は守ってやったぞ」

 すると腕の怪我を押さえたアッシュが、明日菜に言って来て彼女は戸惑いながらも「ありがとう」と言った。

「…………何でアンタがココにいるの?」
「? お前、シンクか?」
「え? お兄ちゃん?」

 シンクは、アッシュがいるので不審そうに尋ねる。一方のアッシュとネギは、イオンではなくシンクだったのでキョトンとなった。

「あぁ〜!! ほ、本屋ちゃん!? 何で本屋ちゃんがココにいるの〜!?」

 が、明日菜がのどかに気付き、驚きの声を上げた。

「兄貴、旦那。とりあえず、まずは、こっから出ようぜ」
「う、うん」

 一同はカモに言われ、ひとまず気を失っている小太郎を置いて、結界から出ることにした。


 結界から出ると一同は河原で休息を取ることにした。そこで、まずはのどかに、この現状を説明しようとするが、ネギは口ごもる。

「えーと……あの……その……バレちゃいましたね。黙っててすいません……秘密だったので……」
「いいえ……あ、あの……前から薄々は……」
「え!? そうなんですか!?」

 しかし、のどかは魔法のように本の中の世界のコトだけだと思っていたものが、こうして目の前に存在しているコトに、少しだけ嬉しそうにドキドキしていた。
 ネギと明日菜は、彼女の順応力の高さに感心する。

「で、でもネギ。本屋ちゃんは巻き込まないんじゃなかったの?」
「は、はい。でも、ここまで知られちゃったら……」

 ネギ、明日菜、ちびせつなは、のどかをこのまま連れて行くべきか連れて行かないべきか迷った。が、カモは3人を差し置いて、のどかと堂々と会話する。

「しかし、コイツは使い方によっちゃ、異常に強力なアイテムだぜ!
 いや〜、強力なパートナーが仲間に入って良かったぜ!」
「コラそこ、エロガモー!!」

 勝手に話を進めるな、と明日菜が怒鳴る。しかし、こうなってしまっては、のどかを巻き込むしか無いと思う。

「はぁ、どうしよ……」
「のどかさんの方も問題ですけど……こっちもこっちで問題ですよ」

 3人から少し離れた岩の上では、シンクとアッシュが互いに背を向けて沈黙していた。アッシュは黙々と腕に包帯を巻き、シンクはただ黙って膝を立てて座っている。
 その雰囲気は物凄く険悪で、ネギ達は声をかけられないでいた。

「…………新幹線で僕の席の隣にいたの、アンタだろ?」

 すると、いきなりシンクの方から口を開いた。

「それがどうした?」
「何で正体明かさなかったのさ?」
「ふざけんな。俺とお前は敵同士だ。簡単に正体明かせるか」
「じゃあ何で今になってネギを助けたりなんかした?」
「…………今のお前になら正体を明かして構わないと判断したからだ」
「…………ふん」

 笑みを浮かべるアッシュに対し、シンクは更に不機嫌そうな顔になる。

「あ、あの……」

 と、そこへネギが恐る恐る声をかけてきた。シンクはチラッとネギを見る。

「お、お兄ちゃん……その……久し振り」
「…………ああ、元気そうだね」

 そう言って、シンクはポンとネギの頭に手を置いた。その行動にネギは「へ?」と目を点にする。明日菜とのどかも驚いた様子でシンクを見ている。

「ククク………冷酷冷徹な『烈風のシンク』が随分と優しいお兄ちゃんになったもんだね」
「!?」

 後ろから笑うアッシュに、シンクは少し頬を赤くし、振り返った。

「はっ! そっちこそ……何、その髪? どっかの誰かの真似でもして変わるつもりだったの? アンタ、アイツのこと嫌ってたくせに?」
「!? んだと!? お前こそ他人と馴れ合うのが嫌いなくせに、女子中生どもと仲良く旅行か!? えぇ!?」
「僕は仕事だよ! それより聞いたよ!? アンタ、不良予備軍って呼ばれてるそうじゃないか!」
「それは、ハリセン女が勝手に言ってるだけだ!」

 先程までの無言での険悪な雰囲気から一転し、子供の口喧嘩みたいになるシンクとアッシュ。互いに睨み合う2人。そのまま戦い出しそうな勢いだ。

「そもそも……何でアンタがココにいるのさ?」
「ん? あ、忘れてた」

 が、シンクの質問でアッシュはハッとなって手を叩いた。

「おい、シンク。お前と導師の身体を分割するぞ」
「…………は?」
「「「え?」」」

 いきなりなアッシュの発言にシンクを始め、ネギ達も間の抜けた声を上げた。

「あ……」

 しかし、その時、突然、ちびせつなの姿がブレた。

「ど、どうしたの!?」
「い、いけません……本体の方で何かが……連絡が途だ……」

 ポン、と煙を立てて、ちびせつなは紙に戻ってしまった。カモは、紙を拾って声を震わせる。

「こ、こりゃマズい。刹那の姉さんの方に何かあったな……」
「「「え〜〜!?」」」

 驚愕の声を上げるネギ、明日菜、カモ。が、シンクが落ち着くよう言った。

「安心しなよ。向こうには、刹那だけじゃなくてアリエッタだっている。ラル……黒獅子レベルの相手が出てこない限り負けないよ」
「ほ、本当?」
「アリエッタを侮るんじゃねぇ」
「え? アッシュさんって、アリエッタさんとも知り合いなんですか?」
「ふ……昔は俺もシンクもアリエッタも……それに、あの黒獅子も同じ戦場を駆け巡ったな」
「「「嘘!?」」」

 昔を懐かしむようなアッシュの台詞に、ネギ、明日菜、のどかが揃って声を上げる。シンクは、アッシュを無言で睨むと、彼は余計なことは話さないと相槌を打つ。

「本当だ。少し有名なんだがな……黒獅子の奴、しばらく見ない間に記憶を失ってやがったな」
「それじゃあ、お兄ちゃんやアッシュさん、昔の仲間と戦ったってコト?」

 辛くないんですか、とネギが尋ねると、シンクはフンと鼻で笑った。

「やらなきゃ、こっちがやられてる。それに向こうも僕らを覚えてないしね………それよりアッシュ。僕とイオンの身体を分割させるって出来るの?」

 少し昔話に花が咲いたが、シンクは先のアッシュの言葉を尋ねる。
 シンクとしては、そんなコトが出来るのなら是非ともお願いしたかった。何しろイオンは、シンクにとってコンプレックスの元凶でもある。そんなのと肉体を共有していたら、気持ち悪いことこの上なかった。

「出来る。俺の力を忘れたか?」
「アンタの…………それってまさか……」

 珍しく不安そうな表情になるシンク。アッシュは、何やら企んでるかのように、ニヤリと笑みを浮かべた。
 シンクはとことん嫌な予感がした。何しろ彼の力といえば、下手すりゃ消滅させられかねないからだった。


 シネマ村。その名の通り、映画などの撮影が行われたりする観光名所で、訪れた人達は、時代劇の登場人物のような服に着替える。
 白昼堂々と襲い掛かってくる敵に対し、刹那とアリエッタは、木乃香をココへ連れて来た。少なくとも、大勢の人がいるココでは、派手に襲い掛かってこないだろうと踏んでの作戦だった。

「どう?」
「ダメですね。敵の所為で、式神との連絡が切れました」

 ネギと連絡を取ろうとした刹那だったが、ちびせつなが元の紙型に戻り、ネギと連絡が付かなかった。ちびせつなを通して見た感じでは、意外な加勢があったものの、ネギの疲労は酷く、アッシュも怪我を負っている。と、なると向こうで、まともに戦えるのはシンク、そして辛うじて明日菜といった所だった。

「せっちゃん、アリちゃん」
「はい?」
「?」

 そこへふと木乃香に声をかけられて振り向くと、彼女は艶やかな着物を着ていた。

「お、お嬢様、その格好は!?」
「知らんの? そこの更衣所で着物、貸してくれるんえ。どう?」
「ハッ……いや、その……もう、お、お綺麗です」
「似合ってる」
「きゃー、やったー」

 2人の親友から褒められて木乃香はクルクルと回る。刹那は頬を赤らめ、本当に綺麗になった木乃香に動揺した。すると、木乃香が刹那とアリエッタの手を掴んできた。

「ホレホレ。せっちゃんも、アリちゃんも着替えよ。ウチが選んだげるー」
「え!? いえ、お嬢様! 私、こーゆーのは!?」

 拒否する刹那を無理やり引っ張り、2人はそれぞれ木乃香の選んだ服を着替えさせられる。

「なぜ私は男物の扮装なのですか?」
「似合ってるです」

 夕凪が死ぬほどそぐわない新撰組の羽織を着た刹那に、茶屋の娘のようなお盆を持ったアリエッタがフォローを入れる。

「じゃ、アリエッタは離れるです」
「え!? な、何で……」
「たまには2人っきりで頑張るとイイです」

 学園ではアリエッタが、木乃香と堂々と一緒にいて守っていたのに対し、刹那はずっと陰で見守る形しか取らなかった。折角、武士と姫の扮装をしているのだから、これを機会に打ち解ければイイというアリエッタの気遣いに、刹那は慌てる。

「も、もし敵の刺客が来たら……」
「ちゃんと影ながら見守ってるです」
「だったら一緒にいて下さいよ!」
「それじゃ」

 懇願する刹那を振り払い、アリエッタはドコかへ走って行った。刹那はアリエッタに手を伸ばしたまま、固まってしまう。

「せっちゃんせっちゃん」
「あ、は、はい?」

 そこへ、出店などを見ていた木乃香に呼ばれて振り返る。

「ふぉれ甘食」
「ぶっ」

 饅頭を頬張ってカエルみたいに顔を膨らませている木乃香に、刹那は思わず噴いて笑った。

「く……す、すいませ……」
「へへへ……やっと笑ってくれた、せっちゃん」
「え?」
「あれー? アリちゃん、ドコいったん?」

 木乃香の言葉に唖然となる刹那だったが、ふとアリエッタの姿が見えないことに気付いた彼女に、慌てて答えた。

「え、えっと……何か見たいものがあるとかでドコかに行っちゃいました」
「そうなんや。それやったら、せっちゃんと2人っきりやな〜」

 そう言って、木乃香はギュッと刹那の腕に自分の腕を絡めて来た。

「お、お嬢様!?」
「えへへー」

 と、その様子を見て美少年剣士とお姫様と思った学生の団体が写真を撮ってイイかとねだって来たりした。


 そんな刹那と木乃香をこっそりと物陰から見ている二つの視線があった。

「ただの仲の良い二人にしか見えませんが……」
「いや、これは間違いないよ、ホント」

 ハルナと夕映だった。2人は、急に刹那が木乃香をシネマ村に引き込んでいったので、ひょっとして禁断の愛かと思い、こっそりと様子を窺っていた。

「ふっふっふ。確かに怪しいね〜、あの二人」
「わぁ!? 朝倉にいいんちょ達!?」

 そこへなぜか、朝倉、あやか、千鶴、夏美、千雨、ザジの3班がいた。

「アンタ達もシネマ村来てたんだ。てか何ガッチリ変装してんのよ」

 朝倉は浪人、あやかはお姫様、千鶴は西洋婦人、夏美は町娘、千雨は巫女、そしてザジはバカ殿(?)の格好をしている。

「あー、何か来たよ」

 ふと夏美が、刹那と木乃香の所へ馬車が来ているのに指差した。


「!?」

 けたたましい蹄の音に刹那は表情を引き締めて振り返ると、馬車が彼女らの前で停止した。刹那は、その馬車に乗っている人物を見て驚愕する。

「お、お前は!?」
「どうも〜。神鳴流です〜」

 そこに座っていたのは西洋の人形みたいな服を着た神鳴流剣士の月詠だった。

「じゃなかったです。そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます〜。そこな剣士はん。今日こそ借金のカタにお姫様を貰い受けに来ましたえ〜」

「な、何? な、何のつもりだ、こんな場所で?」
「せっちゃん、これ劇や劇。お芝居や」

 シネマ村では、良く観光客を相手に唐突に芝居が始まったりする。刹那は、相手はソレを利用し、堂々と大衆の中で木乃香を攫おうとしているのだと理解した。

「そうはさせんぞ! このかお嬢様は私が守る!」
「きゃ〜! せっちゃん、格好ええ〜!」
「わっ! い、いけません、お嬢様……」

 一応、芝居っぽい台詞を吐く刹那に、木乃香は抱きつくと、彼女は顔を赤くし、動揺した。

「そーおすか〜。ほな、仕方ありまへんな〜……えーい!」

 そう言うと、月詠は、手袋を外して刹那に投げつける。

「このか様を賭けて決闘を申し込ませて頂きます。30分後、場所はシネマ村、正門横『日本橋』にて……。
 ご迷惑と思いますけど、ウチ、手合わせさせて頂きたいんですー。逃げたらあきまへんえー………刹那先輩」

 最後に殺気を込めて言う月詠。それを敏感に感じ取った木乃香は、ビクッと震えた。

「ほな、助けを呼んでも構いまへんえ〜」

 そう言って、月詠は去って行った。刹那は、こうなったらやるしかないと決意すると、再び地鳴りが聞こえた。

「ちょっと桜咲さん、どういう事よ!?」
「今の心境は!?」
「うわぁ!?」

 いきなりハルナや夕映だけではなく、朝倉達が現れて刹那を質問攻めにして来た。

「も〜! 何でこんな重要なこと黙ってたの!?」
「それで、二人はいつから付き合ってるの!?」
「今の子は何!? センパイとか言ってたから昔の彼女とか!? きゃ〜! あー、そっか。桜咲さんもこのかも、京都出身だもんねー! なるほどー!」

 質問攻めにあい、刹那は唖然となった。

「大変ですね、刹那」

 ちゃっかりと、いつの間にか混じっていたアリエッタがポツリと呟いた。


 日本橋にやって来ると、刹那はハァと溜め息を吐いてしまう。いつの間にか、クラスメイト達は刹那と木乃香が付き合ってると思い、二人の恋の応援という名目で付いて来た。
 3−Aの面々の押しの強さには敵わず、本当のことを話すわけにもいかないので、こうして一緒に行動している。朝倉は事情を知ってる筈なのに、楽しんでいる。

「桜咲さん、アリエッタさん」
「え?」

 その時、空中から声が聞こえたので振り向くと、光の玉が飛んで来て、小さなネギと、それに乗ったカモが現れた。

「ネ、ネギ先生!?」
「何でココに?」
「えと……ちびせつなの紙型を使って、気の跡を辿って……それより、一体、何が?」

 ミニネギに尋ねられ、説明しようとすると橋の方から声がかかった。

「ふふふふ……ぎょーさん連れて来てくれはっておおきに〜。楽しくなりそうですな〜……ほな、始めましょうか。センパイ?」

 いつの間にか橋の上に立っている月詠。そして、その隣には何やら般若の面を被った浪人姿の緑の髪の少年が立っていた。
 どうやらアレも仲間らしいと刹那とアリエッタは気を引き締める。

「このか様も刹那センパイも……ウチのものにしてみますえ〜」

 そう言って刀を構える月詠。刹那も刀に手をかけて前に出ようとすると、ふと木乃香がギュッと服を掴んで来た。

「せ、せっちゃん……あの人、何か怖い……き、気をつけて……」

 そう言われて刹那は一瞬、驚愕したが、振り返って安心するよう笑顔を浮かべた。

「安心してください。このかお嬢様……何があっても、私がお嬢様をお守りします」

 すると、周りが感動して拍手した。

「え!? な!?」
「桜咲さん、格好良いわね〜」
「ウチの部に来てくれないかな〜?」
「桜咲さん! お二人の愛!! 感動しましたわ! お力をお貸しします!」
「だから違うんですってば、いいんちょー!!」

 涙まで流して感動し、刹那の手を握り締めるあやか。刹那は否定するが、彼女の耳には届かない。

「ホホホホ! そちらの加勢はそのお面を被った男の子だけかしら? 私達、桜咲さんのクラスメートがお相手いたしますわ!」

 刹那の言葉など聞かずに勝手に話を進めるあやか。刹那は舌打ちし、月詠に言った。

「ツクヨミ……と言ったか? この人達は……」
「ハイ、センパイ。心得てます〜。この方達には私の可愛いペットがお相手しますー」

 月詠は頷くと、幾つもの札をバラ撒いた。すると、札から幾つものファンシーな妖怪が出て来た。

「ひゃっきやこ〜う」

 するとデフォルメ妖怪達は、あやか達に群がり、服に手をかけて脱がすという何ともセコい手を使ってきた。

「こ、これは……」
「ネギ先生! このかお嬢様を連れて安全な場所へ逃げてください!」
「え? でも……」

 この状況ではどうしようもないミニネギ。刹那は頷いて印を結んだ。

「見かけだけですが、ネギ先生を等身大にします」

 すると、チビネギが、普通のネギの大きさになり忍者服を着ていた。

「わぁ! 僕は忍者の役ですか?」
「ひゃあ!? ネギ君、いつの間に!? ビックリしたぁ……」

 いきなりネギが出て来て手を掴まれて驚く木乃香。

「申し訳ありません! お願いします!」
「ハイ、このかさん。僕に付いて来て下さい」

 ネギと木乃香は橋から離れ、刹那とアリエッタは橋の上の2人に向かって突っ込む。
 刹那が月詠と激突し合うと、アリエッタは走りながらカードを出す。

「召喚(エウオケム・テー)!!」

 すると、カードが光って体長3mほどの大きな黒い犬が現れた。

「うお! デケー犬!」
「CGか?」
「いいぞ〜! やれやれ〜!」

 アリエッタが少年を指差すと、犬は咆哮を上げて敵に向かって襲い掛かる。少年は根を取り出すと、回転させ犬の喉笛を突いた。動きの止まった犬の毛を掴み、一言呟く。

「消えなよ……塵(ゴミ)」

 そう言って掌底を放つと、激しく光って犬は消滅した。

「!?」
「これで終わりかい?」
「アナタ……一体?」

 自分の召喚した魔獣をいとも簡単に消し去った。並の使い手ではないとアリエッタは悟った。少年は、アリエッタの方を向くと、ゆっくりと歩み寄って来る。アリエッタは恐怖で後ずさった。

「…………君の力はその程度なのかい?」
「え……?」
「君が本気を出せば、このシネマ村にいる連中ぐらい30分もあれば皆殺しに出来るんじゃないのかい?」
「何を言ってるですか? アリエッタ、そんなことしないです」
「本当にそうかい? 君の手は……汚らわしい血のニオイで満ちてるよ」

 その言葉にアリエッタは目を見開いて驚愕する。その時、彼女の視界に天守閣が入った。その上では、ネギが何者かと対峙している。

「! このか!」
「!? お嬢様!?」

 アリエッタが思わず声を上げると、刹那も天守閣の上を見た。少年は舌打ちすると、根を引いた。

「行きなよ」
「「「え?」」」

 唐突に少年が言うと、アリエッタ、刹那、月詠は間の抜けた声を上げた。

「ちょ、ちょっとペルソナさ〜ん。何言うて……」
「煩いよ」

 それは契約違反だと注意する月詠だったが、ペルソナと呼ばれた少年が僅かだが、声を低くして言った。すると彼から異様なプレッシャーが発せられ、刹那と月詠は顔を硬直させ、ガタガタと足を震えさせた。
 まるで蛙に睨まれた蛇。そう比喩するに相応しいぐらい、2人の神鳴流剣士は動けなかった。しかし、アリエッタは違った。

「(何だろう……心地イイ……?)」

 達人である刹那と月詠が怯えている中、アリエッタはペルソナから発するプレッシャーを心地良く感じていた。

「あの女、近衛 木乃香は僕らが捕まえると言ったのに勝手なコトを………僕は自分の言った事を崩されるのが大嫌いなんだ。月詠、分かるね?」
「…………」
「分かるね?」
「は、はい……」

 顔を俯かせ、震えながら月詠は頷いた。ペルソナはアリエッタに振り向くと、スッと天守閣を指差す。

「行きなよ。月詠が邪魔しようとするなら、僕が何とかしてあげる」
「はい……です」

 アリエッタは頷いて天守閣に向かって走る。刹那もハッとなり、アリエッタの後に続いた。その際、ペルソナはすれ違い様に刹那に言った。

「ありがとう……」
「?」

 良く聞き取れなかった刹那は、眉を寄せるが今は一刻も早く木乃香を助けることに集中した。

「(ありがとう、アリエッタを連れて来てくれて。アレは……僕のモノだからね)」


 その頃、天守閣ではネギが敵のボスである天ヶ崎 千草と対峙していた。彼女の傍には、矢を構える鬼の式神と、サルの式神、そして、その上には白髪の少年が立っていた。

「フフ……ネギ言うたか、坊や? 一歩でも動いたら討たせて貰いますえ。さぁ、お嬢様を渡してもらおか」
「ネ、ネギ君、これもCG……とちゃうよね、やっぱ?」

 あの鬼などは、どう見てもCGじゃないので木乃香は恐る恐るネギに尋ねる。

「あの……す、すいません、木乃香さん」

 実体じゃないので、魔法の使えないネギは表情を苦くして謝る。

「ネギ君、大丈夫や」
「え?」
「せっちゃんが何があっても守る言うたんや。必ず、せっちゃんが助けてくれるて」

 しかし、刹那を信じて微笑む木乃香に、ネギは呆然となる。

「何グズグズしとるんや……早よお嬢様を渡しわぷ!?」

 その時、強い風が吹いた。天守閣の上なので、より強く吹いて、木乃香が体勢を崩しかけると、ネギが支えた。が、その所為でネギの体が動き、式神が反応して矢を放った。

「あ〜!!? 何で討つんや〜!?」

 脅しのつもりだった千草だったが、本当に矢を討ったので怒鳴った。式神は「だって動いたんだも〜ん」とチャーミングに答える。

「くっ!」

 ネギは、木乃香を守ろうと前に出て、腕を伸ばすが、実体の無い彼の腕を矢は無常にも貫いて直線上の木乃香に襲い掛かる。
 しかし、矢が木乃香に刺さることは無かった。木乃香を助けにココまで上がってきた刹那が咄嗟に庇い、彼女の肩に突き刺さった。。

「刹那さ……!」

 刹那はゆっくりと天守閣から落ちて行った。

「せ、せっちゃーん!!」

 すると、木乃香も刹那の後を追って飛び降りた。

「このかさん!?」
「このか!?」

 天守閣へ上がる途中のアリエッタは、落下する木乃香と刹那を助けようと、魔獣を呼ぼうとする。しかしその時、木乃香の体から強烈な光が発生した。
 光に包まれた木乃香は堀に落ちることなく、ゆっくりと降下する。それには刹那も驚くが、更に矢が刺さった肩の傷が癒えていった。

「せっちゃん……良かった」
「お、お嬢様……」

 木乃香は刹那を抱きかかえたまま、地面に着地した。

「傷が……無い」

 刹那は、いつの間にか肩の傷が癒えていたので、木乃香を見上げて言った。

「お嬢様……力をお使いに?」
「ウ、ウチ今、何やったん? 夢中で……」

 が、木乃香は何も覚えていない様子で、何があったのか分かっていなかった。

「刹那さーん!」

 と、そこへミニネギとアリエッタがやって来た。

「敵の数も多い! 此処は一度、落ち合おうぜ!」

 ミニネギの頭に載っているカモがそう言うと、刹那は頷き、最初は戸惑いながらも意を決して、木乃香を抱きかかえた。

「ひゃ!?」

 いきなりお姫様抱っこされて驚く木乃香。

「お嬢様、今からお嬢様の御実家へ参りましょう。神楽坂さん達と合流します!」


 その頃……。

「これで良し」

 何かの陣を描き、その中心にシンクを立たせてアッシュは満足そうに頷く。

「こんなんで本当にシンク君とイオン君が分かれんの?」
「当然だ。俺の超振動を見くびるな」
「超……しんどうって何ですかー?」
「物質を破壊したり、再構築したりする力だ」
「破壊!?」

 物騒な単語が出て来て驚愕する明日菜とのどか。ちなみにネギは紙型に集中するため、静かに眠っている。
 シンクは不安そうにアッシュに尋ねる。

「あのさ、アッシュ……アンタのその力、殆ど壊すトコしか見たことないんだけど?」
「お前と導師はコンタミネーション現象に近い状態で融合している。なら、理論的には、あの屑が宝珠を体内に取り込んでいたのと変わらん筈だ」
「いや、アレは無機物だったじゃん……」
「お前と導師は意識が入れ替わると同時に肉体も変化している」

 もし、イオンがシンクの身体を使っているなら、体力は有り余っている筈だ、とアッシュが説明する。つまり2人の意志と同時に肉体も2つあるというコトだ。更に超振動を強化する為の陣を作った。
 2つの意志と肉体、そして超振動による分解と再構築。これだけの条件が揃えば、2人を分離させられるとアッシュは力説する。

「さぁ、始めるぞ!」
「あのさ、もし失敗したらどうなんの?」
「………………行くぞ!」
「目ぇ逸らさず答えろーーー!!!」

 シンクの叫びを聞き流し、アッシュは掌を彼に向かって広げる。すると彼の手と陣が光り輝き、シンクを包み込む。青白い光に覆われたシンクを明日菜とのどかは不安そうに見ていた。

「だ、大丈夫なのかなー?」
「でも驚きました……シンクさんとイオンさんが同じ人だったなんて」
「ん〜、ちょっと違うけど……まぁ私も最初に見たときは驚いたわね」
「そういえば、アリちゃんってシンクさんとイオンさん、どっちが好きなんでしょうか?」
「難しいわね〜……でも、イオン君のこと様付けで呼んでるしね〜。けど、シンク君もイオン君もアリちゃんに恋心なんか抱いてないみたいだけど」

 たまにアリエッタの方が2人にキツい時があると苦笑する明日菜。2人の少女の会話を聞きながらもアッシュは作業に集中する。

「(シンク……イオン……アリエッタ……恋心……………………………ナタリア、元気だろうか?)」

 すると、急に光が激しくなった。

「し、しま……!?」
「ちょ……目つきと性格が悪いようだけど、実はお人好しっぽいお兄さん、大丈夫なの!?」
「変な呼び方すんな!! ちょっと集中が乱れただけだ! 何とか調整する!」
「集中乱さないでよ! まさか、変なこと考えてんじゃないでしょうね!?」
「この俺がナタリアを辱めるようなマネするか!」
「ナタリア?」

 ジト目で睨んで来る明日菜。アッシュはハッとなって、視線を逸らす。明日菜は血管を浮かべ、アッシュに怒鳴った。

「この状況で女のコトなんか考えてんじゃないわよーー!!!」
「お前らにも原因の一端はあるわーーーー!!!」
「あ、あの、アッシュさん! 集中……」

 のどかの叫びは届かず、光は弾け飛び、衝撃波が巻き起こった。アッシュは明日菜とのどかが地面に叩きつけられないよう、背中を向けて衝撃波から庇う。

「ぐ……奴らは?」

 モクモク、と土煙が晴れ、アッシュ、明日菜、のどかは唾を呑んで陣の中心を見る。そこでは2人の人間が手を繋ぎ合い、気を失っていた。

「や、やったじゃん!! 成功よ!!」
「良かったですー」
「ふん、当然だ」

 起きたら、きっと2人ともビックリするだろうと3人は、成功を喜び合う。が、そこでイオンを見てピシィッと固まった。

「ん……」

 寝返りを打ったイオンは裸だった。いや、シンクが表に出ていたし、分かれていきなり服を着ているとは思わない。別に裸でも不思議ではなかった。しかし、3人が驚いたのは、そのイオンの身体そのものだった。
 豊かに膨らんだ胸、白く細い腕と足、そして下半身には“在るべきモノ”が無い。

「み…………見るなーーーーーーー!!!!!!!!」

 真っ先に正気になった明日菜は、ハリセン(ハマノツルギ)を出して、顔を赤くし、鼻血を垂らしかけているアッシュの顔面をどついた。派手に吹っ飛んで川に落っこちるアッシュ。

「ア、アスナさん……」
「あの、人生の下り坂を止まることなく勢い良く派手に転がってるっぽいけど楽しく生きてるっぽいお兄さんが……」
「あ、あの、アッシュさんです」
「あの人が、エロエロなコト考えてたから、こんなコトになったんだわ……きっと……」

 とりあえず何か羽織らせようと、明日菜は川で血を流して――鼻血か明日菜にぶっ飛ばされてぶつけた血か不明――倒れているアッシュの上着を剥ぎ取って、イオンに被せてやった。

「本屋ちゃん、焚き火しよっか」
「は、はいー」

 とりあえずシンクとイオンが目を覚ました時、大変なコトになるが、問題を先延ばしにするコトにした2人だった。


 後書き
 今回の目玉。アリエッタvsペルソナ(正体はバレバレ)、シンクとイオンの分離、イオン女体化(違和感なし)、アッシュ間抜け野郎です。

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