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「Tales of the Negima! 第十三節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-03-06 23:36)
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 千本鳥居の中をのどかは息を切らせて走っていた。ネギ、明日菜、イオンがゲームセンターから抜け出したのを見て気になって追いかけていた。

「(どうしよう……ネギ先生とアスナさんが助けを求めてます)」

 千本鳥居の中に入ってかなり時間が経つが、未だネギ達には追いつけない。彼女の手には、ネギとのキスで得た本が抱き締められている。
 実は彼女、ホテルのロビーでネギ達の会話を聞いて、明日菜がハリセンを出したように、彼女もカードでその本を出したのだ。
 そして、その本はのどか本人を含め、他人の心理・思考などが日記のように浮かび上がるものだった。

「そ、そうだ、またこの本で……ネ、ネギ先生……」

 ついさっき、『助けてー』と明日菜とネギの大変な様子を表した絵が浮かび上がったので、再び本を開く。
 すると今度は巨大な蜘蛛に乗った少年と大きな男の人が、ネギ、明日菜、イオンと対峙している絵が浮かび上がった。

「(あああ!? 何だかスゴイのが出てきて更に大変なコトにーーー!?)」

 敵、と書かれているから危険な目に遭ってるに違いない、とのどかは確信する。
 その時、ガサッと竹林が揺れた。

「ひゃう!? だ、誰ですかー?」
「ええぃ! 鬱陶しい! 何なんだココは!?」
「へ?」

 すると出てきたのは赤い短髪の少年だった。のどかは、その少年に見覚えがあったので声を上げる。

「ア、アナタはー!?」
「ん? お前……」

 それはアッシュ。奈良にてネギに告白する勇気をのどかに与えた少年だった。

「こんな所で何をしている?」
「あ、えっと……そのー……ネ、ネギ先生達を追いかけてたらココにー……」
「お前、アイツらが何でココに来ているのか知っているのか?」
「は、はいー。大体は……」
「そうか……しかし厄介だな。この鳥居、結界が張ってるようで簡単に出れそうに無い」
「そ、そうなんですか?」

 アッシュの説明に怯えるのどか。その際、アッシュはのどかの持っていた本を見て眉を顰める。

「お前、ソレは……」
「あ、こ、これですかー? い、今、ネギ先生たちがピンチみたいで……」
「…………ラルゴも出て来やがったか。導師じゃ頼りないな」
「ふぇ?」
「付いて来い。敵がいるなら、ココから出る方法を知ってる筈だ」
「は、はいー」

 アッシュは、のどかを連れて更に奥まで向かった。


「七幻・火(イマージニス・イグニス)」

 イオンが杖を振るうと、火が発生して黒獅子と蜘蛛に乗った少年に襲い掛かる。

「へっ! これも幻術やろ!」
「!?」

 幻の炎なら怖くない。少年は余裕の笑みを浮かべていたが、黒獅子は眉を寄せると叫んだ。

「飛べ!」

 その命令に蜘蛛は忠実に宙を跳んだ。驚く少年だったが、炎が地面を焼いたコトに更に驚愕する。

「な、何やて!?」
「未熟者め。幻の中で魔法で僅かな炎を混ぜていたのだ」
「くっ……」

 まんまと引っ掛かってしまった少年は悔しそうに唇を噛み締める。イオンの戦い振りにネギと明日菜も驚きを隠せなかった。

「イオンさん……凄い」
「シンク君といい、滅茶苦茶ね」
「って、兄貴も姐さんも手ぇ貸してやれよ!」
「え、で、でも……」

 何だかイオン一人で勝てそうな勢いなので手を出す必要があるのか戸惑うネギと明日菜に、カモが一喝する。

「兄さん、体力ねぇんだぜ! いくら兄貴の魔力でカバーされてるからって、契約執行が切れて、幻術に魔法織り交ぜた攻撃なんかしてたらヤバいだろ!」

 言われて2人はハッとなる。そうだ。イオンが幻術に本物の魔法を織り交ぜた攻撃が出来るのも全てはネギから魔力が供給されているからだ。それが切れたらイオンの体力は一気に奪われてしまう。

「アスナさん!」
「分かってるわよ!」

 言うまでも無く、明日菜は敵に向かって走り出した。イオンも明日菜が前に出ると、幻術に巻き込まないよう杖を引いた。すると、炎が消える。

「来れ(アデアット)!!」

 明日菜は武器のハリセンを出すと、蜘蛛に乗った少年に向かって振り下ろした。すると蜘蛛は一撃で風船のように破裂した。

「うげ!?」
「ほう。あの守りの堅い式を一撃で……」

 少年は茶屋の屋根の上に避難し、黒獅子は明日菜のハリセンの威力に素直に感心した。

「やるなー、お姉ちゃん」
「ガキだからって手加減しないわよ!!」

 明日菜はハリセンを少年に突きつけて叫ぶと、相手は楽しそうな笑みを浮かべるが、すぐに厳しい表情でネギを睨む。

「式払いの妙な力を持つ姉ちゃんに、幻術使う兄ちゃんか……せやけど、お前の方は大したことないなチビ助。凄いのは、姉ちゃん達の方や」
「!」
「女に守ってもらって、恥ずかしいとは思わへんか? だから西洋魔術師はキライなんや」
「む……」

 いきなり自分を卑下され、ネギは僅かながらに怒りを覚え、杖を強く握り締める。が、スッとネギの前に手を伸ばして、イオンが制した。

「挑発の乗ってはいけません、ネギ君」
「そうよ、そうよ! 口喧嘩で負けちゃ駄目よ!
 前衛のゴキちゃんをやられちゃったからって負け惜しみねボク!」

 イオンに続いて明日菜が少年に向かって口で対応する。それに彼女の肩のカモも乗った。

「おうよ! テメーらに勝ち目はねえ! 降参するなら今のうちだぜ!!」

 如何に黒獅子が強力な戦士タイプでも数の上では3対2。しかも少年は護衛を失った。実質的には3対1と言っても過言ではない。明日菜とカモは勝利を確信したが、少年は余裕の笑みを浮かべる。

「……へへ。随分、ナメられてんなぁ、黒獅子さん」
「ふ……若いと言うのは、血気盛んで羨ましいな」
「お姉ちゃんら何か勘違いしてへんか」

 そう言って少年はニット帽を直す。

「俺は、術者とちゃうで」
「へっ?」

 明日菜が呆けた声を出した瞬間、少年は屋根を蹴り、明日菜に迫る。

「!?」

 獣のように四つん這いに目の前に着地した少年に明日菜は驚きながらもハリセンを振り回すが、全て余裕で避けられる。

「ハハ! 当たらな意味ないな♪」

 軽口を叩く少年に、イオンが後ろから杖を振り下ろすが止められてしまった。

「!?」
「お兄ちゃんの相手は俺ちゃうで」

 イオンは杖ごと少年に黒獅子の前へと放り投げられる。

「ラルゴ……!」
「貴様の相手は俺だ、坊主」

 黒獅子は鎌を振り下ろし、イオンは杖で斬られるのを防ぐが、如何せん腕力でイオンが敵う筈もなく、吹き飛ばされる。

「イ、イオンさん!」
「ヤベェ!」

 竹林の中に吹き飛ばされたイオン。黒獅子も竹林に入って行く。黒獅子とイオンが1対1で戦ったらイオンに勝ち目は無い。黒獅子に幻術に余り効果が無いのは先に証明されたし、戦士タイプ相手に魔法の詠唱はできない。何よりイオンの体力が持たない。

「ネギ! このガキは私に任せてイオン君を……!」
「で、でも……!」
「おっと! 行かせへんで、西洋魔術師!」

 少年は明日菜の背後に回り、彼女の背中を押すとネギの眼前まで迫る。

「風楯(デフクレシオ)……」

 咄嗟に風の盾を張ろうとするネギだったが、間に合いそうに無い。少年の拳がネギに迫る。

「魔神拳!!」

 しかし、少年の拳はネギに当たらなかった。その前に衝撃波が飛んで来て、それを察知した少年がネギから離れた。

「誰や!?」
「アナタは……」
「ガキの喧嘩に割って入るなんざ趣味じゃないんだがな……」

 衝撃波の飛んで来た方を振り返ると、そこには剣を持ち、拳を振り上げたアッシュの姿があった。

「一見不良っぽい顔だけど実はイイ人っぽいお兄さん!!」
「あのな……」

 勝手なコトを言う明日菜にアッシュは頬をヒクつかせる。

「何やねん、兄ちゃん? 邪魔せんといてんか?」
「悪いな、ガキ。俺は顔見知りがやられるのを黙って見過ごすほど冷血漢じゃないんだよ…………おい、ハリセン女」
「ハリ……何?」

 酷い呼び方に明日菜は文句を付けようとしたが、ネギを助けてくれたのでココは怒らずに素直に聞き返す。

「このガキは俺とそこの子供教師でやる。お前は導師を助けに行け」
「ドウシ?」
「…………イオンのことだ」
「それだったら、アンタが……」
「子供教師とお前のコンビは頼りないから言ってるんだ。とっとと行け!」
「っ!」

 明日菜は、いきなり出て来て勝手なコトを言うアッシュに怒りを覚える。ネギはうろたえてオロオロしている。

「ちょ、ちょっとアンタねぇ! そんなコトやってみなくちゃ……きゃ!?」

 アッシュに文句を言おうと詰め寄る明日菜だったが、いきなり彼に身体を押されて尻餅を突いた。すると少年がいつの間にか詰め寄って来て、アッシュに向かって鋭い爪を突き出してきた。アッシュは剣の腹で受け止め、笑みを浮かべる。

「不意打ちとはな……男がするコトか?」
「そっちこそ人の勝負に割って入るなんて男のするコトなんか?」
「「ふざけんな」」

 互いに声を合わせると、距離を取って構える。

「行け、ハリセン女」

 アッシュの言葉に明日菜は今度は反論しなかった。もし、彼が突き飛ばしてくれてなかったら、少年の攻撃に当たっていただろう。アッシュが助けてくれたのだ。

「…………分かったわ。でもお願い。ネギを……」

 従者でないアッシュにネギを守って欲しい、と明日菜の頼みを聞く前に彼は笑みを浮かべ、答えた。

「安心しろ。そいつには俺が傷一つ付けさせん」
「お願い」

 明日菜は頷くと、イオンと黒獅子を追って竹林の中へと入って行った。

「さぁやるぞ、子供教師」
「は、はい。あのでも何で僕を……」
「勘違いするんじゃねぇ。お前を守るのは、導師……イオンが誓ったコトだ」
「え?」
「俺も昔は少なからず奴の世話になった。借りをとっとと返したいだけだ……話は終わりだ。行くぞ!」

 アッシュが地面を蹴り、少年との距離を詰めて剣を振り下ろす。が、少年は深く体勢を低くし、足を上げた。バックステップで避けるが、アッシュの鼻先に蹴りが掠った。

「ちっ……やるな」
「へへ。アンタ、強いな。楽しいなってきたわ」

 少年はアッシュの強さに対し、嬉しそうに笑う。

「アンタ、名前何て言うん? 教えてや」
「人の名前を尋ねる前に、自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」
「はは! それもせやな……小太郎。犬上 小太郎や」

 少年―犬上 小太郎は名乗る。

「で、アンタの名前は?」
「アッシュ……聖なる焔の燃えカス……アッシュだ」

 互いに名乗り合うと、アッシュと小太郎は再び接近戦に入る。

「今だ、兄貴!」
「あ、う、うん!」

 2人の戦いに気を取られていたネギは、カモに言われて魔法の詠唱に入る。が、それに気付いた小太郎は、腕を振り上げた。

「させるか!」
「!?」

 すると、彼の影から大量の黒い犬が飛び出した。

「何!?」
「俺は術者じゃなければ戦士ともちゃうで! 『狗神使い』や!」

 黒い犬はまっすぐネギへ向かう。魔法の詠唱に入っていたネギは完全に無防備。眼前まで迫る黒い犬が大きく口を開け、鋭い牙を剥き出しにした。思わずネギは目を閉じた。
 直後、ドシュッと鈍い音が耳に届いた。しかしネギ本人に痛みは無かった。ネギは恐る恐る目を開ける。

「!? アッシュさん!?」
「ぐ……!」

 ネギの前には、黒い犬に腕を噛まれて、ポタポタと血を流しているアッシュの姿があった。

「ええぃ!!」

 アッシュは剣を大きく横に振って、黒い犬達を薙ぎ払った。そして膝を突き、腕を押さえる。

「アッシュさん、何で……!?」
「あの女と約束しただろうが……お前に傷一つ付けさせんと」
「そんな……」

 カモとちびせつなは、アッシュの怪我の深さを見て、これ以上、剣を握るのは無理だと考えた。

「何やねん、お兄ちゃん。そんな守ってもらわな戦えへんチビ助なんか庇って怪我するなんて……アホちゃうか」
「!?」

 小太郎の台詞にネギがピクリと反応する。

「取り消して……」
「あん?」
「今の言葉……取り消して」

 強く杖を握り締めて凄むネギに小太郎は眉を寄せる。

「何言うてんねん。戦いの中で足手まとい庇って怪我するなんてアホ以外なんでもないやろ」
「取り消して!」
「うっさいねん、お前!」

 小太郎は地面を蹴ると、ネギに向かって拳を突き出す。

「兄貴!」
「ネギ先生!」
「くっ!」

 カモとちびせつなが声を上げ、アッシュが助けに入ろうとする。しかし、ネギの取った行動は、そこにいた全員を驚かせた。

「契約執行(シス・メア・パルス) 0.5秒間(ペル・セクンダム・ディーミディアム)!! ネギ・スプリングフィールド(ネギウス・スプリングフイエルデース)」

 そう唱えると、ネギは小太郎の拳を受け流し、更にカウンターで魔力のこもったパンチを喰らわせた。

「な……」

 宙に待って驚愕する小太郎。だが、彼は地面に落下する前に、ネギが彼の背中に手を当てた。

「!?」
「ラス・テル マ・スキル マギステル  闇夜切り裂く(ウーヌス・フルゴル) 一条の光(コンキデンス・ノクテム) 我が手に宿りて(イン・メア・マヌー・エンス) 敵を喰らえ(イニミークム・エダット) 白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!!」

 バチィッと白い稲光が小太郎の体を包み込む。

「がぁ!!」

 悲鳴を上げる小太郎。アッシュ、カモ、ちびせつなはその光景を唖然として凝視している。

「あ、兄貴……」
「自分の体に魔力供給……まさか、ぶっつけ本番でこんな芸当を……」
「(やるじゃねぇか、子供教師……)」

 幼いながらにして、咄嗟ながらも近接戦闘に対応し、尚且つ大ダメージを与えた。かなりの素質が無ければ出来ない事だ。アッシュは弱っている小太郎を見て、今が好機だと判断した。

「おい! 出て来い!」
「え?」

 アッシュが叫ぶと、竹林が揺れた。ネギは、そちらを見ると唖然となる。そこには、生徒である宮崎 のどかが本を広げて堂々と立っていた。


 アッシュがネギ達の戦闘に乱入してる頃、イオンは必死に黒獅子の攻撃を避けていた。

「ぬん!」
「くっ!」

 黒獅子の振り下した鎌はイオンの真横を抜け、岩を真っ二つに切り裂いた。

「やめてください、ラルゴ! 僕はアナタと……」
「くどいぞ!」

 イオンの言葉を聞かず、ラルゴは鎌で薙ぎ払った。後ろに避けるイオンだが、鎌が肩を掠め、血が噴出す。イオンは痛みで表情を歪め、肩を押さえる。

「俺が過去にお前と出会い、何があったのかは知らん。だが今の俺は依頼主により任務を与えられ、お前の敵としてこの場に立っている。ならばお前は倒すべき敵! 過去など必要ない!」
「く……七幻・水(イマージネス・ウンディーネ)!」

 イオンが杖を振るうと水流が黒獅子に襲い掛かる。しかし、ラルゴは笑みを浮かべ、鎌を地面に突き立て、仁王立ちする。

「笑止!」

 するとラルゴは水に飲まれるも、全く微動だにせず水は消え去った。

「この黒獅子、現実と幻の区別がつかぬほど愚かではないぞ、坊主!」
「(強い……!)」

 幻に対して微動だにしない強靭な精神力、そして敵に対し過小評価せず、最大限の力で戦う意志。
 六神将の斬り込み隊長、黒獅子ラルゴ。
 イオンは力の差を痛感した。

「(やはり彼と戦えるのは彼と同じ……!)」

 イオンはスッと目を閉じ、自分の中に存在する人物に語り掛けようとする。だが、そうする間に黒獅子は目の前に迫り、鎌を振り上げていた。

「(しま……!)」
「待ちなさーい!!」
「「!?」」

 その時だった。石段の方から甲高い少女の声と共に蹴りが飛んで来た。蹴りは黒獅子の顔面に決まり、彼は軽く吹っ飛ぶ。

「ア、アスナさん?」
「大丈夫! イオン君!?」
「は、はい……あの、何でココに?」

 ネギの方は大丈夫なのかと尋ねるイオンに、黒獅子に対してハリセンを構える明日菜は渋面を浮かべて言った。

「あの、えーっと…………不良予備軍みたいな人が入って来て、私にこっちに行けって言って来たの」
「は?」
「と、ともかく! イオン君は私が守るから、その間にバーンと派手にアイツをやっつける魔法でもやっちゃってよ!」
「……………すいません」

 明日菜の期待感に満ち溢れる言葉に対し、イオンは顔を俯かせて返した。

「え?」
「彼に幻術は通じません。それに……僕の体力では強い魔法を使用することは……」
「嘘……じゃあ、あの人、私一人で相手しなくちゃいけないの?」
「いえ。少しだけ時間を稼いでください……シンクを呼びます」
「シンク君?」

 明日菜は、そういえば最近見ていないシンクのコトを思い出す。

「…………出てくれんの?」
「叩き起こしてでも」

 笑顔で答えるイオンに、明日菜も自然と笑顔になった。

「分かった。じゃ、早めにお願いね!」

 明日菜は、そう言うと黒獅子に向かって突っ込んで行った。

「お嬢ちゃん、俺は向かって来る敵は誰であろうと手加減せんぞ?」
「上等よ!」

 ラルゴはいい気迫を持って向かって来る明日菜に対し、笑みを浮かべ、鎌を振り下ろした。

「(シンク……)」

 その間、イオンは意識を自身の中へと集中させた。


「シンク」

 溶岩の煮えたぎる岩場の中、惑星預言の譜石を背に座り込むシンクにイオンが話しかける。

「…………しばらく話しかけるなって張り紙してあっただろ?」
「外の様子は大体分かってますね?」

 シンクの言葉を流して、尋ねるイオン。シンクは不機嫌そうに唇を歪めると、仮面の奥からイオンを睨み付ける。

「アスナさんがピンチです。僕ではラルゴに勝てません……お願いします。替わってください」
「断る」
「なぜ?」
「僕が……やる理由が無い」

 そう答えると、シンクはソッポを向く。

「このままじゃアスナさんだけではなく、ネギ君までラルゴにやられますよ? それでもイイんですか?」
「知ったこっちゃない。元々、あいつ等は僕には関係ないんだ」
「シンク…………いい加減、素直になったらどうですか?」

 ピクッとシンクの肩が揺れる。イオンは顔を俯かせて続けた。

「アナタが地核に飛び降りた時……僕は生まれて初めて泣きました」

 その言葉にシンクは驚いたようにイオンの方を見る。

「僕は、それまで導師のレプリカだから……自分には代わりがいるのだと思ってました。でも違った……僕は僕。一人の人間です」
「は!? アンタもあいつ等と同じコトを言うのか!? “僕は僕”? 言っただろう! 僕は空っぽ! 僕の存在は無意味なんだよ!」
「では何で拳を握り締めているのですか?」

 言われてシンクはハッとなる。いつの間にか彼の拳は強く握り締められ、震えていた。驚いたように自分の拳を見つめるシンク。イオンは更に言葉を続けた。

「今のアナタは空っぽじゃない。アナタはこの世界で僕にとっての彼らのような大切な人達と出会って来た。そして自分でも分かっている筈です……どれだけ突き放そうと、アナタを慕い、信じているたった一人の少年を守りたいと思っているコトを……」
「違う……僕は……」
「シンク、この世界で僕らは生きています。ならやり直せる筈です……今度こそ僕は……同じレプリカであるアナタと共に同じ道を歩みたい」
「………………」

 イオンは膝を突き、ソッとシンクの手に自分の両手を添えた。

「その仮面……もう必要ないでしょう?」

 シンクは唇を噛み締めると、仮面に手をかけた。


「きゃ!」

 黒獅子に吹き飛ばされ、明日菜は尻餅を突いた。

「っ〜〜〜!」

 切り傷こそないが、あちこち打ち付けて体中が痛いのを声に出さず我慢する。魔法や式神なら、ハリセンで防げるが、黒獅子は純粋な鎌の格闘戦。ただ運動神経のイイだけの明日菜に万に一つの勝機も無かった。

「終わりだ。後ろの坊主共々な」
「! イオン君!?」

 いつの間にかイオンの近くまで追い詰められていたコトに気付く明日菜。振り返ると、顔を俯かせたイオンが立っていた。

「坊主が何をしているか分からんが、終わりだ。許せ……これも任務だ」
「ぐ……!」

 立ち上がってハリセンを構える明日菜。

「怪我を負いながらも仲間を守ろうとするその意気や見事だ。しかし……己の分を弁えるべきだったな、お嬢ちゃん」

 そう言って黒獅子は鎌を振り下ろした。ハリセンを構えたまま明日菜はギュッと目を閉じる。その時、ガキィンと金属音が鳴り響いた。

「え……?」
「何……?」

 恐る恐る目を開ける明日菜。すると、彼女の後ろにいたイオンが手を伸ばし、鎌を受け止めていた。その手には、銀色に輝く手甲が装着されている。

「イオン……くん?」

 振り返る明日菜。するとイオンの髪が一気に逆立ち、穏やかな表情が厳しいものへと変化した。そして、唇が不敵な笑みに歪められる。

「一昨日の借り……返させて貰うよ、ラルゴ」
「何?」
「覚悟はできてんだろうねぇ!?」

 鎌を弾きながら叫ぶその姿は、間違いなくシンクだった。


 後書き
 意外なネギ・アッシュ組と明日菜・シンク組です。アッシュは、おいしいところ持っていきまくりです。そして、何気に登場が久し振りの主人公、シンクです。

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