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「Tales of the Negima! 第十二節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-03-03 16:24/2007-03-03 16:27)
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「ちょっとどーすんのよネギ! こーんなにいっぱいカード作っちゃって、一体どう責任取るつもりなのよ!?」
「えうっ!? 僕ですか!?」

 失敗したスカカード6枚と、のどか、イオンのカード、更にある人物のカード計9枚の仮契約カードを持って明日菜が言うと、ネギが怯える。が、すかさずカモと朝倉がフォローを入れた。

「まあまあ姐さん」
「そーだよアスナ。もーかったってことでいいじゃん」
「朝倉とエロガモは黙ってて!」

 ち〜っとも責任を感じていない一人と一匹に明日菜が怒鳴ると、両者はコクンと頷いた。

「それにしても……イオン君、マジで落ち込んじゃってるわね」

 真っ白になって白目を剥き、口から魂みたいなのまで出ているイオンを見て明日菜と刹那は笑顔を引き攣らせる。よっぽどネギとキスしたことがショックなようだ。
 その横でアリエッタが心配そうに声をかける。ちなみに原因は彼女なのだが、本人はすっかり忘れている。

「イオン様……泣かないで下さい」
「僕は泣いていませんよ……」
「でも……涙が……」
「…………本当だ。そうか、僕は悲しかったんですね。泣いたのは生まれて二度目です」
「何か悲しんでいいのか笑っていいのか困る場面だな」

 カモの冷静なツッコミを聞いて、イオンは元に戻る。

「しかしまぁ、イオンの兄さんだけじゃなくて、シンクの旦那のカードが出来たのは嬉しい誤算だな」

 が、シンクの載っているカードを見せるカモに再びイオンは真っ白になった。2人が同じ肉体を有している為か、イオンとネギの仮契約が結ばれた時、同時にシンクのカードも出来た。
 イオンはU字型の杖を持った姿が、シンクは銀色に輝く手甲を両腕に付けた姿が写っている。

「あの……イオンさん、そんなに気を落とさないで……」
「アニス、すいません……僕は……」
「アニス?」

 子供なので、割と早く立ち直っているネギがイオンを慰めるが、彼の口から出た名前に首を傾げる。

「イオン様の思い人」
「「「「えぇ!?」」」」
「ほほぅ?」

 アリエッタがポツリ、と呟くと、ネギ、明日菜、刹那、カモが驚きの声を上げ、スクープな予感に朝倉が目を光らせる。

「アリエッタに様付けで呼ばせておきながら、思い人が……イオン君って何者なのかな〜?」
「イオン様、大抵の人に様付けされてたけど?」
「「「「「ええええええぇぇぇぇ!?」」」」」

 更に驚く面々。まぁ、子供でも一国のトップだったイオンを、呼び捨てにしている人間の方が少ない。が、この世界では、そんなコトも関係ない。

「あの……僕のコトは置いといて、今はのどかさんの方が大事じゃないですか?」

 『ドコかの国の王子様』や『イオンハーレム帝国』など疑惑を飛び交わす中、ようやく正気に戻ったイオンがそう言うと、皆、ハッとなった。

「そ、そうだった……ちょっと、エロガモ。本屋ちゃんは一般人なんだから、厄介事には巻き込めないでしょ。
 イベントの景品らしいからカードのコピー渡したのは仕方ないけど、マスターカードは使っちゃダメよ」
「魔法使いということもバラさない方がいいでしょうね」

 明日菜と刹那の意見に、イオンとアリエッタも賛成だった。のどかは一般人だが、何より性格上、戦いには向いていない。アリエッタも、親友を危ない目には遭わせたくなかった。だからこそ、昨日はイオンを犠牲にしてでもネギとの仮契約を阻止しようとしたのだ。

「アスナさんも一般人じゃ……」
「今更、私にそーいうこと言うわけ、ネギ?」

 ネギの言葉に、明日菜はコツンと彼の額を指で突く。エヴァンジェリンの時にはベソを掻いて抱きついて来たり、朝倉に魔法がバレた時もフォローしてくれと懇願して来たりと、そこまでやっておいて無関係で済ませられるのは明日菜にとっても心外だった。
 それを聞いて、ネギものどかに秘密にしておくコトに賛成した。

「そうですね。のどかさんには全て秘密にしておきます」
「惜しいなー、あのカード強力そうなんだけどなー。まあいいや、姐さんと兄さんにもカードのコピー渡ししておくぜ」

 カモは惜しみながらも、明日菜とイオンにカードのコピーを渡す。シンクのカードも一応、イオンに渡しておいた。 

「えー、そんなのいらないわよ。どーせ通信できるだけなんでしょ?」
「違うって! 兄貴がいなくても道具だけ出せるんだよ。ぜってー役に立つって!」

 出す時は『来れ(アデアット)』と唱えると説明し、明日菜とイオンはカードを受け取り、同時に唱えた。

「「来れ(アデアット)」」

 すると、明日菜は一昨日の夜、戦った時に出て来たハリセンが、イオンはU字型の杖が現れた。

「わっ! ホントに出た……凄い! 手品に使える!」
「ち、ちゃんと使ってくれよー」
「うわー! 凄い凄い! 私も魔法使いになったみたい!」

 はしゃぐ明日菜の横で、イオンは自分の道具を見て複雑な笑顔を浮かべていた。

「(ま、また懐かしいのが……)」
「どうかしたんですか、イオンさん?」
「いえ……何でも無いですよ」

 元の世界で愛用していた杖にソックリだったので、違和感が全く無いイオンは苦笑いを浮かべて、不思議そうなネギに答えた。

「イオンの兄さんのアーティファクトって、どんな能力なんだろうな?」
「さぁ……ですが、試すにしてもホテルの中で使ったら、どんなコトになるか分かりませんし、別の機会にでもしましょう」

 そうして一同は今日の予定について話し合うが、その会話を陰から聞いていた少女には誰も気付かなかった。


「お待たせしました」

 ピンクのカッターシャツに赤いネクタイを締め、黒のズボンを穿いたイオンは、アリエッタとホテルの玄関前で合流する。
 アリエッタは白いパーカーに赤いハーフパンツという格好だ。
 2人は、ネギ、明日菜と待ち合わせしている場所へ向かう。刹那は、木乃香の護衛を任せてある。
 そして、その待ち合わせ場所に着くと、予想外な人物達がいた。

「あ! イオン君、アリエッタ〜!」
「…………何で?」

 ネギ達だけではなく、そこには木乃香、のどか、夕映、ハルナまでもがいた。

「どういうことなんですか?」
「それが……どうやらハルナさんに見つかってしまったようで、一緒に行くことに」

 ネギもココで明日菜と待ち合わせしていたのだが、明日菜がハルナにバレて、ネギの行くところに皆で行くという話になってしまった。

「じゃ、レッツゴー!」

 ハルナの勢いに押され、結局、9人で行動することになってしまった。


「わー、宿の近くも凄くいい所なんですねー」
「はい。嵐山、嵯峨野は紅葉の名所が多いので秋の来るのもいいですよ」

 ホテル近くの店が並ぶ通りを歩きながら、ネギが感想を漏らすと、夕映が付け足す。イオンとアリエッタは、物珍しそうに土産などを見ている。

「それで先生、目的地はドコなの?」
「案内するですよ?」
「え、えっと……何かあっちの方ってゆーか……」

 流石に連れて行くわけにもいかず答えるのに困ったネギは、明日菜に小声で相談する。すると、ふとハルナが明日菜に尋ねる。

「……ねえアスナちょっと聞いていい?」
「ん? 何?」
「あんたネギ先生とつきあってないよねぇ?」

 その質問に、明日菜はグシャっと近くにあったタヌキの置物に頭をぶつけた。

「そんなことあるわけないでしょ! 10歳なのよ、この坊主はーーー!!」
「ご、ごめん、そーだよな」

 明日菜に謝ると、ハルナは何かの本を読んでいるのどかを呼び、先に進む。

「お、ゲーセンがあるじゃん。ちょーどいいや。記念に京都のプリクラ撮ろうよ」
「プリクラー?」
「そうそう。ネギ先生と一緒に! ね?」
「あ、えーなーそれ♪ せっちゃん、ウチらも撮ろー」
「あ、いえ、私は……」

 ハルナがのどかを、木乃香を刹那の手を引っ張って、プリクラを撮りに入る。

「あ、アスナさんも撮りませんか?」
「え……私、プリクラとかは……」
「いいじゃないですか。アリエッタ、僕らも行きましょう」
「はいです」

 躊躇する明日菜の背中をイオンとアリエッタが押す。
 そして、ネギと夕映、ネギと明日菜、木乃香と刹那、イオンとアリエッタ、ネギと夕映とハルナ、イオンとネギという組み合わせでプリクラを撮った。

「シンク君もいれば、ネギ君、シンク君、イオン君の美少年トリオで撮れたのにね〜」
「何言ってるですか……」

 昨日のネギとイオンのキスを思い出したのか、少し涎を垂らして言うハルナに、夕映が冷静にツッコミを入れる。

「そういえばお兄ちゃん、どうしてるんですか?」

 ネギはイオンに頭を撫でられながら写っている写真を嬉しそうに見ながら、彼の中にいる筈のシンクのことを尋ねる。イオンは汗を浮かべて、笑顔で答える。

「その……昨日のショックで余計に引き篭もっちゃいまして」
「あぅ……」
「ネギ君、この話題には触れないでおきましょう。シンクだけじゃなくて、僕達も心痛みますから」
「はい……でも……」
「?」
「お兄ちゃんにも、こんな風にされたいな……」

 ネギはポツリと写真を見て呟く。大人ぶっていてもやはり10歳の子供。兄と慕っているシンクにも、イオンと同じように頭を撫でられたりして笑いかけて欲しいと思っているのだろう。
 イオンは、そんなネギの心中を察してか、クスリと笑った。

「大丈夫ですよ。シンクは、とてもネギ君を大切に思っています」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。ネギ君に出会ってからのシンクは、とても良い方向に変わりましたから……口には出しませんが、シンクもネギ君を弟のように思ってますよ。彼の中にいた僕が保障します」
「は、はい!」

 嬉しそうに頷くネギ。イオンは、そのままゲームしているメンバーの方へ移動すると、ネギは何かを思うように、彼の背中を見つめる。

「? どうしたの、ネギ?」
「いえ……イオンさんに、お兄ちゃんが僕と出会ってから、とても良い方向に変わったって……」
「シンク君が?」
「そういえば僕、お兄ちゃんがドコから来て、何者なのか全然知らないんですよね」

 ただ怪我だらけで倒れていた彼を助け、いつでも優しかったネカネとは違う、探している父親を思わせるような強さを持っているシンクを慕い、『お兄ちゃん』と呼ぶようになった。
 一緒に暮らしている内に、ネギもシンクが何者かなんて気にしないようになった。しかし、日本に来て、シンクの昔の知り合いというアリエッタが生徒にいて、そして彼の中のもう一つの存在、イオンが明らかになった。そのコトでネギの中に再びシンクの正体について考えてしまった。それと同時に出会った当初、シンクが言った言葉を思い出す。

『お前は僕の何を知っている? ひょっとしたら僕は昔、とても悪い奴で何人も罪の無い人を殺した殺人犯かもしれないぞ?』

「ネギ君  アスナこっちこっちー みんないるえ」

 と、そこで木乃香に呼ばれてハッとなった。

「もー。何で京都にまで来てゲーセンで遊ぶのよー?」

 呆れて、そちらに向かう明日菜に、カモが小声で話す。

「姐さん、兄貴。チャンスだぜ とりあえず何かゲームでもやってスキを見て抜け出そうぜ」
「う、うん」

 ネギは首を横に振って、自分の考えを消した。
 シンクの正体を知り、もし彼の言った言葉が本当だった時、今まで通り接する自信が無かった。
 今のままでイイ。今のままがイイ。それがネギの気持ちだった。

「何のゲームをやっているんですか?」

 努めて明るく振舞い、ネギは尋ねる。

「あー、ゴメンね先生。上手くいくと関西限定のレアカードがGETできるかもしれないんだよー」
「魔法使いのゲームですよ」
「ほら、私達が新幹線でやっていたカードゲームのゲーセン版なの」
「魔法使いですかぁ……やってみようかな僕……」
「やってみなよ、ネギ先生! でも……」

 チラッとハルナ達は、ゲームに熱中しているアリエッタを見る。何か凄い勢いでポイントが溜まっていっている。

「アリエッタが強過ぎなのよね……」
「もはやプロの領域です」
「アリちゃん、凄過ぎや……」

 何だか初心者のプライドをズタズタにしてしまいそうな気がするネギだったが、夕映からスタートセットを借りてゲームプレイする。

「おー、凄いネギ君!」
「先生、本当に初めて!? さっすが天才少年〜〜!!」
「凄いですね〜」

 ネギのスコアは、アリエッタに迫るものがあり、とても初心者とは思えなかった。

「(やるです、ネギ先生……でも、アリエッタも負けないんだから!)」
「アリエッタ、すっかり目が本気モードですよ」
「周り見えてないわね〜」

 イオンと明日菜も、アリエッタの燃えようには苦笑するしかなかった。

「お姉ちゃん、ちょっと替わって貰ってエエか?」
「え?」

 と、そこへ、いきなり白い帽子に黒い学生服を着た少年がアリエッタの後ろから話しかける。

「替わって貰ってエエか?」
「やです。アリエッタがしてるです」
「アリエッタ」

 プイッと画面に向き直るアリエッタにイオンが注意する。

「こういう公共の場では譲り合いの精神が大切なんですよ」
「…………分かりました」

 アリエッタは渋々、少年と席を替わる。少年は「おーきに」と座ると、ネギに対戦を申し込んだ。周りに煽られ、ネギは少年と対戦する。

「あー負けたー」
「いやー、初めてにしては良くやったよ、ネギ先生」

 結果はネギの惜敗だった。ハルナ達はネギを慰め、少年も席を立つと賞賛した。

「そやなぁ、中々やるなぁ、アンタ。
 でも、魔法使いとしてはまだまだやけどな。ほなな、ネギ・スプリングフィールド君」
「えっ!? ど、どうして僕の名前を!?」
「だってゲーム始める時自分で名前入れたやろ?」
「あ、そか」
「ほな!」
「あっ、逃げたー」

 勝ち逃げの少年は、そのまま去って行った。その際、のどかとぶつかってしまい、下着が見えたので彼女をからかって行った。

「よぉーし! 関西限定のレアカード全部集めちゃうよー!」

 ネギ達の勝負を見て火がついたハルナ、夕映、のどかがゲームに夢中になる。その隙をカモが突いた。

「兄貴、今だぜ」
「う、うん」
「じゃ、桜咲さん。このかのコト頼むね」
「僕も行きます。このかさんの方は桜咲さんとアリエッタにお任せします」
「はい、3人とも気をつけてください」

 ゲームに熱中しているアリエッタに苦笑し、イオンはネギ、明日菜と共にゲームセンターから出て行った。


「やっぱ名字スプリングフィールドやて」

 ネギとゲームで対戦した少年は、路地裏に入る。そこには、一昨日、木乃香を攫おうとした眼鏡の女性―天ヶ崎 千草と月詠、そして仮面の少年と白髪の少年、黒獅子がいた。

「やはり、あのサウザンドマスターの息子やったか……それやったら相手にとって不足はないなぁ。
 ふふ、坊や達……一昨日のカリはキッチリ返させてもらうえ」
「俺は、ネギ・スプリングフィールドの方やるで。西洋魔術師と戦えるからな」

 グッと拳を握り締める黒髪の少年に、仮面の少年が笑った。

「フフ……楽しくなりそうだね」


 毘古社と書かれた掛札のある鳥居の先には、千本鳥居の道があった。ネギ、明日菜、イオンはやって来た。

「ココが関西呪術協会の本山?」
「うわー、何か出そうね」
「ココの長に親書を渡せば任務完了ですね」

 イオンの言葉にネギは強く頷く。すると、そこへ淡い光の玉が三人に近づいてきた。

「ん?」
「神楽坂さん、ネギ先生、イオンさん! 大丈夫ですか?」

 ポンッと光が弾けると、小さな刹那の姿になった。

「わっ!? な、何よアンタ!?」
「刹那さんですか?」
「はい。連絡係の分身のようなものです。心配で見に来ました。ちびぜつなとお呼びください」

 ペコッと頭を下げて挨拶するちびせつなに、3人は「はぁ……」と一応頷く。

「この奥には確かに関西呪術協会の長がいると思いますが、東からの使者のネギ先生が歓迎されるとは限りません。罠などに気を付けて下さい。一昨日、襲って来た奴らの動向も分かりませんし……」

 そう説明されるとネギは頷いて杖を強く握り締めた。明日菜もカードを取り出し、「来たれ(アデアット)」と言うと、ハリセンを出し、イオンも同じように杖を出した。

「行くよ!」
「ハイ!」

 明日菜を先頭に、ネギとイオンも鳥居の中に入る。
 しばらく走って3人は鳥居の陰に隠れる。

「な、何も出てこないわよ」
「変な魔力も感じられないです」

 警戒するが、怪しい気配は特に感じられなかった。2人より体力の劣るイオンは、僅かに息を切らせ、眉を顰める。

「(ココまで来て妨害が無いなんておかしい……これは一体……)」
「よおし一気に行っちゃいます!」
「OK!」
「あ、待って……」
「二人とも油断は禁物……」

 イオンとちびせつなの制止も聞かず、ネギと明日菜は走り出す。イオンも已む無しと言った感じで付いて行った。
 そして走ること30分。

「ハァ! ハァ! な、何て長い石段なの……」

 流石に体力のズバ抜けている明日菜も、かなり辛い様子だった。イオンに関しても両膝を突いて激しく咳込む。

「げほっ! げほっ!」
「イ、イオンさん、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈……けほっ! すいません……体力は……人並……以下なもので……」
「ちょ、ちょっと休憩しよっか……」

 イオンを見てたら本当に死んでしまいそうなので、その場で休憩を取ることにした。イオンは息を整えながら、ネギに言った。

「ネギ君」
「は、はい?」
「すいませんが、杖で先に行ってくれませんか?」
「え? でも……」

 明日菜やイオンを置いていくことに抵抗のあるネギだったが、イオンは首を横に振った。

「大丈夫です。恐らく絶対に行けませんから」
「え?」
「私からもお願いします」

 ちびせつなからも頼まれ、ネギは戸惑いつつも杖に載って先に進んだ。
 しばらくすると、前方に飛んで行った筈のネギが、なぜか明日菜やイオンの後ろからやって来た。

「あ、あれ!? アスナさん、イオンさん!?」
「な、何でアンタ、後ろから来てんのよ!?」
「やはり……ネギ君、今度は竹林に行ってみて下さい」
「う、うん!」

 ネギは頷き、竹林の中に走って行く。すると、またまた反対方向から戻って来た。

「やはり……間違いないようですね」
「ええ。これは無間方処の咒法です】
「無間方処の咒法?」

 イオンとちびせつなが納得し合うと、ネギと明日菜、カモは首を傾げる。ちびせつなは、かいつまんで説明した。

「はい。この鳥居に半径500m程の半球状のループした結界の内部です」
「つまり、僕達はこの千本鳥居の中に完全に閉じ込められてしまったわけです」
「「え、えぇ〜〜〜!?」」

 イオンの発言に、ネギと明日菜は揃って驚愕の声を上げた。

「刹那さんの本体は助けに来れないのですか?」
「すいません。こうして敵がいると分かった以上、お嬢様の傍を離れる訳には……」

 こういった術を破るのは、術者本人を解くか倒すか、もしくは結界内に施されている仕掛けを解くか、である。
 術者が解くなどあり得ないし、倒そうにも姿が見えない。かといって仕掛けを探そうにも見当がつかない。八方塞りだった。

「どうしましょうか……」
「(う……や、やばい………お手洗いに行きたくなって来た……)」

 すると、その時、明日菜がブルッと体を震わせた。

「う……」
「アスナさん?」
「うわ〜ん!!」

 我慢できず、明日菜は泣き声を上げて走り出した。

「ああ! お、落ち着いてアスナさん!」

 明日菜は恐怖に耐え切れず、緊張の糸が切れたと思ったネギは慌てて彼女を追いかける。イオンとちびせつなも、已む無く彼女らの後を追った。
 その途中で休憩所を見つけ、幸いとばかりに明日菜はトイレを借りる。誰かいると思ったネギは人を呼んでみるが、無人のようで返事は無かった。
 イオンの体力も限界なので、ネギ達は、そこで休むことにする。

「ふぅ〜、一息ついた」
「とにかく、まずは現状を把握して、何とか打破する方法を考えませんと……」

 缶のお汁粉を飲んで落ち着いた明日菜に、ちびせつなが言うと、彼女は不満そうな声を上げた。

「も〜! そもそも何で、アイツら親書を渡すのを妨害しようとするのよっ!」
「そ、それは、やっぱり東と西を仲良くさせたくないからじゃ……」
「何で仲良くさせたくないのよ?」

 そういう細かいところの説明が出来ないネギに代わり、ちびせつなが説明する。

「関東の人達が伝統を忘れて、西洋魔術に染まってしまった事が原因の一つらしいですが……」

 つまり関西呪術協会が石頭というコトだ。理由を聞いて納得したところで、カモが話題を変える。

「それより、今のこっちの戦力の分析でもしようぜ」
「そうですね。この状況では、いつ敵が来るか、分かりませんし……」
「ああ、一昨日は、刹那の姉さんがいたけどな……今、敵に襲われたら姐さんと兄貴、イオンの兄さんの3人で対処しないといけねーからよ」
「それなんだけどさ〜」

 話し合うカモとちびせつなに、明日菜が割って入った。

「前から気になってたんだけど、契約執行すると、どれくらい強くなるの? てゆーか、私ってちゃんと役に立ってるのかな?」

 明日菜が少し心配そうな疑問を口にすると、カモも、それは実際に確認した方が良いという事で近くにある手頃な岩を指差す。

「姐さん、この岩を思いっ切り蹴り入れてみろよ」
「これ!? こんなの蹴ったら痛いわよ!」
「イイからイイから】

 そう言われ、明日菜は渋々ながらも、掛け声を上げて岩を蹴ってみるが、十四歳の少女の蹴りなどで岩はビクともしない。

「あたた……」
「よし、兄貴。契約執行してくれ」

 言われて、ネギは明日菜に契約執行の魔法をかける。

「契約執行(シス・メア・パルス) 30秒間(ペル・トリーギンダ・セクンダース)!! ネギの従者(ミニストラ・ネギィ) 『神楽坂 明日菜』!!」

 すると、明日菜の体が光に包まれる。

「薄っすらと光って見えるのが、姐さんの体を覆っている魔力だ。もう一度蹴ってみな。随分、違う筈だぜ」

 そう言われ、明日菜は先程の岩を「たぁー!」と声を上げて蹴ってみると、岩は粉々に砕け散った。ネギ達は、その事に驚嘆する。

「相手が、ただの人間ならプロレスラーと戦っても負けねぇよ」
「これは神鳴流の“気”と似た原理ですね。神鳴流剣士は、体内で練った気を纏い、技に乗せて戦います。また、陰陽術などを使う時も、この気が用いられます」
「ミニステル・マギの場合は、魔法使いから供給される魔力がパートナーの身体能力を大幅にアップさせる。ネギの兄貴の魔力が続く限りは、姐さんはその力を借りて超人的な肉弾戦が出来るって訳さ。それにイオンの兄さんも、ネギの兄貴から魔力を借りることで体力が上がる」

 しかし、気を使うには長年の修行を必要とし、また明日菜の場合は元の身体能力が高いのもあって、その効果を発揮するのだと、カモとちびせつなは付け加える。

「更に、えい!」
「きゃ!?」

 いきなりちびせつなが刀を抜いて、明日菜に斬りかかるが何とも無かった。

「あ、あれ? 全然、痛くない?」
「身体を覆う魔力が物理的衝撃を緩和したのです。ところでネギ先生の魔法の方はどうなんです?」
「ああ、それなら大丈夫よ! こいつ、何か凄い強いから!」
「ええ!? ぼ、僕はそんな……」
「おうよ! 兄貴は魔法学校首席卒業だぜ!」

 本人ではなく、なぜか明日菜とカモが自信満々に答える。するとネギは何やら考え込むが、ちびせつなはイオンに質問した。

「イオンさんの力はどうなんですか? 一昨日に使われた術は、かなり強力でしたが……」
「基本的に攻撃魔法は、ある程度使えます。ただ、僕の場合、体力が無い為に、乱発出来ません」
「って、コトは姐さんが前線、兄貴が支援、兄さんが最後尾で強力な術を一発お見舞いするのが理想的な攻撃パターンかな」
「そうですね。一発ぐらいなら僕も大丈夫です」
「………もしかして……」

 戦略を練っている際、ふとネギがポツリと呟いたが、明日菜達はイオンの話を聞いているので気付かなかった。

「本当はシンクが替わってくれれば、一昨日ぐらいの敵なら訳ないんですが……」

 黒獅子の存在には驚いたが、木乃香を攫った女性や月詠ぐらいの相手なら、シンクにとって敵ではない。アレぐらいのレベルの相手とは何度も戦っている。それは、黒獅子も同じだが。
 故にイオンは、敵の中で黒獅子を最も警戒していた。

「そいつは聞き捨てならんなぁ」

 その時、何処からか声が聞こえてきて皆、身を竦ませる。その直後、ザザザと竹の葉が激しく揺れ、何かが振って来た。
 ネギ達の目の前に落下してきたソレは、巨大な蜘蛛だった。その上には、黒髪の少年と、黒衣に巨大な鎌を持った黒獅子が乗っていた。

「そーゆうデカイ口叩くんやったら、まずはこの俺と戦ってもらおうか」
「き、君は……!」
「さっきゲーセンにいた子じゃない!」

 その少年は、先程、ゲームセンターで対戦した人物で、ネギ達は驚きを隠せない。イオンも、黒獅子をジッと見つめる。

「ラルゴ……!」
「先日は思わぬ乱入にしてやられたが、今度はそうはいかん!」

 黒獅子は蜘蛛から降りて鎌をネギ達に向ける。

「ネギ君! ラル……黒獅子は僕が引き受けます!」
「え、でも……」

 黒獅子は見るからに戦士タイプ。魔法使いのイオンとでは相性が悪過ぎる。天敵、ともいえる相手にネギは戸惑う。
 が、イオンは笑顔になると、ネギに言った。

「僕に契約発動を……」
「え? あ、はい!」

 言われてネギはイオンと明日菜に対し、契約を発動する。

「契約執行(シス・メア・パルス) 90秒間(ペル・ノーナギンダ・セクンダース)!! ネギの従者(ミニストラ・ネギィ) 『神楽坂 明日菜』『イオン・ダアト』!!」

 明日菜とイオンの体を魔力が覆う。イオンは杖を回転させると、トンと地面を突く。

「七幻・地(イマージニス・ノーム)」

 すると、地面に大きな亀裂が入り、石段が真っ二つに裂けていった。

「な、何やコレ!?」
「お、落ちる〜!」
「アスナさん、捕まってください!」

 裂けていく地面はまるで地球の中心まで届くかのような断崖となり、少年、ネギ、明日菜は慌てる。だが、黒獅子は冷静に周囲を見回すと、目を閉じて叫んだ。

「喝っ!!!」

 その怒声に、ネギ達はビクッと身体を震わせると、真っ二つに割れていた地面が元に戻っていた。

「な、何や今の……」
「幻覚だ。あの小僧の持っている杖……西洋魔術師のアーティファクトだったか? その能力だろう」
「イ、イオンさん……」

 黒獅子の説明を聞いて、ネギと明日菜をイオンを見る。イオンはニコッと笑うと、杖を構えた。

「僕も戦います……ネギ君、シンクに代わって今は僕が君の従者として君を守ります」

 ネギからの魔力供給を受け、アーティファクトによる幻術。戦う術を得たイオンは、悠然と黒獅子と対峙した。


 あとがき
 イオンのアーティファクトの能力は幻術です。第一音素〜第七音素。つまり、闇、地、風、水、火、光、音と七つの幻覚を駆使します。尚、アーティファクトによる幻術は、イオンの体力と関係ありません。

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