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▽レス始

「.hack//intervention 第32話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-03-12 00:06)
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「あの、渡会さん……」

「あぁ……何だ、柴山?」


ここはCC社の管理セクションのオフィス。
アルビレオは『The World』内に急増し始めているウィルスバグの処理に辟易しながらも、一息つくべくログアウト。
その際にいつも通りコーヒーを持ってきてくれた柴山に感謝しつつ、用件を聞こうとしていた。

少々不躾になっている彼の声色だが、それも仕方のないことかもしれない。
何せ彼はこの数日間全くと言っていいくらい寝ていないのだから。

今までもCGデータが破損するバグは各地に点在していた。
そのほとんどはデータが破損しているだけで、ウィルスらしき痕跡がまるで見られなかった。
データの修復だけでいいわけであり、デバッガーチームが各自分担することですぐに対応することが出来た。

しかし突如そのバグは周りを侵食し始め、極僅かながらエリアごと喰われている箇所まで出てきた。
『The World』においてエリアの数は無限と言ってもいいくらい存在しており、そのおかげで今の所は大事に至っていない。
今の所は最悪エリアごと封鎖してしまうことで何とか対処出来ているが、対応策が見つからない以上問題の先送りに過ぎないのだ。
しかも1件だけだがモンスターが同様のウィルスと化したバグに侵されていたとの報告も受けている。
遭遇したのはオルカとバルムンクらしいものの、余計な時間が全く無いアルビレオに彼等から話を聞く余裕は無かった。

そういったわけで彼はウィルスバグの正体の解明、及びその元凶を見つけ出そうと奮闘していたわけだ。
尤も碌に芳しい結果の出ないまま、今も頭を悩ませているのだが。


「最近急増しているウィルスバグ、やっぱり例の2人組の仕業じゃないんですか?」

「……柴山、何度も言わせるな。今は憶測を述べている場合じゃないんだ。
 症状が似ているだけで結論を決め付けるな。結論を出すなら確固たる理屈とそれに見合った証拠を提示しろ」

「でも例のデータ増量が起きた丁度そのくらいからウィルスバグの侵食も始まったんですよ?」

「…………安心しろ、彼等を追う手を休めるつもりは毛頭無い」


自分で言葉にしつつもアルビレオは内心穏やかではなかった。

確かに証拠は無い。だが同時に1番可能性のありそうな人物もまた彼等であると言える。
柴山の言う通り、紅衣の騎士団の作戦時に起きたヘレシィの異変後すぐにバグのウィルス化が始まったのだ。
となるとあまり考えたくない仮説が立てられてしまう。

例えばヘレシィのPCの左腕を侵食しているらしきバグが最近のウィルスバグの前身であったとすれば。
いや前身ではなく試作であり、PCに癒着させたそれを改良したのが現在のウィルスバグであるのなら。
1年という空白がその研究期間であったと考えると、目的はともかく辻褄は合う。

無論リコリスに似た少女の行動を鑑みれば、その判断が正しいとも思えない。
常に寄り添っていたという彼女に、ヘレシィが一言注意してやれば姿を晒すことなく隠せた筈なのだから。
それだけでなく彼女が態々ヘレシィのPCを修復しようとした理由、そもそもPCが破損した理由など疑問は尽きない。


仮説は立てられる、しかし仮説の域を出ない。それが今の状態だ。


「もう1つ、バグとは関係のない事項ですが……呪紋使い・司の件で新しい情報が入りました」

「情報? 彼の居場所の特定でも出来たのか?」

「ある意味その通りですね。
 Θサーバーのルートタウンにて司らしきPCと他2名が同サーバー内から離脱。
 その後転送先を探索しましたが、どのサーバーのどのエリアにもそれらしき者達のIDは確認できませんでした」

「……つまり少なくとも俺達システム管理者が捜せる範囲内においては、『The World』内のどこにも存在していないと?」

「はい……念の為ログアウトしたのかと思ったのですが、全員未だログイン中のままです」

「…………ふぅ、分かった。資料を文章化しておいてくれ。
 次の仕事の合間にでも眺めておこう」


司と一緒に居る2人。それがミミルとベアであることは既にアルビレオの脳内にインプットされていた。
彼女達は1年前の『Δ隠されし 禁断の 聖域』で起きた事件の現場に居たのを知って以来、何となく気にかけている。
1年後に司がやってくると言ったらしいヘレシィがミミルとベア、それに紅衣の騎士長・昴を呼び出していた。
そして現在、彼女達と司が同行している様子が何度も目撃されるようになってきたという報告を受けている。

司の反応は毎日突然『The World』内から消え失せる。
にも関わらず彼のPCはログイン中であり、彼のリアルは未だ昏睡状態のまま。
無闇に手を出して彼のリアルに異常をきたす可能性がある為、碌に手を出せないのが現状なのだ。


(全く……これでは世界の真実がどうのこうの、なんて考える暇もないな)


以前、焔からこの時期に司の物語が始まるらしいとは聞いていた。
それとほぼ同時に始まったものと思われるウィルスバグの急増、ヘレシィの復帰。
アルビレオは朧気ながらこれらの事象が全て繋がっており、物語の中心になっていくのではないかと考え始めていた。

上層部からは釘を刺され、対応しようの無いウィルスバグや不正行為にも目を向ける必要がある。

周りの者達が心配する中、それでもアルビレオは調査の手を休めることはしなかった。


――――自らの行動が己の信念を見つめ直す切欠になるのではないか、と無意識に感じ取っていたから。


.hack//intervention 『第32話 失敗の多さにイライラ』


《side BT》


私がその時感じたのは恐怖、ただそれだけであった。


「随分とまぁ……変わっちまったもんだな」


クリムが己の武器を構えながら呆れたようにそう呟く。
しかし私は、いやその場に居た者であれば誰もが奴の言葉に違和感を感じた筈だ。

その声色にはクリムらしくない武者震いとは違う種の震えが含まれていたのだから。

かく言う私も同じように震えていた。
コントローラーを持つ手が汗に濡れて自分のPCを上手く操ることが出来ない。
何かを喋ろうにも喉が焼けるように熱く、出てくるのは言葉にならない息が漏れたような声だけ。

大げさであり自分でも情けないとは思うが、事実それ程までに目の前の存在は恐ろしい姿をしていたのだ。

“吸魂鬼”……魂を吸い取る鬼。それはあくまで二つ名に過ぎな“かった”。
既にその言葉は目の前の存在の仮の名などではなく、真の呼称としてふさわしい存在に変貌している。

顔の左半分から首、肩、左腕、そしてその先に同化している大剣にまで至っているバグの侵食。
悪魔か死神のような右側のボロボロな三枚の黒く細長い翼。
背中に浮かぶ巨大な車輪とそれを取り巻く8枚の曲がりくねった葉。
一応左足も他のPCの物が無造作に取り付けられたような状態だが、そんなことは大した問題ではない。

更に今まで無かった筈の右腕……違うな、あれは右腕とは言わない。
機械的な印象の強い身長と同等かそれ以上の巨大な大砲のように見える大筒。
なのに周りの様々な箇所に生えている羽根やモンスターの鉤爪、そして一際目立つ3本の触手は妙に生々しい。

元々化け物染みた容貌がたった1つの部品が加えられるだけで、その恐怖の度合いが激しく増していた。
単に私が前回『司拘束作戦』の際に見たのが遠くからだったからかもしれないが。


「お前……本当にあのヘレシィなのか?」

「……………………はぁ〜」


クリムの気力を振り絞った声に対してヘレシィと呼ばれた“吸魂鬼”は溜息という答えになっていない返事を返す。
気のせいかその仕草がどこか人間染みていて、ほんの少しだけ体の緊張がほぐれた気がした。

一方の“黒い幽霊少女”は私達の方を見ようともせずに暇そうな様子。
正確に言うなら暇そうというよりどこかつまらなそうな雰囲気を醸し出しており、本当に私達への興味は皆無のようだ。
以前ミミルから聞いた通り、あの少女は基本的に“吸魂鬼”以外に対しては無関心らしい。


「覚えているか? 1年くらい前に一度だけ会ったことのあるクリムってモンだ」

「…………バッチシ覚えてるよ、紅い稲妻だろ?」

「光栄だな、お前さんみたいな有名人にその名で呼ばれるのは。
“偏欲の咎狩人”から“吸魂鬼”……随分と仰々しい二つ名やらPCと思えないような化け物染みた格好やら。
 ……そして他人のPCをぶっ壊しちまいだしてるって噂も聞いてるぜ?」

「…………それ事実だし」


クリムと“吸魂鬼”は一見極普通の知り合いであるかのような会話をしている。
ただクリムの方は武器を構えたまま少しも油断する様子であるのに対して、“吸魂鬼”の方は体中の力を脱力させたまま動こうともしない。
そんな中次第に正常に動き始めた私の頭に、ある1つの大きな疑問が浮かび始めていた。

目の前の2人組は何故“扉”から出てきたのか?

私やクリム、それに後から来るであろうベア達はこの地に“key of the twilight”を求めてやってきた。
そして巨大な扉から見るに、ここはおそらく最深部、即ち伝説のアイテムがあると思われる神像部屋の前。
そこから私が“key of the twilight”の道標と成り得ると推測していた少女が“吸魂鬼”と共に姿を現したのだ。

そうなると嫌でも両者の関連性が強まるというもの。
だが果たしてそれがどのような関係なのか、それとも少女自身が伝説のアイテムなのか。
それらの問題を解消するには直接問い質すしか方法は無いものの、実際に聞いたところで馬鹿正直に答えるとは思えない。
少女の方は話を聞こうともしないだろうし、私達を歓迎していない“吸魂鬼”の方もほぼ無理。

碌な条件が出ないながらも私が必死に自分が出来る最適の方法を模索していた一方で、


「……お前は“key of the twilight”を手に入れたのか?」

「…………あーもう、クリム達も一緒でいいかなぁ」

「おいヘレシィ、聞いているのか?」

「でも下手に喋って余計悪化しちまうのもなぁ……」


クリムが私の考えを代弁するかのような質問をしてくれた。
尤も、当の“吸魂鬼”は器用な事に触手の1本で頭を掻きながら何かに悩んでいてほとんど聞いていないが。

何となくだが、その姿は見た目と違って少しばかり幼げな印象を私に与えている。
楚良程ではないが、意外とコイツのリアルも未成年、もっと言えば高校生らへんなのかもしれないな。

ところで気になるのが“クリム達も一緒”という奴の言葉。
私達“も”ということは、奴等の本来の目的となる人物が他にいるのではないだろうか?
そうなるとここに来るであろう人間は司、ミミル、ベア……後は不本意だが楚良くらいか。
てっきり奴は私達の邪魔をするものと思っていたんだがな……一体何を企んでいるのやら。

とりあえず今1番知りたいのは扉の先にあるものの正体。
しいてはそれが“key of the twilight”なのか否か、そこまで知る必要がある。

その為には目の前の2人組をどうにかしなければならないのだが、さてどうすればよいのか……。


《side ヘレシィ》


ハロルドの部屋から出て扉を閉めた俺が次に目にしたのは、武器を構えるクリムと硬直したように立ったまま動かないBTだった。
どうやら俺が思っていた以上に彼等の足は速かったらしく、予定より早く辿り着いてしまったようだ。
気になるのは、本来の物語であれば邪魔に入った楚良との戦闘で忙しい筈のクリムが同行していること。

楚良が退けられたのか、それとも奴が現れさえしなかったのか。

まあ今大事なのは原因ではなくて結果、つまりクリムとBTが目の前にいることだ。


(いっそのこと司達だけじゃなくクリム達にも計画を適応させるべきか?)


クリムが相変わらず何か喋っているが、俺はそれどころじゃない。
もし計画を変更させるのなら、その後物語にどのような変化をもたらすのかも考えなきゃならないんだから。
だがそれについて考えさせてくれる時間をクリム達が与えてくれるとも思えない。

彼等は“key of the twilight”に一番乗りする為、この地にやってきたんだしな…………ん?


(あ、そうじゃんッ!)


唐突に閃いた……その時間稼ぎに最適な手段を。
それでも大して稼げるわけではないけど、あるのと無いのとでは天と地ほどの差がある。

そう結論付けた俺は早速実行しようと、剣呑な雰囲気を強め始めているクリムに話しかけることにする。


「えっとクリムと……BTで合ってるんだよね?」

「…………何故知っている?」

「んなことはどうでもいいからさ、要は2人ともこの扉の先に行きたいんでしょ?」

「……ヘレシィ、人の話に耳を傾けろって親に教えて貰わなかったか?」


杖を構えて警戒心を露にしているBTと溜息交じりに呆れるクリム。
別に意図してやったことではないが、何とか場の雰囲気を少しだけ和らげることが出来たらしい。

うん、これを利用しない手はないな。


「クリム、悪いがこっちも色々立て込んでるんでな。
 俺が言いたいのはこの先に行きたいんだったらとっとと行っちまえってこと」

「お前さんが簡単に道を譲るってことは、この扉の向こうに重要なものは何も無いってわけだな?」

「……まあ、俺の用事は既に済んだことだし。
 アンタ達が探している“key of the twilight”に関係していることは確かだけど」


首を傾げるクリムとBTから視線を外して俺とシェリルは上へと浮かび上がっていく。
これで扉への道を遮っていた俺達はいなくなり、行きたいのならいつでも行ける状態になった。

俺を一瞥した後彼等は何やら2人で話し合い始めたが、どうせその内中に入るに決まっているんだ。

俺は対応策を練るべく、妙に馴染みつつある触手で頭を掻きながら静かに目を閉じた。


…………

………………

……………………結果。


うん、別に大した問題じゃなかったんだよ。

彼等の行動目的は“key of the twilight”の探求であり、アルビレオみたいに直接俺を探ろうとしているわけじゃない。
ならそれに関する情報を与えて、代わりにさっさとこの場から帰って貰えばいいだけの話。

それより気になっているのが既存の物語と異なる展開。
本来ならそろそろモルガナの力によりこのエリアは崩壊を始める筈なのに、未だどこかが崩れる音すら聞こえない。
この世界の神である彼女が、限りなく端っこに近いネットスラムや“ゴミ箱”でもないこのエリアを見つけられない可能性はかなり低い。
ここは普通の方法では入れなくとも、所詮は『The World』であることには変わりないからな。

少しずつ、しかし確実に変わりゆく物語に俺は対応できるのだろうか?

たとえ自分とシェリルを守る為に行動すると決めたとはいえ、物語の流れを無視するわけにもいかない。
俺がすべきは“ゴミ箱”に引き篭もりながら薄氷の上の平穏に身を委ねることではない。
物語を少しでも早く進行させ、モルガナの脅威の無い確固たる安息を手に入れることなのだ。


それから程なくしてクリムとBTが難しい表情で扉から出てくる。
多分彼等が入ってから5分も経ってない。

クリム達にも色々考えることはあるんだろうが、そんなことはお構いなし。

俺は彼等の前に降り立つべくゆっくり降下していき、


「何か分かった?」


瞬時に武器を構え直す2人をさして気にすることもなく話しかける。
ハッキリ言って落ち着かせたりしている時間は無いからな。

予定より早くこの2人が現れたおかげで司が来るまでには空白の時間が生じている。
それも所詮大した時間ではないだろうし、司達との邂逅を邪魔されるわけにもいかないのだ。


「……ヘレシィ、あれは何だ?
 同じ言葉を繰り返すばかりでこっちの声には全く反応しやしない」

「私も同意見だ、少なくともあれは“key of the twilight”ではない。
 あの壊れた男が言う“君”“彼女”が誰なのか、そもそも奴は何者なのか……」

「ヒント、アイツはこの世界の創造主であり“君”はアイツが愛した人物。
 ここから先はせいぜい自分達で調べてくれ」


一部ながら疑問があっさり解消してしまったことに戸惑うBT。
もう一方のクリムは武器を下ろしながらも警戒は解いていない様子だ。

尤も、俺にとっては現在の彼等が何を考えていようと関係ない。


「俺は君達にヒントを与えてやった。よって君達には俺の要求を呑んでもらう」

「お前さん、自分の言ってることがどれだけ強引か分かってるのか?」

「さっき言っただろ、色々立て込んでいるってな。
 今、用があるのは司達の方、クリム達はハッキリ言って邪魔以外の何物でもない」


段々当初の予定の“お願い”から命令口調に変わってきてしまっているが勘弁して欲しい。
正直いつ司達がやってくるのか、もう気が気でない状態なんだから。

これは計画の都合上というより俺の精神的な事情のせいでもある。
ぶっちゃけ、いい加減毎回のように起こる予定外に苛立ちが隠せなくなってきているのだ。

俺は敢えて消す力のある大剣ではなく、何の力もない右腕の大砲を2人に向ける。


「二度は言わない……今すぐこのエリアを離脱しろ」

「「……………………」」


新しく加えられた右腕と結構本気の睨み。
自分で認めるのもなんだが、これだけでかなりの威力があると思う。
クリムが戦いを挑んできたりしないかちょっと気になるが、多分大丈夫だろう。

こっちは既に情報を提供している。その対価として“帰れ”と言っているだけ。
一方的ではあってもこの取引は明らかに相手側に有利、こっちに突っかかる理由は皆無。

そして幸運なことに俺の切なる思いを理解してくれたのか、


「……次に会った時は俺の質問に答えろよ?」


真剣な表情のクリムはその言葉を最後に退出し、それに追従する形でBTも去っていった。


多少の予定外はあったものの、最早大した問題じゃない。

俺が今からやろうとしていることは時計の針を早めること。

司達を迎え入れることはその第一歩。それさえ上手くいけば、今回の計画はほぼ成功といっても過言ではない。


――――今日を境に物語は急激な変化を遂げることになる。今はまだその始まりに過ぎないのだ。


あとがき

クリム&BTに遭遇の巻。そんだけ。
あー今日はもう駄目っぽい。何か体調の悪さが表層化しちゃってる。

次回は司組との邂逅です。
明日更新できるか微妙な状態ですが、よろしくお願いします。


レス返しですが、今回はちょっと無理そうです。
TAMAさん、申し訳ありません。

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