「うーん、こんなのもう僕には必要ないなぁ。
でも捨てちゃったら後が怖そうだし。」
昼休み。
和樹がプリクラを手にとってそう呟いていると
「このプリクラがどうかしたのか?」
仲丸がすかさず合いの手を出した。
素早く反応しないと夕菜が和樹に話しかけてしまう。
夕菜の事を狙っている仲丸にとって、それは避けねばならない事態であった。
「え? ああ、これってね、一部じゃ恋愛のお守りって珍重されてる物なんだけどね。」
「ほほう。」
仲丸がプリクラを覗いてみると、そこには気が強そうな少女とキツメだが美人の少女に挟まれて、
「……悪魔?」
「に見えるよね、やっぱり。」
極端なまでに黒目が小さく、色の白さは目の下のクマと伴って麻薬中毒者のようであり、眉も非常に薄く髪はポマードでビッシリと固められた少年の姿があった。
ハッキリ言って怖すぎる形相である。
仲丸に悪魔と評されるのも無理はなく、実際本人の周囲でも彼の外見を最も的確に評した言葉として扱われている。
そんな三人を『男は顔じゃない!』と書かれたフレームが囲っている。
「こんなんでも一応良い人なんだよ。」
「冗談だろ?」
「いや、本当。まあウチの女子の逆って言えばいいのかな?
中身はウチの女子の外面ほどにも良いんだけど、如何せん見た目がウチの女子の中身ほどにも酷いから、それで割り喰っちゃってるんだ。
でも付き合ってるうちに中身はマトモだって分かってくるから、中身のせいで彼氏ができてもすぐに振られちゃうウチの女子の反対で、作るのまでは難しくても友達や彼女ができれば長続きするんだよ。」
とはいえ、この風貌である。
仲丸は正直、和樹の台詞が受け入れられない。
「で、この子達はなんなんだ?」
「北野さん……ああ真ん中の怖い人ね、の彼女の小磯さんと、『二人が仲良くしてるのをずっと見ていたいから、二人が結婚したら愛人として囲ってくれないかな』って言ってる白瀧さん。
キツい方が白瀧さんで、もう一人が小磯さんね。」
「は?」
和樹の返答に目が点になる仲丸。
「信じられないだろうけどね、それだからこのプリクラが恋愛のお守りとして珍重されるんだよ。
こんな顔でも、こんな可愛い女の子達をゲットしました、って事で禍々しいほどのご利益が」
と、和樹がそこまで話した所で、横から伸びてきた手がプリクラを和樹から取り上げる。
和樹と仲丸がそちらの方を見ると、和美がプリクラを手にとって見ていた。
彼女の隣には夕菜がいる。
「式森君。」「和樹さん。」
「あ、あの、二人とも?」
「あたし達の中身って、こんな風に見えてるわけ?」
「ウチの女子って、私も入っているんですか?」
二人は鬼の形相になり、無数の攻撃魔法を宙に浮かべ始めた。
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「とまあそういう訳で、その二人だけじゃなくて女子一同から攻撃魔法を喰らいまくってさ。」
「その仕打ちは流石にやりすぎだと思うけど、それはお前がわりぃだろ?
お前んとこの女子連中がどんなクソ女の群れかは知らねえけど、いくらなんでも北野さんの面並みは言いすぎだ。」
シンは呆れた口調で和樹に返した。
「で、そのプリクラは何処に行ったんだ?」
「松田さんが持ってんじゃないのかな?」
「血みどろの争奪戦に発展してたわよ。」
「あ、杜崎さん。」
沙弓がこの場にやって来て話に加わる。
「あなた、あれ『恋愛のお守り』って言ってたわよね?
みんな彼氏が出来ても長続きしないから、そのご利益にあやかろうと必死だったわ。
結局流れ弾の攻撃魔法でシートごと全部消し炭にして台無しになってたけど。」
「中身どうにかしないと結局駄目だと思うけどねぇ。」
ふう、とため息をつく和樹。
「ところで金田。」
「なんだよ?」
「確かお前って、晃陽だったよね?
なんでココにいるの?」
今、彼等がいるのは葵学園の保健室である。
ちなみに時刻は放課後。夕方というには多少早い位の時間である。
「ああ、ちょっとユウに付き合ってこっちに来たんだけど。」
「神代に?」
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葵学園図書室。
ユウが大量の本と何冊かのノートをテーブルに置いて分厚い本を読んでいると、後ろから話しかけられた。
「お前は確か、式森の友人の神代だったか?」
「ええと、確か神城さんって言ったっけ?」
彼に話しかけたのは凜だった。
「何、今の妙な会話。」
二人のやり取りを凜の隣で聞いていた玖里子は呆れた口調で言った。
更に彼女の隣には、夕菜の姿もある。
「なんであなたがここにいるんですか?
違う学校ですよね?」
険悪な口調でユウに尋ねる夕菜。
「調べ物。
魔術関係でちょっと調べたい事があって、そういうのを調べるならここが良いと思ったから。」
ユウのほうもぶっきらぼうに答える。
「調べ物ですか?」
「うん。なんとかして魔法回数関係無しに魔法を使えないかなって。」
「そんなの出来る訳ないじゃないですか。」
ユウの答えに呆れる夕菜。
しかし、ユウはさらにこう続けた。
「そう? 少なくとも一人は君も知ってると思ったけど。」
「え? 誰ですか?」
「幽霊の女の子。
あの子は最初から体がないから、使いすぎでチリになる事ってないよね?」
ユウが言っているのは、以前夕菜に代わって和樹の部屋を占領し、幽霊屋敷から鎧を取ってきて欲しいといっていた幽霊の少女の事である。
彼女は幽霊屋敷倒壊で破壊された鎧を修復させた後、彼女の母親と瓜二つらしい玖里子に懐き、取り憑いている。
「まあ確かに死んでからは回数なんぞ気にした事などないがのぅ。」
幽霊の少女は玖里子の胸の間から、漂うように出てきた。
いきなりの事でギョッとするユウ。
だが、続いて語られる玖里子の台詞を聞いている間に落ち着きを取り戻す。
「でもあんたみたいな事考えた奴は今までにもいたわよ。
『幽霊なら回数気にしないで済むなら、幽体離脱すればいいんじゃないか』って試した奴もいるわ。
結局、どんな方法試しても回数は普通に消費されちゃって全部失敗に終わったらしいけどね。」
「分かってます。」
ユウはそう言ったっきり、本に目を戻して黙々と読みふけり、思い出したようにノートになにやら書き進めている。
これ以上は話す事はないと判断したらしく、調べ物に没頭している。
もっとも、彼と夕菜の衝突を警戒している玖里子にとってはありがたい反応である。
ここでユウと夕菜に大喧嘩を始められてしまったら、どれほどの被害になるか想像するのも嫌になる。
ユウがわざわざ葵学園に来た事からも分かる通り、葵学園図書室の蔵書には貴重な魔術書などが多く眠っているのだ。
それらを台無しにされたらたまった物ではない。
「玖里子さん、凜さん。
こんな人ほっといて、私達も用事済ませちゃいましょう。」
「そうね。ったく、なんでよりにもよってあたしに図書室の整理だなんてのが回って来るんだか。」
「まあまあ、私達も手伝いますから。」
少女達は図書室の各所に散っていった。
彼女達が図書室の整理をする羽目になっているのは、3年図書委員だった少年がトゥルーに手を染め、施設送りにされていたからだ。
他のトゥルーの犠牲者達は彼よりは穏便に対処されたのだが、なにしろ彼の場合玖里子を薬物中毒にしてキングの配下にしようとしていた為『強引にでも葵学園から離しておかなくては危険である』と紅尉に判断されてしまい、他よりも苛烈な処分を受ける事になったのである。
その為、図書委員が空席となり、後釜が決まるまでは最も生徒会に近しい存在である玖里子が代行する事になった。
が、玖里子の存在により何の支障もなく図書委員が機能してしまっている為、生徒会側に切迫した感情が生まれず後釜の選定が延び延びになってしまっており、未だに玖里子が図書委員代行を続けている。
ただ、今回の作業には多くの人手が必要となるため、図書委員の友人達が動員されるのが普通である。
その為、玖里子は夕菜と凜を連れてきたのだ。彼女達ならば、以前からの知り合いで気心も多少は知れている。
友人と言って良い間柄だろう。
この彼女達の繋がりは上流階級ゆえの繋がりである。
そうでなければ、元々の住所がてんでバラバラの彼女達が友人同士という事はありえない。
遺伝子云々の騒ぎによって和樹も彼女達の間に入っているが、本来一般人である和樹にとっては三人とも全く無関係の存在であるはずなのだ。
「それにしても何時来ても無駄に広いわね、この図書室は。
ほらあんたも手伝いなさいよ。」
「わ、分かっておる。」
玖里子は幽霊の少女も動員して作業を進めるのだった。
少女達が作業を始めてからしばし。
「お〜いユウ。言われた通り、ノート買ってきてやったぜ。
あと、これ。」
シンが図書室に入ってきた。
彼の手には何冊かのノートと缶ジュースが一本握られている。
「ありがとう、シンちゃん。」
ユウはシンから缶ジュースを受け取ると、早速蓋を開けて飲む。
「で、どうなんだ?」
「え? うん。
魔法回数が肉体依存の物で霊魂とかは関係ないとか、魔力の方は肉体も関係あるけど基本的には霊魂依存だとか、断片的に分かってる範囲だとそんな感じみたいだけど。
魔法使い切って死んだ人の幽霊が魔法を使ったって言う話もあるから、回数っていうのは魔法を使うのに必要な何かじゃなくて、魔法を使う度に体から無くなっていく何かみたい。
でも幽体離脱してても回数は減ってっちゃうし、死んで幽霊になったら魔法が使えなくなっちゃったって話もあるし……」
ユウがそもそも口下手な上に、話が加速度的に難解な方向に突っ走っていくので、そのうちシンには内容がさっぱり分からなくなっていく。
「あ゛〜〜、わりい、もうちっと分かりやすく言ってくれねーか?」
「あ、ご、ごめん。
とにかくそもそも回数って言うのが何を指してて、どんな理屈でなくなる物なのか、正確に分からないと回数使わないで魔法使うのは無理だと思う。」
魔法回数の正体については、次の投げ捨て理論と呼ばれる説が主流である。
人体には魔力を汲み出す為の物があり、それの数=魔法回数である。
それは使い捨てで、あたかもコップで汲んだ水を使うために、その水の入ったコップを投げつけて砕いているように見える。
その為、『投げ捨て理論』と呼ばれる。
「つか、よくもまあこんな付け焼刃でそこまで……」
「友達の、和樹君の命がかかってるから。」
ユウに真剣な表情で返されては、シンも黙るしかない。
和樹が魔法を使う時は、恐らく止めさせようがない。
最初の雪はともかくとして、4月の雪も、退魔師の少女達にかけた時間回帰にしろ、それなりの事情があって使っているのだ。
それは和樹にとって、『死にたくない』という利己的な理由ではどうする事もできない事情だった。
使う時は使ってしまう。
ならば、その致命的に少ない和樹の回数を何とかしなければならず、その為にユウは幽霊の少女の魔法を参考にしようと思い立って、こうして調べているのだ。
とはいえ回数無視で手軽に魔法が使える手段がそうそう簡単に見つかれば、このような回数至上主義とも言うべき世の中にはなっていない。
結局この日のユウは、魔法の理論を詳しく再確認する事しかできなかった。
ともあれ、少年達がこんな話をしている横では、作業の手を休めた少女達が別の話をしていた。
「和樹さんって、私の事避けてる気がします。」
「そりゃあんたと結婚したら破滅するって聞かされてるんだから、あんたの事を避けるのは当たり前よ。」
「では、そもそも結婚しない方向で式森達に協力すればどうですか?」
「それじゃ和樹さんと結婚できないじゃないですか。」
「そうは言いますけど、あれほど式森の友人である神代と折り合いが悪いとなると、マトモに近寄る事も困難ですよ。」
「そうです、そのユウさんですよ!!」
夕菜が声を荒げる。
「なんで何時も何時も私の邪魔ばかりするんですかあの人は!
乙女の切なる恋心を妨害して何が楽しいんです!!」
「あんたがいちいち攻撃魔法で和樹の事ぶっ飛ばしてるからでしょ?」
「浮気のお仕置きは、妻として当然の行為です。」
「いや、あれは好かれたいと思っている相手にする行いではないと思いますが。」
玖里子と凜は、夕菜とユウが初めて出会った神社での惨劇を思い出す。
少なくとも問答無用で黒焦げにするというのは、好きな相手にする仕打ちではないだろう。
「凜さん、それは前提が間違ってます。
私が和樹さんに好かれるっていう段階はもう過ぎてます。
和樹さんはもう既に私の事が好きなんですよ。」
「……どっから出てくんのよ、その自信は。」
玖里子は疲れ果てた口調で言った。
「大体何なんですかあの人は。
女性を殴る男なんて最低です!
おまけに魔法が使えない癖して、何なんですかあの強さは!!
一般人なら一般人らしく大人しく負けてれば良いのに、何時も何時も何時も何時も!!」
「んな事言ってる時点で和樹と結婚する権利なんてねーっつーの。
回数だったらユウよりアイツの方が少ねーんだぞ。」
と、ユウとの話を終えたシンが少女達の会話に入ってくる。
「何でですか!」
「ユウの事一般人って馬鹿にしてる女が、和樹とマトモな夫婦になれるわけねーよ。
大体和樹がマトモに反撃できないのを良い事に攻撃魔法浴びせまくりやがって。
これじゃあんたと結婚したら、あいつあんたに文句一つ言う権利もなく、ひたすらあんたの顔色窺いながら生きてく羽目になるじゃねーか。」
「それのどこがおかしいんですか?
そんなの夫婦としてごく自然な事じゃないですか。」
夕菜が真剣な表情で答えると、シンは高速でテーブルに頭を叩きつけ、玖里子と凜は椅子に座ったまま真後ろに倒れてしまう。
幽霊の少女も空中でバランスを崩し、頭を床に突っ込んでしまった。
夕菜はそのリアクションにキョトンとしてしまう。
「あれ、皆さんどうしたんですか?」
「そ、それがマトモな夫婦である訳なかろう!!」
幽霊の少女が抗議じみた声をあげる。
「え? 家ではごく当然の事でしたよ。
お母様もお父様の浮気には一切容赦しませんでしたし、魔力も回数もお母様の方が多くてお父様が反抗するなんて事はありませんでした。
お婆様とお爺様も同じようでしたよ。
大体、宮間家って女系なんですけど、婿入りする人がどうにも浮気性な人ばかりで、こうでもしないといけないんですよ。」
「それ、宮間家ってのがヤバいから、逃げ出したいだけなんじゃ……」
「そういえばお父様もお爺様も、どういうわけか結婚前のお母様やお婆様から逃げ続けてたって聞いてますね。
確か、お父様はエベレストの山頂でお母様に捕まって、婚姻届にサインしたと思いましたけど。」
「そ、それは逃げるなという方が無理な気がしますが……」
凜が辛うじて声を絞り出す。
そして玖里子は
(やっぱり和樹の事は、一旦あたしと結婚させて家で保護しないといけないわね。)
と和樹との結婚を改めて決意したものの、口には出さない。賢明というより当然の判断である。
ちなみにその和樹だが、沙弓と共に既に下校してたりする。
なお、沙弓のカバンの中の目立たない位置に、二人の少女と悪魔のような少年が写ったプリクラが一枚貼られている事は、彼女だけの秘密であった。
(私に恋愛なんて関係なさそうだけど、ま、あって困る物でもないわよね。)
彼女は、心の中でそっと呟くのだった。
===========================================
本来のけやき編ですが、この話では既に彼女の話はやっちゃってるんで。
なおプリクラですが、沙弓以外にも一枚だけこっそりゲットしている人は雪江姐さんなど僅かにいたりします。
夕菜は取り逃しましたけど。
プリクラに写っている3人はエンジェル伝説からのゲスト出演です。多分キング一派との戦いに助っ人として参加したのではないかと。
本来は沖縄に住んでるんですけど、舞台ごと東京に引っ越してもらいました。
しかし……この話にクロスさせようかなと思って読み返してみたら、しばし呆然。
何この痒いラヴコメ。
エンジェル伝説って、ホーリーランドよりむしろまぶらほに相応しいクロス相手だったかも。
原作では夕菜が和樹の使いすぎに対する方策として回数の回復方法を探してましたが、こっちじゃユウが回数消費回避手段を探ってます。
ユウが随分頭良さげに描写されてますが、奴さんが頭いいのはガチオフィシャルです。なんせ元ヒッキーで2年間学校行っておらず、ゲームと鍛錬に逃避していながら進学校に進学している強者ですんで。
集中力もハンパではないので、ほんの数時間でもこの位の成果は出せると思います。
なお原作で調べ物をしていた夕菜が今回ユウと一緒になって調べなかったのは、ユウが『和樹の為だ』と言わなかったせいです。
その夕菜とユウって結構対照的なところがある組み合わせだと思うんで、殴り合い以外の形でどっかで絡めてみたいですね。
今回の内容は短いですけど、それでは。
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