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▽レス始

「.hack//intervention 第30話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-03-10 00:06)
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「待たせて悪かったな、BTッ!」

「気にする必要は無い、ほんの僅かの間だけだ」


自らの不備に謝罪するクリムに大して気にした素振りも見せないBT。
これがもしクリムでなく楚良であれば話は別だったろうが。

彼等は夕日の映える草原のフィールドに、今後についての話し合いをせんと集まった。
このエリアを指定したのはBT。彼女曰く、お気に入りの場所だからとか。

これから話し合う題目は大まかに言えば“key of the twilight”の探求その1つであろう。
それぞれがそれぞれの目的の為にその伝説のアイテムを欲する今、様々な者達が手を組み情報交換を行っている。
BTとクリムもその一例ではあるが、どちらかと言えばBTがクリムを利用していると言った方が正しいか。

そして今回特に話し合うべきは1番の重要人物であり、同時に1番の危険人物である例の2人組。
“key of the twilight”の導き手と成りうる呪紋使いの司の方は、既にベア・ミミルを利用して監視下に置いている。
心を開き始めている司はベア達に任せておけば良い、BTはそう判断したのだ。

しかしもう一方の2人組はその動きも目的もまるで捉えられていなかった。


「そういえばクリム、お前は“偏欲の咎狩人”を知っていたようだが?」

「……ああ、俺は以前一度だけ奴等と遭遇した。
 あの頃からアイツは“key of the twilight”について何かを知っているような節があった。
 それ以来しばらくは俺もその伝説のアイテムを探し出そうと躍起になってたもんだ。
 無論、情報を持っていそうなアイツの捜索も、な。
 だが結局アイツも伝説のアイテムも何の手がかりも掴めないままに挫折しちまったってわけさ」

「ほう、随分あっさりと喋ったか。
 私はもう少し悔しそうに語るものと思っていたのだが……」

「己の失敗を恥じる必要は無いッ!
 こうして俺は再び挑もうとしているわけだしなッ!」


胸を張ってそう答えるクリムの快活さ、明朗さはBTにとって好ましいものであった。

リアルの彼は出張を繰り返す忙しい社会人だ。
そんな彼が『The World』においては子供とも思えるような笑みを浮かべる。
“子供心を忘れない大人”それがこの世界で如実に現れているということだろう。

BTのクリムに対する感情はかなり複雑に絡み合っている。
彼のあまりに素直な心を純粋に嬉しく思う一方で、それを愚直と捉えて利用しようとも考えてしまう。
リアルの自分の感じ方と“BT”というキャラとしての感じ方。
“BT”は演じているに過ぎないものの、もう1人の自分であることもまた事実なのだ。


(今の私はBT、他人を利用し常に自らを上位に立たせる人間……)


BTは一瞬揺らぎかけた心を、そう呟くことで振り払うことにする。
ここは『The World』、ゲームの世界。現実は持ち込むべきではない。

現実と仮想の境界線が崩れた時、イコールそれは互いが互いを侵食しあうことを指すのだから。


「ではクリム、お前は巷で話題になっている2人組についてどう思う?
 メールでも言ったがミミル達曰く、彼等と“偏欲の咎狩人”は同一人物らしいぞ」

「……正直そこら辺は直接会ってないから判断しかねる。
 以前出会ったアイツは顔の半分を隠している以外は普通だった……少なくとも外見は」

「つまりそれ以外は普通ではなかったと?」

「そうだ。今思えば、アイツの力はどこか司と似ていた。
 司はカオスゲート抜きのサーバー移動が出来、ヘレシィはルートタウンに一度も現れたことがなかった。
 司は鉄アレイ状のモンスターを引き連れており、ヘレシィは傍らに例の幽霊少女を携えていた。
 そして司が痛みや匂いを感じるようになったように、ヘレシィの瞳には…………本物の輝きがあった」


クリムのどこか悔しそうな表情に、BTは敢えて反応しない。
重要なのは彼に関することではなく、司と“吸魂鬼”の共通点なのだ。

以前のBTは司も“吸魂鬼”も伝説のアイテムに辿り着いたものと思っていた。
だが司との接触を通して彼が持っているのではなく、誰かに“与えられた”と判断するに至る。
そして今回のクリムの話から、“吸魂鬼”のPCデータを破壊する能力も同様であると分かった。

であれば、鍵となりうるのは司が捜し、“吸魂鬼”と共にいたあの少女。


「もし“黒い幽霊少女”が“吸魂鬼”だけでなく司にも力を与えたのだとしたら……」

「どうした、BT? もしかして何か掴んだのか?」

「…………いや、何でもない。
 それより『Δ隠されし 禁断の 聖域』についてだが――――」


クリムとは組んでいるが、全てを教える道理は無い。
自分の答えが正しければ、どちらにせよ『Δ隠されし 禁断の 聖域』に行けばわかることだ。

あくまでクリムは他にも来るであろう邪魔者への対抗策。

BTはそう結論付けてクリムと共に“key of the twilight”を求めて『逆城都市』へと向かう。


――――その先で出会う者達に驚愕することも知らずに。


.hack//intervention 『第30話 準備は整った……と思う』


「はぁ…………寂しい」


ヘルバと初接触してから1週間。
俺は馴染みつつあるホーム“ゴミ箱”に1人ぽつんと浮かんでいた。
そこにはいつも居る筈のシェリルの姿は無く、彼女が途中まで作っていた妙な球体があるだけ。

といっても別に大層な理由があるわけじゃない。

前回ヘルバと約束したように、俺が居ない間はシェリルの世話をするように言ってあった。
その際にシェリルはヘルバとにネットスラムへ連れて行って貰ったらしい。
そこで2人が何を話したかは知らないが、ヘルバがいきなりシェリルを預かりたいと申し出てきたのだ。

無論、俺は反対しようとしたさ。
別にヘルバが信用出来ないとかじゃなく、俺同様シェリルにとってもこの“ゴミ箱”が1番安全だから。
…………決して1人ぼっちが嫌だからとかじゃない。

なのにシェリルが行きたがったのには驚かされた。
どうやらあそこには彼女にとって魅力的な何かがあるらしく、どうしても譲らなかったのだ。

んで結局折れたのは俺の方。
ネットスラムには彼女と同じ放浪AIが居る筈だから、友達作りにも丁度いいし。
預かるといっても1週間程度で、それからは偶に遊びに行く程度にするとのこと。
修学旅行みたいなもんだろうし別にいいかなぁ〜といった感じで話し合いは終了したわけだ。

でも今更ながら少しだけ後悔している。


「あ〜…………暇」


言葉通り激しく暇なんですよ。

よく考えたらさ、シェリル無しじゃ俺って外にも出れないんだよな。
だから当初予定していた『逆城都市』にいるハロルドの所に行くことも出来ない。
更に俺の計画では、そこで司達と話をする必要もあるんだが……その時期もこの状態じゃ分からない。

それだけじゃなく、俺は彼女達との連絡手段すら持っていない。
怒鳴っても暴れても誰も気づくことなく、ただただ空しいだけ……本当に泣きたくなってくる。


まあ正確に言えばずっと1人というわけじゃない。


「ばみょんッ!」

「……また来た」


掛け声だけでやってきたのが楚良だと分かる筈だ。
コイツは最近2日おきぐらいのペースでひょっこり顔を出してくる。

……でもハッキリ言ってこれなら1人の方がずっといい。

楚良はいつも通りキョロキョロ辺りを見回しながら、目的の人物、つまりシェリルを探そうとする。
その途中で俺と目が合ったりもするんだが、ムカつくことに奴は何事もないかのようにスルーしやがる。

本来なら俺も無視を決め込みたいよ……奴が貴重な情報源で無い限りは。


「……もうあのエリアには行ったのか?」

「行ってない行ってない。
 幽霊ちゃんはまだ帰ってきてないの?」

「見たらわかるだろうが。つーかお前はシェリルに何の用だ?」


これはいつも行われるやりとり。そして今回も奴は俺の問いに答えようとしない。
“ちぇッ!”とかほざきながら奴は俺に挨拶も無しに帰っていくのもいつも通り。
何かいつの間にか俺って嫌われてるのかもしれない…………別にいいけどな。

奴が何でシェリルを捜してるのか、少々気になるが……。


「あ〜あ、街作りの続きでもやるか……」


誰に話しかけるでもなくそう呟きながら、以前からずっと続けてる地面作りの続きを開始する。
右腕の触手のおかげで持ち運びが楽になった分、広さは既に100m平方にはなっていると思う。
綺麗な部品が少なくなってきたせいで、広くなるにつれてデコボコ具合も酷くなってきているけど。

そろそろ次の段階、即ち建物を作ってみようかなとか考えてたりする。
といってもルートタウンみたいなのは多分無理。大きさも精巧さも外観も。
せいぜい出来て犬小屋のちょっとマシバージョンくらいかな? 

別に暇潰しにやってるだけで、直接そこに住むつもりもないからそれくらいで丁度いい。
あ、でも犬型の放浪AIとかいたらヘルバに呼んで貰うのも面白いかも。


「いっそのこと、ここを新しいネットスラムにしてみようかな?
 ……う〜ん、でもそれならヘルバがちゃっちゃとそれらしく作っちゃうだろうし。
 出来れば初志貫徹、せっかくだから最後まで俺の手でやり遂げたいし。
 ま、いいや。ゴチャゴチャ考えてる暇あったら……………………ん?」


試しに犬小屋作ってみようと材料集めしている途中に、どこかから微かなワープ音が聞こえてきた。
“ゴミ箱”は仮にも“エリア”と呼称されるくらいだから結構広い。
そんな中で小さな音が聞こえたのは、ある意味シェリルが居なくて1人だったおかげかもしれない。

聞こえた音は多分一般PCの奴だから、もしかしたら楚良がまた来たのかも。


(まさか……司達がもう『逆城都市』に向かったのか?)


尤も今回彼等と会うことはあまり重要でなかったりする。
あくまで俺とシェリルがハロルドに会うことに大局的な利を加えようとしての計画。
出会えればそれに越したことは無いが、同時に出会えなくとも大して問題じゃない。
彼等に会おうと思えば、ヘルバに頼み込んでミミル達を呼んで来て貰えばいいだけの話だしな。
大事なのは司達と会うこと、時期は大して問題じゃないというわけだ。

少々の不安を抱えつつ次第に見えてくる影は2つ…………2つ?

ということはヘルバと楚良か? 何かあり得そうであり得ない組み合わせだな。
でもあの2人が一緒に来るってどういうこと?


そして何故か2つの影のうち一方だけが急速にこちらへ近づいてきて……、


「トモアキッ!」「ぐふぅッ!? んがぁッ!?」


俺の胸元に力の限り突撃してきた。
痛くはないんだけど、その勢いが半端じゃなくて思わず声を漏らしてしまう。
実はそれだけじゃなくて、向かってきた影が持っているらしい長い棒が俺の顔面に直撃したのもあるんだけど。

ホント、痛覚が無くて良かったよ……ってそんな問題じゃないか。

今聞こえた声と台詞は間違いなく、


「…………シェリル?」

「うんッ!」


やっぱりそうだよな。というかそれしかあり得ないよな。
んでもってシェリルの後ろからやってきているのは言うまでも無くヘルバだった。
つまりようやくネットスラムから戻って来たってわけか。

でも何でだろう……再会の仕方が良くなかったせいか素直に喜べない。
シェリル的には抱きつこうと飛びついてきたんだろうが、俺は呼吸器と顔面に結構なダメージ追っちゃったし。
つーか未だに棒が俺のデコをグイグイ突っついてるのをどうにかして欲しい。

いやそれ以前にこの棒……何?

俺はその疑問を解消すべくシェリルを多少無理矢理引き剥がす。


「久しぶりに会えたのは嬉しいが……その格好は?」


前回会った時の彼女はいつも通りの簡素な服だった。
それこそ言い方は悪いが究極AIアウラの色違いと言っても過言ではなかったくらいだ。

なのに今はその面影程度しか残っていない。

薄い1枚の黒い無地のワンピースだったのが、手首や胸元などの様々な箇所に赤のヒラヒラが加えられている。
何というかワンピースからドレスに変わったような感じで、その上に薄いカーディガンを羽織っている。
次いで以前は何もつけていなかった足の部分には黒いブーツっぽい靴が履かれており、ちょっとブカブカ感がある。
首には黒真珠で構成された高価そうなチョーカー、頭には……特に変わったところ無し。
更にその手には、ガラスの円球の中を雷が渦巻いている全体的に透明な杖を持っている。

全体的な感想を一言で言えば……“お姫様”ってな感じだ。いやどこぞの“お嬢様”にも見えるな。
どこかのファンタジーな世界の魔法が使えるお姫様かよ……ってここは一応ファンタジー世界だったっけ。


頭の周りを“?”が3つくらい浮かんでいる俺に対して、シェリルはニコニコしながらヘルバの方を向き、


「ヘルバに改造して貰ったのッ!」


いきなりとんでもないことを言い出した。

か、改造って……そりゃヘルバならやっちゃいそうだが、そんなあっけらかんとした口調で言われてもなぁ。
普通“改造”って言葉を聞くだけであんまり良い気分はしない筈なんだけど。

とにかくシェリルじゃ話になりそうにない。
こうなった経緯やら外見以外は変えられたのかどうかやら、全てヘルバから聞き出す必要がある。

……それにしてもシェリルよ。
可愛らしくなったのは認めるが、それはもしやヘルバの趣味か?


「ヘルバッ! さっさと説明しやがれッ!」

「あら、可愛いでしょ?」

「そ、そりゃあまあ…………って話を掏りかえるなッ!
 この1週間の間に何があったのか、正確に、全てを、漏らすことなく説明して貰おうかッ!」


こっちは驚いたり慌てたりってな感じなのに“してやったり”な笑みを浮かべるヘルバがどうしようもなく憎かった。


俺は自分で作られた地面の上で胡坐を掻き、その目の前にはヘルバ。
何か色々変わったシェリルには、この1週間で俺が組み立てた地面の接着をして貰っている。
俺も彼女やヘルバみたいに役立つスキルが欲しいよ。


「んじゃまずはシェリルの変化について教えて貰おうか?
 この1週間についてはその後、じっくりシェリルも加えて聞き出してやるからそのつもりで」

「せっかく貴方の役に立つ処理を施してあげたのにね」

「いや見た目と棒しか変わってねーじゃんッ!」


最近気づいたことなんだが、ヘルバって奴は人を焦らすのが好きらしい。
というか俺って楚良とかにも同じような対応されてる気がするんですけど。

やっぱり前に言われたような“弄られキャラ”なのか?
いやまあ、既に勘弁して欲しいくらいにPC弄られちゃってるけどさ。

…………止めよう。これ以上考えると色々空しくなってくる。


「貴方が居ない間に彼女の体を調べてみたのよ。
 あの子は放浪AIの中でも特に欠けた様子も見られない特別なタイプだったから。
 でも結局調べられたのは外装程度、内部は奇妙なブラックボックスになっていて私にも手が出せなかったわ」

「……それと今回のことの関係は?」

「確かに彼女の詳細については分からないまま。
 けど容姿、発言、そして精神的な成長をするという人間性……そのどれをとっても完成度が高い。
 つまり彼女は放浪AIという事実を除けば限りなく人に近い存在になりつつあるというわけ」


言われてみればシェリルって色んな意味で特別だよな。

放浪AIと一括りしてはいるがその種類は多種多様だ。
例えばひたすら同じことを喋るしかできない奴や所々のグラフィックが欠けている奴。
思考能力がどこかおかしかったり、そもそも人型でない場合すらあるのだ。
そんな中でシェリルやアルビレオが出会ったリコリスはかなり優秀なタイプだと言える。

更にシェリルにおいては、俺が初めてで会った時には碌に言葉も喋れなかった。
なのに今は普通に会話するどころか、データの操作及び考察までもが可能になっている。
精神的にも幼稚園児程度くらいには成長しているだろう。偶に妙に大人ぶるし。

しかしそれと今回の変化に特に意味があるとは思えない。
強いて挙げればお洒落に目覚めたとか? あとは一応まともなセンスになってきたってことかも。
……いや、後者は簡単に直るような代物じゃない。言っても分からないことぐらい、俺の体で実感しているんだから。

俺のそんな予想とは裏腹に、ヘルバから告げられた内容はそういったシェリル個人ではなく寧ろ俺に関係する類のものであった。


「そこで私が彼女の外装に多少手を加え、更に杖を持たせることで呪紋使いに仕立て上げた。
 その完成度の高さ故に彼女の外見を大幅に変えるのは難しいから、仕様の範囲内に抑えるの、大変だったのよ?」

「仕様? 態々そこまでして一体何を…………もしや偽装か?」

「惜しいわね。40点」


おいおい、半分も合ってないのかよ。結構自信あったのに。

俺が考えたのは“偽装”、即ち彼女が俺から離れて外に出た際の為の対応策。
現実世界の俺を呼び戻そうとあちこちを彷徨っていた彼女は“黒い幽霊少女”としてかなりの話題になっている。
ちなみに彼女の方はまだ普通なのに何故か俺が“吸魂鬼”とか呼ばれてるのには少し泣いた。
俺の容姿からしてそれくらいは当然なんだろうが、精神的にはちょっと納得がいかない。
だって中身は普通の大学生なんですから。

それはともかくこの判断が40点ということだから、一応含まれてはいるらしい。

だがこれ以上は予想がつかないな。


「貴方のいう偽装という観点は間違っていない。
 ただその範囲が見た目だけでなく、中身にも渡っているというわけ。
 ……一般PCの目だけでなくシステム管理者をも欺ける状態に」

「…………はい?」

「今の彼女は正規のアカウントを所持した紛れも無い一般PCの1人なのよ」


成る程、それならあの格好にも説明がつくし納得も出来る。
それに彼女が断言するくらいだから、その仕事にも綻びはない筈だ。

具体的なやり方は専門家でない俺には理解し得ないだろうが、大事なのはその事実。
ヘルバのおかげでシェリルはモルガナ以外に対する最高の隠れ蓑を手に入れたってことになるんだから。

そしてそれ以外にもこの事実には使いようがある。


「メニューも開けるしゲートアウトしてルートタウンにも行ける。
 そう考えていいんだよな?」

「ええ、勿論そうなるわね。
 他人とパーティーを組むことは当然として、『The World』内に限定された簡易メールも出来、外からのメールも私を介すれば可能。
 ログアウトの場合は抜け殻のみが世界から離脱し、彼女の本体、要は以前の姿に戻るようになっているけど」

「それは同時に君や楚良を介することなく外の情報を正確に把握することが出来る……と?」

「だから始めに言ったでしょ? “貴方の役に立つ”って」


ただ問題がないわけじゃない。

いくら彼女が一般PCに限りなく近づいていようと、実際に間近で見たことのある人間はほぼ確実に疑いを持つことになる。
例を挙げればミミルやベア、昴、クリム、後はアルビレオだがこっちは多分遠目程度でしか見ていないだろう。
加えてアルビレオの場合はシステム管理者であるが故に、そのアカウントに惑わされる可能性が高い。
それでも警戒するに越したことはないが……。

次にシェリルのレベルはおそらくかなり低い筈だ。ヘルバの仕事であるからこそ尚更。
何せ取得されたばかりのアカウントの持ち主がいきなり高レベルだったりしたら、それこそ不正を取り締まる側の的となってしまうんだから。
レベルが低いとルートタウンは良くてもエリアの探索が出来ない。出来たとしてもかなり限定されてしまう。
しかもこれは推測だが、もしシェリルが戦闘不能に陥った場合、PCとしての殻は外れるものと思われる。
もしその場に上記の5人が居たら厄介なことになるだろう。

最後且つ1番の問題はシェリル自身の素養。
馬鹿正直な彼女がボロを出すことなく他人から情報を得られるか…………激しく疑問だ。
特に物語の登場人物と話したりしている際に俺の名前なんか出したりしたらそれでアウト。


まあグダグダ言っても始まらないし、彼女は彼女なりにこの1年で成長している。
俺はそれを期待して静かに待つとしましょうかね……………………ん?


「なあヘルバ、同じような処理を俺にってのは?」

「無理ね。ウィルスバグ自体が手を加えられない以上、貴方のPCはどうしようもないわ」

「……あっそ、どうせ分かってたし別にいいんだけどね」


いいなぁ……シェリル。
俺なんかPCと呼ぶのがおこがましいくらいの化け物なんだぜ?

あーホント、早く人間になりたぁ〜いッ!!


俺はPCという隠れ蓑を得たシェリルに何をして貰うか、頭の中でアイディアを巡らせようとする。

しかしそんな考えは、続けて告げられたヘルバの、


「そういえば司達がつい先程、例の場所へ向かったわ」


あらかじめ監視を頼んでいた彼等が動き出したという報のせいで中断させられた。

俺はシェリルを呼び戻し、これから己が為すべきことを整理しつつヘルバに頼んで例の場所に転送して貰うことにする。


――――さぁて、そんじゃ向かうとしますか……天空の逆城都市へッ!!


あとがき

シェリルPC化&動き出す物語の巻。
今回の改造が役立つのは結構先の話だけど。
ようやく物語を動かせるのが何気に嬉しいかったりします。

次回はいよいよ『逆城都市』編スタート……といっても4話程度ですが。


レス返しです


>TAMAさん

バルムンク強硬派、オルカ穏健派って感じです。
物語が進むに連れて少しずつ考えが変わるようにするつもりですが。
ヘルバとシェリルの関係は物語終盤まで続きます。
ヘルバが彼女に何を教え、又どういう目的でヘレシィ達と接触しているのかは何れ話の中で明らかになる予定。
今回の話でシェリルはヘレシィと離れて行動することが可能になり、外の世界を見られるようになるわけですし。
主人公が得た情報については近いうちに出てくる予定です。

これからもよろしくお願いします。


>meroさん

主人公が攻略本で得た情報はいくつかあり、少しずつ出していくつもりです。
まあそれでも結局は多少の追加要素程度でしかないわけですが。

次回もよろしくお願いします。


>コピーさん

確かに主人公って二重の意味でトライエッジと似てますよね。
これが物語に直接関係するかは結構微妙ですが、G.U.編辺りで話題になる可能性ありかと。

これからもよろしくお願いします。

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