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▽レス始

「Fate/黒き刃を従えし者32(Fate+オリ)」

在処 (2007-03-09 23:54)
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屋敷の中に戻ると、桜の部屋の灯が消えていた。
と、いう事は。
リンも士郎も、自分の部屋へ戻ったのだろう。
……どうしようか。
リンと話をしたいけど、今まで桜の所に居たのなら疲れてるだろう。
なら、明日リンが起きた時でも……

―――パンっ!

「……問題を先送りにして、逃げてどうする」

弱気になる自分に活を入れる。
両手で叩いた頬がひりひりするが、今はいい。
私は自分の部屋に戻り、枕を取って部屋を出る。

―――コンコン

と。
リンの部屋の扉を叩く。
……起きていないなら仕方ないけど。
…………だから。
何で私はこう、意志が弱いのか。

「はーい、誰?」
「……リン」

……起きてた。
覚悟を決めろ。
逃げてたってどうしようもない。
何も出来ないのはいやなんでしょ?
なら、全力でぶつかって行かないと。
私の言葉は誰にも届かないよ?

「アーチャー?
 ちょっとまって、今あけるから」

ガチャガチャ、と。
内側から鍵を開ける音。
ぎゅ、っと。
私は両手で抱いた枕に力を込める。
……逃げ出したい。
憔悴するような辛い想いを、私は持った事がない。
だから、リンの気持ちなんて一分とて判らない。
そんな私に、何ができる。
弱気な私が、この場から逃げるように促す。
駄目。
ここで逃げたら、私はもうリンの前には出られない。
判らないから、知りたい。
私はリンの力になりたい。
だから、逃げない。
眼を閉じて、息を整える。
動揺を鎮めるため、更に強く枕を抱く。

「こんな時間に如何したのよアーチャー?」
「……リン」

ドキドキ、と。
心臓が忙しなく動く。
話をしたい。
一緒にいたい。
だから。

「一緒に、寝てもいい?」

そう、切り出した。


Fate/黒き刃を従える者


リンの部屋に入る。
私の部屋と変わらない、しかしフラスコやビーカーなどが置かれている。
……あと、もう少し整理したらどうかと思わないでもない。
ちくちくと。
時計が時間を刻む。
沈黙。
時刻はもうすぐ11時。
寝るには少し早いけど、寝ていてもおかしくは無い時間。

「あー……えっと、寝る?」
「……うん」

話したい事、伝えたい事は幾らでもある。
話してほしい事、打ち明けてほしい事も幾らでもある。
でも、如何切り出そうか考えても、何もいえないで沈黙が続く。
リンがベッドに入るように促す。
次いで、リンもベッドに入る。
私はリンの方を向いて。
リンは私を見てくれる。

「……リン」
「ん〜?」

ぎゅっと。
リンの手を掴む。

「もう……今日は甘えん坊なのね、アーチャー」
「……そうかもしれない」

リンの苦笑。
それでも、リンが笑ってくれるのは嬉しい。
色々な事があって、正直少し混乱してる。
言いたい事が山ほどあって何も言えなくなる。
でも。
繋いだ手は暖かくて、その悩みを軽くしてくれる。
だから。
言おう。
伝えよう。
私の気持ち。
私が、今如何思っているのかを。

「……リン」
「なぁに?」
「……私は、リンが好き」
「え?」
「私は、リンも士郎も、桜もセイバーも大河も好き」
「えぇ。私もよ、アーチャー」

私の言葉を、リンは微笑んで受け止めてくれる。

「……だから、私は皆が傷つく所を見たくない。
 私は我侭だから。
 私が好きな人たちには、笑っていてほしいの」

そう。
それはどんな我侭な事だろう。
他人の都合なんて知らない。
ただ、悩まないで笑っていて欲しいと。
一方的で傲慢な我侭。

「……だから、ね。
 話して欲しい。
 悩みがあったら一緒に悩む。
 苦しかったら一緒に苦しむ。
 悲しかったら一緒に悲しむ。
 私は受け入れたい。
 伝えて欲しい。
 リンがどれだけ苦しいのか。
 ……リンの気持ちは、私には理解できないかも知れない。
 でも、それでも一緒にいる事はできるから」
「……アーチャー」

桜の事。
遠坂の家の事。
聖杯戦争の事。
悩む事は多いのだろう。
それはリンの悩み。
私が、本当に理解することはできない。
でも、それを知る事は出来る。
リンが答えを見つけられるように、手伝う事はできるから。

「……お願い。
 忘れないで。
 一人で抱えないで。
 リンには私が居る。
 士郎もセイバーも、きっと力になってくれる。
 忘れないで。
 一人じゃない。
 リンは一人じゃないんだから」

ぎゅっと。
リンが私を抱きしめる。
支離滅裂な私の言葉を。
リンは聞いてくれた。
その上で、リンは私を抱きしめてくれる。

「……ありがとう、アーチャー」
「……うん」
「そうね。どうかしてたわ。
 桜が養子に行ったことは遠坂の、ひいては私の問題だけど。
 今は私だけの問題じゃないものね」
「……リンの問題だって、私は手伝うよ。
 それがどんな事でも、私はリンの味方だから」
「うふふ、嬉しい事言ってくれるわね。
 あー、もう。
 私ってば嫌な奴ねぇ。
 何でもかんでも一人で抱え込んで悩んで、その上で回りに気を使わせてる」

……そんな事、無い。
こんな風になったのは、私が弱いからだから。
リンが自分を責める必要なんて無い。

「……聞いてくれる?」
「うん」
「私ね、桜が養子に行くって聞いた時、引き止めなかったんだ。
 遠坂とマキリの盟約で、養子に行けば互いに干渉する事は、そう簡単には出来ない。
 知ってたのにね。
 父さんが死んで、お母さんが死んで、私一人になって。
 でも、桜は貰われて行った家で魔術なんか知らずに幸せに過ごしてる。
 そう思って耐えた。
 遠くから桜の事は見てた。
 士郎と一緒にいる所。
 幸せそうだった。
 それを見ると、自分が頑張ってるのは無駄じゃないって思えた。
 ……実際には、そんな事無かったのにね。
 私は桜の事、何にも知らない。
 桜がどれだけあの家で苦しんでいたのか、私には判らない。
 私は苦しいなんて思った事無かったから」

それは、嘘だろう。
リンはそう言うけど、一人で投げ出されて悲しくない筈なんか無い。
普段は感じさせないかも知れないけど、リンだってまだ子供なんだ。
一人で生きていけるほど大人じゃない。
ただ、寂しいっていう感情が普通だから、それが麻痺してるだけ。

「桜がどんな気持ちで、今まで生きてきたのか。
 私には想像すらできない。
 悲しいなら縋って欲しかった。
 助けてって言えば、私は幾らでも力を貸したのに」

リンはそこで一旦言葉を切る。
でも。
と。

「でも、それは当然なのよ。
 行きたくないって泣いてた。
 その桜の背を押して養子に行かせたのは他でもない私。
 あの時はそれでいいと思ってた。
 間桐には長男がいるって聞いてたから、桜が魔術に関わる事は無いんだって。
 だから。
 そんな私を桜が頼るはずなんか無い。
 桜を地獄に突き落としたのは私なんだから」
「……」

リンは悪くない。
リンはただ、桜の幸せを願ってただけなのに。
それに、それは多分桜も同じ。
桜が傷ついて、苦しんだ分だけリンは幸せになれるのだと。
だから桜はリンに相談なんてしなかった。
出来なかった。
リンにとって桜が幸せでないといけないのと同じ。
桜にとってリンは幸せでいないといけない人だった。
だから、桜はリンに何も相談できない。
自分が居る所に引き摺り下ろす事を恐れるから。
だから。
それはリンの所為でも桜の所為でもない。

「…………」

一人嗚咽を漏らすリンを、私は抱きしめる。
胸に頭を抱え込んで、リンが落ち着くまでその髪をなで続ける。
言葉なんて無い。
それはどんなに重いのか。
それを私は判らないし、判り様もない。
判る、何て軽々しく言えるはずも無い。
私が出来る事なんてそう多くは無いのだろう。
結局、リンの心の傷を癒せるのはリンだけなのだから。
私はただ、それの手助けをする事しか出来ない。
……もどかしいな。
何で私は、こんなに弱いんだろう?
大切な人が悩んでるのに、何も出来ないのか。
……でも、もう逃げはしまい。

「……リン?」

スースー、と。
嗚咽は何時の間にか、寝息に変わっていた。
泣き疲れて眠ったのか。
その寝顔は、憑き物が落ちたように安らかなものだった。
……私でも、リンの役に立てたのか。
それは判らない。
でも、今リンがこうして安らいでいるのなら、それでいい。

「お休み、リン」

私はリンを抱いたまま、瞳を瞑る。
……そうだ。
とんでもない事を思いついた。
今は聖杯戦争中だろう、と。
私の一部が呆れる。
でも、その思いつきは、とてもいいことのように思えた。
明日、早速実行しよう。
桜とセイバーも引きずり出して。
皆で一緒に……
そのまま、私の思考は闇に溶ける。
腕の中にあるリンのぬくもりが、私の中で渦巻いていた感情を打ち消し、解き放ってくれた。
……リンの悩みも、こうやって消してあげられれば良いんだけど。
その思考を最後に、私は眠りに落ちた。


後書き
話がすすまなーい。
あっはっは。
ほんとに100話超えるんじゃなかろうな?
何時の間にか30話超えてるしー。
まー気長に行こうか。

レス返し
<<シヴァやんさん
なんかランサーフラグ立った気がします。
そして今回凛フラグ?

桜の心臓の蟲、言峰ならば治癒系の術が使える者が居れば致命傷を与えずに取れるという事にしました。
だから前々回の『治癒の魔術は使えるか?』発言です。
ただ……命を担保にとられかねない借りになる事は確かでしょうね。

<<最上さん
借りを返す為に窮地に陥って欲しいと考えてるかどうかはともかく。
窮地に陥っていれば助けるでしょうね。
そして更にフラグがたつのか?

<<とおりすがりさん
Fate本編の桜編の桜Vs凛の所で凛の台詞に
『私が辛ければ辛いほどあんた(桜)は楽できるんだって信じたかった』
って言うのがありますよ?
うっかりなんでしょうけど、本気で桜は魔術の事知らないと信じてたっぽいです。

<<powerLさん
最近日刊じゃなくなりかけてますが。
ランサーに関しては無問題です。
きっと幸運Eが嘘じゃないかって位には報われます。

<<遊恵さん
孫子(孫武)は紀元前5世紀ほどに活躍した思想家です。
アーサー王が4〜5世紀の人物だと言われてるので、1000年くらい前の人になりますね。
まぁ、アーサー王が実在したかどうかは未だ議論が絶えないようですが。

なんかランサー人気高いなぁ。
このssで人気投票やったら2位くらいに入りそうな感じ……
いや、やりませんって言うか出来ませんけどね。

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