インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「Fate/黒き刃を従えし者31(Fate+オリ)」

在処 (2007-03-08 23:56)
BACK< >NEXT

コチ、コチ、コチ、と。
時計が時間を刻む。
リンと士郎は桜にかかり切り出し、セイバーはまた眠っている。
私は自室に戻り、魔弾の作成をしているのだけど、どうも手につかない。

「……ふぅ」

溜息一つ。
一昨日まではこの時間はまだ、セイバーと士郎が道場で打ち合っていたのだけど。
今の状況ではそれも出来ないだろう。
セイバーは魔力の回復の為眠り、士郎は大切な人を失わない為に必死だ。
そしてリンは。
……自己嫌悪で見ていて辛い。
それで居て、必死に桜を宥めている様子は……
見ていられなかった。
焦燥と後悔、その結果憔悴。
聞いた話では。
桜はリンの妹。
リンは桜は自分と違って貰われて行った家で魔術の事など知らないまま普通に育っていると思っていたらしい。
対して桜は、リンは自分と違って生まれた家で一流の魔術師として立派に育っていると思っていた。
……どちらも、互いが幸せであると。
自分が我慢する事によって姉は、妹は幸せになるのだと。
そう言い聞かせて過ごしてきた。
……ならば、この結果は無いだろう。
互いが互いを想っていたが故の行動で、その結果すれ違いが起きた。
特に。
リンが酷い。

「……」

何故、と。
私は神に聞きたい。
何故彼女達にこんな過酷な試練をかすのか。
リンと桜が、一体何をしたって言うのか。
何かに対する罰ならば、むしろ臓硯に与えてやって欲しい。
……そんな事考えても、無駄である事は判ってる。
でも。
そういう事でも考えてなきゃやってられない。

「……神なんて信じてないけど」

……むしろ、今は居てほしい。
恨めるから。
そんな事、したって意味がない事くらいわかってる。
でも、今は。
この心の中で渦巻いてる色々な感情を吐き出す対象が欲しい。
それが……

「……はぁ」

溜息、一つ。
無駄。
幾ら対象が出来ても、この気持ちは晴れないだろう。
なぜならこの感情が向かう先は一つ。

「……こんな状況になっても、何も出来ない私」

そう。
ただそれだけに矛先を向けているのだから。


Fate/黒き刃を従える者


部屋を出る。
桜に割り振られた部屋だけ明かりがついている、という事は。
士郎もリンも桜の部屋か。
因みに大河は居ない。
学校のテロ騒ぎで職員会議やら何やらで忙しくなったらしい。
それで暫くこっちへは泊まれない、と。
起きた時に聞いた。
……今回の騒ぎで一番割を食った人かもしれない。
合掌。

「……それでも、ちょうどいい時期だったかもしれない」

この家にいれば、嫌でも聖杯戦争に巻き込まれる。
大河が狙われる可能性も無いでもないけど。
今の士郎やリンに、そっちまで気を回す余力は無い。
……それは、私やセイバーも同じ事。
ただ、何かあったら気付けるようにはしている。
後手に回る事にはなるけど、何もしないよりは良い。

「……それに、今の三人の状況を見せる訳にも行かないし」

今この家にいれば、どうしようと耳に入るだろう話。
そっちの面でも、都合が良かった。

「……結局、私は甘かった訳か」

この家に泊まらせるという事は、つまりは。
私とセイバーならば気付かれない内に対応できるだろうと言う過信。
どんな敵でも退ける事ができると言う、見解の甘さが招いた失態。
……桜の事は、怪我の巧妙に過ぎない。
私は、大局を見誤った。
今はまだ、どのサーヴァントも仕掛けてこない。
でも、私とセイバーの不調を知ればすぐにでも消しに来るだろう。
セイバーにはああいったけど、実際この家でどの程度の攻撃に耐えられるかは不安がある。
……出来れば、遠坂邸に拠点を移動したい所だ。
ただ。
リンと桜の事を考えれば、それは拙いだろう。
今のあの二人があの家に移動したら、恐らく二人とも潰れる。
この家で、士郎がいるから二人とも何とか保ってるんだ。
過去と余り接点が無いから。

「……」

私は屋敷を出る。
そう遠くへはいけない。
精々門の外、塀によりかさる程度。
でも、屋敷の中に居たくなかった。
気が滅入るから。
空を見上げる。
晴れた日なら、綺麗な月と、輝く星の見える澄んだ空気。
でも、今日は私の心の中のように暗い雲に覆われている。
灯は泣く、冷たい空気は体を刻む。
……そうしていると、何処までも沈み込んでいくようなきがする。

「……駄目だな。
 まだ、聖杯戦争は終ってないのに」

そう。
まだ終ってないのだ。
いつまでも腑抜けてる訳には行かない。
敵は待ってはくれないのだから。
せめて私だけでも、臨戦態勢を整える必要がある。
……のに。
どうしようもない感情と言う物はあるんだ。

「……はぁ」
「なんだ?
 随分不景気だな?」
「……!?」

驚愕。
すぐ近くまで接近されて、気付きもしなかったのか。
そこには。

「よぉ」

と、片手をあげたランサーがいた。
……どうやら、随分と腑抜けているらしい。
彼が私を殺す気なら、今ので消滅していた。

「……ランサー」
「なんだ、色々大変みたいだなそっちも。
 学校爆破は見てて気持ち良いもんだったが、詰めが甘かったな」

……あの時もいたのか。
本当、どうかしてる。
過信しすぎだ私。

「あぁ、気づかなかった事を悔やんでるなら間違いだぜ?
 何せ俺は気配遮断のルーンを刻んでたんだからな」
「……そんなのは言い訳にならない。
 実際、こうして貴方の射程まで近付かれてる」

そう。
相手が気配を消していて気づかないと言うのなら。
アサシンがマスターを暗殺しても仕方ないで済ますしかない。
それにどう対応するかはこの聖杯戦争で勝ち残る為の条件だし、それは他のサーヴァントであっても変わりない。

「ほぅ……随分と腑抜けてるかと思ったが、意外としっかりしてるな。
 少なくとも前の敗北を引きずってる訳じゃないって事か」
「……そう?
 随分と腑抜けてると思うけど」

ここでのんきに話をしている所とか。
……まぁ、ランサーが戦闘をしにきた訳ではない事は判っている。
なら何故来たのか、と聞かれれば。
それは判らないのだけど。
……幾らなんでも、アロハなシャツで戦いに来るってことは無いと思う。
それでも。
その気になればいつでも武装して襲ってくるのだろうけど。

「いや違うな。
 今のあんたは腑抜けてるんじゃねぇ。
 大方、今やるべき事が多すぎて情報を整理してるって所だろう」
「……そうかな?
 ライダーが脱落したと聞いて、油断してるかも」
「はっ。
 実際油断してるんならそんな台詞は出てこねぇ」

ランサーは何が楽しいのか。
愉快そうに口をゆがめる。

「ま、何で一人で抱え込んでんのかはしらねぇ。
 あんたのマスターが今どういう状況にあるのかもしらねぇしな。
 ただ……」

そこで。
考えを纏める為か一旦言葉を切る。

「あんたのマスターは強いぞ。
 正直俺のマスターになって欲しいくらいにな。
 だから、一人で抱え込む必要なんかねぇだろ。
 それにあんたのマスターが一人で抱えられねぇ問題持ってるなら分かち合ってやれ。
 悩んでる時ってなぁ、誰かに話を聞いてもらうだけでも変わるもんだぞ」
「――――っ!」

敵の言葉、と。
一笑にふす事は出来るだろう。
でも、ランサーの言葉に偽りはないし、ランサーに私を混乱させようと言う意図は無い。
その言葉は真摯で、その瞳はただまっすぐに私を捉える。
口元に浮かんでいた笑みは、その言葉を紡ぐ前にはその姿を消した。
……彼は真実、リンを信用して、私を信用している。
私達であれば、乗り越えられぬ壁など無い、と。

「……なんで?」
「はっ!
 せっかく俺の剣をくれてやったって言うのに、やりあう前に誰とも知れねぇやつにやられちゃたまらんからな。
 次に俺と戦うまで、何が何でも生き残ってくれよ」
「……そう」
「……まぁ、腑抜けてるんじゃなくて安心したぜ。
 正直ライダーに負けたショックで落ち込んでんのかと思ってたからな。
 あんたは予想以上に強い。
 他の誰かにやられるなんて思っちゃいねぇがな」
「……ありがと」
「…………」

ランサーは、その背を私に向けて歩みさる。
私の言葉に片手をあげて答えながら。
……本当に強い、と言うのは。
彼のような人物を言うのだろう。
敵であってもその存在を認め、必要ならばその背を押せる。
私はただ、自身の不甲斐なさと予想外の展開に、疑心暗鬼になっていただけだ。
私の言葉は届かない?
だからどうした。
ここから届かないのならば、こちらから歩み寄ればいい。

「……よしっ」

パン、と。
両頬を両手で叩く。
後ろ向きな思考は終わりだ。
私達は生きてる。
桜もリンも士郎もセイバーも私も。
誰一人かけていない。
まだ何も終っていない。
まずはリンだ。
強引にでも引っ張って、あの状態から引きずり出す。
いつまでも腑抜けていられては困る。

「……大丈夫」

私の声は届く。
届かせる。
ランサーの去っていった道を見る。
もう姿は見えないけど。
その背中は、私の心に焼きついた。
何時か。
私もあんな強さを身に着けたい。
……それは。
明確な目標として私の中に刻み付けられた。


後書き
ランサーの兄貴が出張ってます。
あれぇ?
何でランサーが?
当初の予定じゃまだ出番無かったはずなのに……
それにアーチャーの目標になってる?
何で?

<<最上さん
士郎は言峰の事が好きだって作中で言ってますし。
……勿論、人間として、ですよ?
恋愛感情じゃない……ですよねきのこさん!?

カレンとの相性は……多分カレンの毒舌をアーチャーが呆けて受け流して……
周りから見れば如何見ても合うはずが無いのに微妙なバランスで均衡が保たれるんじゃないかと。

今回でアーチャーが妙な気を回すのをやめるのでリンと士郎も聖杯戦争復帰です。

<<遊恵さん
セイバーは王だったので、孫子の言葉は知ってたかも知れませんよ?
孫子の方がアーサー王よりも古いですし。(って言うか、孫子は紀元前ですし)
中国も大きな国なので国交があったかも?

<<九氏さん
蟲爺は彼なりの目的を持って動いてます。
士郎に会ったのもその一環。
と、言うか。
ぶっちゃけ目の前で慎二食い殺したのは脅しだったんです。
蟲爺の誤算は蟲を取り除く術を持っていた事。
言峰はアレで協会でもトップクラスの治療魔術の使い手らしいですから。
普通の魔術師なら蟲を取り除くことなんて出来ないので当然と言えば当然。
今頃焦ってるかもね。

アーチャーの成長についてはそれとは関係ありません。
って言うか、固有結界『無限の剣製』じゃ無いですし。
ネタバレになるのでこれ以上は言いませんが。

<<シヴァやんさん
うんまぁ、バレバレなので言いますけど生きてます。
暫くは復帰しませんが。
なんせアーチャーと違って異常な治癒能力持ってないですし。
そういう理由で桜の蟲を取る時も出てきませんでした。

<手軽な魔力の増やし方
あぁ、なるほど。
でもそれって転換の魔術知らないと出来ないんじゃ?
アーチャーならむしろ宝石そのまま投影できそうですけど。
そしてリンに睨まれる。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze