「次は、(静かな夜)を歌います」
俺とアズラエル理事が呆然とするなか、本物と確認されたラクス・クラインは自分の持ち歌を次々に歌い続けていた。
俺は、プラントにいた頃は彼女の歌の大ファンであったのだが、オーブに来てからはあまり関心が無くなっていたのだが、それが突然の本人の登場で、「本当はどうなのだろう?」いう感覚を生んでいた。
「君の差し金ですか?」
「俺にそんな力は無い。あんたの差し金か?」
「アルスター外務次官」
「私も聞いていない。今日の目的は、エミリア様の依頼で、君達とアズラエル理事を引き合わせる事にあるのだから・・・・・・」
俺とアズラエル理事がお互いに相手の事を疑っていると、アズラエル理事の隣にいる四十歳前後の婦人が話しかけて来る。
「あなたとの事は、私がウズミ代表に当たりを付けて設定したわ。でも、ラクス嬢の件は私も意外だったわね。どうやら、向こうも効率の良い情報機関を持っているようね。しかも、彼女の私設の組織らしいわ。可愛い顔をしていても、ラクス派のリーダーは一味違うわね」
「ラクス派?それと、あなたは?」
俺は今までの鋭い表情を止めて、目の前の婦人に質問をする。
正直なところ、温和な笑みを浮かべる彼女に毒気を抜かれてしまったからだ。
「私の名前は、エミリア・アズラエル。戸籍上は、ムルタ・アズラエルの義姉よ」
「戸籍上はですか?」
「その辺の事情は察して欲しいわね」
「ええ。察しました。お金持ちの家によくある事情ですよね」
「そういう事よ。それとね。プラントで穏健派を構成しているグループは2つあるの。一つは、クライン議長が統率するクライン派で・・・・・・」
「もう一つは、ラクス様が率いる若手の人材中心の派閥ですよ。カザマ君。久しぶり」
いきなり後から聞いた事のある声が聞こえ、そちらに視線を向けると、過去に北アフリカで共闘した事のあるダコスタ副隊長が普通にスーツを着て登場した。
「・・・・・・。カザマなんて知りません。俺は、アマミヤです」
「そこで否定されると、次の話ができないんだけどね」
「あくまでも仮定の話ですけど、俺が本当にカザマだとしたら、あなたが功績欲しさに殺害を試みたり、拘束を試みる可能性も否定できませんしね」
「それは、考え過ぎでは?」
「噂に聞いた事がありますけど、カザマという人物は、プラント政府とザフト軍公認の指名手配犯ですよね?ならば、普通のプラント国民は居場所を通報したり、拘束を試みたりする可能性が高いのでは?」
「それは、そうなんだけどね・・・・・・」
俺の杓子定規な返事に、ダコスタ副隊長は困ったような表情をする。
だが、相手が相手なので、警戒するに越した事はないと考えたのも事実であった。
彼はバルトフェルト隊長に隠れて目立たない人物であったが、有能ではあるが多少気まぐれな点のある彼をきちんと補佐して、ちゃんと満足させている人物だったので、俺は彼の事を非常に買っていたのだ。
「アマミヤ教官。その心配は無用だ。第一そんな事をしたら、彼はここから生きて出られない」
「ギナ准将の仰る通りですよ」
よくよく思い出してみると、俺とその関係者には過剰なまでの護衛が付いていた。
特に首長一族の三人も傍にいる事が多いので、その数は更に増加傾向にあった。
「それで、この仕掛けの目的は何なのです?ダコスタさん」
「私は、ラクス様に頼まれてやっているだけですよ。詳しい話は、コンサート後にお願いします」
俺、エミリア、アズラエル理事、ダコスタさんがラクス・クラインの歌も聞かないで話を続けていると、コンサートはいつの間にか最後の曲はおろか、アンコールまで終了していた。
「では、最後のラクス・クラインさんに花束の贈呈を・・・・・・」
司会者の合図で花束を抱えていたレイナがラクスに花束を渡そうとすると、急にダコスタさんがこんな事を言い始めた。
「男性なら彼女でも良いと思うのですが、ラクス様は女性です。ここは、男性の方が・・・・・・」
だが、ラクス・クラインの登場で熱狂している会場にその発言は、火に油を注ぐようなものであった。
「「「「俺にやらせろーーー!」」」」
「「「「「俺だぁーーー!」」」」」
会場中の野郎連中が我こそはと声をあげ、体育館内は大きな騒ぎになってしまう。
司会者の学生も突然の事態にオロオロとするばかりであった。
「ダコスタさん。会場を争乱の渦に巻き込まないでくださいよ」
「すいません。不注意でした(ラクス様。勘弁してくださいよ)」
「みんさん!落ち着いてください!ラクス様に選んでいたただきましょう!」
大騒ぎになった会場をヤバいと感じた司会者は、花束贈呈をする人物をラクス・クライン本人に選ばせる旨の決定をする。
本当は、人気商売を生業にしている彼女には酷な選択であるのだが、彼はあまりの大騒ぎにそれどころではなくなっていたようであった。
「私が選んでも宜しいので?」
「お願いします」
「では・・・・・・。そちらの男性の方を」
「カザマ君。出番ですよ」
「ダコスタさん。謀りましたね?」
「ごめん。宮仕えの辛さって奴さ・・・・・・」
俺は申し訳なさそうな表情をしているダコスタさんを横目に、レイナから花束を受け取ってステージに上がる。
そして、ラクス・クラインに近づき、彼女と始めての対面を果たした。
「始めまして。お会いしたかったですわ」
「ご高名はかねがね。ヨシヒロ・アマミヤです」
俺が挨拶をしながら彼女に花束を渡すと、彼女は受け取った花束を続いてステージに上がって来たダコスタさんに渡す。
「あらあら。カザマ様ではありませんので?」
「どうやら、良く似た別人の方がいらっしゃるようで・・・・・・」
俺は、可憐な笑顔を浮かべているラクス・クラインに警戒感を抱いていた。
多分、プラントにいたままであったら、そんな感情を抱かなかったのであろうが、彼女は明らかに俺の正体を知っていて、それを見越して行動している可能性が高かったからだ。
「そんな、お怖い顔をしないでくださいな。私の御まじないを受け取って貰えますか?」
「ええ。良いですよ」
「膝を曲げてお顔を低くして貰えますか?」
「はい」
俺は、まさか彼女が自分に危害を加えるはずがないと瞬時に判断して、言われた通りに顔を低くした。
「これが、御まじないですわ」
彼女はそう言うと俺の首に両手を回し、自分の唇を俺の頬に押し当てた。
「「「「「えーーーっ!」」」」」
「「「「「ラクス様!そんなぁーーー!」」」」」
「「「「「あの男は、何者だぁーーー!」」」」」
俺の関係者はおろか、他の観客達までが驚きの声をあげる中、彼女は俺にそっとこう呟いた。
「絶対に逃しませんわ。必ず捕まえますから」
これが後に、俺が「ストーカー女」と密かに呼ぶ事になる、ラクス・クラインとの最初の対面の時であった。
「メイド喫茶ですか。初めて聞くお店ですわ」
「一般庶民が気分だけ味わう類のお店ですよ。日本が発祥と聞いています」
ダコスタは、ラクス・クラインに簡単にメイド喫茶について説明する。
コンサート会場における「キス事件」の後、俺達は荒れる観客達をどうにか抑え、メイド喫茶「モルゲンレーテ」に関係者全員を集合させる事に成功していた。
本当は、ラクス・クラインに学園内を見学してもらう計画だったらしいのだが、あの騒ぎでそれどころでは無くなってしまったからだ。
「マユラ。アサギ。ジュリ。悪いけど・・・・・・」
「今日は、このまま閉店ですね。入り口は私達で監視します」
三人娘はメイド服から私服に着替えると、閉店した「モルゲンレーテ」の入り口を警戒し始める。
「モルゲンレーテ」内に残った人員は、アズラエル理事、エミリア、アルスター外務次官、ラクス・クライン、ダコスタさん、俺、ユウナ、カガリ、ギナ准将、カナードという面子で、他の少年少女達は隣の部屋で待機という事になっていた。
正直、どんな重要機密が飛び出すかわからないので、下手に一緒にいさせられなかったのだ。
ちなみに、カナードは軍人でもあるので護衛を兼ねさせていた。
「それと、ユリカ三尉とエミ三尉は・・・・・・」
「日本に情報が流れるんですよね。いて貰っても構いませんけど」
同じく留守番をしていた二人を、俺は機密保持の観点から二人を退室させようとするが、それをアズラエル理事に止められてしまう。
「ちぇっ!あの若作りのオッサンにバレてるよ。エミ」
「そうですわね」
「(何なんだ?この女達は?)」
俺は、突然の二人の態度の豹変に驚いてしまう。
「君達・・・・・・。それは、酷くありませんか?」
「数百年前に、中国に媚を売って日本を見捨てた罪ですわ。旧アメリカ合衆国人のアズラエル理事」
「それは、君達の国の政治家にも罪があるのですよ。中国・韓国を含むアジア諸国と共同体を作るって事と、友好の名の下に何でも妥協して受け入れるという事は別です」
「もう、日本に遠慮しなければならない国は存在しないわ。生存権を否定する国や組織は徹底的に攻撃しますし、戦力も派遣する覚悟もあります」
「石原首相ですか。昔なら右翼の国粋主義者として、簡単に始末できたタイプの政治家ですよね。こちらの都合の良い、自称リベラルな政治家をこちらの情報操作で人気者にして・・・・・・。実に簡単な時代でした」
「そのリベラルな政治家の行った数々の売国行為で多大の負債を負う事になった日本に、もうそんな甘い手は通じませんわ。大西洋連邦も大変な事になっているようですし、わが国は、わが国の道を進ませていただきます」
「ねえ。君達って、オーブ国民だよね?」
俺は一つ引っかかっていた事を二人に尋ねる。
確か、二人は訓練に参加する課程で国籍をオーブに変えていたはずであった。
「と!姉が言っていました。私達は、自分の好きなように生きるわよ。中華思想やら大西洋連邦の真似事をして、コーディネーターを差別した日本に未練はないわ」
「私も同意見ですわ。いくら前政権の罪といえど、戻る気もありませんわ。先の一言は、最後の任務と言う事で」
二人は、日本政府やら自衛隊の指令を受けているようであったが、それを最後まで律儀にこなすつもりも無いらしい。
「二人の覚悟も聞けた事ですし、ここは、アルスター君とエミリアの顔を立てて、建設的な話し合いをするとしましょうか」
「ですが、ここにオーブに対して決定権を持つ人はいませんよ。そして、それはプラントも同様ですけどね」
アズラエル理事の発言に、俺はすぐに異議を唱える。
俺はその存在が公式的には秘密で、偽装した身分にしても他国では大尉でしかなかったので、彼と何かを話し合って決める事自体が不可能であった。
それに、ラクス・クラインは公式な身分すら持っていなかった。
最高評議会議長であるシーゲル・クラインの娘ではあるが、彼女自身は一歌手でしかなく、俺はなぜ彼女が様付けで呼ばれるのかが不思議でたまらなかったのだ。
プラントにいた頃は疑問に感じた事がなかったのだが、外に出るとその事に疑問を感じる事が多くなっていた。
「別に、何かを決めるつもりはありません。ですが、オーブの次世代の指導者達がここにいるのです。意見交換くらいかまわないでしょう。そして、私は・・・・・・。エミリア。どうして、私を彼と会わせたのですか?」
実は、彼もこの事態を全く予想していなかったようで、この会見を計画したエミリアに真意を問い質していた。
俺がみた彼は、本当にお忍びで家族と旅行に来ているオッサンそのものであった。
それに、オーブの次世代の指導者といえば、カガリ、ユウナ、ギナ准将の事で、俺は関係がなかった。
「そうねえ。引き抜けたら御の字かなって思ったのよ」
「何に使うんですか?」
「モビルスーツ部隊の訓練によ。これほどの人材は、なかなかいないわ。アラファス達が鹵獲した(ジン)の操縦訓練をしているけど、苦戦しているみたいでね・・・・・・。それに、アウルやスティングやステラもね」
「確かに、それは事実ですね。高給で引っ張るつもりですか?エミリア」
「そうよ」
「お断りします」
だが、俺はエミリアの誘いにすぐに断りの返事を入れる。
「あら。せっかちさんね」
「大西洋連邦なんてまっぴらゴメンです。地獄の釜に首を突っ込むようなものですし・・・・・・」
「うちの財団には、コーディネーターやハーフコーディネーターも働いているわよ。それでも駄目?」
「可哀想に・・・・・・。自分がそこに居続けるために、命を張るんですね。忠誠の証が命をかける事のみなんて・・・・・・。それに、働いているコーディネーターって、アウルとかスティングとかステラとかって呼んでいる隣室にいる少年少女達ですか?どうみても、戦場に出る歳には見えませんよ」
俺は、アズラエル理事と一緒にいた五人の少年少女達を思い出しながら反論する。
五人のうち、金髪の少女と黒髪の日系人の少女と緑色の髪の短髪の少年は、キラ達と同年代に見えたが、残りの水色の髪の少年ともう一人の金髪の少女は、どう見ても十五歳以上に見えなかった。
成年年齢の早いコーディネーター主体のプラントでも、十五歳以上にならないと戦場に出さないのに、彼女達はあきらかにそれよりも幼く見えたのだ。
「戦場には出さないけど、人員不足でしてね。開発中の新型モビルスーツのテストパイロットをやらせる予定なのですよ。それに、彼らはナチュラルですし」
「テストパイロットですか」
「隣室にいるキラ・ヒビキ君と同じ事ですよ」
「「「!」」」
俺とカナードは、アズラエル理事の口から出た発言に身を強張らせる。
アズラエル理事がキラの正体を知っていた事と、キラをモビルスーツの開発に駆り出している事を知られている両方の点についてだ。
「彼の名前は、キラ・ヤマトですよ」
「そんな下らない言い訳が通用すると思うので?」
「キラがどうしたんだ?ヨシヒロ」
何も事情を知らないカガリが、俺にキラの事を尋ねてくる。
「おや。事情を知らないのですか?禁断のコロニー(メンデル)で、人工子宮によって作り出された最高のコーディネーターキラ・ヒビキ。ヒビキ博士の最高傑作の彼と、その隣にいる失敗作と言われているカナード君。考えてみればおかしな組み合わせですよね」
「キラが・・・・・・。人工子宮で・・・・・・?」
「・・・・・・・・・」
突然の事で、カガリはおろかカナードすら動揺しているなか、俺は表情を変えないまま携帯電話をポケットから取り出した。
最近は、Nジャマーの影響で使い難くなっていはいたが、コロニー内では使えない事もなかった。
「キサカさん」
「どうした?」
「VIPの入国は、確認していますか?」
「ああ」
「始末を要請します」
「だがな・・・・・・」
「帰りに、宇宙船ごと海賊に襲撃されて死んだ事にしましょう」
「それだと、色々と大変なんだが・・・・・・」
「機密の保持のためですよ」
「いや、政治的にも色々とな・・・・・・」
「今は大変ですけど、後で良かったと思える時が来ますよ」
「わかった。最終的な合図は君が出してくれ」
「了解です」
俺はキサカさんとの話を終えて、携帯電話のスイッチを切った。
「どういう事ですか?」
俺の突然の変化で、アズラエル理事とエミリアは表情を一切変えていなかったが、カガリ、ユウナ、カナードは表情を強張らせていた。
「機密のために死んで貰いますよ」
「キラ君とカナード君の事なら、別に機密でも何でも無いですよ。情報通なら誰でも知っています。勿論、オーブの指導者であるウズミ様もね」
「違いますよ。モビルスーツの件ですよ」
「君達がキラ君を使ってナチュラル用のOSを開発していて、我々を何歩もリードしている事がですか?」
「そういう事です」
俺は一言だけそう答えると、アズラエル理事に隠し持っていた銃を向けた。
「カザマ君。アズラエル理事の暗殺は、了承できない事柄なんだがね」
「危険人物の排除ですよ。アルスター外務次官」
「いやね。やはり、君は政治については素人だね。政治権力の空白は避けたいという極基本的な理由から、私はアズラエル理事の暗殺に反対しているのだよ。それに、オーブがナチュラル用のOSを開発している事は、既に世界中に漏れている。内容は、全くの不明だがね・・・・・・」
「そうですか」
「それに、ここでアズラエル理事が死んでしまうと、ジブリール最高幹部が権力の空白を埋めて強大化してしまう。それは、現状で非常にまずい事なんだが・・・・・・」
「おや?アルスター外務次官は、アズラエル理事の忠実な部下では無いんですね?」
アルスター外務次官は、彼自身の心配より、政治権力の空白とそれを埋めてしまう敵対勢力の事のみを心配しているようだ。
「私は外交官だ。個人的な感情で、(こことは、接触したくない)(ここは、好きだから協力する)なんて事はできないのだよ。正直、している人の方が多いが、それは外交官としては二流という事だね。現に、そこにいるユウナ様のお父上であるウナト様や日本の重光一等書記官は、様々な勢力と積極的に接触を図っている。私も、そのせいでブルーコスモスと関係ありと噂されているがね・・・・・・」
どうやら、アルスター外務次官は、俺の想像を超えるプロの外交官であるらしい。
「そうですか・・・・・・。キサカさん。中止です」
「了解だ」
俺はすぐにキサカ一佐に連絡を入れて、アズラエル理事の暗殺断念を連絡する。
「若いのに理性的に動いているなと思いましたが、意外と感情的な部分もあるんですね」
俺が携帯電話の電源を切ったのと同時に、アズラエル理事は笑顔を浮かべながら言う。
「あんたが、不用意な事を言うからだ」
「でも、事実ですよ」
「生まれなんて問題じゃないだろう!」
「僕の組織では一番大切な問題です。少なくとも、そういう事になっています」
「あんたは、コーディネーターが嫌いらしいが、俺もキラもカナードも他の連中も、好き好んでコーディネーターに生まれてきたわけじゃない!それに、今は楽しくやっているんだ。余計な嘴を突っ込んで欲しくないな!というか。あんたは、ここに何をしに来たんだ?」
「さっき言った通りですよ。僕は家族旅行だと思っていたのですが、エミリアがね・・・・・・」
「どうやら、見かけは当てにならないようですね。エミリアさん」
俺は常に温和な笑みを浮かべ、敵など作りそうもないエミリア・アズラエルにラクス・クラインと同じ匂いを感じ始める。
「うーーーん。今回は、こんなものかしらね」
「「どういう事です?」」
俺とアズラエル理事は、同時に同じ事を質問してしまう。
「手を組むにしても、組まないにしても、一度はお互いに腹を割って話した方が良いと感じたからよ。ただそれだけ」
「エミリア・・・・・・」
「それにね。ムルタは、ブルーコスモス強硬派を利用していただけなんでしょう?勝手に完全に同化して欲しくないわね。もし、完全に同化したというなら、私はあなたに手を貸せなくなるわね」
「どういう事ですか?エミリア」
「今まで秘密にしていたんだけどね。アヤは、ハーフコーディネーターなのよ」
「何っ!」
「それとね。旧ゲイツ財団出身の連中が信用できないからって、私が貸しているアラファス達ね。彼らもそう」
「そんな・・・・・・」
アズラエル理事は、エミリアの突然の告白に言葉も出ないようであった。
自分の仕事を手伝っている連中や、娘の親友がハーフながらコーディネーターという衝撃の事実を聞いてしまったからだ。
少なくとも、この事実をジブリールが知ったら格好の攻撃の的になってしまう事が確実であった。
「どうする?能力に目を瞑って、新しいナチュラルの人員に交代させる?最近、ジブリールに押され気味なのに、また不利な要因が増えるわね。それと、アヤをミリアから引き離す?そんな事をしたら、あの子に二度とパパと呼んで貰えなくなるわよ」
「うっ・・・・・・。それは・・・・・・」
「ムルタはジブリールと対立した地点で、この道しか選択できないのよ。ブルーコスモス穏健派と中立派を纏め、反ブルーコスモスの穏健派を取り込み、対プラント戦争は戦術・戦略的勝利を重ねて彼らをあの砂時計に押し込む。コーディネーターは、数世代を使って混血で消滅させる。一番被害の少ない穏便な策ね。あなたも、最近は理解してきたと思ったけど、根底で何かを躊躇っているようね。昔、コーディネーターに虐められた事をまだ根に持っているの?」
「エミリア!」
アズラエル理事は、初対面の俺達に過去のプライベートの秘密を暴露された事に抗議の声をあげる。
「別に、あなたが一介のサラリーマンなら文句はないのよ。でも、あなたは多くの人達の人生や命を握っている。感情的に動いて欲しくないわね」
「・・・・・・・・・。それで、どうしろと?」
「別に一つの考えに固執する事もないけど、こういう選択肢もあるという事を覚えていてね」
「はい・・・・・・」
アズラエル理事は、エミリアの宥めるような口調ですっかりと大人しくなってしまう。
どうやら、日頃は強圧的と噂される彼も、プライベートでは年上の彼女に頭が上がらないようだ。
「で、俺達はどうなるんです?」
「今日の話し合いの内容を、ウズミ様に伝えてくれればそれで良いわ。いきなり最初からは無理だしね」
「わかりました。それで、ラクス様はいかなるご用件で?」
今度は、今まで沈黙を保っていたラクス・クラインに声をかける事にする。
「私の願いは二つです。戦争の落とし所の確認と、カザマさんの処遇についてです」
「私の処遇ですか?」
「ええ。でも、まずは戦争の件についてですが・・・・・・」
「ラクス・クラインさん。今回の戦争でプラントが出した損害は、弁償して貰いますよ。現金は無理でも、生産した資源等で弁済して貰います。軍備や軍人の損害はともかく、民間はね・・・・・・」
アズラエル理事は、先ほどのショックからすぐに立ち直って、俺達の話に割って入ってくる。
「それは構いませんが、(ユニウスセブン)の惨劇の責任は、どなたがお取りになりますので?」
「Nジャマーを投下した最高責任者は、シーゲル・クライン閣下ですよね。戦後は戦犯として起訴しますかね」
確かに、アズラエル理事の言う通りであった。
「ユニウスセブン」の件があるので仕方がなかった事は事実であったが、地球にNジャマーを落とす最終決断を下したのは、強硬派の連中ではなく穏健派の現プラント最高評議会議長であるシーゲル・クラインであった。
もし、プラントが敗戦する事があれば、彼の戦犯としての処罰は避けられない事実であった。
アズラエル理事とラクス・クラインは顔は笑っていたが、心の内部では激しい火花を散らしていた。
「その件は、後日という事で・・・・・・」
「ええ。それで、講和の条件なのですが・・・・・・」
「経済的植民地に逆戻りでは、再び暴発の可能性があります。地球連合のみなさんが、第一次世界大戦時のドイツの轍を踏まない事を祈っていますわ」
「僕は、ザフト軍の軍備は過剰だと思うんですがね・・・・・・。治安維持程度の戦力で良くないですか?」
「プラントのみなさんは、(ユニウスセブン)の二の舞を恐れていますわ。最低限、それを防げる軍備は必要ではないかと・・・・・・。それに、食料を再び武器にされても困ります。生産禁止の処置を解除していたただきませんと・・・・・・」
「おやおや。それでは、随分と甘い条件になってしまって、僕もお仲間を説得し難いですね」
「私も、それは同様ですわ」
二人は丁寧な口調ながらも、激しい舌戦を繰り広げていた。
まずは、お互いが条件を出したという事なのであろう。
「それに、あのような方々が軍内部で大きな力を持っていると、お一人で説得をされるのは大変ではありませんか?私が、お知り合いの方にお話をしてみましょうか?」
「いえいえ。ご心配は無用ですよ」
アズラエル理事は、ラクス・クラインの提案を丁寧に断る。
要するに、彼女は自分が大西洋連邦か地球連合のどこかの勢力の実力者とパイプを持っている事を暗にほのめかし、それを聞いたアズラエル理事が「余計な事をするな」と答えを返したのだ。
「話を戻しますが、(血のバレンタイン)の責任者を処罰していただかないと、感情的になった方々の説得が難しいのです。ここは、ブルーコスモスの最高責任者である・・・・・・」
「僕がですか?僕はただの財界人ですし、ブルーコスモスは環境保護団体です。暴走した軍人がブルーコスモスの考えに染まっていたからと言って、僕に処罰の権限はありませんよ。軍のトップと政府のトップに仰ってください」
確かにアズラエル理事の言う通りで、「血のバレンタイン」で一番責任があるのは、財界人であるアズラエル理事ではなく、大西洋連邦軍と政府のお偉いさん達であった。
「彼らもなかなかに意固地で、責任を認めたくないようですわ」
「大西洋連邦も大国ですしね。間違いを認めて利益を失いたく無かったのでしょう。それと、ブルーコスモス強硬派の連中の利害が一致したわけで・・・・・・」
「他人事のように仰いますね」
「ええ。僕は過激な意見で支持を集めましたが、あそこまでやる必要性を感じません。あんな一基のコロニーで生産できる食料なんて、たかが知れていますし・・・・・・。それに、(ユニウスセブン)が幾らすると思っているんですか?並みの財団なら、数年分の売り上げが吹っ飛ぶ額ですよ。いいですか?売り上げですよ。利益ではないんですよ」
確かにアズラエル理事の言う通りで、地球上で橋や線路を作るのとはわけが違う金額がコロニーにはかかっていたので、それを簡単に破壊する連中は、財界人のアズラエル理事から見れば、ただの狂信者に見えるのであろう。
「それは理解しましたが、私にはあなたの目的が理解できません」
「目的ですか?プラントへ投資した建設資金と、その法定利息と、安定した資源の供給ですかね。資源供給が安定しないと、何を生産しても原価のリスクが大きくて・・・・・・」
「それで、その目的のためにザフト軍を壊滅させて、城下の誓いをさせると?」
「別に投資した資金を返してくれて、資源をちゃんと供給してくれるのなら独立しても構いませんけどね。その返してくれた資金を使って、我々が独自に月などに資源開発基地を置けば、向こうが資源を外交の武器に使おうとしても、徒労に終わるわけですし」
「なるほど」
「それで、オーブはどう考えているんですか?」
ラクス・クラインと緊張感溢れる話し合いを続けていたアズラエル理事は、急に俺の方に話をふる。
「さあ?俺は政治家ではないので」
「君の意見ですよ」
「どう考えているも、オーブは生き残るのが精一杯でしょう。何しろ、両側に厄介な強硬派を抱える仮想敵国がいますからね。大西洋連邦は、コーディネーターの殲滅を。プラントは、地球連合の無条件降伏をなんて、メルヘンチックな暴走の可能性のある危険な連中をです」
「なればこそ、それを抑えようとする僕の行動はチグハグなものに見えてしまい、自分の意見を通し続けるジブリール君が追い上げてきて、困っているんですけどね」
「没落しても、オーブには来ないでくださいね。迷惑ですから」
「ハッキリと言いますね。安心してください。死んでもそれは無いですから」
俺とアズラエル理事が急に仲良くなる事など決して無いのだが、お互いの考えを交換できた事は、それなりの成果と言えるのであろう。
だが、俺には静かに紅茶を飲んでいる、もう一人の厄介な人物との話が残っていた。
「あの・・・・・・。ラクス様はどうしてここに?」
「そんな!私の事は、ラクスと呼んでくださいな」
「無理です。恋人や家族でもない女性を呼び捨てにはできません」
「そうですか・・・・・・」
「それで、ご用件は何ですか?まさか。あなたほどの方が、ボランティアのようなギャラで、気まぐれでここに来たとも考えづらいですよね」
「それでは、単刀直入に申し上げます。プラントに戻って来て欲しいのです」
「また。無茶を仰る」
彼女の要求は、俺の予想の範疇を超えていなかったが、無茶そのものであった。
「私は本気です」
「無理ですよ。私はプラント国内を素顔で歩けない男ですよ。逮捕はゴメンです」
「暫くは身を隠して貰う事になると思いますが、必ず名誉を回復させますので」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの。お返事は?」
「やはり。答えはノーです」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「我が身を預けるほど、あなたを信用していないからですよ」
「信用ですか・・・・・・」
「私はマーレの個人的な怨念と、彼に甘い連中の力で理不尽にも始末されかけました。ここでプラントに戻ってあなたの庇護を受けても、そう遠くない将来に、あなたが自身の権力を保持するために、私を生贄にしないという保障はありますか?」
「でも。それは、オーブも同様では?」
「おい!失礼な事を言うな!私達は、ヨシヒロを見捨てたりはしない!」
今までは、話しの内容が内容だったので静かにしていたカガリが、ラクスの発言に食ってかかった。
カガリの発言はあくまでも個人の意見で、将来政治家になれば大を救うために小を犠牲にする事もあるのだろうが、俺は彼女の気持ちが嬉しかった。
「ですが、オーブとカザマさんのどちらかを選ぶ事になった時は、カガリさんはどちらを選ぶのですか?」
ラクスは、自己紹介を受けていないにも関わらず、カガリの事を知っていた。
やはり、彼女は油断ならない人物であるようだ。
「・・・・・・。それは、一概に決められない。でも、もしそうなったら、ヨシヒロに必ず伝えて相談する」
「それで、カザマさんの自己犠牲を引き出しますか?」
「それは、そちらも同じだろうが!」
「まあまあ。落ち着きなよ。カガリちゃん」
「でも!」
「ラクス様。私がオーブにいる理由は、家族の件もありますけど、消去法で決めた部分もあるのです」
「消去法ですか?」
「ええ。私は無実の罪とはいえ、自分の身を守るために数機の(ジン)のパイロットと(アンバー)の乗組員を殺しました。それなのに、私の無実が証明されたからといって、ノコノコとプラントに戻ったら、遺族の人達はどう思いますか?」
「それは・・・・・・」
「戦死したザフト軍兵士達の遺族は、プラント独立のために敵軍に殺されたから、(仕方がない)と納得できる部分もあるのですよ。それなのに、大切な家族は味方の謀殺に利用されて死に、殺した当の俺は無実なのでプラントに戻ってきましたなんて可哀想じゃないですか。俺は無実だと言い続けますが、プラントに戻ってはいけないのですよ」
「カザマさん・・・・・・」
「そして、同じ理由で大西洋連邦も無理ですね。しかも、その国でも俺は街中を自由に歩けない可能性があります。日本は子供の頃の事を考えると嫌ですし、最後に残ったのがオーブだけという事ですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ご理解いただけましたか?」
ラクス・クラインは、俺の言葉に口を噤んだままであった。
「さてと、お話はこれで終わりですかね?エミリアさん」
「そうね。今日は顔合わせと意見の交換で終わりかしらね。後の事はお互いに宿題として持ち帰るという事で」
「賛成です。おっ!まだ五時か。(モルゲンレーテ)は、まだ三時間は営業できるな!」
「カザマ君。君。意外と商売人ですね」
アズラエル理事は、あくまでも俺の事を本名の方で呼ぶようであった。
「俺の将来の夢は、小さくても良いから会社を一から作る事ですよ。ビジネスはシビアに行きませんとね」
そう言いながら、俺はアズラエル理事に一枚の請求書を渡した。
「請求書・・・・・・。(モルゲンレーテ)貸切二時間・・・・・・。1200アースダラー!高過ぎませんか?」
この場にいるメンバーは、軽食や飲み物程度は注文していたが、それも微々たる量で、これほどの大金が請求されるとは彼も思っていなかったらしい。
「いきなりアポ無しで来るからですよ。二時間分の売り上げの補償費と、外の護衛のみなさんに食事くらいね・・・・・・」
「それは、オーブ軍の予算で出るんじゃないんですか?」
「あれ?バレてました?」
「バレますよ。普通・・・・・・」
確かに、アズラエル理事の言う通りで、外の護衛を行っている情報部員達の食事代はオーブ軍持ちになっていた。
「(モルゲンレーテ)は、客の入りは良いんですけど、コストが予想以上にかかってしまいましてね・・・・・・。明日の夜の打ち上げの費用をどこから捻出しようかと・・・・・・」
「それを、僕が出すんですか?」
「正解です!」
「君ねえ・・・・・・」
これだけの時間これだけ面倒な連中を相手にしたので、これくらいの対価を要求しても罰は当たらないと俺は考える事にしたのだ。
「ムルタ。ケチくさい事を言わないで出してあげなさいよ」
「わかりましたよ。エミリア。では領収書は・・・・・・」
「財団の経費にはならないわよ」
「えっーーー!どうしてですか?!」
アズラエル理事は、エミリアに経費としてない認めない旨を宣言される。
つまりは、自費で何とかしろという事らしい。
「今日は、プライベートでお忍びの旅行だから」
「仕事の話をしたじゃないですか!」
「目に見えた成果はあがっていないし、あなた自身の問題が含まれていたからね」
「今月は、ピンチなんですよ・・・・・・」
アズラエル理事自身は財団の当主で腐るほどお金を持っていたが、それなりに管理されていて使える額も決まっていたし、最近のジブリールの攻勢で、領収書を切れない経費が鰻登りに増えていたという事情があったからだ。
「嘘よ。ちゃんと出してあげるから」
「ありがとうございますぅ〜〜〜」
俺は、嬉しそうにエミリアを拝むアズラエル理事を見て少し安心していた。
今までの噂を聞く限りでは、冷酷なコーディネーター殲滅主義者という事であったのだが、今日見る限りにおいては普通の商売人で、内縁の嫁さんに頭があがらなかったりと、それなりに人間くさい面を持っていたからだ。
これならば、条件闘争が厳しいであろうが、話し合いが不可能という事もないであろう。
「毎度あり。領収書のあて先は、アズラエル財団で?」
「白紙で切ってくないかしら?日付の欄も何も書かないで」
「・・・・・・。サービスですよ。内緒でお願いします」
だが、向こうもさるもので、白紙の領収書を頼んでくる。
地球連合内部の勢力争いが激化した関係で、それなりに裏金を使う機会が増えているのであろう。
「ありがとう。裏方って、意外と大変なのよ。それとね。一つお願いがあるのよ」
「内容によりますね」
「明日、ミリア達の相手をして欲しいのよ。私とムルタは、これから月に行かないといけないんだけど、ミリア達は連れていけない内容の相談事でね」
「お忍びの旅行じゃないんですか?」
「お忍びよ。だから、秘密の事が色々とあるのよ」
「反ブルーコスモス穏健派との打ち合わせですか。成功すると良いですね」
「簡単に想像がついちゃうのね」
「成功すれば、ジブリールは一気に劣勢ですからね。地球連合が講和条件について話し合い可能になれば、プラントも穏健派が勢いづくわけですし、交渉の成功を祈っていますよ。さて、お店を開く準備をするかな」
エミリアとの会話を終えた俺は厨房内の火を入れ、俺は担当のカレーの様子を、ユウナはパスタ類のソースの確認を、ギナ准将はサンドイッチの準備などを再開する。
「おや。カレーですか?」
俺がカレー鍋を覗き込んでいると、本日、自身のアイデンティティーを見つめなおす機会になったアズラエル理事が話しかけてくる。
普通の人ならば、考えるのに精一杯でそれどころではないのであろうが、財閥の当主兼地球連合政府の戦争指導者は、表面上は冷静さを保ったいた。
「ええ。でも、レトルトだから売れないんですよ」
「確かに、安っぽい(○ンカレー)のような感じですね」
「知っているんですね・・・・・・。○ンカレー・・・・・・」
「これで、7アースダラーなんて暴利ですよ」
「新型モビルスーツの開発と量産で、暴利を得る予定の癖に・・・・・・」
「そうしないと、財団が潰れてしまうんですよ。小康状態とはいえ、戦争で通常の経済活動が落ち込んでいますからね。一時的にでも戦備関係でお金を得て生き残りを図らないと。それに、戦争で儲けても戦後に民生品の生産に躓けば、同じく倒産です。会社ってのは、規模が大きいとそれだけ必要なお金も増大するわけでして」
「なるほど。勉強になりますね」
「それと、話を戻しますが、そのカレーは高過ぎです。売れなくて困っているのでは?」
「カレーですからね。数日置いても美味しいですよ」
「レトルトじゃないですか・・・・・・」
「五月蝿い人だなあ。売れば良いんでしょう。売れば」
「どうやって、売るんです?」
「値段を下げるか・・・・・・。いや!付加価値を付けて高く売れば良いんだ!レイナ!カナ!フレイ!カガリちゃん!」
大人同士の話し合いが終わり、隣室から戻ってきた内のミスコン入賞者達を俺は呼び寄せる。
「なあに?お兄さん?」
「兄貴。呼んだ?」
「お手伝いですか?」
「ヨシヒロ。何だ?」
「あのね。このカレー鍋の中身をおたまで一人十回かき回して」
「「「「へっ?」」」」
「不良在庫になりつつあるカレーを、リニューアルして売り出すんだ」
「よくわからない話だな」
「いいから。お願い」
カガリ達は首を傾げつつも、俺の言われた通りにカレー鍋を順番にかき混ぜ始める。
「さてと。これで、全部売れるだろうな」
カガリ達が鍋をかき混ぜている間に、俺は白紙にマジックで宣伝文句を書き始めた。
「カザマ君。何を・・・・・・って、阿漕な商売してますね・・・・・・」
「そうですか?アズラエル財団よりは、ピュアでささやかな商売ですよ。これで完成だ!(ミスコン入賞者四人で作る期間限定・数量限定の特製カレー)。ふっ。我ながら恐ろしい商売センスだ」
俺は、宣伝文句を書き出した紙を店の入り口に張り出した。
ちなみに、宣伝文句に偽りは無いと、自分では思っていた。
カレーは「モルゲンレーテ」が閉店する明日までしか売らないし、数量も鍋に残っている分だけだし、レイナ達は仕上げに参加している。
そもそも、一から手造りで作ったとは一言も書いていなかった。
「世間一般では、それを詐欺というんですけどね・・・・・・」
「いえいえ。アズラエル財団に比べれば」
「あなたが、我々にどんなイメージを抱いているのかは知りませんけど、アズラエル財団は、普通の企業の集合体なんですよ」
「本当に?」
「ええい!言いますよ!父親の代には、成り上がるために無茶はかなりしていました。でも、ここまで大きくなると、無茶な事はできないんです。大きな企業ほど目を光らせている勢力が多い。そういう事です」
「まあ。そういう事にしておきましょうか」
「若い癖に生意気ですね」
「そう生きざるを得なかったからですよ。さあ、商売の再開だ!」
「では、私とエミリアは先に月に向かいます」
「じゃあね。カザマ君。ミリア達をよろしくね」
「さてと。私もフレイに挨拶をしてから帰るといしようかな。次は・・・・・・。北アフリカかな?」
アズラエル理事、エミリア、アルスター外務次官の三人は、挨拶をしてから「モルゲンレーテ」を後にした。
「カナード。気にするなよ」
俺がカナードに声をかけると、彼は暗い表情で調理場の隅で洗物をしていた。
「俺は、失敗作か・・・・・・」
「そんな事は、お前の死後に周りの人達が決める事だな」
「周りの人間が?」
「そうだ。それも、お前の事をちゃんと知っている周りの人達だ。お前の名前が歴史に残るかは不明だが、それに関係なくお前の周りの人達が、お前の評価をお前の死後に決める。葬式の時に、(カナードは良い奴だったな)ってな」
「カザマ。お前には家族もいるし、周りの評価も高いじゃないか。でも、俺は・・・・・・」
「俺は昔からこういう男だが、日本にいた頃は利用できる時は便利なガキでしかなかった。何せ、本音と建前のハッキリしている日本だ。俺に直接敵意や偏見を向ける人間は少なかったが、影で言われている噂の内容は良く聞いていた。(優れているっていっても、遺伝子を調整されたからだろう。俺だってコーディネーターなら・・・)とか、(精神の成長が早い?生意気なだけだろうが!)とか(正直、いなくなって欲しい。教師の俺の存在価値が無くなる。比べられるのも勘弁だ。改造人間の癖に)とかそんな感じだったな。正直、直接面と向かって言われた方がマシだったな」
「カザマ・・・・・・」
「プラントでは、ザフト軍に所属してからだな。余所者の俺は、常に危険な最前線。運よく使い潰されなかっただけマシなのかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから。気にするな。どうせ、ここは個性的な連中の集まりだ。正直、この面子では、お前の経歴程度では目立てないという事情が存在する」
「・・・・・・。わかった。それで、キラは?」
「あいつは何も知らないんだ。(知らぬが仏)というではないか。カガリちゃんも!わかったね?」
「バレているのか・・・・・・」
俺は、カナードとの会話を盗み聞きしていたカガリに釘を刺しておく。
彼女は根が正直で、思った事をすぐに口にしてしまう事が多いので、事前に忠告しておく事にしたのだ。
「わかった。でも、キラの事はお父様から聞いていたんだ」
「なるほどね。じゃあ、辛気臭い話は止めて、営業を再開するとしますか。カガリちゃん。隣室のみんなを呼んできてよ」
「わかった」
「(あれ?でも、俺。何かを忘れているような・・・・・・)」
俺は、心の隅に残った疑問をとりあえずは忘れる事にして、「モルゲンレーテ」再開の準備を始めるのであった。
「どうですか?ダコスタさん」
「あの・・・・・・。本当に、その格好でカザマ君の元に?」
「はい。カザマさんに、私の強力なインパクトを与える作戦は見事に失敗でした。忙しい身なので、向こうとの接触を兼ねた事が、私のインパクトの低下となって序実に現れています。ここは、最後の切り札で巻き返しを図らなければなりません」
カザマが、アズラエル理事達や仲間との会話を重視した結果、ラクス・クラインはいつの間にか忘れられた存在になっていた。
これでは、最初の強烈な登場の意味が無くなってしまう。
そう考えたラクスは、空いている部屋で持参した衣装を着替え、最初にダコスタに披露していたのだ。
「メイド服ですか・・・・・・」
「はい。カザマさん達の出し物が、こういう衣装を着るお店だと聞いていたので、使用人の方の予備のメイド服を借りてまいりました。私は今日でここを発たないといけないので、これで勝負をかけます」
「ああ。明後日は、アスランさんがお屋敷に来るんでしたよね?」
「ええ。長期の任務の前に是非お会いしたいとかで・・・・・・」
「それは、結構ですね」
「はあ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
だが、ラクスが急に溜息をつき始めたので、ダコスタはすぐに他の話をする事にする。
「ラクス様。急いだ方が良いですよ」
「わかりましたわ。ラクス・クライン!行きまぁ〜〜〜す!」
「○ムロですか・・・・・・」
なぜ、ダコスタが○ンダムを知っていたのかは、誰にもわからなかった。
「ステラ。可愛いわねぇ」
「ねえ。教えたセリフを言ってごらんなさい」
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「萌えるぜ」
「アマミヤさんって、ロリコンですか?」
「ミリア・・・・・・。俺とステラって、四歳くらいしか年が離れていないんだけど・・・・・・」
「二十歳前に見えないけどね」
「大きなお世話だ。カナ。男は責任感が顔に出る!うん。格好良いセリフだな」
「その後の一言が余計よ。兄貴」
最後の勝負をかけるべく、「モルゲンレーテ」内部に乱入したラクスであったが、店内は別の事で大きな盛り上がりを見せていた。
アズラエル理事が置いていったミリア達は、レイナ達と隣室で待機している間に年齢が近い事もあって仲良くなり、更に時間が空いて暇だったらしく、予備のメイド服をステラに着せて遊んでいたらしい。
「ステラ。さっきのセリフを言って注文を取ってくるのよ」
「うん。わかった」
ステラは営業を再開した店内で、初めての接客に挑戦していた。
スタイルは見事ながらも、年齢は低く見た目も言動も幼いステラは、男達の「萌え心」を揺さぶるらしく、男性客に絶大な人気を誇っていた。
慣れない仕事でたまに注文を間違っているようだが、間違われた男性客も気にしている様子もないので、特に大きな問題も発生していないようだ。
「お兄さん」
「何だ?レイナ」
「あのカレーは・・・・・・」
「大量に仕入れ過ぎたレトルトカレーの処分のためだよ。うん」
「アマミヤさん。さすがに、罪悪感を感じるんですけど・・・・・・」
厨房内でステラの様子を見ていると、注文品を取りに戻ったレイナとフレイが俺に軽く抗議を入れてくる。
俺が考案した起死回生の策は見事に成功を収め、例のカレーはもうすぐ売り切れになりそうなほどの人気を誇っていたのだが、その正体を隠して販売する事に罪悪感を抱き始めたらしい。
現に、フレイとレイナだけでなく、カガリとカナも何とも言えない顔をしながら、鍋からカレーをよそっていた。
「フレイ。俺達はカレーを売っているように見えても、実はそうではないのだ。そう!夢を売っているのさ!あの10アースダラーの原価の大半は・・・。そう!男の夢なんだよ!絶対に彼女にできそうにもない、ミスコン入賞者達の夢の手料理!(お待たせしましたご主人様の一言)実に素晴らしい善行じゃないか」
「手料理じゃないじゃないの・・・・・・」
「カナ。手でちゃんと鍋の中のおたまをかき混ぜたよな?」
「それは、兄貴がやれというから・・・・・・」
「じゃあ。手料理だ」
「あのアズラエル理事に詐欺師扱いされたんだ。この件に関しては、ヨシヒロに何を言っても無駄さ。明日、私達でカレーを作れば良いさ」
「そうね。カガリの言う通りね」
「私も手伝う」
「私も」
「カガリ。料理なんて作れたっけ?去年、キサカ一佐が食中毒で・・・うわっ!」
カガリ達は、翌日に自分達でカレーを作る事にしたらしいが、カガリの料理の腕前をよく知っているユウナに過去の悪行を暴露され、それに激怒したカガリは、ユウナにフルスイングでシルバートレイを投げつけた。
「ヨシヒロのお母さんにちゃんと習っている!腕は上がっているんだ!」
「危なかったな・・・・・・。それって、花嫁修業?」
シルバートレイを直前で巧みに回避したユウナは、意味ありげな笑みを浮かべながら、カガリに反撃を開始する。
「なっ!何を言っているんだよ!ユウナ!別にヨシヒロとは・・・・・・」
「僕は、別に相手はヨシヒロとは一言も言っていないよ」
「ユウナ!」
「またまた。照れちゃって。カガリちゃん」
「本人が、余裕で話しに口を出すな!」
俺は面白そうな事になってきたので、ユウナに続いて彼女をからかい始める。
実は、動揺して顔を真っ赤にしながら怒るカガリが可愛く見えていたからだ。
「そんなに怒ると、可愛い顔が台無しだよ」
「いや・・・・・・。あの・・・・・。その・・・・・・」
「さあさあ。閉店まで一時間だ。最後の一稼ぎだよ」
俺は急にモジモジとし始めたカガリを微笑ましそうに見つめながら、他の連中に最後のひと稼ぎを指示する。
「ミリア。何で私がメイド服を?」
「似合ってるから良いじゃないの。私はさ。メイド服の余りもない事だし」
そして、別の所では、用事があるために先に帰るマユラ、ジュリ、アサギからメイド服を借りたミリアが、アヤにメイド服を着せていた。
「アヤ。スタイルが良いのね。着痩せするタイプなんだ。私がこの中で一番駄目かも・・・・・・・」
「でも、ミリィは彼氏持ちじゃないの。周りは独り者ばかりよ」
「それとこれとは感情は別よ。あれ?」
「どうしたの?ミリィ」
「マユラさん達から三着のメイド服を借りて、一着がステラで一着がアヤ。残りの一着は?」
「ふふふ。入っておいで。アウルちゃん」
「ふざけんな!このクソ女!」
ミリアが控え室の方に声をかけると、そこからメイド服を着たアウルが、がに股で激怒しながら入ってくる。
「アウルちゃん。もっと言葉遣いを女の子らしくね。それと、歩き方」
「何で僕が、女装なんてしないといけないんだよ!」
「俺だと似合わない事が確実だからな」
「スティングの裏切り者が!」
「それなら、断れば良かったじゃないの」
「五月蝿い!アヤ!同じ使用人なら、場の空気を察しやがれ!」
「別に、強制じゃないんだけどね・・・・・・」
「そうよ。さっきはジュースも買って来なかった癖に・・・・・・。きっと、女装が好きなのね・・・・・・」
「訴えるぞ!このクソ女達が!」
「ほら。接客接客」
「何で僕が・・・・・・」
アウルは、ブツブツと文句を言いながら接客を開始する。
「何だ。帰ってきたのかよ。ご主人さん。何を食うんだ?」
「いえ。飲み物を・・・・・・」
「ご主人さんよ!ガリガリじゃねえか。カロリーをもっと取れよ!カルボナーラとカレーだな。飲み物は、お茶にしとけ。味が濃いからな」
「はい・・・・・・」
「何?あの接客・・・・・・」
「さあ?特に苦情も無いみたいだから良いんじゃないの?」
アウルの接客は、極一部の客にはそれなりに好評?であった。
「こうなれば、予定変更です。アスラン・・・・・・。私は、急用ができました」
そして、そのあまりの大騒ぎにその存在を忘れられたラクスは、予定外の残留を決意するのであった。
「今日は色々と大変だったけど、売り上げは予定の130%に達しました。明日も頑張りましょう。乾杯!」
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
学園祭の第一日目のメイド喫茶「モルゲンレーテ」は、予想外の珍客に見舞われたものの、予想を超える売上げを記録し大きな成功を収めていた。
今夜は、明日の準備のためと中間売上げ達成パーティーのために、全員が店内に残って食事兼小パーティーが行われていた。
「色々あったけど、成功して良かったですね」
自分の出自の事など何も知らないキラが、明るく今日の成功を喜んでいた。
「そうだな。こんなに楽しいイベントに政治の話なんて無粋な事この上なかった」
「しかも、表の政治家よりも、財界のフィクサーの方が権力があるって事実を突きつけられたからな」
同じく、今日は酷い目にあったカナードも俺の意見に同調する。
彼は、表面上は「失敗作」と言われた事を気にしないようにしているようだ。
「パパも全くとは言わないけど、お金に集まるバカな政治家が悪いのよ!」
「そうよ。小父様は私達に優しいわ」
「あのさ。二人ともというか、五人さんは、予約したホテルに帰らないの?」
「キャンセルしたのよ。ちなみに、あなたが美味しそうに飲んでいるビール代は、私が出しました」
「歓迎します。ミリア様」
「何てわかり易い・・・・・・。あなた、本当にコーディネーター?」
「遺伝子なんて関係あるかい。人は環境の生き物なんだよ。最も、俺はプラント歴が短いから、彼らとは多少違う風に見られやすいかな?」
「確かにね・・・・・・。アヤはハーフコーディネーターだけど、アヤの方がよっぽどコーディネーターらしいわね」
「ふーーーん。お仲間か。でも、大西洋連邦に住んでいると、色々と大変じゃないのか?」
「そうでもないわよ。私は常にミリアと一緒だし、という事はアズラエル財団の庇護下にあるわけで。しかも、私はハーフコーディネーターである事を隠しているし」
「でも、能力でバレるだろう。確か、ワシントンの大学院を・・・・・・」
「ええ。卒業したばかり。でも、ミリアはナチュラルだけど、一年早く卒業している」
「アヤは、屋敷の仕事をしながらだからね。やっぱり、アヤの方が優秀よ」
「知能・ルックス・家柄・・・・・・。いいな。人生の勝ち組で・・・・・・」
カズイが羨ましそうに言うが、そのカズイにしても十六歳でカレッジの学生をしているのだから、ここにいる連中で負け組みを探す方が難しかった。
日頃の会話や行動からは想像もできないが、日本なら「飛び級の天才少年少女達の集団」と呼ばれただろうからだ。
「でも、男がいないのが残念。あーーーあ。良い男がいないかな」
「そうですわね」
「君達・・・・・・。帰らないの?」
そして、本来、学生達と関係者達のみのある集まりであるパーティーには、今日でその正体の割れたユリカとエミが、何食わぬ顔でビールを飲んでいた。
「退屈だから、付き合うわよ」
「そうですわね。良い男は・・・・・・。あまりいないけどね」
「キラは?」
「五年後に会いたいわね」
「ギナ准将とか、ユウナとか、ホー一尉とかは?」
「ビールが美味しい・・・・・・」
「ですわね・・・・・・」
どうやら、二人にとって、彼らは評価を語るまでもないらしい。
「最後の切り札として、俺がいるけど」
「カザマ君は、もう売約済みだから」
「ですわね」
「俺が?俺はフリーだけど?」
「よく言うわよ。カガリ様がいる癖に・・・・・・」
「そうだぞ!別に、私とヨシヒロとは!」
ユリカの発言を聞いた俺はその意味がよくわからず、カガリもムキになって反論する。
俺自身は、カガリと付き合っているという認識が少しも無かったからだ。
「この中で教官を名前で呼んでいるのは、カガリ様だけですわ」
「そう言えばそうだね」
「あとは両親くらいか・・・・・・」
「ユウナさんは?」
「俺にそういう趣味はないけどね」
「僕もだよ・・・・・・」
キラとカナードがエミの意見に納得していると、今まで沈黙を守っていた虎が遂に目を覚ました。
「ちらうのれす!カラマさんは、わらくしの物なのれす!」
「あれ?あの人は誰だっけ?」
「サイ。あれは、ラクス様じゃないか」
「まだ、いたんですね」
エミの意見に唯一反論を大声で述べ始めたラクスであったが、彼女はいつの間にかビールを飲んでいたらしく、酔っ払っていて言葉の呂律が回っていなかった。
「ラクス様。いたんですね・・・・・・」
「アマミヤ教官。それは失礼だろう」
「では、ギナ准将は気が付いていたので?」
「つまみの唐揚げが美味しいな・・・・・・」
「誤魔化さないでくださいよ・・・・・・」
「あっ。それ。私が作りました」
「つまみには最適だね。レイナ君」
「みんら。おかしいのれす!わらくしのそんらいに!」
俺やギナ准将やユウナがいつもの掛け合いをしていると、再び無視されつつあるラクスが声を荒げる。
ラクス・クラインの頭の中は、疑問で一杯であった。
通常プラントなら好むと好まざるとに関わらず、シーゲル最高評議会議長の娘であるラクスは、どこででも一番目立って注目される人物であった。
それが、この場ではその存在すら忘れられつつある事が、不思議でたまらなかったのだ。
「なあ。ラクスが、カザマは私の物って言っているぞ」
「えっ!俺が?」
意外にも、カガリがラクスの発言の内容を聞いていたらしく、俺にその事を伝えてきた。
「私の物?」
「可哀想にな。ラクスに僕扱いか・・・・・・」
「カガリさん!ちらうのれす!」
「だって、ラクスとヨシヒロじゃあ、釣り合わないだろうが・・・・・・」
「それに、婚約者がいると聞いているぞ。確か、プラント最高評議会国防委員長であるパトリック・ザラの一人息子のアスラン・ザラと」
「よく知っていますね。ギナ准将」
「ミナから聞いた事がある。アマミヤ教官が反逆者にされなければ、面倒を見る予定だった若者だ」
「俺も、ラクス様の婚約者の事は聞いていましたよ。だからこその直々のご指名の教官任務の予定だったんですけどね」
「そして、そのせいでプラントを追われたとも言えるな。オーブにとっては、幸運だったわけだが」
「たかだか一パイロットの事で大げさですね。ギナ准将」
「プラントの次期指導者達の教官なんだぞ。上手くいっていれば、アマミヤ教官は、出世コースに乗れたはずだ」
「俺がですか?せいぜい隊長に出世してから、退役して民間企業勤めっていうところじゃないですか?俺なんて、開戦直後はドサ回り専門ですよ」
「あの。一つ良いですか?」
「どうした?キラ」
「あの・・・・・・。アスラン・ザラって、僕の親友なんですけど・・・・・・」
「へっ?アスラン・ザラが?」
「それは、意外だったね」
「そうだな。キラは、一般庶民にしか見えないからな」
「実は、昔は月のコペルニクス市に住んでいまして・・・・・・。そこで、家の家族と付き合いがあって、学校も一緒でした」
「幼馴染みたいなものか」
「アスランって、軍に志願したんですか?」
「彼は、(ユニウスセブン)で母親を失っているからな。色々と思うところがあったと思うし、プラントは戦力数において、地球連合より遥かに劣勢を強いられている。今は優勢だが、時間が経つにつれて不利になっていくだろう。戦力は多い方が良いし、指導者の子息達がザフト軍に志願する事は、有効な戦意高揚策だ」
「そうなんですか・・・・・・。レノア小母さんが・・・・・・」
どうやら、キラとアスランは本当に家族ぐるみでの付き合いがあったようだ。
「でも、一六歳で婚約者ありですか。羨ましいな。アスランは」
「お前ね・・・・・・。まあ、政略結婚という事だろうね。穏健派のシーゲル・クライン議長と強硬派のザラ国防委員長の子供が結婚する事により、プラントの派閥争いの解消を・・・・・・」
「あの・・・・・・。わらくしを無視しないでくらさい」
新た事実が飛び出した事により、再び関係者達の会話が長引き、無視されたラクスが文句を言い始める。
「ああ。ラクス様。いたんですよね。それで、どこまで話したっけ?カガリちゃん」
「ヨシヒロが、奴隷にされるという部分だ」
「奴隷って・・・・・・。格落ちしているじゃないの・・・・・・」
「同じ事だろう。繰り返すようだが、アマミヤ教官はプラントでは指名手配犯人だ。ラクス・クラインの誘いで帰るという事は、その存在を彼女に委ねる事になる。自由の無い人間は、奴隷と呼んで差し支えない」
確かに、ギナ准将の言う事は正しかった。
それに、俺自身に戻る意思がないので、ラクス・クラインが何を言っても無駄な部分があった。
「そうですよね。しかし、ラクス様もしつこいですね。俺は、何を言われても戻りませんよ」
「ちらうのれす!」
「何がですか?」
「あなたは、わらしの主人になるのれす!」
「どういう意味ですか?」
「ラクスさんが奴隷?」
「キラ。お前。バカだろう?」
「五月蝿いな!カナードは」
「カザマが、ラクス・クラインの婿になるという事だろう?」
「なるほど!って。えーーーっ!」
「「「「「「「「「「嘘ぉ!」」」」」」」」」」
カナードの答えを聞いた俺とラクスを除く全員が、驚きの声を一斉にあげる。
「俺?何で?どういう事?」
そして、俺は突然の事にただ動揺するばかりであった。
「そう。あれは、半年前の事です。あの情熱的な・・・・・・」
ビール一口しか飲んでいなかったラクスはすぐに酔いを覚まし、俺自身には全く身に覚えの無い情熱的な出会いとやらを話し始める。
だが、それはどう考えても彼女の嘘にしか聞こえなかった。
というか、絶対に嘘であった。
「(アスランとの事は知っているが、俺は君を諦めない!俺の妻になってくれ!)そう言いながら私を抱きしめ。(今日は帰さない!)と言って、その日の夜は・・・・・・」
「兄貴。くさい展開だね。というか、無謀」
「お兄さんの女たらし」
「うわぁーーー!身分を越えた愛ね」
「凄い・・・・・・」
「いやね。レイナ。カナ。ミリア。アヤ。全部、嘘だからね」
「そんな!私は、ただあなたに会いたくて!」
「アマミヤさん。往生際が悪いですよ」
「そうだな。男として責任は取るべきだろう」
「キラ。カナード。俺を信じていないだろう?」
「「「「「「勿論!」」」」」」
俺の質問に直接聞いた二人はおろか、サイ、トール、ユウナ、ギナ准将にまで肯定の返事をされてしまい、俺は落ち込んでしまう。
「カザマさん。いえ。ヨシヒロ。私との愛の巣に帰りましょう」
「絶対に嘘だ!誰か信じてくれ!」
ラクス・クラインの悪魔の策で、みんなに彼女と過去に関係があったと思われそうになった時、俺に救いの女神が現れた。
「ヨシヒロはプラントに戻らない!」
「カガリちゃん!信じてくれるんだね?」
「過去の女関係なんて関係あるか!重要なのは、今の事だ!」
「信じてはいないみたいですね」
「アヤ。事実を語らないでくれないか?」
「ヨシヒロは、プラントのために命をかけて懸命に戦った!でも、最強硬派の連中は、汚名を着せて処分しようとした。そして、お前達は、ヨシヒロを見殺しにした!今更、どの面を下げて迎えに来れるんだ!」
「それは・・・・・・」
ラクスは、カガリの迫力にタジタジになってしまう。
「ヨシヒロ・カザマはここにはいない!いるのは、ヨシヒロ・アマミヤだ!そして!」
「そして?」
「ヨシヒロは、私の物だ!」
「へっ?」
「カガリ・・・・・・。大胆ね・・・・・・」
「よっぽど、兄貴が好きなのね」
「遂に言ってしまったか。カガリ」
カガリの突然の告白に、ラクスはおろか、レイナやカナやユウナも驚いてしまう。
「ユウナ。婚約者を取られたぞ」
「みたいですね。あまり、驚かない・・・。いえ。カガリが自分で宣言した事が衝撃ですね。ギナ准将」
「我も驚いた」
「ヨシヒロは、私が連れて帰ります!」
「お前に渡せるか!」
「あのさ・・・・・・。俺の意思とか希望は?」
「「関係ない(ありませんわ)!」」
ユウナとギナ准将の話している間にもラクスとカガリの言い争いは続き、俺はまるで「大岡捌き」のように二人に腕を引っ張られ続けるのであった。
「何か、大変な事になっているな。スティング」
「第三者にとっては、面白いネタだけどな」
「そうだよな。ステラはどう思う?」
「ステラ。目が回るぅ〜〜〜!」
「ステラ!どうしたんだよ!」
「おい!ステラが飲んでいるのって!」
「ビールじゃないか!」
ステラは二人が目を離した隙に、勝手にコップにビールを注いで飲んでいた。
「アウル!酒なんて飲ませるんじゃねえよ!」
「俺のせいかよ!スティングも監視を怠った癖に!」
「アウルとスティングが、二人ずついるぅ〜〜〜」
こうして、不毛な言い争いが続くなか、学園祭第一日目の夜は更けていくのであった。
(学園祭第二日目、メイド喫茶「モルゲンレーテ」調理場内)
「こうなれば!カレーで勝負ですわ!」
「望むところだ!」
「料理は得意です!」
「私も、習ってそれなりに腕を上げた!」
「付け焼刃ですわ!」
「その自慢の腕をへし折ってやる!」
「ねえ。どういう事?ユウナ」
「君の好みのカレーが作れた方が勝ちみたいだよ」
「そんな。(○味しんぼ)の対決みたいな事・・・・・・」
「(○スター○っこ)じゃないの?」
俺とユウナのマニアックな談義が続くなか、二人は懸命にカレーを作り続けていた。
「あのさ。メイドなんだから、接客をさ・・・・・・」
「キラの言う通り・・・・・・」
「何か文句でも?」
「私は、正式にメイドになったわけではありません!」
「いいえ」
「何でもありません・・・・・・」
サイとキラは、二人の迫力に文句を言う事を止めてしまう。
「おい。ラクス。婚約者のアスランの事は、放置しても良いのか?」
「アスランは、とてもお優しい方なのですが・・・・・・」
「優しいだけの男って、駄目なのよね・・・・・・」
「そうそう。優しいイコール優柔不断という事もありますわ」
ラクスの言葉にユリカとエミが続き、アスラン・ザラは調理場にいる人達の脳裏に、「優しいだけのヘタレ男」というイメージが定着された。
「ヨシヒロは日頃は優しいし迷う事もあるけど、大切な場面では絶対に迷わないからな。強引にでも、事を押し進める」
「なればこそです。公私共に、私に必要な殿方なのです」
「私にも必要だ!だが、ヨシヒロは一人!わかっているな?」
「ええ」
「「勝負に勝った方が!」」
午前十時から開店したメイド喫茶「モルゲンレーテ」は、ミスコンの成果も重なって昨日以上の客足であり、レイナ達が急遽作ったカレーライスも好評であったが、カガリとラクスが凄まじいオーラを発しながら「カレー勝負に」挑むという奇妙な状態になっていた。
「ミスカレッジのレイナちゃんのカレー美味しい!」
「カナちゃんのも美味しいな」
「あれ?どこかで食べたような味・・・・・・。しかも、これは・・・・・・。野菜も肉も大きいけど生煮えだ・・・・・・」
「フレイ。○ャワカレーなんて使うから・・・・・・。しかも、ちゃんと材料を切りなさいよ」
「だって、私は料理得意じゃないし。カガリはどうなのよ?」
「カガリは、普通に作っていたわよ。今は、お兄さん向けに作っているけど」
「プラントのお姫様とオーブのお姫様で取り合い?凄いのね。カザマさんって」
「フレイ!あなた!」
「パパから事情を聞いているのよ。それに、もう公然の秘密ってやつ?」
「でも、フレイには関係ないでしょう?サイもいるし、兄貴はコーディネーターだし」
「でもね。ちょっと、気になる自分がいるのよね」
「あなた。コーディネーターは嫌いなんでしょう?」
「カザマさんは、あまりコーディネーターっぽくないからね。年上で頼れる男性って感じで」
「無理よ。大西洋連邦の政治家の娘で、ブルーコスモスと繋がりがある。(ロミオとジュリエット)を超える難しさよ」
「大丈夫よ。ブルーコスモスの本来の教義は、コーディネーターのナチュラルへの回帰よ。私とカザマさんが、結婚して子供が生まれたら・・・・・・。しかも、カザマさんは、あの二人の強引さに多少引いている。これは、(漁夫の利)を占めるチャンスなのよ!」
「あっそう」
「呆れ果てて物も言えないわ・・・・・・」
「レイナ。カナ。私をお義姉さんと呼びなさい!」
「「呼ばないわよ・・・・・・」」
レイナとカナは、フレイのハイテンションぶりに呆れるばかりであった。
(同時刻、プラント周辺宙域、ナスカ級高速戦艦「ダリ」艦内)
「ふぇっくしょん!」
「アスラン。風邪ですか?」
「おかしいな。具合は悪くないんだけどな・・・・・・」
マーレ率いるマーレ隊の艦隊は、与えられた周辺宙域の海賊や地球連合軍通商破壊艦隊の撃滅任務を無事に終了させ、プラント本国への帰路に就いていた。
「ラクス様が、噂していたんじゃないですか?」
「そうかな?」
「明後日には会うんですよね。きっと、彼女楽しみなんですよ」
「そうかな?」
アスランは、ニコルの予想を聞きながら一人でニヤニヤとしていた。
さすがに、現時点では婚約者に裏切られている事に気が付いていないようだ。
「ふん!女ごときで!」
二人の話を何となく聞いていたイザークが、悪態をつき始める。
「イザークは独り身ですからね。僻みにしか聞こえませんよ」
「お前も、独り身だろうが!」
「僕は、イザークよりも二歳も年下です。順番は守らないと」
「ふん!生意気な!」
「止めとけよ。イザーク。本当に、僻みにしか聞こえないぜ」
「親同士の決めた婚約だ!アスランが、女性にモテるわけじゃない!」
「でも、いるのといないのとではな・・・・・・」
「ディアッカ!お前は、どっちの味方なんだ!」
「どっちってな・・・・・・」
「(ふふふ。二つに分かれていがみ合っていたくれた方が利用し易い。せいぜい、気張っていがみ合ってくれよ。お坊ちゃま達)」
四人に見えない場所で、マーレは一人ほくそ笑んでいた。
そして、二日後にラクスが急用で戻って来れない事を知ったアスランは、盛大に落ち込むのであった。
「さあ!味を見てくれ!」
「どちらが、美味しいのか?公平な判断で!」
「まあ。自分に正直に判定しますけどね・・・・・・」
午後二時の昼下がり、お昼の忙しい時間を無事に突破し、遅めのお昼ご飯を取ろうとした俺の目の前に二枚のカレーの入った皿が差し出された。
あの忙しい時間に無駄に熱いカレー勝負を展開していた、ラクスとカガリの作品であった。
「両方とも美味しそうだね」
「ちゃんと、優劣を決めていただきたいのです」
「それで?」
「勝った方が、ヨシヒロの身を自由にできるという条件で」
「俺の意思の介在は?」
「「無い!(ありません!)」」
「そんな・・・・・・。惨い・・・・・・」
この日を境に、俺はどちらかの所有物同然という事のようだ。
その現実に、少し涙が出そうになる。
「「とにかく、味を!」」
「わかりましたよ・・・・・・」
俺は二人の迫力に押されて、それぞれのカレーを観察し始める。
まず、ラクスのカレーであるが、料理に慣れているらしく、材料などは綺麗に切ってあった。
ただ、カレーを作った経験の無いようで、料理本そのままの盛り付けであった。
「カレーを作った経験が無いので、データを見て作りました」
「データ?」
「この子に入っています。(ピンクちゃん)。ご挨拶を」
ラクスは、メイド服の中に隠していた球体のロボットを紹介した。
「ハロハロ。オマエ。ウラヤマシイゾ」
「じゃあ。代わってくれ」
「・・・・・・・・・・・・」
「感情が鋭い!人でも入っているんじゃあ・・・・・・。それとも、モニターしていて遠隔操作?」
「ピンクちゃん」は、俺の都合の悪い質問にだんまりを決め込んでしまう。
どうやら、ご主人様の教育がしっかりしているようだ。
「とにかく、味を!」
「いただきま〜〜〜す!」
俺がラクスのカレーを口に入れると、味は中辛で普通に美味しかった。
「美味しいね」
「ありがとうございます」
「次は、カガリちゃんか」
次に、カガリの作ったカレーを観察する事にする。
これは、料理を修業中で多少包丁さばきに慣れていないのか、野菜や肉の形が歪なうえ、カガリ自身も指を切ったようで、指に絆創膏を張っていた。
「味は良さそうだね。どれどれ・・・・・・」
俺がカガリのカレーを口に入れると、辛口で味も美味しかった。
「うーーーん。味は甲乙付け難いな・・・・・・。でも、あえて勝負を付けるなら・・・・・・」
「うん!」
「どっちですか?」
「カガリちゃんかな?」
「やったぁーーー!」
俺の判定にカガリは大喜びをし、逆にラクスはうな垂れていた。
どうやら、勝負に自信があったらしい。
「理由をお聞かせ願えますか?」
ラクスは、少し暗い声で自分の敗因を俺に聞いてくる。
「そんなに大した理由は無いよ。カガリちゃんのカレーは、家の味に似ていたから。それに、俺は辛口が好きだし」
「ヨシヒロの好みの事を忘れていましたわ・・・・・・」
「いつの間にか、呼び捨てなんですね・・・・・・。ラクス様」
「今日は、私の負けです!でも、次こそは!ダコスタさん。帰りましょう」
「わかりました」
ラクスは、ユウナの鋭い指摘すら無視してダコスタと共に、その場を立ち去るのであった。
「ラクス様・・・・・・」
「絶対に諦めませんわ!ヨシヒロは必ず!」
「(カザマ君も可哀想に・・・・・・。でも、正面切って言えない宮仕えの自分・・・・・・。ごめんね。カザマ君)」
ダコスタは、一人心の中でカザマに謝り続けるのであった。
そして、これが俺とカガリを度々トラブルに巻き込む、暴走ストーカー女ラクス・クラインのファーストコンタクトであった。
「ダコスタさん。予定変更です。あの方との契約を」
「了解です。連絡を入れておきます」
そして、それは、日頃は温和でフワフワとしている彼女の唯一のストレス解消原となる、ある男の不幸の始まりでもあった。
「ギナ准将。今回のカガリの勝因は?」
「ふむ。相手の好みの料理を作った、カガリの分析力の勝利だな。腕は、ラクス・クラインの方が良かったが、彼女は料理本通りの物しか作れなかった」
「なるほど。料理は食べて貰いたい人のためにですか」
「まるで、ユウナとアマミヤ教官が、読んでいる漫画のストーリーみたいだな」
「そうですね。でも、あの勝負を見ていると・・・・・・」
「カレーが食べたくなったな」
ユウナとギナ准将が周りを見ると、他の面子も思い思いの昼食を取っていた。
「レイナは、料理が上手だね」
「日頃、やっているからね。キラ。お代わりは?」
「俺もいる」
「はいはい。カナードもね」
「俺も、お代わり」
「スティングもね。男の子って、良く食べるわね。お兄さんもそうだけど」
「何だよ!俺は昼飯を食っているだけだぞ!」
スティングは、キラとカナードに鋭い目付きでメンチを切られていた。
「カナのも美味しいじゃないか」
「そうだね。サイ」
「お代わりあるよ。何せ、売るほど作ったからね」
「言えてる」
「でもさ。サイは、フレイのを食べなくて良いの?」
「知っているからな・・・・・・。フレイは、料理が苦手だから・・・・・・」
「兄貴は、料理下手な女とは付き合わなそう。あれでも、女性観は古典的だから・・・・・・」
「「ふーーーん」」
「絶対に、料理の腕前を上達させる!」
カナの話を聞いていたフレイは、一人気合を入れていた。
「トール。はい。どうぞ」
「ありがとう。いただきま〜〜〜す。うぐっ!」
「美味しい?トール?」
「うん・・・・・・。まあ・・・・・・」
そして、全然目立っていなかったが、ミリィもフレイと同じで料理が苦手であった。
「そして!この完璧美少女であるこの私が、カレーに初挑戦しました!」
「というか、料理も初挑戦よね・・・・・・」
「アヤ!余計な事は言わないの。全てにおいて天才的な私なら!」
「天災でない事を祈っているわ」
「アウル。私の料理を・・・・・・」
「スティング。俺もそっちに・・・・・・」
「あんたは!こっち!」
「理不尽じゃないか!」
「あんた!ご主人様に!」
「わかったよ!不味かったら、不味いと言うからな!」
「望むところよ!」
「ったく!スティングは、要領よくやりやがって・・・・・・。ふぎぃーーー!」
アウルが、ミリアの作ったカレーを口に入れると、あまりの辛さに水道の蛇口に向かって駆け出した。
「それで、味は?」
「ひぁらふて、しぉれとろろればない!(辛くて、それどころではない!)」
「何て?」
「ふっころすにょ!そにょ、くしょおんら(ぶっ殺すぞ!このクソ女!)」
「そうか。成功か。我ながら、恐ろしいまでの才能ね」
「ミリア。違うと思うけど・・・・・・」
だが、浮かれまくっているミリアにアヤの言葉は聞こえておらず、後日、自分の父親と母親を再び辛味地獄に陥れる事になるのであった。
「私は自炊くらいできる!」
「私もですわ!」
「でも・・・・・・」
「試食は、こいつのみ・・・・・・」
「カレーか。昔、日本の道場で修業した時に、そこの道場主の奥さんがな・・・・・・。お代わり!」
ホー一尉は、ユリカとエミの作ったカレーを美味しそうに食べていた。
「というわけなんだけど、僕達はどうしましょうか?ギナ准将」
「安全圏のレイナ君ので良いと思う。というか、あえてババを引く必要も無かろう」
二人がカレーを貰うためにレイナの元に向かおうとすると、後からエプロンを引っ張られる。
「うん?誰だ?」
「ステラ君か」
「ステラ。カレーを作ったの。食べてみて」
「僕達がかい?」
「ふむ。見た目は美味しそうだがな・・・・・・」
ギナの見たところ、ステラが作ったカレーは見た目は普通であった。
「ステラ君。料理は得意なのかい?」
「初めて作った。包丁の使い方は、みんなのを見て同じようにやった」
「「おーーーっ!天才的だ!」」
二人は感心しながら、よそって貰ったカレーを口に運ぶが・・・・・・。
「味付けは、ミリアが私と同じようにしなさいって」
「「何ぃ!」」
カレーを口に入れてからその事実を聞いた二人の舌に、想像を絶する辛味が広がっていく。
「「みじゅーーー!」」
二人はアウルに続き、水道の蛇口に向かって突進するのであった。
(同時刻、旧カナダオタワ市郊外、ジブリール邸別荘内)
大西洋連邦に属する旧カナダ領には、ジブリール財団の本社や工場などが多数点在し、彼自身の別荘もここに数ヶ所点在していた。
そして、今日はその別荘で彼は一人の客人を迎えていた。
「ルーザさん。お久しぶりですね。直接会うのは・・・・・・」
「学生の時以来かしらね」
「ええ。あなたは、ゲイの私と普通に友達として接してくれた」
「私もバイセクシャルだからね。それで、あの子は新しい恋人?」
「可愛いでしょう?(エイプリールクライシス)で家族を亡くして孤児になったんですよ」
ジブリールとルーザの目線には十四〜五歳の美少年がいて、彼はトレイにコーヒーを載せていた。
「まあ。弱みに付け込んだのね。あなたらしい」
「私は飽き性ですからね。数年奉公して貰えれば、ちゃんと過分な手当てを出して社会に出しますよ」
「ふふふ。そういうあなたのズルイ所が好き。勿論、友達としてだけど」
「私も同じですよ。アズラエルを騙している狡猾なあなたが好きです。友情しか存在しませんけど」
「そうね。それで、計画の方は順調なの?」
「ええ。アズラエル理事に不満を抱いている勢力・国全てにコンタクトを取りました」
「後は、時期を見てね」
「ええ。そして、アズラエル財団も、旧ゲイツ財団の離脱によって弱小財団に転落。旧ゲイツ財団は復活し、ジブリール財団は私の死後、ゲイツ財団の新当主である娘のレイリアに継がれます」
「私としてはそれで良いんだけど、歴史あるジブリール財団が消滅するわね」
「私には、人に大きな声で言えない性癖がありますからね。それに、財団の存続に興味はありません。私の人生の目標は、歴史に名前を残す事です。それが、後に悪行と評価されようとも・・・・・・」
ジブリールは、良い意味でも悪い意味でも純粋で真っ直ぐであった。
そして、主義者でもあったので、妥協を嫌う性格であった。
その彼にしたら、最近柔軟な姿勢を見せつつあるアズラエル理事は、ただの裏切り者にしか見えなかったのだ。
「そう。レイリアの子供の一人に、ジブリール財団を継がせるわ」
「吸収されて無くなっていますけどね」
「ムルタとエミリアとミリアを殺して、アズラエル財団を乗っ取るわ。それをジブリール財団に改名する。ムルタ。いい気味ね」
「そんなにお嫌いですか?」
「女のプライドを低く見た報いよ。私は、別に政略結婚でも良かったのよ。でもね!あんな年上の下賎な女に!」
「あなたも色々と大変ですね。それで、そのアズラエル理事ご一行は?」
「月で悪巧みの予定よ。大方、ハルバートン辺りと手打ちの儀式でしょう」
「ブルーコスモス穏健派と反ブルーコスモス穏健派が結び、我々は一気に不利ですか・・・・・・」
「でも、正式な決定には時間がかかる。その前に、事を起こす!」
「ふふふ。年明けのワシントンは、大変な事になりますね。でも、宇宙の化け物達の方は、大丈夫なんですか?」
「知ってて聞くのね。我々が事を起こした直後に、連中もチャンスとみて事を起こす可能性が高いわ。我々は、ロゴス内部で順位が低い数人の連中の支援も受けられる。その数人と我々で新しいロゴスを作り、操り易い政治家を国家元首にして経済面で世界を支配する。宇宙の化け物達は一人残らず抹殺よ。砂時計は壊滅し、月で拡張する予定のプラントで資源を独占する。実に素晴らしい、人類が新しい発展を遂げる最高のプランね。まあ、私はブルーコスモスでもないからコーディネーターなんてどちらでも良いんだけどね。立ち塞がる敵は粉砕するだけ」
「それで、結構ですよ。では、我々の成功を祈って」
「「乾杯!」」
二人は、使用人の少年の差し出したコーヒーで乾杯するのであった。
(学園祭から一週間後、月面「プトレマイオス基地」某会議室内)
「何をしに来た?アズラエル。それと、サザーランド大佐」
「おや。いきなりですね。ハルバートンさん」
「私は、お前達が大嫌いだからな。現実を見ないで、戦いをデータでしか見ないエリート様のサザーランド大佐と、それを利用して肥え太っているアズラエル理事」
「まあ。大方正解ですね。サザーランド君。君は、エリートだそうですよ」
「知将との呼び声高いハルバートン准将に、そう呼ばれるとは光栄ですね」
「それで、隣の金庫番は何の用事なんだ?」
「エミリア。あなた。有名人ですね」
「知る人ぞ知るですよね?ハルバートン准将。いえ、少将」
「私は、准将だ」
「ああ。あなたは、明日付けで少将なんですよ。何しろ、現時点でザフト軍とそれなりに戦える指揮官は希少価値ですからね。それと、ジークマイヤー大将閣下に大幅な権限を委譲します」
「権限を委譲?」
「万が一の事なんですけどね。本国との通信が途絶えた時は、プトレマイオス基地の全ての権限を委ねるという事でして」
「それは、補給も途絶えるという事か?」
「どんな手を使っても良いですから、プトレマイオス基地を維持してください」
「基地だけではなく、その周りの都市や施設もだろう?」
「正解です!それと、あなな達の幕僚達も全員一階級昇進です。(G)の開発に関わっている方達も、軍に復帰後に昇進させてください」
「何を企んでいる?」
「心外ですね。私はそこまで有能ではありません。生き残るために、妥協して手を結ぶ。私の身柄もアズラエル財団も・・・・・・」
「私も死にたくはないな。手を結ぼう。あくまでも、お互いの利益のために」
「それで、結構です。それと、サザーランド君には苦労して貰う事になります」
「私がですか?」
「アラスカとジョシュアを絶対に維持してください」
「ジブリール最高幹部ですか?」
「確証は、完全に掴めていませんけどね・・・・・・」
「この大変なご時勢にクーデーターでも起こすのか?」
「可能性は高いのですが、確証も掴めない内に色々と動くとね・・・・・・」
「バカか!奴は!そうでなくても!」
「プラントも割れるんですよ。だから、事を起こすのです。でなければ、ジブリール君もそこまでの無茶はしませんよ」
「あそこは、ただの派閥争いじゃないか!」
「同じ事です。ジブリールとプラント最強硬派。右と左で天秤の端にいますから」
「何という事だ・・・・・・。これで混戦になれば、更に大きな犠牲が・・・・・・」
「ですから、我々で新しい秘密組織と同盟を作ります。言ってみれば、(中立国同盟)ですか」
「だが、戦力がな・・・・・・」
「南米は、現時点でどちらに付くか不明です。北アメリカ大陸は、旧アメリカは絶望的ですね・・・・・・。カナダは、ジブリール君の本拠地で駄目。アラスカはサザーランド君次第・・・・・・」
「ユーラシア連合は?」
「旧西ヨーロッパ諸国は、大丈夫でしょう。建前は自由・平等・民主主義国家なので、ロシアと東ヨーロッパ諸国は駄目です。やはり、Nジャマーの影響で大きな被害を出した地域ですから、ジブリール君の考えに同調するでしょう。それと同じで、インド亜大陸も駄目です」
「アズラエル。このままでは、継戦能力が途絶するぞ。圧倒的にジブリールの優勢じゃないか」
「ちなみに、中国と韓国も駄目です。あそこは中華思想で、我々ですら野蛮人ですから。それと、他のアジア諸国も駄目ですね」
「赤道連合と大洋州連合は親プラントで、北アフリカと中東も駄目。南アフリカは、援助の内容次第か・・・・・・。月の裏面のダイダロス基地の司令は、ジブリールと思考が似ている。こちらに付く可能性は無いな・・・・・・。どうするんだ?アズラエル。裏切っても良いか?」
「日本・台湾とオーブを引き込みます。故に、(中立国同盟)です」
「対プラント戦線はどうする?」
「プラントで事が起これば大丈夫です。シーゲル議長の娘のラクス・クラインと接触しました。最悪、彼女に穏健派の残存勢力を率いて貰って、秘密停戦協定を結びます。これで、相手にするのは最強硬派の連中だけになります」
「実は、一番初めに聞きたかったのだが、先に手は打てないのか?」
「ハルバートン少将。この基地内のジブリールのシンパを全員摘発してください」
「無理だな・・・・・・。そういう事か・・・・・・」
「決起直前か、決起後にしか真のシンパがわかりません。実に巧妙で悪どい手です。最初に圧倒すれば、日和見な連中を圧倒できますしね」
「大変な事になったな」
「全部。ガラガラポン!ですよ。勝った勢力が世界を再統合します。ジブリール君が勝てば、コーディネーターは効率的に処分され、彼の理想に近い世界が。プラント最強硬派が勝てば、我々はどうなるのやら?最後に我々が勝てば、様々な物が混在するゆるい世界がね・・・・・・」
「残念だったな。アズラエル。本当は、ジブリールの世界が理想なんだろう?」
「最近までは、そう思っていたんですけどね・・・・・・」
「はあ?」
「とにかく、生き残るのが第一です。あとの事は、あとで考えましょう」
アズラエルの脳裏には、直接は見ていなかったが、ヘリオポリスの奇妙な連中と楽しそうにしているミリア達の姿が浮かんでいた。
「じゃまあ。メイド喫茶(モルゲンレーテ)の成功を祝して乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
学園祭第二日目。
すなわち、最終日は無事に終了し、予想を超える売上げをあげた俺達は、その収益金で盛大な祝宴をあげていた。
「ユウナ。ナイスアイデアだったな。おかげで、美味しい料理を食べられるわけで」
「最初は、二番煎じとか言っていなかったかい?」
「さあね。記憶にありませんね」
「よく言うよ」
祝宴会場は、前にユウナが泊まっていた高級ホテル内にある中華料理店であった。
俗に言うところの「テーブルが回る店」である。
「パパから大金をせしめたからじゃないの」
「お金持ちがお金を使う。すると、経済が回る。世界の常識ですよ。ミリアお嬢様」
「うへぇ。何がお嬢様よ。本当は、微塵も思っていない癖に」
「ちょっとお転婆だからね。でも、ここにお転婆姫であるカガリちゃんもいるからさ」
「あなたのご主人様ね」
「そう言えば、そうだった・・・・・・」
昼のラクスとの勝負に勝利したカガリはラクスとの勝負に勝ち、本人の意思を無視した俺の所有権を獲得する事となっていた。
「ご主人様。哀れな奴隷にご命令を」
「別に、今までと変わらない」
「どういう事?」
「人が人を所有できるはずがない。あの時は、ラクスに挑発されてムキになっただけだ。ヨシヒロは自由なんだから、自由にすれば良いさ」
「カガリ。難しい事を言えたんだね」
「私は子供か!」
「ふべき!」
余計な事を言ったユウナは、カガリにグーで顔面を殴られた。
「痛いじゃないか」
「全然、効かなくなったな」
だが、最近抵抗力のついてきたユウナは、ものの数秒で完全に復活する。
「それで、カザマはどうするんだ?」
「何が?」
「ラクスの所に行くという手もあるぞ。待遇は、悪くないと思うが・・・・・・」
「えーーー!嫌だよ!物凄く苦労しそうだし。それにね」
「それに、何だ?」
「俺は、ウズミ様と約束したからな。(オーブが俺を裏切らない限りは、俺はオーブのために働きます)ってね」
「ヨシヒロ・・・・・・」
「はい。ヨシヒロさん。フカヒレを多めに取りましたよ」
俺とカガリが良い雰囲気になりかけた瞬間、それを阻止するかのようにフレイが俺に料理を載せた皿を差し出してくる。
「ああ。ありがとう(何でだ?俺と彼女じゃあな・・・)」
「お酒も飲みますよね。紹興酒ですけど」
「ああ・・・・・・」
「フレイ。えらく面倒見が良いじゃないか」
「そうかしら?(まだ、カガリって決まったわけじゃないしね)さあ。お酒をどうぞ」
「うん。ありがとう」
「ヨシヒロさん。次の休みは、時間空いていますか?」
「今のところはね・・・・・・」
「じゃあ。映画にでも連れて行ってくださいよ。来週から、新作のSF映画が封切られるんですよ」
「へえ。SFか。良いね。悪いけど、恋愛映画じゃ眠くてさ」
「でしょう。行きましょうよ」
「ええと・・・・・・」
俺がどう返事をしようかと迷いながら周囲を見渡していると、カガリが悲しそうな表情を浮かべていた。
「あっ!そうだ!カガリちゃんとの約束があったんだ!」
「えーーーっ!約束ですか?」
「ミスコン入賞のご褒美でさ。約束は守らないとね」
「むぅーーー!私も一緒に行きます!」
「駄目だよ。カガリちゃんへの賞品なんだからさ。ねえ。カガリちゃん」
「うん」
俺の心は、カガリの笑顔を見ていると次第に穏やかになっていった。
この二日間で色々と大変な事もあったが、俺はオーブに居続ける事をウズミ様と約束していたし、この笑顔を見続ける事も悪くないかもしれないと、心の奥底で思い始めるのであった。
(十月下旬某日、某宙域の某宇宙船内の一室、この日のラクスさん)
「ヨシヒロは、私の元に来てくれませんでした。不本意ではありますが、彼と同等かそれ以上の身近な戦力を得ませんと・・・・・・」
「それで、彼を雇うと?」
「はい。ダコスタさんがアフリカで忙しくなる以上、いつまでも頼りっ放しというわけにも・・・・・・」
「そうですね。バルトフェルト隊長。書類を溜め込んでいるだろうな。あの人。面倒くさがりやだから・・・・・・」
ダコスタは、アフリカに戻ってからの残務を想像して表情を暗くした。
「そこで、今日は雇用契約についての話し合いを実施するわけです」
「(伝説の傭兵)ですよね。短期で雇う人は多いですけど、長期の契約を引き受けますかね?」
「それは、実際に交渉してみないと・・・・・・」
「失礼する。傭兵のムラクモ・ガイだ」
二人が話をしていると急に部屋の扉が開き、五人の様々な年齢の男女が入ってくる。
「パイロットのイライジャ・キールだ」
「情報担当のリード・ウェラーだ」
「作戦立案と爆薬の専門家よ。ロレッタ・アジャーよ」
「交渉担当の風花・アジャーです」
「君が交渉担当?」
ダコスタは、どう見ても八歳以上に見えない風花に不審の目を向けた。
「若いの。この子は、今までもちゃんと(サーペントテール)の交渉担当任務をこなしてきたんだ。こちらの能力に疑問があるのなら、雇ってくれなくて結構」
リードは、不審の目を向けたダコスタに強気の姿勢で対応する。
能力を売り物にする傭兵が、その能力を疑われたのだ。
交渉を有利にするために、強気の態度に出る事は当たり前の事であった。
それに、向こうはこちらを指名してきたのだ。
少しくらいごねた方が、条件が有利になるはずであった。
「いえ。別に、疑っているのでは・・・・・・」
「お互いにお忙しそうですから、早く交渉を行いましょう」
「そうだな。それで、何をすれば良いんだ?」
あくまでも、雇用条件の細部が風花の仕事で、最初の交渉はムラクモ・ガイ本人が行うようであった。
「私の命令で色々と動いて貰います。臨機応変な対応が求められますので、普通の傭兵の方には不可能です」
「期間は?」
「まずは、三年間です」
「俺達を三年も雇う?頭がおかしくなったのか?」
「どうしてですか?傭兵ならば、お金で雇えるのではないのですか?」
「我々は傭兵だ。今期大戦では時には地球連合軍に、時にはザフト軍に、そしてオーブ軍やスカンジナビア王国軍などにも雇われていた。そんな俺達が、三年もあんたの下で働くんだ。イメージの定着が恐ろしいな」
「でも、条件によっては、お引き受けになるのでしょう?」
「そうだな」
「条件を仰ってください」
「風花!」
「はい」
今までラクスと交渉していたムラクモ・ガイに代わり、今度は風花・アジャーがラクスの正面の席に座る。
「まずは、金額です。一人一日一万アースダラーです」
「まあ。五人で一日五万アースダラーですか。大金ですわね」
「長期間に渡って、我々を独占しますからね。このくらいの条件は・・・・・・」
「他に、ございますでしょうか?」
「パイロットであるガイとイライジャには、モビルスーツを支給して貰います。それと、武器・弾薬・消耗部品・整備はそちら持ちです。他にも、最低限の衣食住の保障と新しい船の支給。所定の休日の保障。有給休暇の消化率の達成等を・・・・・・」
風花はガイのレクチャーを受けて、わざとラクスが受け入れられないような条件を出していた。
一日五万アースダラーで三年間ともなれば、5千万アースダラーを超えてしまうのだ。
普通の神経をしている人間ならば、絶対に受け入れないとガイは思っていた。
だが、その判断の甘さが、彼を数年間に及ぶ自身の尊厳との戦いへと誘う事になる。
「条件を飲みますわ。風花さん。契約の書類を」
「はっ!はい!」
まさか、条件を飲むはずがないと思っていた風花であったが、一応は書類は用意していたので、動揺した彼女は契約書類を差し出してしまう。
「では。二部にサインします。一部は、私に。もう一部は、あなた達が保管しておいてください」
「はい・・・・・・」
「では、新しい船とモビルスーツを用意しておきますね。これから、よろしくお願いしますわ」
以後、「サーペントテール」は、ラクス・クラインの紐付きとなり、後世の人達に「ピンクの傭兵団」と呼ばれる事になるのであった。
あとがき
ラクスは、基本的にストレスが溜まる立場なので、こういう事でストレスを発散してます。