(コズミック・イラ70十二月初旬、ヘリオポリス宇宙港内「モルゲンレーテ社」秘密ハンガー内)
あの大騒ぎだった学園祭から、更に一月以上の時が流れた。
オーブ軍における、モビルスーツパイロットの訓練と部隊の創設は順調に進み、既にヘリオポリス防衛部隊には、訓練途中のパイロット達が配属されるまでに至っていた。
彼らは、オーブでコピーをした《ジン》で三機一個小隊を作り、交代でヘリオポリス周辺を哨戒するようになっていたのだ。
勿論、対外的にはジャンク品として拾った《ジン》を修復して、それをコーディネーター士官達が運用している事になっていた。
だが、実際には、キラが更に数回の改良を施した新型ナチュラル用のOSと操縦補助用OS。
そして、新規に開発された戦術リンクシステムが装備され、数ヶ所に拡大されたオーブ各地の訓練施設でパイロットの大量養成が行われるようになっていた。
「ユウナ。もう少し左に機体をずらせ。それじゃあ、敵が来たら射撃ができないぞ。俺を撃ってしまうからな」
「了解!」
「カガリちゃん。少し遅れてる」
「了解!」
俺はユウナとカガリを連れて、交代制になっている小隊による哨戒飛行を行っていた。
オーブは中立国で、今のところは敵などはいないのだが、極たまに地球連合軍とザフト軍の通商破壊部隊や偵察部隊が小規模の交戦を行い、夢中になって戦っている内に領宙侵犯が発生する事があったのだ。
そして、その時には警告を発するのも俺達の重要な任務の一つであった。
「今日は、平和そのものか」
「戦争は、膠着状態だからな」
俺の愛機は、いまだに改良を続けている《シグー》で、カガリとユウナにオーブで複製された《ジン》に乗って飛行を続けていた。
本当ならば、二人は肩の部分にアスハ家とセイラン家の紋章でも付けるのであろうが、オーブでは既にナチュラルのパイロットが実戦投入可能寸前だと他国に悟らせないために、普通の機体を使わせていた。
「でも、それもいつまで続くのやら・・・・・・」
「今年一杯が、限界だろうね」
「そうなのか?ユウナ」
「プラントは、年明けに大規模な作戦を行う可能性が高いそうだ」
「目標は、パナマか?カオシュンか?タネガシマはマスドライバーが小型だし、日本は半ば中立国だし・・・・・・」
「良く知っているね」
「プラントは、マスドライバーのある地域を押さえて地球連合軍の援軍が宇宙に上がる事を阻止したいからな。そして、占領した地域は、独立させて同盟国とする。国力が無い国は、こうして戦うしかない」
この方針は、開戦直後からザフト軍の一般将兵にも知らされていた事実で、地球連合軍も勿論それを知っていた。
だが、作戦順番を読み違えたり、モビルスーツ部隊のせいで数分の一の戦力に敗北したりと、その情報を有効に生かすまでに至っていなかったのだ。
「ヨシヒロは、プラントにいたからね。事情に詳しいわけだ」
「下っ端だったけどね」
「実は、カオシュン攻略作戦が中止になる可能性がある」
「おいおい。本当かよ。日本の援助が、期待できないからか?」
「攻略はしないで、破壊だけする作戦に変更するらしい」
ユウナが、多分ウナト様から聞いたと思われる情報を俺に教えてくれる。
今までのプラント最高評議会であれば、絶対に認められない作戦案であったが、地球上の占領地の補給の先細りと、強硬派の突き上げで、穏健派もとりあえずは作戦を飲まざるを得ない状態に追い込まれているらしい。
「敵を増やす戦い方だな」
「父上も首を傾げていたが、維持ができないという事情が存在するらしいよ。かと言って、日本に委ねる事は、最近アズラエル理事と東郷外務大臣との秘密会合がリークされた影響で、強硬派の絶対反対を受けているらしい」
「うーーーん。辛い戦いになりそうだね」
「オーブの中立もいつまで続くのやら・・・・・・」
俺達は、世間話というには物騒過ぎる話をしながら、哨戒任務を終了させるのであった。
「ヨシヒロ。《シグー供佞猟柑劼呂匹Δ澄」
「安易なネーミングだよな。でも、機動性は良くなったし、装甲も強化されたし、悪くはないと思うよ」
哨戒任務を終えて帰ってきた俺は、格納庫内でモビルスーツのチェックをしていた親父に改良した《シグー供佞猟柑劼砲弔い栃垢れていた。
このプラント生まれでオーブ育ちの《シグー供佞函▲競侫鳩海寮舷茲痢團轡亜次佞里匹舛蕕性能が良いのか、非常に気になるところではあった。
「フェイズシフト装甲の量産は、いまだに達成できず・・・・・・。既存の複合装甲の改良だけどな・・・・・・」
「当たらなければどうという事はないさ!一度言ってみたかった・・・・・・」
「○ャアかい?」
「ユウナしか理解してくれないのか・・・・・・」
「このオタク共が・・・・・・」
俺とユウナは、隣にいるカガリに呆れられてしまう。
「それでさ。新型量産モビルスーツってどうなっているの?」
「やはり、オーブ単独ではフェイズシフト装甲の量産は不可能だった。同盟国と協定を結んで共同生産するしかないな・・・・・・」
「オーブは中立国だけどね」
「組む候補は、やはり日本だな。世界有数の工業国で、新型量産モビルスーツの開発の噂が立っている。台湾でも、ライセンス生産するとかでな」
「ライセンス生産?」
「現時点で、台湾には東アジア共和国の駐留軍がいるからな。下手に情報は流せまい。量産は独立後の事になると思う」
「ふーーーん。でも、カオシュンのマスドライバーを、ザフト軍が狙っているんだろう?」
「プラントは維持する余裕が無いから、破壊を考えるようになった。日本は、台湾国民党による独立クーデターを支援して破壊を避けたい。日本とプラントはこの件で対立するようになった。そういう事だ」
「日本にとって、カオシュンのマスドライバーは、生命線の一つだからな」
「タネガシマは規模が小さいし、フラノは建設中だしね」
ユウナの言う通りで、日本は独自に富良野にマスドライバーを建設中であった。
本当は赤道直下の方が良いのだが、日本領にそんな場所はなく、沖縄などでは十分なスペースが確保できないという理由で、北海道が候補にあがり、数ヶ月前から本格的に建造が始まっていた。
「そういう事だ。そして、モビルスーツ部隊創設の件で、我々とプラントとの関係は悪化している」
「何で?ライセンス料は払っているんでしょう?」
実はオーブ政府は、プラント政府に《ジン》のライセンス料を払うようになっていた。
勝手にデブリの中から残骸を拾って修理したり、複製している事で苦情を受けるようになっていたからだ。
「お前の事もあるからな」
「じゃあ。プラントに俺を差し出すかい?」
「今更だな。それと、コーディネーターの不審者が、オーブ各地の訓練基地周辺で何人も情報部員に殺されている。犯人は、プラントらしいがな」
「プラントにとって、オーブは脅威なのか。地球連合の方はどうなの?」
「もはや、ナチュラル専用のOSの存在は世界中にバレているからな。盗むか、高値で買うか、同盟を結んで格安で手に入れるかだ」
「それで、みんなお優しいのね」
逆に、地球連合参加諸国でオーブの軍備増強に表立って異議を唱える勢力は少数であった。
多分、最近の関係悪化を考慮して、どう転んでもプラントの同盟国にはならないと考えているらしい。
「そうだ。それなりの性能なら、数を揃えられる地球連合側が有利だからな。オーブのご機嫌を伺って手に入れたいわけだ」
「そうか。そろそろ出番かもな。《シグー供佞茵
俺は、黒く着色された愛機を見上げる。
《シグー供佞蓮既にオーブでかなりの改良を受けていて、既に元の部品率はかなり低下していた。
装甲も、地球連合軍の《G》がシールドに採用しているアンチビーム塗布装甲を加工し、脱着を容易にした物を装備していた。
そして、武装は、新規に開発された90ミリマシンガンと、シールドと、試作品の12メートル対艦刀を装備していた。
「そろそろ出番って言ってもな・・・・・・。《M−1アストレイ》は、試作先行機とエース専用機のカスタムフレームが数機完成しているだけだぞ」
「ギナ准将の《ゴールドフレーム》。ホー一尉の《ホワイトフレーム》。ユリカの《レッドフレーム》。エミの《ブルーフレーム》。カナードの《ブラックフレーム》か・・・・・・」
以上の五人は、俺が師団親衛隊に所属させていた。
仮想敵国であるザフト軍には、エースクラスの実力者が多いので、彼らが現れた時にぶつける予定でいたからだ。
というか、技量は十分あるが、指揮を執らせるのが不安な連中を集めただけとも言えた。
特にギナ准将とホー一尉は、能力はあるが、指揮を執りたがらなかったので、大好きな強敵との戦いにぶつける事にしたのだ。
そして、カナードは俺に万が一の事があった時に、俺の代理をさせるためであった。
「それでよ。《ブルーフレーム》には、お前の言う通りにガンバレルシステムを移植しておいたぜ」
《ブルーフレーム》を含む各種フレームは、《G》を参考に開発された機体で、本来はその色毎に格闘戦・射撃戦・機動性・耐久性・稼働時間などのバランスを見るための機体であったが、パイロット達に様々な試験をした結果、立花エミ三尉に空間認識能力がある事が確認され、急遽、彼女に専用機を用意するために大幅な改良を受けていた。
「エミが、空間認識能力者であった事は儲けだったな」
「地球連合軍にも、生き残りは少ないからな」
「新しい人材の発掘か。でも、あの子も空間認識能力があるんだよね」
「味方には、ならないかもしれないけどな」
俺と親父が見ているディスプレイには、外の宇宙空間での訓練の様子が映し出されていた。
そして、そこにはガンバレルシステムを背負った《ジン》という、いかにも間に合わせの改良機が、標的に向けて攻撃を行っていた。
「一号機はエミの予備機で、二号機はアヤの愛機か・・・・・・」
「ねえ。本当に、情報漏洩とかの問題は無いの?あの娘は、アズラエル理事の子飼いの部下なんだよ」
「キラが、完全にブラックボックスにしてしまったからな。OSのコピーを取ろうとして、ディスクを入れた瞬間に、お釈迦になる仕組みになっている」
「アズラエル理事は、訓練済みのパイロットが欲しいのかな?」
「だろうな」
あの学園祭が終了した翌日の朝、ミリア達は全員が帰ると思っていたのだが、アズラエル理事の命令を受けたアヤだけが残って、パイロットとしての訓練を受ける事にいつの間にか決まっていた。
俺としては、機密が漏れる事が確実なので嫌だったのだが、親父はアズラエル理事から相当の対価を受け取ったようで、キラに機密管理を徹底させる事を条件に許可を与えてしまったらしい。
こうした事情で、アヤはパイロットとしての訓練を開始したのだが、彼女はハーフコーディネーターとはいえ、能力はコーディネーターに近いらしく、俺の予想を超える優秀さを発揮していた。
更に、彼女は、オーブ軍にもエミしかいない空間認識能力者である事が確認され、彼女にはメビウスゼロのガンバレルシステムを背中に移植した《ジンカスタム》を愛機に、毎日厳しい訓練を行っていた。
「アヤか。スカウトできないかね?」
「無理だろう。アズラエル理事の秘蔵っ子だぜ」
「俺が落とす。ふべっ!」
「バカが・・・・・・。余計な事を言うから・・・・・・」
親父の言う通りで、余計な事を口走った俺は、そばにいたカガリにパンチを喰らってしまう。
「焼き餅かい?カガリちゃん」
「明日を忘れるなよ!」
「へっ?」
「明日だ!」
カガリはそれだけを言うと、整備員に細かい設定の指示を出してから師団本部に行ってしまう。
彼女は、キサカ一佐に指揮官教育を即席で受けていたのだ。
「明日って・・・・・・。土曜日だよな」
「週末は、デキる男はデートに出かけます」
「お前・・・・・・。ウズミ様に殺されるぞ」
俺の週末の予定を聞いた親父の顔は、珍しく青ざめていた。
将来、カガリが高貴な血筋の方と結婚すると思っている親父は、俺が彼女に手を出して大変な事になると勝手に思っているらしい。
「何で?」
「いいか!カガリ様に絶対に手を出すんじゃないぞ!もし、出していたら、絶対に漏らすな!墓場まで持っていけ!」
「既に出している事が前提なんですね・・・・・・。カザマ部長」
ユウナは、自分の友人のあまりの信用の無さに、少し呆れてしまう。
「いえ!絶対に出していません!ヨシヒロの父親である私が保証します!」
「別に、僕はどちらでも良いんですけど・・・・・・」
親父は、カガリの婚約者であるユウナに配慮しているつもりらしいが、ユウナ自身にカガリと結婚する意志が皆無なので、全く意味が無かった。
「親父は小市民だよな。別に、俺が誰とデートしようと関係ないだろうが」
「カガリ様以外なら、俺も文句を言わんわ!家族をオーブから追放させるつもりか!」
「大丈夫だって。映画を見て飯を食うだけだからさ」
「本当か?」
「カガリちゃんは、未成年だから酒は飲ませられないし、プラントの上流階級のスレた女と違って純情可憐だからね。じっくりと行きますよ」
「そうか。安心した。って!将来は手を出すつもりか!このバカ息子が!」
「冗談だよ。冗談。じゃあね!俺は、書類を整理してから帰るからさ」
俺は、一人で騒いでいる親父を放置して、カガリが先に向かった師団本部に向かうのであった。
「アマギ一尉。全モビルスーツの機体数と状態、装備品、消耗部品、弾薬等の一覧表をお願いします」
「わかりました」
正式には、《オーブ軍特殊装甲教育師団》と命名されている我々の本部は、屋外演習場に隣接しているモルゲンレーテ社内の空き会議室に置かれていて、そこで師団長のキサカ一佐と参謀長兼副官のアマギ一尉が、通常の業務を行っていた。
だが、二人に経験した事もないモビルスーツ戦の指揮が行えるはずもなく、彼らの主な任務は、情報漏洩の阻止とオーブ軍本部との折衝であった。
「これが、目録です」
「ありがとうございます」
俺は、アマギ一尉から手渡された書類のチェックを始める。
俺とアマギ一尉の関係は、彼はモビルスーツ関係で重要人物である俺に気を使い、俺も先任の彼に気を使って、お互いに敬語を使うという関係であった。
「うーーーん」
「どうですか?」
「90ミリマシンガンの弾薬が少ないですね」
「すいません。オーブは戦争をしていませんので、訓練用の規定量しか送って貰えないのです」
「その融通の利かない部分は、何とかならないの?」
「アマミヤ一尉。それが、軍の戦闘機族や戦車族の嫌がらせなんだよ」
アマギ一尉の代わりに、カガリにコンピューターを使ってのシミュレーションをやらせているキサカ一佐が答える。
「船の連中は、文句を言わないんですか?」
「絶対に必要な物だからな。空母にしても宇宙用艦艇にしても、戦闘機を運ぼうと、MAを運ぼうと、モビルスーツを運ぼうとも必要性に変わりはない。そういう事さ」
「なるほど・・・・・・。それで、弾薬の追加ってできますか?」
「大丈夫だ」
「凄いですね。量が少ないのが決まりなんでしょう?」
「そうだ。《日頃は高い実弾を消費せず!有事の際は一撃必中!》オーブの軍人と日本の自衛官は、そういう事になっているんだよ」
「ケチくさいですね。日本はそんな事を言っているから、アメリカに負けたんですよ」
「何百年も前の事じゃないか」
「未だに尾を引いていますよ。変に欧米人の言う事をありがたがるし」
「確かに、そうかもな。それじゃあ。《蛇の道は蛇》という事で、弾薬を追加しておくぞ」
「お願いします」
その後、キサカ一佐は俺に弾薬の手配を約束したあとに、隣でシミュレーションをやっているカガリの様子を見て溜息をつき始める。
「カガリ様・・・・・・。すぐに全戦力を突撃させないでくださいよ」
「最高の攻撃力が出るぞ」
「一撃で終わりじゃないですか・・・・・・」
「そういえばそうだな」
「カガリ様・・・・・・」
「オーブって、本当に大丈夫ですかね?」
「さあ?」
俺とアマギ一尉は、不安そうにお互いを見つめるのであった。
(同時刻、日本国富士山麓。自衛隊教師団特殊装甲機研究会本部内)
「《レップウ》の完成には、どのくらいかかります?」
「少なく見積もっても、年明けですね」
富士の山麓にある自衛隊の施設内のハンガー内で、一人の五十歳前後の男性と二十代半ばほどの男性が、内部の機械がむき出しの鋼鉄の巨人を見上げながら話をしていた。
「やはり、OSですか・・・・・・」
「こりゃあ。オーブと意地でも同盟を結ばないとな。ナチュラルでも、高性能を発揮するOS。これがないと、完成した《レップウ》もただの棺桶だよ」
「言えてますね。じゃあ、後の事はお願いしますね。真田一佐」
「《こんな事もあろうかと!》という風に簡単にはいかないよ。石原二尉」
「知っていますよ。さて、シミュレーションで訓練でもするかな」
「実機は、完成していないからね」
「早く完成させてくださいよ」
「それは、君本人の願望かい?それとも、お父上の希望かい?」
「両方ですよ」
「心得た。完成までは、他の訓練に励んでくれたまえ」
「あっ!そういえば。シミュレーションどころの話じゃなかった!」
石原二尉は、突然何かを思い出したように大きな声をあげる。
「何か忘れていたのかね?」
「モビルスーツパイロットを確保するための、学生向けの説明会が・・・・・・」
「昔のように、学徒動員ってわけにはいかないのか」
自衛隊では、これから大幅に不足するであろうモビルスーツのパイロットを確保するために、大学生や専門学校生の志願者の募集を行っていた。
そして今日は、石原二尉が現場の様子というものを語る事になっていたのだ。
「短期の訓練で、いきなり三尉ですものね。戦死率はナンバーワンですけど」
「古参の下士官達も、羨ましがらないか・・・・・・」
「日本は、これから戦わねばならない。そして、今回の戦争の主力はモビルスーツだ。戦闘機のパイロット達は、既に機種変更訓練をシミュレーションながら開始している。だが、数が足りないので志願者を募る。嫌な話ですね」
「戦争か・・・・・・。社○党の土井垣のババアとか、共○党の志村とかが大騒ぎだろう?」
「ええ。来週には、逮捕されますけど」
「何でだ?」
「反戦運動の見返りに、中国とロシアから金を貰っていたそうで・・・・・・」
「ちゃんと反戦運動をやっている連中が、可哀想になってくるな」
「中国は悪どいですよね。先週の市民団体が起こした裁判。あれも、中国の情報部から団体のリーダーに金が渡っていたそうです」
「ああ。税金を使っているから、硫黄島要塞の詳細な図面を情報公開しろってやつだろう。公開した時点で、税金の無駄遣い決定なんだけどな。普通は、気が付くよな」
「今、国内では、そういう連中を虱潰しにつぶしていますよ。情報が筒抜けでは、作戦もクソもないですからね」
「日本が、戦争をする日が近いのか・・・・・・」
真田一佐は、最近のニュースなどを含む情報を思い出しながら、少し鬱になってしまう。
「戦争をするにしても、東アジア共和国の命令で日本国民を殺すのか、日本の国益のために殺すのか・・・・・・。俺にできる事は、パイロットを一人でも生き残らせるモビルスーツを作るだけか・・・・・・」
真田一佐は、一人考え込んでしまうのであった。
「各種の適正試験を受けてもらい、モビルスーツパイロットの適正がある者に半年の訓練を施し、訓練終了後に三尉の階級を与えます。他の適正がある者には、同じく訓練終了後に准尉の階級を与えます。当然ではありますが、訓練期間が短いので、空いた時間に補習を受けて貰いますが・・・・・・」
基地内にある大講堂では、中年の士官が、今日の説明会に集まった多くの学生に向けて、予備学生士官制度の説明を行っていた。
「昔とは違い、徴兵などではありませんし、パイロットの戦死率は、他国の状況を見ればわかる通りに最悪です。ですが、今の日本の状況に危機感を抱き、国を守るために多くの志願者が出る事を祈っています。次は、戦闘機パイロットからモビルスーツパイロットに機種転換訓練中の石原二尉にお話をしていただきたいと思います」
中年の士官に紹介をされた石原二尉は、壇上に立ち話を始める。
「どうも。石原二尉です。詳しい説明は事前に聞いていると思うので、同じ話を何度もクドクドとしません。何か質問がある方は、遠慮なく手を上げてください」
「はい!」
「はい。そこの君」
石原二尉は、緊張して大人しくしている学生達の中で、唯一元気に手を挙げた一人の眼鏡をかけた若者を指名する。
「適正試験に通れば、本当にパイロットにして貰えるんですか?」
「疑わしいのも仕方が無いだろうが、《新しい酒は新しい袋》いや、この際は逆かな?新しい兵器は、新しい兵士に任せるという事だな。実際のところ、陸海空の様々な兵科の志願者を軒並み試験してみたが、数の不足がどうにもならなくなってきた。これは、パイロットというものになりたい者にはチャンスかもな」
「納得しました」
「他には?」
「はい!」
「うん?さっきの人の隣の人か」
今度元気良く手を挙げたのは、先ほどの質問をした若者の隣の席に座っている茶髪の若者を指差す。
多分、何となく似ているので、二人は兄弟なのだろう。
「質問があります!」
「答えよう」
「給料の額なのですが・・・・・・」
「はっ?」
石原二尉は、若者の予想外の質問に驚きの声をあげる。
「取得できる資格を知りたいですし、有給休暇の日数や取得実績などを・・・・・・」
「自分も、やっぱりもっと聞きたいです!ボーナスは、いかほどで?」
「昇進の事なんですけど・・・・・・。防衛大学の卒業生とどれ程の差が・・・・・・?」
「各部隊における、女性比率などを教えていただけると・・・・・・」
先ほど質問をした若者も加わり、隣り合った二人は次々に質問を投げかけてくるが、その内容は凄まじいほどくだらなかった。
「君達。お茶でもどうだい?」
「「光栄であります!」」
「そんなに、しゃちほこばるなよ。敬礼も不要だぞ。まだ入隊していないからな」
説明会終了後、石原二尉は内容はくだらなかったが、元気良く質問をしてきた二人をお茶に誘う事にした。
何となく気になったのと、二人に良く似た顔をどこかで見た事があったからだ。
「コーヒーで良いよな?」
「はい」
「自分は、緑茶が良いです」
「わかった」
石原二尉達は、食堂で人数分の飲み物を頼んでから、端の席に座って話を始める。
「俺の名前は今更だな」
「石原首相のご子息の、石原二尉ですよね」
「まあな。それで、君たちは?」
「風間義成です」
「弟の風間義則です」
「うん?カザマ?」
「従兄弟が、ザフト軍でモビルスーツのパイロットをやっていました」
「思い出した!資料を見た事がある。《黒い死神》こと風間義弘に似ていたんだ。数回しか写真を見た事がないから、思い出すのに時間がかかったんだ。そうか。君達が志願してくれのか」
石原二尉は、首相の息子である事を鼻にかけて傲慢な事をする性格ではなかったが、その地位に比べ、各所から様々な情報が入って来易かった。
特に、最近訓練を開始したモビルスーツ関連の情報は、自分でも積極的に集めていて、自分の父親が彼の引き抜きを情報部に厳命し、情報部がその人選をしくじったせいで失敗したとかで、責任者が北海道の田舎に左遷されたと言う噂を聞いていたからだ。
「何か過剰な期待をしているようですけど、俺達はナチュラルですよ。カザマの一族で、コーディネーターはヨシヒロだけです」
「それでもいいさ。俺にはわかる。君達には、才能がありそうだ」
「どのみち。兄弟で志願する予定ですけど。なあ。義則」
「そうだな。兄貴」
「理由は無理には聞かないが、こちらとしては大歓迎だな。何しろ、《黒い死神》をオーブに取られてしまって、責任者の情報部の部長が、利尻の出張所で昆布漁を眺めているそうだ。モビルスーツ戦経験者確保に失敗した親父は頭を抱えていたが、こちらとしては自分達だけで何とかせにゃならん。将来有望そうな君達に期待するよ」
自衛隊情報部の部長は、風間義弘の引き抜きに立花ユリカとエミを選ぶという失態を犯し、その彼女達も、《ミイラ取りがミイラ》状態になってしまったので、責任を取らされて左遷されていたのだ。
「ありがとうございます。それと、俺は自分で確認したいんです」
「確認?」
「義弘は、反逆者として処分されるところを、反撃して多くの味方を殺して脱走したとか。俺はそれが事実なのかを本人に会って確認したい。そのために、同じフィールドに立つ事を決めました」
この頃になると、プラント政府の情報管理が緩くなっていて、カザマ反逆事件の情報は、一部マスコミやインターネット等に流出していた。
ここまで戦争が拡大し、多くの兵士が戦場に出るようになると、事件を起こす兵士など珍しくなかったのだが、《黒い死神》という二つ名を持つパイロットの事件はそれなりに目立ち、内容的に政治・経済のニュースになる事はなかったが、ミリタリーマニア等にはウケる筋の話で、その手の連中ではかなり広がっていた。
「現状で、普通にオーブに行っても会えないからな」
「叔父さんや叔母さんや他の従姉妹達まで、連絡を取るのが難しくなっていまして・・・・・・」
義成に続き、義則も言葉を続ける。
「仕方が無いさ。あの家の家族は、全員がオーブ軍情報部の保護対象なんだ。モビルスーツ開発、OSの開発、パイロット訓練の教官兼アドバイザー。日本が喉から手が出るほどに欲しい人材だ。だが、もうそれも適わないな・・・・・・」
石原二尉は、風間義弘に関する報告書の中身を思い出しながら話を続ける。
もし、自分があの境遇にいたら、彼と同じ選択をしたであろうし、今更戻って来いと言われても、首を縦に振らなかったであろう。
「しかし、君達はそれだけの理由で志願を?」
「当然、他にもありますよ」
「是非聞きたいものだね。風間義成君。風間義則君」
「ええ!あのヨシヒロにできる事が、自分達にできないはずがない!」
「あいつが家に遊びに来た時に、○ジンガーZや○ッターロボ。○ンダムや○ヴァ等の魅力を最初に教えたのは自分達です!」
「その大元の俺達が、巨大な人型兵器に乗る!」
「「男のロマンです!」」
「はあ・・・・・・(ジャパニメーションオタク・・・・・・)」
石原二尉は、少し呆れながら風間義弘の報告書のある一文を思い出していた。
趣味・・・・・・。アニメ鑑賞。
「(まあいいか・・・・・・。俺、相羽、太田、佐藤とこの二人でやってみるか。俺も無意味に死にたくないからな)」
この一週間後、多くの学生達が学校を休校して自衛隊に入隊し、日本の戦争準備は着々と進んでいくのであった。
(十二月上旬某土曜日、ヘリオポリスコロニー内、カザマ邸内)
「それじゃあ。先に行くよ」
「ああ」
今日の俺は、ローテーションの関係で訓練や任務等がお休みであったので、予てから約束していたカガリとのデートを楽しむ事にする。
実は学園祭が終わってからというもの、休みが合えば二人で出かける事が多かったので今更な気もしたが、外で待ち合わせるという《デートのルール?》を守る事にしていたのだ。
ただ、二人が正式に付き合っているかといえば、それは微妙な線であった。
どちらかが告白をしたわけでもないので、友達以上恋人未満の関係が続いていたからである。
「カガリ。また兄貴と出かけるの?」
「そうだ。今日から新しい映画が封切られるからな」
「素直にデートって言いなよ」
「デートじゃない!」
「わざわざ待ち合わせてかい?それに、ヨシヒロの方はデートだと思っているようだよ」
「ユウナ!ヨシヒロは、先にモルゲンレーテ社の方に所用があって・・・・・・。それで、出先で待ち合わせた方が早いからと・・・・・・」
「あのね。一ヶ月以上も同じ事をしていれば、バレて当然なんだけどね」
ユウナは、読んでいた朝刊を畳みながら呆れたように言う。
「えーーーっ!そんな前から二人は!」
「今になって気が付いたの?お父さん」
レイナは、かなり前から休日になると二人が出かけていたにも関わらず、今日になって初めてその事に気が付いた自分の父親に呆れてしまう。
「あのバカ息子・・・・・・。昨日言ってた通りに・・・・・・。カザマの家の終焉だな・・・・・・。俺は、ウズミ様に殺される!」
「大げさですね。カザマ部長・・・・・・」
極普通の庶民の反応を見せるカザマ部長に、ユウナは仕方がないとは思いつつも、少し大げさなのではないかと感じてしまう。
「カガリ様!あのバカに何かをされませんでしたか?」
カザマ部長は、とりあえずカガリに自分の息子に手を出されなかったかと聞いてみる。
考えてみればこれも随分と失礼な質問なのだが、カザマ部長はすっかり舞い上がっていて、その事に全く気が付いていなかった。
「いつも邪魔が入るからな。あの一件以来、キスすらない。クソっ!今日こそは!」
カガリは、自分に気合を入れると駆け足でカザマ邸を後にした。
「何たる事!これは、カザマの家の・・・・・・。ええい!偵察だ!」
「待ってください!」
「何だい?母さん」
「今日は買い物の日です。レンタカーを借りてきてください」
「明日に変更だ!」
「この大人数で、一日の猶予もなりません。車を借りてきてください」
「でも、カガリ様がな・・・・・・。それと、ヨシヒロも・・・・・・」
「いいから借りてきなさい!」
「はい!」
カザマ部長は、カガリに続いて駆け足で家を飛び出していく。
それと、なぜレンタカーなのかといえば、カザマ家の方針でもあったのだが、コロニー内でしか使用できないのに自家用車を持っている人は、基本的に少数で、ほとんどの人がコロニー内に置いてあるレンタカーを利用しているからであった。
「ヨシヒロが、誰と付き合っても関係ないのに。本当に、変な部分で小市民なんだから・・・・・・」
「そうよね。お母さん」
「それで、レイナは今日はどうするの?」
「キラとカナードとお出かけ」
「ふーーーん。(悪女ね。どちらかにしなさいよ・・・・・・)」
結局、学園祭時にレイナに告白するという二人の行動は失敗に終わり、二人はレイナを巡ってがっぷり四つの状態になっていた。
ただ、二人のあまりの迫力に、レイナに他の男性が近づいて来なくなった事だけが、唯一の朗報ではあった。
「カナは?」
「買い物よ」
「それで、僕が荷物持ちです」
「ユウナさんが?すいませんね」
「いえいえ。時間が空いていますから」
「そういえば、ギナさんの姿が見えないわね」
「ホー一尉と出かけるとかで、早めに家を出ましたけど」
「珍しい組み合わせね」
こうして、それぞれが週末の休日を楽しむ事になるのだが、なかなかすんなりと事が運ばないのが、この面子の特徴でもあった。
「待ったか?ヨシヒロ」
俺が待ち合わせ場所でカガリを待っていると、彼女が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「いいや。五分前じゃない。さて、早めに行っていい席を取らないと」
「そうだな」
「じゃあ。行くよ」
「うん」
俺は、手を握るといまだに恥ずかしそうにするカガリの手を取ってから、目的地である中心街の映画館に向かって歩き始める。
「なあ。ヨシヒロ。またあそこの所に・・・・・・」
「確かに・・・・・・。しかし、忙しい身にも関わらず、デートの度にご苦労さんだな・・・・・・」
俺とカガリの視線の先には、フードを深々と被った例のピンクの髪のお姫様がこちらの様子を伺っていた。
「なあ。一つ聞いていいか?」
「はい。何でしょう?ガイさん」
「これは、重要な任務なのか?」
ムラクモ・ガイは、自分の雇い主の奇妙な行動に少なからず疑問を感じていた。
以前に、彼女の護衛兼秘書のような仕事を行っていたダコスタ副隊長は、緊迫するアフリカ情勢に対応するために任務地へと戻り、彼の代わりにラクスの隣にいたのは自分だったからだ。
「他の時間は、それなりに重要な任務を仰せつかっている事は認めよう。だが、今日を含む週末に、一組のカップルを監視するこの任務。俺には、意義を見出せない」
「ガイさんは、彼らの正体をよくご存知のはずでは?」
「俺も裏の業界が長いからな。あの少女が、ウズミ・ナラ・アスハの娘のカガリ・ユラ・アスハである事は知っている。それに、あの男が《黒い死神》である事もな」
「まあ。お会いした事があるのですか?」
「《新星》攻防戦の際に剣を交えた事がある。俺は、名乗らなかったがな」
「そうだったんですか」
「その時は、東アジア共和国に雇われていたからな」
「それで、彼の第一印象は?」
「戦いの時には、容赦をしない男らしいな。あの時は、同じく雇われた凄腕の傭兵が何人か討たれた。俺に匹敵するプロのパイロットだ」
「そして、彼には不思議なカリスマがあります」
「カリスマ?」
「ええ。彼自身には、上に立つ能力や野心もないと思います。ですが、彼には多くの人が集まります。当然、彼のパートナーとなる人は、大きな仕事を成し遂げる事ができるでしょう。彼はそういう人です」
「それで、引き抜きを?」
「公私共に、私のパートナーとするためです!」
「俺の私見で悪いが、無理そうだぞ」
ガイの視線の先には、仲良さそうに話しながら歩いている二人の姿が目撃できた。
そして、それと同時に中心街に近いビルの影で奇妙な会話をしている二人は、平和なヘリオポリスでは目立ちに目立ちまくっていた。
「なあ。またラクス・クラインなのか?」
「キサカ一佐の命令だ。スパイ行為を働かなければ、監視するのみに止めよ。あの人も苦労症だよな」
「目的は、カザマ一尉か。見かけによらず女たらしなんだから」
キサカ一佐の命令で、入国したラクス・クラインの監視を続けている情報部員は、度々の下らない監視任務に気が抜けそうになるのであった。
「ご注文は?」
「ランチの焼肉セットを二つ」
「かしこまりました」
俺とカガリは新作の映画を楽しんだ後、近くの焼肉レストランで昼食を取る事にする。
だが、工業コロニーとして建設されたヘリオポリスの世間は狭く、中心街の娯楽施設等も少なかったので、周りは顔見知りばかりという状態に変化は無かった。
「いつも見知った顔ばかりだ。刺激が少ないよね」
「本当だな」
ウェイトレスに注文をしてから、カガリとお冷を飲みながら話をしていたが、周りの席には見知った顔ばかりであった。
「ラクス様といつもの護衛の男。監視の情報部員の二人も顔見知り。キラとカナードとレイナの三人。ユウナと今日はカナか・・・・・・。ユウナなら無料飯が食えるからな。そして、極めつけがギナ准将とホー一尉とユリカとエミか。毎度毎度、何をしているんだか・・・・・・」
お昼時の焼肉レストランは多くの客で混んでいたが、あの濃いメンバーが目立たないはずもなく、このような状態は、学園祭直後から珍しくもなく、俺とカガリとの関係がいつまでも完全に確定しない最大の理由には、こういう事情が存在していた。
「ガイさん。何を食べます?」
「《黒い死神》の監視と言っても、ただのデートじゃないか・・・・・・。何か虚しくなってきた・・・・・・。普通にランチで良い」
「なあ。最近、休みを取ったか?」
「取ってねえよ。しかも、休日出勤の大半が、入国したあのピンクのお姫様の監視だからな」
「いい加減に諦めたら良いのに・・・・・・」
「「レイナ!何を食べる?俺(僕)の奢りで!」」
「ええとねえ・・・・・・」
「ユウナさん。すいませんね」
「まさか、買い物まで奢らされるとは・・・・・・。物凄い散財だった・・・・・・」
「ギナ准将。悪いですね」
「お肉を沢山食べましょう」
「ギナ准将の奢りですわ」
「おのれら!毎週のようにたかりやがって!しかも、ユリカとエミは、金持ちだろうが!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ヨシヒロ。あいつがいないな」
「いるわよ。ヨシヒロさん。あなたの可愛い彼女のフレイ・アルスターですよ」
「やあ・・・・・・。フレイ・・・・・・」
そして、二人の関係の進歩を妨害している最大の原因その2は、フレイ・アルスター嬢の存在であった。
彼女は、学園祭後に俺への積極的なアタックを開始し、二人のデートを邪魔する事が度々であった。
「ヨシヒロさん。追加でお肉を食べますか?私が奢りますよ」
「いやね。何というか、女性に奢って貰うっていうのも・・・・・・」
「わあ。古典的ですね」
「俺は、古い考えの人間だから」
「でも、そういう男性も好きですよ。頼りがいがあるじゃないですか」
フレイはそい言いながら、俺の隣の席に座ってから腕を絡めてくる。
すると、彼女の標準を超える胸の感触が、俺の理性を少しずつ奪っていく。
「おい!フレイ!ヨシヒロが迷惑しているぞ!」
「そんな事はないですよね?」
「あのさ・・・・・・。俺よりも、サイと一緒に出かけないの?」
「聞いてくださいよ!サイったら、あの三人組と買い物に出かけてしまったんですよ!」
「ハーレム?」
「どうせ、ただの荷物持ちですよ」
「ふーーーん(サイのバカたれが!)」
どうやら、サイはマユラ達と買い物に出かけてしまったらしい。
サイはお金持ちの家の息子で、頭もルックスも良かったので、玉の輿を狙っている三人に集中的に狙われているらしい。
だが、三人で一緒にいる限りは、一人の抜け駆けは不可能であろうと思われる。
「とにかく!私達の邪魔をするな!毎週毎週、邪魔をしやがって!」
「あら。あなた達は、正式に付き合っているわけじゃないんでしょう?」
「お前の父親は、ブルーコスモスと繋がりがあるじゃないか!」
「パパはパパだし、私は私よ。それに、パパは外交官よ。色々な人達と接触があって当たり前よ」
「お前は、コーディネーターが嫌いなんだろう?」
「カザマさんは例外よ」
フレイは、そう言いながら腕を更に絡めてくるが、その胸の感触は、「気持ち良い」のただ一言であった。
「(ああ。久しぶりのナイスな感触。俺もご無沙汰だからな・・・・・・。でも、また進歩が無さそうだな・・・・・・)」
俺は対峙を続けるフレイとカガリを見つめながら、いつも通りの展開に密かに気を落とすのであった。
「お互いに牽制状態である事は好都合ですが、何かムカつきますわ」
「(なあ。俺の私見なんだが、あんたに可能性は無いと思うぞ・・・・・・。と言えない自分が悲しい・・・・・・)」
ガイは、本日数回目の溜息を付くばかりであった。
「ラミアス大尉。いえ。課長。わざわざスイマセンね」
「マードック曹長。いえ。主任。クリスマスでも奥さんやお子さんに会えないなんて大変よね。せめて、クリスマスプレゼント選びくらいはね」
本日のマリュー・ラミアスと途中から《G》の開発に関わるようになったコジロー・マードックは完全なオフで、ラミアスはクリスマスに家族の元に帰れないマードックのために、クリスマスプレゼント選びを手伝っていた。
「何せ、《G》はハード面は完成寸前ですけど、OSが厳しいですからね・・・・・・」
「言わないのよ。取り合えず、完成した《G》を《アークエンジェル》と共に月に輸送すれば任務は終了。先の事は、ハルバートン提督に任せるしかないわね」
「OSも、何とかしてくれるんですかね?」
「当ては、あるような事を言っていたわ」
「へえ。じゃあ。ハード面の完成に全力を尽くしますかね。ラミアス課長も、いつまでも妻子持ちのオジさんとデートじゃつまらないでしょう」
「あら?これって、デートなの?」
「そういう事にしておいてくださいよ。美人とのデートなんて、そう滅多にないんですから」
「お世辞を言っても、何も出ないわよ」
「お世辞では、無いんですけどね(不倫は、ありえなさそうだけどな)」
この日の二人は、平和そのものであった。
(同時刻、月面プトレマイオス基地司令室内)
「お呼びですか?ハルバートン少将」
「実は、大切な話があって呼んだのだよ。リー中佐」
「私は、少佐ですが・・・・・・」
「明日付けで昇進だ。新造戦艦の艦長が、少佐ではみっともないからな」
「自分がですか?」
プトレマオス基地司令兼月面方面軍司令官であるジークマイヤー大将は、久しぶりの休暇でこの場にいなかったが、参謀長兼第八艦隊司令という重責を担うハルバートン少将は、ヘリオポリスで建造中の新造戦艦《アークエンジェル》の艤装委員長に内定したイアン・リー少佐を呼び出していた。
「ヘリオポリスだ」
「噂には聞いています」
「では、そういう事だ」
「他の人事を、お聞かせ願えませんでしょうか?」
「副長は・・・・・・・」
「ナタル・バジルール少尉。入ります!」
二人の会話を中断するかのように、少し遅れてきた二十代半ばのショートカットの女性士官が入室してくる。
「(なかなかの美人だな。88点だ)」
リー少佐が不埒な事を考えていると、女性士官は敬礼をしながら自己紹介を済ませてから、自分の隣に立った。
「イアン中佐。ああ。まだ少佐か。副長のバジルール大尉だ。彼女は、士官学校主席の才媛だぞ。良かったな。変なオッサンではなくて」
「あの・・・・・・。自分は、少尉ですが・・・・・・」
今の自分の階級よりも、二階級も上の階級で呼ばれたバジルール少尉は、言葉を詰まらせてしまう。
「だが、来週で中尉に定期昇進する予定だったな。更に、その翌日に一階級昇進するだけの事だ」
「連合の階級制度も、アバウトになってきましたね」
「開戦から一年近く、多くの指揮官や士官が戦死したからな。そろそろ、即席教育のガキ共が大量に入隊してくるから、残っている者達の責任は重要だ。そのお駄賃という事だな。それに・・・・・・」
「それに、何ですか?」
「新造戦艦の副長だ。少尉や中尉ではな・・・・・・」
「そうですか」
「それと、ヘリオポリスで《アークエンジェル》と《G》開発に関わっているラミアス予備役技術大尉が、軍に復帰後に技術少佐に昇進してから、技術面でのサポートを担当する。他の人事は、まだ決まっていない。特にパイロット関係の人事は、ここで決めてもすぐに戦死という事もありえるからな」
「「了解しました!」」
「では、二人とも頼むよ。覚悟と準備は整えておいてくれ」
ハルバートン少将は、重要な話を終えてから二人を下がらせるのであった。
(十二月中旬、ヘリオポリスコロニー内、秘密格納庫内)
「やあ。カザマの若旦那。じゃなかった。アマミヤの若旦那だったな」
「何だ?若旦那って?」
「ロウったら、最近、時代劇のムービーに嵌っていて」
樹里の呆れたような視線を横に、俺は、七月のあの時から月に二〜三度は定期的に訪れる、ジャンク屋のロウ達ご一行を待ち構えていた。
「今日は、掘り出し物のオンパレードだぜ」
「悪いね。本当は、違反なんだろう?」
ロウ達が所属しているジャンク屋連合という組織は、宗教指導者であるマルキオ導師という怪しげなオッサンが結成し、完全なる中立組織として、戦場での遺棄兵器の回収と売却等を行っていた。
「本当は、元の所有者に売却ってルールだろう?」
「守っている奴は、相当の変わり者だな。商売なんだから、お金を一番出す連中に売る。当たり前の法則なんだがな」
マルキオ導師は、かなりの力量を持った指導者のようであるが、人の欲望の奥底までは想像できなかったらしい。
自分で利用しておいて言うのは悪いのだが、ジャンク屋が拾った兵器類は、金を出す様々な物騒な連中や海賊にも渡っていて、世界各地の治安を悪化させる要因にもなっていた。
「それで、オーブなの?」
「俺が窓口だが、他の連中のジャンクも預かっているからな。オーブは一番のお得意さんなんだよ」
「他の国は、どうなんだ?」
「地球連合の構成国は、モビルスーツ以外なら高く買ってくれる。モビルスーツは、そうでもないかな?プラントは、逆かな?ああ。最近、日本もお得意さんなんだよ」
「ふーーーん」
俺はロウと世間話をしながら、何となくではあるが、戦況や各国の戦備状況を推測していた。
「地球連合は、コーディネーターの傭兵用と研究用以外にモビルスーツを買ってくれないからな。これからは、わからないが」
「新規開発の噂が立っているからな」
「そうなれば、商売繁盛なんだがな」
多分、ロウはヘリオポリスの状況を察知しているようではあるが、お互いに真相を口に出さないようにしながら世間話をする。
「それで、今日の獲物は?」
「ああ。これだ。ジブラルタルかビクトリアへの輸送途中だったんだろうな。運搬していた輸送船の沈没で放置されていた、大気圏突入用の搭載カプセルだよ」
「中身は?」
「《ディン》、《バクゥ》、《ザウート》と、その他の付属品といったところだ。ほとんど無傷だぜ」
「買った!」
「毎度あり!」
「悪いけど、運んでおいてくれるかい?」
「サービスの一環だな」
ロウが、作業用に使っている《ジン》を使ってモビルスーツを運び込んでいる現場を見ていると、なぜかその場にジュリが姿を現した。
「ジュリ。訓練は?」
「終了しましたよ。アマミヤ教官。こんにちは。ロウさん」
ジュリは、ここ数ヶ月で顔見知りになったロウに、愛想良く話しかけていた。
「やあ。こんにちは。ジュリさん」
「ロウさん。この後にお茶でもどうですか?」
「悪いね。是非参加させていただくよ」
「(おい!ジュリは、サイ狙いじゃなかったのか?)」
「(選択肢の拡大ですよ。それに、私はやっぱり活動的なロウさんの方が、タイプなんですよね)」
「(この悪女が!)」
俺が小声でジュリに尋ねると、彼女からとても強かな答えが帰ってくる。
だが、その様子を伺っていたロウの仲間である樹里ちゃんの様子が目に見えて急降下していく様子も確認できた。
「ジュリさん!ロウは、忙しい身なんです!そんな時間の余裕はありません!」
「でも、本人は良いって言ってますよ」
「ロウ!次の依頼者の元へ急ぐわよ!」
「わかったよ・・・・・・。悪いねジュリさん。次の予定がさ・・・・・・」
ロウは、樹里の迫力にジュリの誘いを断ってしまう。
「(ロウ。お前も大変だな)」
「(アマミヤの若旦那ほどじゃないさ。噂は聞いているぞ。オーブのお姫様。プラントのお姫様。大西洋連邦のお嬢様だって?)」
「(知ってたのかよ!ロウは)」
「(俺よりご愁傷様じゃないか。せいぜい頑張ってくれよ。アマミヤの若旦那)」
俺は、逆にロウに小声で慰められてしまうのであった。
(十二月二十四日、ヘリオポリス工業カレッジ内)
「今日は、クリスマスイブですね」
「ああ」
午前中のおやつの時間に、俺とキラは休憩のために食堂でコーヒーを飲んでいた。
本当は、学園祭時のラクスのキスのせいで、ここの学生達に目の仇にされていたので来たくなかったのだが、どうしても外せない用事があったので、仕方が無かったのだ。
「こんな日に仕事をする奴は、不幸かバカかのどちらかだ。俺は午後からお休みだ!」
「カガリとデートですか?」
「レイナを誘い出せたのか?」
「ううっ!またカナードが邪魔をしまして・・・・・・。カザマ家でパーティーですよ」
「せいぜい、プレゼントで差を付けるんだな」
キラとカナードのレイナを巡る攻防戦は完全に膠着状態になってしまい、三人でいる事が更に多くなっていた。
しかも、二人が喧嘩をするとレイナの機嫌が悪くなるので、表面上は仲良くしなければならないないという、非常に奇妙な状態に追い込まれていた。
ただ、本当は仲が悪いのかと言えばそういう事もなく、意外とこの凸凹コンビは気が合うようであった。
「どうせ、ラクスさんとフレイにストーカーされるんでしょう?」
「それを見越しての、カザマ家でのパーティーだ・・・・・・」
「大変ですね・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
「それじゃあ。帰りますか」
「そうだな」
俺とキラが、早めに仕事を切り上げてカザマ家に帰ると、そこではお馴染みの女性陣がクリスマスパーティーの準備をしていた。
「やれやれ。恋人同士のスウィートパーティーを行うカップルは不在なのかね?」
「あっ!お兄さん。キラ。お帰り。ミリィとトールなら、こっちには不参加よ」
パーティーの料理の準備をしていたレイナが、俺の発言を聞いて唯一の例外を教えてくれる。
「あの二人はな。仲も良いし、お邪魔虫も存在しないし」
「兄貴。ツリーの飾り付けの人員が足りない」
「へいへい。了解。キラ。行くぞ」
「はい」
俺とキラが、何の飾りも付いてないツリーに飾り付けを開始すると、急に後から誰かに抱きつかれる。
「えっ!どういう事?」
「ヨシヒロの将来の妻のラクスですわ」
「私には、そういう予定は無いんですけど・・・・・・」
「私の予定では、決定事項ですわ」
俺は背中に感じる二つの柔らかい感触を密かに楽しみながら、(別にラクス・クラインは貧乳というわけでもなかった。ただ、俺の周りに巨乳が多いだけだ)表面上は冷静に彼女と話をしていた。
「あーーーっ!私の彼氏に手を出さないでよ!」
「フレイ・・・・・・」
そして、更に間の悪い事に、その場にフレイが現れてラクスの行動を咎め始める。
「あんたみたいな貧乳に抱き付かれても、ヨシヒロさんは嬉しくないわよ!」
「フレイさんは、乳牛のような胸が自慢のようですが、私は標準ですし、形では勝っていますわ」
「そんな事、実際に見てみないとわからないわよ!」
「では、ご確認くださいな。ヨシヒロ」
「何で、ヨシヒロさんが確認するのよ!」
「女性に胸を見せる趣味は、持ち合わせておりませんわ」
「私も女性の胸を見る趣味なんて持ってないわよ!」
「あれ?またですか?」
俺が二人の争いを傍観していると、(仲裁に入っても碌な事がない事は、確実であった)今日の訓練を終えたアヤが入ってくる。
いつもは、モルゲンレーテ社が用意した宿舎に泊まっている彼女も、パーティーに参加するために家に来たようだ。
「ああ。アヤか。みんな。訓練は終わりかな?」
「今日は、クリスマスイブですからね。ところで、またですか?」
「これで、カガリが加わったら・・・・・・」
「あーーーっ!この女狐達がーーー!」
「加わりましたね」
「だな」
俺は三人の女の争いになったこの状況を眺めながら、アヤやキラと無気力にツリーの飾り付けを続けるのであった。
「あのーーー。あなたは?」
「ラクス・クラインの護衛の者だ」
「色々と大変ですね」
「ああ。本当に大変なんだ・・・・・・」
一人蚊帳の外に置かれていたガイは、唯一その存在に気が付いて貰えたキラに心の底から同情されていた。
「みんな。暇だよな。乾杯!」
「「「「「「「「「「大きなお世話だ!(よ!)乾杯!」」」」」」」」」」
時間は夜になり、パーティーの準備を終えた俺達は乾杯をする。
「ギナ准将。ユウナ。お酒の提供に感謝しますよ。《ドンペリ》最高!」
「そんなに高い物でもないぞ」
「ギナ准将。俺は庶民なんで、これで十分に幸せなんですよ」
「カガリと結婚すれば、毎日飲めるよ」
「ユウナ。高い酒は、たまに飲むのが良いんだよ」
「そうですわ。それに、私と結婚しても毎日飲めますわ」
「私と結婚してもそうよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ユウナ。恨むよ・・・・・・」
ユウナの結婚発言に吸い寄せられるように、ラクス、フレイ、カガリが俺の周りに集まってくる。
「ごめんね。ちょっと、羨ましかったからね」
「ちょっとなの?」
「今の君を見ているとね・・・・・・」
確かに、ユウナの言う通りであった。
周りからは、美女三人に迫られて羨ましいと思われている俺であったが、本人からすれば迷惑この上なかったのだ。
特に、ラクス・クラインのしつこさは本物で、最近、彼女の護衛を仰せつかっているサングラスのお兄さんも、自身のアイデンティティーを見つめ直す機会が増えているようだ。
「風花・・・・・・。この契約は明らかに失敗だ・・・・・・。だけど、違約金を払う余裕も無いし・・・・・・」
ガイは、大量の酒をあおりながら一人呟いていた。
「あれ?カガリちゃん。一人?」
「ああ。でも、ヨシヒロも大変だよな」
「言わないでよ・・・・・・」
俺がラクスとフレイを振り切って庭に出ると、そこでは先にカガリが空の景色を眺めていた。
夜のコロニーは、そこに住んでいる人達の精神安定のためにプラネタリウムのような仕組みになっていて、オーブ本国と同じような星座が見えるようになっていた。
「改めて見ると綺麗だね」
「人工の景色だけどな」
「人工でも、綺麗なら良いさ」
「それもそうか。ところで、大丈夫なのか?」
「何が?」
「ラクスとフレイだよ」
「あの護衛の兄ちゃんとサイに任せてきた」
「護衛の・・・・・・。ああ。キサカが、《伝説の傭兵》だって言っていたぞ」
「《伝説の傭兵》!あの兄ちゃんが、ムラクモ・ガイなの?」
俺は、戦場で伝説になっている彼が、ラクス・クラインのストーカー行為の付き合いをさせられている事に少なからずショックを受けていた。
「あのラクスって娘は、見た目と実情がかなり違うみたいだな」
「みたいだね・・・・・・」
「大変だな。ヨシヒロは、婿候補らしいぞ」
「婚約者がいるっていう話なのに・・・・・・」
「ああ。アスラン・ザラだっけか?」
「この前、写真を見たけど、なかなかの美男子じゃないか。何が不満なんだろうね?」
「オデコが広い。将来ハゲそうだ」
「実は、ホモだとか・・・・・・。まあ、会った事も無い奴なんてどうでも良いけどさ。カガリちゃん。はい。これ」
「これは?」
「クリスマスプレゼントだよ」
「いつの間に、準備していたんだ?」
「ラクスやらフレイの目を盗んで買うのが大変だった・・・・・・」
「ありがとう。開けていいか?」
「どうぞ」
カガリがプレゼントの包みを開けると、そこには指輪が入っていた。
「えーーーと。プラチナリングか?」
「カガリちゃんは、お転婆だからね。宝石付きの指輪は危険だろうから、シンプルなものにしたよ。付けてあげるよ」
「変なところで気を回すんだな」
俺は、カガリの右手の薬指にリングをそっとはめる。
「ありがとう。大切にする。実は、私からもプレゼントがあるんだ」
カガリはそう言うと、自分の首にかけていた何かの石が付いたペンダントを、俺の首にそっとかけてくれた。
「ハウメアのお守りだ。ヨシヒロが、将来危険な戦場に出ても、絶対に帰ってきますようにって」
「ありがとう。ハウメアって、オーブの神様だっけ?」
「ヨシヒロは、一応はオーブ国民なんだからさ」
ハウメアの神は、オーブ本国のある島に住んでいた原住民達の土着の神への信仰を、近代国家向けに進化させたものらしく、オーブ本国では最もポピュラーな神であった。
特に厳しい戒律などが存在しない事も、人気の理由のようだ。
「信教の自由は保障してよ」
「ハウメアの神は、そんなに狭量じゃないさ」
「そうか。ありがとうね。カガリちゃん。俺は死神だからね。死なないのが決まりなんだよ」
「信じているけど、心配だから・・・・・・」
「カガリ・・・・・・」
俺とカガリが良い雰囲気になりかけたその時、やはり場所の関係で乱入者が入ってくる。
「カガリ!抜け駆けは無しよ!」
「フレイが、邪魔をしているだけだろうが!」
「そんな事はないですよね。ヨシヒロさん」
フレイがいつものように腕を絡めてきて、俺の腕に当たる胸の感触と戦っていると、更にピンクのお姫様も乱入してきた。
「まあ。フレイさん。下品な誘惑はお止めくださいな」
「下品とは失礼ね!」
「下品なものは下品ですわ」
「五月蝿いわね!このピンク女!」
「あーーーあ。また、何の進歩も無しか・・・・・・」
それでも、カガリが俺から貰った指輪を嬉しそうに見つめている光景を見るだけで、俺の心は満たされていくのであった。
(同時刻、某宙域、ナスカ級高速戦艦「ダリ」艦内)
「クリスマスなのに、メッセージもプレゼントも無し・・・・・・。俺の立場って?」
クリスマスイブの時を、待機任務で過ごしていたアスランは、婚約者から何の音沙汰もない事に大きなショックを受けていた。
「アスラン。ラクスさんは、お忙しい身ですから」
「俺は、プレゼントを贈ったのに・・・・・・」
「何を贈ったんですか?」
「ハロ・・・・・・」
「僕は、お互い様だと思います」
アスランの答えを聞いたニコルの答えは、辛辣そのものであった。
「それで、ヘリオポリスの状況は?」
「既に、ヘリオポリスだけではありません。オーブ国内の数ヶ所の拠点でモビルスーツの量産とパイロットの訓練が行われています」
アスランが盛大に落ち込んでいたその時、《ダリ》のブリッジでは、マーレ・ストロードが腹心の部下からの報告を受けていた。
「カザマの野郎!俺に素直に殺されていれば良いものを!」
マーレの部下は、上官の激怒ぶりに多少の理不尽さを感じつつも、表情を変える事をしなかった。
もはや、余計な忠告や意見は、自分の寿命を縮める行為でしかなかったからだ。
「もはや、ヘリオポリスだけの問題ではないのですが・・・・・・」
「だが、ヘリオポリスにいる奴が計画の頭だ。それを潰す俺の計画に変わりはない」
「でも、問題になりませんか?下手をすると、軍法会議ものですよ」
常識的に考えて、中立国のコロニーを無断で攻撃すれば、普通の軍人であれば厳罰を受けてしまうのが当然の事であった。
マーレの部下は、上官の心配よりも、とばっちりを受ける自分の心配をしていた。
「俺が誰の指揮下にいると思う?」
「後方にいるクルーゼ隊長です」
「俺が暴走をして、誰が一番厳罰を受けると思う?」
「クルーゼ隊長です」
「この厳しい戦局で、大量の軍人の処罰は容認できない事実だ。理解したか?」
「まさか!クルーゼ隊長に全ての責任を?」
「これは、出来レースなんだよ。ザラの子飼いのクルーゼを追い落として権威を失墜させ、エザリアを強硬派ナンバーワンの実力者に据える。俺は、エザリア派の有力な幹部に横滑りする。イザークの命運を握っているのは俺。アスランは、自分の父親の権力低下を補うために俺に逆らわない。そういうシナリオなんだよ。だから、心配するな」
「ですが、あれほどの実力者であるクルーゼ隊長を・・・・・・」
「ふん!戦国時代じゃないんだ。一人の指揮官で戦況が変化したりするものか。クルーゼの子飼いの連中は、従順な連中だけ登用して、反抗的な奴は左遷すれば良いさ。最前線で使い潰すという手もあるしな。それで、ヘリオポリスの状況は?」
「潜入した工作員の帰還率は三割を切る厳しさですが、情報の入手には成功しています。モルゲンレーテ社では、大西洋連邦からの依頼で五機の通称《G》と呼ばれる新型モビルスーツの開発が行われています。完成度は、97%を超えたそうです。それと、それを搭載する《アークエンジェル》と呼ばれる戦艦が98%の完成度です。オーブは、新型量産モビルスーツの試作機と、信じられない事ですが、ナチュラルでも使えるOSが一応の完成をみたと・・・・・・」
「大西洋連邦は、ハード面だけ。オーブは、実戦投入間近か・・・・・・か」
「ええ。大西洋連邦軍の新型は、何かの間違いでコーディネーターが乗れば脅威です。オーブは、交戦国がないだけですね」
「破壊だな」
「奪取はいたしませんので?」
「破壊だ。変に欲をかくと作戦は失敗するからな。ザフト軍のマークを消したモビルスーツ隊で襲撃をかける。コロニー本体の破壊は禁止だが、モルゲンレーテ社の全施設と社員。隣接するカレッジの研究者と学生。それに、所属を問わず軍に関係ありそうな物を全てだ。モビルスーツの開発・生産・人員訓練能力の全破壊を作戦の柱とする。勿論、モビルスーツもだ」
「理解はできますが、国籍マークを消しただけで正体を隠せますか?」
「俺は、クルーゼの命令でこの作戦を実行しているからな」
「・・・・・・・・・・・・」
マーレの部下は、自分の上司の魂胆に恐怖を感じた。
つまり、すぐにバレる姑息な偽装工作をわざと行ってから、その立案者をクルーゼ隊長にしてしまう計画だという事をすぐに察知したからだ。
「戦力が足りないので、後方にいる《ガモフ》をクルーゼから借りる。理由は、後日に予定されている《アルテミス要塞》攻略作戦に向けた訓練のためという事だな」
「了解しました」
「それと・・・・・・。近くにいる彼の隊も呼ぶか。彼は、こちら側の考えの人間だからな」
「それで、作戦の実施時期は?」
「12月31日の今年最後の日だ!今年最後に、カザマの死という最高のイベントを迎えられるわけだな。ざまあみやがれ!カザマ!」
マーレは《ダリ》のブリッジ内で、狂ったように笑い続けるのであった。
(十二月三十一日早朝、カザマ視点)
「《シグー供佞癲△茲Δ笋体に馴染んできたかな?」
「一部のエースにしか使えない、完全なカスタム機だけどな」
その日の事は、今でもよく覚えている。
明日は新年という事で、ヘリオポリスコロニー中がお祝いムードに包まれていたなかで、俺と親父は、最新の調整を終了させた《シグー供佞離灰奪ピット内でとりとめのない話をしていた。
「これの性能って、《G》や《M−1》と比べてどうなの?」
「純粋に機械のスペックでは、向こうの方が上さ。向こうは最新型だし、《G》はフェイズシフト装甲を装備しているからな」
「機械では?」
「兵器としてみれば、お前用に調整がされていて完成度の高い《シグー》の方が上だよ。こいつは、ザフト本家の《シグー》に劣るものではない」
「なるほどねぇ」
「ところで、みんなはどうしたんだ?」
「どうもこうも。これから訓練開始だよ」
「大晦日にご苦労な事だな」
この時間は、多くの訓練生達が訓練前の自分の機体の調整を行っていた。
「キラやレイナ達は?」
「カレッジで雑用」
「カナードは?」
「《ブラックフレーム》の調整」
「カガリ様は?」
「ユウナと一緒に、キサカ一佐と司令部でお勉強」
「本当にご苦労・・・・・・・・・」
「アマミヤ教官!大変です!」
「どうした?」
俺と親父の会話を中断するかのように、一人の若い士官が俺達の足元に血相を変えて飛び込んできた。
「偵察に出ていた二個小隊の《ジン》部隊が、連絡を絶ちました。それに、Nジャマーの影響と思われる電波妨害が増大中です!」
「何ぃ!」
俺は、久しぶりに背中がゾクっとする感覚に見舞われた。
これは、以前に初めて実戦に出た時と同じ感触だ。
「親父。こいつに実戦用の装備を・・・・・・」
「おい!まさか!」
「キサカ一佐。聞こえますか?」
「ああ。大変な事に・・・・・・」
「全訓練生の機体に実弾を装備!ギナ准将とカナードに!・・・・・・うわっ!来たな!」
俺が全てを語りきらない内に、コロニー全体に複数の爆発の衝撃が走り、遠くから多数の銃撃が聞こえてきた。
「《ジン》の重突撃銃か!カナード!ギナ准将!」
「とりあえず、カナードと《ジン》で迎撃しているが、数が多過ぎて自分で精一杯だ」
「どこで迎撃しています?」
「コロニーの宇宙側の入り口だ。スマン。十機ほど内部に侵入された!」
どうやら、ギナ准将とカナードは、調整途中で性能の安定しない自分のカスタムフレームを諦め、一番確実な《ジン》で出撃したらしい。
「カザマ!確認できるだけで、《ジン》が十機以上。推定でその三倍の敵機が稼働中と思われる。こりゃあ、未熟な訓練生ではなぶり殺しだぞ!」
「完全に裏をかかれた!」
俺は怒りに身を任せて《シグー供佞離灰鵐宗璽覯萍未鯲惑い擦肪,、すぐに気を落ち着かせてから師団司令部との通信を再開する。
「キサカさん!訓練生達は?」
「ギナ准将とカナードは、多くの敵と交戦して苦戦中だ。あっ!今、ホー一尉が合流したようだな。更に数分後にユリカ三尉とエミ三尉が合流するようだ」
「内部の訓練生達は?」
「駄目だ。五分も経たない内に、三十七機中十二機の反応が消えた」
「ちっ!先日送り出した連中がいれば!」
敵がこの時期を狙ったのかどうかは不明だが、この時期のヘリオポリスの戦力は最低ラインにあった。
先週末に、数ヶ月の訓練を終了させた多くの訓練生を本国や《アメノミハシラ》に送り出していて、年明けに新しい訓練生達が来るまでは、四十名ほどの技量未熟な訓練生達と、それなりに訓練を積んだ、即席教官達だけだったからだ。
「教官達は?」
「自分の身を守るので精一杯らしい・・・・・・」
数ヶ月前まで自分達も訓練生だった教官達は、一部が気を利かせて訓練生達を連れて逃げ回っているらしいが、大半は自分の身を守るので精一杯だった。
ちなみに、義務感の強い一部の教官達がバカ正直に迎撃して、数機が撃破されてしまったようだ。
「それで良いです。民間人を優先に、人員の避難を優先させてください。施設は二の次です」
「カザマ!お前!」
「人がいなければ、再建なんて不可能ですよ!それに、ここが全壊しても、本国と《アメノミハシラ》が残っています!人員の安全を最優先に!」
「了解した」
「それと、カガリとユウナは、絶対に出さないように!」
「それは、当然の事だな」
俺は、キサカ一佐に念を押しておく。
もし、二人が戦死なんて事になったら、大変な事になってしまうからだ。
ちなみに、ギナ准将は別枠であった。
そもそも、彼が俺の命令を聞いて出撃を控えること自体がありえない事だからだ。
「教官!」
「何だ?カガリ」
「いや・・・・・・。別に・・・・・・」
カガリはいつもの俺だと思って話しかけてきたようだが、久しぶりの実戦でピリピリしている俺に違和感を感じたのか、すぐに会話を止めてしまう。
「二人は、そこでキサカ一佐の指揮を見ている事。わかった?」
「わかった」
「あの・・・・・・。ヨシヒロ・・・・・・」
「どうした?」
「無事に帰ってきてくれよ」
「大丈夫だよ」
「ヨシヒロ!実弾と実剣の装備を完了させたぞ!」
俺は一瞬だけ、いつもの口調でカガリに返事をしてから、《シグー供佞鵬个鯑れた。
「親父も避難していろ!親父は死ねない身なんだからな!」
実は、他のどの軍人達などよりも、モビルスーツ開発の指揮を執っている親父は絶対に失えない人材であった。
「母さんは、大丈夫だろうか?」
「ちゃんと、避難しているさ!俺も様子を見にいくしな!ヨシヒロ・カザマ行くぞ!」
俺は、ギナ准将たちの懸命の防戦でこう着状態になっている外よりも、更に多数の敵機が侵入して大きな混乱に巻き込まれているコロニー内部に向けて《シグー供佞鯣進させるのだった。
俺がヘリオポリスに来て半年あまり、平和だった時間は終わりを告げ、死神を再び戦場へと誘うのであった。
あとがき
俺がこれを書いている事を知っている友人との会話。
「また種?他の作品がいいよな」
「他の作品?」
「そうだ。他の、なかなか二次小説が存在しない作品だ。例えば!」
「例えば?」
「キングゲイナー」
「聞いた事がないな・・・・・・」
「バイファム」
「後日談的な物が、ない事もないけどね。借りたDVD面白かったよ」
「ボトムズ」
「割り込めるか!あんなニヒルな作品に!」
「ダグラム」
「あんな完成度の高い作品。不可能だ」
なんで。
暫くはこれ一本で・・・・・・。