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『麻帆良の守護者』 第一話『桜通りの吸血鬼』
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》》Nekane
日本にいるネギから、手紙が届きました。
手紙を広げてから片隅に指をおくと、スーツを着たネギの姿が手紙の上に浮かび上がってきました。
『ネカネお姉ちゃん、お元気ですか?
日本に来て、もう二ヶ月が過ぎました。
今までは教育実習生という立場だったのですが、この四月からは麻帆良学園の正式な教員になる
ことができました。
先生という仕事はたいへんですが、毎日が新しい発見の連続で、やりがいを感じます。
クラスの生徒は、皆さん個性的な人たちばかりですけど、毎日を本当に楽しくすごしています。
……
ですが、残念なお知らせが一つだけあります。
六年前、僕とお姉ちゃんを助けてくれた、ヨコシマさんについてですが、未だに消息がつかめて
いません。
麻帆良学園の学園長さんは、とても顔が広い方なのですが、その学園長さんも心当たりがないと
言っていました。
けれども、僕はあきらめません。
あの時はよくわからなかったのですが、無詠唱で悪魔を倒し、さらには石化まで解いてしまう
すごい魔法使いなのですから、きっとこの日本のどこかに知っている人がいると思うからです。
いつか再会できたら、心からお礼を言いたいと願っています。
それでは、お姉ちゃんもお元気で。ネギより』
久しぶりに見たネギの姿は、とても生き生きとしていました。
イギリスを出発する時は、まだまだ子供だと思っていたのですが、しばらく見ない間に少しだけ大人になったようです。
ですが、ヨコシマさんの行方がわからないことは、とても残念でした。
お礼を言いたいのは、ネギだけでなく私も同じ気持ちです。
あの方のお陰で、今の私があるのですから。
》》Negi
新学期早々、事件が起こりました。
クラスの生徒の佐々木まき絵さんが、桜通りで寝ている所を発見されたのですが、彼女から魔法の力を感じたのです。
事件の臭いが感じられたので、その日の晩に自主的にパトロールすることにしたのですが……
「キャアアアッ!」
早速、誰かの悲鳴が聞こえてきました。
この声は! 出席番号27番、宮崎のどかさんの声です。
杖にまたがって現場に急行したのですが、すると倒れているのどかさんの近くに、黒いマントを着た怪しい人が立っていました。
「ぼ、僕の生徒に何をするんですか!」
宮崎さんを助けるために、相手を捕らえる魔法の呪文を唱えます。
「風の精霊11人(ウンデキム・スピリトウス・アエリアーレス)
縛鎖となりて(ウィンクルム・ファクティ)敵を捕まえろ(イニミクム・カプテント)
魔法の射手(サギタ・マギカ)・戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!」
「もう気づいたか……氷盾(レフレクシオー)」
相手の前に鏡のような物が出てきて、僕の出した魔法が跳ね返されてしまいました。
相手は……魔法使い!?
「十歳にしてこの力……さすがに、やつの息子だけのことはある」
「誰ですか、あなたは!」
黒いマントの下から現れたのは、長い髪をした女の人でした。
背は高く、大人の男の人と同じくらいあります。
「どうして、僕と同じ魔法使いなのに、こんな悪いことを!」
「この世には、いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ・スプリングフィールド君」
女の人が、液体の入ったガラス瓶を投げました。
これは……ひょっとして魔法薬!?
「氷結(フリーゲランス)武装解除(エクサルマティオー)!」
「うわっ!」
大急ぎでレジストしたのですが、完全に防ぐことはできませんでした。
僕は無事だったのですが、一緒にいた宮崎さんの服が氷に変化して、砕け散ってしまいました。
「なんや、今の音?」
「あっ、ネギ!」
声のした方を振り向くと、寮で同室のアスナさんとこのかさんが、駆け寄ってきました。
「ま、待て!」
横を向いたわずかな間に、宮崎さんを襲った女の人が遠くに移動していました。
「アスナさん、このかさん! 宮崎さんを頼みます!」
気を失っていた宮崎さんをアスナさんたちに任せて、僕は女の人を追いかけました。
全力で追いかけているうちに、女の人は歩道橋の上から空に飛び上がります。
杖も箒もなしに空を飛ぶなんて、ちょっと驚きです。
僕も女の人の後を追って、空に上がりました。
「もう、この辺でいいだろう」
しばらくすると、女の人が寮の建物の屋根の上に降りました。
僕も少し離れた場所に、着地します。
「あなたは誰ですか! それに、なぜ女の子を狙うんです!?」
「そんなことはどうでもいいだろう。
それより、ネギ先生。おまえは、父親について知りたくないのか?」
その言葉を聞いて、思わずハッとしました。
さっきもこの人は、僕のことを「やつの息子」と言いました。
ひょっとしたら、この人はお父さんの消息について、何か知っているのかもしれません。
「私を捕まえられたら、教えてやるよ」
「その言葉に、嘘はないでしょうね。
風の精霊11人(ウンデキム・スピリトウス・アエリアーレス)
縛鎖となりて(ウィンクルム・ファクティ)……うぐぐぐ!」
突然、背後から首を絞められました。
喉を押さえられて、声が出ません。
「紹介しよう。私のパートナー、絡繰(からくり)茶々丸だ」
喉を押さえていた腕の力が、少し緩みました。
その緩みを利用して、首を横に振り向かせると、そこには出席番号10番の茶々丸さんの姿がありました。
「……ふふふふ。ようやく、この日が来たか。
おまえがこの学園に来てから、今日という日を待ちわびていたぞ」
女の人が、僕の顔を見てニヤリと笑います。
「おまえが学園に来ると聞いてからの半年間、危険を冒してまで学園生徒を襲い、血を集めた甲斐
があった。これでやつが私にかけた呪いも解ける……」
「えっ……の、呪い!?」
「このバカげた呪いを解くには、やつの血縁者であるおまえの血が、大量に必要なんだ。
悪いが、死ぬまで吸わせてもらう」
女の人が口を開くと、そこには大きな日本の犬歯が見えました。
「茶々丸、動かないように押さえろ」
「はい、マスター」
茶々丸さんが、僕の体を力強く押さえます。
そして、女の人が一歩ずつ近づいてきたとき、空からヒュルルルル…と、何かが落ちてくる音が耳に入りました。
》》Yokoshima
気がついた時、眼下にはどこかの施設らしき広大な敷地が広がっているのが見えた。
上を見上げると、大きな満月が夜空に明るく輝いている。
もう一度下を見ると、真下に大きな建物の屋根が見え、しかもそれが視界の中で少しずつ広がっていた。
頬にあたる風が、少々冷たく感じる。
状況をまとめると、俺は空中にいて、しかも盛大に落下中というわけだ。
「な、何がいったいどうなっとるんや~~!」
意識が戻ったら、空中に放り出されていたというのはさすがの俺も初めての経験だ。
マリアと一緒に大気圏突入をした、過去の記憶が一瞬脳裏をかすめる。
でも、今はそのマリアもいないわけで、自分で何とかするしかないわけだが、
「文珠が出ねえええっ!」
ちくしょう! 肝心な時に品切れかよっ!
さすがの俺も、この高さから地面に激突したら、生きている自信はない。
つまり、どうあっても、文珠の助けが必要だ。
幸いなことに、ここは空の上で周りには誰もいない。
つまり、アレをやっても、誰からも後ろ指をさされることはないわけだ。
「いくぜ! シーケンススタート!」
俺の心象風景に、三人の女性のシルエットが浮かび上がった。
最初は輪郭だけだったが、体や顔の表情が少しずつはっきりと見えてくる。
「巨乳のルシオラ!
ツンデレのツンのとれた美神さん!
ネコ耳ナースなおキヌちゃん!」
きた……きたきたきた、萌えてキターーー!
「今だ! 煩悩全開!」
魂の中から湧き上がった霊気が、俺の体中を激しく回る。
やがて俺の手のひらの中に、文珠が一つ握られていた。
》》Negi
風切り音が大きくなったと思ったら、数メートル先の屋根に誰かが落下しました。
ですが、屋根が大きく凹んだと思ったら、落下してきた人がボヨンと跳ね上がり、僕たちの方に飛んできました。
「わああっ!」
ですが、その人は、僕の首筋に噛み付こうとした女の人にぶつかりました。
女の人は、その人の下敷きになってしまいます。
茶々丸さんも、とっさの出来事に手が出ませんでした。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですか、マスター?」
茶々丸さんと僕は、屋根の上に倒れている二人に声をかけました。
二人とも、手がピクピクと動いているところを見ると、とりあえず命に別状はないようです。
「あー、死ぬかと思った」
空から落ちてきた人が、急にガバッと体を起こしました。
あれ? この人、どこかで見覚えがあるような……
「なんてこったい! 成り行きとはいえ、幼女を押し倒しちまったとは……」
あっ! この顔は、出席番号26番のエヴァンジェリンさんです!
「おい、おまえ。さっさと私の上からどかんか」
男の人がびっくりしたような顔をしながら、エヴァンジェリンさんの上から立ち上がりました。
「じゃあ、さっきの女の人は……」
「そうだ。あれは私だよ」
エヴァンジェリンさんは立ち上がると、僕の横に立っていた男の人をジロリと睨みました。
「フン! 今日はとんだ邪魔が入ったな。今晩はこれで失礼するよ、ネギ先生」
そういうと、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんの二人は、空を飛んで去っていきました。
「おまえ、ひょっとして、ネギ・スプリングフィールドか?」
僕と一緒にこの場に残った男の人が、僕に尋ねました。
「はい、そうですけど」
「そっか。ずいぶん大きくなったなあ。俺のこと、覚えてるか?」
そう言うと、男の人は僕の肩に手を当てて、ポンポンと叩きます。
とっさのことで驚きましたが、男の人の顔をじっと眺めているうちに、ようやくこの人が誰なのか気づきました。
「あの……もしかしたら、ヨコシマさんでしょうか?」
「そうだよ。あの時、魔法使いの村で、おまえとネカネちゃんを助けた横島だよ」
思わず僕は、その場で飛び上がってしまうほど、喜んでしまいました。
ずっと、ずっと探していた人に、ようやく出会えたのですから!
(続く)
【後書き】
前回の感想を読んで気づいたのは、プロローグの出来がダメダメぽかったということです。_| ̄|○
思い返すと、エヴァクロスのときも、プロローグから神魔の最高指導者を出したらエヴァから来た読者にかなり引かれたようですし。(後でもらった感想で知りました)
あれのプロローグを書いたのもずいぶん前ですが、あまり進歩してないですね。(汗)
プロの作家は最初の30頁が勝負だというのに、自分はまだまだ遠いようです。
それから、多くの感想をいただきありがとうございました。
予想していなかったのは、私の作品だからという理由で読んでくれた方の感想でした。
最近はずっと自分の巣に引きこもっていたものですから、NTという戦場に出たときにどれだけ反応があるだろうかと心配していましたが、予想を上回る結果にとても驚きました。
以下、コメントのお返事です。
○アスナスキーさん
アスナについてですが、原作を読む限り、どう考えてもネギとくっつくしかなさそうです。
赤松作品は、カップリングについて、読者の予想の斜め上をいくことはほとんどないですし。
残念ですが、横島とのフラグが立つ可能性はかなり低いそうです。
○九頭竜さん
神魔の最高指導者についてですが、この先ほとんど出番はありません。その辺はエヴァクロスの話とと事情は同じで。
正直なところ、横島をネギま世界に飛ばす理由は何でもよかったのですが、二回飛ばすには事故など偶然というわけにはいかないので、やむなく彼らを登場させたわけです。
次の時間軸は、もうお読みのとおり原作の三巻まで進ませました。
○powerLさん
ありがとうございます。正直なところ、書きかけの長編は数多く残っているのですが(汗)、なるべく頑張ります。
もっとも、完結していない原作の二次創作作品を題材としたのは今回が始めてですので、終わりが見えていないのが難しいところです。
GSやエヴァの逆行・再構成作品の場合、こういう悩みはないのですが。
○23さん
横島の年齢については、次か次の次あたりで紹介します。
それから横島の強さですが、かなーり強くする予定ですよ。もともと私は、横島最強主義者ですし。
ちなみに、よくある魔族因子の設定は使いません。
横島が全力を出すのは、早くてヘルマン編。そこでまだ出なければ、超鈴音編まで引き伸ばすことになりそうです。
○zeroさん
こちらでは、はじめまして。
少しずつ設定を明かしていきますが、最終的に横島の強さは相当なレベルになる予定です。
もっとも、そこまで書き続けられるかどうかが、疑問なのですが……
○titoさん
作者で選んでいただけるとは、たいへん有難いことです。(^^)
ご期待に沿えるよう、これからも頑張ります。
(いや、もっと肩の力を抜いたハジけた話にしようとも思っていたのですが、とても遊んではいられないですね。;^^)
○wataさん
もう読んでいただけたかと思いますが、エヴァンジェリン編の最初から進めることにしました。
横っちの強さの半分くらいは、エヴァンジェリン編の最後で発揮されるかと思います。
○あかつきさん
横島は最終的にはかなりの強さにする予定ですが、いきなりそうはならず、段階を踏んでいく形になるかと思います。
ネギま世界を尊重しながら、横島を活躍させる話にしたいですね。
○Rpuさん
ありがとうございます。これからも頑張ります。
○零閃さん
横島がなぜ平行世界に飛ばされたかについては、あまり詳しい内容にはならないかもしれませんが、今後の話のどこかで説明する予定です。
この話の横島が、原作とどう変わったかについては、詳しい説明が入ると思います。
それを挿入しないと、横島が強くなったことが説明できないですしね。
○りょくちゃさん
ネカネの出番どうするか、既に悩んでいます。
ネギが里帰りするまでネカネの出番を伸ばすと、立てたフラグが全然活用できませんし。(苦笑)
たぶん、アニメの黒薔薇男爵の話を、どこかで入れることになるのかなと思います。
○TXさん
まあ、その辺は頭を柔軟にしてください。GS側の設定は、原作終了時とは相当に違っています。
その辺の事情については、私の過去の作品のどこかに、ヒントがあります。
GS側の事情については、おいおい作中で説明する予定です。
○テラさん
神魔の最高指導者については、横島を二度強制転移するためのネタにしているだけというのが実情です。
事故で二度転移するというのは、話的にはかなり苦しい説明ですし。
ネカネについては、うまく活用できるよう頑張ります。
○通りすがったりさん
上で書いたのですが、自分はプロローグの組み立て方が下手ですね。(苦笑)
あれこれ設定を考えすぎて、それを話の中に詰め込むために導入時に無理が生じたようです。
某所で叩かれるリスクについては、正直見落としていました。
ご都合主義満載の話になる可能性も0ではないので、そうなったらかなり叩かれそうです。
あまり騒がれるようであれば、NTからの撤退も視野に入れています。
○米田さん
日々のサイト管理、お疲れ様です。
しばらく軒先をお借りしますが、今後ともよろしくお願いします。
○シャーモさん
プロローグについては、もっと差別化をしたかったのですが、これ以上原作の設定を崩すことは難しかったです。
他作品と似た展開になったことについては、作者の力不足を感じています。
原作再構成という形になる以上、原作はもとより他作品と似てしまうリスクは今後も存在しますが、できるだけ差別化していきたいと考えています。