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▽レス始

「.hack//intervention 第27話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-03-07 00:13)
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「成る程……意外と早かったのか、それとも遅かったのか」

「どうしたんですか、焔さん?」


ここは黒闇の守護者本部の一室。
実質的リーダー・焔専用とも言えるその部屋には、部屋の主とアルビレオ曰く“コスプレ忍者”な双剣士がいた。
“コスプレ忍者”の名前は氷鏡、主に受付を担当しているPCである。

焔と彼女は組織設立前からの仲で、尚且つリアルでの知り合いでもあったりする。
つまりそれだけ近い間柄であり、同時に焔の“真意”により近い人物でもあるということだ。
尤も、そのことを知っている者はこの『The World』上に存在しないが。

アルビレオが“知”の部分で焔の“真意”に近づいているとすれば、氷鏡は“情”の部分で“真意”に近い存在。
言い換えると、焔にとってアルビレオは“取引相手”であり、氷鏡は“相談相手”。
“真意”という言葉自体に情的なものが含まれている以上、アルビレオより氷鏡が彼に近いのはある意味当然と言える。

そんな氷鏡は、突然の呼び出しを受けてこの部屋にやってきた。

そしてそこには何やら興味深そうに顎に手を当て、足を組んで席に座っている焔の姿が。


「呪紋使いを監視していたらしい走狗さんからのメールが先程届いたんですよ。
“どうやらヘレシィのリアルがログインした模様”とのことです」

「走狗って……焔さん、ちょっとその言い方は流石に失礼じゃないですか?」

「走狗を走狗と称して何が悪いんです?
 以前はモルガナの走狗、今は僕の走狗……大して差はありません。
 彼自身は自分の意思で動いているつもりなんでしょうが、そんなことは関係ないんです。
 僕にとって彼がCC社側による情報集めの駒に過ぎない、それが紛れも無い事実ですから」

「あ、あはは……」


基本的に表に出さないが、焔は元々かなりの毒舌だ。
それを聞かされる唯一の相手である氷鏡からすればたまったものじゃないが。

焔にとって周りの人間のほぼ全てが“取引相手”。
氷鏡は彼が小さい頃から共にいる為、そのことを嫌という程知っていた。
彼にとって氷鏡と“あの人”以外は両親でさえも“取引相手”に過ぎないのだ、とも。

何とかしたいと思った時期もあった。
もっと周りに心を開くように、もっと他人を求めるように。

しかし彼の闇は氷鏡が思っていた以上に深く、触れることすら叶わなかったのだ。


「氷鏡、ヘルバという名のハッカーを知っていますか?」

「まぁ……明らかに不正エディットのPCを使用しているとか。
 特に何をした、とかは聞いてない筈なのに、妙に有名なハッカーですよね?」

「そして“あの人”が話していた物語の登場人物の1人でもある。
 この世界の基となったと言われる黄昏の碑文においては“闇の女王”の名として……」


焔は氷鏡と居る場合に限り、ヘレシィを“あの人”と呼称する。

氷鏡はその場に居なかった為、焔が聞いたであろう“偏欲の咎狩人”と“黒い幽霊少女”の会話の内容を全て知っているわけではない。
言い方は悪いが、焔が自分に全てを話したかどうかも定かではない。話してくれたかもしれないし、秘匿している部分があるかもしれない。
だがそれを差し置いても、焔がヘレシィを“あの人”と称したことには少なからず驚かされた。

焔において“あの人”の存在は心の大部分を占めている。
僅か10年少々の間に、他人に絶望し心を閉ざすところにまで至ってしまった焔。
そんな彼にとって“あの人”は唯一の味方であり、ある意味氷鏡以上に心を許していた相手だった。

だからこそ、見ず知らずの相手にその呼称を使ったことを驚いていたのだ。

同一人物ということは絶対にあり得ない。何故なら現実の“あの人”は――――


「それはともかく、僕はそろそろ本格的に動こうと思っています」

「例の2人組の捜索を強化するってことですか?」


誰でも思うような氷鏡の言葉に、焔は常に浮かべている笑みを少しだけ深くする。

氷鏡はそれだけで、PCを通したリアルの彼がどんな表情をしているのかがわかった。
おそらく彼は、その年とはかけ離れたような冷たい笑みを浮かべている筈。


「いえ、逆です。寧ろそちらはもう完全に打ち切ってしまっていいかと。
 組織内の人間のほぼ全てが“あの人”について“認識”した、その時点で既に役目は終えているんですよ」

「……では何を?」


焔は静かに席を離れ、氷鏡の眼前に立つ。

そして笑顔を崩すことなく告げる。


「……紅衣の騎士団を潰します。
 あれは組織の拡大に十分過ぎる程の貢献をしてくれましたが……ここまでです。
 これ以上は存在自体が邪魔になりかねませんので」


真の計画の実行を。


――――その日から様々な場所で、黒闇の守護者が暗躍し始めることになる。


.hack//intervention 『第27話 絶望と希望』


「…………成る程な、やっぱりこういうことだったか」

「えへへ~、凄いでしょ?」

「…………ああ、確かに物凄いな」


現実世界で目を閉じ再び開いた先には、にこやかにこっちを向くシェリルがいた。
それはいつものこと、態々特記するようなことじゃない。

けどさ、今まで無かった筈の右腕が妙な存在感を醸し出している点は別だ。

前々から嫌な予感はしていたんだ。
シェリルが作っていたアレが何らかの形で俺に関わるんじゃないかってな。
でも流石にあんなものを俺につけようとするとは思わなかった……というか思いたくなかった。

何、この巨大大砲? 体の一部の筈なのに俺の胴体と同じくらいでかいんですけど?
更に気のせいか、羽根とか鍵爪だけじゃなくて生々しいトカゲの尻尾みたいなのもいくつか付いてるんですけど?
…………クネクネ動かせるし。


「シェリル、どうしてこんなのを付けたんだ?」

「ん~、何かバランス悪そうだったし……」

「……だったし?」

「カッコいいでしょッ!」


多分漫画やアニメで言うなら、今の俺の顔中には沢山の怒りマークがついてることだろうな。

バランスってのはきっと左右のって意味なんだろう。
左腕があるのに右腕が無いのはおかしい、とでも言うつもりかもしれない。

だがこの状態が“カッコいい”ってどゆこと?
てかたったそんだけの理由でこんな馬鹿げたモンを付けられた俺って一体……。
彼女は俺を慕ってくれてるのか? それとも俺を苛めてんのか?

人は涙の数だけ強くなれるとか誰かが言ってたような覚えがある。
ならば今の俺はどれくらい強く慣れているんだろうか……。


「シェリル、外してくれ」

「え~、せっかく「ハズシテクレ」で、でもそれ……役に立つんだよ?」

「…………役に?」


俺は即刻取り外しを嘆願したんだが、彼女の言葉に一旦留まる。

聞いた話によると、背中の翼やら車輪やらはウィルスバグの苗床としてPCデータを補完する為に必要だったとか。
その為、俺はこの件については不問のまま、寧ろ一生懸命俺を呼び戻そうとした彼女の健気な姿を嬉しくも思った。

彼女の中には“知識”はあっても“常識”は存在しない。
当然だろう、この世界の更に極一部しか知りえない彼女が現実世界の常識なんて知る由も無い。
だから俺は後できちんと色々教えてやったつもりだった…………んだけど。

どうやら彼女のセンスは修正不可能なまでに致命的らしい。

しかしもしこの妙な右腕に理由があるのなら、お仕置きも軽減してやろうかと思ってる。
それがマイナスを補うものか、プラスで継ぎ足されるものか。
どちらにせよこれからの物語を潜り抜くのに必要だとすれば、見た目云々を抜きにして付けたままにしておかないこともない。

まあお仕置きは決定事項だけどな。


「どんな役に立つんだ?」

「んとね、尻尾があるでしょ?」

「ああ、この丁度腕くらいの長さの奴だろ?
 ひぃ、ふぅ、みぃ……合わせて全部で3本だな。
 ……で、他と違って妙に俺の意思通りに動くコイツ等の意味は?」


実は後付された背中の翼や車輪も自分の意思で動かすことが出来る。
けど翼はピクピク震わせる程度、車輪は回る速さを微妙に変えられる程度。
シェリル曰く、一応とはいえ体の一部と化しているから出来る所業だとか。ほとんど意味無いが。

そう考えると、今回の触手もどきは快挙なのかもしれない。

見た目はともかく、その動きは俺の意思を忠実に再現している。
つまりそれだけ他の部品とPCのシンクロ率を上げることが出来たというわけだ。
これは上手くいけば、様々なことに流用し得る。

例えば体の回りに背中の車輪みたいなのを沢山浮かべてみる。
それを動かせるようになれば、スケィスを始めとする八相達のデータドレイン避けに活用出来る。
詳しい説明は省くが、物語の最後にデータドレインされかけたカイトをエルクというPCが庇ったように、だ。

…………ただ人としての何かを失ってしまいそうな気もするが。


そうやって俺は真面目に考えていたんだよ。
これからの流れを少しでもスムーズにこなせるように頭を痛めながら。


なのにシェリルときたら、


「じゃあそれを上に挙げて~」

「挙げたぞ」

「こっち来て~」

「……来たぞ」

「ゆっくり下げて~」

「…………お前の頭の上に乗ったぞ」

「はい、撫で撫で~」

「……………………」


ようやく分かった。どうやら彼女は昔のように撫でて欲しいようだ。

うむ、これで俺も存分にシェリルを愛でることが出来るなッ!


…………

………………

……………………フッ、俺って何なんだろうな。


「シェリル……気持ちいいか?」

「うんッ!」

「ああ、そうかそうか……」


俺は3本の触手もどきのうち、1本を頭の上に置いたまま残りの2本を離す。

シェリルは撫でられているのが余程嬉しいのか、全く気づいていない。


「それは本当に……」


2本の先端を彼女のこめかみに当てる。

そして精神を集中させ……、


「良かった……なぁッ!!」「にょわぁッ!?」


久しぶりのグリグリをお見舞いしてやった。
だが今回の俺はそれだけで終わらせるつもりなどない。

撫でていた1本を彼女から一度離し、今度はデコへ向けて……、


「とと、トモア<ピシィッ>あぅッ! ちょ<パシィッ>んにゃッ!」

「いやーホント、お前はいいモン付けてくれたなーアハハハハハ……」


パシパシ叩きつける。所謂“デコピン”だ。

俺に撫でて貰いたいってのは可愛らしくてグッドだ。
事実、俺も彼女を撫でてやりたいと思ったことは何度もある。
だけど態々その為だけに触手付き巨大大砲を付けるってのは、幾らなんでもやりすぎだろ?
というかそれ以前に、大砲の部分いらねーじゃん。


3本の触手を操りながら俺が狂ったように笑い、

シェリルがそれに半泣き状態でジタバタ暴れている。

そんなまさにカオス空間が形成されつつある中、


「……………………んあ」


口をあんぐりと開けたまま呆然と立ち尽くす楚良がいつの間にかそこに居た。

……コイツ、実はタイミングを探ってたりしてるんじゃないだろうな?


「……アンタってそういう趣味が「どーゆー趣味じゃッ!」」

「そ、楚良ぁ……ナイスタイミ、ング……」

「……幽霊ちゃんも苦労するねぇ」


あれ? 何、この状況?
いつの間にか完全に俺が悪役になっちゃってない?

まあ完全な化け物と化した俺と可愛らしい少女であるシェリルを見比べれば、分からない話でもないけど。
それにしても大剣、大砲、触手、その他諸々の集合体って…………ある意味八相以上に化け物だよな。
何かもう色んな事情を全て抜きにしても、物語の登場人物達側に付くのってほぼ不可能な感じ。

敢えて味方になってくれそうなのはハッカーであるヘルバと……、

「アンタ、つくづく弄られキャラじゃん?」

「だまらっしゃいッ!!」


目の前の超ムカつくコイツくらい。
しかも裏切る可能性があるから真の意味での味方にはなり得ないし。

……物語通りならスケィスにデータドレインされちゃうし。

正直なところ、これに関してはどうすべきか判断に困っている。
こういう言い方は当事者達からすれば最低なんだろうが、俺にはシェリルと自分以外を守る余裕なんて全く無い。
増して俺の体は既に他人に見せられるような姿じゃないから、無闇に外へも出かけられない。

ヘルバと接触することで、物語の登場人物を監視することぐらいは可能だ。
だが未帰還者(データドレインされて意識不明になった者の意)を助け、それによる物語の変化を考察。
更にその度に対応策を練らなくてはならない、なんてのはかなり難しいしそもそも答えが出ない可能性の方が高い。

カイトを巡る物語の始まりに未帰還者となるオルカだけは別だが……。

ただもし彼等を助けるのであれば、その方法の1つは一応考えてある。
ぶっちゃけ、シェリルが俺のPCに加えた“消す”力を使ってPCを消してしまえばいいことなのだ。
たったそんだけで『The World』から退場、同時に物語の舞台を降りることにもなる。


とにかくこの件は保留。今は楚良が持ってきたであろうヘルバ情報を聞き出すことが先決だ。


「……楚良、ヘルバと連絡取れたんだろ?」

「まぁね~、てゆうかあっちもアンタ等探してたし」

「そうか……で、待ち合わせの日時や場所はどうなっている?」

「もうすぐ指定先のエリアに来るってさッ!」


もうすぐって……予想以上に早い接触になったな。
となれば、今すぐにでも向かうべきか。

しかしPC機能が使えなくなった以上、楚良の協力が不可欠になる。
シェリルの話によると、彼女は今まで移動してきたエリアのワードを知らなかったらしい。
感覚的に決めたエリアへ転移し、その場所を頭の中にインプットしていたとか。
要はヘルバとの待ち合わせエリアのワードを知っても、現在の俺やシェリルでは行き様がないのだ。


……楚良に連れてって貰うのは何かムカつくがな。


俺は何故か楚良へと向いている触手を沈め、嫌々ながらも頼み込むことにした。


「楚良君、済まないが俺達をそこまで連れて行ってくれないか?」

「いいけど……ダンジョンの中だから面倒なんだよねぇ~。
 俺、もうすぐログアウトしなきゃいけないし」

「ならフィールドまででいい。
 後は俺とシェリルで勝手に行かせて貰う」

「……そ、んじゃさっさと済ませちゃお」


どこかつまらなそうに答える楚良。
意外に俺達と冒険がしたかったんだったりして……んなわけないか。

そんなことを考えつつ、シェリルと一緒に楚良に手を置く。

俺は途中で人に会わないことを願いながらシェリル、楚良と共に“ゴミ箱”エリアを離脱した。


「んじゃ、まったねんッ!」


レベルもサーバーも教えてもらわぬまま、楚良は勝手に去っていった。
まあどうせここに来るのは一回きりだろうし、大して気にしてない。

特に何も言わず素直に引いた奴のことは少し気がかりだが。


「こうやってシェリルと冒険するのは1年ぶりか……」

「……そうだね」

「最初に出会ったのもダンジョンの中だったっけ?」

「あの時は言葉も碌に話せなかったんだよね……ホント懐かしいなぁ」


穏やかな会話をしながらヘルバが来るらしいアイテム神像部屋へと向かう。
アイテムが使えない以上、手探りになるが仕方が無い。

話は変わるが、俺は今、足を地に付けることなく宙に浮いたまま移動している。
“ゴミ箱”以外のエリアでの移動は初めてだったが、特に戸惑うことなく動くことが出来た。
多分高速移動となると話は別だろうが……そんなのは戦闘でもしない限り必要ない。

その戦闘でさえも、


「ほい」

「ガァァアァァァッ!!」

「ほい」

「グゥゥゥウゥゥ……」


歩きながら左腕の大剣でモンスターごと消してしまってる。

冒険の一環として普通に楽しみたいと思わなくも無いが、俺のPCからして不可能。
だからもう開き直って障害物をどける感覚で処理している。

ちなみにきちんと歩かない理由は、新しく出来た右腕がでか過ぎて俺の身長を超えていたから。
重みを感じないのが不思議なくらいで、ある意味こっちの方が大剣よりダメージが大きそう。
……まあ試しにこれでモンスターぶん殴ってみたら1の表示しかでなかったんだけどな。

そういった感じで偶に壁にぶつかりながらも、何とかアイテム神像部屋に辿り着く。

…………ってあれ? 待ってる筈のヘルバは?


「まいっか、しばらくすれば来るだろうさ」


時間帯が合わなかったと思った俺が宝箱に座り、シェリルは傍に浮かぶ。

昴達の場合といい楚良の場合といい、待つことには慣れている方。

久しぶりにしりとりでもしようかなぁ、とか思っていたその矢先、


「その必要はないわよ?」


いきなり真後ろからシェリルとは違う大人の女性の声が。

一瞬ビビッたが、俺は敢えてゆっくりと振り向き、


「ずっと前から会いたかった、ヘルバ」

「私もよ、ヘレシィ」


互いに顔を合わせた…………って何か恋人同士の待ち合わせみたいだな。


実は1年前から待っていたヘルバとの邂逅。

これからの彼女との会話は今までで1番油断の出来ない一種の戦いだ。


――――さて、それでは闇の女王を俺達の“楽園”へご招待するとしますか。


あとがき

主人公更に化け物化&ようやくヘルバと邂逅の巻。
今回は次回への接続的な話で容量少なめ。

次回はヘルバと主人公の情報交換。
ではこの辺で。


レス返しです。


>ACさん

ジョヌ夫も同じような経験があるのです。
尤もこちらの場合は自分の過失によるものですが……。

これからもよろしくお願いします。


>マジィさん

ヘルバは正真正銘のハッカーですからね。
アルビレオと手を結ぶ可能性は限りなく低いでしょう。

次回からもよろしくお願いします。


>TAMAさん

アルビレオのメールは冒頭のような形で反映されることになりました。
シェリルや主人公はハロルドに会う予定です。その時点が物語の山場の1つになるかと。
物語の流れは基本的に変わってませんが、小さな種子は既にまかれているのです。
そこから少しずつ物語は変わっていき、その先にあるものが何か?

そこら辺も含めてよろしくお願いします。

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