さて、こうして聖杯戦争の一日目は過ぎていく――――はずだったのだが、まだ夜は長い。
セイバーとアーチャーと横島は横島の部屋に来ていた。
横島により呼び出されたのはセイバーとアーチャーである。アーチャーは屋根で見張りをしようとする途中で、セイバーは寝る前に呼び止められたからだ。
まあ、その前に寝る場所については一悶着あったのだが、それはセイバーの寝る場所についてであり士郎の頼みと横島の暴走により士郎の部屋の隣に落ち着いたことをここに記す。
「わざわざ集まってもらってスマン」
「いえ別に私はかまいませんが」
「ふん、まったくだ」
二人とも正反対の感想に思わず苦笑する。
「んじゃまあとりあえず」
横島はすかさず残り一個の文珠に【遮】といれ発動させ、発動と同時に音や気配などを【遮】断させる結界が形成する。
「これは……」
「………」
改めて視た文珠の能力にセイバーは感嘆しアーチャーは目を鋭くさせる。
「じゃあこっからが本題だ。集まってもらったのは他でもない。―――士郎についてだ」
「シロウについてですか……」
ああ、と頷きお茶とお茶請けを出す。すぐさまセイバーはお茶請けに手を伸ばした。
アーチャーは士郎の名前が出た途端、苦虫を潰したような顔をするが、それも一瞬ですぐさま無表情に戻してお茶を啜る。
「俺は士郎と知り合って一週間しかたってないがその間に分かったことなんだけど、士郎はどうも自己犠牲が強いというか他人ばかり心配して自分を大事にしちゃいない」
セイバーはその言葉を聞き今日のことを振り返った。
士郎の行動、言動がそれらを結び付ける。
自分の命が危なかったにもかかわらず心配するのは他人ばかり。だからなのだろう。あそこまで力を欲し、固執するのは。
セイバーはそう結論づけた。
「―――確かに。タダオ、貴方の言うとおりでしょう。シロウは自分を大事にしなさ過ぎる。ランサーやバーサーカーと戦った時でさえ、私が遠くに追いやらなければ乱入してきたでしょうし」
「そこで、だ。このままいけば確実に士郎は死ぬ。だから士郎を鍛えて自分のことをある程度守れるようにしようと思う」
本音を言えば凛同様後方支援をして欲しいところなのだが、首を突っ込むことは目に見えている。
サーヴァントとの実力差を教え込む、というのもあるが所詮は一時凌ぎにしかならない。誰かが窮地に陥れば間違いなく助けようとするだろう。
ならば、と考えだしたのがこの方法だ。無論2、3日で強くなれるほど現実は甘くない。
しかし、こちらには反則といえる手段が二つもあるのだ。
「そう簡単に強くなれるとは……」
「それがあるんだよ」
セイバーの疑問にニヤッと笑い答える。
「何のことかと思い来てみれば……私には関係ないではないか。衛宮士郎を強くしたいなら勝手にすればいいだろう」
そう言って立ち上がり部屋を出ろうとした瞬間、横島の栄光の手(爪)に足を捕らえられこけた。
「ぐわっ」
「何処にいこうとしてんだ。第一この計画の要はお前と文珠なんだよ」
サーヴァントが足を引っ掛けられるとは、まさに規格外である。まるで何かの力が働いたかのようだ。
「……なるほど。シロウの未来がアーチャーなら、強くなるための方向性が見出だせる上に、いいお手本にもなるわけですね」
腕を組み納得といった感じでウンウンと頷く。
「そういうこと。さらに文珠を使えば多少の無茶をしても大丈夫ってわけだ」
何かを企んでいるようで邪悪に笑う。
「甚だ疑問が残るのだがな、なぜ私がこんなことに協力せねばならんのだ」
アーチャーの言い分ももっともだろう。何れ的になるヤツになぜ塩を送るようなマネをしなくてはいけないのか。
「別に全面的に協力しろとは言わねえよ。ただ鍛えるにしても方向を見出ださねえとダメだからな。まあそういうわけで……キリキリと士郎のできることを吐いてもらおうか」
あかいあくまに負けずとも劣らない笑みを浮かべながらサイキックソーサーを複数展開する。
「虚言は許されないので正直に言うことを勧めますよアーチャー」
不可視の剣を構えこちらも素晴らしい笑みを浮かべている。
「ま、待て!!なぜ私がこんなめに……」
サーヴァント情報
アーチャー(真名 エミヤシロウ)
スキル 幸運 E
「やはりそんなオチかー!!」
横島の部屋にアーチャーの悲鳴が響いたが決して外には漏れなかった。
美神達は妙神山から戻り、仕事を再開していた。
「ええ、そうよ。……そういうことだからお願いね。ギャラははずむわ」
「どなたと電話してらしたんですか?」
お盆にコーヒーを二人分のせ、先程まで電話をしていた美神に尋ねる。
「ん、ああドクターカオスのところよ」
ありがと、とおキヌからコーヒーを受け取り口をつける。
「カオスさん、ですか?」
はたから見たら怪人黒マントに見える齢千歳は超える老人を思い浮べる。
「ええ、調査に協力してもらおうと思ってね」
「えっ、でも今日はヒャクメ様も来るんじゃ」
そう、この間依頼をしたヒャクメの調査協力が今日から始まるのだ。
「確かにそうだけどヒャクメが調査できるのはあくまで霊的な面だけだから科学的面をカオスにお願いしたのよ」
ヒャクメはあくまで霊視だけなら神族の中でもかなりの上位に位置しているがその反面、霊的なものが関係してないとただの迷惑神族に成り下がる。
「でも隊長さんからもらった報告書が……」
「ああ、あれ?アレはもういいわ。はっきり言えば全然進展がないのよね。だからカオスに依頼したのよ。カオスの技術は現代科学の数歩先はいってるわ。それにああ見えてあいつは本当の天才よ。私達とは別の視点から物事を見てくれるから、きっと何かわかるはずよ」
「じゃあ横島さんが居なくなった原因が……」
「ええ、間違いなく真相に近づくはずよ」
おキヌの安堵の表情に笑顔で答える。
美神達は待っていた。神族の友人と天才錬金術師が来るのを今後の進展に思いを馳せて。
横島の部屋には赤い何かが倒れている。
ピクリとも動こうともしない。まるでただの屍の「私は生きてるぞー!!」サーヴァントはもともと死んだものだろうに。なんとも不思議な話である。
「わ、分かった……。言うから武器を下げてくれ」
肉体的にも精神的にもすでに限界のようだ。体は剣でも心は硝子なので以外と脆い。
さらに言うなら、アーチャーの中のセイバーの幻想はすでに粉々に砕け散っている。
「アーチャー……私は信じていましたよ」
「やっぱいい男は違うなー!」
二人とも頬に血のようなものが付いてるが、気にするほどのものじゃないだろう。
「クッ……地獄に堕ちろ、横島、セイバー」
此度の聖杯戦争で一番不幸なのはアーチャーかもしれない。
「さて……衛宮士郎についてだが、奴は戦わせようとするだけ無駄だ。奴には戦いの才能はない。いいか、これだけは忘れるな。衛宮士郎は戦う者に非ず、奴は生み出す者だ」
「生み出す…者?」
「そうだ。現実では勝てないから想像する。自分が敵に勝つ姿をイメージし、それを現実に引っ張りだすことこそ衛宮士郎が唯一できることだ」
横島とセイバーはアーチャーの言葉に思考を巡らす。
しかし、結論は出ない。横島は霊能者だしセイバーは騎士。魔術とは無縁に近い二人には当たり前だろう。
「……そうだな。土蔵にあるガラクタの山を凛に見せてみるといい。きっと道が開かれるはずだ」
「土蔵か……」
言われてみれば士郎が夜中にあそこで何かをしていたことを思い出す。今考えればあれ魔術の鍛練なのだろう。
「ではな。私は戻らせてもらうよ」
そのまま立ち上がり霊体化する寸前で
「ちょっと待ってくれ。聞き出しといてなんだがなぜ教えてくれたんだ?」
確かに無理矢理聞き出した奴が言う台詞ではないだろう。
その言葉にセイバーも疑問を浮かべる。
「無理に聞き出した奴が言う台詞か。……まあ、いい。そうだな……エミヤシロウの未来の可能性の一つとして、奴がどのようになるかを見届けるため……とでもしておこうか。なに、いつ気がかわるかわからんからな。背中には気を付けさせることだな」
何かを思うように星空に目をやり、そう言い捨て静かに部屋を後にした。
「……タダオ。一つ思ったのですが、アーチャーの、エミヤシロウの望みとはなんなのでしょうか?」
アーチャーが部屋を去った後、セイバー達は無言だったがセイバーが口を開いた。
「望み…?」
「ええ。サーヴァントは自分の望みを叶えるために召喚に応じます。私にももちろん望みがあるから聖杯戦争に参加しました。アーチャーにも望みが、叶えたい願いがあるから聖杯戦争に参加してるはずです。しかし、士郎には叶えたい望みがあるようには思えない。……いえ、事実そうなのでしょう。今日聞いた限りでは望みのために参加したのではなく犠牲を出さない為だと言ってました」
聖杯戦争に参加する英霊は望みがあるから召喚に応じる。士郎の持つ理想は愚直なまでに真直ぐで純粋。だから英霊に至るまでに何かあったにしてもそう簡単に曲がるとは思えない。
「確かにな。俺だったら迷わず何でも言うこと聞く裸で美人のねえちゃんを頼むだろうな」
おちゃらけた態度ではあるがどこか真剣な顔をしている。
思い浮べるのは最愛の女性。かの大戦で自分を助けるために、命を削ってまで助けてくれた彼女。
叶うならば何度彼女が生き返ることを望んだだろうか。
「(ルシオラ……お前を生き返らせたら俺にお前は何て言うんだろうな)」
違う形で彼女を幸せにすると横島はあの場所で誓った。ルシオラを生き返らせるということはあの誓いは無駄になり、尚且つ彼女を裏切る形になるだろう。
過去を変えるということは、今までの事を無かった事にするのに等しい。
願わなかったといえば嘘になるがもう横島自身が決めたことなのだから。
「タダオ……?」
ふざけた回答にも関わらずその眼に宿っているのは確かな決意と悲哀。その表情にセイバーは少し困惑するがすぐに何かに気付いたように目を閉じる。
「(あなたも……そうなのですね。私と同様望みが、叶えたい願いがあったのですね)」
セイバーは知っている。あの眼は今の自分。即ちあの時ああしておけば良かったと後悔しやり直しを望んだ眼。
しかし、既に吹っ切れていることも分かる。自分の過去と前向きに向き合える覚悟を宿している。
なぜそんなふうにできるのか。どうしてやり直したい過去とそう向き合えるのか。
「まあ、何を望んでるにせよ今は寝るとするか。明日からさらに忙しくなるしな」
横島の前向きな言葉はセイバーの胸にスッと落ちる。
「……そうですね。では明日に備え眠りましょう」
穏やかな笑みを浮かべ自分の部屋に戻った。
澄んだ夜空に浮かぶ星を見上げ騎士は眠る。
運命に導かれし者達に、ほんの一晩の休息を。
あとがき
アーチャーが不幸すぎじゃね?どうもさくらです。GSサイドの話も変化が訪れFateサイドもかなりの変化がw。
正直不安です。
来週は短編も書こうと無謀なことを考えてます。まあこの話とは関係ないですけど。
ではレス返しを
>HAPPYEND至上主義者様
初めまして。完結……できたらいいなあ。
>ウィンキー様
横島の呪いはもはや宝具級ですね。修業によりパワーアップしちゃってるんで。
>SS様
楽しめてもらえて何よりです。横島らしさを残すのが今後の課題ですね。
>tito様
GSサイドの動きはこれからも発展しますのでお楽しみに。
>Iw様
やっぱセイバーはかわいくですね。…ツンデレセイバーてのもありかもw
>yuju様
確かにその通りでしたねw。果たしてでるか煩悩全開w。
>九頭竜様
ルートの方は今後の楽しみということで。来るかは未定です
>マクスウェル様
ありがとうございます。ドンドンは無理ですが定期的なら。
>帝様
満足して頂き良かったです。GSサイドの話はまだ続きます。