衛宮家の朝は早いため一週間過ごした横島も早く起きるようにしていた。横島は目を覚まし、真直ぐ洗面所へと向かい顔を洗う。実際ならばこの時間起きることはしないのだが、霊能力の修業をするためだ。
昨日までは霊能力について士郎が知らなかったこともあり、寝静まったあとやっていたのだが、教えた今となっては堂々とやるようにした。
修業などはするタイプではないのだが妙神山に行ったことにより修業する癖がついた。と、いうより刷り込まれた。
外でやってもいいのだがいつ人目につくか分からないし何より寒い。主に後者が理由だ。まあ、そう言うわけで横島は道場へと向かった。
「うぅ…朝は寒みいな」
いつものようにバンダナを巻き、ジージャン、ジーパンのスタイルだ。まず最初に行うのが準備体操。体を十分にほぐしたら、霊力を練り上げ体全体に覆わせる。これを“霊纏”と言うのだが横島はもちろん知らない。
その状態を維持したまま両手を広げサイキックソーサーを複数展開させコントロールする。道場を傷つける事無く壁や床や天井をスレスレまで動かす。そうしながら一ヶ所に集めたり円状に広げ一ヶ所だけに攻撃したりする。
次に霊波刀を出すがここで頭を悩ました。妙神山にいた頃は小竜姫や極たまに老師(その場合は組み手というより一方的な暴力というのは横島談)がしてくれるから一人で素振りなどはあまり経験がない。第一夜やっていた修業もサイキックソーサーのコントロールをやったくらいだ。
「どうすっかなあ……お!そうだ!アーチャー!」
「なんだ?」
何か思いついた横島はアーチャーを呼ぶ。アーチャーは霊体化していたらしくスッと表れる。
アーチャーは屋根の上で見張りをしていた。そこで感じた横島の気配を気になっていたため呼ばれてすぐに目の前に表れた。
「俺の組み手に付き合ってくんねえかな?」
「ふむ……そうしてやっても別にかまわんが、あいにく負傷してる身でな」
アーチャー自身横島の力に興味があったらしくすぐに了承したがセイバーにやられたキズは完治していない。
「そういやそうだったな。なら俺が治してやるよ」
そう言うや否や、文珠を出しアーチャーの怪我を【治】した。
「……ほお。確かにこれは便利だな」
昨夜見たとはいえ実際体験するとそのすごさがよくわかる。
「んじゃまあやるか」
右手に霊波刀を出し、左手に盾のようにサイキックソーサーを出し自然体に構える。
「よかろう」
アーチャーの両手には白と黒の双剣、干将莫耶。アーチャーも横島と同様自然体に構える。
「そりゃっ!!」
掛け声とともにアーチャーに切り掛かる。袈裟掛けに振り下ろすが左に持つ莫耶で受け止め、干将で逆胴に切り掛かる。それをサイキックソーサーで防ぎ瞬時に下がる。作りが甘いため干将に消されるが気にした訳でもなく今度はしっかりと作り、投げ付ける。アーチャーも干将を投げ打ち落としたあと再び干渉を投影し双剣で切り付ける。
武器を投げ捨てたのに一瞬動揺するも、すぐに切り替え両手に霊波刀と手甲をだし対抗する。無論、まともな切り合いでは適うわけがない。
左手の手甲を伸ばし干将による攻撃を防ぎ霊波刀で受け止める。なんとか押さえるものの力押しで適うわけがない。力を足に溜め全力でバックステップする。足からサイキックソーサーをだし顔面めがけ蹴り飛ばす。それも防がれるが。
「なるほどな。確かに人間の中では強いだろうよ」
アーチャーは素直に称賛する。サーヴァント相手にここまで戦えることもそうだが戦い方もである。引くときの引き際の良さや武器の選択、使い方などから戦い慣れていると判断できる。しかも格上との戦い方も熟知しているようだ。
「ったく……お前といい変態全身青タイツといい半裸巨人といいでたらめだっつーの……」
横島は改めてサーヴァントの強さを実感した。アーチャーは総合的に言えば小竜姫より実力は低いが、厄介なのはアーチャーだと断言できる。
「括られている枠組みの呼称が非常に気になるが、まあいい」
アーチャーは貴様のほうがデタラメだ、と言いたい気持ちを押さえ、仕切り直しと言わんばかりに体勢を立て直し自然体に構えなおす。
「そろそろ終わりとしようか」
「望むところだ」
ニヤッと笑い霊波刀上に振り上げ振り下ろす。
「サイキックスラッシュ!!」
霊波刀の刀身から斬撃が飛び出す。かなりのスピードで飛来する斬撃に一瞬驚くが軌道は一直線に顔を狙う。が、アーチャーは叩き落とすどころか顔を僅かに動かし躱し、横島に向かい走りだす。
すると、視界から忽然と姿が消えた。これにはさすがに焦り直ぐ様辺りを見回す。しかし、姿はない。まさか文珠か?ありえない。その考えをすぐカットした。ならばどこに?
ほんの一瞬でこれだけの思考をできるアーチャーはさすがと言うべきだが、それが命取りだった。
「こっちだっつーの」
「なっ……!!」
突然目の前に現れた横島に絶句する。ほんの一瞬で10メートルはある距離を詰めている。そして、そのまま一気に横島は霊波刀を振りぬいた。
協力を要請した三人が事務所にきたら直ぐ様美神達は現場に向かった。
「これはすごい残留霊力ですねー」
「かなり・強力な・磁場が・発生・しています」
「ふむ……磁場狂っとるのかのう」
開け口一番で状況の大半を看破するのはさすがというべきだろう。美知恵の報告書は本来なら見せるべきだろうが、美神は敢えて見せないでいた。
「何かわかる?」
「ちょっと待ってくださいねー……」
ヒャクメは何やら床辺りを霊視しはじめた。そして、何かわかったのか驚きの声を上げた。
「驚いた……ここってほとんど廃れてるけど霊脈じゃない」
「霊脈って確か神山とか神社みたいなところにあるアレ?」
「そうです。いわば地球のチャクラの通り道ですねー」
するとドクターカオスも何かわかったのか声を上げた。
「ほう、これは興味深い。この一部だけ磁場が正常だが強力な電磁波が発生しとる」
美神は何のことかわからず尋ねる。
「どういうこと?」
「ん?ああ、つまりじゃな。現場を見れば一目瞭然じゃが爆発が起きとる。しかもタダの爆発じゃない」
「霊力の爆発ですね」
カオスの説明につづきヒャクメは言う。
「さっきも言いましたが廃れた霊脈っていってもかなりの霊力が残っていますからここは霊的に言えばかなりの場所ですね」
数日の日数を要した報告書の内容を直ぐ様見付け、さらにその上を曝け出す二人はとてもじゃないが普段からは想像で「「ほっとけー!!」」きない。
「――さて、以上のことから導かれた答えは……」
「答えは……」
その言葉に美神は食い付く。
「まだ調査中じゃ」
「だったらさっさと調べんかい!!!」
美神の拳は見事にカオスのボディを抉った。
「ふふふ……美神さんったら本気で心配なのね」
クスクス笑いながらヒャクメはその光景を見守った。
「まさか防ぐなんてな…」
「なに、確かに良い攻撃だったが捉えられ程ではない」
肩を竦めながらニヤッと笑う。アーチャーは干将で攻撃を止め、首筋に莫耶を押しあてる。
横島がした攻撃は簡単に言えばセイバーの真似事である。霊力を噴射させ間合いを詰める技。名を“縮地”。実は老師が一度だけ組み手中に使い教えるか悩んだ技だ。
「くぅ〜その嫌味な笑みがムカツク!!」
「―――さて、何か用か衛宮士郎」
道場の入り口に茫然としながら士郎は立っていた。どうやら土蔵から戻る途中だったようだ。
「い、いや用って程じゃない。物音がしたから来てみただけだ」
アーチャーの問いにぶっきらぼうに答える。士郎はアーチャーの事がどうも気に入らなかった。自分達は相容れない存在だと気付いている。
「ならば早々と立ち去るがいい。人が来るのだろう?」
「何でお前がそんなこと知ってんだよ」
「気にするな。私には関係ないが朝食などはいいのか?」
さっきまでの会話に反応し横島が声を上げる。
「そうだった!!桜ちゃん達が来るぞ!!」
そこで士郎もようやく気付いたのか
「忘れてた!!」
そう言い残し士郎は台所へと駆け出した。
「やれやれ忙しない奴だ」
「士郎もしっかりしてるんだけど、どこか抜けてんだよなあ」
アーチャーは本気で呆れており、横島はアーチャーにバレないように見比べていた。
「まあ、アーチャーもだけど」
「なに……」
アーチャーは目を鋭くさせ殺気をこめ睨む。
その目にマジでびびりながらも
「ま、今回は引き分けっつう事で」
その直後、アーチャーの視界は突如発生した閃光によって奪われる。視界が回復したころには横島の姿はなかった。
「……なるほど。そういう事か」
アーチャーは先程起きた閃光が何なのかを理解した。あれは、横島が放ったサイキックスラッシュというやつだと。
しかし、実際はそうではない。横島の技にサイキックスラッシュという技は存在しない。あれは、霊波刀の刀身にサイキックソーサーをつけ放ったに過ぎないのだ。
横島はあれをわざと避けれるように放つ、次に“縮地”を用いて距離を詰める。次に霊波刀で切り掛かるのだが実はこれらはどれも本命ではなく、あくまで囮なのだ。
霊波刀での攻撃も防がれる、または避けられる事を前提としている。次に放ったサイキックソーサーを直ぐ様目潰しに使うまたは、気を引くことに使ったあと、空いた手でとどめを刺す。雑魚なら最初ので片付くし並の奴なら霊波刀で終わりだが、自分より格上にはそうはいかない。だからこそこの技を編み出した。
ギャグなどの横島の十八番が使えない敵に出会った場合を想定したものだ。
「ふっ……横島忠夫、か。おもしろいやつだ」
その顔には先程までの殺気は宿っておらず、穏やかな顔をしており、横島に対する考えを改めていた。
あの男は間違いなくジョーカーとなる存在。レベルの違いも関係なく、場を引っ掻き回し何らかの影響を与える。
「(まあ、それが良い方向かそうでないかは分からんがな)」
いつものような皮肉混じりの笑みではなく穏やかな、それでいて楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「(此度のエミヤシロウはどうなるかな?)」
聖杯戦争中に不謹慎と思いつつもアーチャーは高揚する気持ちを押さえられなかった。
直後、アーチャーは道場から姿を消し屋根のうえで見張りを続ける。
「見届けさせてもらうぞ、どうなるかを……な」
その呟きは誰にも聞こえる事無く空に消えていき、下では一悶着起きており、いつもより騒々しい衛宮邸だった。
一夜が明け、二日目を迎える聖杯戦争。舞台は整い、あとは役者が揃うのを待つばかり。運命(Fate)に導かれ今、二日目の幕があがる。
あとがき
お送りしました、第十章。どうもさくらです。
短篇に挑戦するという無謀を経て、ようやくできました。できれば短篇も一読の程を。
ではレス返しを
>HAPPYEND主義者様
確かにそうですねw。地獄?の特訓は多分次回に目処が立つかと。
>テンペスタースー様
はじめまして、お楽しみいただき何よりです。これからも一読の程よろしくお願いします。
>ウィンキー様
私も同じく運命を感じました。名シーンについて別の形でやりたいですね。
ライダーとの戦闘は次の次ですかね?
>yuju様
煩悩全開が固有結界ですか……発動した瞬間何かを失いそうですね(汗
GSサイドはまたもや変化有りです。どうなるか私にも想像が(ぉぃ
>九頭竜様
ええ、士郎はいつになっとも士郎なんですw学校には次回ですね。横島を連れていくか悩みますね。
>SS様
アーチャーには飴と鞭が一番なんですよ。(キッパリ
いじめにいじめてたまに飴、これですねw
>玉響様
確かにFateはシリアスなんですけど横島が耐えきれないので軟らかくしました。ですのでGSっぽいFateというこでお願いします。
>Under様
はじめまして。お楽しみいただき何よりです。これからもお願いします。
最後に読んでいただいた皆様に感謝を