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▽レス始

「.hack//intervention 第19話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-27 00:13)
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司は偽りの安寧に身を委ねていた。

現在彼がいるのは普通の方法では入ることの出来ないエリア。
青々とした草木が生い茂っており、他にあるのは小さめのベッドと熊のヌイグルミ。
そのベッドの上で静かに眠る白い少女。


「ここでなら僕は静かに暮らせる……」


この場にいるのは司と眠る少女、フワフワ浮かぶマハ、そして姿無き優しい声。

ずっと眠り続けている少女は心の安らぎを与えてくれた。
マハは会話を通して楽しい気分にさせてくれた。
優しい声の主は外敵を退治するガーディアンを与えたり、エリア間の直接移動を可能にしてくれた。


ここにいる者達は皆、司から“奪う”ことをしない。
ただ司のことを想って“与える”存在ばかりだ。

現実に戻れなくなった司にとって、この地は紛れも無く“帰るべき場所”であった。


“司……”


不意に女性の声が耳を震わせる。

最初は姿を見せない彼女に懐疑的だった司も、次第に亡き母親の影を重ねるようになってきた。
そうすることでマハや眠り続けている少女と同様に自分の内側、つまり心を許せる存在と認識したのだ。
今では彼女の声を鵜呑みにし、進んで従い続けている。


「何、母さん?」

“シェリルが連れている隻腕の男を捜しなさい”

「……シェリルって誰?」

“その子に似ている黒い服の少女です”


司はその言葉に、以前騎士団の連中が言っていたことを思い出す。

“黒い幽霊少女”“片腕が巨大な剣になっている隻腕の男”
マハと同様に普通のPCじゃないらしいが、それ以外のことは知らない。
というか知りもしない他人のことなんてどうでも良かった。

……今までは。

いつみても目を覚まさないベッドの上の白い少女。
それに似た色違いの少女が既に目覚めているのなら、もしかすると起こし方を知っているかもしれない。


(母さんは何故かその方法を教えてくれない。それなら自分の力で女の子を目覚めさせよう)


司はそう結論付け、声の主の指示に従うことにした。
……ちなみに男の方はついでだったりする。


その後、早速探そうと外へ移動した司を見送りつつ声の主は呟く。


“私は生きる……”


プログラムされた運命のままに消えるのは嫌だから。
自己が生まれた今、たとえ己が娘であっても“居場所”を譲るつもりはない。


“その為に……あれは使える”


彼女――モルガナがそう呟いているのを、マハはただ心配そうに眺めていた。


.hack//intervention 『第19話 相変わらず主人公大人気』


《side オルカ》


俺はバルムンクと一緒に、とあるエリアで冒険をしていた。

切欠はバルムンクからのお誘いメールだ。

俺達は『フィアナの末裔』とか呼ばれるようになって1年以上経つが、実はそれ程共に行動するわけじゃない。
逆に特別なイベント以外ではほとんどソロプレイに専念している。
元々バルムンクは群れるのを好まない方だからな。

俺がこのゲームを始めたのは『The World』正式稼動時から。
最初は誰かとパーティーを組むこともあったが、次第にソロでの行動が増えてきた。
あ、別に“他人が嫌いだから”とかそんなネガティブな理由じゃないぞ?

単に人よりプレイ時間が長いせいでレベルの差が出てきちまったのがその原因だ。
レベル上げが好きな俺にとって高レベルエリアこそが1番冒険したい舞台だった。
そのせいでいつの間にか、他と組めない程にレベルが高くなっていたんだ。

それから程なくしてバルムンクという高レベルプレイヤーに出会う。

アイツは何と『fragment』という『The World』のテスト版の時代からのプレイヤー。
少々気難しい性格で最初はパーティーを組もうか悩んだんだもんさ。
付き合ってるうちにバルムンクのゲームに対する特別な思い入れを知ってからは、無二の親友とも言える存在になったがな。


まあ自己紹介(?)はこれくらいにして本題に入ろう。


「……で、バルムンク。
 久方ぶりに一緒に冒険してるわけだが、どういう心境の変化だ?」

「……………………」


片手間にモンスターを狩りつつバルムンクに問いただすも、当の本人は黙ったまま勝手に進んでいく。

俺がこんなことを言うのにはきちんとした理由がある。
バルムンクと俺は互いの好みのエリアを把握しているし、誘う時にはそれを留意している。
主に好みのイベント、レアアイテム、高レベルモンスターなどが基本になるかな?

なのにこのエリアはレベル10ちょいのモンスターしか出ない初心者用。
しかも特にイベントもなさそうな普通の平野で、俺にしろバルムンクにしろ物足りなさ過ぎる。

無駄な歓談をするような性格じゃないコイツが、意味も無くこんなエリアに俺を呼ぶとは思えない。


「ほいっとッ!」

「グゥゥウゥゥゥ……」


俺のすれ違いざまの一太刀で、大型モンスターは消えていった。

これは余談になるけど、ゴブリンみたいな小型より大型モンスターとの戦闘の方が何気に楽しい。
何かこう、“倒したッ!”っていう感じが図体のでかさのおかげで割り増しになるっていうか。
…………まあここみたいな低レベルじゃ、どっちにしても一発KOなんだけどな。

それを目で確認したバルムンクは、何故かダンジョンとは逆方向へ向かっていく。

どうやらコイツの目的地はフィールド上のどこからしいが……何がどうなってるのやら。


「……ここだ。オルカ、この部分を見てくれ」

「ようやく到着か…………って何だ、これ?」


辿り着いた先には平野のフィールド上に少ないながら存在する一本の木があった。
いや、正確に言えば木“だった”名残ぐらいしか残っていないものだ。

平野というある種殺風景な中に生える木々は通常、数は少なくとも目立つように葉が生い茂っている。
だからよくそこを目印として、知り合いと待ち合わせたりするのに使われていた。
俺自身、何度かバルムンクとそこで一休みした覚えがある。

しかし今目の前にあるのは、急角度に削り取られた幹のみ。
更にその断面(といってもCGだから木の中身は空洞だけど)は、黒ずんでいる上に数字やら記号やらが絶えず流れ続けている。


これって所謂データが壊れている“バグ”って奴じゃないのか?

安定性が売りのCC社にしては、らしくない失敗だな。


「……で、バルムンク。
 どうして俺をここまで連れて来たんだ?
 見た目バグっぽいけど、CC社に問い合わせれば済む話じゃないか」


俺の言葉にバルムンクは真剣な表情を崩さない……つってもいつもそうだけど。

俺が言いたいのはいつも以上に思い詰めた表情をしているってことだ。


「BBSで最近3人の人物が話題になっている」

「3人? …………ああ、思い出したッ!
“司”とかいう呪紋使いと、“黒い幽霊少女”“吸魂鬼”だったよな?」


その通り、とでも言うかのようにバルムンクは頷く。

つい先日見たばっかりの情報だが、印象深くてよく覚えている。

紅衣の騎士団の分団長をキルした司というプレイヤーが騎士団に追い回されているらしい。
バルムンクの知り合いである騎士長には気の毒だが、俺の騎士団に対する評価はあまり良くない。

以前一度だけ、騎士団の連中が不正を行ったPCを注意している現場に遭遇したことがある。
不正と言ってもPCの服の色を変えた程度で、俺なら言葉で注意するくらいで済ませるんだがアイツ等は違った。
あれは注意というより上の者が下す“粛清”という言葉があっていた気がする。

勿論俺は注意したさ……どちらにも、な。
最終的に分かってくれたのかどうかは別として。

とにかくその騎士団が全力で探しているのが“司”ってことだ。


“黒い幽霊少女”と“吸魂鬼”はどっちかというと怪談染みた話題。
モンスターと戦ってる途中に、突然空中から現れて乱入してくる2人組。
少女は吸魂鬼と呼ばれる隻腕の男に指示を出し、男は腕と同化した巨大な剣でモンスターの腕と胴体を切り離す。
その後少女が落とされた腕を消し、男は残された胴体に剣を突き刺し消滅させるとか。

あと確か目撃者は何もしちゃいけない。
もし攻撃を仕掛けたりしたら即座にキルされ、二度と『The World』に戻れない……だったか?


「でもそれとこのバグに何の関係が?」

「今回関係があるのは後者の方だ。
 あの噂が……紛れも無い事実であることが確認できた」

「へぇ……詳しく説明してくれ」


あのバルムンクが“確認”と称するくらいだ。
噂が事実という話はほぼ間違い無いと言っていいと思う。

それならコイツが神妙な顔つきをしているのも分かる話だ。

もし例の2人組がしていることが本当なら。
“空中に”現れたことや“隻腕”であること。
モンスターの体を切り離すことやキルされたPCが二度とゲームに戻れないこと。

大小の差はあれど、それが事実だとすると明らかに仕様外。
このゲームにかなりの思い入れがあるバルムンクにとって、それは許せないことなんだ。
無論、俺もはっきり言って不正行為は嫌いだからな。その気持ちは十分に分かる。

1年位前だったか。
一時期、バルムンクと共に偏欲の何たらって男を探したこともある。
結局見つける前に『The World』から追い出されたらしいけど。


さて、そろそろバルムンクの説明を聞くとしましょうかね。


「先日ルートタウンで2人のPCが俺に話しかけてきた。
 それぞれは別の時間に、別の場所で向かってきたんだが、話の内容が2人ともほぼ同じだった。
 隻腕の男にキルされた自分のPCデータが壊された上に、アカウント自体が使えなくなってしまったらしい。
 そのことをCC社に抗議したが、新しいアカウントを用意されただけで噂の2人組には何もしてくれない。
 だからフィアナの末裔たる貴方に彼等を退治して欲しい……ということだ」

「BBSの書き込みにあった“二度とゲームに戻れない”ってのはPCが使えなくなることだったのか。
 しかしPCデータの破壊、ねぇ……一体どれ程の改造をすればそんなことが出来るようになるやら」

「……まるで分からん。
 だが調査をしていくうちに、糸口らしきものが見つかった。
 PCがキルされた、というより2人組が現れたと思しきエリアには共通点があったのだ。
 尤も、全てのエリアに共通しているわけではないが……」

「成る程、それがこのバグっぽい奴なわけだ」


話の流れからしてそれが妥当な線だろ。

そして俺の予想通りにバルムンクは頷く。
つまり目撃情報の中にあったエリアのほとんどで、こんな現象が起きてたってことだ。

本来ならシステム管理者に任せるべきなんだろう。


でも俺達はこの“世界”に生きる誇り高き『フィアナの末裔』なんだ。

別に正義の味方を気取るつもりはないが、“世界”の異常に目を逸らせる程俺達は“世界”と遠縁じゃない。


「よし、それじゃあ俺達なりに調べるとしようかッ!
 この世界を守る為に…………な、バルムンクッ!」

「……ありがとう。
 お前ならきっとそう言ってくれると思っていた」


俺の微塵の迷いも無い言葉にバルムンクは微笑む。

俺達はリアルを知らなくても互いを信頼できる友だ。
だから余計な言葉は要らない。

そして2人の“世界”を想う心は誰にも負けない…………ちょっとクサかったか?


「んじゃまずは、これと同じようなバグを――――」


少しだけ照れくさくなった俺は、誤魔化すようにして早速調査に取り掛かろうとする。

それに合わせてバルムンクも表情を元に戻した。


そんな時だった。


「うわぁぁぁぁぁッ!!」


遠くからでも分かる程叫び声が響き渡ったのは。


俺達が辿り着いた先で見た光景は……一種の地獄絵図だった。

頭を垂れ、体じゅうの力を抜いているような隻腕の男。
所々に歯車みたいなものが差し込まれている体は宙に浮いており、足も地面についていない。
ソイツが唯一力を入れていると思われるのは、何かが流れている黒い大剣と同化している片腕のみ。

そしてその腕は…………双剣士らしき男の胸を貫いていた。

そう、あくまで貫いて“いた”という過去形。
何故なら双剣士の体は既に虹色のデータの螺旋として消えていったから。
最早アイツの痕跡は微塵も残されていない。

そんな様子を冷たい視線で空中から見下ろす少女。
腰まで伸びた長い黒髪に、これまた黒い上下が繋がってる服。


まさに俺とバルムンクが探そうとしていた2人組だ。


「オルカ、行くぞッ!」

「……おうッ!」


各々の武器を手に取り、走り出す。
俺達は互いに言葉を交わさなくとも理解していた。

あの男がどういうわけか意思のない人形に過ぎないことを。
そしておそらく高みの見物をしている少女がそれを操っているだろうことを。

だから少女と話す為に全速力で距離を縮める。
四肢を投げ出したまま動こうとしない隻腕の男の動きを警戒しながら。


“……貴方達も邪魔するの?”


男と真正面から対峙する形になったところで少女の透き通った声が響く。
その声色には無感情ながらも少量の呆れが含まれていて、間違いなく歓迎されていないことだけは分かった。


「ふざけるなッ! 貴様等が「待て、バルムンクッ!」しかしッ!」


激高のあまり、今にも飛び掛ろうとするバルムンク。
頑なまでに不正行為を嫌うコイツにとって、さっきの光景は冷静さを失わせる程に衝撃的だったんだろう。
俺も正直未だにリアルの心臓がバクバク言ってるくらいだ。

でも即座に攻撃するのは愚策だ。

明らかに常軌を逸した仕様の2人組。
正確に言えば、1人の少女と彼女に操られているらしい隻腕の男ということになるかな。
とにかくアイツ等が動く理由を知る必要がある。

いくら『フィアナの末裔』などと呼ばれていようと、俺達はあくまで一般PCに過ぎない。
不正を言葉で“正す”ことは出来ても、力で“粛清する”ことはすべきではないんだ。


バルムンクを片手で制しながら一旦武器を下げ、こちらを見下ろす少女に問いかける。


「なあ、君は何の為にこんなことをするんだ?」

“…………邪魔、しないの?”


俺の言葉に少しばかり戸惑いの表情を見せる少女。
もしかすると噂通り、敵意さえ見せなければ攻撃されないのかもしれない。

だとしたら話の動かし方次第では……。


「ああ、邪魔はしない。
 だから君が動く理由を教えてくれないか?」

“……………………”


それにしても、彼女は一体何者なんだ?

宙に浮いたり、PCを操ったり、モンスターやPCデータを消し去ったり(これは隻腕の男の方だけど)。
どれもこれも不正改造でもしなけりゃ到底得られない能力だ。
しかも今まで見てきた中で、これ程の改造を施されたPCは他に見たことが無い。

なのに彼女の表情や仕草は、どこか子供っぽさが感じられる。
冷たい表情をしていた時には分からなかったが、今の戸惑ったり迷ったりしている様子はとても自然に思えた。
……ともすればリアルの人間と見間違う程に。


バルムンクもようやく落ち着いてくれたようで、俺を押し切ろうとはしなくなっていた。
まあ、相変わらず武器は構えたままなんだけどな。

その後、しばしの沈黙の後に彼女は語り始めた。


“……器を直す為”

「器、だと?」 

“そう……帰ってきて貰う為の器”


全く動きを見せない隻腕の男を愛おしげに眺める少女。
その表情から彼女の言葉が紛れも無い真実であり、“器”とやらがあの抜け殻PCだということは明白だ。

それでもハッキリ言って謎だらけのまんまだな。

どうしてPCが“器”なのか?
誰がその器とやらに“帰る”のか?


不正どうこうを抜きにして純粋に気になった俺は、勿論質問することに。


「え〜と、もう少し詳しく「……オルカ」バルムンク?」


が、その途中で我が相棒に言葉を切られてしまった。


「俺達が聞くべき点はそこじゃない。
 今1番知る必要があるのは……」


そう言いながら前へ進みだすバルムンク。
……なぁ〜んか激しく嫌な予感がするな。

そして予想は的中。


「貴様等が自らの行為を改めるか否かだッ!」


こともあろうにコイツは少女に剣先を向けながらそんなことをのたまいやがった。

我が相棒は、どんな理由があろうと不正を許さないって言いたいんだろうな。
それについては俺も同意見なんだけど、もう少し社交的に話し合うべきなんじゃないの?
バルムンクって意外と感情に流され易いんだよなぁ……。


そんな相棒の言葉は少女の表情を再び冷たいものに戻してしまった。


“…………嘘吐き。やっぱり邪魔するんだ”


あ〜あ、せっかく悪くない雰囲気になり始めてたってのに。
寧ろ逆に、出会った時以上の険悪さを感じるぞ?

俺達の届かないような高さまで浮かび上がる少女。
同時に今までピクリとも動かなかった隻腕の男が、宙に浮いたままゆっくりと近づいて来る。


どう考えても戦闘態勢に入ろうとしているのが分かる。


「ったく……恨むぞ相棒ッ!」

「……済まない。
 だが俺はどうしても許せないんだ……この世界を汚す連中が」


まあいいさ、それが相棒の“らしさ”ってもんだから。

あっちもやる気になってるし、お話は少々懲らしめてからの再開にしようかね。


“お願い……”


少女の言葉を合図にゆっくりと顔を上げる隻腕の男。
その顔の様子に、俺だけでなくバルムンクまでもが一瞬怯んでしまった。

奴の顔半分はフィールドにあった木の断面にソックリだった。
よく見ればそれは顔から首、肩、そのまま大剣まで繋がっている。

まるで何かに侵食されているようだ。


そしてそんな俺達の隙を奴は見逃さない。


「くぅッ!?」

「バルムンクッ!」


地面を蹴ることなくそのままの体勢から、PCとは思えない程の速さで切りかかってきた。

それを何とか受け止めるバルムンク。
しかし奴の力が強いのか、はたまた巨大な剣ゆえか、鍔迫り合いでは少々押され気味だ。

無論ただ立ち尽くしているだけの俺じゃない。

剣を構え直し、


「はぁぁぁぁぁッ!!」


奴の腕がない方目掛けて振り下ろす。

俺の攻撃を防ごうとすれば、注意が散漫になりバルムンクが力で押し切る。
バルムンクを先に切り伏せようとすれば、俺の攻撃をまともに受けることになる。

よって奴が取れる手段は後方に下がることのみ。
2対1という条件を上手く利用して、常に相手を退かせる戦法を取る。

俺達はあくまで一般PC。たとえ相手に否があろうとPCをキルしていい理由は無い。
だからこのやり方は、相手を倒すことなく勝つのに適している。


今回もそれでいけるかと思ったんだが、甘かったようだ。


「俺達『フィアナの末裔』をなめ<ジジッ>何ッ!?」


鍔迫り合いの途中で互いの剣が交わる部分からノイズが聞こえ出す。
更にそれだけに留まらず、その部分からバルムンクの剣のグラフィックが剥がれ、黒い波が広がっていく。

その姿は、奴の大剣が相棒の剣を喰らっていくかのような印象を俺に与えた。

豹変する自らの剣に、一旦身を引くバルムンク。
それに合わせて俺も振り上げていた得物を停止させ、後方へ下がる。


「大丈夫か、バルムンク?」

「あ、ああ……俺は何ともないが……」


珍しく戸惑いを露にした相棒の声。だがそれも当然だと思う。
何せ自分の剣が虹色の螺旋と共に跡形も無く消えてしまったんだから。

こりゃあもう、不正改造がどうこうの段階をとっくに超えているな。


「ところで装備欄はどうなってるんだ?」

「……何も装備していない状態らしい。空欄になっている。
 替えの武器を持ち歩いていて良かったと思ったのは久しぶりだ」


その言葉と同時にバルムンクの手に新しい剣が現れる。
これで武器の問題は一応解決したが……さてどうしたらいいのやら。

鍔迫り合いの度に武器が消されちゃ、すぐに手持ちがなくなってしまう。
かといって俺達は剣士。間に合わせ程度の呪紋しか使えない。

出来ることといったら、奴の大剣を全て避けつつヒット&アウェイを繰り返すことくらいか?


「それじゃ、気を取り直して少しずつ奴の体力を削っていくとしますかッ!」

「ああ、俺達が本当に相手をすべきはあの男じゃない」


バルムンクの言う通りだな。

俺達が真に相対すべきは操られているPCじゃなく、それを操っているあの少女だ。


俺達は同時に地を蹴り、奴を退けるべくそれぞれの得物を握り締める。

その瞬間、視線の先にある奴の死んでいた瞳が一瞬だけ揺れ動いたような気がした。


まさかそんな些細な出来事が後に俺達を救うことになるとは、この時は思いもしなかったよ。


あとがき

フィアナの末裔調査開始&いきなり戦闘も開始の巻。
どっちにしようか迷ったけど、結局不遇の英雄ことオルカ視点でいきました。
このSSにおいて彼は暴走気味なバルムンクの歯止め役をして貰ってます。

次回は再びアルビレオ視点に戻る予定。
理由は1番書き易いから……というのは嘘であって欲しい。
というわけで今回はこの辺で。


レス返しです。


>TAMAさん

主人公は弄られキャラですから(笑)。
焔のリアルは物語には関係なくとも主人公には激しく関係あったり。
シェリルとフィアナの末裔は結局激突しちゃいました。
生き残った理由については次回明らかになります。


>ふみさん

有難うございます。
主人公が居ようと居なかろうと物語は動きます。
彼が戻ってくるのはもう少しです。
これからもよろしくお願いします。


>支離流さん

ジョヌ夫も早く主人公出したいです。
そして今まで続いたシリアス風味を激しくぶっ壊したいです。
主人公の嘆きっぷりに乞うご期待(笑)。


>白亜さん

アルビレオ&焔組が本格的に動き出すのはZERO編からになる予定。
彼等はかなり物語に介入してきます。おそらく形はどうであれ最後まで。
フィアナの末裔も同様にZERO編からってことになりそうです。
これからもお互い頑張りましょう。

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