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▽レス始

「退屈シンドローム 第19話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2007-02-26 20:28/2007-03-03 17:45)
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「昨日はどうして来なかったんだよ。反省会をするんじゃなかったのか?」
「煩いわね。反省会なら一人でしたわよ」

 SOS団アジトの中のだらけ空間と並んで最早一日の生活サイクルの一環に組み込まれつつある、朝のホームルーム前のキョンとハルヒのやり取り。昨日の待ちぼうけを根に持つキョンを面倒そうに一瞥し、ハルヒは机に顎を付けて突っ伏し口を開いた。

 訊けばハルヒは週末の探索で歩いたコースを、午後の部の分だけ学校の帰りに一人で巡っていたのだと言う。時間の都合と道が家とは反対方向だったと言う理由で幽霊教会方面には足を運んでいないらしいが。

「暑いし疲れた」

 どんなコースを廻ったかは知らないが探索の後半を丸々サボった僕が未だ筋肉痛から脱していないと言う事実も省みながら。二度ネタと理解しつつも言わせて貰いたい。ハルヒの体力は底無しか?

「涼宮。前にも言ったかもしれないけどさ、見つける事も出来ない謎探しはすっぱり止めて、普通の高校生らしい遊びを開拓してみたらどうだ?」

 呆れ半分に提言するキョンにハルヒは鬼のように目を剥きながらガバリと顔を上げ……る事も無く、机に突っ伏したまま億劫そうにキョンを一瞥しただけだった。疲れているのは本当らしい。

「……高校生らしい遊びって何よ?」

 声にもいつもの元気が無い。と言うより、そもそもいつものハルヒならば絶対に言いそうにない問いを口にしている時点でハルヒらしくない。どうやら思いの外、相当参っているようだ。

「良い男でも見つけて市内の散策ならそいつとやれよ。その奇矯な性格さえ隠蔽していれば、お前なら男に不自由なんてしないさ。デートにもなって一石二鳥だろうが」

「ふんだ、男なんかどうでも良いわ。恋愛感情なんてのはね、一時の気の迷いよ。精神病の一種なのよ」

 机を枕にしてぼんやり窓の外を眺めながら、ハルヒは無気力そうにキョンの提案を却下した。

「あたしだってね、たまにだけどそんな気分になったりするわよ。そりゃ健康な若い女なんだし身体を持て余したりもするわ。でもね、一時の気の迷いで面倒事を背負い込む程あたしは馬鹿じゃないわ。それにあたしが男漁りに精出すようになったらSOS団はどうなるの、まだ作ったばっかりなのに」

「何か適当なお遊びサークルにすれば良い。そうすりゃ人も集まるぞ?」

「嫌よ」

 キョンの提案を一言で拒絶し、ハルヒは力無く息を吐く。

「そんなのつまんないからSOS団を作ったのに、萌えキャラと謎の転校生も入団させたのに、……何で何も起こらないのよ」

 泣きそうな声でか細く呟き、ハルヒは力無く顔を伏せた。……相当重症だな、これは。

 ハルヒの疑問はある意味的を射ていると僕は思う。ハルヒが何かを望んだのならば、それは須く現実となると言うのが朝倉や古泉の話だ。現にハルヒが自己紹介の時に所望した宇宙人、未来人、超能力者。それらの超常的存在は総てSOS団に集っている。それに第一SOS団の連中はハルヒを筆頭に人格的にも愉快極まりない面子が揃い踏みしている訳だから、宇宙やら未来やら超能力やらと言った不思議的要素を除外したとしても何かしらの問題やら騒動が起こってもおかしくはない筈だ。

 ……あれ、何かを忘れているような気がする。宇宙人、未来人、超能力者。あの日、ハルヒが望んでいたのは本当にそれだけだっただろうか。僕は灰色の脳細胞をフル回転させ、記憶の底に埋没しているハルヒのあの迷台詞を引っ張り出した。

 ーー「ただの人間に興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所に来なさい」

 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者……。

 長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、……あれ?

「……あー、そっか」

 異世界人が、まだ足りないんだ。

 良く考えてみれば何と言う事も無い、フラグがまだ全部立ち切っていなかったのだ。SOS団にはまだ異世界人が入団していない。或いは僕かキョンのどちらかが異世界人役なのかもしれないが、そうであると言う自覚が無ければ存在していないも同然だ。

 ……まぁ尤も、最近異常に高濃度な毎日を送っているからまるで何ヶ月も経っているように錯覚してしまうけど、実はSOS団自体ハルヒが設立を宣言してからまだ一週間も経っていないんだけどね。

 僕が思うに、ハルヒは些か結果を急ぎ過ぎているような気がする。自分の行動に結果が速やかに付いて来ないと気が済まない、そんな一種の焦りがハルヒの言動の端々に見受けられる。もう少しのんびり構えていても罰は当たらないだろうに。果たして昔の人はこう言う時に何と言っただろうか。急がば回れ? 微妙に違う気がする。

「……どうしたんだ野比? 一人百面相なんか始めて」

 気がつけば、キョンが何やらイタいものを見るような目で僕を見ていた。

「ハルヒに続いてお前まで暑さにやられたのか?」

 本気で心配そうな顔で中々失礼な事を言ってくれる。この程度の暑さで僕は沈みはせんよ。

「別に、何でもないよ」

 言葉を濁し、僕はハルヒへと視線を移した。ハルヒは相変わらずぐったりと机の上に突っ伏している、このまま溶けてしまいそうな勢いだ。

「ハルヒ、謎探しを忘れるって意見には僕も賛成だよ。「謎」ってのは簡単には見つけたり解明したり出来ないから謎なんだからさ、忘れた頃にひょっこり出て来る程度がちょうど良いよ」

 僕の説得に、ハルヒは顔を上げようともしない。

「……この際不思議探しは一度忘れて、気分転換に何か別の事でも考えてみようよ?」

「……別の事って、例えば何よ?」

 ハルヒは緩慢な動作で顔を上げ、死んだ魚のような眼で僕を見た。いつもの覇気の欠片も無い、重症を通り越して危険域だ。

「まさかあんたも、あたしに男漁りしろとか言うつもり?」

 それこそまさかだ。恋愛感情を単なる精神病と断ずるハルヒの仮説には諸手を挙げてとまではいかないが僕もある程度の理解を示しているつもりだ。その証拠に僕は過去の冒険に於いて幾度と無く所謂「一目惚れ」と言う現象を経験しているが、毎回次のカットでは何事も無かったように普通に接していたような気がする。まるで一発ネタ扱いだ、これを気の迷いと言わずに何と言う。

 それはさて置き、やはりハルヒはどうも目先の一点に囚われ過ぎて左右への注意が疎かな傾向にあるらしい。先日の不思議探索の結末は、単に成果ゼロで終わった訳では無い。

「例えば、……僕達の罰ゲームはどうなったのさ?」

 何やらすっかり忘れられているような気がしないでもないが前回の不思議探索時、我等が暴君涼宮ハルヒの気まぐれで「遅刻者はペナルティ」と言うルールがSOS団団則の一番上に付け加えられた。僕の記憶が正しければ朝の集合に僕が十五分遅刻して、昼の集合にキョンと朝比奈先輩が十分遅刻して、最後にキョンと長門が五十分と言う致命的な大遅刻をやらかして、結局何のペナルティも受けずに済むのはハルヒ本人を除けば古泉だけだ。

 罰ゲームと聞いて最初怪訝そうな顔をしていたハルヒとキョンだが、先日のやり取りを思い出したのか一拍遅れて実に対称的かつ解り易いリアクションを返してくれた。具体的に言えば、ハルヒは水を得た魚と言うか寧ろエリクサーか何かで蘇生した魚屋店頭の魚のような勢いで眼の色を回復させ、反対にキョンはブルータスに刺されたシーザーのような顔で恨めしそうに僕を睨んでいる。

「よく思い出させてくれたわのび太、お手柄よ!」
「何で思い出させたんだよ野比、忘れさせとけよ」

 コメントも実に正反対な二人だった。と言うか二人共、まさか本当に忘れてたのかよ。


 その後、午前の授業中の殆どをハルヒは熟睡して過ごした。餌を与えてみたとは言え所詮はにわか元気、流石のハルヒも限界だったのだろう。体力的にも、精神的にも。

「異世界人でも連れて来たら少しは元気になるだろうか。キョンはどう思う?」

「……まるでお前が異世界人に心当たりがあるような言い方だが、それは俺の気のせいだと思って良いんだよな野比?」

「んー、……たまに空見上げたら頭の上を飛んでるかもね。鳥に紛れて」

「…………」

 授業の合間、とある休み時間の僕とキョンの会話である。机越しの雑談だったから当然その隣ではハルヒが寝ている訳なのだが、寝てるから特に問題は無いだろう。

「……野比。まさかとは思うが、お前長門や朝比奈さん達の電波なカミングアウトを真に受けてるんじゃないだろうな?」

 急に真面目な顔になったキョンが訊いてきた。

「長門の正体が宇宙人に造られた人造人間で、朝比奈さんは実は時を駆ける少女で、古泉の裏の顔が少年エスパー戦隊? それで今俺達の傍らで寝息を立ててるこの女はそいつら曰く「進化の可能性」やら「時間の歪み」やら挙げ句の果てには「神」? そんなデタラメが有り得ると本気で思っているのか? それでもしかして、自分は実は異世界人だなんて言い出すつもりじゃないだろうな?」

 僕の眼を覗き込むように一瞬たりとも視線を外す事無く、キョンは再び問い掛ける。まぁ、別に絶対に有り得ない話では無いだろうね。

 僕の返答にキョンは失望したように嘆息し、イタいものを見るような生ぬるい目をして語り始めた。

「現実を教えてやるよ、野比。そんな事ある訳無いだろう。良いか野比、もっと常識的に考えてみろよ。そんなもんは漫画か小説の物語の中にしか無いんだ。現実はもっとシビアでシリアスなんだよ。例えば県立高校の一角で世界が終わってしまうような陰謀が進行中とか、例えば人間外の生命体が閑静な住宅街を徘徊してるとか、例えば裏山に宇宙船が埋まってるとか、無い無い無い、絶対無いって。解るよな? お前も本当は理解してるんだろう? きっとハルヒの奴も何だかんだ言って頭では理解してる筈さ。ただもやもやしたやり場の無い若さ故の苛立ちがこいつを突き抜けた行動に導いてるだけなんだよ。俺達だって同じだ。皆同じように煮え切らない何かを抱えているから、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶなんて言う馬鹿げた夢を真面目に追い掛けてるハルヒがついつい羨ましくなって一緒にいるだけなんだよ。SOS団が空中分解しないのはそのせいさ。宇宙人とか未来人とか超能力者とか、あれはきっとあいつらなりのジョークなんだよ。だからお前も目を覚ませ。そう言えばお前もハルヒ程じゃないが、四月の仮入部シーズンには随分暴れたらしいな。何所の部活か知らないが、お前一時期物凄いオファーを受けてただろ。正式に入部して汗でも流してみたらどうだ。勿論ハルヒに付き合って馬鹿をやるのも別に良いさ、お前の自由だ。だけど現実はしっかり見ろよ。もう一度言うぞ、現実をしっかり見ろ。宇宙人とか未来人とか超能力者とか、そんなものは有り得ない」

 畳み掛けるような勢いでヒステリックに力説するキョンに、僕は内心重く息を吐いた。そうだよね、きっとこれが普通の反応なんだよね。未来出身押し入れ在住な猫型タヌキを巻き込んだり巻き込まれたりしながら色々と好き放題にやってきた僕やその周辺ご近所の皆々様方が異常なだけで、その他の最大公約数的な一般人諸君にとってはきっとこれが普通なのだ。おかしいのは僕であって、キョンじゃない。

「……悪い、ちょっと言い過ぎた」

 沈黙する僕を落ち込んでいると思ったのか、キョンが微妙に申し訳無さそうな顔で謝ってきた。

「長門達に立て続けに電波な話を聞かされててさ、涼宮程じゃないが俺も結構疲れてるらしい。お前に八つ当たりしてた」

 キョンにしては苛烈な事を言っているとは思っていたけど、八つ当たりだったのか。

「……安心しなよキョン、僕は異世界人なんかじゃないから。勿論宇宙人でも未来人でもないし、超能力の才能も無いよ」

 僕の言葉にキョンは本当に安心したように、「そっか」と小さく漏らした。

 キョンは知らない、現実がキョンの言う「常識」をとっくに凌駕してしまっていると言う事に。現実は小説より奇なり、まさに格言通りの世界に僕達が生きている事に。

 キョンは知らない。知らなくて良いと、僕は思う。

「……ところで今更なんだけど、教室の片隅で異世界人がどうとかこの世の現実がこうとか電波な事を真面目に話してる僕等って周りから見たら果たしてどうなんだろうね?」

「……あ」

 繰り返すが今は授業の合間の休み時間、そして場所はハルヒを隔離でもするように教室の端に宛てがわれた僕達の机。気が付けば、僕達はまるで腫れ物でも触るようなクラスメイト達の視線の渦中に晒されていた。もしかしたら遂に、本格的にハルヒと同列だと認識されたかもしれない。

「……恨むよ、キョン」
「ネタ振りしたのはお前だろうが」


 ● ● ●


 昼休み。加速装置を作動させた某改造人間九人目もビックリな勢いで弁当を平らげた僕は、昨日の約束通り朝倉と一緒に生徒会室に残ったプリントを製本していた。僕が長机の上のプリントを拾い、その間に朝倉は纏め終わった書類をホチキスで留める、単調な流れ作業。だけど処理する量は僕が十で朝倉が九十だから、当然僕の方が早く終わってしまう。

 二人だけの生徒会室に紙を拾う衣擦れに似た音とホチキスを留める金属音だけが反響し、そしてやがてホチキスの音だけに変わった。僕の仕事が終わったのだ。並べ終えた最後の十部を朝倉の傍らに置かれたプリントの山の上に重ね、僕は長机の上に腰掛けた。

 一人黙々とホチキス留めを続ける朝倉と、その朝倉の姿を何となく眺める僕。無言のまま淡々と過ぎて行く時間。……正直言って、少し気まずい。

「……朝倉ってさ、何か趣味ってある?」

 二人きりの生徒会室の中に重苦しく漂う気まずい空気を何とかするべく僕は苦し紛れに口を開き、そして次の瞬間「何か見合いでもしてるみたいだなー」などと思ってしまって自己嫌悪の海に沈んだ。馬鹿か僕は、他にもっとマシなネタだってあっただろうに。

「どうしたの? いきなりお見合いの始まりみたいな事聞いてきて」

 朝倉にも指摘されてしまった。それにしても、見合いで会話のネタに困ったから取り敢えず趣味でも聞いて会話の糸口にと考えるのは宇宙共通なのだろうか。それとも朝倉が日本の見合いの伝統を学習しただけなのだろうか。微妙に朝倉の趣味より気になる疑問だ。

「趣味、ねぇ……。悩むなぁ」

 ホチキスを握る手を止めて、朝倉は困ったような顔で天井を見上げた。指先を軽く顎に当てて、物思いでもするように首を傾げる。非の打ち所の無い悩み顔だ、これが「学習」の成果と言う奴か。

「……料理、かな。強いて言えば」

 一分近い熟考の末に朝倉が出した答えは、その宇宙スケールの出生や背景にしてはえらく家庭的なものだった。尤も、それは僕の偏見なだけかもしれないけど。何せ普通に漫画を読んだり宝クジを買ったりデートしたりする、ドラ焼きをこよなく愛する自称22世紀の科学の結晶もいるのだから。

「野比君は射撃だったよね?」

 問い掛ける朝倉に僕は無言で頷いておく。射撃と昼寝とあやとり、後変装の四つだけは誰にも負けない自信がある。特に変装は西中時代の担任の義妹で長門級に無表情で何かの武術の達人で空飛ぶ黒猫を飼ってるとあるブラコン東大生の指導で骨格の変形をマスターしたし、あやとりもこの三年の間に必殺仕事人的暗殺術っぽい何かに進化した。もうあやとりを女の子の遊びだなどと言わせるつもりは無い。あやとりは頑張れば立派な隠し芸になるのだ。その代わり大切な何かも等価交換的に失うけど。

 しかし良く考えてみると僕の趣味って、英語さえ加われば何所かの国の諜報員でもやっていけそうなラインナップなんだよね。これは一つ本腰入れて英語を勉強して、将来の進路希望はCIAか英国諜報部も視野に入れておいた方が良いかもしれない。

「……どうしたの? 急に真面目な顔で黙り込んで」

 気がつけば、朝倉が怪訝そうな顔で僕を見上げていた。何でも無い、ただちょっと進路の事について考えていただけだよ。

 朝倉は僕の答えに別段興味無さそうな顔で一言「ふぅん」と返し、ホチキス留めの作業を再開させた。規則的なホチキスの音が再び、二人だけの生徒会室に響き始める。

「野比君、今日も涼宮さんの部活に参加するの?」

 ホチキスを握る手を留める事無く、朝倉は何気無さそうな口調でそう尋ねてきた。ホチキスとは逆の手に持つプリントの陰に隠れ、朝倉の顔は僕には見えない。

「そのつもりだけど、何で?」

 逆に問う僕に朝倉は一言「ふぅん」と生返事を返しただけで、僕の問いに答えてはくれなかった。……まぁ、良いんだけどね。僕は誰の言う事でも聞いてしまうが、それなのに誰も僕の言う事を聞いてくれない。僕はそんな生まれつきなんだよ。溜め息混じりにそう愚痴ってみたら、朝倉に「寝言は寝て言って」と鼻で笑われた。何となく悔しかった。

 ホチキスの音が止んだ、どうやら百部全てを留め終えたらしい。昼休みもちょうど終わり、予鈴の鐘が生徒会室の壁に反響する。

「あたしはこのプリントを職員室に持って行くから、野比君は先に教室に戻ってて」

 そう言って朝倉が完成した書類の山を抱えながら立ち上がり、生徒会出入り口の引き戸に指先を掛ける。

 その時、

「……野比君、手伝ってくれたお礼に一つ忠告してあげる。今日は早く帰った方が良いわ」

 引き戸に手を掛けたまま僕を振り返り、朝倉は唐突に口を開いた。気のせいか、僕にはその声は心無しかいつもの朝倉よりも硬く、今までで一番いつもの朝倉よりも冷たく聞こえた。

「何それ。占い?」

 尋ねる僕に朝倉はクラスメイトの微笑を浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。

「さよなら、野比君」

 最後にそう言って朝倉は引き戸を開け、廊下の向こうへと消えて行った。まだ午後の授業があるんだからさよならも何も無いと思ったけど、別に態々指摘する程の事でも無いだろう。もしかしたらこれが朝倉の言う「情報伝達の齟齬」なのかもしれない。同じ「さようなら」でも「じゃあね」やら「また今度」やら「ごきげんよう」やらと無駄にバリエーションが豊富なのが日本語だ。今度何か話す機会があったら教えておいてやろう、ああ言う場合は「またね」と言うのが適当だと。

 その時僕は、ただそれだけの事だと思っていた。


 数時間後、僕は朝倉の言葉の意味を知る事となる。忠告の意味も、「さよなら」と言葉の真意も。

 だけどこの時はまだ、僕は気付いていなかった。いや気付こうとしなかっただけだったんだ。

 僕はこの時また三年前と同じ、三年前よりも大きな罪を犯したのかもしれない……。


ーーーあとがきーーー
 グルミナです。『退屈シンドローム』第19話をお届けします。実は今回の話はプロットの段階ではオリジナルキャラで演劇部の面々を出してそいつらメインで話を進めるつもりでおり、実際その予定で書いていたのですが、色々と面倒臭くなったので丸々書き直しちゃいました。スマン演劇部。
 「現実は小説より奇なり」と言う格言が今話前半の締めとなりましたが、本当現実ってそんなものですよね。その一端を↓に小話風に纏めてみました。
ーーー

 先日実家で起きた事なのですが、台所の換気扇の中に雀が入り込むと言う事件がありました。朝親が起きて朝食の支度を始めようとしていたら、換気然の中から鳥の羽の音がする。それで子供を叩き起こして蓋を外した換気扇の中を攫わせてみると、

 雀が一羽、特攻してきました♪

 その後何とか雀を外に追い出してホッとしたのも束の間、換気扇の中からはまた鳥の羽の音が聞こえてくる。それでもう一度換気扇の中を攫わせてみると、

 雀が一羽、特攻してきました♪

 元々二羽いたのか戻って来たのかは知った事ではありませんが、二度も特攻喰らいそうになった身としては傍迷惑極まりない事です。結局二羽で済んだから良かったものの、もし三羽目がスタンバっていたらと考えると、今でも怖いです。

ーーー
 ……えー、上記の思わず「何そのコント」とツッコみたくなるような小話ですが、純度100%のノンフィクションです。実話です。現実って、あっさりと想像を凌駕するものなんですね。
 次回から遂に朝倉戦に入ります。そして噂の演劇部長もチョイ役で登場予定です。が、その前に一言。皆様は、オリジナルキャラはお好きですか?

>rinさん.
 朝倉戦では、のび太には前衛で頑張って貰いたいと思っています。長門が来るまで、のび太にはキョンを守り抜いて貰わなければ。 のび太には戦闘能力は無い? ……まぁ囮役位ならばこなしてくれるでしょう。
 のび太はやらずにした後悔もやってした後悔も知っていますからね。どう動くかはお楽しみです。

>J.B.ヴァーデルさん
 劇場版ネタの本格参入とは銘打ちましたが、まだ暫くは小ネタ扱いです。本格的にキャラを出していくのは当分先になるのでご安心を。寧ろ第一部で出て来るかどうかが心配です。

>パーマニズムさん
 朝倉フラグです。そして今回は死亡フラグ?(ヲイ
 のび太は何とでも友情を結べる才能を持っていますが、朝倉相手には先入観のせいで時間が掛かりましたね。ところで劇場版ドラえもんのゲストキャラって、のび太と友情成立すると最後まで生き残れますが静香とフラグが立つと死亡確定な気がするのは気のせいでしょうか? バギーと言いリルルと言い……。

>HEY2さん
>「一つ一つのホッチキスが甘い、だから簡単にページがバラける。学級委員解任」サラサラサラ…
 コレに吹きましたww ちょっ、コレ使って良いですか?
 メガネ投擲の元ネタは以前ジャンプで連載されていた『シャーマンキング』です。小学館のキャラが集英社の雑誌読むなとのツッコミもあるでしょうが、現代っ子には出版社の弊害なんて関係無いんです。

>蒼夜さん
 朝倉は原作で敵役の上出番も少なかったので、好き勝手やってみました。最近ハイペース気味な更新速度ですが、そろそろ以前のものに戻そうと思います。速さより室を上げたいので。

>kouさん
 のばしにのばした朝倉戦ですが、遂に次回決戦です。もう逃げられません、どうしよう……(コラ
 長門の眼鏡、すっかり忘れてました。きっと部活の間はメガネ無しで過ごして、翌日は何事も無かったようにまた掛けて来たんでしょうね。……投擲に耐えるべく強度を上げに上げた戦闘用メガネを。

>龍牙さん
 キャラソンですか。自分は聞いていないのでノーコメントですね。でもライブの曲は大好きです。
 性格設定の解釈は元々原作のキョンに何となく反感を持って、こいつの鼻を明かしてやりたいみたいな感じで考えたのが最初です。「何でこんな性格にしたんだよ」と親玉に憤るキョンに、「オマエのせいだよ」と返してやりたくて。でも、そもそも何でキョンに反感持ったのかは今では覚えていません。ハッ、まさかコレはニャル様の罠!?
 長門は目下経験値蓄積中です。好奇心盛りの子供みたいなものですね。原作の負けず嫌いも何となく子供っぽいと感じてしまう今日この頃です。
 今回のび太の師匠である某妹の影をチラつかせてみましたが、本編登場は未定です。反響が良かったら外伝として彼女との出会いを書いてみようと思いますけど、その時は元ネタ表記が(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)から(ラブ○な+ドラえもん)に変わっちゃいますね。

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