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「退屈シンドローム 第18話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2007-02-04 22:47/2007-02-26 16:50)
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 あらゆる意味でドッキリの連続だった週末の不思議探索から一夜が明けた、月曜日。案の定朝起きた瞬間にダース単位で襲撃してきた全身筋肉痛に喘ぎながら僕はのろのろと坂道を登り、しかし途中のコンビニで漫画週刊誌を購入する位の余裕を意味も無く自分自身に見せつけ、始業の鐘ギリギリで教室に滑り込んだ。

 今日の空模様は思わず殺意を抱いてしまいそうな程に雲一つ無い快晴。だけどそろそろ漂い始めた湿気と言う名の夏の足音を肌で感じる辺り、梅雨入りは時間の問題らしい。夏服に衣替えする六月に入るまで後二週間弱、一年を通じて最も不愉快な六月まで後二週間弱。

 この日、ハルヒは一日中キョンの背後から不機嫌かつダウナーなオーラを放出し続けていた。昨日の探索が殆ど空振りに終わってしまった事が地味に堪えているのかもしれない。古泉以外全員遅刻の体たらくに嘆いてるだけかもしれないけど。確か今日は昨日の反省会の予定だった筈だけど、これでは先が思いやられるね。

 そんなハルヒの殺人光線を一日中浴びせられ続けていたキョンは終業のチャイムと同時に脱兎の如く部室棟へと逃げ出し、それに便乗しようと鞄を持った所で、僕はハルヒに捕まった。ハルヒは普段よりも威圧感二割増な瞳で僕を睨みながら、

「あんた、今日の掃除当番代わりなさい」

 有無を言わさぬ口調でそう申し付け、僕の返事を待つ事も無く教室から出て行ってしまった。暴君め。

 教室の向こう側で同じく掃除当番らしい坂中が机を運ぶ片手間に僕に同情の眼差しを向けている。そんな可哀想な者を見るような眼で僕を見るな、逆に落ち込む。


 ハルヒに押し付けられた掃除を適当に終わらせ、いつもの如くSOS団のアジトこと文芸部室にやって来た僕だったのだが、ドアを開けた部室の中には何故か長門しかいなかった。古泉や朝比奈先輩は言わずもがな、僕に掃除を押し付けて出て行ったハルヒも、それよりも先に教室を出たキョンの姿すらも無い。長門の分の他に二人分の鞄が置いてあるから、部室に来た事だけは確かみたいだけど。

「長門だけ? 他の皆は?」

 尋ねる僕に長門はページを捲る指先を止め、一瞬だけ視線を手元のハードカバーの文面から僕へと移した。だが、それだけだった。予想範囲内の長門の反応に元々マトモな返答を期待していなかった僕は早々に追求を諦め、登校中に買った漫画週刊誌を取り出した。

 二人だけの部室の中で、ページを捲る音が二人分。淡々とした時間が静かに過ぎて行く中、やがて音が一人分に減った。僕が漫画を読み終わったのではない、長門がハードカバー攻略を中断したのだ。一切の感情の見えない深海色の長門の双眸がハードカバーの文面から離れ、僕に、正確には僕の手元の漫画週刊誌に注がれていた。

 ……もしかして長門、これに興味あるの?

「長門、……これ読む?」

 試しに訊いてみた僕の問いに、長門の返答は沈黙。しかし無表情ながらも瞬きもせず漫画週刊誌から一瞬たりとも外れる事の無い視線が、長門の返答を雄弁に語っている。読みたいんだな、読みたいんだね長門。

「……ほら」

 僕の差し出した漫画週刊誌に、まるで磁石に吸い付く鉄塊のように長門の白い手が延びる。長門は受け取った漫画週刊誌をまるで細心の注意を払うような手付きで開き、そしていつもの七倍速位の勢いでページを捲り始めた。……長門、君文字だけしか読んでないだろ。

 僕がツッコミを入れるべきか放っておくべきか真剣に悩み始めたその時、高速ページ捲り機と化していた長門の指先が突如ピタリと動きを止めた。長門はまるで電池切れでも起こしたかのように微動だにせず、ブラックホール色の瞳は先程までとは打って変わったように漫画の紙面に釘付けになっている。何、一体何事? 最高難易度のテトリスのような勢いで積み上がる嫌な予感に寒気を覚え、僕は何があっても逃げられるようにパイプ椅子から腰を浮かせた。

 ヘッピリ腰の体勢を保ちながら油断無く警戒する僕の視線の先で長門は漸く再起動を果たし、眼鏡を外しながらゆっくりと立ち上がった。次の瞬間、まるで包丁でまな板を叩き斬ったような音が僕の背後から響いた。そして正面の長門の手の中には、一瞬前まで確かに握られていた筈の眼鏡が何故か忽然と消えている。……長門よ、今何をした。

 僕は雪崩のような勢いで積もり来る嫌な予感を決壊寸前の理性で何とか辛うじて押さえ込み、僕は細心の注意を払いながら背後を振り返った。別に無理に振り返る必要など皆無だったし寧ろ振り返らない方が主に僕の精神衛生的にはモアベターな選択なような気がしない訳でもなかったが、取り敢えず振り返っておいた方が万が一僕の背中の向こうで何かあっていた時にはより迅速かつ安全に逃げられそうだからね。主にハルヒへの言い訳とか。

 そんな打算的思惑を胸に嫌々ながら振り返った僕の眼に映ったものは、立て付けの悪い部室のドアの真ん中から垂直に生える長門の眼鏡だった。……何さこの前衛芸術。

 僕は眼鏡を外しながら瞼を閉じ、指先でこめかみを揉みながら大きく深呼吸し、気分が十分落ちついた所で再び眼を開け眼鏡を掛け直した。……長門の眼鏡は、相変わらずドアから生えていた。

「支点が極めて不安定、投擲の素材としては不適格」

 ドアに突き刺さった己の眼鏡に液体ヘリウム色の視線を固定して、長門は淡々とそう独りごちた。投げたな、投げたんだな。人間誰でも一度は考えるけど決して誰もやらない眼鏡の誤った使い方を実践しやがったんだな。眼鏡は物を見る道具であって断じて投げる物じゃない。

 軽くパニクる僕を他所に当の長門はドアに刺さった眼鏡を回収するべく開き放しの漫画雑誌を片手にゆらゆらと歩き始めた。長門が僕の隣を通り過ぎたその一瞬、開き放しのページが僕の眼に映る。アクションシーンの一コマで登場キャラクターが、眼鏡を手裏剣代わりに投擲していた。良い子は真似しちゃいけませんと幼稚園児時代辺りに親から習わなかったのか。などと思った時点で、長門が宇宙謹製三年前製造の人型パソコンである事を思い出した。数えで三歳児、幼稚園にも通ってないな。

 僕は長門への叱責を諦め、その代わり固く心に誓った。金輪際もう二度と、長門に漫画は貸すまい。

 固く決意する僕の視界の端で長門はドアの前に到着し、ダーツのように突き刺さった眼鏡を引き抜いた。衝突時の衝撃の為かフレームは歪み、レンズには亀裂が入っている。あれはもう使い物にならないな。ここで僕は長門が再びブラックホール色の眼で僕を見ている事に気付いた。感情の見えない双眸が僕の顔を、いや正確には僕の眼鏡を射抜いている。……間違い無い、僕の眼鏡は狙われている。

「……いや、貸さないからな?」

 先手を打って釘を刺す僕に長門は普段通りの無表情で瞬きし、何事も無かったように窓際のパイプ椅子に戻って行った。その顔が心無しか残念そうに見えたのは、きっと僕の気の迷いだと自己完結しておこう。ちなみに今回の長門の奇行の元凶たる漫画雑誌は、長門が再び読み始めようとした時点で取り上げてゴミ箱に放り込んだ。まだ僕も全部読んだ訳ではなかったが、背に腹は代えられない。


 その後暫くして朝比奈先輩が遅れて顔を出し、キョンも古泉と一緒に戻って来た。その後はキョンがパソコンを弄っていたり、僕は古泉にオセロに誘われたり、長門はいつも通りひたすら本を読んでいたり、朝比奈先輩の煎れてくれたお茶を飲みながら皆で雑談したりと、僕達はのんびりまったりと時間を浪費したのだった。ちなみにお茶請けは昨日買ったドラ焼きだ。何故か長門の食の進みが異様に速かったのは、今更言うまでもないだろう。

 だけど結局、その日ハルヒは部室に現れなかった。


 ● ● ●


 時計の針が六時を指そうとする頃まで部室でだらだらしていた僕達だったが、もう待てないと言うキョンの一声で今日は解散となった。ハルヒには悪いけど、確かにもう帰ってしまっても仕方無いだろう。

 鞄を片手に部室棟を後にし、校舎に戻り下駄箱から靴を取り出そうとしたその時、僕はふと手を止めた。廊下の向こう側を1−5のクラス委員長、朝倉涼子がプリントの山を抱えて歩いている。明らかに人一人で運ぶには不適当な程の量の重そうなプリントの山を抱えながら全く危なげ無く廊下を歩く朝倉の姿はロボットを彷彿とさせるが、そう言えば似たようなものだったと思い直した。

「朝倉」

 鞄をその場に置き、僕はそう声を掛けながら朝倉に駆け寄った。危なげ無かろうが正体がロボットだろうが、重そうに見えるものはそう見えるのだ。

「手伝うよ。半分寄越せ」

 朝倉に追い付くや否や僕はそう言って、朝倉の返事も待たずにプリントの山の上半分を横から引っ攫った。重そうだとは思っていたが、半分でもやはり重い。

 朝倉は最初吃驚したように眼を瞬かせていたが、クラスメイトの笑顔を作って「ありがとう」と感謝の言葉を返した。この非の打ち所の無い振る舞いは、今でもやはり好きにはなれない。嫌いと言う訳ではないが、でもやっぱり苦手だ。

「……で、無理矢理引っ攫ったのは良いけど、このプリントの山って何?」

 朝倉と並んで廊下を歩きながら今更と言えば今更な事を訊く僕に、朝倉は小さく笑みを漏らし、

「来週のPTA総会で保護者に配る資料、これから生徒会室を借りて製本するの」

 そう言えば朝倉はクラス委員長であると同時に、学年執行委員なる生徒会の下っ端みたいな仕事も兼業しているのだった。下っ端らしくパシリにされてるぞ朝倉、意外な一面だ。

 ……と言うかちょっと待て、今からやるのか朝倉。もう六時過ぎだし、明日じゃ駄目な訳?

「明日は明日で作らなきゃ駄目だし、今出来る事はやっておきたいの。施錠まではまだ時間あるしね」

 二分されたプリントの山を交互に見比べ思わず潰れた蛙のように呻く僕に、委員長の鑑みたいな答えを返す朝倉。その心意気は立派だけど、一体これ何人分あるのさ。呆れて尋ねる僕の問いに、朝倉は何でもないかのようにこうのたまった。

「全体の三分の一だから、たったの百人分ちょっと。全然少ないでしょ?」

 いやどう考えても三桁は多過ぎだろ、とか道理で重い訳だ、とか言う僕のツッコミは残念ながら口に出る事は無かった。雑用押し付けられるにも程があるだろ朝倉、と言うかそもそも君はパシらされてるって気付いているか? 色々と言いたい事は多々あるけど、取り敢えず今僕の言える事は唯一つ。

「……世の中、不公平だ」

 と言うか渡る世間は鬼ばかり?

「何それ。ドラマの話?」

 ……解って貰えなかった。


 修学旅行のしおりや文集作りなどで、誰でも一度は製本作業と言うものをした事があるのではないだろうか。ページ毎に分けたプリントの山を長机か何かに並べて一枚ずつ手作業で拾い集め、最後にホチキスで留めるアレである。高校生とは言っても背表紙付きの本格的な製本を学校が生徒に任せる事などある筈も無く、生徒会室に着いた僕は朝倉と二人で先程から長机の周りをグルグルとイタチごっこのように回り続けている。

 何故僕まで回っているかって? 別に深い意味なんて無い。ただ僕は半分手伝うと言っただけで、何処まで手伝うかまでは明言していなかったから。そう言う事にしておこう。

 目まで回ってきそうな単調な作業が二十週目に突入した辺りで、朝倉が唐突に口を開いた。

「ねぇ野比君。……長門さん、上手くやれてる?」

 質問の意図が解らずに沈黙を貫く僕に、朝倉は沈む夕日を惜しむような顔で言葉を続ける。

「長門さんってあの通り無口だし、人付き合いも苦手な娘だから。涼宮さんや野比君みたいな個性的な人達と上手く折り合っていけてるのか、『仲間』としてちょっと心配なの」

 ハルヒは兎も角僕まで奇人変人扱いされてる点は敢えて無視するとして、長門も充分アクの強い奴だし折り合い云々の心配は朝倉の杞憂に終わるだろう。普段は本読んでるだけだけど。

「本と言えば長門の奴、昨日キョンに図書館に連れて行って貰ったらしいよ?」

 これは部室でキョンが言っていた事だ。頑として本を離さない長門の為に貸し出しカードも作ってやったとか、そのせいで余計に合流に時間が掛かったとか、昨日の大遅刻の知られざる真相を言い訳していた。

「キョン君が?」

 意外な組み合わせに流石に驚いたのか、プリントを拾う朝倉の指先が数瞬止まった。

「そっか……」

 心無しか安堵したような声で小さく呟き、朝倉は作業を再開する。

「ねぇ野比君。わたしも最初はあんな感じだったって言ったら、……驚く?」

「……え?」

 今度は僕の手が止まる番だった。あんな感じ、とは長門の事を指していると解釈して良いのだろうか。無口で無表情で無感動な朝倉、……全く想像出来ない。

「わたしや長門さんだけじゃないわ。わたし達総ての対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、長いから略してTFEI端末は当初あらゆる感情情報がブランクの状態で起動したわ。生み出されて以来わたし達は以前貴方に話した通り涼宮ハルヒの観察を最重要任務とする一方で、来るべき涼宮ハルヒ本人との接触に備えて他の有機生命体とランダムにコンタクトを重ねながらその思考や行動、表情パターンを分析・学習し、この三年間の間で各端末それぞれに『個性』とも言うべき固有的独立性を獲得したの」

「何でそんな回りくどい真似をする必要があるのさ。最初から人格なり性格なりを組み込んだ状態で起動させた方が楽だし違和感無く人間社会に溶け込めたんじゃないの?」

 再起動を果たした僕の問いに朝倉はプリントを拾う手を止める事無く、

「確かに野比君の言う通り、確実性を考慮するならばその方が良かったでしょうね。実際、ある程度の行動マニュアルならばセットされていたわ。でも予め性格情報を固定させてしまうと設定したパターン通りの行動しか取れなくなるし、有機生命体の思考パターンは極めて複雑かつ非合理的だから実の所情報思念統合体でも完全な再現は難しいの。だったら本物の有機生命体に接触させて勝手に学習させてしまえって結論に至ったと言う訳」

「……物凄く投げやりな結論だな。でもそれなら何で長門だけデフォルトのままなのさ?」

 僕の問いに朝倉は不意に窓の外、茜雲の漂う日の落ちかけた夕焼け空へと顔を向けた。西日に照らされた朝倉の端整な横顔が、一瞬物憂げに見えたのは僕の眼の錯覚だろうか。

「……三年前、わたし達TFEI端末が起動を始めてすぐの事だったわ」

 纏め終えた書類を傍らに置き、朝倉は遠くを見つめるような眼で語り始めた。

「当時のわたし達は待機モードと呼ばれる情報吸収優先の行動設定を基本フォーマットに、さっきも言ったように涼宮さんを観察しながら他の人間に接触し、その活動パターンを学習して経験値を積む毎日だった」

 朝倉の眼が僅かに細まる。西日が眩しくなった、と言う雰囲気ではない。

「……わたし達の起動から85日目、ちょうど七夕の夜だったわ。日本時間の22時17分40秒、パーソナルネーム長門有希の端末がエマージェンシーモードの発動を情報思念統合体に申請し、受理された。長門さんはそれ以来三年間その状態を持続し続け、現在でも解除していないわ」

「エマージェンシー(緊急)モード?」

 あまり穏やかではない単語に、僕は眉を寄せて朝倉を見た。三年前の七夕と言えば僕が自殺未遂をやらかして、ジョン・スミスと出会ったあの夜だ。まさか、それが関係してるんじゃないだろうね?

「エマージェンシーモードって言うのは、簡単に言えば緊急時における優先事項の一時的な変更ね。場合によっては最重要任務である涼宮さんの観察よりも優先して、イレギュラーな事態の発生に対応するの。当然、経験値の入手は後回しにされるわ」

 長門が無口で無表情で無感動で漫画に影響され易い理由が漸く解った、朝倉の違和感を覚える程の完璧人間ぶりの裏事情も。

「と言う事は今長門はハルヒの観察を後回しにしてでも解決するべき問題を抱えてるって事だよね。何、その問題って?」

 純粋な興味から訊いた僕に朝倉は、

「そんなのわたしは知らないわ。わたし達TFEI端末にもプライバシーはあるもの」

 と、北高の黒歴史とも言うべきバニー騒動の翌日に見せたあの笑顔を浮かべてそう仰った。確かに今の質問は些かデリカシーに欠けていたかもしれない、悪かった。

「まぁわたしの言いたい事は、長門さんは今言った通り経験値不足で未熟かつ純粋だから、SOS団とか言う奇人変人の巣窟みたいな環境にいきない放り込まれてあの娘の人格形成に悪影響が出ないか心配で仕方が無いって事よ。……いきなりバニーとかさせられてたし」

 そう言って疲れたように嘆息する朝倉に、実はもう手遅れかもと進言する勇気は僕には無かった。人間誰でも我が身が一番可愛いのだ。しかし朝倉も段々と言動に容赦が無くなってきたな。相当ストレスが溜まっているのか、或いはこっちの方が地なのか。

「……朝倉ってさ、長門のお姉さんみたいだよね」

 ふと思い付いた素朴な感想を、僕は話題を変える目論見も込めて口に出した。思い出してみれば今日の朝倉の話題は長門の心配ばかりで、それはまるで小学校に上がった妹の学校生活に陰ながら一喜一憂する過保護な姉のようにも見える。

 情報統合思念体とかTFEI端末とか言う背後設定など忘れてしまう位に、今までどうしても払拭し切れなかった違和感が総て嘘だったかのように、僕の目の前の朝倉涼子は人間らしかった。

「……別に、これは『仲間』として最も確率の高い思考パターンよ」

 そう言ってそっぽを向く朝倉に気付かれないように笑みを噛み殺しながら僕は思った。何だ、そんな顔も出来るじゃないか。

 いつの間にか窓の外は漆黒に染まり、時計の針は七時を指そうとしていた。北高の校舎は七時施錠。まだ書類の若干残っているが、今日の所はこれで打ち止めらしい。

「これは明日の昼休みにでも終わらせておくわ。今日は手伝ってくれてありがとう」

 長机の上に残ったプリントの山を見下ろしながら、朝倉はそう言って委員長の顔で笑った。僕は手の中の書類を手早く完成させ、何気無さを演じながら口を開いた。

「朝倉。……明日も、手伝って良いかな?」

 何故そんな事を言ったのかは僕自身でも実は良く解らない。ただ僕は半分手伝うと言っただけで、いつまで手伝うかまでは明言していなかったから。そう言う事に、しておこう。

 朝倉は一瞬虚を衝かれたような顔で固まったが、まるで該当する表情を選ぶように奇妙な百面相を披露した果てに、

「……うん」

 と、僕が今日初めて見つけた『人間』の顔で笑った。

 少しだけ、ほんの少しだけだけど、朝倉を好きになれるかもしれないと僕はこの時思った。


ーーーあとがきーーー
 グルミナです。『退屈シンドローム』第18話をお送りします。今回は主に朝倉のフラグ立てと言うか伏線張りと言うか、兎に角そんな回です。前半のカオスについてはカッとなってやりましたが別に後悔はしていません。
 今回朝倉の説明中の待機モードやエマージェンシーモードの説明は二時創作特有の作者の独自解釈です、デタラメです。オフィシャルな設定とは全く無関係のウソ800ですので悪しからず。原作の長門が何故あんなに無口なのかを考えて、長門と他のTFEI端末の一番の違いってエマージェンシーモードをしたか否かと言う結論に辿り着き、そこから妄想を膨らませました。ただ無口で無表情で無感動な朝倉を書きたいと思ったからとも言えますが。

 ところで先日漫画版ハルヒの三巻を購入したのですが、長門のゴスロリキター! 先越されたぁぁぁっ!?

>karaさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太がまんま「戯れ言」のいーちゃんと言う指摘は前々から受けているのですが、最早このssの主人公はこんな感じと脳内で定着してしまいました。「戯れ言」読んでないので本人との比較も出来ませんし。
 猫型タヌキの箱は、karaさんの仰る通り使い捨て四次元ポケットにしか見えません。何か開けた瞬間に光出てるし、光がゴム鞠みたいに弾んでウソ800になるし。

>パーマニズムさん
 このss初の劇場版ネタの本格的本編参入です。何故海底鬼顔城が最初かと言いますと、好きだからです。
 「機関」はある程度はのび太達の事を把握していると思いますよ。その上で静観を決め込んでいるんです。未来の教本共々今後にご期待下さい。

>龍牙さん
 雲の上の方々は宇宙に移住しちゃいましたけど、だからこそ異星勢力共々書き手としては動かし易いですし書き易いですね。見た目は可愛い生まれ変わった彼女とのび太の絡みは今の所は可能性小ですね。長門朝倉の前に某名作と被ってしまう。
 のび太の師匠な某妹については、のび太の捕縛術設定も含めて今の所出番のめどが立っておりません。のび太との出会いとかのび太に捕縛術を伝授する切っ掛けとかの裏設定は組み上がっているのですが、肝心の捕縛術の出番がにんともかんとも……。

>砂糖菓子さん
 テキオー灯、この一言だけで古泉達の陰の努力が文字通り水泡と帰しているような気がするのは自分だけではないと信じております。
 のび太のこの冷徹さは三年前から残る「歪み」の名残でしょうね。
 宇宙人、長門有希。未来人、朝比奈みくる。超能力者、古泉一樹。常識人、キョン。そしてのび太の役割は、さて?

>rinさん
 ムー連邦が機関と繋がっていると言う設定は執筆開始当初から考えていました。今の所は後二つ程、劇場版から出張予定の組織をノミネートしております。

>蒼夜さん
 このssの古泉はお茶目さんです。腹の底が見えないのは原作と一緒ですが、ここの古泉は結構悪ノリ野郎です。

>明日死能さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 「彼」の登場は本編終盤になるでしょうね。こいつ簡単に言えばラスボスですし。
 他の面子の登場も追々考えています。まずは手始めに某ガキ大将辺りを。

>エのさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございました。
 バギー。あの車は車のまま散るには惜し過ぎる程の「漢」でしたよね。バギーの散り様は劇場版シリーズを通して一二を争う名シーンだと個人的に思っています。
 ハルヒ相手の誤摩化しと言う自殺行為も、言い訳上手な二人が揃えば不可能じゃありません。きっと見事な連携プレーが展開されたに違いありません。違反と遅刻ではハルヒ的判決ならば両方罰ゲームでしょうね。

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