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「これが私の生きる道!★オーブ奮闘編★ヘリオポリス前夜編2(ガンダムSEED)」

ヨシ (2007-02-25 23:36/2007-03-01 22:32)
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(コズミックイラ70、八月十日、ヘリオポリス工業カレッジカトウラボ内)

俺が反逆者となり、オーブに拾われてから四十日以上の時が流れた。
俺がウズミ様から依頼された教官任務は、それなりに上手く行っていた。
同じコーディネーターでも、ずぶの素人を二年間教育させるアカデミーとは違い、彼らの大部分を占める軍内で戦車や戦闘機に乗っていたプロの兵士をパイロットにするのは、それほどの手間ではなかったからだ。
言うなれば、「少し手間のかかる機種転換訓練」とでも言うべきなのだろうか。
カナードも定期的に手伝いに入ってくれたので、既に三十名ほどのコーディネーターとハーフコーディネーターのパイロット達の訓練計画の目処が立っていた。
だが、彼らはオーブ軍内で厳選されたメンバーなので、絶対に失う事のできないメンバーではあった。

それと、一般市民や移住者達の中から選ばれたメンバーも、能力面で厳しい選抜を受けていたので、意外と早くそれなりに上手に「ジン」を動かす事に成功していた。
ただ、軍人としてのスキルがゼロなので、その方面も含めて更に教育が必要ではあった。
軍人とは、ただ兵器を上手く動かせさえすれば良いものではなかったからだ。
最近、戦局の拡大に伴って各国で訓練期間の短縮が行われ、兵器のみを扱う事のできるにわか兵士達の数が増え、それが駐留先などで犯罪や捕虜の虐殺などの大きな社会問題を引き起こしていた。
特に、開戦初期で大量の兵士と指揮官を失った地球連合軍ではその問題が深刻で、士官学校の繰上げ卒業や、戦時プログラムで短期間に大量に要請された兵士達の一陣が各地に配属され始め、兵器はそれなりに扱えても、他の教育を省略している影響は既に出始めているようだ。
一方ザフト軍であるが、こちらはプラントの人口が少ない影響で派遣されている兵力が少なかったので、地球連合軍ほど問題は表面化していなかった。
特に、歩兵を大量に派遣する余裕が無かったので、基本的に攻略した拠点の防衛は同盟国に一任する傾向が強かったからだ。
だが、モビルスーツの操縦スキルのみを訓練された短期養成兵士の配属は既に始まっており、これから先はどうなるのかは不明であった。
最後に、オーブ軍ではまだ戦争に巻き込まれていない影響でその部分の教育は行われていたが、訓練期間の短縮化は世界の主流である事に変わりはないようであった。
それに、彼らがナチュラルの兵士達よりモビルスーツを上手く動かせるとは言っても、ザフト軍の連中と戦ったら、ものの数分で全滅である事に変わりはなかった。

その代わり、彼らのような選抜志願兵は、世界中から移住してくる多くのコーディネーターやハーフコーディネーターの中から、「自分の居場所は自分で守る」という考えの元に志願してくれているので、数の確保は比較的容易であった。
兵士に志願してない人達も、オーブ政府の低利の資金の貸付け制度や、公共住宅の賃貸などを受けて定住化を進め、彼らが社会に配置されてオーブの経済力と技術力の上昇に力を貸していたので、オーブは、既に彼らを見捨てる政策を取る事が不可能であった。

この件で、大西洋連邦のブルーコスモス寄りの高官がオーブに抗議をしたらしいのだが、窓口に立ったウナト・ロマ・セイランが、「オーブは、本来プラントに行ってしまうはずだった彼らを引き止め、その国力と技術力の上昇を抑える事に貢献しているし、我々があなた達にどれほどの物資を都合しているのか理解しておられるのですか?我が国は、法さえ守れば、ナチュラルでもコーディネーターでもハーフコーディネーターでも宇宙人でも国民になる事ができます」と強気に反論したので、この件はそれで沙汰止みになり、後にこの高官はアズラエル理事に叱責されたらしい。
現時点でのアズラエル理事の考えは不明であったが、今のところは黙認という事なのであろうとのウズミ様の話であった。

以上、今語った事がこの一ヶ月ほどのだいたいの動きであったが、我々には一つ憂慮すべき事態が存在していた。
実は、ナチュラル用のOSの開発が進んでいなかったのだ。
最初は、キラの天才的な技術や知識のおかげで、それなりに進歩があったのだが、ここ一週間ほどは、ほとんど変化なしという状況であった。
それでも、他国に比べれば大分マシなのだが、今のままでは実戦では使う事ができないので、俺と親父は頭を抱え込んでいた。


「キラ。また駄目だったぞ」

「えっ!そうなんですか?今回のは、自信があったんだけどな・・・・・・」

俺とカナードが、カトウラボに行ってキラに文句を言うと、彼はとぼけたような返事を返してくる。

「前回のと比較して、性能差にして0.15%増だ。これでは、更新した意味がない」

「カナードも、(これなら)って言ってたじゃないか」

「俺は、そんな事は言っていない!」

キラとカナードの関係は複雑であった。
カナードは、人生をかけて追いかけていた相手だったので、何を話しても少しムキになる傾向が強かったが、キラにはウズミ様の意向を受けて事情を話していなかったので、お気楽そのものであった。
この点がカナードを時に苛立たせるようであったが、「時期が来るまで決して話すな!」と俺が釘を刺していたので、彼は律儀に俺との約束を守っていた。
モビルスーツに関しては俺が師匠だし、一応は上司だったので文句を言わせなかったのだ。

「俺は聞いていたぞ」

「私も」

「僕も」

「ちなみに、お兄さんも同じ事を言っていた」

「姉貴の言う通りね」

ラボの中で手伝いをしているトール、ミリィ、カズイ、レイナ、カナが口々に反論する。
あれから一ヶ月、OSの開発補助要員として、成績優秀で身元が確かな学生達が、モルゲンレーテ社にアルバイト扱いで動員されていた。
始めは巻き込む事に罪悪感を感じた俺であったが、この時代の戦争は総力戦なので、「使える者は親でも使う」という信念を思い出し、心を鬼にして彼らへの協力要請を行っていた。
だが、上の発言を聞けばわかるように、トール達はカナードを同年代の友人くらいにしか思っていないようで、いつも気安い口を聞いていた。
カナードも何だかんだと言っても特に不満もないようだし、今までとは違う生活を楽しんでいるようであった。

「あれ?俺もだっけ?」

「お兄さんが、(これならいける!)って絶賛してたのよ」

「そういえば、そうだった・・・」

「碌に知識もない癖に、ぬか喜びするからだ」

「カナードもないだろうが!それに、俺は簡単な改良くらいならできる!」

「それは、コーディネーター用のOSだけだろうが・・・。ここで問題にしているのは、ナチュラル用のOSの事だ」

「正論を吐きやがって!フレッシュマンの癖に・・・」

「髪型の事を言うな!」

カナードは、母さんに髪を切られた結果、会社訪問をする学生のような髪型になっていた。
本人は少し嫌なようであったが、周りの人達には、「さっぱりとして似合っていて良い」とかなり好評であった。

「あら。私は似合っていると思うけど」

「そうか?」

「キラよりも格好良いって」

「そうか」

レイナの一言で、カナードはすぐに機嫌を直す。
カナードは激怒していても、レイナの一言ですぐに機嫌を直してしまうのだ。
俗に言うところの、少し気があるというやつなのであろう。
若いという事は、実に素晴らしい事であった。

「僕は、精一杯やっているんですけどね」

「そうだよね。居眠り魔王のキラにしては、最近よく頑張っていると思うよ」

「カナ。その(居眠り魔王)って何?」

「キラのカレッジ内でのあだ名」

「そんなあだ名。嫌だ・・・・・・」

嫌でも勝手に付けられるのが、あだ名というものなのでそれは仕方がない事であった。

「あだ名はどうでも良いんだけど、何が原因で成果が上がっていないんだ?」

「いまいちよくわからないんです」

「どういう事?」

「僕はパイロットでもないし、ナチュラルでもないから・・・・・・」

「そういう事か!」

キラの作業がいまいち進まない原因を、俺はすぐに理解する。
彼は、自分の勘と知識でコーディネーター用の補助OSとハーフコーディネーター用の各種OSの開発を既存品の改良で無難に成功させたが、ナチュラルがモビルスーツの操縦で何に苦労しているかが理解できていなかったのだ。

「となれば、答えは簡単だ!キラ!すぐに来い!」

「えっ!どこにですか?」

「モルゲンレーテ社横の我が軍の基地にだ!」

「僕は軍人では・・・・・・」

「とにかく来い!」

「そうだな。カザマにしては、良い考えだ(ふふふ。ここでモビルスーツの操縦を覚えさせてから、勝負で圧倒する。さすれば・・・)」

最近、カレッジでどんなに努力をしても万年二位のカナードと共に、俺はキラを強引に引きずっていくのであった。


「さあ。楽しい実習のスタートだ」

キラを基地内の格納庫に連れて来た俺は、目の前に立っている教習用の「ジン」を指差した。
教習用の「ジン」とは、教官と生徒の二人乗りができ、主の操縦系統を切り替える事が可能な「ジン」の事で、訓練が始まってから必要な事に気が付いた俺が、急遽親父に作らせたものであった。
我ながらバカな事をしたと思ったが、この機体のおかげで初心者をいきなり実機に乗せる事が可能になった。
だが、二人分の操縦席の確保のために、安全装置をかなり削っていて、実戦では絶対に使えない代物になっていた。
そして、実習をそれなりにこなす事が可能になったパイロットを教官席に乗せ、毎月三十名ほどずつ追加される事になった新人達を訓練させる事になっていた。
オーブ軍内で、モビルスーツを操縦できる人間がここにしかいないので、それなりにできるようになれば、素人でも教官を行わせる事にしていたのだ。
それに、教えるという事も一種の訓練なので、更なる技量の向上も期待できた。
ただ、さすがに経験の浅い者を宇宙に出す事は危険なので、それは計画していなかったが。

「実習ですか?」

「OSを開発するお前がモビルスーツの事を知らなければ、何を改良して良いか理解できなくて当然だ。今まで気が付かなかった俺のミスだな」

「改良なら、ナチュラルのパイロットの方に改善点を聞くだけで済みますが・・・・・・」

「その聞いた改善点を、ちゃんと理解できるか?」

「カナードに説明して貰います」

「だから!説明して貰っても理解できていないから、ここ一週間ほど変化なしなんだろう?」

「ですが・・・・・・」

「とにかく乗った!乗った!」

俺はクレーンを上昇させると、いきなりキラを「ジン」の操縦席に押し込み、自分は後部上方の教官席に座った。

「ほら。初期設定だ。OSを微調整しろ」

「教えてはくれないんですか?」

「お前が開発者だろうが・・・・・・。自分に合った通りにしろ」

「了解です」

俺がそれなりの速度で自分用の調整を行っていると、キラは信じられない速度でキーを叩き始める。

「速っ!」

「これが、お小遣い源ですからね」

キラは、OSの改良を手伝っている時間のアルバイト代を貰っていた。
両親と同居している彼にしたら、割りの良い小遣い稼ぎなのであろう。
更に、ナチュラルでも使えるOSの開発に成功して、オーブ軍で採用されれば、信じられない額の特許料が懐に入る事になっていた。
そして、カレッジのカトウラボは既に名前だけの物になっていて、キラが事実上の主任開発者になっていた。
カトウ教授は、研究者や助手達の管理や渉外交渉を行うだけの存在になっていたのだ。

「終了です」

「速いな」

キラに遅れる事、三十秒ほどで俺もOSの調整を完了させる。

「操作方法はわかるか?」

「マニュアルを見た事があります」

「OSの開発者には、愚問だったな。とにかく、最初はゆっくりと歩かせてみろ」

「了解です」

了承の返事をしたキラは、とても初心者とは思えない手付きで、「ジン」を屋外演習場に向けて歩かせ始める。

「凄いな・・・(本当に初心者か?こいつ)」

ヘリオポリスコロニーのかなりの面積を占領している屋根付きの演習場では、多くの訓練生達が、思い思いに訓練に励んでいた。
今日は、屋外演習場から宇宙に通じる秘密の出入り口から、多くのコーディネーターパイロット達が、秘密のデブリ演習場に出かけていて、残っているのは、ほとんどがナチュラルとハーフコーディネーターの訓練生だけであるようだ。

「彼らもここ一ヶ月。血を吐く思いで訓練をしているのに、今日が初搭乗のキラの方が上なのか・・・・・・」

俺自身も今までは気が付かなかったのだが、こういう時の感情が、今回の戦争を誘発した原因の一つになっているようにも感じ始めていた。

「まずは、基本動作を・・・」

「ふふふっ!来たな!カザマよ!宇宙空間での訓練をサボった甲斐があったというものだ!」

「ギナ様・・・。堂々とサボらないでくださいよ・・・」

金色という信じられない色に着色された「ジン」に乗ったロンド・ギナ・サハク准将が、演習用の重斬刀を構えてから俺に話しかけてくる。

「あんなぬるい奴らと訓練をしても、腕が上がらんわ!我の目標は、カザマのみだ!」

確かに、ギナ准将の腕は、訓練生達の中で一歩抜きん出た存在があったが、彼には将官としての義務もあるので、そんな事では困ってしまうのだ。

「自分よりも技量が低くても面倒を見ていれば、自分の欠点に気が付いたりしますし、いつの間にか技量が上がっているものです。サボらないでください」

「我は上官だぞ」

「ここにいる間は、私に逆らう事は許しません。ミナ様にも許可は貰っていますし、ユウナ様のようにシメられてもよろしいので?」

「いや・・・。それは・・・」

「ヨシヒロさん・・・・・・」

「ひっ!」

俺の一言で、演習場の端で懸命に訓練を続けている一機の「ジン」が、人間のようにビクッと動いた。
その「ジン」こそ、ユウナ・ロマ・セイラン搭乗の「ジン」であった。
彼は、ナチュラルで才能もそれほどでもなかったが、訓練は一生懸命に行っているようであった。

「あの恐怖の瞬間・・・。思い出すだけで、身の毛がよだつ」

ギナの頭の中に、数週間前の出来事が蘇った。


(七月二五日、ヘリオポリス防衛隊特殊装甲師団仮設司令部内)


「カザマ君。今日の訓練はお休みさせていただくよ。僕も首長の息子として、色々と忙しいからね」

「ウナト様からは、そういう仕事があるとは聞いていませんが・・・。それと、私はカザマではなくアマミヤです」

訓練開始から約二週間後、ユウナは急に訓練を休むと言い出した。
パイロットというものは訓練でも激務なので、俺は定期的に休みは与えていた。
そうしないと心身がもたないからで、これはザフト軍でもオーブ軍でも地球連合軍でも当たり前の常識であった。
それを病気でもないのに休むという事は、自分は特権的な地位にあるから何をしても良いと考えているのであろう。

「カガリ様。本当に何か重要な用事があるので?」

俺は隣にいたカガリ・ユラ・アスハに、ユウナの公務の有無を尋ねた。
彼女は最初はアスハの名前を名乗らなかったのだが、別に重要機密という事でもなく、すぐにバレてしまったのだ。
俺は、十六歳の少女だからとか、首長家の娘だからという理由でエコ贔屓をするつもりもなかったので、口調は丁寧にしていたが、他の訓練生と同じように平等に厳しく訓練を課していた。

「私は卒業の許可を貰えるまで、ヘリオポリスを出る事すらできない。お父様との約束だからだ。(中途半端な者には、何も成す事ができない)だそうだ。セイラン家の事情は知らない」

「私も、先日訪れたウナト様から同じような事を聞かされているのですが・・・・・・」

三日ほど前、ヘリオポリスにウナト様が訪れ、「思いっきり厳しくやってくれて構わない。少し甘ったれな性分をを叩き直してくれ」と頼まれていたからだ。

「お尋ね者の庶民の君にはわからないと思うけど、僕は色々と忙しいんだよ。そこの所を理解してくれないかな?それと、僕の友人達も護衛として付いて行く事になった。だから、一週間ほどお休みかな?」

「アマミヤ教官殿。我々は、表舞台に出る将来の幹部候補だから忙しいのですよ」

「そうそう。反逆者として野垂れ死にするところを拾っていただいたような、偽名で頑張る裏方の教官殿とはね」

「それに、こんなノラクラとしか動けない機械人形で訓練をしても無意味ですしね」

「更に、俺達は一尉で先任。ユウナ様は准将ですよ。軍人が上官に逆らってはいけませんな」

ユウナと一緒に訓練を開始した数人のパイロット達が、ユウナに賛同して批判的な意見を述べる。
訓練開始から一週間、キラが改良したOSのおかげで、それなりに動かせるようになったとはいえ、ナチュラルが実戦でモビルスーツを使えるようになるのは、数ヵ月後に完成予定のOSのでき次第であった。
多分、あまりのもどかしさにヤル気をなくしてしまったのであろう。

「お前達!アマミヤ教官は、お父様から直にこの任務を受けているんだぞ!私とユウナは首長の一族として、有事の際には准将の地位に任命されてオーブ軍の指揮を執る事になってはいるが、訓練中は教官の命令に従わなければならないんだ!」

「カガリ。正論をありがとう。でも、僕はこんな無意味な事はごめんだね」

「つまり、サボると仰るので?」

「そういう事になるかな?」

「そうですか」

俺はその瞬間、ユウナを力いっぱい殴り飛ばした。
彼は面白いように、後方にすっ飛んで行く。

「痛いじゃないか!何をするんだ!僕は首長の!」

俺に殴り飛ばされたユウナが抗議の声をあげる。

「ウナト様が先日仰いました。(ここでは、君の方が上官だ。バカな事を言ったら、殴り飛ばしてくれても構わない)と。だから、殴り飛ばしたまでです」

「僕にこんな事をして!ただで済むと思うなよ!」

「ほう。どうなるんですか?誰かさんのように、謀殺でもしようとしますか?言っておきますが、ザフト軍の時以上に無駄な損害を出しますよ。もう、帰る場所のない者を侮らない事です。今の訓練生の面子でしたら、全滅させる事も可能です。それで、ただでは済まないとはどういう事ですか?」

俺は、久しぶりに激怒していた。
マーレといい、ユウナといい、自分は安全圏にいて、特権を振りかざす連中が許せなかったからだ。
それに、俺が言った事も事実で、訓練を始めたばかりの連中が何十人もいても、実戦では、何のクソの足しにもならないからであった。
むしろ、コロニー防衛隊のモビルポッド部隊の方が、よっぽど脅威であった。
なぜなら、彼らはプロの軍人達だからだ。

「ひっ!いや・・・・・・。別に・・・・・・。そこまでは・・・・・・」

俺の迫力に、ユウナは言葉を詰まらせてしまったようだ。

「カザマ!いやっ、アマミヤ教官!ここは、我に免じて」

事態を面白そうに傍観していたギナ准将が、俺とユウナの間に割って入る。
変人との呼び声が高い彼とは思えないほどの狼狽ぶりと、常識ぶりの発揮であった。

「ギナ准将が、そこまで仰るのなら・・・」

「それと、お互いが納得するように、勝負でもしたらどうだ?訓練生達も参考になると思うが・・・・・・」

「そこで勝負なんですか?ですが、ユウナ様達が何機の(ジン)でかかってきても、俺には・・・」

「それは、我にもわかっている。そこで、我が用意したこれで・・・」

俺達は、ギナ様の誘導で宇宙空間に繋がっている格納庫に向かうのであった。


「MAで対決ですか・・・・・・」

ギナ少将の案内で格納庫に到着すると、そこには十機ほどのMAが置かれていて、その中の一機はかの有名な「エンデュミオンの鷹」が愛機にしているメビウスゼロであった。
多分、ジャンク屋が月の戦線から回収してきたのであろう。
あの戦線では、「黄昏の魔弾」やクルーゼ隊長を含むザフト軍モビルスーツ隊との戦闘で、MA部隊が多くの犠牲を出していたからだ。
そして、その多くの犠牲は、メビウスゼロを使いこなすパイロット達をほぼ全滅状態にしていた。

「そうだ。こいつは、ジャンク屋から格安で購入した機体でな。ミナが訓練で使うようにと送ってくれた物だ。ちょうど人数分あるから、これでユウナ達と教官が演習を行えば良い。ユウナ達は、モビルスーツという兵器に懐疑的だ」

「そうだね。こんな碌に動かない人形を開発するくらいなら、MAや戦闘機でも量産した方がマシだと思うからね」

「ですが。既存のMAでは、ザフト軍に勝てませんよ。十倍の数を揃えられて良く訓練されたパイロット達が乗っているのなら話は別ですけど。それに、少しくらい改良したMA隊や戦闘機隊の数を揃えても、地球連合軍の数に押されて圧倒されます」

「わが国は中立国だよ」

「それは、こちらと向こうの都合が一致しているからです。片方の都合が変われば簡単に侵略されるでしょう。為政者たるもの、万が一の事態に備えて、事前に備えるのが危機管理というものです」

「偉そうな事を言うものだね」

「私はオーブを失うと、行く場所がないですからね。真剣にやっていますよ。あなたは亡命でもして、海外の資産で優雅な暮らしをすれば良いんでしょうけど・・・・・・」

「随分と侮られたようだね。だが、僕の考えは違う。兵器とは、性能がまあまあで、使い勝手の良い物をそれなりの数量産して戦術で補うものだ。いくらコーディネーターが優れていても、数で押せば終わりなのさ。オーブ軍は攻めてくるザフト軍の戦力の数倍の戦力を用意して、それを撃破すれば良い」

「MAや戦闘機を何機揃えても、(ジン)は倒すのが困難な機体ですよ。開戦以来、(ジン)が活躍しているのは、兵器の性能もありますが、コーディネーター兵士の操縦技術が優れているからです。だから、俺はせめて勝てないまでも、オーブ責めると大きな損害を受けて、損だと思わせるほどの戦力の確保を最低限の目標に添えています。多くのモビルスーツを揃えて、ナチュラルでも使えるOSの改良を進め、速めに訓練を施しておく。その考えの元で、俺は動いています」

「どうやら。僕達の意見は平行線を辿っているようだね。君がそこまで言うのなら、ギナ准将の用意したMAで対戦しよう。だが、数の多さが優位である事に違いはない」

「六対一でですか?」

「少し人数を減らそうか?」

「別に大丈夫ですよ」

「へえ。舐められたものだね。僕はともかく、ここにいる連中は、それなりに訓練は積んでいるんだよ」

ユウナが、自信たっぷりに語り始める。
彼が連れて来た五人の士官達は、成績優秀で戦闘機やMAの操縦に熟知していたので、それなりに自信があるようであった。

「アマミヤ教官。MAの経験は?」

同じく、俺達に付いて来たカガリが、俺にMAの操縦経験の有無を尋ねてくる。

「アカデミーで、密輸した実機に乗った事があります。それと、開戦後に鹵獲した機体でお遊び程度には」

「時間にしてどれくらいなんだ?」

「えーーーと。十時間はいかないかな?」

「教官殿。我々は、二百時間の訓練をこなしているのですが・・・・・・」

俺の返事をバカにしていると思ったのか、士官達が非難めいた表情をしながら自分達の経験を話し始める。

「実際に戦ってみれば良いのだ」

「ギナ様の言う通りですね」

「これで負けたら、今後二度と文句は言わせないからね」

「そのお言葉を、ユウナ様にも返しておきます」

「生意気な!吠え面をかかせてやる!」

ユウナと五人の士官達は勢い良くMAに搭乗し、自分に合ったOS設定を開始し始めた。
口調は嫌味そのものであったが、エリート士官である彼らの手際は見事という他はなく、ユウナもそれなりにMAの操縦に熟知しているようであった。

「次は俺かな」

俺は近くにMAに乗り込むと、すぐに設定を開始する。
すると、ギナ准将とカガリが、俺のMAのコックピットを覗き込み始めた。

「いきなりリミッターを外すのか?」

「そんな物があっては、最高性能を引き出せませんからね。それに、六対一ですから」

「リミッター?」

「アスハのバカ娘は、そんな事も知らないのか。ナチュラルのパイロットがそのまま最高速度を出すと、内臓やアバラ骨をやられるので、MAにはリミッターがかけられているんだ。勿論、ナチュラルでも、リミッターを外して使いこなす猛者も一部には存在するがな。そういう極一部の連中が、エースとして有名になっているわけだ」

実は、宇宙空間におけるMAと「ジン」のカタログスピードにそれほどの差はなかった。
戦闘機の次世代型兵器であったMAは、高速で一撃離脱能力に優れ、人型という速度面では不利な条件を備えている「ジン」は、MAより新しい分、その不利を補うように出力性能に優れて速度を出せ、小回りが利き、様々な武器を使えた。
それに、平均身体機能や平均動体視力が圧倒的に優れたコーディネーターパイロットが、ほぼ100%近い性能を引き出す事に成功していて、Nジャマーの影響と相まって圧倒的な強さを誇っていた。

「バカで悪かったな!」

「二人とも、喧嘩しないでくださいよ・・・。さてと、調整は完了だな」

「お前が、負けるとも思わないがな」

「ユウナの鼻っ柱をへし折ってやれ!」

「では。ヨシヒロ・アマミヤ。行くぞ!」

ユウナ達に続いて、俺はMAを発進させるのであった。


「じゃあ、お互いに十キロの地点で折り返してから勝負開始という事で」

「俺は、どちらでも良いですけどね」

「じゃあ、勝負開始だ!」

ユウナの合図でそれぞれに逆方向に飛んだ俺達は、目標地点で折り返してから勝負を開始する。

「さて。どんな手で来るかな?」

俺が、敵がどんな手で来るのかを予想していた頃、ユウナは五人の士官達に作戦を指示していた。

「いいか。こちらは六機もいるんだ。コンピューターにリニアレールガンの発射位置を割り振ったから、こちらの指示通りに発射してくれ。いくら、能力が優れているからといっても、面で弾幕を張れば避けられないだろう」

「「「「「了解です!」」」」」

ユウナの指示で、六機のMA隊は装備されているリニアレールガンの発射用意をする。

「見えた!発射だ!」

ユウナは一斉射撃を命じるが、俺はそれを見越して既にその位置にいなかった。

「バカな!もう、いないのか!」

「意外と頭を使っているな!ちょっと感心したよ!」

俺はレールガンの弾幕を回避した後、真ん中に位置しているユウナ機にいきなり狙いを付けた。

「指揮官を抹殺する!」

「危ない!ユウナ様!」

「ソリマチ一尉!」

俺の意図は見事に外れ、ユウナ機を咄嗟にかばった一機のMAが、撃墜判定を出されてしまう。

「二手に分かれるんだ!キノシタ一尉とハーン一尉は、囮になって敵の目を引け!僕達が三機で攻撃をしかける!」

「へえ。考えているじゃないか。でもね!」

俺はユウナの予想に反して、ユウナ機を含む三機のMA隊の方を追撃し始める。

「同じ機体なのに、スピードが違う!それに、数が多い方を追うか?」

「オオシタ一尉。奴はコーディネーターだ!リミッターを外したんだ!それに、実戦経験者を舐めていた」

「なるほど。さすがは、ユウナ様っ!ちっ!撃破された!」

「駄目です。私も撃破されました」

三機の内二機のMAが撃破され、ユウナは一人になってしまう。

「ユウナ様ぁーーー!」

「バカ!私に拘るな!」

先に別れた二機のMAは、最後に撃破されそうになっていたユウナ機を見捨てられずに、後方から俺の追撃を開始して、けん制の射撃を開始した。
ただ、距離が遠すぎるので、全く命中する様子が見られなかった。
多分、向こうもそれはわかっているのであろう。

「ご主人様は見捨てられないか」

俺は、逃走を続けるユウナ機を放置し、強引にUターンを行ってから、後方から接近してくるMA二機を立て続けに撃破した。

「あんな無理なUターンは・・・」

「そういう事だ。マクダエル一尉。サトウ一尉。俺は、コーディネーターだ」

撃破されて悔しそうな二人に、知ってはいるだろうが、俺は自分がコーディネーターである事を告げる。

「そして、最後に残ったのは、僕だけか・・・・・・」

「降伏しますか?」

「するものか!僕にだってプライドはある!オーブ氏族の意地を見よ!」

ユウナ機は綺麗な弧を描いて反転し、俺に最後の突撃を開始する。

「ヤケになって突撃ですか?」

「君がヒントをくれたんだよ!最後の手段をね!」

ユウナがそう叫んだ瞬間、ユウナ機は急にスピードを上げた。

「まさか!リミッターを!」

「少しだけ持ってくれ!僕の体!」

「まずい!」

急にユウナ機がスピードを上げたので、最初の一撃はかわされ、俺は慌てて二撃目を発射する。
二撃目でユウナ機は撃墜されるが、ユウナ機は撃破される前に俺に最後の一撃を放っていた。

「何っ!左舷に掠ったのか!機関部損傷!出力三十%ダウン!判定は小破!最後にしてやられた!」

「へへへっ。僕にも意地があるって言っただろう・・・」

演習は俺が勝ったものの、MAは小破と判定されて完勝とはいかず、その後、俺達はヘリオポリス内部の格納庫に帰還するのであった。


「最後にしてやられたな」

「油断だぞ。アマミヤ教官」

「そう言わないでくださいよ、ギナ准将」

「私も意外だった。あんなにユウナがムキになるなんて・・・・・・」

格納庫にMAを着陸させた俺は、ギナ准将とカガリ様に出迎えを受けていたが、二人は俺が演習とはいえ、損傷するとは全く思っていなかったようで、かなり意外そうな顔をしていた。

「こんな事があるのも戦闘なんですよ。ギナ准将。カガリ様」

「そういうものか。だが、我も驚いたな。それに、ユウナも少し見直した」

俺がMAから降りると、隣のハンガーでは士官達に抱えられながらMAを降りるユウナの姿が見えた。
一時的ながら、強烈なGの影響で立ち上がれなかったらしい。

「ユウナ様。怪我はありませんか?」

俺は、士官達に抱えられているユウナに声をかける。

「なあに。骨に異常はなさそうだから、大丈夫さ。しかし、コーディネーターってのは凄いものなんだね。MAでも、あれだけの力を発揮するとは・・・・・・」

「正直に言って、自分はコーディネーターでも上の方です。ですが、ザフト軍の一般兵でもナチュラルと三〜五対一で戦う事が可能です。そんな連中を仮想敵国にすれば・・・・・・」

俺はオーブの仮想敵国を一位が大西洋連邦で、二位がプラントだと思っていた。
これは、戦争をしている両陣営の最高戦力を持つ国である事と、オーブ本国まで戦力を派遣できる能力によって算定していたからだ。
ちなみに、三位はアジア地域最大の戦力を有する東アジア共和国で、四位がザフト軍をカーペンタリアに駐留させている大洋州連合、五位は最近、中立から親プラント国に移行した赤道連合であった。
中立国とは聞こえが良いが、要は自分のケツは自分で拭く事が求められ、泣き言を言っても同盟国がないので、誰も助けに来ないという事であったからだ。

「倍の航空機やMAでは、虐殺も良いところだね」

「だからこその新兵器と、それを扱うパイロットの早期教育です。そして、人を選ぶ新兵器が誰にでも使えるようにと、新型OSの開発を進めています。数だけで圧倒する事が不可能なので、数×質で戦力を増やすわけです」

「なるほど。君の考えは理解した。どうやら、僕が間違っていたようだね。僕は部隊の規律を乱した。罰を受けよう」

「ご理解いただけて幸いです。では、ユウナ様達は、明日の午前中に先ほど完成した教習用の(ジン)に乗って貰います。教官は私です」

「何だ。それだけで良いのか。安心したよ」

ユウナ達は、軍規を乱した割には軽い罪に安堵していた。

「では、明日をお楽しみに」

俺は密かにほくそ笑むのであった。


「アマミヤ教官!何か、凄いGが!それと、うぷっ!」」

翌日、ユウナ達は地獄に叩き落された。
まだモビルスーツにそれほど慣れていないのに、俺が完成したばかりの教習用の「ジン」で、実戦並みの高速機動を体験させていたからだ。
ザフト軍の新兵やアカデミーの学生でも、始めは悶絶してゲロを吐く者が続出するのに、ユウナにはかなりキツイ罰であろう。
現に、MAに慣れているはずの士官達は先に訓練を終えて、格納庫の隅でゲロを吐きながら遠くの景色を見つめていたからだ。

「まだまだ序の口なんですけどね。次はあの岩を敵の戦艦に見立てて攻撃用の機動を開始します!」

「えっ!待ってぇーーーーーー!」

「戦艦は、火力が強烈ですからね。小刻みに進路を変更しないと」

俺は、目標の岩を敵艦に見立ててから、トリッキーな機動で接近を開始する。

「うげぇーーー!」

「そして、私が良く狙うのがブリッジです。艦長以下の幹部を殺傷すると、命令系統に支障をきたしてですね・・・。聞いてますか?ユウナ様」

結局、この日の「対G訓練」はユウナの気絶によって終了し、ユウナがこの訓練に慣れるまでに更に二週間の日数がかかったのであった。


「(あの時のカザマの怒った顔・・・。現時点では、逆らうのは凶だな・・・)」

ギナは、あの時の恐怖を思い出して身震いをしていた。
別に、チンピラやヤクザではないので、見た目がそれほど怖いというわけでもなかったのだが、怒ると死線を掻い潜って多くの人を殺してきた迫力がにじみ出てくるので、ギナのような玄人ほど恐怖を感じる事が多かったのだ。

「わかった。ホー一尉とでも、模擬戦をするとしようか・・・」

「それが良いですね。実力も伯仲していますし」

「ホー一尉は、ナチュラルだったよな?」

「ナチュラルでも、コーディネーター並みの能力を有する者が、少数ながら存在します。彼はその数少ない例外では?」

「確かにそうだな。だが!その前に!」

「やっぱり!」

ギナ准将は、訓練用の重斬刀を振り上げると、そのまま俺達に斬りかかってくる。

「(何か、色々と忙しいから勝負するのも面倒くさいな・・・。キラにやらせてみるか。十秒持てば御の字かな?)キラ。対応しろ」

俺は何となしに、今日始めて「ジン」に乗るキラにギナ准将との勝負を命令するが、普通ならば、絶対にありえない事であった。

「僕がですか?でも、僕は」

「訓練用の重斬刀でも、ジーンと来るよ」

「えーーーっ!」

「アマミヤ教官!素人の小僧に、何ができるというのかな!」

ギナ少将は、俺達が搭乗している教習用の「ジン」に訓練用の重斬刀を振り下ろした。

「うわっ!」

「何ぃ!かわしたのか?」

一撃で倒されるはずだった俺達は、キラの驚異的な反射神経と咄嗟の操作によってギナ准将の攻撃をかわし、生存に成功する。
攻撃したギナ准将も、キラの動きに驚いているようだ。

「何だ?本当に初めてなのか?」

「(こんな奴は初めてだな・・・。これが、カナードの言うところの最高のコーディネーターという事なのか?)」

俺とギナ准将が驚いていると、キラは自分で訓練用の重斬刀を抜いてギナ機に斬りかかった。

「反撃までするのか!素人の癖に!」

「いきなり何をするんですか!」

キラもいきなり攻撃を仕掛けてくるギナ准将に怒ったようで、容赦なく次々に斬撃を繰り返し、ギナ機は防戦一方となってしまう。

「(恐ろしいまでの動体視力と反射神経。そして、その動きを可能にする驚異的な身体能力か・・・。キラが、鍛錬なんてしているところを見た事がないのに・・・・・・)」

ただ、悲しいかなキラは操縦経験が皆無で、斜め読みをしたマニュアルを参考に、その驚異的な反射神経で操縦レバーやフットペダルをガチャガチャと動かしているだけであった。
効率の良い体系的な操作は、訓練でしか身に付かないからであった。

「ふっ!最初は驚いたが、所詮は素人だな!」

ギナ准将は少し間合いを置くと、腰から取り出した重突撃銃を連射する。
最初は反射神経でかわしていたキラであったが、さすがに全弾を避けるのは不可能で、すぐにペイント弾を食らって撃破判定を出されてしまう。

「やっぱり、負けたか」

「だが、その小僧は才能があるぞ」

「みたいですね。でも、キラはOSの開発者ですので、基本的な操作とナチュラルのパイロット達の意見を理解できれば良いんです」

「そうか。残念だな・・・」

だが、その数秒後に、キラが闘志を燃やすようになる出来事が発生する。

「カナード。はい。タオルとスポーツドリンクね」

「ありがとう」

教習用「ジン」のカメラには、ここで訓練生達の指導をしていたカナードにタオルとドリンクを渡すレイナの姿が映し出されていた。

「今日は、レイナの当番だったよな」

これは、「若い女の子がマネージャーのような事でもすれば、少しはヤル気が出るかも」というユウナのバカみたいな意見を参考に、カレッジの学生達やモルゲンレーテ社の女性社員達にこのような事をやらせていたのだ。
そして、意外な事に、実際に効率が上がっていたから世の中というものは不思議であった。

「何を話しているのかな?」

「ジン」のカメラでは会話を拾うのが不可能だったので、何を話しているのかは不明であったが、レイナとカナードはとても楽しそうに会話をしていた。

「ヨシヒロさん。レイナは、何日に一度くらいここに来るんですか?」

「機密の関係があるから、ここに入れるのはレイナとカナとミリィと女性社員二人の合計五人だ。という事は、休みを含めると一週間に一度くらいかね」

「その度にカナードとレイナは?」

「どうだったかな?というか、カナードは家で下宿しているから、毎日顔を会わせているし・・・・・・」

俺は前方のコックピット内で、レバーが軋むほどの握力を加えているキラの後姿に恐怖し始める。
まさか、キラがレイナの事を好きだったとは思わなかったからだ。

「あのさ・・・・・・。キラはいつから・・・・・・?」

「僕はコーディネーターです。オーブがナチュラルとコーディネーターの共存を国策に掲げていても、僕に不信感を持ったり、差別しようとする人はゼロではありません。でも、あの娘はカレッジ入学時からそんな事を全く気にせずに接してくれました。僕にとって、あの娘は天使なんですよ」

「天使ねえ。まあ。あの娘は、幼少の頃からコーディネーターである俺と一緒にいたからね。違和感がないんだろうさ」

「それで、カナードとレイナはどうなっているんです?」

「レイナは誰にでも優しいからな・・・。少なくとも、カナードはレイナに何かを言われると100%逆らわない。気があるんだろうね」

「そうか・・・。無意味なライバル視をするばかりでなく、僕の大切な物まで奪おうとするのか・・・。ふふふ。わかったよ。そこまでするなら勝負だ!」

俺は、コックピット内で不気味に微笑むキラに恐怖していた。
これが、噂の最高のコーディネーターの恐怖なのだろうか?
そして、この日よりキラはカナードと同じ訓練メニューをこなしながら、OSの開発も続行するという忙しい日々を送る事となるのであった。


「うん?あの(ジン)から殺気が・・・」

「私にはわからないわ」

「わからない方がいいさ。さて、訓練を再開するかな」

「頑張ってね」

一方、カナードは俺の妹のせいで良い意味に堕落し、最高のコーディネーターを打倒して自分の存在意義を確立するという目標から、キラと俺の妹を奪い合うという、ある意味人間にとって一番重要な目標に向かってまい進するようになるのであった。


「ただいま」

俺が本日の全ての予定を終えて帰宅すると、そこにはお馴染みになったというか、不思議な面子が食堂の椅子に座っていた。

「遅いぞ。アマミヤ教官」

「ギナ准将・・・・・・。またですか?」

「我は、教官であるお前と色々と話す事があるのだ」

「大した話なんて無いじゃないですか・・・・・・」

カザマ家に出入りする不思議人物その一は、ロンド・ギナ・サハク准将であった。
首長の一族である彼は、高級ホテルに宿泊している癖に、週に三回は我が家で夕食を食べていた。

「我は、ちゃんと食費を払っているからな。お母さん。今日の夕食は?」

「ハンバーグとサラダです」

「ご飯は大盛りで」

「はいはい」

首長一族の彼が払う食費がいくらなのかは知らないが、母さんの表情を見ると、大分ヘソクリが溜まる額なのであろう。
ギナ少将が度々大飯を食らっても、ニコニコしていた。
というか、オーブ内で権力闘争の荒波に揉まれている彼は、この家の最高権力者を瞬時に察知して取り入ったようであった。

「お母さん。今日のハンバーグのソースは?」

「和風おろしハンバーグです」

「サッパリしていて美味しいですよね。僕もご飯は大盛りで」

「ユウナ様・・・。というか!ユウナ!ここのところ毎日だな!それと、俺の部屋に勝手に布団を敷くな!」

「僕は、食費と宿泊費を払っている口だからね。ホテルも、もう引き揚げたし」

カザマ家に出入りする不思議人物その二は、ユウナ・ロマ・セイランであった。
数週間前にあれだけ虐めたので嫌われたと思ったのだが、何をどう気に入ったのかは知らないが、ここ二週間ばかり、彼は泊まっていたVIP御用達の高級ホテルを引き揚げ、俺の部屋に勝手に布団を敷いて寝ていたのだ。
本当は文句を言いたいところなのだが、彼は見た目よりは頭が回るようで、母さんが見慣れない高級アクセサリーやバックをいつの間にか所持していたので、俺にはどうにもできないところに達していた。

「それにさ。また例のブツを手に入れたんだよね。欲しくはないのかな?」

「ちくしょう!意外と知恵が回るらしいな」

「君ほどではないけど、僕もワシントンの大学院を十七歳で卒業しているんだよ。それほど、バカではないさ」

ユウナのいうブツとは、俺がプラントに置いてきた荷物やコレクションの数々であった。
どういうツテで手に入れたのかはわからなかったが、奴はそれを小出しにして俺を黙らせていたのだ。

「いい歳をした男が、アニメのコレクションねえ」

「カガリ様。ご宿泊のホテルに帰られないので?」

最後の不思議人物その三は、カガリ・ユラ・アスハであった。
彼女は、性格が良く似ているカナと仲良くなり、ユウナとほぼ同じ頃から我が家で食事を取り、カナの部屋に泊まっていた。

「私も、ホテルは引き揚げたからな。それに、ちゃんと食費と宿泊費は払っているぞ。私もご飯は大盛りで」

「太りますよ・・・」

「何か言ったか?」

「別に・・・・・・」

今日のハンバーグの肉がいつもより高級であった事と、一週間ほど前から、親父が毎日飲んでいた第三のビールが○ビスに変わっていたので、既に俺は諦めの境地にいた。

「それとな。カガリ様なんて呼ぶな。カガリで良い」

「カガリちゃん」

「何で!ちゃん付けなんだよ!」

「そういうイメージだから」

「少しムカつく」

「しっかし!二人して、買収されやがって!」

俺は、何も文句を言わない両親に悪態をつく。

「それは、ちゃんと食費を入れている人の言うセリフね」

「そうだな」

「うっ!それを言われると・・・・・・」

俺は、オーブ軍一尉とモルゲンレーテ社係長の給料を貰っていたが、家に一アースダラーも入れていなかった。
将来は家を出ようと思っていたので、貯蓄に励んでいた事と、休日に遊び回っていたからだ。

「何だ。アマミヤ教官は、すねかじりの駄目息子なんだな」

「否定できない・・・・・・」

ギナ准将の容赦ない一言が、俺の胸に突き刺さる。

「でも。お兄さんは、何かがあるとすぐにお金を出してくれるし」

「そうだね。トール達とお茶を飲んだ時や、食事に出かけた時は必ずスポンサーになってくれるし、ラボに差し入れも良くしてくれるし」

「俺の妹達は優しいよな」

俺は、レイナとカナのフォローに心から感謝する。

「そうですね。レイナの言う通りですね」

「その点は、褒めても良いかな」

レイナの両端に座っている、今日から家に下宿する予定のキラとカナードが、次々にレイナに賛同する発言する。
正直なところ、カナードが俺を褒めるなんて、今までなら絶対にありえない奇跡のような出来事であった。
多分、レイナの「お兄さんみたいな人がタイプの男性かな?」という発言を受けてのものであろう。
ただ、それを聞いた後にカナードが、「あんなバカのどこが良いんだろう」と言っていたので一発殴っておいたが。
そして、キラは、「カザマ家で下宿すれば、往復で一時間の時間の短縮になります」と直訴して、我が家に下宿する事になっていた。
それは、父親がモルゲンレーテ社の取引先企業に務めていて、カレッジや工場から離れた場所に住んでいるキラにとって、カナードとレイナが一つ屋根の下にいる事が我慢できなかったのであろう。
だが、空いている部屋がなかったので、キラはカナードと同室という少し不安な部屋割りになっていた。
俺は、流血の惨事にならない事のみを祈っていた。

「ところで、話は変わるが、週末の例のデートの件は大丈夫なのか?」

「本当に、デートなら良いんですけどね・・・・・・」

ギナ准将の確認に、俺は少し言葉を濁してしまう。

「デートって、彼女でもできたの?兄貴」

「違うよ。カナ。例のマリューさんとの食事会さ」

「大西洋連邦の女スパイの?」

「スパイじゃないさ。軍は正式に退役しているし、元々彼女は技術将校だしね」

今週末の休日に例のマリュー・ラミアスと意見の交換会というか、腹の探りあいをする予定になっていた。
彼女は、大西洋連邦内の穏健派政治家達に近しい、ハルバートン准将の子飼いの将校であったからだ。
ただ、まだ何を聞き出せるのかは不明であったが。

「でも、例の新型モビルスーツが完成して月に戻ったら、現役に復帰するんでしょう?」

「そうだよ。駐在武官でもないのに、中立国に現役の大西洋連邦の将校がいたら、戦争になってしまうかもしれないし。だから、こんな回りくどい手段を取っているのさ」

「何とも複雑で、ずるい手を使うんだね」

「ちゃんと、国際法は守っているさ。でも、プラント政府には確実に恨まれますね。サハク家とセイラン家は、大西洋連邦との関係を重視しますか」

俺は、ギナ准将とユウナに事情を尋ねる。

「そうだね。何と言っても、世界一の大国だからね」

「ユウナの言う通りだな。(寄らば大樹の陰)という事だ」

「でも、コーディネーターの命の保障がありません」

コーディネーターを滅ぼす事も辞さない、ブルーコスモス強硬派の指示を受けた将校が起こした、「ユニウスセブン」への核攻撃を容認し、軍のコントロール下を離れた将校の処罰すら行えない大西洋連邦に、俺は不信感を隠せないでいた。
常識的に考えても、そんな連中との交渉は不可能だし、そんな連中との協定が守られる保障もなかったからだ。

「一応、穏健派に住み分けの提案をしている。大洋州連合か赤道連合から、無理なら飛び地で領土を買って地球上のコーディネーターを受け入れて、オーブ国民にしてしまうのだ。そして、ナチュラルとの婚姻を奨励して、数世代で緩やかに消滅させる方針で行こうかという案だ」

「プラントは、どうするんです?」

「向こうも事情が複雑でな。同じように予備交渉はしているが、条件面でお話にならないそうだ。そこで、もっと戦果をあげて譲歩を引き出そうとする穏健派と、ワシントンを占領して無条件降伏を受理させようとする・・・・・・」

プラントは、穏健派・強硬派を問わずに戦争を続行するつもりのようだ。
地球連合軍側でも、負けっぱなしで講和をするとも思えないで、それは同じようであったが。

「それ。本気で言ってます?」

確かに、開戦前にそんな事を喚き立てる評論家などは、プラント本国に存在していたが、プラントの舵を取る政治家の中に存在する事を、俺は認めたくなかった。

「プラントという閉鎖空間に閉じこもっている影響かな?実は、ミナもその点を憂慮していた。ザラ国防委員長は現実が見えているらしいが、彼の派閥に属する連中にはバカな連中が多い。だが、彼らを切り捨てる事は自分の足を切る事に繋がるからな・・・・・・。大西洋連邦もプラントも、表面上は一つに纏まっているが、内部ではかなり過激な主導権争いが行われているらしい」

「大西洋連邦は、コーディネーターをプラントに閉じ込めて経済的植民地として監視し続ける事を目標とする勢力と、完全に滅ぼしてしまおうと考える勢力で、プラントは、プラント理事国に抑圧された国や地域との連携を強化して同盟を結び、共に独立してしまおうと考える勢力と・・・・・・」

「最終目的はまだ不明だが、コーディネーター至上主義者の最強硬派。つまりは、アマミヤ教官を陥れた連中だな」

困った事に主導権争いが終了するまで、講和の条件すら出せない事が事態を複雑にさせていた。
大西洋連邦は、ブルーコスモス強硬派が主導権を取れば、全滅戦争を仕かけるつもりかもしれないし、プラントも最強硬派が力を握れば、地球連合の全面降伏などという妄想を振りかざす可能性が否定できなかったからだ。

「それで、いまだにわからないんですけど。俺みたいな小物を、どうしてあそこまで強引な手段で・・・・・・?」

「確証はないが、アマミヤ教官は政治的に無色だった。それが、ザラ国防委員長の引きで、自分の後継者たるアスラン・ザラの教官任務と前線配備後の上官になる事が決まっていた。しかも、アスラン・ザラの婚約者は、穏健派を率いるシーゲル・クラインの娘のラクス・クラインだ。自分達は切り捨てられるという危機感をマーレ・ストロードが感じ、彼に期待しているザラ派の最強硬派の連中が、彼の背中を押したんだろうな・・・」

「なるほど・・・・・・」

彼らの勢力は、ザフト軍を中心にかなりの力を持っていた。
だからこそ、それに逆らう事に恐怖を覚えた「アンバー」の艦長や「ジン」部隊のパイロット達が、俺の説得に耳を貸さなかったのであろう。
そして、完璧な証拠もないので、ザラ国防委員長は俺を切り捨てる決定をしたらしい。
現に、俺の指名手配は解けていなかったし、再調査の可能性もほぼゼロである事を聞いていたからだ。

「そこで、ミナからの指令だ。マリュー・ラミアスと接触して、情報を集めて欲しいそうだ。彼女は、技術大尉ながらあの新兵器の開発指揮を任されている。ひょっとすると・・・・・・・。という事だ」

「わかりました。美女とのデートを楽しみますよ」

「ベッドの中で余計な事を話すなよ。古典的な手だが、男は皆引っかかる」

「そこまで行けますかね?」

「それは、アマミヤ教官の技量次第だな」

「お兄さん・・・」

「兄貴・・・」

「ヨシヒロさん・・・」

「カザマ。お前・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

俺とギナ准将の大人の会話に、レイナ達は顔を真っ赤にしていた。
どうやら、少年・少女達にその手の経験は皆無であるようであった。
だが、意外な事に、ユウナだけは余裕の表情をしていた。

「ユウナ。顔を赤くしても良いよ」

「あのねぇ・・・。僕は、それなりに経験ありだよ」

「権力と金で手篭めにしたの?」

「変なドラマの見過ぎだね。学生の時には、普通に彼女くらいはいたって事さ」

「なるほど」

「とにかく、セイラン家でも、交渉相手の確定ができない事に父上が頭を悩ませていた。戦争の当事者同士が、理性を保っていない対抗派閥を抱えていて、下手を打つと、彼らに主導権を奪われるという異常事態だ。相手にあげ足を取られないように、予備交渉ですら彼らに見つからないように、極秘で行わなければならないそうだ。このままでは、不効率この上ない」

「でも、マリューさんが、何も知らない可能性も・・・・・・」

「むしろ、そちらの方が高いな。あくまでも、万が一の期待を込めてだな」

「わかりましたよ。頑張ってみます」

長い話を終えて俺が自分の皿を見ると、和風おろしハンバーグはそこに存在しなかった。

「なぜに?WHY?」

「ハンバークは、和風に限るね。おろし大根のサッパリ感が・・・・・・」

隣を見ると、ユウナが口をモグモグとさせていた。
どうやら、犯人はコイツであるようだ。

「殺す!明日は、スーパー○イヤ人コースで!」

「今更、何を・・・。毎日、血を吐くような特訓を課している癖に・・・」

「それを上回る特訓じゃーーー!」

結局、今日の俺の夕食は、フリカケご飯とハンバーグの付け合せの人参とブロッコリーのみであった。


(数日後、某高級ホテル入り口)

「お待たせ。えーーーと。アマミヤ君で良かったっけ?」

「一応は、そういう事で・・・」

数日後の休日、俺はマリュー・ラミアス元技術大尉と以前にユウナ達が泊まっていた高級ホテルの入り口で待ち合わせをしていた。

「十分前か。軍人さんよね・・・」

「習慣ですよ」

「私の婚約者もそうだったわ」

「そうですか」

「湿った話はなしにしましょう。さあ。入った入った」

俺はマリューさんに手を引かれて、ホテル内の高級レストランに入るのであった。


「あなたとデートするなんてね」

「敵同士でしたからね。いや。まだ過去じゃない可能性も・・・」

「私は、戦場に行った事がないから・・・」

「技術将校ですからね」

予約していた高級レストランの席に座り、少し早めのランチを注文してから、俺とマリューさんは話を続ける。

「それで、私を落として(G)の技術でも探るつもり?」

「俺を色仕掛けで落として、オーブのモビルスーツの開発状況を探りますか?」

お互いの発言した内容で、二人ともがニヤリと笑ってしまう。

「お互いに腹を割って話さない?」

「それが、マリューさんのボスの意向ですか?」

「あなたのボスはどうなの?」

「正直に言いますと、あなた達は我々の庭で新作料理を作っているので、レシピは簡単に盗めます。(フェイズシフト装甲)(ラミネート装甲)(小型ビーム兵器)(アンチビーム粒子塗布装甲)・・・・・・」

「本当に?」

技術関連では素人の俺は、技術将校であるマリューさんに妖艶な笑みで問い質されてしまう。
実は、理論はすぐに理解できたのだが、「フェイズシフト装甲」の製造方法で親父が煮詰まっていたからだ。
同じ技術者として、簡単に複製できるはずがないとわかっているのであろう。

「OSで苦労していますか?」

攻撃されっ放しなのも癪なので、俺はマリューさんに反撃を開始する。
いくらハード面が優れた兵器を開発しても、ソフト面が駄目なら的にしかならない事は、向こうが一番よくわかっていたからだ。

「そちらは、どうなのかしら?」

「オーブ国民の三割は、コーディネーターとハーフコーディネーターです。それと、プラント理事国で大きな顔をしている環境差別団体のご活躍で移住者も増えています。彼らは、最後の居場所を守るためにぞくぞくと志願しています」

俺は、わざとナチュラル用のOSを開発している事実を伏せた。
知っているかもしれなかったが、探りを入れてみたのだ。

「じゃあ。何のOSを一生懸命に開発しているの?学生まで動員して」

「OSの改良は、必要ですよ。コーディネーターでも、未熟なパイロットにあのOSはかなりキツイですから。補助OSの開発と旧型OSの改良で、操作手順の簡略化を目指しています。そうすれば、訓練期間が短縮して、同じ機体でも性能やパイロット生存率が上昇して、戦力が増しますので」

「平和の国でそこまで必要かしら?」

「本気で言っていますか?中立国だから、誰も当てにできないんですよ。スイスという国をご存知ですか?」

「昔は永世中立国だったわね」

「でも、軍備がなかったわけではありません。国民全員に兵士としての義務があり、武器が配られていましたし、アルプス山脈には、要塞が整備されていました。そして、パンが不味かったそうです」

「どういう事かしら?」

「小麦粉を古い備蓄から市場に回していたんですよ。古い小麦粉から消費していけば、小麦の供給が止まっても、少しは生き長らえます。オーブも、そのくらいの気構えでいかないと」

「地球連合に加入するという手もあるけど」

「それをしていたら、カーペンタリア基地を設営した余勢でプラントに占領されていましたね。プラントが、カグヤのマスドライバーをそのまま放置するとでも?それに、オーブ亡命政権にオーブ本土開放の助力をする余裕が地球連合にあるんですか?アフリカ・中東・オセアニア・東南アジア・極東・中国大陸で失態続きの地球連合にですよ」

「それについては反論できないわね。でも、大西洋連邦は大国よ。ちゃんと物を考えている政治家や軍人がいる事も忘れないでね」

「それは、私に言わないでウズミ様に仰ってください」

「あなたは、どう考えているの?」

「アズラエル理事が、大きな顔をしているような国は信用できません」

アズラエル理事は、財界人でしかないはずなのに、大西洋連邦内で大きな発言権を持ち、軍の内部にまで影響力を及ぼしていた。
これは、民主主義国家としては大きな危機であり、ブルーコスモスのスポンサーという事も含めて非常に危険な要素が絡んでいた。
なぜなら、主義者とは話し合いが難しいからである。
しかも、彼は金も権限も持っている主義者なのだ。
こんなに危険な事はなかった。
午後のレストラン内で、二人の話は予想よりも長くなり、テーブルの上の料理は完全に冷たくなっていた。
俺も、ここまで強く言うつもりは全くなかったのだが、オーブ以外ではジャンク屋になるか、海賊になるか、火星にでも行くかしか選択肢が残っていない俺に、マリューさんの意見は無責任にしか思えなかったのだ。
それに、これは正式な交渉の場でもないので、好きに言わせて貰う事にしたのだ。

「でもね。ハルバートン准将は・・・・・・」

「新型モビルスーツの件では、多少頑張ったようですが、所詮は一准将ですよ。新兵器を外国の国営企業でしか作らせて貰えない、大した力もない一准将です。アズラエル理事は、多額の資金と人材を用いて月やアメリカ大陸で大々的にやっているそうですね。いくら高性能でも、五機の新型モビルスーツなら、運用データを取らされてその成果を奪われて終了です」

「そんな話は・・・・・・」

俺はミナ様に許可を受けていたので、事前にミナ様から聞いていた重要機密をマリューさんにわざと漏らす事にする。
実は、大西洋連邦ではアズラエル理事の量産計画の方が本命で、マリューさん達が行っている計画の方は、潰されても構わない囮であった。
運が良ければ、データくらいは取れるであろうという事らしい。

「大西洋連邦は、環境団体出身の主義者達が国を牛耳り、プラントでも過激な考えを持つ者達が力を増しつつある・・・・・・。オーブは選択を誤ると、滅びる可能性がありますね」

「大西洋連邦もそうよ・・・・・・」

「どういう事です?」

「これは、私の独り言よ。ブルーコスモスが分裂の危機にある・・・」

この一言を言うと、マリューさんは周りを密かに見渡した。

「大丈夫ですよ。数人の不審者を始末したそうですから」

「ブルーコスモスの本来の目的を知っている?」

「コーディネーターのナチュラルへの回帰でしたっけ?」

「そちらのウナト様の提案を魅力的に感じる人と、感じない人がいる・・・・・・。プラントへも、戦力のみを壊滅させて無条件降伏を誘い、ナチュラルの住民を移住させて緩やかに混血を進め、今次大戦の賠償金代わりに資源を生産させながら管理をする方針のアズラエル理事と、一旦完全に殲滅させてから、一からの建設を主張するジブリール最高幹部との主導権争いという奴ね」

「へえ。アズラエル理事って意外とまともなんですね。(ユニウスセブン)の黒幕。コーディネーター殺人鬼。差別主義者とか言われてますけど・・・」

「彼は商売人で、ブルーコスモスは商売道具の一つに過ぎない」

「でも、ジブリール最高幹部も、名前からするとカナダとヨーロッパを拠点にしている財団の当主だったような・・・・・・」

「だからこそよ。アズラエル理事は、父親の代にプラント建設に金を出していて、大きな発言権を持っている。でも、ジブリール最高幹部は金を出していない。一旦壊滅させてから、資金を出して新たに建設して発言権を保持したい。そして、そこを管理するのは、全滅したコーディネーターに代わって自分の部下やナチュラルの住民達って事」

「そんな理由で俺達は全滅ですか。でも、それだと金がかかりますね」

「かかっても良いのよ。投資は確実に回収できるし、多額の資金を投資しているアズラエル理事に大ダメージを与えられる。これから、数百年。コーディネーターに警戒するコストを考えるなら安いものだそうよ。それに、戦争の影響で恨みを買っているコーディネーターへの強硬な意見で、ブルーコスモス内部の影響力を増す事に成功した。彼の影響力の増大は、そのままアズラエル理事の影響力低下に繋がる」

つまり、同じブルーコスモスに所属していても、商売敵に変わりはないという事なのであろう。

「二千万人を虐殺ですか。ヒトラー・スターリン・毛沢東・ポルポトと並ぶ、大虐殺者ですね」

「だから最初、ジブリール最高幹部は、アズラエル理事にそれをやらせようとした。彼も最初は過激な意見で支持を集めていたし、コーディネーター嫌いで有名だったから。でも、彼は損はしたくない。そこで、ジブリールは一人で賭けに出たわけ。要するに、アズラエル理事の影響下からの離脱ね」

「成功しそうですか?」

「勢力は拮抗しているわ。つまり、これからはミスをした方が負けという事よ」

「なるほどね。しかし、マリューさんは詳しいですね」

「所詮は准将の情報収集能力を侮らない事ね」

「すいません。失言でした」

ここまで大西洋連邦内部の情報に詳しいとなると、彼女はハルバートン准将と穏健派の連絡員的な立場にいて、こちらとの接触を図っているらしい。
そうでなければ、ここまで事情に詳しくないはずであった。

「(今はお互いが足元を固めた方が良い。これから、何が起こるのかが全く想像できない。だから、私も戦力の増強と保持に努める)これが、ハルバートン准将の考えよ」

「そうですね。オーブも状況は同じかな?将来、中立を捨てる事になるとしても、組む相手の想像がつきません」

「それは、こちらも同じ。できれば敵にならない事を」

「お互いに戦死しない事を」

俺とマリューさんは、最後にその一言を交わしてから席を立つのであった。


「俺は専門家じゃないからな。情報収拾とか、裏工作はミナ様に任せるか・・・・・・」

「カザマ!」

俺が高級レストランがあるホテルを出ると、そこには意外な人物が待っていた。

「あれ?カガリちゃんじゃないの」

「ちゃんって呼ぶな!」

「どうかしたの?」

「教官に話を聞きに来ただけだ!」

「そんなに強調しなくても良いじゃん。デートとか言ってくれれば、口を滑らす可能性もあるのに・・・・・・」

「口を滑らすって、内緒にするつもりか?」

「言葉のあやだよ。あれだけの監視がいたんだよ。盗聴されているに決まってるでしょうが」

マリューさんと話している間、数人の視線を何となく感じていたし、場所が指定されていたという事は盗聴器等もあったのであろう。
カガリに話す内容は、カガリなら情報部やウズミ様に聞けば簡単に教えてくれる類の物であった。
情報管理が甘いと思うかもしれないが、カガリは腐ってもウズミ様の娘で、目に見えない特権を多く有していた。

「じゃあ、近くのコンビニで飯でも買ってから人気のないところで・・・」

「何でレストランから出てきた教官が、飯を買うんだ?」

「話に夢中になっていて何も食べてない。勿体ない事をした。俺って、一般庶民だったのに」

「わかった。じゃあ、行こうか」

俺とカガリは、コンビニに向かって歩き出すのであった。


「オニギリとお茶ねえ。教官は、本当に日本人なんだな」

「まあね。オーブって、日系人が多いから、この手の食べ物に不自由しなくて助かるよ」

俺とカガリは、近くのコンビニで昼食を買ってから、人気のない公園のベンチで話を始める。

「とまあ。ここ一ヵ月ばかりで、交戦国の内部では、双方共に大きな権力闘争が発生しているわけだ。純粋なプラントの独立戦争の枠を外れつつあるわけだね」

「それで、我々はどうすれば良いんだろう?」

「このままだね」

「このまま?」

「そう。戦力を蓄え、国力と技術力を増強して時を待つ。中立国ならではの利点だね。あの大西洋連邦ですら、戦時国債の大量発行で頭を抱えているのに、貿易は大幅な黒字で、軍事費を大幅に増やしても大きな文句も出ないオーブって、相当に恵まれてるよ」

現時点で、オーブはその国力を増強中であった。
地球で迫害を受けているコーディネーターや、祖国の争乱を嫌う移住者を受け入れて社会に再配置し、様々な物資の生産・開発・輸送などを行って莫大な利益を上げていたからだ。
そして、プラント理事国の非難をかわすために、その利益で多くの軍事関係の技術を買い、それを自国の軍備増強に生かしていた。
中にはそれに警鐘を鳴らす者もいたが、中立国が自分の身は自分で守らなければならないのは、まともな政治家なら誰でも知っていたので、それほどの警戒感を抱かれているわけでもなかった。

「だが、大西洋連邦の言いなりになって、モビルスーツの開発を!中立を標榜しているのに、兵器を開発して売るなんて!」

「本音が出たね。カガリちゃん。でも、違法ではない」

「あれが、多くの人を殺す事くらいは誰にだってわかるはずだ!教官だって!」

「知ってるよ・・・」

「えっ?」

「知ってる。実際に殺してきたから」

「・・・・・・・・・・・・」

「日本にいたくなかった俺は、プラントに上がってアカデミーに入学した。そして、そこでモビルスーツの操縦技術を懸命に学んだ。その時は、(作業用強化スーツの免許が取れる)くらいの感覚しかなかった。でも、戦争が始まり、俺は(ジン)で多くの敵の兵士を殺した。でも、その時はそれで良かったんだ。プラントには友達もいたし、俺の唯一の居場所だと思っていたから・・・・・・」

「教官・・・・・・」

「でも。裏切られてこの始末だ。死神はオーブに逃げ込み、そこで更なる殺戮の準備をしている。でも、止めるつもりはない。ここには、家族がいるから・・・・・・。例え、他の国の人間が何億人死のうとも、オーブが安全なら良いんだ」

「オーブの安全?」

「そうだよ。安全だ。平和というのは、世界中でどこにも戦争が起こっていない状態の事を指す。今のオーブは戦争に巻き込まれていないから、今のところは安全という状態なんだよ」

「平和と安全・・・・・・」

「まず自分の国の安全を確保する。それから、他所の国の心配をしたければすれば良い。俺には、そんな余裕はないけどね」

「冷たいんだな・・・」

「そうだね。でも、俺の手はそんなに広くない。それに、ウズミ様の手もね」

「お父様もか?」

「カガリちゃんもね。他所の国の事を気にかける余裕なんてないはずだ。余計な心配で気を取られて自国を戦禍に巻き込む指導者なんて、バカ以外の何者でもない。それに・・・・・・」

「それに?」

「オーブなら安全だと考えて移住し、軍に志願までするコーディネーターがいるんだ。受け入れた以上、彼らの面倒を最後まで見る。為政者として当たり前の事なんだけどね・・・」

「確かに、教官の言う通りだな」

「それに、ウズミ様もその事を理解しているからこそ、サハク家とセイラン家の動きを完全に止めないし、ウズミ派と目される俺にギナ准将やユウナは情報をくれるんだよ。くだらない派閥闘争で国が割れて滅ぶなんて、一番バカな状況だからね。次期代表争いなんて、後でやればいいんだ」

休日の昼下がりの公園のベンチで、一見すると恋人同士に見えなくもない男女の話は続いていた。

「実は、前から聞きたかったんだけど」

「何をだ?」

「なぜにパイロットの訓練を?」

俺は、以前から疑問に思っていた事をカガリに尋ねる。
ギナ准将は、ミナ少将の意向もあって宇宙軍にモビルスーツ部隊を配備するためであろうし、ユウナは本人の言う通りに帝王学の一環というやつなのであろう。
だが、十六歳の少女でしかない彼女が、プロの軍人に混じって厳しい訓練を行っている理由が理解できなかったからだ。

「よく知らないからだ」

「へっ?」

「お父様に言われた。(お前は、碌に知らない物を批判するのだな)と。だから、訓練を受けている」

どうやら、自分の父親が元ザフト軍の「黒い死神」にモビルスーツ隊の創設を依頼した事や、セイラン家とサハク家が大西洋連邦軍の依頼を受けてモビルスーツを開発している事を知ったカガリが、ウズミ代表に文句を言いに行った時に、こう言い返されてしまい、カガリは自分の目で確認をするために、訓練を受ける決意をしたらしい。

「(何とまあ。単純なお姫様で・・・)」

「それに、気になっていたんだ」

「何が?」

「人が良いと評判のカザマ部長の息子が、ザフト軍のトップエースで多くの戦果を上げていたなんて。そして、裏切られて逃げて来たなんて。一体、どんな悪人なんだろうと思って、見てみようと思ったんだ」

俺の軍人としての評価は、微妙なところであった。
数多いるエース達とは違って爽やかさがなく、マーレ達の圧力によって(これは後で知った)ニュース映像になる機会も少なかったので、クルーゼ隊長や「黄昏の魔弾」ほどの知名度がなかったからだ。
俗に言うと、軍内部では知る人ぞ知るというタイプの軍人であった。
そして、地球連合軍では、「指揮官キラー」の要注意人物という評価を貰っていた。
「世界樹」攻防戦、「オペレーションウロボロス」、「北アフリカ戦線」、「新星」攻防戦と、俺が殺傷した将官の数は両手の指の数を超えていたからだ。
そして、追撃等は必ず行っていたので、軍事に素人な人からみれば相当の悪人に見えたであろう。

「それで、どう思った?この哀れな死神を」

「私なんかより、よっぽどオーブの事をちゃんと考えていた」

「それは、違うね。俺は生き残りたいだけなんだよ。無意味に死ぬのはゴメンなんだ。来て一ヶ月の国に愛国心なんてないさ」

「それでも、私よりは具体的な事をしている。私は文句を言っているだけだ・・・・・・」

「若さの特権ってやつさ」

「教官も、十代だろうが!」

「ねえ。その教官って何とかならない?」

「だって、教官は教官だ」

「名前で呼んでくれていいさ」

「でも・・・・・・」

「プライベートの時はね」

「ヨシヒロ・・・」

カガリは、少し恥ずかしそうに俺の名前を呼ぶ。

「はいはい。よくできました。賞品は・・・・・・。服でも買いに行きますか。カガリちゃんもお姫様なんだから、もっとセクシーな格好をねえ。Tシャツにジーンズですかい?」

「悪かったな!」

「超ミニスカートを買いに行こう」

「お前の趣味丸出しだ!」

「スポンサーは、お兄さんに任せなさい!」

「手を離しやがれぇーーー!」

「お嬢様チックなワンピース・・・。は持ってそうだね」

「私は、着ないからなぁーーー!」


「ユウナ。悔しくないのか?婚約者なのだろう?カガリは」

「別に、悔しくも何ともないです。僕は子供の頃からカガリを知っていますけど、一度も女として見た事がないんですよね。やっぱり、女性は髪が長くてお淑やかで・・・・・・」

無人と思われていた公園内の茂みの中で、二人の男性がベンチの男女二人の様子を伺っている事に気が付いている者は少なかった。

「スタイルが良くて・・・。胸は欲しいところだな」

「カガリには、ほとんど備わっていない機能です。ギナ准将」

「言えてるな。しかし、我に一番近い女性は、冷血女のミナ。ユウナには、色気ゼロの凶暴少年少女のカガリ。我らは、特権を有する氏族のはずなのに・・・・・・」

「アマミヤ君の妹なんて、美人双子姉妹ですからね。我が身の不運を呪いますよ・・・ひぎっ!」

「そうだな・・・・・・。うべっ!」

「誰が冷血女だ!いったい、誰のせいでこんなに苦労していると思っているんだ!」

「色気ゼロの凶暴少年少女だと!このハゲが!」

二人の内緒話はなぜか当事者達に聞こえていて、ギナは後頭部にミナのチョップを、ユウナは顔面にカガリのキックを食らっていた。

「ミナ。いつの間に・・・・・・」

「カガリ。父上は、確かにハゲている。だが、僕はちゃんとケアをしているから大丈夫さ」

「いや。遺伝の運命には逆らえまい。最近、髪にブラシをすると、抜け毛が多くないか?」

「ドキッ!」

「シャンプーの時に、髪が柔らかくなったとか?」

「更に、ドキッ!」

「二十年後には、ハゲ確定だな。ユウナ」

「僕は大丈夫だ!」


「指揮官教育と割り切ってみれば、お前は毎日、楽しそうに遊びやがって!少しはアマミヤを見習って、管理職らしい仕事をしろ!」

「無理だ!できん!」

「即答するな!再来月には、(アメノミハシラ)にも訓練施設が完成するんだぞ!訓練生の選抜も終わっているんだ!」

ヘリオポリスのみでスタートしていたモビルスーツパイロットの訓練施設は、オーブ本国の数ヶ所と「アメノミハシラ」にも拡張される事が決まっていて、多くの志願兵のなかから選抜された人員が、割りふられて配属される事になっていた。
そして、そこで教官を務める者は、ここで一応の過程を終えたコーディネーターの士官達であった。
多少泥縄ではあるが、オーブ軍内でモビルスーツ操縦経験者が数十人しかいない状況では、仕方がない事であった。

「大丈夫だ。必要な人員は確保している。彼らが頑張ってくれるであろう」

「お前は、ここに残るつもりか?」

「その通りだ」

「偉そうに言うな!ちゃんと、仕事をしろ!」

「残念ながら、我と技量が近い連中は、ここに数人しかいないからな」

現状でギナと互角かそれ以上に戦えるのは、俺とカナードとおバカ一徹のバリー・ホー一尉という人物のみであった。
ホー一尉は、ちょっと性格はアレであったが、ナチュラルなのにコーディネーター用のOSを使えるという利点を持ち、ここ一ヵ月の訓練とキラの改良OSのおかげでその技量を大幅に上げていた。

「お前が前線で戦うな!指揮官は指揮を執れ!」

「正論だが、難しいミッションだな」

「はぁ・・・・・・・・・」

「オーブって大丈夫かな?というか、俺の真面目な告白が全部台無し・・・・・・」

俺の嘆きをよそに、ミナ様はギナ少将と、カガリはユウナと不毛な言い争いを続けるのであった。
コズミック・イラ70の八月中旬の夏の日、戦争が始まって半年。
中立国オーブは、まだ平和の最中にあった。


          あとがき

運命のスペシャルエディションを見て友人と感想を語り合う。

「2と3のエンディングの曲が良かったね」

「Tearsと遠雷か。良かったよな」

終了・・・・・・。

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