(西暦2357年6月23日、「ステルヴィア」司令室内)
「状況を報告せよ!」
予定外のアクシデントにより開始時刻を早められはしたが、「ジェネシスミッション」は無事にスタートし、迅雷とレイラは作戦指揮のために「ステルヴィア」に残留し、織原司令やリチャード主任教授やヒュッター教官は、風祭技官などの技術系の職員を伴って「ビジョン」の司令室に移動していた。
彼らは、「ステルヴィア」がフラクチャーに突入する時のために、「オデッセイ」に臨時の司令室を作りに行ったのだ。
もし、レーザー砲の発射が二発以内ならば不要な物であるし、誰もが不要なままで終わって欲しいと願っていた。
「(インフィニティー)と(アルキュオン)は、予定宙域に無事に到着しました。(ケイティー)部隊も同様で、先行部隊との合流に成功し、あとは命令を待つだけです。(ビアンカマックス)も健在で、新型DLSも平均83%のコンプリート率を維持してします」
「そうか」
迅雷がオペレーターからの報告を聞いていると、今度は「ビジョン」に移動した織原司令から通信が入ってくる。
「白銀君。資源採掘用の旧式のジェネレーターではあるが、パワーは十分なようだ。十分にレーザー砲の発射に耐えられるよ。ただ・・・・・・」
「だた?」
「旧式ゆえに、一発が限度だそうだ」
「それで十分ですよ。(エルサント)の件は予定外でしたが、(ステルヴィア)を代わりにぶつけてやれば特に問題はないですよ。我々には以前と変わらずに、三回のチャンスが与えられたわけです」
「それもそうだ。一発何十兆円の高い餌ではあるが、(コズミックフラクチャー)には有効だからな」
「フラクチャーを退けたら、再建の費用を考えないといけませんね」
「それを考えると、頭が痛いがね。それに、喉元を過ぎれば何とやらだ。もっと、方法があったはずだと言い始める輩も登場するだろう。どのみちファウンデーションを失った事により、太陽系の滅亡は防げても、太陽系の他の惑星の探査や開発。そして、太陽系外への進出は大幅に遅れるだろうからね」
このミッションで、最低でも二基の、多いと五基ものファウンデーションを失う事になり、その損失額は、時間優先で進めたミッションの必要経費と合わせて天文学的数字になると予想されていた。
特に、ファウンデーションは最新の技術を使った宇宙ステーションで、その建造費用は過去のアメリカ合衆国の「ニミッツ級原子力空母」十数隻分に匹敵していた。
「それは後で考えましょう。まずは、ミッションの完遂です」
「それもそうだ。白銀司令!君に一任する!自由にやりたまえ!」
「了解です!織原司令の方も、(ビジョン)の方をお願いします」
「年寄りばかりで、養老院状態だがね。年寄りは年寄り同士仲良くやるさ」
織原、リチャード、ヒュッターなどの「ステルヴィア」幹部や、他のファウンデーションの司令達も、万が一の事態に備えて「ビジョン」に移動して、最終司令室を設置を手伝っていた。
「この司令室が無駄で終わり、我々が傍観者で終わる事を期待しているよ」
これが、織原を含む「ビジョン」にいる要員達の切なる願いであった。
「なるほどねえ。忙し過ぎて、僕達の侵入に気が付かないわけだ」
「大!一人で感心していないで状況を教えてくれよ!」
「ちょっと待ってね」
「ステルヴィア」のメインサーバーに侵入した大達は、所定の作業を終えてからメインコンピューターのスイッチを入れる。
すると、ディスプレイにはミッションの詳細な状況が映し出された。
「フラクチャーの最終防衛ライン到着まで、あと4時間を切ったね。それに、各種の準備も順調に進んでいるようだ」
「ミッションに割り込みしたのか?」
「そうだよ。勉強会の時のしーぽんの要領だよ。例の無断アクセスした時の」
大はジョジョに、いつものようにノホホンと答える。
どうやら、自分が重大な犯罪を犯している事を気にもしていないらしい。
「今更、文句は言わないけど、問題にされたら確実に退学よ。私達」
「ここに残っている時点で、退学は間違いないから。気にしないで良いと思うよ」
「あなたは大胆よね」
晶は、大の発言に呆れたような表情をする。
「えーーーと。しーぽんと光太とお嬢は、(ビック4)や孝一郎達との合流に成功か。レーザー砲の調整と重力レンズの調整も三分以内に終了で・・・・・・。何とか、間に合いそうだね」
「なあ。しーぽんの(アルキュオン)の調整進捗率が60%って出ているけど」
ジョジョは、メインコンピューターのディスプレイを隈なく眺め、そこから気になる情報を見つけて指摘する。
「60%なら、すぐに終了するさ。それよりも・・・・・・」
大の視線は、フラクチャーの最前線に識別信号がマークされている「ビアンカマックス」に向いていた。
「コンプリート率は・・・・・・。79.32%か!何で、時間が経つ毎に数字が落ちているんだよ!」
「エルサント」が消滅した宙域近くで情報を集めていた俺は、十数分前から原因不明の不調に襲われていた。
先ほどの、「エルサント」を滅させた、フラクチャーの活発化の原因の調査や通常の訓練の時とは違い、時間が経つにつれて徐々に新型DLSに対するコンプリート率が落ち始めたからだ。
そして、次第にノイズが増えて見え難くなっていく新型DLSの画像に、俺は苛立ちを隠せないでいた。
「このままでは、一時間後には60%を切ってしまう!」
「孝一郎君。落ち着いて」
「初佳先輩。これが落ち着いていられる事態だと思いますか?」
「片瀬さんが、もう少しで(アルキュオン)の調整を終わらせるわ。それまで」
「しーぽんと光太が、来ていたんですか?」
「あなた。そんな事にも気が付かなかったの?」
「集中していたんですよ」
「・・・・・・。孝一郎君。とにかく、落ち着いてね」
「お嬢・・・・・・」
次に、俺の「ビアンカマックス」の通信機に入ってきた声は、久しぶりに聞くお嬢の声であった。
彼女は初心者である事や、緊急事態であった事を理由に後発部隊に回されていたのだが、いつの間にか、その後発部隊も作戦に備えて合流していたらしい。
「孝一郎君。ケント先輩の命令よ。少し下がりなさい」
「なぜだ?それでなくても、新型DLSの解析度が落ちているのに、ここで下がってしまったら!」
「いつまでもそこにいたら、重力場フローに巻き込まれて分解するからよ」
「えっ?」
「(ステルヴィア)内部にいる白銀司令からの報告よ。(エルサント)消滅の原因は、フラクチャーから発生した重力場フローだって。しかも、発生の予測は不可能で、(ケイティー)よりも重力推進器のパワーが大きい(ビアンカマックス)に引かれる可能性が高いわ」
「了解・・・・・・」
俺は渋々とではあるが、フラクチャーとの距離を取る事にする。
「そうそう。お姉さんの言う事はちゃんと聞かないと」
「お姉さんねえ・・・・・・」
俺は、久しぶりに聞くお嬢の軽口に少し苦笑いしてしまう。
「全(ケイティー)部隊と(ビアンカマックス)に告げる!作戦に変更は無い!全稼動機は、フラクチャーの最低点の探査を開始する事!フラクチャーに接近し過ぎないように」
今度は、レイラ先生からの命令が通信機に入り、フラクチャーへの探査が命じられる。
「孝一郎君。(アルキュオン)の調整は、もう少しで終わるから」
「孝一郎。僕も、レーザー砲台の最終位置調整と、重力レンズの形成と焦点合わせで動けないから」
「任せろ。情報収集は俺。プログラム補正はしーぽん。射撃は光太。俺は自分の役割を果たすだけだ」
俺はレイラ先生の命令通りにフラクチャーの最低点を探るべく、「ビアンカマックス」を発進させる。
だが、同時に原因不明のコンプリート率の低下も同時に進行しており、それが後にどのような結果をもたらすのかは自分にもわかっていなかった。
「ナナ。到着まで、あと何分?」
「一時間を切ったわね。ちなみに、フラクチャーの最終防衛ライン到着まであと三時間というところね。ピエール。重力バリアの出力に気を付けてね。バランスを崩すと振り回されるわよ」
「振り回されそう・・・。というか、自分も人の事が言えるのか?」
「だから、慎重に操縦しているわよ」
「アルキュオン」が使用するジェネレーターを三機の「ビアンカ」が牽引し、アリサ、りんな、ナナ、ピエールの四人は、目標宙域を目指して全速で航行していた。
「アリサ。マニュアルの中身はちゃんと覚えた?」
「大丈夫。手順通りやれば、私にもできる。それに、(ビアンカマックス)の強制充電と新型DLSの更新データのインストール作業は、それほど難しい事じゃない」
りんなの問いに、彼女の「ビアンカ」に同乗しているアリサが答える。
「アリサ。わかっているとは思うけど・・・・・・」
「大丈夫よ。ちゃんと、仲直りするから」
「それが良いよ。私もみんなも、孝一郎とアリサは仲良しの方が楽しいし・・・・・・」
「ごめんね。心配かけて(孝一郎。待っていてね。必ず行くからね)」
アリサは、遥か前方で奮戦している大切な人の事を考え続けるのであった。
「各ファウンデーション所属の(ケイティー)部隊は、フラクチャーのエネルギー最低点のマークに取りかかれ!全機!突撃!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
「ケイティー」部隊の指揮官の命令で、全機がフラクチャーに接近しながら観測機器を作動させて、エネルギー最低点の観測を開始する。
「みんな。今日は絶好の波日和だ」
「本当に乗ったら、原子分解する波だけどな」
ケントの軽口に、笙人がツッコミを入れる。
「ケント先輩。ボードとかをやった事があるんですか?」
「無いよ」
「では、そのセリフは僕の物ですよ。そういえば、厚木君も前の休みにボードを教えて貰ったとか言っていたな。ミッションが終了したら、一緒に出かけるか」
学生達の操縦する「ケイティー」部隊の指揮をしている古賀も、話に加わってくる。
「古賀。指揮は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ナジマ先輩。担当区画の割り振りは終了しましたし、ここで綺麗な編隊飛行は無意味ですし」
「あなたは、厚木と同型機に乗っているのよ。当然のごとく・・・・・・」
「重力場フローに、気を付けろという事ですね?」
「そういう事よ」
古賀はその優れた操縦適正と体の丈夫さで、「ビアンカマックス」を乗りこなす事に成功していた。
初期の状態とは違い、八ヵ月近くも様々な改良を受けていたので、それなりに乗り易くなっていたからだ。
「(ケイティー)部隊に告げる!あと少しで突入だぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
オーバビスマシン部隊は、突入に向けての最終準備に取りかかるのであった。
「音山。大丈夫か?」
「はい」
「あまり気張るなよ」
レイラの命令でフラクチャーの最低点の観測に「ケイティー」部隊が向かっていた頃、光太の乗った「インフィニティー」は、射撃管制の最終準備を行っていた。
「音山。砲台へのエネルギー供給をスタートするぞ」
「いつでも大丈夫です。白銀司令」
「お前も頑張れば、優を一つやるからな」
「砲台へのエネルギー供給をスタートします。一番・・・・・・。臨界!二番から五番も臨界です!」
「インフィニティー」の通信機に、オペレーターからの報告が入ってくる。
「(インフィニティー)のジェネレーターを開放します!」
続いて、光太が「インフィニティー」のジェネレーターを開放し、自機の目前にレーザー砲の軌道を調整する重力レンズを展開する。
「重力レンズ展開完了!続いて、砲台の照準の最終調整を行います。一番・・・。良し!二番から五番も良し!」
「重力レンズの焦点を合わせます!(インフィニティー)の前方2000メートル!・・・1000メートル!・・・500!・・・300!・・・100!・・・焦点合わせ完了!」
事前の打ち合わせ通りに、各種の作業がテキパキと進んでいき、ジェネレーターを展開した「インフィニティー」の前に、レーザー砲の軌道修正用の重力レンズが展開される。
「音山。暫く気持ちを落ち着かせろよ。あとは片瀬の調整が完了すれば」
だが、目前の状況は光太にとって、とても落ち着いて見ていられるようなものではなかった。
「気を取り直して行くぞ!測定開始!」
光太としーぽんが、最後の準備を行っていたその頃、俺は「ビアンカマックス」をフラクチャーからギリギリの距離に移動させてエネルギー最低点の観測を行っていた。
「観測機器作動!新型DLSとの同調確認!行くぞ!」
気合を入れてはいたのだが、俺は少し焦っていた。
数時間前までは、80%を余裕で超えていたコンプリート率が70%代になり、更に少しずつではあるが減少が続いていたからだ。
「何で!今までは順調そのものだったのに!コンプリート率は・・・・・・。73・54%だと!ちくしょう!」
自分でも不調の原因がわからないまま、俺は新型DLSの画面を凝視し続けていた。
だが、十数パーセントのコンプリート率の落下は、画面のノイズとなって現れて確実に収集可能な情報量を減らしていた。
「くそ!もっと接近するか?」
「孝一郎君!回避して!」
「えっ?」
「重力場フローの発生よ!」
突然、通信機にお嬢の声が入り、「ビアンカマックス」に向かってくる重力場フローの映像が確認できた。
どうやら、コンプリート率の低下の影響で、ノイスに混じって確認が遅れたようだ。
「すまない!」
お嬢に短くお礼を言ってから、搭載している小型ミサイルに搭載した小型ジェネレーターを発射すると、重力場フローはそちらに向かってから、展開された小型ジェネレーターを破壊する。
「孝一郎君。調子が悪いの?」
「理由は不明だけど、コンプリート率が落ちている。画像のノイズが酷くなる一方なんだ・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
「コンプリート率は・・・・・・。67.71%か・・・・・・。駄目だ!数値の低下が徐々に酷くなってくる。お嬢はどうだい?」
「私の方は順調だけど、重力場フローの発生で(ケイティー)部隊は大混乱ね」
いつの間にか、俺の隣を飛行していたお嬢とフラクチャーの解析とエネルギー最低点の特定を行いながら話をしていたが、状況は悪化の一歩を辿っていた。
フラクチャーからランダムに発生する重力場フローの攻撃を受けて、多数の「ケイティー」が撃破され始めたからだ。
フラクチャー自体に意思があったり生きているというわけでもないのだが、その様子は自分を消滅させようとする俺達に対しての攻撃のように見えた。
「(ケイティー)部隊へ!前衛と後衛を入れ替えろ!各パイロットは自機と僚機の損害状況を報告!」
「ステルヴィア」の管制官から損害報告の命令が下るが、彼が話をしている内に、更に恐ろしい勢いで「ケイティー」が重力場フローに撃破されていった。
どうやら、重力推進器を搭載したオーバビスマシンが大量に稼動しているために、そのエネルギーに引かれてフラクチャーの活動が活発化しているらしい。
「(ケイティー)部隊が動かないと、フラクチャーの情報が集まらない。でも、動くとフラクチャーが活性化する。ジレンマだな」
「しかも、最低点の動きが早すぎてマークしきれない。困った話だ」
「厚木。生きてる?」
「孝一郎君。コンプリート率が低下してるって本当?」
「事実ですよ。初佳先輩。原因は不明です」
この状況をヤバイと感じたのか、「ビック4」の面々が俺達と合流したのだが、彼ら自身も、次々に発生する突発事態に驚きを隠せないようだ。
「(アルキュオン)の準備はまだなのかしら?」
「しーぽんなら、超特急で準備をしていますよ」
初佳先輩にそう答えつつも、俺は不安に苛まれていた。
原因不明のコンプリート率の低下は依然として続いたままで、解決策を探している余裕が無い今、一秒でも早く射撃用のデータを送信してしまいたかったからだ。
そして、その状況下に更に俺の神経を逆なでする発言が飛び込んでくる。
「みんな!邪魔をするなぁーーー!」
「えっ?」
「どういう事?」
初佳先輩とお嬢にはよくわかっていなかったようだが、それは紛れも無く「インフィニティー」で独自に情報を集めつつ、「アルキュオン」の調整終了を待っている光太の声であった。
「光太!どういう事なんだ?」
「僕がちゃんとやらないと!僕が、一番DLSを使いこなせるんだ!」
光太は、「ケイティー」部隊のあまりの損害の大きさに、焦りを感じているようだ。
だが、その発言内容は、全てを擲って訓練を行ってきた俺には許されないものであった。
「光太!てめえ!何様のつもりなんだよ!」
「孝一郎・・・・・・」
「ああ!認めてやるよ!お前が、一番新型DLSを上手く使いこなしているさ!俺なんて、ここまで努力しても、この程度の男さ!だけどな!お前一人で、何でもできると思うなよ!」
「なっ!厚木君!」
「孝一郎君・・・・・・」
「厚木・・・・・・」
俺と光太とのやりとりは、通信機を通して全作戦参加者に伝わり、俺の日頃からは考えられないキレぶりに驚きを隠せないでいるようだ。
自分が不調という事もあって、光太の発言を傲慢と感じて怒鳴りつけてしまったのだ。
「でも!僕が!」
「一人でやっているんじゃねえぞ!天才だからって、何でもできるって思うなよ!」
「五月蝿い!孝一郎が、情報を集め切れていないからじゃないか!」
「何だと!」
子供の頃に下らない喧嘩をした経験は数回あったが、ここまで罵りあったのは始めての事であり、突然の事態に誰も口を出せないでいると、そこに聞き慣れた声が入ってくる。
「光太君!孝一郎君!喧嘩しちゃ駄目だよ!私達の敵はフラクチャーなんだよ!」
「しーぽん・・・・・・」
「志麻ちゃん」
「光太君は射撃管制が役目。孝一郎君は、情報収集が役目。でも、孝一郎君も、一人で情報を集めているわけじゃないから。二人とも仲良くね」
「うん・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
俺と光太は、しーぽんの諭すような言葉に素直に返事をする。
「はあ。遅くなってごめん。システムの調整が完了したよ」
俺達を諭しながらも手は順調に動いていたようで、しーぽんは「アルキュオン」のシステム調整を無事に完了させたようだ。
「こちら、(アルキュオン)。白銀司令。システムの調整を終了させました。作戦をスタートしてください。みなさんも、データ受信の準備が完了したので、観測データの送信をお願いします。エネルギー最低点のマークは必要ありません。確定情報の送信のみをお願いします。こちらで処理して、首根っこを押さえます」
「「「了解!」」」
「首根っこか」
「それじゃあ。仕切りなおしだ。厚木君も藤沢君も準備はオーケーかな?」
「はい」
「了解です!」
しーぽんが「アルキュオン」の調整を完成させた事により、状況が動き出した。
稼動可能な全オーバビスマシンが再びフラクチャーに接近して情報の収集を開始し、俺達もケント先輩の指示で担当区域に向かって移動を開始する。
「孝一郎君。調子はどう?」
「コンプリート率・・・・・・。48.25%です。情報は送っていますが、ノイズは酷くなる一方です・・・・・・」
しーぽんに諭されても俺の不調は収まらず、俺は更に恐ろしい勢いで新型DLSとのコンプリート率を落下させていき、もはや自分でもどうにもならない状況が続いていた。
「孝一郎君。大丈夫?」
特に命令は受けていないのだが、「ビアンカマックス」に付いて、同じく情報収集を開始しているお嬢に心配されながら、俺は自分と戦い続けていた。
ここ一ヵ月あまり、新型DLSへの適応性を上げ続けてきた俺が、最後の最後で完全に足手まといになりつつあったからだ。
「見えてくれ!新型DLS!」
俺は目をこらし、他にもできる限りの対策を行いながら飛行を続けていたが、コンプリート率の低下は目を覆うばかりのものであった。
「ここに来て!なんで?」
「孝一郎君・・・・・・」
「情報収集部隊に退避命令!全機。(インフニィティー)と(アルキュオン)の後方に下がり、護衛に徹する事!」
だが、その答えを誰も教えてくれないまま、「アルキュオン」はエネルギー最低点の特定と射撃プログラムの作製を完了させ、司令部から全オーバビスマシン部隊に退避命令が下った。
「光太君!」
「(インフィニティー)!最低点をロックオン!」
「一発目をいくぞ!(オデッセイ)突入!」
白銀司令の命令で、待機していた「オデッセイ」の自動操縦装置のスイッチが入れられ、俺達の目の前で「オデッセイ」はフラクチャに呑まれて行く。
「(オデッセイ)・・・・・・」
「ちくしょう」
作戦に参加しているカルロス達が悔しそうな声をあげてる目の前で、「オデッセイ」は縮退して超小型ブラックホールになった後、X線バーストを起こして蒸発した。
「フラクチャーの動きが鈍ったら最終補正。慌てないで・・・・・・。落ち着いて・・・・・・。よし!最終補正完了!」
「アルキュオン」に搭乗しているしーぽんは、「オデッセイ」突入の余波で少し乱れている画面を見ながら射撃プログラムの最終補正を完了させる。
「焦点距離修正!」
「焦点距離修正します!」
「エネルギー充電完了!」
「発射!」
光太の指示で後方から五基のレーザー砲台から五本のレーザー砲が発射され、レーザーは光太の修正した軌道を通りながら、フラクチャーのエネルギー最低点に向かって直進を開始する。
「いけるか?」
「当たって!」
だが、みんなの願いも空しく、「インフィニティー」が軌道修正したレーザー砲は、光太が狙った位置からは見当違いの場所に反れてしまう。
「えっ!」
「そんな。バカな・・・・・・」
「狙ったところに行かないんじゃ・・・・・・」
俺やケント先輩達は、予想外のアクシデントに驚きを隠せないままであった。
「どういう事なんだ!」
レーザー砲の第一射の様子は「ステルヴィア」の作戦司令室でも確認され、白銀司令は大きな声をあげていた。
「原因は?」
「重力場フローです!」
「あの程度の重力場フローでか?」
確かに迅雷の言う通りで、「ケイティー」には大きな脅威になっても高出力のレーザー砲を曲げられるとは誰も思っていなかったからだ。
「いえ!高エネルギーであるレーザー砲の影響なのか、普通では考えられない規模の巨大な超重力場フローの発生を確認しました!」
迅雷の質問に、オペレーターも半ば驚きながら報告をしていた。
「迅雷!最低点の特定と照準ができても、重力場フローの発生予測ができなければ・・・・・・」
「レイラ!落ち着け!あと二発も撃てるんだ。一発を重力場フローの発生予測プログラムの情報収集に使い、最後の一発で決めれば問題は無いんだ」
「迅雷・・・・・・」
「仕方が無いさ。長い付き合いだったが、(ステルヴィア)ともこれでお別れだな」
「そうだな・・・・・・」
二人は、改めて司令室内を見渡した。
今までに、様々な思い出の舞台となった「ステルヴィア」と数時間後に別れる事になったからだ。
「それと、厚木の不調についてだが、レイラの言う通りになってしまったな。ここにきて、緊張の糸が切れてしまうなんて・・・・・・」
迅雷は、オペレーターに孝一郎の新型DLSに対するコンプリート率の報告を行わせていたが、その数値は32.57%という低いもので、更に低下しているとの事であった。
「迅雷。緊張が切れたんじゃないよ。厚木の不調の原因は、心の余白が完全に無くなってしまったからなんだ。でも、大丈夫さ」
「どうしてそんな事がわかるんだ」
「風祭やグレンノース達が、現地に向かっているからな。特に、グレンノースが向こうに出発してくれた事は好都合だった」
「女の力で不調を回復させるか。あいつらしいな」
「私は、太陽系のためなんて言う奴より、よっぽど人間らしくて好感が持てるがな」
「確かに、レイラの言う通りだな。とにかく!今は二発目の準備だ!それと、三発目の発射の指揮を、(オデッセイ)の臨時司令部に委譲する準備を整えてくれ」
「わかった」
「頼りにしてるからな。相棒」
「迅雷・・・・・・。みんな!聞いたな!第二射の発射準備を整えるんだ。砲台の位置調整とジェネレーターの移動を急がせるんだ!」
レイラと迅雷は、気を取り直して次の準備を進めるのであった。
「うーーーん。何かおかしいんだよな?」
「何が?」
「こんなんだったかな?しーぽんのプログラムって」
一発目の射撃が終了した直後、「ステルヴィア」のメインサーバーでミッションの情報を収集していた大は、しーぽんの作製した射撃修正プログラムのモデルをメイン画面に呼び出して一人で首を傾げていた。
「俺には到底作製不可能な、物凄いプログラムじゃないか」
「しかも、こんなに短い時間で。私なら一日かけても作れるかどうか」
「そういう事じゃないんだよね」
「じゃあ、どういう事なんだよ?」
「具体的に、言葉にし難いというか・・・・・・」
大は、しーぽんの作製した複雑なプログラムモデルを眺めながら、一人で首を傾げ続けていた。
「まさか。ここまで外すなんて・・・・・・」
「音山君!退避だ!」
「えっ?」
一発目の射撃を外した光太が一人落ち込んでいると、急にケントから通信が入ってくる。
「君達には、指一本触れさせない!」
「音山。第二防衛線まで至急退避しろ!」
第一射を外してフラクチャーが接近してきた事と、高出力のレーザー砲を近くで浴びたために、更に活発化した重力場フローが、「インフィニティー」に向かって攻撃を開始し、それに気が付いたケント達が小型ジェネレーターを発射して防ぎながら、光太に後退を指示し始める。
「・・・・・・。了解です。退避します!」
「音山だけじゃない。全作戦参加機は、第二防衛ラインまで(インフィニティー)と(アルキュオン)を守りながら退避だ!」
続けて、白銀司令からも命令が入り、各々が第二防衛ラインにまで退避する。
「片瀬。大丈夫か?」
迅雷は、「アルキュオン」で重力場フローの発生予測プログラムの作成を開始したしーぽんに優しげな声で話しかける。
「はい!でも、重力場フローの情報が不足していて、プログラムの完成に苦戦しています」
「大丈夫だ。あと二発も撃てるんだ。一発を情報収集に使い、最後で見事に決めてくれれば良い」
「でも、ぶつけられるファウンデーションは、(アカプス)のみでは?」
「(ステルヴィア)があるさ。そのための(オデッセイ)の臨時司令室だ」
「そんな・・・・・・。(ステルヴィア)を・・・・・・」
「太陽系には代えられないさ。だから、片瀬は落ち着いて情報を正確に集めてくれれば良い」
「わかりました」
「それと、厚木」
「はい!」
更に迅雷は、突然の新型DLSに対するコンプリート率の低下に苦しむ俺に言葉をかけてくる。
「お前も、落ち着くんだ。お前が集め切れなかった情報は、他の(ケイティー)が集めているさ。ノイズがこれ以上酷くなるようだったら、旧式のDLSに切り替えて情報を集めれば良い」
「ですが・・・・・・」
「気を落ち着かせれば、大丈夫だ」
「はい・・・・・・」
「元気を出せよ。お前らしくもない」
「はあ・・・・・・」
俺は半ばボーっとしながら、「ビアンカマックス」を第二防衛ラインに向けて飛行させていた。
新型DLSに対するコンプリート率は更に低下を続け、ノイズが酷くて視界が保てないので、旧式のDLSに切り替えて飛行を続けていたからだ。
「(やっぱり、駄目なのかな?俺は、光太のようにはいかないのかな?)」
誰にも聞こえないような小さな声で、俺は自問自答を繰り返していた。
「孝一郎君。大丈夫?」
「私とやよい。二人の美女が励ましているのよ。元気を出して頑張ってね」
「はははは・・・。嬉しいな・・・」
「(やっぱり、私じゃ駄目なのね。くやしいわね)」
「(駄目なのね・・・・・・)」
無理矢理笑顔を作って笑ってみたが、ここにきて急に心を闇に染めつつある俺には、何の効果ももたらさなかった。
「(インフィニティー)と(アルキュオン)は、所定の位置に移動完了!第二射に合わせてレーザー砲台とジェネレーターの移動も完了!」
「レーザー砲のエネルギー充填完了!」
「重力レンズの展開と位置調整も完了!」
「みんな!聞いたな!(ケイティー)部隊は、再び情報収集のために突入開始!」
各部署の準備完了の報告を聞いた迅雷は、第二射のための情報収集を「ケイティー」部隊に命令する。
「音山君。片瀬君。レーザー砲の方は任せるよ!全機!突入準備!」
「ケント先輩。それを学生達に命令するのは、俺の役割なんですけど・・・・・・」
「すまないね。古賀君。いつもの癖が出て」
「もういいですよ。それよりも・・・・・・」
「「厚木君の不調は、我々で補う!」」
「ケイティー」部隊の全稼動機は、次々に前進速度を増しつつあるフラクチャーに接近して情報収集を開始した。
今回は最低点の観測のみならず、重力場フローの発生状況のデータも収集し始める。
特に「ステルヴィア」関係者は、この射撃を成功させれば「ステルヴィア」を失わずに済むので、気合の入り方が違っていた。
「少しでも多くのデータを!」
「次の射撃で!」
「フラクチャーが何だ!(ビアンカマックス)の高速性能を舐めるなよ!」
「自分の家は自分で守る!」
「自分達でしょう?初佳」
「いつまでも、孝一郎君に頼りきりじゃないわよ!」
「ビック4」、古賀、やよいは、自分達の住処を失わないで済む僅かな可能性をかけて懸命に情報を集めていた。
「あと二発あるというけど、これを捨て弾にするつもりは無い!」
「演算回数を増やして確率を上げて確率を上げないと!」
更に光太としーぽんも、懸命に自分の任務を懸命に行っていた。
だが、その中にあって自分を完全に見失っている人物が一人だけ存在した。
何を隠そう、それは厚木孝一郎その人であった。
「駄目だ・・・・・・。コンプリート率9.52%か・・・・・・。最低記録だな・・・・・・」
俺は、先ほどまで負担軽減のために旧式DLSに切り替えていた観測機器のメインDLSを新型DLSに戻してフラクチャーの観測を再開したが、その間にも更に数値を落とし、新型DLSを通して見るフラクチャーの様子はノイズのみという有様になっていた。
「孝一郎君!これ以上の接近は!」
「はっ!」
視界がほぼノイズのみという状況で、無理な飛行を続けていた俺は、お嬢の指摘でようやくフラクチャーへ接近し過ぎである事に気が付く有様であった。
「孝一郎君。見えないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
お嬢は心配そうに俺に尋ねてくるが、もはや俺にはそれに答える余裕すら無くなっていた。
「孝一郎君。旧式のDLSに」
「それは・・・・・・・・・・・・」
「孝一郎君。今の状態では何の情報も送れないわよ。DLSを旧式に切り替えなさい」
「ですが・・・・・・」
「切り替えなさい!(ごめんね。孝一郎君)」
「はい・・・・・・・・・」
俺は初佳先輩の命令で、DLSを切り替えて収集した情報を「アルキュオン」に送信したが、その情報量は以前の何十分の一の量でしかなかった。
「情報収集完了!各部隊は、(インフィニティー)と(アルキュオン)の後方に下がり、護衛に徹する事!」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
「・・・・・・・・・」
だが、新型DLSを使えなくなり、その原因すら掴めずに落ち込んでいる俺には、レイラ先生の命令を復唱する余裕すらなく、ただ無気力に「ビアンカマックス」を飛ばす事しかできないでいた。
「うーーーん。やっぱり、おかしいな」
「だから、何がだよ!」
「そうね。私もそれを知りたいわ」
「ステルヴィア」のメインサーバー内で様々な準備を行いながらも、大はしーぽんが作製途中の射撃修正プログラムのプログラムモデルを眺めながら首を傾げていた。
「具体的に説明すると、難しいんだけどね」
「しーぽんほどではないにしろ、プログラムに詳しいお前が説明できないものが、俺達にわかるものかい!」
「ジョジョの言う通りね」
「それでさ。先に指示された作業とデータの収集は完了したんだけど、あとは何をすれば良いんだ?」
「そうね。リーダーの指示を聞きたいわ」
「ちょっと、待ってね。うーーーん。やっぱり何かが違うよな」
大は、またプログラムモデルを眺めながら首を傾げて考え込んでしまうのであった。
「(アルキュオン)が、最低点をロックしました!」
「よし!二射目だ!(アカプス)を突入させろ!」
迅雷の命令で「アカプス」もフラクチャーに突入し、「ウルティマ」や「オデッセイ」と同じ運命を辿った。
「焦らないで・・・。最終補正は慎重に・・・・・・。重力場フローのデータを吟味して・・・・・・。よし!完成!光太君!」
「アルキュオン」のコックピット内で、しーぽんは二発目の射撃修正プログラムの最終補正を完成させる。
「焦点距離修正!第二射目!発射!」
光太は第二射目のトリガーを引き、再び後方のレーザー砲台から五本のレーザー砲が発射され、そのレーザー砲は「インフィニティー」の前方に展開された重力レンズで束ねられて修正されて目標に向かって突き進んでいく。
「今度こそ!」
「重力場フローがきても!」
だが、光太としーぽんの願いも空しく、第二射目のレーザーも重力場フローの影響で僅かに軌道を反れてしまう。
「惜しい!」
「駄目だったか」
「次の射撃で、当たれば問題ないさ」
ケント、笙人、古賀が次々に感想を述べる中、俺は一人ここにいる誰とも違う状態に置かれていた。
繰り返された訓練の影響で、無意識に正常な飛行は維持してたが、心の中では自分を責め始めていたのだ。
「また外れた・・・・・・。俺のデータ収集量が足りなかったから・・・・・・。次の射撃と言うけれど、俺はもう駄目だ・・・・・・・・・」
新型DLSに対応できなくなり、旧式DLSでのデータ収集もいまいちであった俺は、一人自分を心の中で責め続けていた。
そして、現時点で全くミッションの役に立っていない事で、今にも逃げ出したいくらいの気持ちに苛まれ始めていたのだ。
「駄目だ・・・・・・。もう、俺には何もできない・・・・・・父さん。母さん。新しく生まれてくる妹よ。ごめんな・・・・・・」
旧式DLSですら見え難くなっていた俺は、白銀司令やケント先輩達の言葉すら耳に入らず、一人で最終防衛ラインに向かって緩慢な飛行を続けていた。
高速で飛行したためにバッテリーの状態も危うくなっていたのだが、その事に重大性を感じていなかった。
どうせ、今の自分は役立たずで、補給をしても無意味だと思っていたからだ。
多分、このまま最終防衛ラインに到着した地点で、エネルギー切れという事になると思われる。
そして、その時点で俺のミッションは終了になるであろう。
今の俺は、それくらい何の役にも立っていなかったのだ。
「もう、俺のできる事なんて・・・・・・。太陽系の運命は、しーぽんと光太に任せるさ」
俺は気の抜けた表情で、目標宙域に向けて飛行を続けるのであった。
「アリサ。いよいよ(ステルヴィア)の番だよ。私達の(ステルヴィア)の」
ミッションの情報を大達から貰いながら、最終防衛ラインに向けて飛行を続けているアリサ達は、遂に自分達の「ステルヴィア」がフラクチャーに突入する事を知る。
「だから、次で絶対に決める!そのためのジェネレーターとバッテリーと新型DLSの更新データなのよ!」
「しーぽんと孝一郎なら、絶対に捕まえられる」
「ああ。孝一郎が、新型DLSでより多くの情報を集め、ジェネレーターで(アルキュオン)出力が上がれば!」
「でもさ。あの厚木君の状態は深刻よ。あれは、完全に駄目だと思うけど・・・・・・」
ナナは、大を通じて知った孝一郎の深刻な状態についての懸念を口にする。
「ナナ。縁起でもないわよ。それに、アリサがいれば大丈夫だって!そうだよね?アリサ」
「うん・・・・・・」
「アリサが、元気に孝一郎を慰めれば大丈夫だって!さあ!最終防衛ラインに急ぐよぉーーー!」
「「「了解!」」」
「アルキュオン」のジェネレーターを背負った三機の「ビアンカ」は、目標宙域に向けて飛行を続けるのであった。
「片瀬。調子はどうだ?」
しーぽんが射撃プログラムの修正を行っていると、通信機に迅雷の声が入ってくる。
彼は定期的に気楽に声をかけて、彼女の緊張感をほぐそうとしているのであろう。
「重力場フローの情報は何とか集まりました。これからプログラムの修正に入ります。ですが・・・・・・」
「ですが、どうした?」
「自分なりに計算した成功確率は90%くらいです。やはり、全体的に情報量が不足しています・・・・・・」
「厚木の不調が響いているのか・・・・・・。しかし、10%の確率の低下か・・・。予想の倍以上の貢献度だったんだな」
「新型の観測機器と新型DLSとの組み合わせは、初期の段階で予想以上の情報収集量をもたらしました。でも、今はそれを期待できないとなれば・・・・・・」
「それで、10%の低下というわけだ。不確定要素だな」
「はい。完璧に大丈夫とは言えない状態です・・・・・・。あの・・・・・・。孝一郎君は、大丈夫なんでしょうか?呼びかけても反応がないし、先にフラフラと最終防衛ラインに飛んで行ってしまって・・・・・・」
しーぽんから見た孝一郎の状態は、最悪そのものであった。
やよいや初佳はおろか、笙人やケント達が話しかけても返事が返って来ず、何かをブツブツと呟きながら勝手に最終防衛ラインに向けて飛んで行ってしまったからだ。
さすがに、厳しい訓練の影響で飛行に特に不安は無かったのだが、それは、パイロットが体で覚えているからとしか言えない状態であった。
「そうか・・・・・・。それで、音山は?」
「それが・・・・・・」
そして、光太も自分の事が誠一杯で、孝一郎に声をかける余裕が存在しなかった。
先ほど、些細な事で口喧嘩をしていた影響もあって、お互いが相手の事を気遣えない状態が続いていたのだ。
「厚木なら大丈夫さ。助っ人も来るしな」
「助っ人ですか?誰なんです?」
「それは、来てからのお楽しみだな。作戦エリアを最終防衛ラインまで後退させる。片瀬も音山も最終防衛ラインに引いてくれ。時間も多少は稼げる。落ち着いていけよ」
「了解!」
「みんな。聞いたな。(ステルヴィア)を最終防衛ライン上に移動させる。所定の作業を終了させた者から順次(ステルヴィア)を降りるんだ。まだ、(ビジョン)で最後の大仕事が残っているぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
迅雷は、遂に一番出したくなかった総員退去命令を下した。
最後の勝負の時間は刻一刻と迫りつつあった。
「私はこれから(ステルヴィア)と共に最終防衛ラインに向かい、そこで指揮を執ります。(ビジョン)の方は織原司令にお任せします」
「ステルヴィア」と共に、前線に赴く迅雷は、先に「ビジョン」に鎮座しているお歴々に後方での作戦指揮をお願いするために臨時司令室に連絡を入れていた。
「了解した。あれから色々と調べてみたが、やはり旧式の資源採掘用のジェネレーターでは、一発が限度らしい」
「そうですか。でも、次で決めるから問題ありませんよ。では!」
迅雷はそれだけを言うと通信を切り、それから数分後に「ステルヴィア」は最後の移動を開始する。
「やはり、(ステルヴィア)も救えなかったか・・・・・・」
「織原司令。落ち込んでいる場合ではありませんよ。C−1号から5号。逆噴射を始め!」
「B及び、Dブロック。ジェネレーターの配置状況を至急報告せよ」
人員不足のため、本来ならばそんな仕事をする必要の無いリチャード主任教授やヒュッター教官や他のファウンデーションの司令達までが、オペレーターの肩代わりをしながら、「ビジョン」は最後のレーザー砲を発射するために、「ステルヴィア」周辺に配置されていたレーザー砲台やジェネレーターの移動を開始する。
「座っての作業は性に合わん!(ビアンカマックス)に乗っている予科生が羨ましい!」
「出身はパイロットだったな」
「立ちっ放しには慣れているんだがな」
「オデッセイ」の司令と「アカプス」の司令がそんな会話をしながら、最終射撃への準備を整えていた。
「だが、既にロートルのお前さんには、あの(ビアンカマックス)のGは厳しいだろう?」
「現役時代なら苦にならないさ。せめて二十年・・・・・・。いや、十年早く物になってれば・・・・・・」
「どっちにしても、お前には乗れないさ」
「どうしてだ?」
「あれは(ステルヴィア)の装備だからな」
「正論だ」
二人の司令達は、口も手も素早く動かしながら準備を着々と整えるのであった。
「ねえ。しーぽん。聞いてる?」
「えっ!何で大ちゃんが?」
迅雷の指示を受けたしーぽんが、「アルキュオン」の移動準備を開始しようとすると、今度は通信機に少し懐かしい聞き慣れた声が入ってくる。
「まあ。色々とあってね。それでさ・・・・・・」
大が肝心の用件を語ろうとした瞬間、しーぽんは正面のディスプレイに異変を察知した。
「ちょっと、待って!」
しーぽんが、正面のディスプレイの観察を続けていると、その異常の正体がハッキリとしてくる。
「重力場フローなの!何て大きい!そうか!高出力の二発のレーザーと多数のオーバビスマシンの重力推進器の影響で!光太君!」
「(僕がもっと上手くやれていれば・・・・・・。遂にステルヴィアが・・・)何?志麻ちゃん?」
異変を素早く察知したしーぽんは、突然発生した多数の重力場フローが自分達に接近している事に察知して光太に注意を促すが、彼自身は考え事をしていた影響で、まだその事に気が付いていなかった。
「何事だ!」
「作戦宙域に巨大な重力変異を確認!それと、多数の重力フローの発生と接近を確認!」
「全機!退避!」
「ステルヴィア」の司令室でもその変化は確認され、緊急警報が鳴り響く室内でレイラが緊急退避を急ぎ命令する。
「光太君!気を付けて!」
「音山君!」
「退避するんだ!」
同じく、先に重力場フローの急接近を感知したケント達が、「インフィニティー」の前方に残っていた小型ジェネレーターを発射して対応するが、数が多過ぎて先に小型ジェネレーターの方が弾切れになってしまう。
「退避します!」
そして、光太は「インフィニティー」を最終防衛ラインに向けて退避させるが、「インフィニティー」は、いつもを遥かに下回るスピードと機動性しか出せないでいた。
「音山!どうしたんだ?」
「出力が上がりません!このままでは、重力場フローに捕まります!」
「バカな!」
レイラが悲鳴に似た大声をあげるなか、遂に「インフィニティー」は重力場フローの嵐に捕まってしまう。
「クソっ!射撃時の負荷のためか?」
光太は懸命に「インフィニティー」を操り、重力場フローをギリギリでかわして行くが、機動性を回復できない「インフィニティー」には、そろそろ限界が訪れようとしていた。
「光太君!(アルキュオン)!重力バリア全力!」
このままでは、「インフィニティー」が逃げ切れないと判断したしーぽんは、「アルキュオン」の重力レンズを応用したバリアを全力で展開した。
この行動により、多くの「インフィニティー」を襲っていた重力場フローが、標的を「アルキュオン」に変え、展開した重力バリアに重力場フローが激突し、眩い光を放ちながらその姿をみんなの視界から消してしまう。
「片瀬君・・・・・・。そんな・・・・・・」
「えっ!」
「志麻ちゃーーーん!」
ケントや初佳が驚きの声をあげるなか、突然のアクシデントでその姿が確認できなくなった「アルキュオン」のいた宙域に向かって、光太は大きな叫び声をあげ続けていた。
「そんな・・・・・・。しーぽん・・・・・・」
そして、先に最終射撃予定宙域に到着し、完全にやる気を無くしていた俺も、更に自分を襲った絶望的な出来事に呆然とするのみであった。
「(アルキュオン)の重力バリアに重力場フローが命中!状況不明!」
「(アルキュオン)は?」
「命中の余波で、各センサーが使用不能のために状況は不明です!」
レイラと迅雷は「アルキュオン」の無事を確認しようとするが、現場宙域は嵐のような状況で、現時点ではそれは不可能であった。
「これは・・・・・・。まるで嵐のようだ」
「志麻ちゃん!応答して!志麻ちゃん!」
「ケント。これは、まずいぞ」
「ケント。センサーがまるで使い物にならないわ。どうする?」
一方、現場宙域でも光太のしーぽんを呼ぶ叫び声が響くなか、ケント達も何をすべきなのかを迷っていた。
「回復するまで待つしかあるまい。このまま待機して(アルキュオン)の状態の確認を・・・・・・」
「待って!」
「どうした?ナジィ」
ナジマの「ケイティー」のディスプレイに、徐々にではあるが人型の人工物の姿が徐々に確認できるようになる。
「大丈夫です。(アルキュオン)は健在です」
「よかった」
「心配したわよ。片瀬さん」
「さあ。次は、いよいよ最後の射撃だ。最終防衛ラインに向かうぞ」
笙人の言葉に従い、全作戦参加機が最終防衛ライン上にある第三射撃ポイントに向かって移動を開始する。
「志麻ちゃん!本当に大丈夫なの?」
「光太君。大丈夫だよ。(アルキュオン)のジェネレーターは半分壊れちゃったけど、ちゃんと動ける」
「志麻ちゃん」
「システムも異常無し」
「志麻ちゃん」
「(アルキュオン)の情報処理能力にも問題は無い。まだいけるよ」
「志麻ちゃん!」
「(インフィニティー)が動けないんじゃ、しょうがないよ」
「志麻ちゃん!」
「(アルキュオン)のバリアーを囮に使って・・・・・・」
「そうじゃないよ!どうして、あんな無茶をしたんだよ!」
「出力が上がらない(インフィニティー)を助けるためだよ。それに、(インフィニティー)が壊れちゃったら、誰が射撃管制をするの?あっ、そうか。射撃プログラムの作製と補正を行う(アルキュオン)がやれらても拙いよね・・・・・・」
「志麻ちゃん・・・・・・」
「でも、(インフィニティー)も光太君も助けたかったの」
「志麻ちゃん・・・・・・」
「光太君。次は最後の射撃だよ。お互いに頑張ろう」
「志麻ちゃん・・・・・・。わかった。お互いに頑張ろう。でも、こんなに大事な時に孝一郎がいないなんて!孝一郎は、何を考えているんだ!」
光太の僅かに残っていた怒りは、先に誰の断りも無く現場を離れてしまった孝一郎に向かい始めていた。
乗機である「ビアンカマックス」のバッテリー切れと、パイロットである孝一郎が完全に自信を喪失してしまったために、先に最終防衛ラインに離脱していたのだ。
「光太君。孝一郎君を責めないで」
「志麻ちゃん・・・・・・」
「誰にだってそういう時があるんだよ。孝一郎君は、たまたま今なだけ。いつもは、私やみんなを助けてくれる優しいお兄さんじゃない」
「確かに、そうだけど・・・・・・」
「音山。片瀬の言う通りだぞ。それに、さっき言った通りに、助っ人も合流する予定になっているから、すぐに立ち直るさ」
「助っ人ですか?」
二人の会話に割り込んできた迅雷の情報を元に、「アルキュオン」の索敵装置を作動させると、そこにはジェネレーターを運搬中の「ビアンカ」三機の接近が確認できた。
更に、搭乗者の生体データを探索すると、そこには久しぶりに会う友人達の姿が確認できる。
「りんなちゃん!ピエール!キタカミさん!そして・・・・・・」
「「アリサ!」」
「そういう事だ。彼女がカンフル剤になってくれれば、厚木はすぐに復活するさ」
「そうですよね。孝一郎君は、大丈夫ですよね」
「ああ。フラクチャーの最終防衛ライン到着まで、あと一時間四十五分だ。最後の一踏ん張りを期待する」
「「了解!」」
「「「「了解!」」」」
「そういえば、藤沢君の姿が先ほどから確認できないな・・・」
「そういえば・・・・・・」
迅雷の命令に従って、最終防衛ラインに移動する二人と「ビック4」の面々であったが、ケントと初佳はやよいの姿が見付けられない事を確認する。
「厚木君のところに行ったのかな?」
「やよい・・・・・・。抜け駆けは・・・と言いたいところだけど、もう無理よ・・・・・・」
「初佳。何が無理なんだ?」
「何でもないわよ。さあ、最終防衛ラインに向かうわよ。ケント」
初佳はそれだけを言うと、先に最終防衛ラインに向けて出発し、ケント達もそれに続くのであった。
「しーぽんは無事か・・・・・・。よかった・・・・・・。はあ・・・・・・。でも、何が原因で駄目なのかが、全くわからない・・・・・・」
先に最終防衛ラインに到着していた俺は、「ビアンカマックス」のコックピット内で最低限の探査機器と生命維持に必要な装置のみを作動させて、無重力状態に身を任せていた。
ここ一ヵ月半あまり、全てを忘れて訓練に励んだ新型DLS。
一度は使いこなせたと思ったのだが、ここ二〜三時間でまた急に使用不能になってしまった。
だが、当の本人にも原因はわからず、俺は燃費の悪いオーバビスマシンを乗り回すだけの、ただの役立たずに陥ってしまったのだ。
これで気を落とすなという方が、難しい事であった。
「んっ?(ケイティー)が一機のみ?生体反応は・・・・・・。お嬢か!」
しーぽん達やケント先輩達との合流予定時刻前に、レーダーに一機の「ケイティー」の反応が映り、パイロットを確認すると、ここ最近、ほとんど接触が無かったお嬢であった。
「孝一郎君。大切な話があるの」
彼女は自分の「ケイティー」を「ビアンカマックス」の隣に停止させ、俺を外に誘う。
「外で良いのかな?」
「ええ」
俺も特にする事も無かったので、彼女の誘いに乗って宇宙空間用のヘルメットを被ってからコックピットの外に出る。
「お嬢。一人だけなんだ」
「二人きりで話したかったから」
「そうなんだ」
「あのね。この前の事をまだ怒ってる?」
お嬢の言う「この前の事」とは、アリサとの冷戦状態の原因を作った「外泊事件」の事を指すのであろう。
「始めはね・・・・・・」
「始めは?」
「そりゃあ、始めは少し頭にきたさ。でも、あの事件の原因は、俺とお嬢の責任が半分ずつだったし、その後の事はね・・・・・・」
「その後の事?」
「俺は、新型DLSを使いこなす事が求められていた。使いこなせばミッションの成功率が上がり、地球にいる家族やアリサやしーぽん達も救われると思って、全てをなげうってってね・・・・・・。アリサとの事は、ミッション後で構わないと思ったわけだ・・・・・・」
「孝一郎君」
「でも、結果はこの様さ。ガス欠で動けない(ビアンカマックス)と再びノイズしか見えなくなった新型DLSの画像・・・・・・。友達とは疎遠になり、アリサとも会えず・・・・・・。今の俺には、何も残っていない・・・・・・」
久しぶりのお嬢との会話が進んでいくに従って、更に俺のテンションは急降下していく。
「そうか。そうなんだ・・・・・・。ねえ。孝一郎君。一つだけ聞いて良い?」
「何を?」
「孝一郎君にとって、私って何?」
「友達かな」
「そうか・・・・・・。友達なんだ・・・・・・。それで、アリサは?」
「一番大切な人だ。例え、今は嫌われていても」
俺は、お嬢の問いにキッパリと答える。
「わかったわ。私の最後の足掻きもこれで終了ね・・・・・・。私の負けよ・・・・・・」
「はあ?」
「去年の9月1日。(フジヤマ)でアリサやしーぽん達と会う前に、私と孝一郎君が出逢っていなかった事のみが悔やまれるわ」
「そういうものなの?」
「そういうものなのよ。でも!私がフリーでいる間にアリサと別れたら、本当にアタックするからね!それに、初佳も絶対に諦めないと思うわ。これだけは肝に銘じておく事!」
「わかった」
「わかったら、気を落とすのは止めなさい。みんなが集合して来ているし、助っ人達も現れたみたいよ」
「助っ人?」
お嬢は、自分の「ケイティー」のレーダー探知機機に写ったデーターを俺の宇宙服のヘルメットに送信する。
すると、そこにはフラクチャー側からのしーぽん達やケント先輩達の接近と、土星や「ステルヴィア」側からの「アルキュオン」用のジェネレーターを搭載した三機の「ビアンカ」の機影が映し出されていた。
更に、その「ビアンカ」のパイロットを確認すると、想像もしていなかった面子が搭乗していたのだ。
「りんなちゃん!ピエール!キタカミさん!そして・・・・・・、アリサか・・・・・・」
りんなちゃんの「ビアンカ」の同乗者として、ディスプレイにはアリサの姿が映し出されていた。
「孝一郎君。ちゃんと仲直りするのよ。わかったわね」
「ちょっと!お嬢!」
お嬢はそれだけを言うと、自分の「ケイティー」に戻り自機の簡単な整備を始める。
「俺も、一応はやっておくか・・・・・・。エネルギーも無く、新型DLSも使えないけど・・・・・・」
俺もお嬢に見習い、「ビアンカマックス」に取り付き、最後の整備を行うのであった。
「おかしいわね。(インフィニティー)に重大な故障箇所は存在しないわよ」
「そんな!バカな!確かに、機動性が落ちて・・・・・・」
第二射目のレーザー砲を外し、最後の第三射目を行うべく最終防衛ラインに撤退した「インフィニティー」は、自分達の「ケイティー」の簡単な整備を終了させたケントや古賀や初佳達によって、先ほどの機動性の低下の原因とその解決を行うべく、外側からの整備を行ったいた。
「音山君。聞こえるかしら?」
「蓮先生ですか?」
光太がコックピット内で新型DLSの微調整を行っていると、通信機に新型DLSの件で補佐を行っている蓮の声が聞こえてくる。
「今回の件について調べたけど、特にハード面に異常はないのよね・・・・・・」
「つまり、僕の方に問題があると?」
「これほど長時間に渡って新型DLSを使った経験がないから・・・・・・。厚木君の不調の原因もそれだと思うわね。特に、君に比べると適正が低いから、一度駄目になると落ちるのが早いのよ」
「そうだったんですか・・・・・・。それで、僕は大丈夫でしょうか?」
「疲労が溜まっているようね。方法を教えるから疲労度を軽減しなさい。それが、今の君の最大の任務よ」
「了解です」
光太は、蓮の指示に従って疲労軽減策を取り始めるのであった。
「ねえ。アリサ・・・・・・」
「しーぽん!話しかけない!こちとら、初のジェネレーターの取り付け作業の段取りで、緊張しまくっているんだから」
「インフィニティー」の最終射撃地点で合流したしーぽんとアリサ達であったが、アリサは孝一郎を放置して、先に「アルキュオン」のジェネレーターの交換作業の準備を始めてしまう。
「でもね・・・・・・」
「しーぽん。大丈夫。この作業が終わったら、孝一郎の元へちゃんと行くから。(ビアンカマックス)のバッテリーの充電と新型DLSのデータ更新があるからね」
「アリサ・・・・・・」
「しかし、しーぽんもお人好しよね。あんたをフッた男じゃないの」
「うん。そうだね・・・・・・。でも、孝一郎君は大切な友達だから」
「大丈夫よ。あの9月1日の四人での誓いは忘れない。私達はあの日から親友で、孝一郎は大切な人。それは、変わらないから」
「うん。そうだね」
「よーーーし!まずは、損傷した重力バリア用のジェネレーターを切り離すわよ!りんな!ピエール!ナナ!大丈夫?」
「オーケー!」
「任せてくれよ!」
「私も大丈夫!」
「では・・・・・・」
「「「1・・・2の!3!」」」
三人は、それぞれに「アルキュオン」に取り付いてから外部の端末やレバーを操作して、「アルキュオン」の損傷したジェネレーターの切り離しに成功する。
「よーーーし!次は、マニピュレーターの操作だ!俺のアドバイスに従えば完璧さ!」
「本当ですか?」
「大丈夫だって。さあ。三機の(ビアンカ)の操作系統を一機に集中させて」
「はい!」
アリサは、三機の「ビアンカ」を同時に操作して「アルキュオン」にジェネレーターを取り付ける事になっていた。
そして、それにアドバイスをするのは、先ほどまで「ビジョン」で忙しく動いていたジュノ・マイヨール氏であった。
「まずは。気を楽にしてから、端末に手足を置くんだ」
「はい!」
「じゃあ、軽く動かしてみようか。いいかい?ジェネレーターを三機の(ビアンカ)で移動させてから、(アルキュオン)に装着した際のイメージを思い浮かべるんだ」
「了解!」
アリサは、慎重に三機の「ビアンカ」を操作しながら、徐々にジェネレーターを「アルキュオン」に近づける。
「そうだ。焦らないで」
「うううっ・・・・・・。ふぅ」
アリサは予定よりも早く一本目のジェネレーターの装着に成功し、安堵のため息をつく。
「早いな!これは、才能があるのも理由なんだろうけど、愛しの彼に早く会いたいからなのかな?」
「なっ!ジュノさん!」
「さあ、二本目を行ってみようか!早く作業を終了させるんだよ!」
「了解!」
「うーーーん。やっぱり、才能があるのかな?弟子にでもなるかい?」
「考えときます」
「整備の腕を磨けば、愛しの彼のオーバビスマシンを整備できるよ」
その後も、アリサはジュノの指示でジェネレーターの装着に成功し、彼女は「ビアンカマックス」の元に急ぐのであった。
「白銀司令。(アルキュオン)のジェネレーターの装着作業が終了しました」
「(インフィニティー)の調整も完了です」
「(ケイティー)部隊の整備も完了!」
「よーし!これで(ステルヴィア)の作戦司令部を閉鎖する!各員は、(ビジョン)で頑張っている年寄り達を、重労働から開放してあげるんだぞ!これからは、彼らではなく我々が主役なのだから!」
迅雷の命令で、最後まで司令室に残っていた職員達が自分のデータを持ってから、「ステルヴィア」の宇宙船発射ゲートに向かう。
「迅雷。全員の退避を確認したぞ」
「よーーーし。我々は前線に向かうぞ!」
迅雷の掛け声と同時に司令室を出た二人は、そこで意外な人物の残留を知る。
なんと、自分の目の前に避難したと思っていた蓮がいたからだ。
「蓮!」
「蓮!早く避難しろ!作戦司令部は、既に閉鎖済みだぞ!」
「レイラ。ちゃんと避難するわよ。でも、その前に・・・・・・・」
蓮は、迅雷の元に駆け寄るとそのまま彼に抱き付き、自分の唇をそっと合わせる。
「!」
「蓮・・・・・・」
「今日は良い男だから、大サービス」
「蓮には敵わないな」
蓮は苦笑している迅雷から離れると、駆け足で宇宙船の発射口に向かう。
「俺達も行くとするか・・・・・・。行こうぜ!相棒」
「ああ」
迅雷とレイラは、職員達の「ステルヴィア」からの避難状態を確認した後、最後の射撃の指揮を前線で執るべく、「ケイティー」が置かれている格納庫に向かうのであった。
「孝一郎。バッテリーの充電は完了したよ。残りは新型DLSのデータ更新を・・・・・・」
「わかった」
俺が「ビアンカマックス」のコックピット内で最後の調整を行っていると、先に外部でバッテリーの充電を行っていたアリサから連絡が入ってくる。
なので、俺はアリサを迎え入れるべく、ヘルメットを被ってからコックピットハッチを開けた。
「久しぶり・・・・・・」
「本当ね。さあ、新型DLSのデータ更新を」
「ああ・・・・・・」
俺は本当はアリサに会えて嬉しかったのだが、ここ一月あまり没交渉だったのでどことなく素っ気無い態度で返事をしてしまう。
「えーーーと。このデータをインストールして・・・・・・」
アリサは特殊なケースにしまってあったメモリーを取り出すと、コックピット内の端末に刺し込み、データの更新作業を始める。
「これで、また新型DLSが使えるようになるよ。孝一郎」
「そうか・・・・・・」
だが、俺の心の中は不安で一杯だった。
あそこまでノイズが酷くなり、完全に見えなくなってしまった新型DLSが簡単に見えるようになるとは、考えられなかったからだ。
「ごめんね。孝一郎」
「えっ?」
「あの時、素直に許してあげられなくて・・・・・・。その上、あなたの邪魔をしたくないなんていう理由をでっち上げて、孝一郎を避けてしまって・・・・・・。そのせいで、あなたが大変な事になって・・・・・・」
「違う!」
「えっ?」
「違う!俺が悪いんだ!少しくらい女の子にモテたからって、不用意な事をした俺が悪かったんだ。そして、あの時と同じ事をしていたんだ・・・・・・」
「あの時と?」
「亜美が死んだ時の事だ。俺は彼女の夢を叶えるべく、今のような状態に陥っていた・・・・・・。でも、それをコーチに見破られてな・・・・・・。ある日、(死人に教える柔道は無い!)と言われてしまったんだ・・・・・・」
「それで?」
「今の俺もそうだ。新型DLSの事ばかりやっていて、他の事を考えないようにして、周りが見えなくなって、簡単に躓いて・・・・・・」
「そうなんだ。でも、孝一郎はそれに気が付いたから大丈夫だよ。絶対に大丈夫」
「そうかな?」
「私は信じている。孝一郎は、しーぽんや光太と比べればやっている任務は地味だけど、私にとってはゴールドメダリストなんだから」
「おっ!上手い事を言うね!」
「茶化さないの!でも、本当の事よ」
「ああ・・・・・・」
俺は新型DLSの更新作業が続く「ビアンカマックス」のコックピット内で、久しぶりにアリサと抱き合いながら唇を重ねるのであった。
「嘘っ!厚木も大胆ね・・・・・・」
「仲直りできて良かったじゃないか」
「じゃあ、試験放送の一発目は、コレという事で」
「ステルヴィア」のメインサーバー内で、約束に従って全太陽系へのミッションの放送準備を行っていた大達は、ディスプレイに大写しになっている孝一郎とアリサのキスシーンに驚いていた。
「(ビアンカマックス)は純粋な試験機で、データ収集用のモニターがある事を忘れているのかな?」
「今まで、使った事が無いんじゃないの。あーーー。あーーー。ただ今マイクのテスト中。ついでにメインサーバーを使った中継テストを実施します。最初の五分は、(ビアンカマックス)のコックピット内を、それが終了したら、あとは消滅するまでフラクチャーの様子を」
そう言いながら大がスイッチを入れると、「オデッセイ」の作戦ルーム内やミッションに参加している各機や太陽系中に向かって二人のキスシーンが流れ出すのであった。
「これは・・・・・・」
「おや。逢引ですか」
「ヒュッター教官。その表現は古くないかね?」
「私も若い頃は・・・・・・」
大が中継のスイッチを押した事により、「オデッセイ」の作戦ルーム内のサブモニターに二人のキスシーンが大写しになり、それを大人達が微笑ましそうに眺めていた。
「若い者は羨ましいのう」
「ターナー博士にも、そんな時代がありましたか」
「リチャード君にもかね?」
「ええ」
織原がヒュッターと、ターナー博士がリチャードと感想を語り合っていると、今度は別のサブモニターに大の顔が大写しになる。
「(ビジョン)にいる大人の方達にお願いがあります」
「何かね?」
大の呼びかけに織原が代表して答えると、大は更に言葉を続ける。
「ただ今、(ステルヴィア)のメインサーバー内で中継放送の準備を行っていまして、今は試験放送中です」
「面白い物を見せて貰って感謝しているよ」
「これで、厚木君の調子は元に戻りました。作戦は、必ず成功するでしょう。そこで、(ステルヴィア)が消滅するまで、ミッションの様子を中継させて貰いたいのです。勿論、邪魔な周波数は使いませんので」
「ほっほっほ。君が、これを流しているのかね?」
「ええ。このキスシーンは、思わぬ収穫という事で」
「ここにいるワシを含む年寄り連中も、少し若返ったような気分だ。感謝するよ。お礼に許可を与えよう」
「ありがとうございます」
ターナー博士が許可を与えると、大は感謝の言葉を言いながらモニターを切った。
「ターナー博士」
「今更止める野暮もなかろう・・・。我々は、ミッションに参加はしているが、既にメインキャストでは無いのだよ。主役達の華麗なアクションに期待しながら、脇を固めるとしよう」
「そうですね・・・・・・」
織原司令がそう返事をした瞬間、「ステルヴィア」を脱出してきた若い職員達が司令室内に入室し、空いている席に座って最後の射撃の準備を始める。
「さあ。これで、最後の射撃だ!みんな。気合を入れていくぞ!」
「「「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」」
いよいよ最後の射撃に向けて、「ビジョン」の司令室は本格的に稼動を開始するのであった。
「こら!小田原が何で(ステルヴィア)にいるんだ!」
「まあ。色々と事情がありまして・・・・・・」
「さっさと避難しろ!それに、あの画像は何なんだ!」
パイロットスーツに着替えたレイラと迅雷が蓮と別れ、格納庫内に置いてある「ケイティー」に搭乗してメインスイッチを入れると、サブモニターにいきなり二人のキスシーンと大が織原司令にお願いをしている様子が映し出された。
「あれは試験をしていたら、偶然と言いますか・・・・・・。でも、孝一郎もこれで復活すると・・・・・・」
「それを、公共の電波で放送するな!」
「まあまあ。今更、それを言っても仕方がないだろう。しかし、大胆だな」
二人のキスシーンに迅雷は感心し、レイラは顔を赤くしていた。
「ところで、小田原。(ジェネシスミッション)はどうだ?」
「えーーーと。最高です!」
「そうか。早めに脱出するんだぞ!」
「了解です!」
迅雷はそれだけを言うと、レイラに「ケイティー」を発進させ、最終射撃地点に向かうのであった。
「さてと・・・・・・。次は、しーぽんかな?」
「大。言われていたデータは全部集めたぜ」
「例の解析プロトコル。しーぽんのプログラムの作成履歴・・・・・・。何に使うんだ?」
「万が一の時のためにね。あっと!しーぽん。(アルキュオン)の様子はどう?」
大は最後の脱出前に、「アルキュオン」で最後の調整を行っているしーぽんに通信を入れる。
「えっ!大ちゃん。まだそこにいたの?」
「すぐに脱出するよ」
「(アルキュオン)の方は大丈夫だよ。でもね・・・・・・」
しーぽんは、急にモジモジとしながら言葉を濁してしまう。
多分、「アルキュオン」のモニターにも映っているキスシーンの事を言いたいのであろう。
「あれは、ちょっと予想外でね・・・・・・」
「本当に?」
「羨ましいのなら、後で光太とすれば良いのに」
「大ちゃん!」
「じゃあね。しーぽん」
「もう、大ちゃんは!」
その後、大達も格納庫に準備したおいた小型の宇宙船で「ステルヴィア」を脱出するのであった。
「準備も無事に終了し、いよいよ最後の射撃となったわけだが・・・・・・」
「厚木君も復活しただろうし、別に問題は無いと思いたいのだが・・・・・・」
「初佳。機嫌を直しなさいよ」
「私よりも、やよいに機嫌を直すように言ったら?」
「あなたも、相当に機嫌が悪そうだけど・・・・・・」
自機と「アルキュオン」の整備を終えた「ビック4」の面々が、最後の射撃準備のために待機していると、彼らの「ケイティー」のサブモニターにも、例のキスシーンが映し出されていた。
これを、ケントや笙人は厚木孝一郎の調子が戻る吉兆だと考えていたが、初佳にとってはあまり好ましくないものであり、誰も今の彼女と藤沢やよいの顔を見たくは無いといった感じであった。
「初佳。厚木君の調子がこれで戻ると思えば・・・・・・」
「そうね。それで、何?」
「いやね・・・・・・。初佳!遂に(ステルヴィア)が!」
「そうね・・・・・・。私達の(ステルヴィア)が・・・・・・」
遂に最後の射撃に備えるべく、最終射撃地点である最前線に「ステルヴィア」が到着し、あとは迅雷の命令で突入するのみとなっていた。
「仕方が無いとは言え、切ないな・・・・・・」
「サヨナラだ」
「私達の家が・・・・・・」
「駄目ね。シェイクスピアからの引用すら思い浮かばない・・・・・・」
「ステルヴィア」との付き合いが長い「ビック4」の面々がしんみりと感想を述べていた頃、俺とアリサも最後の準備を終了させて、フラクチャーに向かう「ステルヴィア」の様子を眺めていた。
「今までありがとうな」
「あなたには感謝してるわよ。(ステルヴィア)」
「ねえ。新型DLSの調整も終了した事だし、(ステルヴィア)を脱出した大達と合流しないの?」
既に大達は「ステルヴィア」を脱出し、「ビアンカマックス」のレーダーには、彼らの宇宙船の位置が表示されていた。
「うーーーん。こうなれば、最後まで付き合う」
何と、アリサは俺と最後までいる事を宣言してしまう。
「二人乗りじゃないし、Gがキツイよ」
「私が操縦するわけじゃないからね。Gは、何とか耐えてみせる!それに、私も今はパイロット科の予科生なのよ」
そう言って、アリサは俺の前に立ち、予備のゴーグルを自分の顔に当てる。
「昔、こんなシーンの映画があったよな。恋人同士が客船の舳先に立ってさ」
「あーーー!○イタニックね!」
「そうそう。それとさ、アリサってゴーグルしてるけど、新型DLSの適正があったっけ?」
「無いわよ」
「無いの?」
「そう。だから、孝一郎が見ている映像を私も見えるようにしているだけ。だから、あなたが何も見えないと、私も何も見えない」
「アリサ・・・・・・」
「孝一郎なら大丈夫だから」
「よーーーし!そこまで言うなら!」
「コラぁーーー!いつまでも、イチャついているな!」
「「迅雷先生!」」
俺が再び気合を入れていると、通信機に前線に到着した迅雷先生からの通信が入ってくる。
「違う!白銀司令だ!それよりも、お前達の恥ずかしい映像が太陽系中に流れたからな!最後はビシっと決めろよ!」
「どういう事です?」
俺とアリサが、事情を飲み込めなくて首を傾げていると、白銀司令はとんでもない事実を語りだした。
「さっきのお前達のキスシーンが、試験放送として太陽系中に流れたんだよ。ちなみに、犯人は・・・・・・」
「大か!」
「あーーー。孝一郎。元気になったみたいだね。やっぱり、アリサの力は偉大だね」
「あのな・・・・・・」
大のあまりのノホホンとした返事に、俺は怒る事すら忘れて呆れてしまう。
目の前のアリサも呆気に取られて、顔を赤くしているだけであった。
「それで、他に細工は無いんだろうな?」
「今はちゃんとフラクチャーの様子を放映しているからね」
大の言う通りに、全太陽系に「ステルヴィア」のメインサーバーを中継してフラクチャーの様子が放映され、その映像は「ビアンカマックス」のサブモニターにも映し出されていた。
「まったく、やってくれるよ」
「孝一郎があんなんで手を貸してくれなかったから、結構苦労したんだよ」
「それについては、スマンとしか言えないな」
「借りは後で返して貰うさ。さてと、この画像をご覧の全太陽系のみなさん。この映像がみなさんの元に届くのは、数時間後か数日後かはわかりませんが、みんなが困難に直面している事は事実です。これが、みんなの新たな始まりの第一歩である事を・・・・・・」
大は俺との会話を打ち切り、全太陽系に向けてミッションの様子を放送し始める。
「大は大物だよな」
「厚木君の言う通りだね。最後に美味しいところを持っていくんだから」
「そうだな。厚木とオースチンの言う通りだな。大切な事はみんな小田原が言ってしまったが、そういう事だ。ファウンデーションを失った事により少しは遅れるだろうが、我々人類はこれを機に宇宙に進出する事になるだろう。ある者は太陽系に残り、ある者は外宇宙に向けて旅立つ。多分、全人類規模の作戦という物もこれで最後になるはずだ。そして、新たな人類の礎として、俺達の(ステルヴィア)がその道を切り開くんだ!さあ!いよいよ最後の一発になるぞ!(ビアンカマックス)と(ケイティー)部隊は最後の情報を収集して(アルキュオン)に送れ!そして、(ステルヴィア)突入後は、(インフィニティー)と(アルキュオン)を全力で守る事!」
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
「アリサ。わかっていると思うが・・・・・・」
三基のファウンデーションと二発の高出力レーザー砲を喰らい、最終防衛ラインに接近したフラクチャーは荒れ狂う嵐のようであり、大小様々な重力場フローが出現しては消えていた。
多分、今回の突入では「ケイティー」部隊に、更に多くの損害を出す事が予想された。
「でも、孝一郎の情報は重要よ。同乗した以上、最後まで付き合うよ」
「アリサ!やっぱり、お前は良い女だよな!行くぞ!」
俺は「ビアンカマックス」を最高速度でフラクチャーに突入させ、それに続いて「ケイティー」部隊も突入を開始する。
「孝一郎。新型DLSを作動させるわよ」
「任せた!今度こそ!」
俺は全ての覚悟を決めて、探知機器の映像を新型DLS対応に切り替える。
「見えてくれーーー!新型DLS!」
疲労は溜まっていたし、数時間前まではノイズだらけになっていたが、これはアリサが調整をしてくれた最新の新型DLSであったので、俺に不安は無かった。
それに、彼女は俺の目の前にいるのだ。
無様な事は絶対にできなかった。
「見えた・・・・・・」
「これが、孝一郎が見えている新型DLSの映像・・・・・・」
俺の合図で新型探知機気の映像は新型DLS対応に切り替わり、アリサがゴーグルを通して見ている新型DLSの映像は、ただ「綺麗!」の一言であった。
「凄い!様々な情報が、全て視覚に切り替わっているのね」
「コンプリート率99.67%。いや!102.78%か!疲れも感じない。ノイズも混じらない。アリサ!やっぱり、お前は最高の女だよ!」
「孝一郎。情報をしーぽんに送るよ」
「そうだな。これだけ情報が集まれば」
俺とアリサは、収集したフラクチャーの最新情報を「アルキュオン」に向けて発信し、更に他の「ケイティー」部隊や古賀先輩の「ビアンカマックス」も、次々に集めた情報を「アルキュオン」に送信する。
「古賀先輩。あまり目立ちませんね」
俺は情報を送信後にフラクチャーから距離を置き、そこでたまたま隣り合った古賀先輩に声をかける。
「訓練期間が短かった!せっかくの高性能機も、(ケイティー)並みの性能しか出せない!」
「残念でしたね」
「女にはフラれる!目立たない!もう!俺って!」
「「ははは・・・・・・ご愁傷様です・・・・・・」」
俺とアリサは、絶叫する古賀先輩を放置して「アルキュオン」に接近する。
「しーぽん。送信した情報はどうだい?」
「孝一郎君!元に戻ったんだね」
「元にって・・・・・・」
「だって!前は少し怖かったし・・・・・・」
「すまんね」
「今までとは比較にならないくらい、正確で大量の情報が集まったよ。よーーーし!後は私が・・・・・・。」
しーぽんは、張り切って射撃プログラムの修正を開始する。
「情報は無事に集まった!次は、(ステルヴィア)の見納めだ。みんな!ちゃんと目に焼き付けておけよ!」
白銀司令の命令で「ステルヴィア」の自動操縦のスイッチが入り、無人になった「ステルヴィア」は、最後の航海をフラクチャーに向けて開始する。
「(ステルヴィア)が行く・・・・・・」
俺達の目の前で、「ステルヴィア」は重力崩壊を起こし、他のファウンデーションと同じようにX線バーストを起こして崩壊していくのであった。
「文字通り。ファウンデーションは、星の道への礎となるんじゃな」
「ありったけのエネルギーを砲台に注ぎ込め!」
後方の「ビジョン」の司令室で指揮を執っていたターナー博士はしみじみと呟き、隣にいた織原司令は最後のレーザー砲発射に備えて、砲台へのエネルギー充填を命令する。
「第一砲台へのエネルギー充填率110%!」
「第二から第五までの充填も終了!こちらも110%です」
「重力レンズの展開と調整も完了しました!あとは・・・」
「白銀君!音山君!片瀬君!最後の一撃だ!頑張ってくれよ!」
「若者達に最後の一撃を託し、年寄り達はだた祈るのみか。新しき時代に期待するとしよう」
ターナー博士は最後にこう締めくくり、これで全ての準備が整った。
これで、全太陽系の運命は、二人の少年・少女に全てが託されたのであった。
「最終補正を開始!みんなと(ステルヴィア)のくれた最後のチャンス!」
フラクチャーへの「ステルヴィア」突入後、しーぽんは集まった膨大なデータを元に最後のプログラムの修正を行っていた。
「これだけの情報が集まれば・・・集まれば・・・」
しーぽんは、自分の作製していたプログラムモデルに更に肉付けをしていき、その形は歪で複雑で大きく膨れ上がった状態になっていた。
「あっ!そういう事か。えへへ・・・。そういう事だったんだ・・・・・・」
突然、何かに気が付いたしーぽんはプログラムの修正を開始し、そのプログラムモデルは以前のようにシンプルながらも効率的な形に変化していく。
「何でも付け足せば良いってものじゃないか・・・・・・」
しーぽんは、過去の出来事を思い出しながら一人で呟いていた。
「(孝一郎君。柔道って、いくつも技があるんでしょう?)」
「(そうだね。国際試合で禁止されている技や、古代の柔術を含めると100は超えているかも)」
「(孝一郎君は、いくつ使えるの?)」
「(20個くらいかな?試合では10個も使わないね)」
「(どうして?)」
「(大して練習もしていない技を使っても掛からないし、返されて負ける事もあるから。熟練の域に達した技を絶妙のタイミングで掛ける。これが、勝利のコツかな?)」
「(ふーーーん。そうなんだ)」
「そうだよね。私が極めた、バグの無いシンプルで機能的なプログラムで最後の勝負をかける!光太君。待っていてね」
しーぽんは、最後の修正作業を大急ぎで行うのであった。
「なあ。大。しーぽんに言う事があったんじゃないか?」
「ステルヴィア」を小型の宇宙船で脱出した大達は、あらかじめ準備してあった機材を操作しながら全太陽系への放送を続けていた。
大出力であった「ステルヴィア」のメインサーバーは既に「ステルヴィア」の本体ごと崩壊し、後の放送が成功するかは、自分達の力量次第であった。
「うーーーん。しーぽん。自分で気が付いたみたい」
大の目の前のディスプレイには、以前のような形に改良されつつあるプログラムモデルが映し出されていた。
「俺にはよくわからないよ。それで、これも放送するんだな?」
「そういう事。それと、晶ちゃん。船をもっとフラクチャーに近づけてくれないかな?」
「どうして?」
「情報はちゃんと集まった。プログラムも完成した。あとは光太が照準を合わせている間に、(インフィニティー)と(アルキュオン)を防衛する(ケイティー)と(ビアンカマックス)の様子を放映する!」
「「なるほど!」」
「それに、りんなちゃんもピエールもナナも、(ビアンカ)で付き合うみたいだよ」
大の視線の先には、「ビック4」の青い「ケイティー」と、やよいの「ケイティー」と、古賀の「ビアンカマックス」に付随する三機の「ビアンカ」の様子が映し出されていた。
「重力場フローを防ぐのは難しいよな」
「どうして?孝一郎」
「小型ミサイルタイプのジェネレーターが品切れだから。俺だけじゃなくて、ケント先輩達やお嬢もそうみたい・・・・・・」
俺達は「インフィニティー」の前方に位置し、迫り来る重力場フローを搭載している小型ミサイル型のジェネレーターで防いでいた。
他の人とは違い、俺は先に離脱していたので、小型ジェネレーターの在庫が少し残っていたからだ。
「でも、これで在庫切れ・・・・・・。売り切れだな」
最後の小型ジェネレーターを「インフィニティー」に向かっている重力場フローに発射すると、「ビアンカマックス」も弾切れになってしまう。
「最悪、パーツを切り離してぶつけるか?タイミングが難しいけど・・・・・・」
俺が最後の手段を考えていると、近くで重力場フローから「インフィニティー」を防衛していた初佳先輩の声が入ってくる。
「ケント!みんな!良い手を思いついたわ」
「へえ。どんな手だい?」
「一機一機のオーバビスマシンの力は小さいけど、みんなで纏まれば」
「そういう事か!」
「○ンバトラーVとか、○ッターロボとかそういう感じですか?」
「孝一郎君・・・・・・。あのねえ・・・・・・」
「嘘ですよ。その策に乗りますよ!纏まれば重力場フローを引き寄せ易いし、重力バリアも強化されますしね」
「じゃあ、行くわよ!」
「合体だ!」
「必殺技ね!」
初佳先輩の考案した策に従い、俺やケント先輩達や「アルキュオン」へのジェネレーターの取り付け作業を終了させたりんなちゃん達も合流して、大きな一塊になって「インフィニティー」の前に立ち塞がる。
「すげえ!光太には、常にこう見えているのか」
十数機のオーバビスマシンが一塊になり、「インフィニティー」に向かう重力場フローを防ぎながら飛行を続けていると、俺の視界に新型DLSを介した今までに見た事がない映像が入っていた。
「アリサ。見えるか?」
「うん。見えるよ。綺麗ね。孝一郎がいないと見えないけど・・・・・・」
「俺もアリサがいなかったら、見えなかったよ」
「孝一郎・・・・・・」
「やよい。私達、フラれちゃったわよ!」
「あーーーあ。私に残ったのは親友だけか・・・・・・」
「それが残っただけでも、良しとしないと」
「そうね。お互いにフラれた同士。仲良くしないとね。でも、あなたとこうして飛べるだけで・・・・・・」
「やよい・・・・・・」
「天才美人予科生コンビと呼ばれた二人の復活よ。孝一郎君には、フラれたけど・・・・・・」
「もう!その後の一言は余計よ!」
「ちくしょう!女同士で不純だぞ!」
「古賀。ジェットから聞いたわよ。他の女の子とデートしていたところを、フラれた彼女に目撃されたんだって?」
「御剣めぇーーー!余計な事を話しやがって!」
「自業自得だな・・・・・・」
「笙人先輩。それは、事実なんですけどね・・・・・・」
「ピエール。妬ける?」
「そんな余裕があるか!今の僕の技量じゃあ、操縦で手一杯・・・・・・。でも!妬けるぜ!こんちくしょう!」
「よしよし。素直でよろしい」
「あーーーん。大ちゃんと一緒にいたかったんだけど、(ビアンカ)のパイロットが足りなかったからなーーー」
「ナナ。後でイチャイチャしなさいよ」
「それもそうね」
それぞれが思い思いの会話をしながらオーバビスマシンを巧みに操り、「インフィニティー」の前方で合体と離散を繰り返しながら、重力場フローに対する囮役を見事にこなしていた。
「光太!あとはお前の引き金を引く指次第だ!信じているからな」
「孝一郎・・・・・・」
「お前なら大丈夫さ。それに、しーぽんもいるからな」
俺達は重力場フローに対する囮役を続けながら、最後になるレーザー砲の発射をただ待つのみであった。
「はあ・・・・・・。はあ・・・・・・。はあ・・・・・・」
遂に「ステルヴィア」がフラクチャーに飲み込まれ、前方で荒れ狂う重力場フローをみんなが防いでいる最中、光太は長時間の新型DLS作動に伴う疲労と、幻覚とも通信内容とも取れるみんなからの声に大きく混乱していた。
「ケント。また(インフィニティー)に重力場フローの群れが接近しているぞ」
「笙人。重力場フローは生き物ではないのだが・・・・・・」
「そんな事は、どっちでも良いでしょう」
「ナジィの言う通りよ!また合体して囮になるわよ!」
「「「「了解!」」」」
「ちくしょう!厚木君ばかりラブラブで」
「それを捨てて浮気したのは、古賀先輩じゃないですか」
「藤沢。話を蒸し返さないでくれよ」
「古賀先輩の女たらし〜」
「風祭君まで・・・・・・」
「やよいさん。僕は浮気なんてしませんよ」
「ピエール君の彼女になる人は幸せね」
「そんな・・・・・・」
「藤沢さん。きっつーーーい!」
「音山!しっかりしろよ!優が欲しくないのか?」
「音山君。大量に流れ込んでくる情報に惑わされないで!」
「音山!自分を保つんだ!」
「君の見たかった物が見えるかもしれませんよ」
「人類の新たなる一歩です」
多くの人達の、今とも昔の思い出とも判別がつかなくなった会話が頭の中に流れ込み、疲労からくる意識の混濁状態に今にも負けようとしたその時に、彼の頭の中にある出来事が流れ込み始めていた。
「これは・・・・・・。子供の頃の・・・・・・」
その瞬間、光太の意識は子供の頃のあの時に飛んでいった。
「お前。何をメソメソ泣いているんだ?」
両親を亡くした光太は、まだ僅か4歳であったために、それをなかなか乗り越えられないでいた。
幸いにして、引き取られた親戚の家では良くして貰っていたのだが、家の外で常に悲しそうな顔をしていたので、それを近所のワルガキ達に目を付けられて、かなり陰湿なイジメを受けていた。
「君は?」
「俺は、厚木孝一郎って言うんだ。この近所で顔役のような事をしている」
光太が声をかけられて顔を上げると、そこには自分とそれほど年齢の変わらない男の子と、十数人の同年代の男女が心配そうに自分を見つめていた。
「顔役って何?」
「リーダーみたいなものだって聞いた事がある」
「ふーーーん」
音山光太の厚木孝一郎に対する第一印象は、「随分と大人びた事を言う子供だな」というものであった。
「お前。古川達にイジメられているんだって?」
「うん・・・・・・」
「うんってなあ。自分の事なんだから、何とかしようと努力しろよ」
「だって。彼らは僕より年上だし、人数も多いし・・・・・・」
「仕方がないな。俺達が手を貸してやるよ。付いて来な」
「うん」
光太は目の前の初対面の男の子の指示に従って、移動を開始するのであった。
「チビが!一人でかなわないから、今度は大人数ってわけか?」
光太が孝一郎に促されて彼に付いて行くと、そこには自分をイジメている年上の少年達がいた。
「お前こそ、年下相手に複数でかよ。やっぱり、評判通りのバカだよな!ひらがなの(ゆ)は書けるようになったのか?古川」
「厚木!二歳も年下のくせに生意気だぞ!」
「年下にムキになるなよ」
「今日こそ、吠え面かかせてやる!みんな!やっちまえ!」
「返り討ちだぜ!遠慮なく殴っちまえ!」
お互いの少年・少女グループのリーダーの指示で合計三十人近い人間が、空き地で大規模な喧嘩を始める。
とはいっても、それは4歳〜7歳くらいまでの少年少女達なので、大人からみれば大したものにも見えなかった。
「俺達は、6〜7歳で男しかいないのに!」
「リーダーがバカだからだろう」
「お前は、20から数字を数えられないだろうが!」
「小学生になれば覚えるんだよ!」
突然の事態に光太が唖然としている間に、喧嘩は進行していく。
始めは不利と思われた孝一郎達は、予想に反して有利に状況を進めていた。
女の子がいるので不利だと思われたのだが、彼女達は事前に用意していた砂や犬の糞を相手に投げつけ、攻撃もリーダーの指示で急所(○ンタマ)ばかりを狙っているようだ。
他の少年達も、年上で体が大きい相手と戦っているのでそれぞれが自分の有利な状況に相手を巻き込んでいた。
「また負けかよ!」
「リーダーの頭と腕っ節の差かな?」
確かに、光太が見る厚木孝一郎は、7歳の古川に劣らない体格と喧嘩慣れした強さを誇っていた。
それに、他のメンバー達は女の子だったり、体が小さかったりと圧倒的に不利な状態にあったのに、それを見事に跳ね除けて勝負に勝とうとしている彼は、仲間に慕われて当然の人物なのであろう。
「光太!」
光太がそんな事を漠然と考えていると、急に孝一郎に名前を呼ばれる。
「何?」
「何じゃない!目の前に自分をイジめている仇がいるんだぞ!殴れ!パンチだ!」
「僕が?」
「いいからやれ!」
「お前。俺に手を出して、明日からどうなるかわかっているんだろうな?」
光太が孝一郎の迫力に負けて古川の前に出ると、彼は胸を張りながらこう言い放った。
2歳年下ながらも、体格と腕っ節の強さで勝てない孝一郎と違って、目の前の音山光太は体も小さく、自分に殴りかかってくるとは思わなかったからだ。
「それは・・・・・・」
「モタモタするな!相手は棒立ちなんだぞ!鳩尾にパンチだ!」
「でも・・・・・・」
「早くやれ!」
光太が孝一郎の声に驚きながら、渾身の力でパンチを繰り出すと、それは見事に古川の鳩尾に入りる。
「うぬあ・・・・・・」
「バカが!棒立ちなんてしてるからだ」
「うぬぬぅ!音山光太!厚木孝一郎!覚えてろよ!」
古川は腹を押さえながら捨て台詞を吐くと、子分達を引き連れてその場を逃げ出した。
「僕が、相手を殴った・・・・・・」
「やればできるじゃないか」
多分、初めて人を殴ったのであろう。
光太は、何とも言えないような表情をしていたが、すぐに大切な事を思い出して落ち込んでしまう。
「明日からどうしよう・・・・・・。彼は復讐に来る・・・・・・」
「安心しろ。俺達と一緒にいれば良いんだよ。何しろ、やつらとは常に対立状態にあるからな。複数でいれば、そう簡単に手を出して来ないさ」
「ありがとう。ええと・・・・・・」
「厚木孝一郎だ!それとな、必要な時にはちゃんと一撃を喰らわす事も大切なんだぞ!」
「わかったよ」
こうして、数年の時を孝一郎と過ごし、二人は親友となっていくのであった。
「はっ!何であんな昔の事を・・・・・・?」
多分、一秒にも満たない時間であったが、光太の意識は過去の思い出に飛んでしまっていた。
「そうか。あの時と同じなんだ!フラクチャーに止めの一撃を!」
未だに疲労感が原因となっている新型DLSの画像の揺らぎをたまに意識しつつも、光太の目線は、フラクチャーの予想最低点に向かっていた。
「あとは、志麻ちゃんの・・・・・・」
「待たせてごめんね。光太君」
「志麻ちゃん!」
「孝一郎君達が情報を集めて、私が最後の修正を加えたプログラムだよ。光太君!頑張って!頑張ってね!光太君!」
「志麻ちゃん・・・・・・」
光太が見つめる新型DLSの画像には、一瞬ではあったが、片瀬志麻の姿・声がフラッシュバックのように現れ、更に送られたプログラムによって、正確な最低点の位置が表示され始める。
「これが最後のチャンス!最低点のロック完了!レーザー砲のエネルギー充足率110.35%!照準誤差は規定値内!レーザー砲発射!」
光太は、何の迷いもなく表示された最低点を目標にレーザー砲の引き金を引く。
そして、それと同時に彼は確信していた。
「当たらないはずがない。絶対に・・・・・・」
「当たってくれーーー!」
俺の絶叫と共に、発射されたレーザー砲はプログラム通りの正確な軌道線を描き、寸分違わずフラクチャーの最低点を打ち抜いた。
そして、次の瞬間には、最低点を打ち抜かれたフラクチャーが外部に向かって消えていく姿が新型DLSの画像からも確認され、それも今までに体験した事の無い綺麗な光景であった。
「フラクチャーが消えていく・・・・・・」
「綺麗・・・・・・」
作戦は成功し、フラクチャーが消えていく過程で歓声を上げる人は皆無であった。
全員が、あの広大なフラクチャーが消えていく光景に圧倒され、一言も発しなかったからだ。
だが、完全にフラクチャーの消滅が確認された瞬間に、盛大な多数の歓声が各所からあがり始めた。
「ケント!やったわよ!」
「そうだね。あの3人がやってくれたよ。初佳」
「違うわよ。私達がよ」
「そうね。我ら全員の勝利よ」
「厚木も元に戻った事だし、これで安心だな」
「笙人先輩。僕は元に戻っていません」
「古賀君は・・・・・・。ねえ」
「それは酷くないかい?藤沢君」
「私は見事にフラれて傷心中ですので、多少の事は」
「僕が慰めようか?」
「だから、駄目なのよ。古賀君は」
「そんな・・・・・・」
「ピエール。ナナ。しーぽんと光太と孝一郎がやったよ!」
「嬉しくもあり、悲しくもあり・・・・・・」
「それって、藤沢さんが脈がないから?」
「カップルなんて滅んでしまえ!」
「いやーーー。良い絵が取れたよね」
「孝一郎とアリサのあのキスシーンはヤバイだろう。大が後でぶん投げられるんだな」
「私も、巻き添えは嫌」
「大丈夫だよ。嬉しさでそれどころじゃないから」
それぞれが言いたい事を言っている最中、大の視線は動きを止めた「ビアンカマックス」に向いていた。
「はあ。やっと、終了したか。やっぱり、光太としーぽんは凄いよな」
「私は、孝一郎もそれに負けないほど凄いと思うよ」
「そうかな?」
「うん。それに、孝一郎が私の元にちゃんと戻ってきてくれた」
「そうだな。戻って来たんだよな。やっぱり、新型DLS相手に機械のように頑張っても、無意味だったって事かな?」
「おかえり。孝一郎」
「ただいま。アリサ」
動きを止めた「ビアンカマックス」のコックピット内で二人の恋人達がヨリを戻した瞬間、白銀司令によって「ジェネシスミッション」の成功が告げられた。
西暦2357年6月23日、全人類と太陽系は完全に救われたのであった。
あとがき
次はエピローグです。