インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「.hack//intervention 第16話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-23 17:38)
BACK< >NEXT


少女シェリルと彼女に操られし“トモアキ”の抜け殻。
彼女等はただひたすら、抜け殻に欠けたパーツを探し続けていた。

抜け殻に欠けた部分は残り2つ。
それ以外は全て“ある場所”で見つけ、繋げることが出来た。


「もう少し……」


彼女は馴染みのホームで継ぎ接ぎだらけの抜け殻を慈しむ。
たとえそれが抜け殻であっても、彼女にとって大事なものであることに変わりは無い。
他から見ればあまりにも歪過ぎるその様相も、大した問題ではないのだ。


「もう少しで……帰ってくる」


彼が居なくなって以来、シェリルは自分なりに様々な考察をしていた。

自分という存在の意義。
本来の運命を逸脱してしまった自分がすべきこと。
そして…………他の何よりも愛しき者のことを。

全てが全て、都合良く答えが出たわけではない。
しかし1番すべき……否、1番自分がしたいことだけはハッキリしていた。


「トモアキ……」


彼が喜んでこの世界に来るとは限らない。
これから自分がすることを彼が許してくれるとも思えない。

それでもシェリルは自分の想いに嘘を付きたくなかった。


「もしトモアキが嫌がっても……」


彼女にはその時に対する覚悟がある。
だからこそ、最早自らの行動に躊躇することはない。


全ては彼をこの世界に呼び寄せてからなのだから。


.hack//intervention 『第16話 気になるアイツ』


《side ミミル》


アタシがその噂を知ったのは今から2日前。
冒険に一息入れてボーっとBBSを眺めていた時のことだった。


「おッ! またまた怪談話はっけ〜ん」


別に誰かに言うような程じゃないけど、アタシは元々怪談ってのに興味があった。

怪談なんてそこらじゅうに大小いくらでも転がっている。
ずっと昔から言い伝えられてきたものから最近出来た都市伝説的なものまで。
でもアタシが特に興味を持っているのは世界最大のネットゲーム『The World』で流れている怪談だ。
実は他の類の物にはそんなに興味が無かったりする。

ネットで流れる怪談は伝言ゲーム形式で広がっていく。

最初に書き込まれた内容は、日常で起こり得る些細な話が多い。
それに便乗した人達が次々に枝葉を広げていって、いつの間にか最初の話とはかけ離れたものになってしまっている。
中には最早、始めの話の面影すら全く無くなっている場合だってある。

アタシは怪談自体というよりも、その経緯が好きだ。


この時も同じような感覚でBBSを眺めていた。


「何々……ありゃ、まぁたこのタイプ?」


最近『The World』流れる怪談に共通している言葉……それは“リアル”。

正式稼動時の頃は、あくまでゲーム内に留まる話ばかりだった。

例えば『レベル5バイン』という倒せばレベルが5倍になるモンスターの話。
最初は“簡単にレベル上がるようなモンスターいないかな〜”って感じで始まった。
それがいつの間にかさっき言った様な名前が出てきて、その話題に変わってしまう。
すると今度は出会える条件が『レベル5以内の初心者のみ』となって噂が隠れイベントの可能性へと繋がっていく。

“怪談”とはちょっと違うけれど、これも一種の伝言ゲーム形式だ。
怪談系になると“倒すとPCデータが破損するモンスター”とかになるかな。


けど今BBSに載ってるのは“リアル”が関係してくる話。
しかもこれは正に怪談と呼ぶにふさわしい内容だった。


『俺の知り合いのPCの話だ。
 昨日ソイツとその仲間の1人で冒険に出かけたらしい。
 ソイツ等は大型モンスターと戦っていたんだが、突然2人の影が戦闘に乱入してきた。
 奴等のうち片方は良く見えなかったらしいが、もう片方は身の丈程の大剣を持った隻腕の男。
 乱入してきた途端にその男、目にも止まらぬ速さで大型モンスターの片腕を“切断”しちまった。
 んで俺の知り合い達が動けない間に、大型モンスターは落とされた腕を残して消滅。
 乱入者達はその腕をしばらく見つめた後、またそれも消し去って結局知り合い達を見向きもせずに消えていった。
 ま、そんな感じだ……珍しい話だからちょっとBBSに書き込んでみたくなったんだ。
 聞きたいことがあったら続けて書き込んでくれ。答えられる限りは答える』


最初はこんな書き込み。

それからどんどん質問やら目撃情報やら出てきて、


『私も実際に見たわ。
 噂になってるエリアで知り合いの双剣士と重剣士の3人でレベル上げしてたの。
 そしたらモンスターの頭上の空間がいきなり歪みだして、例の2人が出てきた。
 1人は黒い幽霊少女、もう1人は隻腕の……いえ、あれは“男”なんかじゃない。
 私が見たあの目は、そこら辺のモンスターなんて遠く及ばない程の“化け物”だった。
 後は噂通り彼女等が勝手に乱入、片腕を切り裂いてモンスターの本体は串刺しされて消滅。腕も少女がいつの間にか消してた。
 そしてこれも実話なんだけど……あの時一緒にいた重剣士が彼女等に武器を向けてしまったわ。
 私と双剣士はすぐに逃げたからそこから何があったのかは知らない。
 でも……噂通りそれ以来彼の姿を見かけられなくなったし、私や双剣士がメールで連絡しても音沙汰無し。
 もしかしたら…………リアルの彼も“消えている”かもしれない。
 だから私から重ねて言っておくわッ! 彼女等にあったら絶対に何もしちゃいけないッ!
 あの化け物は仮想もリアルも消し去っちゃうから……』


今はこんな感じ。
もうリアルに引っ張らないとユーザー達は怪談と見れないのかもしれない。


「全く……ゲームはゲーム、リアルはリアルだっつー…………ちょっと待って」


アタシはいつも通り呆れつつも書き込みを面白がっていたんだけど、そこで2つの言葉に気づいた。

即ち、“黒い幽霊少女”“消える”という言葉。
それらは1年前のあの出来事を私に連想させるのに十分な要素だった。


“偏欲の咎狩人”……確か昔はそう呼ばれてた。
ヘレシィと傍らの黒い幽霊少女の話は一時期かなり話題になっていたのをはっきりと覚えてる。

アタシが初めてアイツ等と出会ったのは、今の“ミミル”の前に使っていたPCでのこと。
その時アタシは少女趣味な剣士を選んだばかりの初心者で、偶々知り合った同じく初心者の女呪紋使いとダンジョンに潜っていた。

出会った経緯を簡単に説明すると、PKに襲われたアタシ達の目の前にいきなりアイツ等が出てきたのが切欠。

アタシも呪紋使いもPK達が迫ってて正直何も出来ずにただ怖がってた。
その頃はまだPKの存在も知らなくて(仲間の方は知ってたみたいだけど)、わけが分からずに戸惑いつつも一応奴等に剣先は向けていた。
だけど……リアルのアタシはコントローラーを持つ手が汗ばんで、震えてたんだ。

突然乱入してきたヘレシィ達はPK達に顔を向けることもしないでアタシ達に話しかけてくる。
その内容は『助けてあげるからこっちのお願い聞いてくれない?』という取引。
それを聞いたアタシは最初どうすればいいか迷った。
だって初心者なんだからレベルの高そうな相手に渡せる物なんて全く持ってないし。

でも杞憂だったようで、ヘレシィが欲したのはBBSの情報。
というか連れの呪紋使いがアイツのことを知ってたらしく、BBSに載っていることを教えてくれた。
そういえば話題になってる話があったっけ? なんて思いながら自分でBBSを確かめてみる。

今回はその内容の説明は省くけど、とにかく普通じゃなかった。
かなり有名だったみたいで、それを聞いたPK達は一目散に逃げてったのが印象的だったっけ。


最初はそんな出会い。
アイツの第一印象は、“得体が知れないけど……まあ悪くはなさそうな奴”。

噂の人物とやらが実際にいたんだなぁ、とちょっと驚いた程度だった。


……………………

………………

…………


次に会ったのはそれから半年くらい経って、今の“ミミル”のPCを使うようになったばかりの頃。
アタシはさっさとレベル上げしたくてまだ無理そうなダンジョンに潜ってた。
ある程度のレベル差は操作技術で補えることを知ってたから、それで大丈夫だと思ったんだけど……。

実際のところは大苦戦。
運悪くそのダンジョンで1番強いモンスターに出くわしてしまう。
PCを変えて以来ずっとソロプレイを続けてきたアタシに、回復をしてくれる仲間はいない。
前のPCで群れるのが性に合わないと思ったからそうしてたんだけど、単純に戦闘面での不利を考えてなかった。


そんな時だった…………“偏欲の咎狩人”が援護してくれたのは。


アイツが回復役を引き受けてくれたおかげで、何とかモンスターを倒すことに成功。
だけどアタシは正直あんまり嬉しくなかった……最近のアイツの噂を知ってたから。

アイツは初心者の為とかいった理由で100人近くのPKをキルしているらしい。
しかもその行為に感化された“黒闇の守護者”とかいうファンクラブ染みた集まりまで出来てる始末。

そういった噂や事実がBBSを賑わせていたのをアタシは良く知っていた。
前に出会った人物の話だから興味引かれる部分が多くあったってのが一番の理由かな?


アタシは目の前の男と傍を漂う幽霊少女に対して極々普通に接しながらも、心の奥底では複雑な気分に駆られていた。
口調が軽く一見そこら辺のPCと変わらないようなアイツが今までやってきたことに、どこか懐疑的になっていたのかもしれない。

だから、だと思う。


「本名知らないけど、そういえば名前は?
 せっかくだから教えてよ。アタシもさっき自己紹介したんだし」


深い意味は無く、ちょっと試してみたかっただけ。
答えてくれるとも思ってなかったし、話の流れ的に別に教えてくれなくても気にするつもりは無かった。

けどその予想は全くの大ハズレ。


「……ヘレシィ」


まさか本当に答えてくれるなんて、ね。
アイツ曰く、もう隠す必要が無くなったからってことらしいけど。
それがどういうことか気になったアタシはBBSに載ってる内容について聞いてみることにした。

つまり“偏欲の咎狩人”の評判と“黒闇の守護者”の話。


全部喋り終わった後のアイツの反応はある意味面白く、又ある意味…………引いた。
というかちょっと、いやかなりかわいそうになってしまった。

アタシの話を聞いたヘレシィはがっくりと膝をついて嗚咽交じりに何やらブツブツ呟いたり。
かと思ったら今度はアタシに詰め寄って“もっと教えろッ!”って迫ってきたり。
説明してあげたら乾いた笑い声を上げながらこっちの声に無反応になったり。


……とにかく噂で名高い人物とは思えない姿だった。

アタシが想像していたアイツは『軽いイメージは表だけ、実際にはアンチヒーロー気取り』ってな感じ。
なのに目の前で悶えてる(?)その様子はどうみても本物、言っちゃなんだけど高校のクラスメートの馬鹿丸出しな男子とまるで変わんない。
“そんな馬鹿なぁぁぁッ!!”って声が聞こえないくらい(さっきアタシの口癖使ってたけど)のリアクション。

ヘレシィにとって噂とか黒闇の守護者とかが不本意なことが丸分かりな反応で。
慰めるようにしてアイツの肩に手を置いてる幽霊少女の姿も微笑ましいというか何というか……。


そんなアイツを見ているうちに段々あたしの中で親近感みたいなものが生まれてた。
単に外が勝手に噂してるだけで、もしかしたらそのほとんどが全くのデマなのかもしれない。
だってアタシの同級生レベルのヘレシィがそんなことをしてるなんて想像できそうに無いし。

それに結局教えてはくれなかったけどあの幽霊少女。
あんな女の子が懐いているような奴が悪い奴だとはどうしても思えない。
いや、どちらかと言えば思いたくなかったが正しいかな?


今回はこれでお別れかと思ったんだけど、今度はあっちから頼まれ事を聞くことに。
しかもその内容が『紅衣の騎士長を呼び出してくれ』なんてものだったから驚かされた。

今まで色々噂にはなってたものの、特に表に出ることなく謎のままだった人物。
それが有名な紅衣の連中に接触しようとするなんて、何かあると思わない方が変じゃない?
少なくともこの時のアタシはそれを何となく感じてた気がする。

勿論アタシは了承した。
沢山アイテムも貰ったし、アタシ自身あの“昴”って娘には興味があるからね。
あの子の近くにいつもいる角付きヘルメットは邪魔だけど……ま、どうにかなるでしょ。


で、ヘレシィ達と別れたアタシはすぐさまマク・アヌへ直行。

最近知り合った気のいいおじさんことベアにメールしながら、昴がいつもいる船を捜す。
ベアにメールしたのは、ヘレシィとの会話を内容を送る為。
というか、珍しかったからちょっと誰かに話してみたかっただけだったり。
あのおじさんなら誰かに言いふらしたりしないだろうって確信もあったし。

昴の姿はすぐに見つけられた。
マク・アヌを流れる川に浮かぶ船にいたのは、昴と例の角付きヘルメット。

後は適当にやれば用件も手早く済ませられるだろうと思ってたんだけど、


「さぁて、そんじゃ面倒だけど「おじさんも混ぜて貰いたいな?」げッ、ベアッ!?」

「おいおい、“げッ”は無いだろ? これでも繊細な心の持ち主なんだぞ?」


なぁ〜にが“繊細”よッ!

ニヤニヤしながら後ろから現れたのはついさっきメールしたばっかしのベア。
どこにいるか聞いてなかったけど、まさかマク・アヌにいたなんて……。


「……もしかしてベア、アタシをストー「ミミル、さっきのメールなんだが……」うわッ、誤魔化したッ!?」

「悪いが今回ばかりは少々真面目な問題なんでな、ジョークに付き合うのは又今度にしてくれ」

「ジョークって…………まあいいわ。
 んで、何でベアがヘレシィのことでそんなに深刻になる必要があるの?」


確かにかの有名な“偏欲の咎狩人”に出会ったのは珍しい。

BBSでも結構目撃者とかは出てるらしいけど、その中に一体どれくらい本物がいることやら……。
ソイツ等が書き込む内容なんて、“初心者の頃にPKされた恨みでPKKをしている”とかそんなのばっか。
実際に会ったアタシだからこそ分かる…………そんなのは全くのデマだって。

アイツはそんな奴じゃない。
そんな即物的な理由で行動している筈がないと勘が告げている。
アタシがさっき見た姿はキャラを演じていない、まんまアイツの素直な反応だったから。


でも何で態々それを聞いたベアがアタシのところに来たんだろ?
“偏欲の咎狩人”の話題は、ヘレシィと“黒闇の守護者”について話してた時が初めて。
それに今から昴って娘を訪ねることもメールで伝えたから用事があるのは分かってた筈なのに。

元々興味があったのかな?


「……おじさんはこのゲームの正式稼動時からずっとプレイし続けている。
 それからすぐに噂は出てきた。あの頃から結構な話題になったもんさ」

「アタシが1つ前のPCを使い始めた時のことだから良く覚えてる。
 あれから4ヶ月、よく続くもんだわ」

「俺もそう思っている。
 普通BBSでの噂なんて、せいぜい2ヶ月程度が限界だ。
 最初は盛り上がっても途中から信憑性が無くなってそのまま消滅……という流れが定石だな。
 なのにこの話題は未だに衰えを知らない。目撃者も絶えず出てくる。
 更にはとうとう“黒闇の守護者”なんて組織まで出来てしまう始末だ。
 …………不思議とは思わないか?」

「何が?」


アタシは別に不思議に思うことなんてないんだけど。

噂の真偽がどうであれ実際に存在する人物の話なんだから、目撃者がいてもおかしくない。
組織もアタシが聞いた限りじゃ単なるファンクラブって話だし。
その1人の話だって、ヘレシィベタ褒め演説っぽいのしてたのが印象深かったし。

だけどそんな考えが甘いってことをベアの言葉で思い知らされた。


「例の人物の噂の中でも最初から今まで絶えず言われ続けてきたことがある。
“ルートタウンに出現しない”“黒い幽霊少女”“不可解なトレード”……そして“PKK”だ」

「うんうん」

「このゲームのログイン先はルートタウン、またログアウト時もそこからでないと出来ないのが普通だ。
 このゲームには“浮く”PCの存在などNPCくらいしかあり得ない。だがNPCはイベントでもない限り連れ歩くことは不可能の筈。
 このゲームに限らずトレードというのは等価交換が基本、誰でもわかる情報と希少価値の高いアイテムの交換なんて普通はしない。
 このゲームはPKを公式の場で否定しているからPKの絶対数は少ないのにそれを100人近く狩るなんて普通面倒過ぎる」

「……さっきから“普通じゃない”ばっかりね」


アタシの言葉に深く頷くベア。
その反応からそれがおじさんの言いたいことだと分かった。

でもそんなの誰にだって分かると思うんだけど?


「ははは、ちょっとあざとい言い回しだったか?
 ようするにおじさんが言いたいのはだ……かの人物の行動全てが“異質”ってことさ」

「それって言い換えただけじゃんッ!」

「表面上の意味ではそんなに変わらないさ。
 だがこのゲーム、『The World』において両者は微妙な違いがある。
 それぞれの行動が普通じゃないのはすぐに分かるが、無理矢理にでも理由をつければただの“珍しさ”で済む話だ」

「“珍しい”で片付けられるようなことじゃないと思う……」

「まあ続きを聞いてくれ。
 人が行動を起こす時、ほとんどの場合“目的”という原動力がついてくる。
 特にこの『The World』においてはキャラを演じるという意味で、意味の無い行動をすることは少ない。
 そこでおじさんは考えてみたのさ…………件の人物の行動目的とは何か、を」


ヘレシィの行動目的?

そりゃあアタシだって意味も無いのに動くことはまず無い。
だって考えてみたら目的の無い行動って、無意識下でのそれ以外思いつかないし。
それこそ辺りをブラブラすることにだって何らかの意味はあると思ってる。


「……あ」


そう考えた時に、アタシはベアの言いたいことがようやく分かった気がする。


「気づいたか?」

「多分、ね……話の流れから何となくだけど。
 アイツのやってる行動それぞれに目的があったとしても、一貫性のある目的がまるでない……ってこと?」


ヘレシィのやっていることの真偽はこの際無視する。

噂の中心になっている4つの普通じゃない行動が全て事実だと仮定しても。
そして無理矢理(具体的な内容は思いつかないから省く)1つ1つの行動に目的をつけたとしても。


アイツが動く根本的な目的がどう考えても分からない。


「その通り、俺が言いたいのはそのことなんだ。
 かの人物は仕様外のPCを使っている可能性が高い……なら何の為に?
 世界中を賑すゲームの冷やかし? それとも単に他人を驚かせて優越感に浸りたいから?
 そんな下らない理由で動いているとは到底思えない」

「アタシもそれは違うと思う。
 でもじゃあ…………他にどんな理由があるって言うの?」


アタシの言葉に腕を組みつつ考え込むベア。
その様子からリアルのおじさんも同じように頭を悩ませているのが何となく分かった。

そして次に顔を上げながらアタシの目を見てベアが言葉にしたのは、


「……この世界に潜む“何か”を探っているってのはどうだ?」

「何それ? CC社のスキャンダルとか?
 馬鹿みたいにでっかい会社だから結構黒い噂とかありそうだけど……」


別にそんなことなら外から調べればいいんじゃないの?

ゲームの中に入ってまですることじゃないし、第一アイツにそんな大層なことが出来るとは思えない。
そういうことする人って、いかにも思慮深そうな印象あるし。


「おじさんにもそれ以上のことは推測すら出来ない。
 ただミミルの出会った彼が、俺達とは違った視点でこの世界を見ているような。
 隠しアイテムとかイベントとか、そういった次元を超えた“何か”を求めているような、そんな気がするんだ」


結局、その言葉でアタシ達の会話は一旦終わってしまった。

丁度昴達が乗ってる船が止まったところだったしね。
それからは、ベアが銀漢(角突きヘルメットのこと)を説得してくれたおかげで、用件は簡単に済ませることが出来た。

以降、アイツの目的について話し合った記憶は無い。


その後すぐに起こった『Δ隠されし 禁断の 聖域』での事件のことで頭がいっぱいになっちゃったから。


「以上、回想終わりッ! …………って何1人で呟いてるんだか」


あの事件の後はベアとも昴ともほとんど連絡を取ってない。

偶に“元気にやってるか?”程度のメールを送りあったりはしたけど、それだけ。
ヘレシィについては最早完全に過去のこととして片付けられていた。

事件から数日間の間は行けなくなった聖域について話し合ったりしてた。
でもそれから程なくして、昴にシステム管理者からのメールが届いたことで事態は一気に収束へ向かってしまう。


その内容は、“彼等のことはシステム管理者が処理するから、紅衣は動かすな”って感じ。
しかもそのメールにはアタシとベアに対する警告まであった。

で、しばらく様子見することになったんだけど、それから一度もヘレシィの噂が出なくなってきた。
それが1ヶ月、2ヵ月と続くうちに“不正仕様の証拠を掴まれてアカウント停止に追い込まれた”って噂が流れ出したのが決定打。

ヘレシィ、というより傍にいた女の子が放った光の矢の威力を実際に目撃したアタシ達からすれば、アカウント停止は当然の処置。
そう考えたアタシ達はあっけない終わりに奇妙な蟠りみたいなものを残しつつも、アイツ等のことを忘れることにした。

アタシ個人としても、いい加減ぐだぐだ考えるのを止めて純粋にゲームを楽しみたかったし。
それに…………正直あの聖域での光景は怖くて思い出したくなかったから。


「でもこの書き込みは…………なぁ〜んか見逃せないんだよね」


“黒い幽霊少女”

確か名前はシェリル、だっけ?

アタシが彼女を最後に見たのは聖堂から離脱しようとした時。
ゲートアウトする瞬間に彼女が静かに、けれどよく響く声で呟いた、


“消えて”


その短い言葉は今でも思い出そうとすると、鳥肌が立ってくる。

アタシ達がいなくなった後、そこで何が起こったのかは知らない。
しばらく閉鎖してた聖域のエリアも1週間ほどで完全に元に戻ってたし。


この2つのキーワードが含まれる今回の噂。
何故だかその内容に妙な胸騒ぎを覚えてしまったアタシは、すぐさまベアにメールを送ることにした。
勿論、後で昴にも連絡は取るつもり。


メールの送信が終わった時、アタシの中で何かが再び動き出したような、そんな錯覚を覚えた。

それはきっと中途半端に投げ出してしまったことに対する未練みたいなものだったと思う。


アタシは何か大きな流れに巻き込まれていくような予感に、不安少々、そしてそれ以上の興奮を感じ始めていた。


あとがき

SIGNメンバー行動開始の巻。結構書きにくかった。
主人公いないまま物語は勝手に進行していきます。
物語だけじゃなく主人公に対する周りの認識もどんどん変わっていきます。
主人公が戻って来た時の反応は…………ご想像にお任せします。

ちなみに前回の重剣士とかその他は意識不明者にはなってません。
このSSにおいて意識不明者は唯の被害者以上の意味を持つことになるので……。
まあ詳しい症状については近いうちに語られる予定です。

次回は司視点。ある意味物語を通して1、2を争う書きにくいキャラ。
ではこの辺で。


レス返しです。


>TAMAさん

お疲れ様です&感想有難うございます。
元々大まかなプロットは書き始めた時に出来上がっているので、今回は見直し程度で済みました。
いくつか取り入れたいネタとかもあったんですが、それは後にまわすことにします。

主人公PC、大幅に変わりました。しかも近いうちにまた変わります。
本人が帰ってきたらお仕置きだけは確実です。……多分その後グレます。
シェリルの容赦の無さに関しては、彼女の精神的な未熟さが起因しているつもりです。
それについては後の話で明らかになる…………といいなぁ。

これからもよろしくお願いします。


>マジィさん

く、黒いッスか……確かにそうですね。主にシェリルとか焔とかアルビレオとか。
まあそれぞれ精神的な未熟さ、リアルでの出来事、管理者としての責任が起因してるんですけどね。
主人公は戻ってきたらシェリルに説教することでしょう。正座させて親父っぽく(笑)。

主人公が一旦退場したのには一応理由があったりします。
せっかく『The World』なんだからオリキャラだけじゃなくて登場人物を動かしたいなぁ、とか。
まあそれはともかく、予定では後5話程度で主人公復帰しますのでよろしくお願いします。


>白亜さん

主人公が戻ってきて最初にするのが泣くことか怒ることか……。
何せ三蒼騎士以上の化け物ですから。ていうか三蒼騎士が真っ青になるとこ見てみたいなぁ。
ちなみに意識不明者は出てません。でもCC社は凄く迷惑してます。

人が沢山いるからこそ『The World』。これからもお互い頑張りましょう。


>支離流さん

主人公PC、無駄に怖いです。
でも実はその怖さが無駄じゃなくなるのです。
寧ろ主人公復帰後はそれを上手く利用しようとする予定です。

というわけで、これからもよろしくお願いします。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze