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「幻想砕きの剣 13-6(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2007-02-21 22:57)
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 一夜が明けた。
 Wユカは、相変わらず眠りについたままだ。
 イムニティがWユカを看護している。
 曰く、「多分今日中には目を覚ますけど、魂を切り離した後遺症とかは解らない」だそうだ。


 セルは近くの林で野宿したらしい。
 と言っても、火を使ったりすると気付かれるので、寝袋を使って転がっていただけだ。
 アルディアの事が心配で仕方ないらしく、あまり眠れた様子は無い。
 その横では、汁婆がちょっと気持ち悪そうだった。
 どうやら飲みすぎらしい。

 そして、肝心の救世主クラスだが……ドムの前で、冷や汗をダラダラ垂らしていた。
 ゴゴゴゴゴ、と威圧全開のドムは明らかに激怒している。


「貴様ら…そんなに軍法会議にかけられたいか…!?
 救世主クラスだけならばまだしも、シアフィールド殿まで…!」


「お言葉ですが、救世主クラスに対する処罰を与えられるのは、現王女たるクレシーダ様のみです。
 例え人類軍総大将と言えど、彼女達を裁く権利は持っていません」


「そういう問題ではない!
 今問題なのは、ユカ・タケウチが行動不能になるという事実を黙っていた事!
 そして現在進行形で動けない事だ!」


 ミュリエルが何とか防波堤となろうとしているが、いくらなんでも分が悪い。
 そもそも、今回ばかりは大河達に非がある。
 そこを開き直るのが舌戦の第一歩というものだが…。

 ドムが激怒しているのは、昨日のうちにユカが動けなくなる事を報告しなかった事だ。
 話したら止められると判断し、大河達はユカ2の治療の内容を話さなかった。
 ドムも報告の場にユカが現れない事を怪訝に思ったが、閃光の余波でも浴びたのだろうと思っていた。
 しかし気付いてみれば、ユカは魂を切り離した事で苦しんだ挙句昏倒し、今なお目を覚まさない。
 あまつさえ、気付いた所で当分戦闘は不可能。
 治療を受けたユカ2も、延々と眠り続けるだけだ。
 人類軍は、ユカという強力な戦力を失ってしまったのである。


「大河は大河で、トレイターを使った強力な攻撃が出来なくなるし、それを報告し忘れる…!」


「いや…もーしわけない…」


 同期連携が使えない今、こう言うのもおかしいが大河の戦闘力は救世主クラスの平均より幾らか上程度。
 大幅なパワーダウンである。
 余った短めの剣を貰って携えているが、これを使うくらいなら素手の方がいいかもしれない。
 最初から手をナックル形態にしておけば、充分戦えるだろう。
 短めの剣+拳=某お庭番衆などと言っていたが、それはどっちかというとカエデの役だ。
 今日一日である程度までは習熟できるだろうが、以前のように同期を使ったり剣を使ったりするのは難しいだろう。


 なおも説教を続けるドムを、タイラーがまぁまぁと宥めた。
 正直、彼としても結構頭の痛い事態なのだが…。


「ドム君ドム君、それよりもさ、とにかく聖銃の観測結果を見てもらおうよ。
 説教はその後って事で」


「フゥー、フゥー……そうだな…。
 俺とした事が、つい熱くなってしまった…。
 さて、本題に入るとしようか」


 ドムは深呼吸して頭をスッキリさせると、昨晩から纏めていたデビルガンダムの拡大写真を、テーブルの上に叩きつけた。
 まだちょっとイライラが残っているらしい。


「これが昨晩から明朝にかけて撮影された、あのデカブツの写真だ。
 周囲に動く物が無くなったためか、時折周囲を伺うように動くだけで大した反応は無い。
 聖銃の因子を埋め込んだと思しき“破滅”の将二人は発見できなかった。
 しかし、ここ…」


 ドムが指差したのは、デビルガンダムの背面部分。
 そこには八虐無道が使っていたと思しき刀が突き出ている。


「これが八虐無道が元になった怪物の一部だとするなら、やはり融合したと見るべきだろうな」


「…もう一人の方は、何処へ?」


「さてな。
 既に融合しているのかもしれんし、或いは歩哨として歩き回っているのかもしれん。
 ……それにしても、妙だな?」


「何がですか?」


「残った2人の“破滅”の将の事だよ。
 一人…は、もう融合しちゃったとして。
 目隠しのおねーさん…ロベリアの事」


 ギクッ、と体を強張らせる者数名。
 それに気付いてないとも思えないが…。


「ろ、ロベリアがどうしかたんですか?」


「…上のは誤字か?
 それとも動揺が出ただけか?」


「イヤですねー、誤字に決まってるじゃないですか」


 こういうやり取りしてる時点で、意図的な誤字だと思うのだが。
 それはともかく、タイラーは話を続ける。


「あの聖銃の因子とやらは、物凄く強力なんだろ?」


「は? え、えぇまぁ…。
 適応に個人差はあると思いますけど」


「だったら、当然ロベリアにも因子が埋め込まれてるんじゃないかな?
 なのに、ロベリアが居た場所からは何も出現してない…。
 どういう事だろう?」


「そ…それは……」


 どう誤魔化すか。
 ミュリエル達が高速で思考していると、ベリオが一歩進んで意見した。


「恐らく、かの因子を埋め込む事の副作用を恐れたのではないかと」


「副作用?」


「大河君に色々聞いてみたのですが、八虐無道は時折意識が飛び、仮面ナルシスト変態露出狂死んだ方が間違いなく世界の為むしろ消滅しろは、精神的にとてもとても不安定になっていたそうです。
 “破滅”の将は、どうやら魔物達を指揮しているようですし、全員が全員テンパって…いやむしろリーチアガリツモハイテイ、別の意味で役満昇天していては魔物を統率する事など出来ないでしょう。
 比較的マトモなのをせめて一人残しておかないと、どうにもならないと判断したのでは?」


「…なるほど。
 しかし、そーなると事実上ロベリア一人が“破滅”の軍を仕切っている事になるな。
 しかも、精神的に不安定になっている“破滅”の将達を。
 …それはそれとして、お前何か仮面の男に含む物でもあるのか?」


「ありません。
 ただ、なんとなく生理的に気に入らないので」(絶対零度の笑み・女は怖い!)


「そ、そうか…」


 それを聞いて、思わずホロリと涙を流すルビナスとミュリエル。
 やっぱりロベリアは苦労人だった。
 …その苦労人に、おしっこしたくても出来ない苦しみを一晩以上与え続けている彼女達が悲しんでも説得力が無い。
 そろそろもどかしいを通り越して、新たな感覚に目覚めているかもしれない。

 それはともかく、どうやらデビルガンダムはこちらからちょっかいを出さなければ何も仕掛けてこないらしい。


「…さて、と。
 このデカブツは暫く動かないからいいとして。
 セル君もそれでいいね?」


「は、はい!」


 あまり良いとは言えないが、そう返事するセル。
 スッカリ忘れられていた所にいきなり声を掛けられて嬉しいやら驚いたやらで、反射的に返事をしてしまったのは秘密である。
 まぁ、実際の所自分一人で突っ込んでも何も進展しない事くらいは理解できているし、その上で尚焦る心を押さえ込めるくらいには余裕も戻って来つつあった。


「ふむ。
 では、次の問題は無限召還陣…機構兵団だな。
 あちらの様子はどうだ?」


「既に完全回復しているようです。
 整備も昨晩の内にほぼ完了し、何時でも出撃できる状態です」


「…あのデカブツが、無限召還陣のある場所にまで反応するかが鍵ね…」


 あの閃光の射程距離なら、充分…とは言えなくとも、ホワイトカーパスの果てにある無限召還陣に一撃を加えるくらい可能だ。
 そこまで行くのに、大分威力を消耗している筈だから、攻撃力は大した事は無い。
 問題は、それが無限召還陣に当たったら、僅かな刺激でも仕掛けられたトラップが発動し、ホワイトカーパスの一部が更地になるという事。
 今のところ、無限召還陣付近でウロウロしている魔物達の群れには反応してないようだが、激しい動きを見せたらどうなるか?
 気軽に試すには、少々リスクが高すぎる。


「…何か、気を逸らす物が必要だな。
 しかも長時間…。
 だが、それにはあの閃光に耐えられるだけの耐久力、或いは一撃も当たらない回避力が必要となる。
 幻影の類は通じないようだし…」


「列車でもあの閃光からは逃げ切れそうにないね。
 昨日みたいに乱れ撃ちしてくれれば可能性の問題になるけど、狙い撃ちされると…」


 列車はスピードが出る反面、小回りが利かないし転倒の恐れがある。
 何より、タイラーは整備兵の一人と約束したのだ。
 あまり無茶な使い方はしたくない。


 暫く考えると、タイラーはちらりとルビナスに目を向けた。
 彼女が達成してきた数々の偉業。
 王宮の中庭を爆裂させた事から始まって、ナナシ巨大化、リヴァイアサンを人間に等、多少非常識ながらも尋常ではない戦果を挙げている。
 今回も何か無いか、と期待したのだが…。


「…ルビナスさん、何か無い?
 こう……巨大ロボットみたいなのとか」


「…残念ながら…本っ当に残念ながら、巨大ロボットには着手してないわ。
 巨大化とかにばっかり手間暇掛けてたし、大体の構造は決まっているんだけど、肝心の材料と時間が…。
 そもそも、完成していてもアレに対抗できるか…」


 設計図までは描いていたらしい。
 流石のルビナスも、色々ありすぎて巨大ロボットにまで手が回らなかったらしい。
 フローリア学園に居た時には自分とナナシの体を作るのに忙しかったり、王宮ではクレアの監視が厳しくて王宮を改造したり出来なかった。
 戦場でロボット製造なんぞ、何を況やだ。


「…ルビナスでもダメか…。
 ……リコ、あの閃光を何処か遠くに飛ばせないか?」


「無理です。
 イムニティがやったそうですが、どういう理屈か逆召還用の時空の穴を食い破るそうです。
 やはり全て避けるしかないでしょう…」


 空間の歪みを焼き尽くしてしまうのなら、例え究極の魔体のバリヤーだって無効化できるだろう。
 殆ど八方塞がりだ。

 大河が煮詰まった頭をスッキリさせようと、大きく伸びをした。


「あー…そうだなぁ、巨大ロボットはいい手だと思うんだけど…」


「そうだね。
 浪漫もあるしね…」


 なんか二人で頷きあう大河とタイラー。
 ふぅ、とドムは溜息をついた。


「気持ちは解るが、実際巨大ロボがあっても仕方あるまい。
 効率面で言えば、的が大きくなって回避しづらくなるだけだ。
 2、3発貰った程度で完全に壊れるようなら話にならん。
 できればあのデカブツと取っ組み合いぐらいはしてほしい」


「…ドム将軍、もうちょっと浸らせてあげましょうよ…」


 蚊の無くような小さな声で進言するセルだが、ドムの一睨みですごすごと退散。
 むぅ、と唸って余計な一言を出すヤマモト。


「ロボットが駄目なら…某放射能怪獣はどうです?
 海の中を探せば、一匹くらい居るかもしれません。
 或いはマグマの中を泳いでいるかも」


「何を言ってる、何を…。
 今から探しても間に合わんだろう。
 仮に見つかったとしても、どうやってここまで連れて来る?」


 シア・ハスが呆れて言うが、ヤマモトはちょっと本気だったっぽい。
 怪獣が好きなのだろうか。


「ま、仮にここまで連れて来れても、聖銃をどうにかする前に我々が壊滅するか…」


「位置づけで言ったら、僕達は自衛隊とかだしねぇ…」


 タイラーとヤマモトが二人でしみじみしている。
 ゴ○ラ対デビルガンダム…時守としては是非見たいのだが…あれは手に負えん…。
 もし出したら、ストーリーが破綻すると言うか勝ち目が一切無くなる。

 ふとリリィが顔を上げた。
 確かに、単なるロボットではいい的にしかならないだろうが…。


「何か付属する神秘とか概念があれば、何とかなるかも…」


「…それにしたって、生半可な概念じゃ無理でしょう。
 それこそ無敵と…で…も?」


 ミュリエルが動きを止めた。
 何か思いついたのか、と全員の視線が集まる。
 暫し視線を宙に彷徨わせるミュリエル。

 そう、生半可ではダメだ。
 それが無敵だと、心底信じられる物でなければ。
 そんな風に信じられて、なおかつ大勢に崇められるモノ。


「………リコ、貴方…異世界にある物を狙って召還できる?」


「狙って…?
 何か目印があれば…何とか」


「物凄く強力な力を宿しているから、それを目印に。
 具体的な世界は、私が示します」


「…何かあるのですか!?」


「次元移動を繰り返す際に、一度だけ見た事があります。
 その時は作動してなかったのですが、ただそこに在るだけでも充分な存在感を醸し出していました。
 アレならば、恐らくある程度は対抗出来るでしょう」


 自信有りげなミュリエル。
 何を呼び出す気か知らないが、きっとトンでもない物だ。


「今すぐに召還できるのか?」


「…ミュリエルが大体の場所を示してくれるなら、大分時間は短縮できると思いますが…その対象を見つけるのが骨ですね。
 どの世界にあるのか解っても、その世界も広いでしょうし…。
 大きさによっては、召還に少々時間がかかると思います。
 …巨大ロボットを呼び出すのは一苦労です」


「よっしゃ、なら今すぐにでも「お待ちなさい大河君」…へ?」


「いきなりここに召還しても、聖銃の意識がこちらに向くだけです。
 それに、パイロットの問題もあるのですよ」


 目を輝かせていた大河を、ミュリエルが強引に止めた。
 浪漫の産物がこの目で見られるとあって、少々興奮していたらしい。
 確かに、アレに対抗できるとなると相当巨大なロボットになるだろうし、そんな代物を駐屯地内に呼び出したら大惨事である。


「…パイロットか…。
 確かに、そう簡単に操れる代物でもないだろうしな…。
 その手の機械に強そうなのは、整備兵とか、或いは機構兵団…」


「いえ、そのどちらも恐らく使えません」


「何?」


「普通のロボットとは違い、あのロボットは思念で動かすのです。
 極端な話、操縦桿を一切握らずとも勝手に動いてくれます。
 ですが、それに必要な思念の量がまた…」


「…私達では駄目なのですか、お義母様?
 私やベリオの思念を、召還器を通して増幅するとか…」


「無理でしょうね。
 召還器で増幅できるのは、基本的に魔力や気の類のみ。
 増幅に特化した召還器ならば別ですが。
 …となると…第一に思い浮かぶのはリコですか」


「? なぜリコちゃんが?」


 首を傾げるタイラーだが、誰も教えない。
 感情の力を司る赤の精霊。
 思念の力という点で見れば、折り紙つきだろう。


「うーむ…しかし、リコ殿とイムニティ殿には、機構兵団の送り迎えをしてもらわねば…。
 いや、イムニティ殿だけで充分か?」


「全員まとめて、というのならイムニティ一人では無理です。
 一度に運べる人数は、精々3人程度…。
 あの鎧…シュミクラムが無ければ、全員一度に運べるのですが」


「…魔物の大群の中に、僅かな時間とは言え数名だけ取り残されるのか…。
 シュミクラムを捨てさせるか…?」


 それをやってしまうと、機構兵団の戦闘力が大幅に落ちてしまう。
 というか普通の兵と変わりなくなる。
 出来るなら遠慮したい。


「他に出来るとすれば…憐さんぐらいですかね」


「なるほど、元リヴァイアサンか…。
 しかし、彼女には無限召還陣そのものに向かってもらわねばならん。
 やはりリコ殿、貴殿にお願いする」


「…引き受けました。
 やってみます。
 ……あの、ご主人様もセルさんも、そのよーに恨みがましい目を向けるのは勘弁してほしいのですが」


 大河とセルが、どっからともなく取り出したハンカチを噛みつつリコに視線を送っている。
 浪漫をその目にするだけでは満足できないよーだ。
 やっぱり自分で動かしたい。

 恨みがましい目を続ける大河とセルを、未亜が張り飛ばして諦めさせた。


「…まぁ、アレですね。
 あのデカブツに対抗できそうな方法も見つかったし…。
 アルディアちゃん救出と無限召還陣の無力化、同時にやった方がいいですね」


「うむ。
 巨大ロボを召還するのに…そうだな、午後以降になりそうなら、作戦は明日決行とする。
 バルサローム、機構兵団にはそのように伝えてくれ」


「はっ」


 会議が解散となった後、リコとミュリエルは召還対象の探索に入った。
 イムニティも連れ出して、ミュリエルが指定した世界を探っているようだ。
 その世界はミュリエル達の予想以上に広く、また時間の流れも早いため、対象物が何処にあるのか中々見つけられないようだ。

 ルビナスとナナシは、見張り台に上って動かないデビルガンダムを観測している。
 ちなみに望遠鏡でも使わないと見えない距離だが、彼女達の場合は裸眼で見えるそーな。

 Wユカの介護は、ベリオと未亜が率先して行っている。
 大河とセルは、何やら話し込んでいるようだ。
 セルがイヤな汗を掻いているようだが…ちょっと彼らの会話をクローズアップしてみよう。


「…余計な手間をかけちまうな…」


「全くだな。
 …とは言え、お前の状況じゃどうにもならなかったし…。
 それより、いいのか?
 お前が先陣を切る事になるだろ」


「適材適所ってヤツさ。
 それに、例の巨大ロボットのおかげで成功率は上がりそうだし…。
 つか、ルビナスさんが物凄い顔してたな」


「ああ、巨大ロボという浪漫を取られたのが余程頭にきたんだろう…。
 八つ当たりとかしてなきゃいいけど」


「…なぁ大河、俺の役割…と言うか、アルディアさんを切り離す以外に何かやるべき事はあるのか?
 こう、どこら辺を突けば聖銃の機能が停止するとか」


「そんなモン俺も知りたいわ。
 …だがまぁ、アルディアちゃんを助け出すのが誰かはその場の流れ次第として…。
 近づくまでにお前がやるべき事は一つだけだ。
 これによって最大の効果を得る事が出来る。
 多分」


「最後の一言が気になるが…それは?」


「うむ…名付けて。
 『動く盾大作戦』!」(真顔)



(…な…何故だろう…暑くもないのにイヤな汗が…)


 冷や汗だーらだら。
 嫌な予感が満載である。
 もともとそういう役割を振られているのだが、改めて言われると…。


「そ、それはつまり閃光を撃ってきたら片っ端から吸収しろって事か?」


「そんな細かい事はどーでもいい。
 敵が右に攻撃したら右に行き、左に攻撃したら左に行け」(滅茶苦茶イイ笑顔)


「うう…動く盾大作戦…」


「だからそー言ってんだろーが。
 元々お前が持ち込んだ火種だぞ?
 そしてアルディアちゃんのオージサマもお前。
 でもって、上手くアルディアちゃんを助け出してこっちに連れて来れたら、これまたお前が保護者にならにゃならんのだ。
 被保護者の行動は、洒落にならない事なら保護者が責任を取る。
 これ常識。
 今のうちに体張っておかないと、後から来る突き上げが物凄い事になるぞ?
 まぁ命賭けても突き上げは来るだろうが、何もしないよりゃマシだろう」


 やたら巧妙にセルを追い詰める大河。
 こーいう黒い大河は、最近見なかったような気がする。
 言っている事は、まぁ割と間違いではないのだが。


「ま、そういう訳なんで、今日は早く休め。
 明日はキツイぞ…でも巨大ロボットとか出てきたら元気百倍だがなッ!」


「うん、それは言えてる」


 今から考えられるイベントだけでも、巨大ロボット召還、それと同時にアルディアを解放する為にデビルガンダムに突撃、平行して機構兵団は無限召還陣の無力化と、結構なイベントが盛り沢山だ。
 それに加えて、色々と予想外のイベントも起きるだろう。
 でも巨大ロボット以外はあまり嬉しくない。
 だってイベント=厄介事と言い換えられるし。

 いずれにせよ、長い一日になるだろう。
 具体的に言うと、8話分くらいは覚悟しておいた方がいいかもしれない。


「さて、どうなる事やら…」


 夕方。
 西日が天幕の中に差し込み、横たわったユカを赤く染め上げる。
 看護をしていた未亜は、額に浮き出た汗を軽く拭ってやった。
 リコによると、そろそろ目を覚ましてもいい頃との事だが…。


「……何から話そうかなぁ…」


 未亜を悩ませているのは、大河とユカの関係の事だ。
 未亜自身、あまり正確に理解しているのではないが、それでもユカに対する説明には充分な程度。
 要点だけを説明すればいいのだが…。
 話を聞いた事によって、きっとユカはショックを受けるだろう。
 意外とすんなり受け入れるかもしれないが、それでも困惑するのは確かだ。
 彼女が恋だと思っていた感情は、単なる回帰本能のような衝動だった。
 未亜は『恋愛は錯覚から始まる事も大いにある』と経験上理解しているので大した事はないが、ユカのような純情娘にはちょっときついかもしれない。
 少なくともキスまでは進展しているようだし。


「…そー言えば、ユカさんって結局多感症なのかな?」


 ふと思い出し、呟いてみる。
 ユカに初めて会う前に大河から情報を読み取り、楽しみにしていたのだが…実際に会ってみれば、同年代の平均よりもちょっとばかり純情なだけで、特に敏感な様子は無い。
 処女特有の敏感さはあるが、それはちょっと違う。
 流石に本人に向かって多感症ですか、と聞くのも憚られるし…。

 ツンツン、とつっ突いてみるが、ユカは何も感じていないようだ。
 そう言えば、リコとイムが魔力針で感覚を全て麻痺させているのだった。
 目を覚ましたら、一本ずつ針を抜いてもいいとは言われているが…。


 西日が少し強くなった。
 振り返ると、ナナシが何やら踊る人形を持って入ってきていた。


「あ、ナナシちゃん。
 …その人形は?」


「ロベリアちゃんですの。
 踊ってるのは、おトイレに行きたいからですのよ」


「…ああ、人形の体じゃ排泄行為は出来ないからねぇ…」


 細かい理屈はよく解らなかったが、ロベリアに向かって同情的な視線を投げる未亜。
 こういうプレイこそS未亜が喜びそうなものだが、流石に2頭身の人形が相手じゃ欲情できない。

 ロベリアはと言うと、更に激しくなった謎ダンスに夢中で、未亜の事にもWユカの事も気付いてない。
 よく気が狂ってない、と褒めてあげるべきか?
 まぁ褒めてもらった所で、涙目になって吼えるのがオチだが。

 ナナシの手の中で悶える人形に生暖かい視線を送る未亜。


「ところで、本体はどうしたの?
 確か元々はルビナスさんの体だよね?」


「ルビナスちゃんが、『流石に元自分の体で漏らされるのはイヤ』って言って、凍結させてますの。
 理屈はよく解んないけど、コチンコチンになってましたのよ。
 氷に閉じ込めてるんじゃなくて、凍れる時の秘法を使ったよーな感じで」


「…また懐かしいネタを…。
 どうでもいいけど、極大消滅魔法なら凍った相手も消せるって話だったよね。
 大魔道師さん、どうして固まってる間に魔王を消さなかったんだろ」


「きっと開発が間に合わなかったんですの。
 ……?
 あ、ユカちゃん!」


「なぬ!?」

 いきなり目を輝かせたナナシ。
 未亜は慌てて振り向いた。
 気付かなかったが、よく見てみると少しだけユカの目が開いている。


「ユ、ユカさん、聞こえる?
 体が動かないと思うけど、目を閉じるくらいできる?
 聞こえるんだったら、瞬きしてほしいんだけど」


 ユカの顔に覆いかぶさるように覗き込み、じっと見つめる。
 ユカは本当にゆっくりと、瞼を閉じてまた開けた。


「よかったー…気がついた…。
 …ん?
 え、何?
 …何言ってるか解らないけど、えーと…。
 治療が終わって、まだ一日。
 こっちのクローンの人は、手術は上手く行ったけどまだ目を覚まさないの。
 お兄ちゃん達は、何かセル君と色々やってる。
 …あ、言ってなかったね、セル君生きてたんだよ。
 まぁ、その辺色々とややこしい裏事情があるんだけど…。
 それと、今はまだ“破滅”軍は攻めて来てない。
 あの閃光の事で、あっちも揉めてるのかも…」


 思いつく限りの事を羅列する未亜。
 どれを聞きたかったのかは解らないが、ユカは安心したような光を目に浮かべた。

 それからすぐに、戸惑うような目付きで左右を見渡す。
 いや、どうやら自分の体を見ているらしい。
 ピンと来たナナシ。


「ユカちゃんの体、痛くて泣いちゃうとイケナイから、痛み止めをしてるんですの。
 体の感覚が無いのは痛み止めのせいで、別に体がおかしくなったんじゃないんですのよ。
 未亜ちゃん、もうこの痛み止め、外しちゃってもいいんですの?」


「一応イムちゃんから許可は出てるけど…。
 取りあえず、ベリオさん辺りを連れてきて」


「ハイですの」


 相変わらず悶える人形を持ったまま、ナナシは飛び出していった。
 それを見送り、溜息をつく未亜。
 何はともあれ一安心だ。

 ユカは少しだけ動く目玉を駆使して、周囲を観察しているようだ。
 西日も大分弱くなってきた天幕の中。
 その中心部に、何かが暴れたような跡が残っている。
 ユカはそこで痛みにのたうち回ったのだろうが、本人に記憶は全く無い。
 あまりに強烈な痛みで、意識が飛んでいたのだろう。


「…ユカさん」

「……」

「ご苦労様…」

「………」


 雰囲気だけで会話する。
 未亜は汗を吸ったままの髪を優しく撫でる。


「お風呂とか入らないとね。
 でもユカさん動けないし、病み上がりだし…。
 ここにお湯持ってくるから、そこに漬かる程度でいい?
 あ、背中流したりシャンプーかけたりは私がやるから。
 …シャンプーって言っても、簡易だけど…。
 ん?
 やだなぁ、病人にナニしろってのさ」


 気を紛らわせようと、未亜は一人でペラペラ喋る。
 しかし、その様子が返って疑念を呼んだらしい。
 未亜を見る目に、問いかけるような光が浮かぶ。

 視線を受け、未亜は少々考える。
 ここでトボけるのは容易い事だ。
 何せユカは口も利けない状態なのだから、適当に戯言垂れ流してればそれで済む。
 しかし、やっぱり例の事はいつかは告げなければならない訳で。
 それを今ここで言ってしまうか?


(うーん…いくらユカさんだって、体が動かなければ不安に思うよねぇ…。
 弱気になってる所に、『お兄ちゃんとのラヴは錯覚でしたー』なんて告げられたら…)


 ショックで寝込んでしまうかもしれない。
 もう寝込んでいるが。

 よく解らないが、早めに言った方がいい気もする。
 これ以上深みに嵌らないように、とかではなくて、何か、もっとこう…理解できないが、そうした方がいいと誰かが囁いている気がする。


(ただでさえ魂を削られて衰弱している…。
 いや、だからこそ話すべき?
 どうして?
 ユカさんに追い討ちをかけるような真似は…。
 ううう…でも、何かこう急きたてられてるような…。
 ………せ、せめて体の感覚が戻って、汗とか拭いてスッキリしてから…)


 結局、未亜は得体の知れない衝動に負けてしまったようだ。
 そうした方がいい、と何故か確信してしまう。
 やっぱりやめるか、とも思うが、一度決心してしまったためか、容易には路線変更が出来そうにない。


「…ユカさん、後でちょっと話しておかなきゃいけない事があるの。
 でもまー、取りあえず体を元に戻して拭いて、ご飯食べてからね。
 お粥大丈夫だよね?」


『…ぐぎゅるるる〜〜…』


 体の感覚に関係なく鳴る腹、そして赤面するユカ。
 丸一日何も食べてないのだから当然だ。

 未亜は笑って、出しっぱなしの召還器を片手に立ち上がった。
 そろそろナナシが戻ってくるだろうし、それが終わったらドラム缶でお湯を沸かして風呂にする。
 それともご飯が先だろうか?
 ああ、どっちにしろ着替えを持ってこなくては。
 今のユカの服は、暴れまくった際にかなりボロボロになっている。

 問題は。問題は。そう、問題は…。


「……ストッキングとか、履かせてもいいよね。
 うん、趣味もあるけど体を冷やしちゃいけないし。
 でも、どこにあるかなぁ…」


 自分の手でそれをやる時、暴走しなければいいのだが。


 その一時間後。
 ナナシが連れて来たベリオが、ユカの感覚を無くしている針を一本一本抜き取り、何とか動けるようになっている。
 全て抜き取ると、また体をマトモに動かせなくなるので、触覚が辛うじて機能している程度にしか、針を抜いていない。

 ユカが目を覚ましたと聞いて大河達が見舞いに来たが、残念ながら追い返した。
 ユカとしては、汗や埃で汚れた自分を見られるのに抵抗があったらしい。
 大河は残念がったものの、そういう事を気に出来る程度には回復したのだと割り切って、ドム達に報告に向かっていた。


 今、ユカは天幕の中で裸になり、未亜に支えられてドラム缶風呂に入っていた。
 今回ばかりは未亜も余計な事をする気はないらしく、真面目な表情でユカの頭を洗っている。
 ちなみに一緒の天幕で眠っていたユカ2は、カエデの監視の元、救世主クラスに割り当てられた別の天幕で眠っている。


「んぁー……」


「ダレてるねー」


「そりゃまぁ……。
 まだ体の感覚、あんまり戻ってないし…。
 何ていうか、体の中のエネルギー源が大幅に持ってかれたような気がして…」


「文字通りなんだろうね。
 それだけあの子にエネルギーが行ったって事でしょ」


「うん…。
 それにしても、何だかこういう看護手馴れてない…?」


「お兄ちゃんと二人暮らしだった頃にね。
 二日酔いで動けなくなったお兄ちゃんを、微妙にセクハラしつつお世話してたの。
 それに、アヴァターに来てからも何度か似たような事は…。
 ほら、王宮で見たでしょ?
 何せ私達をオカズにしてたくらいだしー」


「はぅ…」


 顔を赤くし、ブクブク沈みそうになるユカ。
 未亜はちょっと不満そうだ。
 普段のユカと比べて、リアクションが大人しい。


「それはそれとして、ご飯食べられそう?
 吐くくらいなら食べない方がいいんだけど」


「ん、食べる…。
 何ていうか、血だ、血が足りねぇ…食い物持って来いって言いたくなる感じ…。
 ところで、未亜ちゃんボクに何か話があったんじゃないの?」


「うん…そうなんだけどね」


 今はこっちが先ー、と言って頭からお湯をかけた。
 頭の泡が洗い流され、湯船にお湯が戻る。
 ドラム缶の中は、欧米のお風呂みたいに泡で一杯だ。


「あー…泡風呂もいいねぇ…」


「そうだね…。
 体は自分で洗える?」


「うん、タオル貸して…」


 スローペースに、ユカは自分の体の汚れを落としている。
 今一覇気が足りないものの、大分復活してきたようだ。

 そろそろ逆上せそうだし、ユカは未亜に頼んでドラム缶から出してもらう。
 まだあまり自分では動きたくない。
 と言うか、スローペースすぎて腕を上げるだけでも10秒くらいかかる。
 しかも感覚では腕が何処まで上がったか知覚できないので、一々目で確認しないといけない。
 地面に敷かれたビニールシートの上に裸で座り込み、乾いた布で水気を拭う。
 見事なプロポーションに、未亜は少なからず嫉妬を感じてしまった。

 そこでふと思いつく。


「…ねぇ、ユカさん…ちょっと聞いていい?」

「? 何?」

「多感症って本当?」

「ブッ!?」


 思わず噴出し、バランスを崩して倒れこむ。
 まだ思うように体が動かず、後頭部を打ち付けてしまった。
 ぐおお、と悶える。


「だ、大丈夫…?」

「へ、平気平気…。
 そ、それで何だっけ?
 ボクが多感症?
 ナニそれ、誰からそんなデマ聞いたの?」


 必死で受け流そうとするユカ。
 気力が足りない為に普段よりも感情表現が控えめになっている為、何とか様になっている程度の演技はできている。
 …が、未亜には無駄な事である。


「いや、お兄ちゃんの頭の中から勝手に読み取ったんだけど…。
 まぁ、それでね?
 ちょっと考えたんだけどさ…」


「な、ナニを!?」


 ここまで言った所で、ふと動きを止める未亜。
 よくよく考えてみれば、これはいいタイミングかもしれない。
 衝撃的な真実とは、それを聞くのが早いにしろ遅いにしろ強烈なショックを受ける。
 早い遅いは関係ない。
 関係ないが……。


(…あったね、ショックを和らげる方法。
 即ち、大変な事態をギャグ調にして伝える!
 これでどんなショックもオバカな話に早変わり!
 幻想砕きの剣において、何度も使われたこの手法…救世主の真実しかり、千年前の事しかり…。
 軽いノリで話せば、どんな事だって受け止められる!)


 天啓を得たような気分の未亜。
 そうと決まれば、この際さっさと話してしまおう。

 風邪を引かないようにユカの体を拭きながら、未亜は話し始める。


「あー、ユカさんが寝てる間に発覚した事なんだけど」


「そ、その前にボク多感症なんかじゃ…。
 現に未亜ちゃんに体拭かれてるけど、おかしな反応なんてしてないでしょ!?」


「まぁ、いいからいいから。
 その辺も含めて話すから、ちょっと聞いてよ。
 て言うか、今は体の感覚麻痺ったままなんだから、多感症でも関係ないでしょうに。
 えーっとね、まずイムちゃんが気付いたんだけど…」


 イムニティとリコから告げられた、ユカ2の治療の際に発覚した事…つまり大河とユカの魂が同一だと言う事から伝えていく。
 それを聞いたユカは、首を傾げていた。
 それはまぁ、魂がどうのと言われても彼女では理解できないだろう。
 未亜自身、なんとなくでしか理解してない。


「はぁ…ボクと大河君が一緒、と…。
 それがどうかしたの?
 そういう事、珍しいんだろうけど無い訳じゃないと…」


「うん…それでさぁ…」


 あくまで仮説の領域だけど、と前置きして続ける。
 ユカも見たあの閃光を大河が受け止めて、魂の一部が砕けた事。
 慌てるユカに対して、既に動けるくらいには回復していると告げる。
 続けて、トレイターの生成に関する幾つかの仮説。
 そこから派生した、ユカの中の大河の魂。


「…因果の糸云々はよく解らないけど…。
 つまり、ボクの中に大河君の一部が…?」


「或いは、ユカさんの魂全部が、お兄ちゃんの魂の欠片が再生したものかもしれない、って。
 …ショック?」


「……多少は。
 でも…多分、それ大当たりっぽい」


 何がショックって、男女関係には真面目というかウブなネンネの自分が、元々女にだらしない大河の一部だったって事だ。

 これは単なるユカの直感だが、彼女の魂が元々大河の一部だったのは本当だ。
 それこそ、ユカの魂がそれを覚えている。
 言われてみると、その事実が自分の中にスコンと入ってくるのだ。
 それに、ユカ2との戦いの終わりの切欠となった、あの閃光。
 あれに見覚えがあると思ったのは、きっと大河だった頃の魂に刻まれていた記憶。
 あの閃光が切欠で本体と離れる事になった魂の欠片は、あの閃光に対して強い恐怖を持っていたのだろう。

 まぁ、ユカにとって、その辺はあまりショッキングな事ではない。
 元が誰の一部であろうと、既に彼女は自我を確立している。
 彼女にしてみれば、前世が実は大河でした、と言われているのと大差ない。
 産まれる前の事など、魂が覚えていても記憶には全く無いので問題ない。

 ユカが思ったよりも動揺してなかったので、これ幸いと話を進める未亜。
 この辺からは、妙なショックを受けないように畳掛けねばなるまい。


「で、ルビナスさんとかイムちゃんが言うには、ユカさんがお兄ちゃんに拘るのは、その魂のせいなんじゃないかって事なんだけど」


「?」


「よく解らないけど、欠けた魂って元に戻ろうとする性質があるんだって。
 …と、体は拭いたから、服を着せるよ〜。
 ちょっと足上げられる?」


「ちょっとだけなら…。
 ん、しょ…っと」


 少しだけ持ち上げられた足を持って、純白の下着を足に通す。
 萌エロ魂とばかりに何かが燃焼しかけていたが、真面目な話の途中なので我慢。
 むしろ燃え上がらせてギャグにしてしまう手法もあるけど、今はパス。
 無論、しっかりと目に焼き付けて堪能しているが。
 ちなみに、流石に戦場にパジャマを持ってくる事は出来なかったので、軽く洗濯して火で炙って乾かしただけのウェイトレス服だ。
 ストッキングも追加したかったのだが、こういう時に限って天の意思は味方してくれず、何故かソックスしかなかった。
 何故だ! ユカだからさ。 ストッキングはオトナの味、でもユカは中身お子様。
 通ならストッキングだが「ナマ足がいいんだ!」という意見も多いしオフィシャルでもナマ足。
 せめてソックスを追加したのは、前記したように体を冷やすのはよろしくないから。

 ブラを付けて、スカートを履かせながら、未亜は話を続ける。


「お兄ちゃんの方はよく解らないけど、ユカさんの方は…その、戻ろうとする性質が多大な影響を及ぼしてる可能性があるんだってさ。
 ユカさんとお兄ちゃんとの出会いの事聞いたけど…ズバリ、一目惚れでしょ?」


「う…」


 いつものユカなら慌てて否定しそうだが、今はそんな余裕は無い。
 それだけ未亜の話が気になっているのだ。


「まぁ、最初の切欠がどうであれ、ユカさんがお兄ちゃんを好ましく思ってるんなら、それが全てだと思うんだけど。
 …ナマ足にソックスを履かせ……ストッキングならもっと…ハァハァ

「あ、あのちょっと未亜ちゃん?
 なんか息が荒くない?」

「だ、大丈夫大丈夫…(ジュル)」

「そのヨダレを拭ったような音はー!?」


 アハハ、と笑って誤魔化す未亜。
 大河に対する感情の話も重要だが、こっちも重要だ。
 何せ貞操の危機っぽい。


「と、とにかく…最初にお兄ちゃんを見た時、こう思ったんじゃない?
 『あそこに行きたい』とか、『あの人の中に戻りたい』とか。
 リコちゃん曰く、『迷子になった子供が、散々さ迷い歩いて泣きまくった挙句、ようやく家や親を見つけたような気持ち』だそうだけど」


「そ、それは……」


 否定できない。
 大河を一目見た時から、ユカの中から経験した事もない衝動が湧き上がっていた。
 最初はそれが何の衝動なのか解らなかったが、ずっと大河を見つめ続ける内に、それが形を為してきたのだ。
 それは『一つになりたい』という衝動。
 元々大河の一部だった魂から湧き出てくる、原始的な欲求。
 ユカはそれを一目惚れだと解釈した訳だ。
 その衝動が形を為して、ユカに意識された時、彼女はそれを不埒だと思った。
 それも当然と言えば当然だろう、ユカにとってそれは単なる肉欲としか思えなかったのだから。


「つまり…ボクは大河君を好きなんじゃなくって…?」


「いやぁ、それはどうだろ?
 ユカさん、お兄ちゃんの事気になってるし、キスしてるでしょ?
 キスした時の事を思い出して幸せだったら、それは好きって事でもいいと思う」


「でも、それは恋愛感情じゃなくて、単なる欲求…」


「欲望なのは恋愛感情だって同じだよ?」


 ネガティブ思考に沈みつつあるユカを、軽い口調で引き上げる未亜。
 いつまでもこの話題に留まっているとキリが無い。
 さっさと次の話に移る事にした。


「あー、まぁその辺の事は、後で議論するとして。
 私が思いついたの、ここからなんだけど」


「…? 今度は何さ?」


 まだ沈んでいるが、未亜の話題転換についてくるユカ。
 やはり、あまり愉快な考えではないからか。
 話題転換に成功した未亜は、内心でホッとしながら着々と爆弾投擲の準備を整える。

 ちなみに、服もほぼ着せ終わった。
 体に生気が少々足りない事を除けば、いつものウェイトレス服ユカだ。


「ユカさんってさ、純情なのに結構エロいカラダしてるよね」


「はい!?

 ボクの何処が!?」


 心外だ、とばかりに激しく抗議する。
 まぁ、当たり前と言えば当たり前だ。
 未亜はそれに対して、平然として応える…セクハラで。


「何処がって、そりゃまずこのおっきくて柔らかくて揺れるDのおっぱいとか」

 ふにょん

「あ、ちょっと」

「鍛えてて引き締まってるのに、ムチっとしたこの太もものラインとか」

ツツツツツ

「あ、あの未亜ちゃん?」

「某憐ちゃんと同じ名前で呼ばれてる組織の一員で悪役の半身みたいに、まロいと言いたくなるこのお尻とか」

 サワッ

「いやだからちょっと」

「うーん、某ストロベリーな漫画で言ったら、ボディ的に一番近いのは北の人かな」

「…あの漫画の女性、ほぼ全員エロなボディしてると思うんだけど」


 そろそろ嗜虐心に火が点きそうなので手を離す。
 いきなりセクハラ食らったユカだが、戸惑うばかりで特にイヤがってはいない。
 単に体の感覚が殆ど無いからセクハラを受けた実感が無いのか、それとも元大河だけあって未亜からの愛撫にはあまり抵抗が無いのだろうか。
 それでもやっぱり警戒心が強くなったようだ。

 未亜はユカの警戒には然程頓着せず、話を勝手に続ける。
 ユカにセクハラすんなと読者様に怒られそうだが、この場は大目に見てもらいたい。
 少なくとも、ユカの気は紛れているから。

 上手くユカを奈落から引っ張りあげて注意を逸らした未亜。
 このまま一気に爆弾を放り込む!


「ユカさんがどう思ってるか知らないけど、嗜虐心を煽るエロい体してるのよ。
 虐め甲斐のある体…。
 ああ、反論は後にしてちょーだい。
 それってお兄ちゃんのせいじゃないかなぁ、と思って」


「…エロいかどうかはさておいて…なにそれ?」


「いや、本当にユカさんの魂がお兄ちゃんの一部なら、それって小さな頃からずっと体に影響を与え続けてきたって事だよね?」


「まぁ、心身相関って言うし、魂に見合った体に成長するのはおかしい事じゃないと思う」


「でしょ?
 お兄ちゃんって、魂の隅々までエロ根性が染み付いてるし…。
 砕かれて欠片になったとは言え、そのエロさは筋金入り。
 ちゅー事は…そのエロい魂に影響されたカラダは…」


「…やっぱりエロく成長する…?」


「多分。
 美人で、キョヌーで、強くて、活発で、清楚で、純情で、さらに…ホントかどうかは知らないけど、多感症。
 何ていうか、お兄ちゃんを楽しませるよーな要素が片っ端から集中してるし…。
 オヤヂとかアニオタドーテー君の妄想を具現化させたような感じ。
 それが生来の素質だったかもしれないから、断言は出来ないけど。
 ある意味光源氏計画?」


 ユカ、唖然としている。
 つまり、ユカのカラダ及び性格は、ある意味では大河の好みの集大成なのだろうか。
 そう考えると嬉しいと言えば嬉しいのだが(この時点で、結局ユカは大河が好きなのだと自覚した)、なんか納得行かない。
 何というか…自分が食用に育てられた家畜みたいな扱いを受けてるよーな…。
 むしろ供物か人身御供と言った方が正確か?


「つ…つまり、ボクの多感症とかは、全部大河君が元凶だと…?」


「あ、やっぱり多感症は本当なんだ」


 つい口を滑らせるユカ。
 …きっといつか、未亜に多感症の事を知られて後悔する日が来るだろう。
 心配しなくても、あんまりアレな扱いはしませんよ?


 暫し呆然としたユカだが、フツフツと怒りが滾ってきた。
 これでも、多感症のせいで結構余計な目に合っているのだ。
 何時ぞや初めて多感症が発動し、部屋に閉じこもって裸で過ごして風邪を引いたのは、まぁいいとしても…。
 自分は淫らな人間なのか、と思春期(今もだが)には散々悩んだ事もある。
 そのせいで、武の道を断念しようかとさえ考えた事もあった。

 元々ユカは潔癖な性質が強く、そして本人もキレイな体で居たいと思う人種だ。
 そして汚いモノ、汚れる事を嫌う。
 それはよくある事である。
 思春期の女性が、『男なんて汚らわしい』と思って、自分達女性を『キレイな生き物』だと思いたがるのと同じ心理だ。
 既にユカは、自分も男と同じ程度には汚れている存在だと悟っているが…。

 他にも、平均よりもちょっと大きな胸をコンプレックスに思っていた事もある。
 暴れる度にタプタプ揺れて、イヤな視線を感じる事もあった。

 最初から大河を好きになるのも決まっていたようなものだし、何より未亜の推測通りなら、ユカは洗脳されながら育ったようではないか。
 …まぁ、魂が影響を及ぼしたのは体に対してだけで、人格については赤ん坊同然の魂から芽吹いた人格が、普通と同じようにスクスク育っていったのだが。


「……ボクには大河君をボコる権利があると思うんだけど、どうだろう」


「別に止めはしないよー。
 ただ、お兄ちゃんとナニかしちゃったら、ある意味ナルシーか近親相姦になるんじゃないかと思ってるけど」


 苦笑して、未亜はゆっくりユカを布団に寝転がした。
 大河をボコるにせよ、とにかく回復してからだ。

 それから、未亜は現状を把握してないユカに、詳しい話を聞かせている。
 セルの事とか、聖銃の事とかだ。
 ユカは興味深そうに、そして真剣に聞いていた。


 未亜の話が一通り終わった頃、天幕に気配が近づいてくる。


「あ、お兄ちゃんが来る」


「へ? なんで解るの?」


「私には生態お兄ちゃんレーダーが付いているのだ。
 まぁ、愛の力ってヤツ?
 色々と話もあるだろうし…私、席を外した方がいい?」


「うーん…お願い」


「わかった。
 ああそうそう、リコイムコンビが張った防音結界、魔方陣を壊さない限り有効だから。
 ちょっとぐらい激しく八つ当たりしても、誰も気付かないよ」


「…この体で激しい八つ当たりは難しいなー」


 苦笑するユカ。
 未亜も苦笑して、天幕の外に出て行った。
 多分、隣の天幕に居る救世主クラスやユカ2の様子を見に行くのだろう。

 一人になったユカは、全身から力を抜いてリラックスする。
 そして未亜の話を、もう一度最初から思い出した。


「…けっこーショッキング、かな…」


 なんて言ってる間に、ぐぎゅるるる、と腹の虫が鳴く音。
 ちょっと赤面した。
 考えてみれば、目を覚ましたら未亜に風呂に放り込まれ、結局食事を摂ってない。
 誰かが持ってきてくれる筈だったのだが。


「あー…大河君に頼もうかな…」


 流石にこの空腹を放置するのは辛い。
 体の感覚があんまり蘇ってないが、脳の空腹神経は全開で働きまくっている。
 この際贅沢は言わないから、満足するまで胃袋を膨らませたい。
 今ならきっとレーションでも3つ星…は言いすぎだから、2つ星レストランのおススメ料理のように感じるだろう。
 空腹は最高のスパイスなのだ。


「ユカー、入っていいかー?」


「どうぞ〜」


 聞こえてきた大河の声と、微かに漂うご飯の香り。
 ユカは自分が意識するよりも早く、脊髄反射で反応した。
 もし体が動いていれば、疾風よりもはやく大河にとびかかってご飯を奪っていた事だろう。

 そして入ってきた大河を見て…ユカの意識は、スパークした。


「? ユカ、どうかしたのか?」


「……え?
 い、いや何でもないよ。
 眠りすぎたからかな、まだちょっと眠気が…」


「まぁ、軽く24時間くらい眠りこけてたしな」


 微妙に慌てているユカを怪訝に思いながらも、大河はユカの隣に腰を下ろす。
 持っていた食器が、カチャンと小さな音を立てた。

 今気付いたが、ユカの視線は食器に釘付けである。
 カエデが病人食だと言って、色々香草だか薬草だかを使って作ったお粥。
 念の為に味見(毒見)及びルビナス製の薬草を使ってないか確認した。
 ちなみに意外と美味。


「…色々と大変そうだが…とりあえずは大丈夫みたいだな」


「うん…でも、もう戦えそうにないね…。
 リハビリにどれだけ時間がかかるだろう…」


「魂ってのは、回復速度が速いとは言えないしな…」


 魂、の言葉が出た事で、ユカも大河も一瞬緊張した。
 しかしすぐに力を抜く。
 今更どうこう言っても仕方ないし、口に出すには少々心の整理がついてない。


「ところで、自分で食べられるか?」

「うん…多分。
 ちょっとスプーン貸して」

「ほれ」


 『食べさせて』なんてお願いするのも恥ずかしい…と言うか、ユカにそんな芸当は無理くさい…ので、動かない体に根性入れて腕を差し出す。
 少し腕が震えていた。
 まぁ、リハビリだと言えない事も無いだろう。

 大河は震えるユカの手の上に、そっとスプーンを置いた。
 ゆっくりと手を握るユカ。
 少々使いにくい持ち方だが、今のユカではこれが精一杯。

 スプーンを握ったまま、少し腕を動かす。
 ぎこちないが、まぁ食事くらいは出来るだろう、多分。


「…無理なようなら、ちゃんと食べさせてやるからな」


「……も、もうちょっと自分で頑張ってみる」


 食器の蓋を開けると、湯気が立ち上った。
 中身を見て、ユカが歓心したような表情を見せる。
 震える腕をゆっくり動かし、一匙掬って口に運ぶ。
 ユカの目が嬉しそうに細められた。
 自分でもそこそこの料理が出来る彼女にとっても、カエデのお粥は合格点だったようだ。


「味覚は戻ってるんだな?」


「いや、感覚鈍ってるの触覚だけだし。
 噛み応えしかわからないよ。
 …あー、そう言えば氣を思いっきり使っちゃったんだっけ…。
 多感症、まだ治ってないだろうなぁ…」


「? 流石にもう治まってるんじゃないのか?
 一日以上経ってるし」


「初めて氣を使った時は、一日じゃ完全に治まらなかったんだ。
 それに、一度にあんなに大量の氣を集中させたのも初めてだったし…。
 感覚が鈍ってるから解らないだけで、まだ治まってないと思う。
 大河君、またホワイトカーパスの時みたいに治せない?」


「あー、無理。
 衰気を作り出してた源のエネルギー、もう無くなっちまったから」


「そっか…」


 残念そうにしながらも、ユカの注意は腕に向いている。
 2,3口まではよかったのだが、そこで腕が限界に来たらしい。
 粥を掬っても、震えてスプーンから零れ落ちてしまう。

 暫く様子を見ていた大河だが、潮時と判断して手を差し出した。
 ユカは迷うように粥と大河の手を見比べていたが、結局おとなしくスプーンを渡す。


「ま、重症人なんだし…大人しく介護されてろって」


「ボクとしては、心臓に悪いから…いやある意味とてもイイんだけど…介護と言えるかどうか微妙」


 大河が掬った粥を、顔を赤らめながらもパクッと食べるユカ。
 あんまり躊躇が見られないのは、『アーン』などを防止する為と、何より空腹に勝てないからだ。
 租借して飲み込み、次を視線で催促する。
 ちょっとユカをからかってみようと思っていた大河としては、少々残念だ。

 結局、ユカは至極あっさりとお粥を食い尽くしてしまった。
 念の為、カエデは少々多めに作っていたのだが…なお、残るようなら自分で食べようと思っていたのは明白である。

 食事を終えて、ユカはまた横になる。
 大河は汗を吸ったユカの布団を新しい布団に変えて、布団をもう一枚敷く。


「…誰かここで寝るの?」


「ああ、一人にする訳にもいかないだろ?
 あからさまな事を言わせてもらうけど、お花摘みとかどーするんだ」


「う…」


 一人で出来る…と言いたいが、この有様ではそれも無理っぽい。
 設置された簡易トイレに行くのも一苦労だ。


「だ、誰が?」


「…まず男性の俺は除外、未亜もちょっとばかり危険だから除外。
 ベリオは…あっちでクローンの子を介護してるからパス。
 残りの誰かから選ばれる事になるな」


 ふーん、と呟くユカ。
 何かを迷っているような表情をしている。
 それに気付いて、大河はユカの顔を覗き込んだ。
 慌ててユカは距離を取ろうとするが、体が動かない。
 ユカの鼻腔を、なんとなく安心できる匂いが刺激した。


「…大河君のニオイ…」


「ん? そんなに匂うか?
 ちゃんと風呂入ってきたんだが。
 まぁ、石鹸とか無かったけどな」


「ん…」


 ユカの表情が緩む。
 心なしか、息が荒くなっているようだ。


「……ねぇ、大河君…」


「うん?」


 呼びかけたユカは、夢を見ているような表情だ。
 しかし、大河の返事が返った所ですぐに正気に戻り…また同じ表情になった。


「…どうかしたのか、ユカ?
 様子がおかしいぞ。
 まさか、後遺症か何かが…」


「うん…ある意味後遺症だけど、そういうんじゃなくて…。
 お願いがあるんだけど」


「何だ?」


「…今日は、ここで寝てくれないかな…」


「………ほわっつ?」


 所変わって、隣の天幕…。
 相変わらずユカ2は眠り続けていて、その周りを囲むように救世主クラスが数名待機している。
 リコは食事に満足できなかったのか、その辺をウロウロして食べられるモノを探しているようだ…狩猟民族がどうのと言っていたから、イノシシでも探しているのだろう。
 イムニティは、例によって何処からともなく取り出した本を読みふけっている。
 ミュリエルは何やら王都に連絡する事があるらしく、行方不明。
 なお、目的のブツは発見できたようだ。
 そしてベリオと未亜、カエデが固まってトランプなんぞやっていた。
 リリィはその隣で眠っている。
 ルビナスとナナシは、どうやら巨大ロボット召還の準備だか演出だかをするらしく、何処かに出かけていった。


「…で、今はユカ殿と師匠と二人っきりでござるか」

「うん。 まぁ、いくらお兄ちゃんでも病人に襲い掛かるような真似はしないと思うし」

「それくらいの分別は持っていますからね…。
 まぁ、ユカさんの方から求めれば別ですが」

「あのユカ殿でござるからなぁ〜。
 自分から誘いをかけるなんて、まず無理でござろう」


 今この瞬間、ユカが大河に『お願い』していたのだが、神ならぬ身のカエデ達には解らない事だった。


「しかし、結局ユカはどうするんだろうね?
 こればっかりは本人の問題だし…。

 私としては、どちらに転んでも大差ない気がしますね、トータル的に」


「その心は?」


「もしこのまま思い続けるなら、対未亜さん用の強力な協力者が出来ますが、大河君のお相手がまた一人増えてしまいます。
 仮に断念するならばその逆。 
 どちらに転んでも、私達には損と得がある訳です」


 意外と彼女も計算高い。
 腹黒なのは、ブラックパピヨンだけではないようだ。


「まぁ…どっちにしろ、大河君の女運を鑑みると、ユカさんが大河君から離れようとしても無駄な気がしますが」


「それは…言えてるね…」


「でござるな。
 恋心とは、押さえ込めば逆に強烈になるものでござるし」


 どうもこの3人は諦観を決め込む予定らしく、完全に他人事だ。
 傍観ではなく諦観という所が、大河との付き合い方というものか。

 暫くカードの音と、イムニティのページを捲る音、そしてリリィとユカ2の寝息が響く。
 静かだ。
 救世主クラスが集まっているにも拘らず、珍しく静かだ。


「セルさんと汁婆は?」


「例によって、どっかの雑木林とかで隠遁中。
 少なくとも、聖銃をどうにかするまではこのままの待遇だろうね」


 そしてまた沈黙。
 気まずくはないが、少々退屈である。
 明日は大決戦だと言うのに、こんなテンションでいいのだろうか?
 そりゃ小学生が修学旅行に行く前みたいにはしゃげとは言わないが。


 時間を持て余す事暫し。
 静寂の中で、イムニティがふと顔を挙げた。


「…ん?」


「ん? どしたの、イムちゃん」


 何か面白い事でもあったのか、とばかりにすぐに飛びつく未亜。
 こういう場合、特に何も無いか、あってもくだらない事なのがお約束なのだが…。

 イムニティは、顎を摩りながら何やら考え込んでいる。


「いや…ちょっと思い出したんだけど…。
 今、マスターとユカって一緒に居るのよね?」


「うん、そうだけど…特に進展は無いんじゃない?」


「まぁ、普通に考えればそうなだけどね…。
 ほら、今のユカって魂が一部欠けてるでしょ。
 この子に移したから」


 イムニティの視線の先には、相変わらず眠っているユカ2。
 回復しているのにここまで延々と熟睡されると、昏睡なのか単に度外れの寝坊助なのか解らなくなってくる。


「それが何か?」


「んー…マスターの欠けた魂であるユカは、本能的にマスターを求めていた。
 それはいいんだけど…やっぱり、魂の欠損が酷くなれば、マスターを求める本能も強くなるかも…」


「…そりゃつまり、こっちのクローンユカ殿に分け与えた魂の分、ユカ殿は師匠を…」


「しかし、求めると言ったってどうするんです?
 ぶっちゃけて言いますが、ナニしたって一つになる事は出来ても、文字通り合一する事はできないでしょう。
 ユカさんの本能が求めているのは、大河君が言っていたあの同期連携とかそういう領域の事なんでしょう?」


 そう言われて、それもそうだと考え込む。
 まぁ、合一されてもらっても困るのだが。


「…やっぱ心中?」


「やめなさいよ赤の主…。
 実際の所…極端な話、欠けた半身を取り込んだり融合できるなら、何でもいいのよ」


「だから、その方法が解らないんですが」


「難しく考えすぎね。
 まぁ、一番解りやすい表現は………食べる?


 …沈黙が舞い降りた。
 脳裏に浮かぶのは、魂から湧き上がる衝動のままに、使徒を貪り食う400%初号機のようなユカ。
 ちなみに四つん這いで犬食い。
 振り返った顔は、人間どころかワラキアの夜。
 とてもイヤだ。


「…カニバリズム?
 それともエロ?」


「この場合、どっちでも同じ事ね。
 例えば…マスターの髪の毛とか。
 欠けた半身のほんの一部だけど、それでも自分が失ってしまった部分には変わりない。
 髪の毛一筋を体の中に吸収するだけでも、ユカにとっては不本意なくらいの歓喜を感じるでしょうね」


「…という事は、接吻などしたら…」


「唾液を取り込み、取り込ませる。
 幸せそのものでしょうね。
 他にも汗を舐め取ったり、我慢汁とかでも幸せを感じるかも。
 性的快楽か、精神的充足感かは解らないけど」


「…本番」


「幸福絶頂。
 唾液ですら強烈な歓喜を生み出すのに、精気の塊でもあるマスターの白濁を受けてごらんなさい。
 お脳がナナシよりも幸せになるんじゃないの?
 しかもそれが膣内出しだったりした日には…。
 ああ、勿論マスターと性的な意味で繋がる事も、これ以上ないくらいに満足感を煽ってくれるでしょうね。
 はっきり言うけど、中毒性メッチャ高いわよ。
 ヘタな麻薬よりも。
 人間って痛みには抗えても快楽とかには殆ど抗えないし」


 暫し沈黙。


「極端な話、マスターを感じる…その存在を感じるだけで、ユカは幸せを感じてしまう。
 どれだけ酷く扱われようと、表面上ではともかく、内心…それこそ無意識くらいの領域で、とてもとても喜んでいる。
 単に頭を撫でられるだけだろうと、SMだろうと、いきなり押し倒されて前戯無しで挿入されようと、中出しされた直後に黄色い液体を子宮に向けて注ぎ込まれてもね。
 …まぁ、どんな風に幸せを感じるかは解らないわよ?
 無意識でって言った通り自分じゃ気付かない可能性だってあるし、トランス状態というか理性が飛ばないと感じない可能性だってあるし、もっとこう、ジワジワと幸せだなぁ〜って思うかもしれない。
 いや、あくまで仮説だけど。
 それに、禁断症状も…そんなに酷くはないでしょう」


 地獄のような沈黙。
 キャラに合わないとかそういう以前に、何かこう、もっと根本的な辺りで間違いというか問題がある気がする。
 読者様に猛反対を食らいそうな問題が。

 イムニティに言われた事を、それぞれ纏めてみる。


「つまり…今のユカ殿は…師匠が相手ならばどんな事でも喜んで受け入れ、初体験でも快楽及び幸福のあまりに何もかも忘れてエロに没頭してしまう、師匠限定の淫乱体液マニア…?」


「多感症のオプション付き…」


「確実に1ラウンドでは満足しませんね…。

 流石は大河の元一部って訳かい…」


「…………い、いめーじが…いめーじが…」


 ユカに対する人物評価に書き込まれた、清楚・ウブという文字が物凄い勢いで消されていく。
 それこそ幻想を砕かれた感じだ。
 イムニティの言った事が本当なら、ユカにとって大河は超強力な媚薬以外の何者でもない。
 流石の未亜も、『そんな性癖を持っていてちょっと嬉しいけどショック』な感じ。


「…で…そのマスターとユカが、隣の天幕に居るのよね…。
 しかも、あの天幕には防音結界を張ったままだし」


「「「…………」」」


「マスター…自分から病人にナニしたりしなくても、誘われたら確実に断らないわよね…」


「「「………………」」」


「しかも、あのユカの方から誘いをかけたって事は、マスターを求める本能が物凄く強くなって、追い詰められてるって事でしょうね…。
 それはもう、ちょっとやそっとじゃ満足できないくらいに」


「「「………………………………」」」


「ユカの体に刺さってる魔力の針、やろうと思えばマスターにも抜けるわ。
 抜いても体の五感が戻るだけで、特に支障は無いのよね。
 なんかユカが、『今体の感覚が戻ったら、ちょっと困るかもしれない』って言うから放置してたけど」


「「「………………………………」」」


「………………………………………………」


「………………………………………………」


「………………………………………………」


「………………ユカさん…多感症なのは、本当らしいよ。
 体の感覚が戻ったら困るって、敏感な状態になってるからじゃないかな…」


「「「………………………………………………………………」」」


「「「「………………………………………………」」」」


「「「「………………………………………………」」」」

「「「「………………………………………………」」」」

「………………………………幻影石と侵入してデバガメ…どっちがいい?」

「………………………………侵入して気付かれない自信は?」

「ちょっとキツいでござるな。
 師匠もユカ殿も鋭いお方でござるし…。
 五感が鈍っていようと、カンの鋭さだけは…」

「「「「………………………………………………」」」」

「………………幻影石に決定だね。

 後で初体験の記録として、弄り倒してあげましょう」

「「「諾」」」

「………………………………」

「ほら、リリィさんも寝たフリしてないで手伝う手伝う」


 横になって狸寝入りしていたリリィ。
 しかし、いつの間にやらネコミミがピョコンと突き出して未亜達の会話を盗み聞きしていた。


「う゛あ!?」


「な、なんだ!?
 どうしたんだユカ!?」


「な、なんかいきなり寒気が…」


「……やっぱり体が不安定になってるんじゃないのか?
 そうでもなければ、過剰な程に…というかむしろ小学生並みの恋愛観しか持ってないユカが、俺を誘うなんて…。
 いや、だからこそか?
 でもユカだって18禁な行為の事くらい知ってるしな…」


「…失礼な考え事が丸聞こえだよ大河君」


 一世一代の誘いに難癖を付けられて、半目になって睨むユカ。
 さっきから大河は、ユカが何者かに乗っ取られているのではないか、とすら思っているようだ。

 まぁ無理も無い、とユカは自分に言い聞かせるように呟いた。
 実際、こんな場合でもなければ、ユカから誘いをかけるなんて事はしなかっただろう。


「…実際の所ね、こうやって話してるだけでも結構辛いんだ…。
 別に苦しいんじゃないよ?
 未亜ちゃんから聞いた通り、ボクの魂は大河君を求めてる。
 その魂が更に欠けちゃったからかな…。
 それとも、欲求を自覚しちゃったから?
 ほら、見てよこの手…」


 布団の中から出された手は、まるで何かの禁断症状のように震えていた。
 自嘲気味にユカは続ける。


「目を覚まして大河君を一目見た瞬間から、大河君が欲しいって全身が喚き散らしてるんだ…。
 体が動かないから、まだ何とか抑えていられたんだけど、もう限界…。
 このままじゃ、狂っちゃう…!」


 ユカか感じている衝動は凄まじいものらしく、本気で切羽詰っているようだ。
 もし体が動いていれば、すぐにでも大河に飛び掛って押し倒していた事だろう。

 ユカの懇願するような目で見つめられ、一瞬絶句する大河。
 しかし、理由はどうあれユカに求められているのだから、応えねば漢とは言えまい。


「…いいんだな?」


「うん…。
 とにかく、この疼きを…何とかして…」


「そうじゃない。
 俺と交わるって事は、ハーレム…自分で言うのもアレだが…の一員になるって事だぞ?
 そういうの、気に入らないんじゃなかったのか?」


「追々折り合いをつけるよ…。
 それよりも……」


 本気で壊れそうなユカ。
 別に焦らしている訳ではないが、これ以上待たせるのも可哀想だ。
 大河はゆっくりユカを抱き寄せて、初心者向けとはとても言えないくらいに深いキスをした。




やっと…やっとここまで来た〜〜〜!
ユカが登場してから数ヶ月、やっと濡れ場まで漕ぎ着けました。
途中で止めてしまうのではないかと、自分でも不安がヒシヒシと…。
実際、一人暮らしを始めたら中断される危険もあるんですよね…。
大丈夫だとは思いますが。

明日辺り、大阪まで行って家電を揃えなければなりません。
それにスーツやら何やらももう一着以上必要ですし…。
携帯電話も換えたいけど、どうすればいいのやら。

それではレス返しです!
あと、巨大ロボットの正体が解っても明記するのは勘弁してください!


1.パッサッジョ様
ある意味これって近親相姦、或いはナルシスト?なんて考えてましたw
ユカ2の反応…天然でボケ〜っとしてるって設定ですからねぇ。
案外平穏に終わるかも。

変形機能、使いこなせれば色々出来ます。
…やはり赤い角か?


2.皇 翠輝様
まさか大河をアフロにする日が来ようとは…前にもやった気がしますが。
回転チ○コは、某おっぱい大好き作家さんのHPで掲載されている小説の主人公が元です。
或いは単に血の通ったオトナのオモチャとか。


3.悠真様
流石に理由も無く(無いからだけど)一目惚れっていうのは安直すぎますしね。
同期連携は、ある程度は使えますが、その反動がどうなるか解らないので現在保留中です。

あ、ホントにユカが居た…ご指摘ありがとうございます。

リコイムは中間管理職でも、上役の神は何も言ってきません…ちょっと羨ましいかも。


4.アレス=ジェイド=アンバー様
あんまり大河を変形させるのは…収集が付かなくなりそうですしねぇ。
でも、慣れれば素早く変化は出来るでしょうね。

ええ、きっと頭にドリルとか両手をチェーンソーにとか、色々やってくれるでしょう。
そのチェーンソーで、ゼンジーさんとバトル…いかん、勝ち目が無ぇ。

ドリフですねぇ、先日やってました…懐かしい、長さん…。


5.蒼炎刃風様
混沌そのものッスか!
それはまたスケールの大きい…。
重破斬でL様を呼び出したら世界が滅ぶって話でしたが、それも納得です。


6.DOM様
ナノマシンの人としては、ゼノギアスのエメラダも好きですねー。
おっきい方もちっちゃい方も。
見てて癒されますw

確かに、全身変化は難しいでしょうし…一部分から変化させるのが妥当ですね。

流石に初っ端からは…ユカ2まだ昏睡してますし。
でも、いつかは…。


7.たくらまきゃん様
むぅ…元ネタなんでしたっけ…。
漫画で見た覚えはあるんですが……魔物を倒したら体が戻るんでしたっけ?
それまではギミック付きの義体を使っていたような。


8.陣様
え、閉鎖したの!?
ググってみたら、普通に出てきたんですが。

第3の同一人物、か…流石に人数的に限界だなぁ…。
エスカも入れなきゃならんし…。

大河にアフロ神とか降りてきたら…ダウニーを説得できそうな気がしますね!


9.1様
ユカには無いですね。
変形機能を持っていたトレイターは、大河の削られた部分に接木され、そのトレイターが変化している…という設定ですから。

うーむ、よくよく考えると…これはクロスランブルでの能力への繋ぎにできるかも…。


10.蝦蟇口咬平様
アルディアさんの血筋ですか?
それは…もうすぐ洒落にならない事実が発覚すると思います。

ミギーかぁ…流石に勝手に動き出されるとイヤですねw

男としては、一度は実行できないかと考える想像です。
多分、女の人でもちょっとは妄想した事があるでしょう。
大丈夫、ちょっと想像力が強い、普通の人間です!

スタンガンか…電気ウナギみたいになりそう。


11.カシス・ユウ・シンクレア様
目玉が出てきて喋ったらイヤだなぁw
軽い雰囲気を簡単に作り出せるのが、タイラーの長所ですからね。
あんな風に生きていけたらいいでしょうねー。

召還器…うーむ、流石に聖銃が相手じゃ分が悪いですね…何か使い道を考えないと。
ユカ本人に最初に宿った魂は1、そこから徐々に再生して、ユカ2が作られた時には3程度。
そしてコピーして培養されたユカ2の中には2〜3程度でしょうか。
クローンと言っても、本体から魂をもぎ取って使うんじゃありませんからね…。
体に付着していた魂の欠片が再生していったという事で。


12.竜の抜け殻様
ドム将軍のいい事か…もう出世しようにも、事実上の最高位ですしねぇ。
やはりアザリン様から、褒美の剣とか…?

大河の戦闘スタイル、まだ頭の中で纏まりません。
どうしたものか…いっそARMS(一部版)みたいに…。


13.ソティ=ラス様
やはりアルターのような使い方が基本でしょうか?
カズマをやらせるなら、拳がでっかくなる連携をやらせたいです。
…ギャランドゥ…脛毛って意味なんだよな…。

同期合体を使い続けると、戦力バランスが…。


14&15.イスピン様
透と大河のシンクロ…どっちかと言うと、イメージ的には昔読んだ『電脳天使』なる小説のキャラが浮かびます。

うむ、きっと未亜がおしとやかになったら、大河が泣いて喜ぶでしょう!
ウブな未亜を、また一から調○できる、と!
今度はM体質にせねば…同じ轍を踏むと意味が無いですからね。


16.玖幻麒様
意図してやった訳ではありませんが、そういう伏線にも使えますね…。
いや、ここは一つ魔物に触れてもらって、夢の触手プレイを…。

出来るでしょうね、熟練すれば。
今はまだ変化に時間が掛かりすぎますが…。

そういえば芋虫神を呼び出した事もありましたねぇw
あの頃はネタが山ほどあってよかったなぁ…と黄昏てみます。


17.JUDO様
カギ爪、ロケットパンチ、サイコガン等々、どう使おうか迷っています。
デモはこれから聞くところです…見ました!
いい曲…!
未亜、ミュリエル、リリィ…エッチシーンだといいなーと思っていたので、ちょっと残念。
クレアまで戦うんですか!?
確かにPS2版ではSDキャラになってましたから、作っていてもおかしくないですが…。
いや、分身の方は副題になっている『二人の王女』の方かも。
或いは地球の方にソックリさんが居たとか。


18.悪い夢の夜様
いやぁ、その場のノリで何となく出しただけだったんですがw
何故建築士なのかとか、名前が鳥なのは何でだとか、一体ナニを考えて…いや、書いてる時は何か関係がある事を考えていたような。

ワタシ、無道キライですねん。
同じ狂気系キャラとしても、ゲンハの方が何ぼかマシな気がして…。
純粋に書き難いというのもあるのですが。

エレカの死については、暫くはノータッチになると思います。
言ってはなんですが、それどころではない状況ですから…。
超昂天使はいつかやりますよ?
大河じゃありませんが…。
変態マスクは……や、やったら大河が本気でハマってしまうのではないかという恐怖がヒシヒシと…(汗)
でもゲッターはいいなー!


19.なな月様
恋姫無双、意外と長いでしょうw
DRAGONSISTERS…一騎当千みたいな感じでしょうか?
でもあれは現代だしな、一応…。

何か電波が来たと思うのですが…我ながら妙なキャラを出してしまったと思います。
…続きの電波で、アニメの中身とか出ないかなぁ。

召還器って、使用条件が今一ハッキリしてませんからね。
仮に召還器の意思がOKだと思えば、誰でも使えるのでは?と思いました。

いつかやりますよ、サ イ コ ガ ン。
当然曲げるのも有りw

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