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▽レス始

「幻想砕きの剣 13-5(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2007-02-14 22:42/2007-02-14 23:23)
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 大河を恨めしげに見る視線が一つ。
 その視線の主は、四方八方からの強烈な視線に胃が焼け爛れるような思いを味わっていた。
 言うまでもなく、セルビウム・ボルトである。

 放送を聴いて超特急で駆けつけて来たものの、天幕に入ってみれば救世主クラスが猛烈な勢いで睨みつけてくるし、鉄の学園長殿はそれに輪をかけて凄まじいプレッシャーを与えてくるし、極め付けにシア・ハスが『なんで生きてんだコノヤロウ』と言わんばかりの態度である。
 そんな目を向けられても仕方ないのは、セル自身自覚している。
 アルディアの為だとか何とか理由を付けた所で、結局セルは人類の裏切り者にしか思われまい。
 おまけに大河が重症を負ったのは、セルを庇ったためと来ている。
 この場で速攻殺されないのが不思議なくらいだ。

 そんなギスギスした空気の中、何もかもをお構いなしにタイラーは言った。


「…ドム君も皆も…そんなに殺気立つ事無いじゃないか。
 この際だし、水に流す…とは言わないけど、大河君の話の後にしないかい?」


「……しかしタイラー将軍、そうは言っても信賞必罰は」


「軍の常識なんだろうけど、大河君が言うにはセル君の協力が必要なんだろ?
 今から罰する事も出来ないって。
 それに、ドム君もバルサローム君もシア・ハス君も、彼の気持ちは解るんじゃないかな?」


「な、どういう意味だタイラー!?」


「もしアザリンちゃんが…アルディアちゃんと同じ立場なってたら、君達“破滅”に付くでしょ?」


 うぐ、と言葉に詰まるホワイトカーパス集。
 あくまでもしも、の話だが…主君を護る為なら、人類を敵に回すくらいはやってのけるかもしれない。
 まぁ、アザリンは“破滅”に寝返るくらいなら最後の一瞬まで足掻き抜いて死ぬだろうし、仮に“破滅”に人質として囚われたとしても、何とかしてドム達に『朕に構わず殲滅しろ』と伝えるだろう。
 それがアザリンからの命令なら、例えそれによってアザリンの命が失われようともそれを実行する。
 それがホワイトカーパス軍の強さの根幹である。


「救世主クラスの皆も…そういう訳だから、今は勘弁してくれないかな?」


 ふわりと笑いかけられ、少々毒気が抜かれてしまう。
 セルが生きていてくれた事は嬉しいが、“破滅”に加担した事は…。
 そんな複雑な心境だった救世主クラスだが、この場で騒ぎ出すような事はしない。
 何だかんだ言ってもセルは友人だし、折角生きていたのだから、処罰として死刑が言い渡されたりした日には…。
 取りあえずセルの処罰は後回しという事で、救世主クラスは矛を引いた。
 ミュリエルはまだ納得してないが、それでもタイラーを相手に我を貫き通す程重要な事ではない。

 全員を見回して、取りあえず場が収まった事を確認する大河。


「…納得したみたいだな。
 それじゃ、聖銃についての話に移らせてもらいます」


 大河に視線が集中する。
 少し考え、大河は口を開いた。

「アレはアヴァターとは全く異質の文明によって作られた、俺が知る中では間違いなく最強の部類に入る個人兵器です。
 歴史を変える為の銃、或いは運命を呪い逆らうモノと言われていますが、その意味は不明。
 詳しい事は俺も殆ど知りませんが、何でも80万年以上前に作られ、今尚完動しているとか。
 作られてからの時間を鑑みると、恐らく受けた傷を自己修復する事も出来るでしょう。
 その使い手は世界移動存在…つまり俺達のように異世界からやって来た存在であり、聖銃自身に使い手を選ぶ能力があるとか、或いは必然によって選ばれるとか色々と話は聞いてますが、その辺りの詳細は不明です。
 能力としては、自分の存在する世界の技術を吸収し、自己を強化する機能を持ちます。
 更に聖銃は、その使い手と一体化して、時にはその体を聖銃自身で管理するそうです。
 また、聖銃は様々な機能を持っていますが、その一つに『世界移動存在を消去する』という機能があります。
 確かこれは…ええと、細かい理屈はともかくとして、文字通り存在を消去する事が出来ます。
 過去からも、現在からも、当然未来からも。
 例えば世界移動存在A…Aは誤解を受けそうだな…Xがこの世界にやって来て、人を10人殺して1年過ごしたとします。
 それから聖銃を使って、Xは消去されました。
 そうすると、X最初から居なかった事になり、Xが殺した10人の人間は何事も無かったかのように生きている…。
 と、まぁこのような機能があるとか無いとか」


 一旦言葉を切る大河。
 ゆっくり周囲を見回す。

 大河の話に付いて来ているのかいないのか。
 正直言って、大河の言う事が信じられないのだろう。
 80万年前だとか、歴史を改変するとか…。
 そんな事が可能なのか?

 …ナナシは信じる信じない以前に、サッパリ理解できていないようだが。


「…と言っても、どうもアレは真っ当な聖銃では無いようですが…」

「…はにゃ? どーいう事ですの?」

「聖銃にしては、威力が小さすぎる。
 と言っても、俺も見た事があるのは一回だけだから何とも言えないが…あの時の聖銃の一撃は、あの程度の閃光じゃなかった。
 多分、アレは聖銃の試作品か失敗作、或いはレプリカ…。
 何でこんな所にあんな代物が転がってんだか…」


 そこが本当に解らない。
 どこぞの遺跡から発掘されたと言っていたが…。


「多分、歴史を改変する機能も無いと思う。
 恐らく搭載されている機能は、使い手との融合と自己修復。
 あの閃光はついでに付けられたんだろ。
 パッと見た感じじゃ、融合の方も上手く行っているとは言い難い。
 あのデビルガンダムモドキ、よく思い出すとあっちこっちに不自然な場所があった。
 アレからアルディアちゃんを引き剥がすのも、不可能では無い筈…」


 と思いたい。
 大河の希望的観測を聞き、セルが正気に戻った。


「引き剥がすって、そりゃどうすればいいんだ!?」


「理屈の上では簡単だ。
 あのデカブツに取り込まれてるアルディアちゃんを、文字通り引き剥がす。
 ただ、聖銃の融合機能が上手く働いてないって事は、アルディアちゃんともどんな融合の仕方をしているのか解らないって事だ。
 聖銃を付けてた腕を切り捨てるくらいは、覚悟しといた方がいい」


 もし全身が聖銃に取り込まれていたら、どうしたものか。
 聖銃の機能を停止させればいいのだが、あのデカブツとやり合うのは骨だ。
 あと、後遺症とか色々と考える事はあるが…その辺は未知数としか言えない。
 セルとアルディアの犯罪のカホリがする愛のパワーに賭けるしかあるまい。


 場合によっては四肢を切り落とす必要がある、と言われたセルの顔が激しく歪む。
 それはそうだろう、助け出す為とは言え、護ると誓った少女をこの手で害さなければならない。
 切り捨てた部分は後でルビナス辺りにどうにかしてもらえばいいとして。
 それでも躊躇いは捨てられるものではない。


 俯いてしまったセルを他所に、ドムが懐から幻影石を取り出した。


「大河、これを見ろ」

「? 何ですかこりゃ?」

「兵の一人が撮影した、バケモノの映像だ。
 お前が“破滅”の将と戦っていた辺りから出現したらしい」

「何時?」

「撤退を始めて、暫くしてからだな。
 とにかく見てくれ。
 多分、お前の言う聖銃とやらと何かしら関係がある」


 ふむ、と大河は考える。
 大河が戦っていた辺りから出現したとすれば、まず一番に思い浮かぶ要素は八虐無道。
 完全に消し飛ばしたと思ったが、何かカケラでも残っていたのかもしれない。


(…考えてみりゃ、あの異常なまでの再生能力とか硬化能力とかは聖銃の影響か?
 聖銃の因子か何かを奴らに埋め込んで、それでパワーアップとか…。
 カエデが言ってたが、無道は戦闘中に時々意識が飛んでいたらしい。
 それは埋め込まれた因子が適合せずに、生命活動に何か異常を来たしていたのかも…。
 って事は、あの自虐ナルシスト仮面の精神的なアレさもその影響…。
 多分、あの野郎は埋め込まれるのを拒否したんだろうな…自分の自称・ウツクシイ体に不純物が混ざるとか言って。
 とすると…聖銃本体の暴走に反応して、自分達を再構築して本体に合流しに向かったのかも。
 文字通り融合するか、或いは別の機体として歩哨を務めるかは解らんが)


 その場で見える要素だけを繋ぎ合わせたのだが、大正解である。
 しかし、そうなるとますますデビルガンダムである。
 自己進化・自己再生・自己増殖の3大理論を見事にクリアーしている。
 聖銃の因子を取り出して埋め込んだのは人力によるものだろうから、自己増殖とは言わないかもしれないが。


 それはともかく、ドムは幻影石を操作して、記録されている画像を再生する。
 厄介な敵が出現した事を聞いて、ドムの手の中に注目が集まっていた。


「再生…」


 ドムがスイッチを入れる。
 空中に画像が投影され、徐々に形を成し始める。
 高まる緊張。
 大河から聞いた話が事実なら、ここに記録されているのはとんでもない怪物だろう。
 そして…。


『三歩歩けば全て忘れるトリ頭!
 どんな建物もドリルで改造、美少女建築士インコ!
 でもどんな改造をしようとしてたのか、一日も経たず忘れちゃうから失敗ばかりなの。
 だけど私はくじけない、手抜き工事は許さない!
 建築法に変わってオシオキよッ!』


 …痛い沈黙が舞い降りた。
 三点リードもお呼びで無いとばかりの沈黙だ。

 ドムは見事に硬直している。
 相当予想外だったのだろう。
 画像の中では、右手にドリルを付け、微妙に露出度が高い萌えキャラが『銀の螺旋に想いを込めて、回れ私の浪漫回路ドリ!』などと叫んでいる。
 ハイニーソと絶対領域が眩しい。


「…いい趣味してますな」


「…ハッ!?」


 自分にアレな注目が集まっているのに気付くドム。
 よくよくこの幻影石はドムの物ではないのだが、ドムが取り出した以上、他人から見ればドムの所有物に見えるだろう。
 そしてその所有物には、どう見ても少女趣味と言うか特定層の男性を標的にしたキャラクターが、やたらクルクル回転しながら右手のごっついドリルを振り回している。
 あまつさえ語尾にドリ付きだ。
 これがドリル語か。


「ちょ、ちょっと待てお前ら!
 これは私の物ではなく、兵から借り受けた物だぞ!?」


「そうですか…。
 確かにレンタルビデオ屋とかで、大の大人が借りるには少し厳しいアニメですものね…。
 しかし、だからと言って兵に借りるなんて…」


「流石に威厳とかに問題がありますね…」


「ドム君…僕も聊かその方面には理解がある。
 見たいのだったら、幾らか貸してあげるよ?」


「いやだからだな!」


「心配しないでくださいドム将軍。
 俺もこういうアニメは嫌いじゃありません。
 ついでに言うと、王都の聖地には強力な味方が大勢居ます。
 恥ずかしがらずに、ドロップアウトしましょう」


「将軍はドリルと萌えキャラのどっちが好きなのでござるか?
 それを踏まえて、今後の付き合い方を見直そうと思うのでござるが」


「どっちかと言うとドリルだが、人の話を聞けと言うのに!」

「そう、ドリルですの…。
 ナナシの右手にはドリルが内蔵されてるけど、ナナシは身も心もダーリンのものですの。
 だから他を探してくださいですの」

「萌えキャラよりもドリルか…。
 気持ちは解らなくも無いけど…まさか薔薇?」


「ええい、本気で張り倒すぞ貴様らーーーー!!」


 一方、こちらはリコ・イム・Wユカ。
 ユカ2の魂の補強も無事完了し、荒れ狂っていたユカも体力の限界が来たのか動かなくなっている。
 苦痛は幾らか和らいだらしく、お陰で気絶できる程度の苦痛にはなったらしい。
 今は苦悶の表情を浮かべながらも、体中から力を抜いて倒れていた。
 それでも鎖には強烈な魔力が送られ続けている。


「…で、どう思う?」


「どう…と言われても……」


 イムニティからの問いかけに、リコは本気で困惑する。
 ユカとユカ2、二人を見比べて首を捻った。

 二人が困惑している原因。
 それはイムニティがユカの魂を削り、それをユカ2に埋め込もうとした際に感じた違和感に起因している。
 最初は気のせいかと思った。
 しかし、イムニティがその波動を間違える筈が無い。


「どうして…ユカさんの魂の波動が、ご主人様の魂の波動と全く同一なんです…?」


「私が聞いてるんじゃない」


 つまり、二人が混乱している理由はこれである。
 魂の波動は十人十色千差万別、全く同じ物などどれ一つとしてない。
 どっかの歌詞ではないが、元々特別なオンリーワンなのである。
 双子などなら、時折似通った魂が宿る事もあるが…それとて、根本は全くの別物。

 しかし…ユカの魂の波動は、イムニティのマスターである大河と全く同じ波動だったのである。
 と言っても、先日までの大河の話だ。
 今の大河の魂は、相変わらず半分くらいが奇妙に変動し続けている。

 何れにせよ、こんな事はあり得ない。
 魂の波動は生まれてからは一切変わる事は無い…強弱くらいならあるが。
 だから後天的に大河と同じ波動になった可能性は無い。
 一体何故?


「…まぁ、推測くらいなら出来ますが…どうにも穴が残りますね」


「私も同じ考えよ。
 しかし…これ、どう考えても天文学的確率よね?
 可能性は文字通り0と言っても過言では無い。
 オーナインシステムなんて目じゃないわ」


「…やはり、私達が知らない何かがあると考えるのが自然でしょう。
 恐らくはご主人様を中心として…。
 しかし、これってアレじゃないですか?
 ご主人様とユカさん、同期連携できるのでは」


「出来ない事はないでしょうけど…後遺症がね〜」


 大河とユカの魂を同調させれば、大河とトレイター並みの破壊力は出せるだろう。
 しかし、これだけ魂の波動が似通っている…或いは全く同じであると、同調が深くなりすぎる。
 ヘタをすると、お互いの人格が交じり合って廃人になりかねない。
 正直、止めておいた方が無難である。
 まぁ、大河の魂の半分くらいが変動し続けている今、そこまで深く同調するのは難しいだろうが…。


「…ま、考えても解らない事を考えるのは後にして。
 今の内に、ユカの体を動かなくしちゃいましょう。
 また暴れだされたら、私達じゃまず止められないわよ」


「そうですね。
 治療はそれからですか」


 いかにユカと言えど、手足の腱が切れている状態では動かせないし、脳からの信号が届かなければ筋肉はピクリともしない。
 本当に切ったりする訳にはいかないので、魔力の針を打ち込んで体を麻痺させる。
 ユカの暴走も大分治まってきたので、正確に針を打ち込めた。

 その後、地面を掻き毟って割れた爪や、鎖に擦れて裂けた肌など、細かい治療もやっておく。
 それにしても、物凄い暴れっぷりだった。
 イムニティを千年封じ続けた鎖に、ヒビが入っている。
 のたうち回った地面は、小さなクレーターが幾つも穿たれ、ユカを動けなくさせるための魔法陣も殆ど効力が切れている。
 もうちょっと派手に暴れられていたら、本気で危なかった。


「結界ももうちょっと強力なのを敷きなおします。
 あちらの様子はどうですか?」


「特に拒絶反応も無し。
 魂も順調に馴染んでいるわ。
 念の為に拘束術式を使っておいたから、万が一暴れだしてもすぐ大人しくさせられるわ」


 ユカと大河たっての頼みで助けたものの、ユカ2に対して警戒心を持っているのは変わってない。
 一度助けられたからと言って、憎悪は簡単には消えはしない。


「さて…取りあえず、現状で出来る事は全部やったわね。
 マスター達の話を聞きに行く?」


「そういう訳にも行かないでしょう。
 やはりユカさんが心配です。
 少なくともどちらか一人は残って、二人を見張っていないと」


 ユカ2が起き出して、ユカが目を覚まさない内に殺害、なんてことになったら目も当てられない。
 或いは、ユカがまた暴れだして、その余波を喰ってユカ2が死んだら話にもならない。


「…確か、この子ってユカと互角に戦ったのよね…。
 そんなのを相手に、ユカを庇いながら戦う自身ある?」


「…正直言って、キツいですね。
 やはり二人で残るしかありませんか…」


 俄かに二人の空気が険悪になる。
 一応、主命という事で協力していた二人だが…相変わらず、仲がいいとは言えない。
 ちょっと油断すれば、即座に相性の悪さが露呈する。

 が、流石にここでドンパチやる訳にはいかない。
 ここには重症人が2人居て、その重症人は何かの拍子にリコイムに致命傷を与える事は不可能ではないのだ。
 ヘタに暴れて結界が壊れてしまったりユカが暴れだしたりした日には…。


「「……フン」」


 結局、顔を合わせないようにしてリコがユカを、イムがユカ2を見張っていた。


 さて、再び大河達。
 ドム将軍にアレな嫌疑がかかったが、必死の弁解及び物理的破壊力により、何とかドムに対する誤解は解く事が出来た。
 ドムがバルサロームとシア・ハス、及び幻影石の持ち主に対して減給を決定したのは言うまでも無い。

 あと、再び幻影石を作動させて目的の画像を探す最中、何やら熱血シーンを再生してしまい大河が絶叫したり、何やら洒落にならない贈賄現場が映し出されたりして大騒ぎになりかけたが、そこはスルー。
 紆余曲折あったが、無事に目的のシーンを再生する事に成功した。


 再生された映像には、既存の魔物のどれにも似ていない怪物が産まれ、動き出す様を見せ付けていた。
 それを難しい目で見つめる全員。
 特にカエデの視線は厳しかった。
 怪物の一部に使われているのが、大河が殺した筈の八虐無道が使っていた剣だったからだ。
 無道が死んだ場所から現れた事と言い、どう考えても無関係ではない。


「…どうだ?」


「…どうもこうも…やっぱり聖銃の一部を人体に合成させたみたいです。
 八虐無道は以前の遠征でカエデが仕留めたそうですから、ロベリア・リードがネクロマンサーで復活させる際に何か埋め込んだんでしょう。
 それが無道の強力な自己再生能力の元になり、消し飛ばされた後も残った一部が、聖銃からの指令を受けて復活した…と」


「じゃあ、彼は既に死んでいるのかい?」


「…難しい所ですね…。
 ルビナス、どう思う?」


 大河に問いを振られて、頭の中で得られた情報を整理していたルビナスはゆっくり口を動かす。
 正直、断言できる程の根拠は無いのだが…。


「そうね…八虐無道本人は、既に死んでいると思っていいんじゃないかしら。
 コイツの動き、既に知性ってモノが殆ど感じられないわ。
 本能か、或いはごくシンプルな指令を受けて、それを邪魔するモノを排除する…。
 そんな機械みたいな存在みたい。
 人類軍を追撃せずに、聖銃とやらがある方向へ向かった所を見ると…どうやら本体に合流する事が優先事項みたいね。
 それはともかく、予め刷り込まれていたプログラムに沿って行動するだけ…体が素体として使用されてるだけで、意識も無いでしょう。
 生命反応はあるかもしれないけど、死んでいるのと同じね」


「ナルホド」


 納得するタイラーを他所に、思案顔のヤマモト。


「…“破滅”の将の一人には、八虐無道と同じように異常な回復力を持った将が居ましたな。
 当真大河と戦った、仮面の男…。
 やはり彼も?」


「恐らく。
 ダーリンと戦ってる時に、閃光が発射された直後に様子が変わったのよね?
 多分、その時から聖銃に意識が向いてたのよ」


「と言う事は、このデカブツみたいなのが少なくとももう一体居ると思った方がいいか…」


 ベリオは複雑な表情をしているが、各々考え事に沈んでいて誰も気付かなかった。
 正直な話、ベリオにとってはありがたいようなありがたくないような。
 兄が…今となってはアレを兄と呼ぶのは抵抗があるが…怪物に変わってしまったのは正直悲しい。
 幾多の命を奪ったシェザルの末路としては、少々意外だが自業自得と言えるだろう。
 今となっては、あのナルシスト仮面に甘えたいなど、心の底でもカケラたりとも思わないが…。


(…まぁ、何ですね。
 あの怪物になったまま死んで行けば、私達の兄だと気付かれる事もないでしょう。)

(そうだね。
 悪いけど、このまま死んでもらおう)


 生涯モノの恥が上手く闇の中に葬れそうなので、内心でニヤリと笑いそうになって自粛した。
 流石に不謹慎だろう。


「あの怪物、やはり再生能力はそのままか、或いはそれ以上と考えた方がよさそうですね」


「でしょうな。
 しかし、あの巨体で再生するとなると…」


 巨大な怪物を相手にする場合、余程強烈な攻撃力を持っていない限り末端部分から徐々に削っていくしかない。
 或いは急所を狙って一突きか。
 しかし、アレに急所なぞあるのだろうか?
 誕生シーンを見た所、どうやら無機物を寄せ集めて体を作ったらしい。
 となると、生物や機械ではなく、性質はスライムに近いと思われる。
 何処を削り取っても、コアとなる部分を破壊しなければ、周囲の物質を取り込んで幾らでも再生が効く。
 コアを破壊しようにも、恐らくは無道の体に埋め込まれていたであろう極小の因子。
 探り当てるのは、満点の星空の中から星座にも組み込まれて無い星を探すより難しい。
 再生が出来るなら、徐々に削っていくのもダメっぽい。


「…聖銃本体を止めたら…あの怪物も止まるかな?」

「お約束と言うヤツですな」

「…微妙な所です。
 本体からの指令が止まって停止するか、それとも停止信号が送られるまで同じ行動を続けるか…。
 ひょっとしたら、最初から本体と融合してしまう可能性も…」


「そっちの方が、幾分気が楽だな…。
 しかし楽観視は禁物か。
 大河、これ以上の情報は持ってないか?」


「…俺が知っているのは、これでほぼ全てです。
 後は意味不明の情報がちらほらと…」


「そうかい…。
 ……これ以上の議論は無駄のようだね。
 ところで大河君、聖銃を…と言うより、アルディアちゃんを止めるのにセル君の協力が必要ってのはどういう意味?
 言っては何だけど、彼女を聖銃から切り離すのは彼じゃなくてもいいのでは?」


 ウグッ、と思わず反論の言葉に詰まる大河。
 実を言うと、あのまま放っておくとセルが洒落にならない処罰を受けそうだった為、半ばハッタリで言ったのだが…。
 暫し視線を彷徨わせる大河。
 この時点で、次に言う事が殆ど出鱈目である事が露呈している。
 それを承知の上で、何か説得力のある言い訳は…。


「ひ、ひょっとしたらアルディアさんの意識とか記憶が多少は残ってて、呼びかけたら何か反応を返すかも…」


「…確かセルビウムごと撃たれかけたと、自分で言っていたが」


「スルドイツッコミ!」


 ヤマモトの冷静な一言に、ムンクの叫びみたいな顔になって悲鳴をあげる大河。
 まぁ、ここまで来たらセルをそう簡単には処刑したりしないだろう。
 そんな事をしようとすれば、救世主クラスから猛反発が来る。


「…じゃ、俺…私は出番無しに?
 申し訳ありませんが、命令を無視してでも行く覚悟です」


「そりゃまぁ、セル君の恋人を助けるんだから、セル君が主役なのが筋ってモノよね」


 キッパリ恋人と断言されても、もうセルは動じない。
 どうやら悟りを開いたようだ。
 ええじゃないかええじゃないか、ロリだってええじゃないか!


「しかし、正直な話セル殿は…少々力不足ではござらんか?
 如何に体が頑丈と言えど、戦闘能力では傭兵のルーキーでござろう」


「いいえ、この際大して変わりありません。
 何れにせよあの閃光を潜り抜け接近するまでは、個人戦闘力など関係ない…。
 あちらも、こちらの戦闘力など一々識別して撃っているのではないでしょう。
 少なくとも囮にはなります」


「でも、それこそセルちゃんじゃなくてもいいですの」


 遠慮もクソも無い発言に沈むセル。
 まぁまぁ、と大河が肩を叩いて慰めた。


「…では、セルビウムは普通の部隊に組み込む…訳にも行きませぬな。
 一応死んだ事になっているのだし」


 融通が利かなくて申し訳ないが、それが軍というものだ。
 今、裏切り者であるセルが処罰されてないのは、大河がこの非常事態を収めるのに必要だと進言し、尚且つ彼の生存が気付かれていない為である。
 ヘタに生存者扱いすれば、相応の処置を取らなければいけなくなる。


「いや…俺だって、そこそこ戦えると…」


「寝言は寝て言いなさい。
 召還器が無いから戦えないとは言わないけど、アナタはルーキーだって言ったでしょう。
 アレに接近してどうにかするとなると、相当な機動力、回避力が必要とされる。
 そのどちらも「使えるぞ」…へ?
 大河? 何?」


 リリィの説教…内心はセルに対する八つ当たりが入っている…を、大河が遮った。
 大河がセルに目を向けると、何を言いたいのか理解したセルがアルゾールを取り出す。


「それは?」


「アルゾール。
 召還器です」


『『『……何ィィィ!?』』』


 全員揃って唖然としている。
 そりゃーそうだろう、つい先日まで単なる傭兵科ルーキーだった小僧が、いきなり召還器持ちにランクアップだ。
 特にミュリエルは驚きが大きい。
 監視すべき救世主となる可能性を持った人物が、自分の学園内に居て全く気付かなかったのだから。


「ちょ、リコ! リコちゃん!
 これどー言う事なの!?
 セル君が救世主候補!?」

「落ち着きなさい未亜さん、リコはここには居ません!
 ああっ、でもセル君が救世主候補!?
 格上げにも程があるでしょう!?」

「どういう事だセルビウム!
 何故お前が召還器を持っている!」

「いやそれがその」

「ちょ、落ち着け、落ち着けって!」


 喧々囂々。
 相変わらず会議は滞りっぱなしである。


 数分経過


「…つまり、そのジュウケイとか言う老人からアルゾールを預けられた、と?」


「はい。
 どこぞの遺跡に、聖銃と一緒に転がっていたそうです。
 それを…ええと、俺が何故使えるかは…理屈はよく解りませんが、救世主候補以外でも召還器を使う事が出来る方法はあるそうです。
 ただ、何やら膨大なエネルギーが必要な上、特定の場所から離れればほぼ無条件で使えなくなってしまうとか」


「…それにしちゃ、お前は俺と戦った時に使ってたよな?
 あの場所が特定の場所って事か?」


「いや、アルゾールはエネルギーを溜め込む性質を持ってるから…。
 アルゾールそのものに必要なエネルギーを溜め込んで、それを徐々に消費しながら使っていたんだ。
 多分、あと…早ければ3日、遅くても5日くらいで使えなくなってしまう」


 3日。
 微妙な数字である。
 それ以内にあのデビルガンダムをどうにかしたいものだが、対策が立てられなければ…。


「待て、それは何か、他にも“破滅”の軍は召還器を手にしていると言う事か?」


「…確か、もう一本あるとか無いとか…。
 ただ、当分使う事は出来ないと思います。
 何を考えているのか、召還器を使うのに必要なエネルギーの殆どを俺のアルゾールに注ぎ込んでいたので、もう一方の召還器は当分出てこないと思います。
 当分使う必要は無いと言ってましたから」


「それでももう一つあるのには変わり無いか…」


 加えて言うなら、召還器を使うのに必要なエネルギーを自前で溜め込む方法を持っている、と言う事でもある。
 ついでに言うと、何処で使われるかも大体予想できる。
 特定の場所でしか使用できない…とは、必要とされるエネルギーが大きすぎて、使う端から補充しなければならない…と言う事なのだろう。
 遊撃に使用できたのは、エネルギーを溜め込むアルゾールならではと言う事か。
 使用される場面があるとすれば、“破滅”軍の本拠地辺りの拠点防衛に使用される程度か。


「…待て、その…アルゾール?の能力は、エネルギーを吸収し、内側に溜め込む事なんだな?」


「はい。
 それに特化しているらしく、トレイターとかのような身体能力の強化はあまり…。
 使い手の意思で力を流して強化する事は出来るのですが、コストパフォーマンスが悪すぎます」


「…と言う事は、あの閃光も上手くやれば…」


 言われてセルは考える。
 先程閃光に襲われていた時には、破壊力が大きすぎて不可能だと断じた。
 しかし、それはアルゾールの中のエネルギー容量が限界に近かったからでもある。
 アルゾールの中のエネルギーを空っぽに近くすれば、或いは一撃くらいは…?
 一撃を受けて無事だったら、即座に吸収したエネルギーを放出して、次の攻撃に備える。
 これを繰り返せば、あの閃光を無効化できるかもしれない。
 しかし、それではアルゾールの使用可能時間が極端に短くなってしまう。


「……博打もいい所でござるな…。
 しかし、これが可能だとすれば、アルディア殿の元へ馳せ参じる事が出来る確率は、大幅に上がるでござる。
 セルど……完全にやる気になってるでござるな…」


 話を聞いて、セルの背中に炎が燃え盛っている。
 あまつさえ、同じく背中に『アルディアさん命』と刻印されているような気さえした。
 こうなったらもう止まらない。
 例えドム達が却下したとしても、彼は独断専行でアルディアの元に向かうだろう。


「…どうするんです?」


「セルビウムを矢面に立たせる事には特に問題は無い。
 セルビウムと…更に機動力を重視した騎兵隊を使って撹乱、接近して、どうにかしてアルディアとやらを引きずり出す。
 これしかあるまい」


「そうなると、何処を狙えばいいのかが問題になるね。
 ヘタな処に攻撃しても、ロクな結果になりそうにないし…」


 結論は出た。
 セルを筆頭として、あの閃光を避けながら接近、そしてアルディアを助ける又は機能停止させる。
 後は配置と撹乱する方法の問題だ。

 ドムとタイラーが腰を上げた。


「それじゃ、僕達は聖銃とやらを観測している兵の処に行ってくる。
 外見からだけでも、そこそこ情報は得られるだろうしね」


「お前達は、ユカ殿の様子を見てくるなり休息をとるなり、好きにするがいい。
 作戦決行は、おそらく明後日だ。
 明日一日、敵の分析に努めたいからな」


 かくして、会議は解散となった。
 救世主クラスは、セルの事も気になるがユカの事も気になる。
 セルの見張りは外で待っていたUMAこと汁婆に任せ、様子を見に行く事にした。
 その後ろを見送って、セルは内心溜息をつく。


(解かっちゃいた事だけどな…。
 やっぱり壁が出来るのは、辛い…)


 “破滅”の軍に付いた事を差し引いても、今のセルには負い目がある。
 大河に重症を負わせてしまった事。
 あのタイミングでは、例えセルを庇わなくても避けきれなかったかもしれないが…所詮はIfの話。
 友人が生きていた喜びと、最愛の人が傷を負わされた怒りが混ざり合って、セルとの付き合い方をぎこちなくしているのだろう。
 裏切った時点で覚悟はしていた。
 その覚悟も、所詮は上辺だけの事だったのだろうか、と自分に問いかける。
 しかし…。


「…上辺だけだったとしても…もう行かなきゃどうしようもないんだ」


 後悔しても始まらない。
 反省はするが、このまま進むだけだ。
 他の何を犠牲にしてでも、ともう一度決意を塗り固めようとする。


『やめとけ』


「汁婆…?」


『虚勢で塗り固めた覚悟を持つくらいなら、覚悟なんぞ無くていいから最悪の事態を想定しとけ』


「…すまん」


 気負いすぎだ、と言われた気がした。
 それに、同じ過ちを繰り返そうとしていた。
 アルディアの為に全てを捨てると決めた事。
 それ自体は、セルは正しくもないが間違った事ではないと思っている。
 ただ、それは安易すぎる選択だったのかもしれない。
 あの状況でアルディアを連れて逃げるのは不可能だった。
 しかし、虎視眈々とチャンスを伺う事も出来たろう。
 それこそIfの話だが、こんな事態になる前にアルディアを連れ出せたかもしれない。
 …それを成功させる確率が、雀の涙程でしかないのも事実だが。


「…もう色々考えても仕方ないか。
 とにかくアルディアさんをどうにかするのが先だ。
 そこから先はどうとでもなる。
 いざとなったら…」


『アルディア某を連れて行方を晦ませるなら協力してやる
 どの道、傭兵としての道は絶たれただろうがな』


「ああ、わかってる」


 汁婆と共に、人気の無い所を目指して歩くセル。
 一応人に顔を見られないように気を使っていた。

 そのセルの前に、人影が立った。


「ん? あ…」


「……ちょっと顔かしてくれるかしら」


 人影は、赤い髪を靡かせる救世主候補、リリィ・シアフィールド。
 殺気は篭ってないものの、厳しい表情でセルを睨み付けている。


「…ここじゃまずいんで、人が居ない所でいいか?」


「構わないわ。
 別に危害を加えるつもりは無いから安心しなさい」


「…ああ」


 ふと、仮にリリィが裏切りの制裁を加えようとしてきたらどうするのか、と考える。
 単なる傭兵の卵だった時には殆ど歯が立たなかっただろうが、今は召還器がある。
 その力を使いこなす事こそ出来ないが、それでもそこそこ食い付けるだろう。


(…召還器持ちと、普通の傭兵…。
 一度戦ってみたいとは思ってたんだよな…。
 今は普通じゃないけど)


 頭を振って、物騒な考えを振り払う。
 殺気が漏れて、敵対の意思と取られたら堪らない。


『俺はどうする?』


「居てくれて構わないわ」


「ちなみにユカさんの様子は?」


「大河達が見に行った。
 私も用を済ませたら、すぐに戻るわ。
 …何だかややこしい事になってるみたいだけど…ね」


 それだけ言うと、リリィは踵を返す。


「何処に行くんだ?」


「人気の無い所と言ったのはアンタでしょう。
 空いてる天幕見つけたから、そこを使うわよ」


「…わかった」


 どうやら制裁を加えるつもりは本当に無いらしい。
 天幕が空いているとは言え、周囲には人が多いのだ。
 そんな所で暴れたら、すぐに人が集まってくる。


 暫し歩く。
 駐屯地の中では、怪我人が多く横たわっていた。
 これらはアルディアの砲撃で受けた傷なのか、あるいは魔物から受けた傷なのか。
 どちらにせよ、無傷の戦力は随分少なくなった。
 これでデビルガンダムにどれだけ太刀打ちできるか…。


「…付いたわ。
 さっさと来なさい」


「ああ…」


 周囲に自分を知っている兵が居ないのを確認し、セルは天幕に入る。
 天幕の中には、得体の知れない金属製の箱が幾つも並んでいる。
 セルには見覚えの無い物だ。


「何だこりゃ?
 なんか動いてるぞ」


「ああ、それ機構兵団が使ってるルビナス製の機械よ」


「機構…?」


「…そう言えば、アンタ見た事無かったわね。
 ま、そんな事はどうでもいいわ。
 ユカの事も気になるし、手早く話してもらうわよ」


 天幕のカーテンを閉じ、外からの声と内側からの声を密封する。
 魔法で軽い光を生み出した。


「何を聞きたいんだ?
 “破滅”の軍の内情とかは、あんまり知らないんだが…」


 セルの問いかけに、リリィは少し躊躇うように口をモゴモゴさせた。
 しかしその目は、真っ直ぐにセルを見据えている。
 逡巡を振り払うように首を振ると、リリィは意を決して口を開いた。


「…エレカの事よ。
 知っている限りの事、話してもらうからね」


「エレカ…ああ、アルディアさんのクローンの一人か…」


 そう言われても、あまり詳しい事はセルも知らない。
 そういう名前で活動していたクローンが一人居た、という事と、どの辺りで死んだか、くらいだ。
 他の事は、既に粗方話してしまったし…。


「…あんまり詳しい事は知らないぞ」


「いいから話せ」


「イエッサ」


 目が据わっている。
 そんなに彼女の事が気になるのだろうか。


 セルは、自分が知っている限りの事、エレカに関わっているかもしれない事を、記憶の底から総ざらいする。
 結果出てきた事を一つ一つ報告した。

 彼女がどんな記憶を植え付けられていたのか。
 リリィ達と接触した後、どこに逃げたのか。
 そして指令を負え、やる事が無くなった彼女がどんな風に生きたか。
 どんな風に死んだか。

 リリィはそれを、じっと聞き入っていた。


 さて、ユカの方だが…こちらもこちらで少々面倒な事になっているようだ。
 ユカとユカ2は静かに眠っている。
 リコイムが打ち込んだ麻酔用の魔力針が効を奏したのか、寝息も正しい。
 その隣では、リコが二人を看病していた。

 イムニティは、救世主クラスに宛がわれた別の天幕で事態を大河達に説明している。
 リコの意識が向くのは、やはり大河とユカの魂の波動が全く同一だった事。
 どういう説明を付ければいいのやら。

 とにかく様態は一段落しているのだが、それはそれで問題が一つ。
 今のユカは、魂が欠けた状態になっている。
 そこに、彼女とそっくりの波動を放つ大河を接触させたらどうなるか。
 正直未知数である。
 勿論何も起こらない可能性だって充分あるのだが。


「…どっちにしろ、ユカさんは当分動けませんね。
 こっちのヒトが、どう出るか…」


 ユカ2に視線を移す。
 魂を削ってまでユカが助けた相手だ。
 仮に敵に回ったとしても、ユカ2を殺すなどという選択肢は選ばせてもらえないだろう。
 どうにかして無力化できるか?
 いや、無力化するのは難しくない。
 このまま麻酔の魔力を切らさずに、拘束し続ければいいだけだ。
 しかしそれでは根本的な解決にならない。
 いつまでも身動き出来ないままにしておく訳には行かないし、彼女の敵意をどうにかしない限り解決した事にはならない。


(…いざとなったら、ご主人様とマスターに誑し込んでもらうしかないんでしょうか…)


 そんな思考まで出てくる辺り、リコは大分テンパっているようだった。
 ユカ2逃げてぇぇーーー!


 イムニティから事情を聞いた大河は困惑顔である。
 ユカと自分の魂に、何か関係があるのだろうか。

 同じく困惑顔のカエデや未亜だが、こちらはちょっと理由が違う。


「…イムちゃん…その、魂の波動が同じって…何か問題でもあるの?」


「そもそも何がおかしいのか、さっぱり理解できないのでござるが」


 この二人だけ、話から置いてけぼりである。
 ナナシは置いてけぼりと言うより、明後日の方向に自分だけ進んでいる。
 具体的に言うとロベリア方面だ。

 イムニティはこれ見よがしに溜息をつき、カエデと未亜に異常を説明する。
 説明を受けても、あまり理解は出来なかったようだが…。

 しばらく考え込んでいたベリオが、ポツリと呟く。


「偶然…にしては出来すぎですよね」


「そうですね。
 同じような魂を持つ存在は居る事は居ますが…大河君と相馬透さんのように…。
 同一存在でもないのに同じ魂を持ち、その一方は異世界から召還された救世主候補、もう一方は人類の規格外とさえ噂された武神。
 あまつさえ、その二人が同じような時期に生まれ、同じように“破滅”と戦い、そして出会う。
 更にお互い満更でもない仲。
 加えて言うなら、ほぼ同時に魂の一部を損失。
 …どう考えても、何かキーとなる存在がある…」


「まぁ…満更でもない仲、ってのは理解できなくもないわ。
 自分によく似た存在が目の前に現れたらどうなるか?
 徹底的に嫌い合うか、或いは無二の親友や恋人となるか…。
 マスターが嫌われたりしなかったのは、単に異性運の問題じゃない?」


 そーいう事なら、一発で納得できるのだが。
 何せ大河の異性運は筋金入りだ。


「と言うことは、あのクローンの子もダーリンと同じような魂を持ってるって事ね」


「そうなるわね。
 ユカの魂を移植しても拒絶反応は出なかったし。
 となると、やっぱりあの子もマスターに懸想する確立は高いか…。
 何か面白くないわね」


 イムニティもヤキモチを妬く事くらいはあるらしい。
 事態をイマイチ理解できてないカエデが問う。


「で、実際何か問題でも?」


「…そう言われると、特に無いんだけどね」


「暫くマスターとユカを会わせなければ、特には…。
 お互い魂が落ち着くまで待てば、別段問題は無いし」


 ただ純粋に理解できないだけだ。
 ロベリアの事を懸想していたナナシが、ふと嘴を突っ込んできた。


「ねーねー、ダーリンとユカちゃん、一緒ですの?」


「ん? ええ、一緒ね」


「どれくらい?」


「どれくらいって…………どれくらい?
 ん? え? どれくらいって、それは……」


「? どうかしましたか、ルビナス」


 いきなり何事かブツブツ呟きだした。
 傍から見ると結構不気味だが、救世主クラスにとっては慣れたものだ。
 ただ、この状態のルビナスに何か話しかけると考え事の邪魔になって、余計なコト言うなと後で実験台にされてしまう。
 全員そそくさと距離を取った。

 暫くすると考えが纏まったのか、ルビナスはイムニティと大河に向き直った。


「ちょっと聞きたいんだけど、ダーリンの魂の砕かれた量と、トレイターの中にある魂の分量ってどれくらい?」


「そうね…マスターの魂の…半分近くは砕かれてるわよ。
 トレイターの中にどれだけあるのかは、私にも解らないわ」


「…どれくらいって言われても…。
 俺はトレイターの構造なんて分からない…あ」


「…つまりそう言う事…?」


 ルビナスの問いに答えようとして、大河も気がついた。
 ミュリエルも勘付いたらしい。

 首を傾げる未亜達。
 代表してベリオが声を上げた。


「あの、当事者だけで納得してないでこちらにも説明が欲しいのですが…」


「いや、気づいてみればとっても簡単な事だったんだけど…。
 私もまだまだね。
 ナナシちゃん、お手柄よ」


「よくわかんないけど褒められたですの〜」


 頭を撫で撫でされて笑うナナシ。
 でもやっぱり事態を理解してない。
 ふとルビナスは疑問に思う。
 彼女と自分のボディの機能として付けた、知識の共有システム。
 ほんとーに正常に機能しているんだろーか。

 頭を振って余計な考えを振り払う。


「ダーリンの魂の全体量を10とするでしょ?
 となると、砕かれて消えた魂は4〜5ね。
 この4〜5は、多分時間逆行して、紆余曲折の果てにトレイターとして構成された。
 時間逆行の理由は…あの聖銃とやらに何かあるか、或いはイムニティちゃんがダーリンを連れて帰ってくる時に、亜空間にでも零れ落ちたか、その辺りでしょ。
 時間逆行してトレイターとして生まれ変わったダーリンの魂がある以上、因果の糸が繋がってしまい、ダーリンの魂が砕かれるのは避けられなかった。
 ここまではいいわね?」


 頷くカエデと未亜。
 この程度なら、何とか理解出来る。
 因果の糸云々は理解できないが、要するに結果が先に決まっていて、好き勝手に動いているつもりでもその結果に沿ってしまう、という事だろう。


「そんで、トレイターの中にある魂は3程度。
 ここ、何かおかしいと思わない?」


「…砕かれた4〜5の魂が、3に減っちゃってる事?」


「その通り。
 考えてみれば、砕かれた魂がずっと一塊になってるとは限らないんだった。
 本体から離れた魂は幾つかの破片になり、そしてその全て…かどうかは知らないけど、殆どが何らかの要因によって時間逆行、そしてトレイターとなる。
 でもトレイターとなったのは、多分一番大きい破片のみ。
 残った小さな欠片は、時間逆行の際に零れ落ち、何処かへ放り出された。
 普通ならそのまま消えていくんだけど…零れ落ちた破片の一つが、どういう経緯かユカちゃんに…多分、生まれる前…精子と卵子が結びついたばかりの、まだ魂が宿っていなかった出来立てホヤホヤの体に宿る。
 そこから何年もの時間をかけ、魂は修復されて、今に至る。
 実際に検証してみない事には仮説の域を出ないけど、大筋は間違ってないと思うわよ
 …ん?
 あれ、でも待てよ、そうなるとトレイターはダーリンの魂3割程度から生成されてるってコトで…。
 他の召還器は、死んだ救世主候補の魂を丸ごと使ってるのに…たった3割でも召還器の形を為すのには充分なの?
 或いは別の何かで…?」


 また自分の世界に入ってしまったルビナスの説明を聞き、イムニティは考え込む。
 なるほど、特に矛盾は見られない。
 砕かれた魂の一部が都合よくユカに入り込むというのも天文学的な確立だが、それも因果の糸が繋がっているのであれば、まぁ納得できなくも無い。
 となると…。


「ユカがマスターに対して抱いているのは、思慕の情と言うよりも…一つに戻りたい、という衝動かしら?
 なるほど、自分のソックリさんじゃなくて元自分か。
 それならマスターにあれだけ執着するのも解るわ。
 初対面の時なんか、迷子の子供がようやく両親を見つけた時みたいに、何も考えずに突撃して抱きつきたかったんじゃない?
 それを一目惚れだと思い込んだとか」


 ブラックパピヨンの脳裏に、何時ぞやW憐の融合シーンが思い浮かぶ。
 二つに分かたれた魂が、一つに戻りたいと願う衝動はかなり強いのだろう。
 それを恋慕と勘違いしたのか。


「…なら、ユカも大河と一つになるのかい?
 こう、フュージョンって感じで」


「無理ね。
 憐ちゃん達の場合は体が無かったから融合できたけど、ダーリンとユカちゃんには体があるし。
 …思いつめて心中なんかしなければいいんだけどね…」


「怖いよ!?」


 戦慄するブラックパピヨン。
 ユカは潔癖症な一面があるし、思いつめると本当にやりかねない。


「まぁ、そこまで追い詰められる前にガス抜きをさせてあげればいいでしょう。
 大河君とベッタリしてるだけでも、そこそこの満足感は得られるでしょうから」


「それでは、ユカ殿は実際には師匠を好いてはおらぬでござるか?」


「そんなコトないでしょ。
 結局好いた惚れたは感覚的なモノだし、ある種の錯覚と解釈できるもん。
 カエデさん、吊り橋効果って知ってる?
 例えそれが恐怖だったとしても、本人が『これは恋からくるドキドキなんだ』と思い込めば、それはその人になっては恋になるの。
 そうなると、相手の挙動が一つ一つクローズアップされて、大抵の場合はその行動を好意的に解釈する。
 そうやってる内に何時の間にか、錯覚じゃない『好き』が芽生えてくる訳よ。
 かく言う私も、思えば最初はお兄ちゃんを保護者として慕ってたような感じだったしね。
 それが高じに高じてこんなブラコンの出来上がり、と」


「…そんなものかしら」


「まぁ、本人にそれを伝えたらどう感じるかは別問題ですが」


 カエデとイムニティは思案顔だ。
 カエデはイマイチ理解できてないだけのようだが、理性を重んじる白の精霊としては、未亜の意見はあまり気分のいい物ではないのかもしれない。

 大河は複雑な表情だ。
 カエデのダイレクトな発言もそうだが、ユカとの関係もどうしたものか。
 大河自身、ユカに対してはかなり好意的である。
 それがユカと同じように、自分の半身を求める衝動かもと言われると…。


「…いや、そうでもないか」


「? 何がですの?」


「いや、ユカが俺を…まぁ、細かい事は抜きにして、好いてくれてるのは魂が砕かれる前からだろ?」


「ええ、ハタから見ていて一目瞭然でしたね。
 砂糖を吐きすぎて、糖分が足りなくなりましたよ」


「エロラブコメってたしなぁ…。
 俺もユカの事は好きだけど、やっぱりそれは魂が砕かれる前からで…。
 俺の好意の源は、少なくとも欠けた自分を求める衝動じゃないな、と思っただけだ。
 あれ?
 なら、どうして今の俺はユカみたいな衝動を持たないんだ?」


 魂が砕けてから、ユカの姿は何度か見た。
 にも関わらず、特別な衝動は感じない。

 その疑問にはイムニティが答えた。


「そりゃ、多分魂の欠けた部分が既に塞がれてるからよ。
 多分、トレイターの中にあった魂を取り込んだんでしょうね。
 …でも、それだけじゃとてもじゃないけど足りない筈…。
 残りの欠損部は、得体の知れない『何か』で補われてるわよ。
 マスター、何か体に変調とか無い?」


「脅かすなよ…。
 特におかしい所は無い。
 しかし、どうすっかな…トレイターを取り込んだって事は、俺の召還器が無くなったって事も同然だし…」


 当面それが問題だ。
 ユカが倒れ大河が武器を無くし、軍は最大の攻撃力を失った事になる。
 戦況はかなり厳しくなるだろう。
 今でさえエライ事になっているというのに。
 自分の手を見つめて、ワキワキ動かす大河。


「お兄ちゃん、要するにトレイターを取り込んだんだよね?
 それって召還器が体の中にあるって事で、恩恵までは消えてないんじゃないの?」


「ああ、実際身体能力強化は失われてない。
 ただ…最近使ってなかったけど、トレイターの持ち味の汎用性がな…。
 目を覚ましてから何度か試したんだが、トレイターの変形が上手くいかないんだ」


 大河は自分の中に溶け込んだ…というより接木されているトレイターの存在を感じ取る。
 元が大河の一部だけあって、既に深く繋がり、あるべき場所に収まっているようだ。
 ユカが見たら嫉妬するかもしれないくらいに。

 しかし、それはそれで問題がある。
 言ってみれば、今の大河は内臓の一部を切り取り、そこに別の内臓を埋め込んでいるようなものだ。
 拒絶反応云々は無いようだが、ここで一つ。
 もしもその埋め込んだ内臓がいきなり形を変えようとしたら、どうなるだろう?
 体の中でグネグネ蠢いて形を変えようとすれば、当然他の臓器に当たり、時には傷を付けてしまう。


「まぁ、ちょっとずつ変化させるなら何とかなるみたいなんだよ。
 こんな風に」


 大河は右手を突き出し、人差し指を立てる。
 そして目を閉じて、自分の中のトレイターに意識を集中した。
 ゆっくりと、トレイターの変形が他の何かに害を与えないように、慎重に変形させていく。
 立てた人差し指から、奇妙な感覚が伝わってきた。
 指が冷たくなり、捩れるような感覚。
 それを少しずつ増幅させていく。


「…こんなもんかな?」


 たっぷり30秒ほど時間をかけて、大河は目を開いた。
 指先を見ると、意図した通り灰色の光を放つ螺旋…ドリルに姿を変えていた。

 密かに浪漫を感じて満足する大河。
 しかし…。


「け、結構キモチ悪い…」

「…夢に出てきそうですね…」


 数人ほど、口元を押さえて目を背けていた。
 …どうやら、大河の指が無機物に変化するのはあまり見ていて気持ちのいい物ではないらしい。
 まぁ、無理もないと言えば無理も無いが…。

 平然としている鉄の女・ミュリエルが、興味深げに大河の指先を眺めている。


「…面白い機能ですね。
 他にも変形はできますか?」


「んー…前からトレイターを変形させてた形には、大体できると思う。
 斧とか剣とかは…こう、肘から先を変化させるような形になるな…。
 軌道が制限されるから、結構不便だ…。
 慣れれば前と同じような形で出せると思うんだけど」


 剣を振るう際、軌道を決定するのは肩・肘・そして手首。
 特に手首は、少し動かしただけで大きく軌道を変える事が出来る。
 その手首が剣に変わってしまっては、前ほど自由に剣を振るう事は出来まい。

 大河は指を元に戻した。


「まぁ、それは追々解決するとして。
 取り合えず、普通の剣でも使って戦うかな。
 折れたら折れたで、拳で戦えばいいんだし、イムニティから貰う白の力だって使える。
 最後の切り札としては…アレもあるしな」

「アレ?」

「これ」


 何気なく聞き返したルビナスに対して、大河はまた手を突き出した。
 しかし今度は手が握られていて、しかも何やら紐が付いている。
 …この紐は、つまり…。


「…導火線?」


「いえーす」


「……爆弾かよーー!!!」


 笑ったままの大河と、悲鳴をあげる未亜。
 そんなに慌てなくても導火線はまだ長い…と。

 ジュワッ!


『『『へ?』』』


 導火線が一気に燃え尽きた。


ボファァァァァン!!!!!


 そして大河を中心に爆発。
 あまり規模の大きい物では無かったが、それでも天幕の中は煙で満たされた。
 あちこちで咳き込む声が聞こえる。
 あと、走り回ってぶつかって倒れる音も聞こえる。


「お待たせ…っと、ナニコレげほごほけほけほ!!」


 リリィの声だ。
 どうやらセルから話を聞くだけ聞いて戻ってきたらしい。
 天幕に入るなり、煙に咽て思いっきり咳き込んでいる。
 サッと光が差し込んだ。
 リリィが天幕のカーテンを開けたらしい。
 その光に向かって殺到する救世主クラス+α。
 時々コケたりぶつかったり、起き上がって明後日の方向に突き進んでるヤツが居るが、まぁ些細な事だ。

 そして天幕から内部の煙が漏れ出し、俄かに騒がしくなる。


「なんだなんだ!?」

「いきなり敵の襲撃か!?」

「いやでも救世主クラスの天幕だぞコレ」

「あ、なーんだ、だったら大した事ないな」

「うむ、被害が天幕一つで治まってるしな」

「ちっ、面白くねーの」

「そんじゃ飯にしますか」

「私は武具の手入れを…」

 …騒がしくなって、すぐに散った。
 すでに救世主クラスの実態は知れ渡っているらしい。
 多分、ナナシ巨大化とかが最大の原因だ。

 それはともかく、リリィを筆頭に次々と天幕から出てくる救世主クラス及びイム・ミュリエル。
 隣の天幕からも、何事かとリコが顔を出した。

 救世主クラスは顔に埃や煤を付着させながら、各々咳き込んでいる。


「い、一体何が…なんで導火線がいきなり…」


 涙目になっているベリオ。
 天幕の中から出てくる煙は、大分少なくなっている。
 あまり大きな爆発でもなかったが…。

 いち早く立ち直って、ミュリエルは全員居るかを確認する。


「…大河君が居ませんね」


「そりゃ、爆心地のすぐ傍に居たんだし…」


 と言うか、大河本人が爆発物だ。
 …ふと、カエデは疑問に思う。


「…師匠は自分の体をトレイターのように変化させていたでござるな。
 確か先ほどの導火線は、師匠の体から生えていたでござる。
 そして…先程の言動からすると、師匠は自分の体を爆弾に変えたのでござるよな?
 …自分の体を」


 硬直。
 体が爆弾+導火線+爆発。
 イコール……大河の体が爆裂四散?


『『『や、やばあぁぁ〜〜い!?』』』

「…な、何事?」

「?」


 一人…否、二人だけ事情を理解してないリリィとリコを放置して、一度に天幕に入り込む。
 まだいくらか煙が残っているが、天幕の中心に誰かが倒れているのは確認できた。

 急いで走り寄り、大河を助け起こす。
 最初に大河の元に辿り付いたのはカエデだ。
 この辺は忍者だけの事はある。


「師匠!(モサッ)……もさ?」

「カエデさん、お兄ちゃんの体は!?」

「え、あ、いやそれが」

「退いてください!」

「腕、腕は!?」


 戸惑うカエデを押しのけて、ベリオとルビナスが飛びつく。
 すでにベリオは癒しの魔力を高め始めている。
 ルビナスも何処からとも無く麻酔を取り出し、手術に入ろうとしている。

 そして大河をカエデから受け取って、

モサッ

 …その質感に、動きが止まった。

 結論から言うと、腕は無事だった。
 考えてみれば、トレイターも爆発した後即座に元に戻っていた。
 爆発の衝撃を感じたかもしれないが、それによるダメージは修復されている可能性が高い。
 …しかし。


「こ…このボリューム溢れる感触わ……」


 ミュリエルが頬を引きつらせながら手を伸ばす。
 大河の頭が、当社比5倍くらいに膨らんでいる。
 恐る恐る触れると、硬くは無いが柔らかくも無い、それでいて弾力に満ちた感触。


「あ…あ……あ………」


『『『アフロぉぉぉぉぉーーーーー!!!???』』』


 そう、これがお約束と言うものだ。
 爆発に巻き込まれたら、アフロになるのは当然。
 それだけではなかった。


「お、おまけに目がグルグル、顔は真っ黒、何故か分厚い唇…。
 お兄ちゃん…狙ってやってない?」


 アフロは、正直言ってあまり大きいとは言い辛い。
 かつてのダウニーに比べれば、申し訳程度と言っても過言ではない。
 だがその分、バランスと言う点ではダウニー以上である。
 何故なら、ダウニーは外部から爆発を受けてアフロになった…つまり前面にアフロの比重が偏っている。
 しかし、大河は言ってみれば自分自身を爆弾に変えて爆発させた。
 その衝撃は体を通って頭蓋に届き、そして頭髪を万遍なく走り抜ける。
 右手の爆発の余波その物は、アフロを揺らす程でしかなかったようだ。
 つまり、外部からの爆発で作られたアフロと、内部から作られたアフロ。
 …何?
 衝撃だけでアフロは出来ない? 熱が要る?
 …所詮はギャグよのぅ。

 異変はそれだけではなかった。


「あ、あの、なんかそのアフロ蠢いてんだけど…」


 言われて見れば、もこもこもこもこ。
 何やら不気味な蠕動を続けている。


「で、出るんですか!?
 何か出てくるんですか!?
 具体的に言うと大河君の脳味噌がモンスターと化して頭蓋骨を割って出るとか!」


「いえ、徐々に小さくなってるわよ!?」


「それはきっと凝縮ですの!
 元が小さなアフロでも、圧縮して撃ち放つ事で強力な貫通力を得られるんですのよ!」


「何を放って何を貫通するのよー!」


「はー、それにしても爆発オチは久しぶりのような気がするでござるなぁ」


 異様な事態にパニックを起こしている。
 それにも構わず、
 気絶したままの大河のアフロはちょっとずつ小さくなり続けている。
 小さくなるだけではなく、直毛に戻りつつあるようだ。
 色も茶色がかってきて、大河本来の色に戻りつつある。
 大河の髪は形状記憶髪か!?


 ベリオとルビナスが思わず大河を放り出し、大河はアフロを…もとい頭を地面に打ち付けた。


「ンガッ!?
 な、なんだなんだ!?
 何がどうなった!?」


 頭を打ったショックで、目を覚ます大河。
 すでにアフロはかなり小さくなり、直接手で触れなければ気付かないくらいになっていた。
 大河は頭を振りながら顔を上げ、周囲を見回す。


「……?
 み、みんなどうしたんだ?
 そんな得体の知れないモノを見る目で…」


「あ…あ、あぁ、ダーリン、お願いだからそのまま待っててね?
 極力体を動かさずに。
 具体的に言うと、頭を静止させたままで。
 あと、頭を触っちゃダメだからね?
 動かしたりしたら、後で実験台にするからね。
 全員集合!」


 限りなくマジというか妙に切羽詰ったルビナスの口調に押され、思わず頷きそうになり…頭を動かしたらダメだと言われたので…慌てて止める。
 よくわからないが、行動停止。

 ルビナスの元に集まった救世主クラスは、時折チラチラと大河に視線を向けながら議論をしている。
 その視線は、大河の顔というか頭に向いていたが…。


(頭に何かあるのか…?)


 気になるが、実験台にされそうなのでパス。
 そのままたっぷり三分が経過した。


(…この姿勢、結構辛いんだけどな…)


 空気椅子のような体勢で、大河はずっと固まったままだ。
 脹脛が痙攣しつつあるのだが。
 このままでは、倒れて頭を動かしてルビナスに改造されてちんこが二つになってしまうかも。


(…それもイイかも…でも小便とかどっちですればいいんだ?
 ……待て、今なら出来るか?
 今の俺、自分の体をある程度自由に変えられるし…。
 トレイターを取り込んで指をドリルに出来たんだから、既存の器官をもう一個増やすくらいは…。
 いや、それはちょっと難易度が高いか?
 …それでも……ちんこの先っぽ、ドリル状にできたりするかも…)


 これは挑戦する価値があるかもしれない。
 生身で大人のオモチャみたいな事ができたら、きっと面白いというかキモチイイというか。
 突っ込んだまま高速回転したら、未知の刺激が得られるだろう。
 大河は今後、こっそり練習してみる事にした。


「ダーリン、もういいわよ」


「え?」


 ルビナスに声をかけられ、ふと正気に戻る。
 いつの間にやら議論を終え、なにやら妙に生易しい目で大河を見ているルビナス達。
 脹脛を楽にしつつ、大河は首を傾げる。
 さっきから視線が集中していた頭部を手で点検するが、別段変わった様子もない。


「…何かあったのか?」


「…知らなくてもいいし、知っても仕方の無い事よ。
 知った所で、誰にとっても幸福を齎さない…。
 そんな真実なら、知らなくてもいいと思わない?」


「名探偵の怒られそうな台詞だなぁ…」


 既に消え去ってしまった大河のアフロ姿を心の奥底に仕舞い込み、ルビナス達は遠い目をしていた。




さて…いよいよ次は13-6。
その次は13−7…つまりユカの濡れ場!
いやぁ、ここまで来るのに長かったですねぇ…。
13−7は冒頭から濡れ場の予定ですので、雰囲気作りとかは13−6が主だと思います。

それではレス返しです!


1.パッサッジョ様
とりあえずしーしーはやってもらいましょうw
伏線が多すぎて、結構大変です。
投稿した後、「あ、これ忘れてた」とか…。


2.スカートメックリンガー様
ルシオラは魔族ですし、太公望とかは…あれは一応異星人だったような。
まぁ、そういう能力が無い人間の魂を強引に削るから苦しい、という事で。
オーバーソウルは……魂と言ってもあれは巫力の塊であって、魂そのものではないと…あれ、原作どういう設定だったけな…。

…もらしました?


3&13.悠真様
ある意味トムとジェリーのような関係ですね。
敵だけど最高の相棒…でも日常では険悪w
リコイム合体奥義か…やはりプリキュアマーブルスクリュー?

ご先祖王女の登場は、かなり先になりそうです。

事故死・病死した場合についてですが、神は特に何も考えてなかったのでは?
神というくらいだから寿命もメチャ長いでしょうし、『今回がダメならまた次がある』程度で。
ただ、リコイムがマスターを守ろう、手助けしようとするのが、簡単な防止役になっているのかも。


4.カシス・ユウ・シンクレア様
まぁ…恨み、あるんじゃないですか?
千年前には、何だかんだ言っても自分を殺した人ですし。

ふむ、生きていればよい、と…ならばあの手で行きましょう。
いや、別にひどい事とかしませんよ?

聖銃の事は、時守もあんまり詳しく知らないんでこの程度です。


5.DOM様
ベルト……ベルト…変身…。
今は指一本だけど、いつか全身を…。

ユカ=大河の一部、となっております。
これ、どれくらいの人が予測してたでしょう?
…フュージョン、マジで出来るかなぁ…?

重破斬って、確かL様を召還する術でしたよね?
混沌の海にたゆたいし金色、だったか…モデルは外なる神の王・アザトースでしょうか。

ユカが食われるのは、13ー7…もうすぐですなッ!


6.竜の抜け殻様
伏線の管理が大変ですよ…。
取り合えず、ユカの魂については以上のような事になりました。
随分前から考えていた一目惚れの理由を出せて、ホッとしています。
惚れさせすぎ、との意見をもらった事がありましたし、ちゃんと理由が無いと…。


7.陣様
季節の変わり目ですからね、気をつけてください。
卵酒とか飲みます?

ハリセントレイター、確かに召還してますね。
でもあれは勢いで具現化させただけであって、自分でコントロールは…。
一発ネタでした。

いやいや、一応敵のロベリアを閉じ込めるのに、戦闘能力持たせてどうするんですw


8.蝦蟇口咬平様
大河が倒れてると、話が停滞しそうで…。
亡くなった妹さんはダウニー先生の妹さんの事ですか?
それとも元ネタ?

おお、ありそうな血筋ですね。
聖騎士でなければ、モンク辺りでしょうか。

いやいや、残りをぶっ壊すのはあの技で決まりでしょう、やっぱり。


9.玖幻麒様
はい、確かにユカの魂の異変(?)は大河に関係がありました。
大河の異変が、ユカに関係あるかはまた別ですが…。

宗助は、実用性皆無でも結構強かに使ってましたよねw
独特の走法がよかった…。
しかし、宗助は何を考えてあんなぬいぐるみを改造したんでしょうか?
そんなに気に入ったのか…。

今のトレイターでは、同期連携はちょっとだけ出来ます。


10.竜神帝様
思えばフラグが多すぎますねぇ。
ダリアなんかかなり忘れられてますしw
大河がトレイター化…というと、大河本人が剣になって、ユカ辺りに使わせるとか?


11.ソティ=ラス様
逃げてー!…でも逃げられないんだろうなぁ、未亜だもんなぁ…。
セルの扱いに関しては、もうご都合主義と言うしかありません。
元々そういう方向のSSでしたし、最初から上手く行くハッピーエンドが前提でしたからね…。
とは言え、一応の罰は受けさせる事になりますが。


12.イスピン様
「転生、カッコワルイ」で体感するというのも如何なものかとw

ボン太君に関しては、ロベリアの人形…ポン太君と書いたのですが、まぁ誤字って事で。

どうでもいいですが、にゃんぷしーろーるは軌道が∞じゃないですな。
トレイターがカレイドステッキに…?
…い、一体誰が何に変身するんだ!?
大河が巫女さん大河になるのか!?


14.JUDO様
全ての生命の長だから、その力でユカ2を!
まぁ、ここまでやって死んでしまったら、各方面から拒絶反応とか来そうですし。

仮面の男と戦った辺りで、ベリオは完璧な笑みを浮かべていました。
そう、何の違和感も引っかかりも感じさせない完璧な笑みをw


恋姫無双のハーレムエンドは…真エンドとも言いますね。
複数の女性に慕われているのは事実ですし。
まぁ、ゲーム中の複数プレイは3Pが幾つかある程度ですが。

クロスランブル、楽しみですねぇ!
…しかし、そうなるとエスカもやっぱり出さねばならない訳で…。
人数が増えて訳がわからないとかそういう意見はこの際置いておくとしても、登場させる前に本編をやらねば。
丁度いい所まで書いたら、暫くはストックに任せて恋姫無双の方に集中しようかな…。

レイとアスカは、少々ナーバスながらも人生を楽しんでいます。
シンジ君はレイ・アスカ・カヲルにちょっかいを出され続け、両刀の道に目覚めかけているようでs


15.悪い夢の夜様
恋姫無双、ストーリーはそこまで長くないんですけど、格キャラのイベントにも気合入ってますからね…。

ユカはそういう感情で言ったんじゃないんですけどねw
まぁ、ユカ2の方が目覚める可能性もあるし。
妹を溺愛する姉、というのは適切な表現です。
大河が手を出したりしたら、きっとエライコトに…。

むぅ、我ながら恐ろしい表現をしたものだ…。
「お前に相応しい、○○は決まった」はネタでしか知らないのですが、多分そんな感じで。
…管理局の白い悪魔ッスか?
…うおぅ、想像するだに恐ろしい…。

ロベリアには…送る言葉すら見つからない…。


16.なな月様
…そちらは大変なようで…(汗)

この聖銃はレプリカというか不完全品なので、NEPは作動せずにこのような具合となりました。
いやぁ、だってモノホン出したら手のつけようが無いし…。
時間犯罪ですよ、ドラエモンも真っ青モノですよ。
手に負えません。

ポン太については、ボン太君の書き間違いって事で…。
確か、書いた時はブリーチのヘンテコ人形をイメージしていた気がします。

リアル怒首領蜂…ぼ、ボムは無いかー!?

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