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「Tales of the Negima! 第九節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-02-21 19:00)
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「くそ! くそ! あのガキども〜!」

 木乃香を攫おうとしたメガネの女性は、竹林の中にひっそりと建っている小屋の中で喚いた。

「せやから俺も行く言うたんや。月詠のねーちゃんだけじゃ頼りないし……」

 それに呼応としたのは黒髪に二本の角を隠すような帽子を被り、学ランっぽい制服を着た少年だった。年は10歳ぐらいだろうか。

「関西やと西洋魔術師なんかと戦う機会なんてあらへんしな〜」
「フフ……血に飢えた獣だね」

 笑みを浮かべる少年に対し、別の少年が答えた。目と鼻を隠す金色の仮面を付けて顔の半分以上を隠し、緑色の髪をポニーテールにして黒のTシャツとジーンズという非常にラフな格好をしている。

「何やねん? 男やったら未知の相手と戦いたい思うんは当然やろ?」
「そうだね。実に分かり易い……けど今日は放っておこう」
「は? 何でや?」
「今日、彼らは奈良で自由行動らしい。いちいち奈良まで追いかけるのも面倒だけど……折角の旅行ぐらい楽しませてあげようよ」

 最後になるかもしれない、と付け加え、クスリと笑う仮面の少年に、女性と黒髪の少年は思わずゾクっと寒気がした。その少年に対して、今まで黙っていた白髪の少年が話しかけた。

「何か……嬉しそうだね」
「ああ、嬉しいよ。まさか、あの3人が僕の前に現れてくれた……ずっと待っていた甲斐があったよ。フフ……フフフ……」

 不気味に笑う仮面の少年に、女性と黒髪の少年は震え、白髪の少年は黙って見つめていた。

「はい、王手です」
「ぬぅ……」

 ちなみに小屋の前では見張りの黒獅子と月詠が将棋をしていた。


「ふぅ……気持ち良かった」

 朝風呂に入ったアリエッタは、ほくほく顔で廊下を歩く。
 昨夜、見回りをしていたら、いつの間にかネギ達がいなくなっていた。置いてけぼりを喰らったアリエッタは、外を探しに行こうとしたが、新田先生に見つかってしまい、部屋に取り残されて、そのまま寝てしまった。
 朝になったらネギ達は帰って来ていたが……。

「はい、ではお願いします」
「(あ、シンク)」

 その途中、シンクがドコかに電話をかけていた。アリエッタは「おはよう」とだけ言って、電話の邪魔をしないよう、その場を通り過ぎた。

「おはようございます、アリエッタ。今日もイイ天気ですね」
「うん…………ふぇ?」

 思わず返事をするアリエッタだったが、足を止めてしまった。
 相手は電話を終えると、笑顔で彼女に話しかける。

「もうすぐ、朝ご飯ですから、早く制服に着替えた方がいいですよ」
「シンク……じゃない。イオン……様?」
「はい。久し振りです、アリエッタ」
「…………」

 アリエッタは無言でイオンに歩み寄ると、急に髪を立たせてみたり、ポンポン、と身体を叩いたり、クンクン、と匂いを嗅いだりしてみる。

「あ、あの……」
「…………シンクが意地悪してない?」

 性格が捻くれているシンクなら、イオンの真似をして混乱させたりしそうなので疑うアリエッタ。

「本当に僕ですよ、アリエッタ。まぁシンクも一緒ですけど……」
「イオン様?」
「はい」
「…………レプリカ?」
「は、はい」

 痛い所を突かれて笑顔を若干、引きつらせるイオン。

「…………じゃ」
「えぇ!?」

 手を上げて去って行くアリエッタ。その余りにも淡白過ぎる反応にイオンは逆に驚いてしまった。

「ア、アリエッタ、それだけですか?」

 アリエッタのイオン様>このか>のどか・夕映・ハルナ>召喚獣>>昔の仲間(シンク以外)>>>>>レプリカのイオン様≧シャンプーハット>>>(超えられない壁)>>>ピーマン・スケベ大魔王。

「今のアリエッタの大事なもの↑な感じ……です」
「(僕、シャンプーハットより辛うじて上なんですか……逞しくなりましたね、アリエッタ)」

 ってゆーか、逞しくなり過ぎで、イオンからしたら嬉しいのか悲しいのか微妙だった。

「…………イオン様、何でいるですか?」

 なぜか恨みがましそうに遅くなりながらも最大の疑問を聞いてくるアリエッタ。やはり自分がレプリカで、彼女が慕っていた導師イオンはとっくに死んでいたという真実を告げなかったコトで、かなりご立腹のようだった。
 彼女の目は、かなり冷たく、イオンも思わず引いてしまう。出来れば、この場から逃げ出したいが、彼女の疑問に答えなければ、というイイ人ぶりがソレを許さない。

「え、えっと……実は、ずっとシンクの中にいたんです」
「…………心臓?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「胃?」
「いえ、だから……」
「…………脳?」
「アリエッタ、分かってて聞いてませんか?」
「……………」

 目線を逸らすアリエッタに、恐る恐るイオンは質問した。

「あの……僕のコト嫌いですか?」
「微妙……です」

 自分のコトを騙していたのは許せないけど、心配して気にかけていてくれたのも事実。だから、ちょっとだけ意地悪してみたアリエッタだった。
 イオンは苦笑いを浮かべ、自分とシンクのコトを説明した。イオンの中にシンクがいる。アリエッタはペタペタと彼の身体に触ってみた。

「アリエッタ?」
「…………一生、出てくるな、です」

 妙に恨みのこもった一言でアリエッタはギュッとイオンの胸を鷲づかみにした。

「あぅ!?」
「スケベ大魔王……出てくるな、です」

 小さく悲鳴を上げるイオンを他所に、風呂場で裸を見られた恨みか、アリエッタは更に手に力を込める。

「ア、アリエ……かふ」
「は!? イ、イオン様……?」

 バタン、と仰向けに倒れて痙攣するイオンにアリエッタはハッとなる。アリエッタは、ツゥ〜と冷や汗を浮かべ、とりあえず目が覚めるまで彼の部屋に放り込んでおくことに決め、引きずって行った。


「は〜い、皆さん注目」

 朝食の席にて、しずなが生徒達にパンパン、と手を叩いて注目させる。彼女の横には、ビシッとスーツを着こなしているイオンが笑顔で立っていた。
 3−Aの面々は、一部を除いて、シンクと同じ顔の少年が、とても爽やかな笑顔を浮かべている姿に目を見開いて驚いている。

「警備員のシンク君は、昨日の新幹線などの件があり、危険などがないか奈良に先に行かれてるので、その代わりに警備は、こちらのイオン・ダアト君にお願いしま〜す」
「初めまして、イオン・ダアトと申します。シンクの双子の弟で、まだ未熟者ですが、よろしくお願いします」

 いきなりシンクの双子の弟の登場に、生徒達は呆然とイオンを見つめた。


「う〜、昨日の清水寺から記憶がありませんわ」
「折角の旅行の初日の夜だったのにくやしーー!」

 酔っ払った所為で、初日を棒に振ってしまった面々は、後悔していた。その中で、チラチラと正座して上品に朝食を食べているイオンに視線を向けられる。

「シンク君の双子の弟だけあって、やっぱ似てるよね〜」
「せやけど、性格とか全然ちゃうで」
「クールでぶっきらぼうなシンク君もイイけど、礼儀正しくて純情そうなイオン君もイイよね〜」
「私、シンク君派!」
「いや〜! イオン君だって!」
「アリちゃん!」
「ふぇ?」

 ワイワイとシンクかイオンかで盛り上がっていた所で、いきなり裕奈が、魚の骨を取るのに苦心していたアリエッタに話を振って来た。

「アリちゃん、シンク君とイオン君の知り合いなんでしょ?」
「まぁ……」
「2人とも、やっぱモテてたの?」
「ん〜……シンクは知らないですけど、イオン様は腹黒くてお金にガメつい女に好かれてた、です」
「「「「様!?」」」」
「え? そこに反応?」

 聞き方によってはイオンが悪い女に騙されてるように聞こえなくもないアリエッタの台詞だったが、皆は彼女がイオンに様付けしているコトに静かにアキラがツッコミを入れた。

「アリちゃんがイオン君に様付け……ま、まさか!?」

 一同は、ロープで両手を縛られ、首輪をつけて瞳を潤ませるアリエッタと、それを見て椅子に腰掛け、足を組んで笑っているイオンの姿を思い浮かべた。

「イオン君って実は鬼畜?」
「うそ〜! イメージ崩れる〜!」
「(微妙にかすってる……)」

 勝手にイオンの性格を決め付けているが、オリジナルのイオンの性格はちょびっとだけ合ってるので特に否定しないアリエッタ。

「せっちゃん、何で逃げるん〜!?」
「刹那さ〜ん!」
「わ、私は別に……!」

 と、そこへネギと木乃香が、朝食を持って、同じく朝食を持って逃げる刹那を追いかけていた。

「何々ー? 桜咲さんのあんな顔、はじめてみたー」
「昨日の夜、何かあったのかなー?」
「うう……私の知らないところで何か楽しいことが……?」
「くうう〜! 今晩こそ寝ないよー!」

 イオンといい、刹那といい、目まぐるしい周囲の変化に驚きながらも、悔しがる面々。

「お味噌汁美味しいですね〜」

 勝手な想像をされつつも、イオンはほのぼのと味噌汁を啜った。


「イオンさん」
「ネギ君、どうかしましたか?」

 イオンがロビーを歩いていると、ネギ、明日菜がやって来た。

「あの……お兄ちゃんは?」
「シンクですか? 怪我ならとっくに治ったんですが、不貞腐れて出てくれないんです」

 苦笑しながら胸に手を添えるイオン。

「不貞腐れる?」
「僕はシンクにかなり嫌われてますから……」
「嫌われって……兄弟なんでしょ?」
「当たらずとも遠からず、ですね」

 意味不明なイオンの答えに、ネギと明日菜は首を傾げる。

「でも急にお兄ちゃんの代わりの警備員って、良く新田先生とか納得しましたね」
「朝一で学園長先生に連絡して事情を話しましたから」

 ネギの疑問に対し、イオンは携帯電話を見せて笑顔で答える。学園長と裏を合わせて、他の教師達を納得させたようだ。
 シンクと違って、かなり手回しの良いイオンに、2人は感心した。

「今日は奈良という所で自由行動ですか。お2人はどうしますか?」
「私は班で決めた通りに行くわよ」
「そうですね〜……僕は、どうしようかな……」
「ネギくーん! 今日、ウチの班と見学しよーーー!」

 と、そこへ、まき絵がネギに飛びついて来た。

「ちょ、ちょっとまき絵さん! ネギ先生はウチの3班と見学を!」
「あ、何よー! 私が先に誘ったのに!」
「ずるーい! だったら、僕の班も!」
「何々? またネギ君、争奪戦ー!?」

 ネギを取り合う3−Aの面々。言い方を変えれば、教師に群がる女生徒と、ちょっと淫靡な感じがする。

「ネギ君、人気ありますね」
「まぁいつものコトだけどね」

 笑顔でネギを見つめるイオンと、その笑顔を引き攣らせて答える明日菜。

「イオンく〜ん」
「はい?」

 不意にニュッと背後から首に手を回される。

「一緒に奈良回ろ〜」
「あ! 美砂、彼氏いるでしょ! イオン君、私らと回ろ!」
「いやいや! ココは私らと!」

 イオンにも群がる女生徒。明日菜が「イオン君もモテモテじゃない」と苦笑いを浮かべて見るが、本人はやんわりと断った。

「すいません。警備員という立場上、均等に皆さんを見回らなくてはいけないので……誘って頂いて、本当にありがとうございます」

 ペコッと頭を下げるイオンに、何人かが頬を赤らめる。

「い、いやいやイイって!」
「そうそう! 仕事じゃしゃあないもんね!」
「(アニスが見たらキレそう……)」

 イオンが他の女性にちやほやされている光景を見たら、かつての自分のライバルなら人形で叩き潰してしまいそうだとアリエッタは想像した。

 一方、他の生徒達に揉みくちゃにされているネギだったが、そこで一人の女生徒の大きな声が響いた。

「あ、あのネギ先生! よ、よろしければ今日の自由行動、私達と一緒に回りませんかーーー!?」
「え? み、宮崎さん?」

 普段は大人しいのどかだった。皆、驚いて言葉を失う。
 ネギは、のどかのいる5班には、相手が狙っている木乃香や、明日菜、刹那と今回の件に深く関わっている人物が多い。
 アリエッタや刹那など戦闘に長けている者がいるので大丈夫かと思うが、やはり教師として見過ごせなかった。

「わかりました! 今日は宮崎さんの5班と回ることにします!」

 オオー、と静かな歓声が湧いた。普段は奥手なのどかが、まさかあれ程の声を張り上げ、ネギを誘ったのだから。


 場所は変わって奈良公園。あちこちに居る鹿を見て楽しそうに両手を広げて鹿と戯れるネギを、のどかは微笑んで見つめていた。

「えへへー……ネギ先生」

 ネギを誘った張本人、のどかだった。

「よくやったーーーーッ! のどかーーー!」
「きゃー!?」

 と、そこへハルナ、夕映、アリエッタが蹴りを入れて来た。

「見直したよ、アンタにあんな勇気があったなんて!!」
「感動したです」
「ばっちぐー」

 自分達のコトのように喜ぶハルナと夕映はのどかに詰め寄り、アリエッタはグッと親指を立てた。

「えへへ、うん、ありがとー。ネギ先生と奈良を回れるなんて幸せー……今年はもう思い残す事ないかも……」
「バカァッ!!」

 ペチーン!

「はふぅ!?」

 心底嬉しそうなのどかに対し、ハルナがパァンと音を立てて彼女の叩く。(実際は自分の両手を叩いて演出してるだけ)

「この程度で満足してどうするのよっ! ココから先が押し所でしょう!?
 告るのよ、のどか。今日此処でネギ先生に想いを告白するのよ」

 その言葉を聞いて、のどかは物凄い慌てようを見せる、

「えーー!? そんなの無理だよぅー!」
「無理じゃないわよ。
 いい!? 修学旅行って言うのは男子も女子も浮き立つ物なの! 麻帆良恋愛研究会の調査では修学旅行中の告白成功率は87%を越えるのよ!」
「ははははちじゅうなな……」

 テキトーなコトを述べるハルナに夕映は呆れ果てるが、のどかは本気で信じてしまった。

「しかもここで恋人になれば明日の班別完全自由行動日では、二人っきりの私服ラブラブデートも……!」

 87%の確率でネギとラブラブデートできるというハルナのハッタリに、のどかの心が揺れ動く。

「更に!」

 ギュピーン、とハルナの眼鏡が光った。

「恋人になったばかりの二人は、夜景が綺麗な海辺の公園でキスをしちゃうという確率は84%よ!!」
「えぇーーー!?」
「そんでもって、最終的にいい感じに気持ちが昂ぶった二人が最後に行き着く所へ行く確率は95%オオオオオオオ!!!!!」
「い、行き着く所?」
「んなもんホテルに決まってんでしょうが!」
「ホテ……!?」

 思わずのどかは、その光景を想像してしまう。
 私服でデート、その内容は二人で手を繋ぎ、喫茶店などで楽しくお喋りして、公園でネギを膝枕してあげた後、広大な海が広がる夜の公園で見つめ合い、唇を交わして、そのままピンク色に光るホテル街へ……。
 のどかの顔は茹蛸のように赤くなっていく。

「分かった!? 修学旅行ってのは、それだけの魔力が……はぐ!」

 目を血走らせてエスカレートするハルナの頭に、アリエッタが人形を叩きつけて気絶させた。なぜか人形なのに「ドコ!」という音がしたが、気にしてはいけない。

「ハ、ハルナ?」
「気にしない下さい、のどか」
「ゆえ? アリちゃん?」

 夕映とアリエッタに話しかけられ、のどかは正気に戻った。

「流石にキスやらホテルやら言い過ぎです」

 ってゆーか、ネギやのどかの年齢じゃ絶対にホテルに入れない。

「ですが、修学旅行でカップルが出来るのは統計的に多いです。十分、告白して成功する可能性はあるです」
「で、でも……」
「のどか」

 戸惑うのどかの肩に、アリエッタがポン、と手を置いてきた。

「自分の気持ちは言える内に言うです。じゃないと……後悔するかもしれないから」
「アリちゃん……」
「じゃ、我々は影ながら見守ってるので頑張ってです」

 白目むいて気絶しているハルナの服を掴んで彼女を引き摺ったまま去って行く夕映とアリエッタ。取り残されたのどかの心には『気持ちは言える内に言う』というアリエッタの言葉が深く残っていた。


「今のところおサルのお姉さんは来ませんねー」

 一方、ネギ、明日菜、刹那の3人は別行動で歩いていた。
 敵のコトを警戒しているが、一応、ココは奈良だし大丈夫だと刹那は言った。万が一のため、式神を各班に放ってあるし、イオンも警備員として各班を気にかけている。

「このかお嬢様のコトも私が陰からしっかりお守りしますので、お二人は修学旅行を楽しんでください」
「何で陰からなの? 隣に居てお喋りでもしながら守ればいーのに」
「いっ、いえ、私などがお嬢様と気安くお喋りする訳には……」
「またもー。何照れるの、桜咲さん?」
「なっ……別に私は照れてなど……」
「アスナ。一緒に大仏見に行くです」
「せっちゃん! お団子買って来たえ! 一緒に食べへんー!?」
「「え!?」」

 いきなりアリエッタと木乃香が出てきて、明日菜と刹那をそれぞれ引っ張って行った。

「あ、あれ?」

 一人ポツンと取り残されたネギ。そこへ、緊張した面持ちでのどかがやって来た。

「ああ、あのー、ネギ先生……」
「あ、宮崎さん。なんか皆行っちゃいましたね……二人で回りましょうか?」
「え、あっ、ハイ! 喜んでー」

 ネギが何気なく誘うと、のどかは喜んで頷いた。
 二人はそのまま東大寺の大仏殿へと向かう。その際、のどかはネギと並んで歩くだけでも幸せだった。

「のどか、頑張れ」
「ところでアリエッタさん。ハルナは?」
「ベンチに置いてきた」
「…………随分と扱いが酷いですね」
「ハルナの安否より、のどかの告白が大切」

 そのことに関しては特に否定しない夕映は、アリエッタと共に大仏殿の柱の陰から、親友を見守っていた。
 そして、のどかは意を決して大仏を見ているネギに向かって告白しようとする。

「先生! わっわわ……わたし、大……す……すき……大仏が大好きでっ……」
「へぇ〜渋い趣味ですね」

 が、全くのお門違いでアリエッタと夕映は、ズルッとこけた。
 のどかはめげずに再び……。

「私……ネギ先生が……大、大吉で!」
「あ はい、おみくじ引きますか?」

 ネギが売っているおみくじ棒を差し出す。

「いえっ! じゃなくて、大吉が大好き……いえ 大仏が……」
「うえーん大凶でしたーー」

 二度も駄目だったので完全に落ち込むのどか。そんな彼女の気持ちなど知らず、ネギは大仏の鼻と同じ大きさの穴の開いた柱を指した。
 そこを通り抜けられれば、頭が良くなったり、願いがかなったりする言い伝えがあり、ネギからその事を聞いたのどかは、自身の告白の成功を願って、その穴を通り抜けようとした。が、結果は……。

「お尻がはまっちゃいましたー!」

 三度、駄目な結果だった。

「だ、大丈夫ですか!? 今引っ張りますから……」

 ネギがのどかの手を握り引っ張る。案外、簡単に引っ張り出せたが、勢い余って、のどかはネギの上に乗っかってしまった。

「あたた……ひゃあ!?」

 開脚状態でネギの上に載り、下着丸見え状態になっているので、のどかは悲鳴を上げた。

「す、すいませんー!」
「い、いえ、こちらこそ!」

 のどかの頭は混乱した。告白できない上に、はしたない姿を見せてしまって。ネギの顔が恥ずかしくて見れない。そんな彼女が取った行動は一つ。

「ごめんなさーい!」

 何に謝ってるか不明だが、逃げ出したのどか。

「ああっ、宮崎さん!?」

 10歳にして初めて女性に逃げられたネギ。余りに突然のコトに追いかけられなかった。

「の、のどか……」
「可哀相……」

 夕映は予想外過ぎる展開に愕然となり、アリエッタはハンカチを目に当てた。


「うぅ! 恥ずかしいですー!」

 公園を全力疾走で走るのどか。当然、目の前など見えていない。今の彼女は、出来る限りネギから離れたかった。

「きゃ!?」
「ん?」

 その時、誰かの背中にぶつかった。

「あぅ……ご、ごめんなさいです〜」
「大丈夫か?」

 スッと手を差し出したのは、ニット帽を目深に被った赤髪の少年―アッシュだった。

「す、すいません……」

 差し出された手を握り返して立たされるのどか。

「その制服……」
「はい?」
「ふむ……」

 アッシュは近くに『ぜんざい』と暖簾のかかっている茶屋があるので、そこへ誘った。

「食べるか?」
「ふぇ!?」

 いきなり、茶屋を指して誘うアッシュに、のどかは唖然となる。これは、もしかしてナンパかと思い、そういう事には怖いイメージの強い彼女は怯える。が、アッシュは笑みを浮かべて、帽子を取る。
 短く切り揃えた赤い髪と綺麗な緑の瞳が露になる。

「下心などない。ただ、ぶつかった女が泣いてるのを放っておくのも気が引けるだけだ」
「あ……」

 言われてのどかは自分が泣いてることを思い出し、慌てて涙を拭く。

「女の涙は厄介で苦手なんでな。頭から離れにくい……俺の勝手で奢ってやる」

 微妙に某幼馴染兼使用人っぽい気障な台詞を吐くアッシュだったが、今ののどかは、誰かに自分の心中をぶつけたい気持ちだったので、彼と一緒に茶屋に向かった。

 ぜんざいを食べながら、のどかは好きな人に告白できず、失敗ばかりしている自分に嫌気がさしているコトを語った。
 アッシュは、その間、何も言わずに聞いた。そして、全てを聞いた彼の考えは……。

「(あの子供教師、何なんだ!?)」

 10歳の分際で告白されるほど好意を寄せられるなど信じられないアッシュ。自分が10歳の頃といえば、丁度、老けた27歳の髭に誘拐され、レプリカによって居場所を奪われたと思い知らされた頃だ。

「(地雷踏んだな……これは)」

 まさか、よりにもよって恋愛の相談だったとは思わなかった。
 ある理由で、アッシュはのどかがネギの生徒であり、またネギがシンクに近しいコトも知っていた。そして、また別の理由で、奈良にいたので、たまたま泣いているのどかに会った。
 今のシンク、いやイオン達の現状を知る為、ぶつかった彼女に接触したが、まさか恋愛の相談をされるとは思わなかったアッシュだった。

「私……やっぱり駄目なんです……」
「は?」
「昔から何やってもドジばかりで……私のことを思ってくれる友達にも迷惑かけてばかりで……私……本当に自分が嫌で……」

 自分を卑下するのどかに、アッシュはなぜかイラついた。その姿が、妙にあのレプリカと重なる。

「私、もうネギ先生は諦め……」
「ふざけるな!!」
「ふぇ!?」

 いきなり声を荒げるアッシュに、のどかは驚く。

「自分が嫌だと? お前、何様のつもりだ!? この世界には、お前以外にお前はいねぇんだぞ!」
「え? あ、あ、あの……」
「失敗すると思って何もしないで諦めて後悔してからじゃ遅ぇんだよ! いいか? 嘘でも自分が嫌なんて言うんじゃねぇ! お前を生んだ親や、お前を支えてくれた仲間に対する最大の侮辱だ!」
「わ、私……」
「やるだけやって、失敗しても、それはお前の勇気だ。落ち込んだら、またココで愚痴ぐらい聞いてやる! 覚えとけ!」
「は、はい!」

 アッシュの説教を聴いて、のどかは強く頷いた。見ず知らずの人から、こんなコトを言われながらも、のどかは彼から強い説得力を感じ、席を立った。

「あ、あの……お名前を教えてください!」
「…………アッシュだ。ココで二度と会わないコトを願うぞ」
「はい!」

 それは成功を祈っている、というコトだった。のどかは駆け足でその場から走って行った。
 彼女を見送ると、アッシュは大きく溜息を吐いて、頭を抱えた。

「…………何で俺は、こんな青春くさいマネをしているんだ」
「いえ。大変、心に染み渡りましたよ」
「ぶっ! な、お、お前ら!?」

 なぜか背後から声をかけられて振り返ると、そこにはイオンと明日菜、そして刹那、ついでカモがいた。
 女性2人は、のどかがネギに告白するというので驚きを隠せず呆然となっているが、イオンは穏やかに微笑んでいる。

「な、何でお前らがココにいる!?」
「僕は警備員ですから、色んな班を見ていたんですよ」

 で、たまたま明日菜と刹那と合流し、アッシュがなぜか茶屋でのどかと話していたので気になって、様子を窺っていた。

「アナタが、ココにいるのも意外ですけど……何でです?」
「お前には関係ないコトだ」
「しかし、アッシュが人生相談で説教だなんて……シンクといい、アリエッタといい、皆さん、いい方向で変わってるんですね。アッシュなんて、髪まで切って……」
「何が言いたい?」
「いえ……いい傾向ですよ」
「なぁ、イオンの兄さん。アンタ、この不良っぽい人と知り合いなんですかい?」

 ふとカモが、昨夜、ネギを助けてくれた少年と親しそうに話しているのでイオンに尋ねる。

「ええ、昔ちょっと……」

 と、そこでハッとなって明日菜が立ち上がった。

「そ、そんなコトより急いで本屋ちゃんを止めないと! 告白なんて……」
「えぇ!? ちょ、ちょっと神楽坂さん!?」
「やめろ」

 のどかを止めようとした明日菜だったが、アッシュが布で包んだ得物を彼女の前に突き出して止めた。

「な、何で止めるのよ!?」
「バカヤロウ! 一人の戦士が勇気を持って挑むのを止める奴がいるか!!」
「本屋ちゃんは戦士じゃないわよ!」

 天然ボケ要素は昔から微かに見られたが、そこへ熱血要素まで少し加わっているアッシュに、イオンは顔を引き攣らせた。

「あ、あの……どうしましょう?」
「いいんじゃないでしょうか。確かにアッシュの言うように、宮崎さんを止めるのも気が引けますしね」

 口論するアッシュと明日菜を他所に、刹那に言われてイオンは笑顔でそう言った。

 その日、ネギはのどかに「ネギ先生のこと大好きです!」と告白され、38度の知恵熱を出してしまった。


 後書き
 冒頭で出てきた人物は、この話のボスともいえる人物です。そしてアリエッタは微妙に黒く、アッシュは熱血馬鹿っぽくなりました。シンクが一番の常識人です、この話では。

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