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▽レス始

「.hack//intervention 第14話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-21 00:30)
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『Δ隠されし 禁断の 聖域』

別名『NAVEL OF LAKE』……湖のへそ。
このエリアにはモンスターも、ダンジョンや宝箱も存在しない。
あるのは“古びた”という表現が如実に現れている聖堂だけである。

ここはゲーム『The World』の世界観の基になったと言われる叙事詩『黄昏の碑文』の物語の始まりの場所。
また同時に『.hack』という『The World』を巡る大きな物語の始まりの場所でもある。


焔は静かに1人の男が来るのを待っていた。

このエリアは何の告知もないまま、1週間程閉鎖されていた。
一見、以前と何の変わりもないこの地で何が起こったのか……それを知るのはその場にいた者達だけだ。

彼がアルビレオをここに呼び寄せた理由の1つは、それを知りたいから。
アルビレオが関わっているという確証があるわけではないが、何となくあの人物であれば知っている気がした。
無論単なる勘だけでそう決め付けているわけではないが。


“偏欲の咎狩人”を目撃した際に知った“世界の真実”。

焔はその時に聞いた内容が、言葉に値するだけのものであると確信していた。


――――理屈だけでなく、感情的なものも含まれているが。


.hack//intervention 『第14話 停滞』


《side アルビレオ》


俺がこの聖堂に顔を出すのはこれで何度目だろうか?

前回見た時は半壊状態だった聖堂も、今では以前と変わらない様相を呈している。
その違和感の無さは、とてもあんな事件が起こったとは思えない程だ。

……修復に携わった連中の苦労が伺えるな。


そんなことを考えながら扉を開く。


「……遅くなってすまないな、焔」

「いえいえ気になさらずに。
 僕もついさっきまで食事で離席していましたから」


そこにいたのは、全身を黒で塗り固めた黒騎士。
つい2日前に出会ったばかりの彼は、その服装に似合わない相変わらずの笑顔で俺を迎えてくれた。

しかし俺は知っている……彼が只者じゃないことを。

初めて出会った日に俺宛に送られてきたメール。
用件だけが簡潔に記されたその言葉の端々には、明らかに一般PCが知らない類の物が含まれていた。

俺のことを“モルガナの走狗が1人”と呼称したり。
ここに来る際に“仕事仲間”にばれない様にと忠告したり。
後者はまだ知られる可能性はあっても、前者の表現が出来るとしたらリコリスか、俺自身のみの筈。

それを彼は知っていたのだ。


「早速教えて貰おうか? ……君が知ってる“世界の真実”とやらを全て。
 そして…………どうして俺のことを知っていたのか、もだッ!」

「まあまあ、そんなに急かさないで「余計な口上を聞くつもりはないッ!」」


俺はあくまで武器を構えたまま警戒を解くことなく話を進めようとする。


彼がただの親切心で俺をここに呼んだとは思えない。

そもそも出会ったばかりにも関わらず、彼は俺の素性を知っていた。
それが分かる者など、いるとすればCC社関連の人間くらい。
だがそんな人間がPKK行為を公認するような無駄に目立つ組織を創るわけがない。

何故デバッガーである俺のことを知っていたのか?
そして俺に今まで秘密にしてきた“真実”を話すのと引き換えに何を要求するつもりなのか?

それを知るまでは気を許す気など毛頭無い。


そんな真剣な様子の俺に合わせるようにして焔も、


「……全く、そんな度量の小さい男はモテませんよ?」


…………真面目に答えを返してくれると思ってたんだがな。

“やれやれ”と口には出さないものの、肩をすくめながら呆れたような態度を見せる焔。


「…………余計なお世話だッ!」


俺は無意識のうちにそう返事をしてしまっていた。

語調が強くなったような気もするが、気のせいだ。
モテるとかモテないとか下らない戯言に付き合うつもりがないから怒鳴った。
あくまでそれだけの話だ。

……そうに決まっている。


「ははは、冗談ですよッ! 
 それはともかく、少し肩の力を抜いて。
 予め言っておきますが、ここで本題を話すつもりはありません」

「…………何、だとッ!?」


焔の予想外の言葉に、俺は槍の矛先を彼の眼前へ向ける。

もしあのメールが、目的はともかく単に俺をおびき寄せる為だけの罠だとしたら。
その可能性が否定出来ない以上、武器を下げるつもりはない。


だがそんな予想もまた、焔の言葉に裏切られることとなった。


「例の件については後ほど伝える予定です。
 それよりアルビレオさん…………僕と会うことは秘匿してくれていますか?」

「あ、ああ……」


彼に会って以来、ある意味一番驚いたかもしれない。

“常に笑顔”をモットーとしていそうな焔。
その彼が、今までに見せたことの無い真剣な声で話しかけてきたのだ。
しかも声だけでなく態々PCの表情を変えることまでして。

更にそれから告げられる内容にも驚かされた。


「ではアルビレオさん、来週の日曜日の昼間は仕事を空けておいて下さい」

「…………は?」

「具体的な場所、及び時間はこちらで指定してメールを送ります。
 あ、勿論1人で来て下さいね?」

「お、おいまさか……」

「ええ、リアルで会おうと言っているんですよ」


“リアルで会う”

それはネットゲームにおける1つの境界線を超えることを意味する。

ゲームの中でPC同士が仲良くなるのは極々普通のこと。
何せ多くの場合、それぞれが普段の自分とは違うある種の理想を体現したPCなのだから。

例えば現実世界で気の弱い奴がゲームの中では頼りになるキャラを演じたり。
例えば現実世界で乱暴な奴がゲームの中では誰彼無しに優しいキャラを演じたり。

だがそんなPC達がリアルで会うのは簡単なことじゃない。
大抵の場合、性格や年、そして性別までもがその障害となってしまう。
それを乗り越えた互いがようやく決心した上で行われるのが“リアルで会う”という行為なのだ。


なのに目の前の男はわずか2日前に会ったばかりの俺に、それを要求してくる。
しかもその口調は戸惑いが一片も感じられず、あたかも決定事項のような言い草。


「駄目だ」


勿論、拒否した。

デバッガーの俺が一般PCとこうして秘密裏に会うのも業務規定に抵触している可能性があるのだ。
増してそれをリアルで、なんて幾らなんでもマズすぎる。
個人的にも知られたくないし、下手をすれば職を失いそうなことは遠慮したい。
何より…………彼に対する信用度が少ない。

俺はそう判断したんだが、


「却下です」

「却下って……大体話をする程度ならリアルで会う必要はない筈だが」

「……僕だって本当は自分のリアルを晒したくはありません。
 しかし貴方はそんな悠長なことを言っていられる状況ではないんですよ?」


断固として譲らない焔。

その言葉の端々から感じるのは、紛れも無く“止むを得ない”という感情。
きっと彼自身、本来ならリアルで誰かと会うなんてことはしたくないのだろう。

ではそこまでして会わなくてはならない状況とは一体?


「その状況とやらを教えてくれ。
 でないと、どうにも判断のしようがない」


後から思えば、俺はその質問をすべきではなかったのかもしれない。

更に焔が返した答えを信じなければ良かったのかもしれない。


「……分かりました。
 これはあくまで憶測ではありますが――――――――」


しかし俺はその後に告げられたことを最終的には信じてしまったのだ。


始め聞いた時は正直ふざけているとしか思えない内容。

だが俺の中の直感が示していた。
彼の言っていることが単なる憶測で済まされる話ではない、と。


その後、俺は一旦“偏欲の咎狩人”を追う手を休める。

あの事件の場に居合わせた昴達にシステム管理者として口止めのメールを送ったり。

アルビレオとは別にプライベート用の2ndPCを作ったり。


そうして1年以上もの間、俺は焔と共同戦線を張りながらこの世界の真実を探っていくことになる。


《side ミミル》


その時、アタシはベアと一緒に“偏欲の咎狩人”の足取りについて話し合っていた。


「ミミル、そっちはどうだ?」

「もうぜ〜んぜん、駄目ッ!
 2人の情報は勿論、あの時乱入してきた重槍使いがどこにいるのかも分かんない。
 ついでにBBSでグラフィックが剥がれた所が無いか尋ねても反応なし。
 正直お手上げ状態よ……」


あの聖堂での事件から1ヶ月近く経った今、それまで毎日のようにあった目撃情報がプッツリと途絶えてる。
今までは突拍子も無いくらいの噂や憶測が飛び交っていたBBSは、何故かすっかり鳴りを潜めてしまった。

ベア曰く、“何か作為的なものを感じる”らしい。
確かに普通じゃないとは思うけど、アタシからすれば今までよく長持ちしてた方だと思う。
大体1プレイヤーの噂が半年近く続いた現状の方が異常なんだから。

もう1つの手がかりになりそうな色黒の重槍使いの行方も分からない。
ヘレシィが名前っぽい言葉を呟いてたけど、アタシ達は誰もはっきりと覚えてなかった。
そのせいで碌に特定が出来てない始末。


「……こうなったら今まで出てきた目撃証言で確実そうなのをピックアップしていくか?」

「やっぱりそれしか無いのかな〜?」


でも正直それはあんまりしたくない。
ていうかそんなことをやってもあんまり意味が無い気がする。

そりゃあ、BBSを探れば目撃証言なんて山ほど出てくるけど。
そこからヘレシィとあの女の子に辿り着くのは多分無理。

だって結局それで分かるのはアイツの外見的な特徴くらいじゃないかな?
少なくともあの女の子が放った光を見たことがある人がいるなら、BBSにも書く筈だし。

アタシ達が知りたいのはそういった方向のものじゃない。
具体的には言えないけど、もっと根本的な“何か”だと思う。


「あ〜あ、昴からも特に連絡はないし……」

「それは仕方が無いだろうさ。
 昴は一般PCではあるが、同時に紅衣の騎士長という責任を負ってもいるんだ。
 あの時の事件は騎士団に伝えてないようだし、彼女の力はあまり当てにしない方がいい」

「それにしても何で昴は紅衣の連中を使おうとしないのかしら?」


質はともかく数だけは多いから情報とか集めやすそうなのに。
特にあの重槍使いなら人海戦術が最適っぽいんだけど。
あ〜ほんと、アイツの名前さえわかってたらなぁ……。

まあ、昴には昴の事情ってもんがあるんだろうし、別に深く追求するようなことじゃないわね。


片方が意見を述べ、もう片方がそれに難癖つけて結局却下されてしまう。

それを何度も繰り返しながら次にやるべきことを模索しあう。

そんな感じでベアとのんびり話し合っていた時に、それはやってきた。


<ピコンッ>

「え?」「ん?」


突然のメール受信音にアタシだけでなくベアも声を上げる。
もしかしたら2人同時に送られてきたのかも。

そしてその予想は当たり。


「……昴からのメールが届いてる」

「……おじさんのところにもだ。
 おそらく俺達2人に同じ内容のメールを送ったんだろう」


そう言った後、ベアはPCの動きを止めてしまった。
きっとメールを読み始めたに違いない。

というわけでアタシも早速見てみることにしよう。


『件名:重要連絡
 例の“偏欲の咎狩人”の件ですが、
 以前からシステム管理者宛に要請していた調査の結果が先程送られてきました。
 このメールに添付しているので、まずはそちらを確認して下さい』


始めはそんな文章。

昴がいつシステム側に連絡をしたのかは知らない。
けど一般PCの情報だけで一向に進展しない話を動かすのにはいいかも。
無論、システム側もたかが一般PCに全てを話すわけがないってことは分かってるつもり。


アタシは最初、そんな感じで新情報程度にしか考えてなかった。


『件の“ヘレシィ”と少女について調査した結果が出た。
 詳しいことは伏せておくが、どちらも仕様を完全に逸脱していることが判明。
 よってこの案件はこちらで捜査、及び両者の排除を行うことに決定した。
 また、一般PCに過ぎない君達がこれ以上介入することは好ましくない。
 以降、彼等に対して騎士団を動かすことは勿論、聖堂で起きた出来事について探ることも禁ずる。
 そちらの情報提供には感謝する。以上』


…………何これ?

碌に説明もされていない一方的な宣告。

多分このメールを送った管理者も、アタシ達が納得しないことを承知の上。
寧ろ警告的なものを強く含める為にわざとこんな形にしたんだと思う。

つまり…………それだけCC社の連中は秘密にしたいってこと?
でもたかが不正PCに対する処置にしては、いきなり排除なんて極端過ぎない?
まあ、あの女の子が放った光を考えれば分からなくもないけど……。

そんな疑問を先送りにして、そのまま昴のメールの続きに視線を移す。


『添付した文章は、システム管理者から送られたメールの全てではありません。
 ただこれ以外の内容はあくまで私個人宛であり、それも大したものではなかったので省かせて貰いました。
 先程の分は予めミミルとベアに転送するよう指示されたものです。
 ちなみにあの場に居合わせた重槍使いの方にも同様のメールが届いているとのこと。
 私は騎士団を束ねる者として、システム管理者の意向に従おうと思っています。
 また機会があれば3人で話し合って見るべきですが、とりあえずはこの辺で失礼します』

「ミミル……」


丁度読み終わった時にベアの声が聞こえる。

だけどアタシは返事を返すことなく、とめどなく湧き上がる疑問にただただ頭を悩ませていた。


最終的な結論を言えば、昴同様アタシもベアもヘレシィ達を追うのを止めることになる。

あの警告メールも勿論その理由の1つ……でもそれだけじゃない。

この時から1年以上アイツ等の噂が全く出なくなって、システム管理者にアカウント停止に追い込まれたと思ったから。
そういった噂が頻繁に流れたせいで、BBSにも話題にならなくなってしまったし。


それが勘違いだと知るのはずっと先の話。


《side ????》


ここは捨てられた物や者達が放り込まれたゴミ箱。

採用されなかった装備品やモンスター、オブジェクト、更には破棄されたPCまでもがここに集っている。

どのデータもこれから二度と使われることの無い不用品ばかり。

しかし、そんな終わりの世界に居る2人の影にとってそこは始まりの楽園だった。


「ん〜……これとかどうかな?」

「……………………」


少女は声を掛ける。両手、片足の欠けたPCに。

しかし勿論返事は来ない。所詮魂のない抜け殻だから。


「んしょ…………これも駄目〜」

「……………………」


それでも少女は全く気にしない。

何せその魂を再び吹き込むために行動しているのだから。


「待っててね…………トモアキ」


少女――シェリルはボロボロの“ヘレシィ”を慈しみながら、そう呟いた。


あとがき

中途半端に終わったAI buster編その後の巻。
とりあえずようやくこれで次回からSIGN編に入るなぁ。
物語を進められる楽しみがある反面、登場人物が更に増えるのがちょっときつかったりも。

プロットの見直しがあるので、次回の更新は明後日以降になりそうです。
ちなみに現段階でSIGN編は15〜16話程度、ZERO編は少なめの5〜6話程度を予定しています。


レス返しです。


>マジィさん

カールは小説【.hack//ZERO】の主人公です。
未完の作品ですが結構好きなので、オリキャラ状態ながら登場させました。
謎が謎のまま終わっちゃいましたが、後に明かされる予定ですのでよろしくお願いします。


>TAMAさん

焔さん何気に黒いです。それだけじゃないですけど。
前々からカールとアルビレオのぶつかり合いって面白そうだと思ってたんですよね。
カールのリアルってアルビレオのかつての上司の娘だし。
焔さんが本格的に物語の中心に関わってくるのはおそらくZERO編になるかと。
SIGN編ではあまり動かない予定です。

これからもよろしくお願いします。

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