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▽レス始

「.hack//intervention 第12話(.hackシリーズ+オリジナル)」

ジョヌ夫 (2007-02-19 01:06)
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“黒闇の守護者”

2ヶ月程前に設立されたばかりの新しい組織。
その主な目的は、初心者を狙うPKからの護衛と支援、そしてPKの調査及び特定。
アンチPKと言っても過言ではないその組織の構成員自体は、20数名とかなり少ない。

しかしながら量よりも質を重視したものとなっており、任務の成功率は格段に高い。
更に最近の紅衣の騎士団のように自らを特別視することなく接することから、一般PCからの受けもいい。

但し、PK達からは目の敵にすらされている状態。


“焔”

『The World』正式稼動時からの上級者プレイヤーにして、前述の組織の創立者でもある男性重剣士。
“偏欲の咎狩人”と黒い幽霊少女が、とあるダンジョンで会話をしているところに遭遇、その後しばらくして組織を立ち上げることに。
彼の周りには元々連れ添う者達がいたらしく、組織の設立と共に参入。小規模ながら体裁を整えることが出来た。

彼が組織を立ち上げた理由は、“偏欲の咎狩人”のPKKの噂を聞き心酔、それに便乗したからということになっている。
実際に彼自身はあくまで補佐の地位に留まり、かの人物をトップに置くと公に明言。
PKKという行為を疑われている人物を上に祭り上げることに、一般PC達から驚きや戸惑いの声も上がったが焔達は当然のように振舞っている。


焔は“偏欲の咎狩人”達に遭遇した時のことを聞かれた場合、いつもこう答えることにしていた。


“あの方達はこの“世界”の真実を知っているのです”


その言葉に誰もが首を傾げ、彼の真意を掴めない。

だから誰も知らない。

焔が聞いたというその内容を。


そして…………彼が動く本当の理由も。


.hack//intervention 『第12話 迷いの消えない捜査』


《side アルビレオ》


ここはΔサーバーのルートタウン、マク・アヌ。
どんな初心者もここを出発点とし、ここから様々なエリアへ旅立っていく。

そんな場所に“ホーム”を置く者は多い。

ホームとは、簡単に言えばアイテム貯蔵庫、内輪で集まって話す小休憩所。
広さもそんなになく、多くても4〜5人が精一杯の小さな部屋だ。

しかしその中には紅衣の騎士団が使っているような、大人数が集まれる所も存在する。
尤も、それ程大規模の団体がこの『The World』にそうある訳でもないが。


俺が知る限り、CC社に用意された碧衣の騎士団専用の管理スペース。
紅衣の騎士団が使っている駐留所。

あとは最近使われるようになった、目の前の“黒闇の守護者”の本部くらいだ。


「本部って…………支部なんて出来るのかな?」


半ば無理矢理ついてきたPC、ほくとが呟く。

まあここは大体20人程度が限界の広さ。
これから組織が拡大することを見越してのことなら、分からなくも無い。


「自分達の組織が大きくなることを確信してるんじゃないか?」

「へぇ〜……先読みって奴かな」


取らぬ狸の皮算用で終わったら笑い話にもならないがな。


「あ、そうだッ! アルに言っとくけど、ここからは“ほくと”に成りきるつもりだから。
 そこら辺のこと、よろしくね〜」

「…………別にそれは構わないが」


本来の“ほくと”を演じるつもりなら、俺としては正直勘弁して欲しい。

あの何も考えていないような姦しさは中学生、いや小学生レベルだ。その時点で俺には手が負えない代物になってしまう。
真逆の性格であるもう1つのPC“W・B・イェーツ”のことを考えれば、今からの行動も何らかの意図があってのものだろうが。


先方には悪いが、俺の代わりに彼女のお守りでもして貰うとするか。


「それじゃあ、レッツゴーッ!」

「…………はぁ」


勢いよく目の前の扉を開く彼女の掛け声に、いきなり気持ちが萎えてきた。

こんなことで本当に“世界”の真実とやらが聞き出せるのだろうか?


「あ、いらっしゃいませッ!」


そんな場違いとも言える言葉で俺達を迎えたのは、にこやかにお辞儀をする女性双剣士だった。

忍装束のような黒い布で全身を覆い、腰の部分には双剣。
ただ妙に目立つピンク色の腰まで伸びる髪の毛のせいで、忍というよりどっかのコスプレ染みた印象を受けてしまう。
更に子供のようなあどけなさも相まって、一瞬“ほくと”のキャラクターと同レベルの精神年齢では? などと考えてしまった。

そのせいで俺が対応に困っている一方で、


「いらっしゃったよ〜ッ!」


ほくとは至って普通通り、いや図々しいくらいの返事をする。
今回ばかりは彼女に救われたのかもしれない……のか?

そういえば目当ての人物に会うことばかり考えてて、肝心の聞き方を考えていなかったな。
まさか単刀直入に聞くわけにもいかないから、何らかの方法を考えるべきだろう。


それにほくとが合わせてくれるかどうかが問題だが……。


「本日はどういったご用件で?」

「ああ、それは「わたし初心者だから、護衛してもらおうと思って来ましたッ!」ほくと?」

「そうですか、では少々お待ちください」


俺がとりあえず単刀直入に焔の居場所を聞こうとしたところ、ほくとの突拍子も無い発言に遮られてしまった。
受付に慣れているのか、ほくとの方を振り返る俺を背に女性双剣士はそのまま奥に消えていく。
このホームは全部で4部屋あるらしいから、その何れかへ向かったのだろう。

俺はそれを好機と見て、ほくとに問いただす。


「おいッ! ここから先は普通、中心の俺が話を進めるべきだ。
 君はあくまでおまけ、本来ならここにいる必要の無い人間なんだぞ?」

「ふっふっふ〜アル、甘ぁ〜いッ! わたしが何も考えずに付いてきたとでも思ってたの?」

「ああ」

「即答ッ!?」


それが俺の、嘘偽りの無い返事だ。
彼女が俺について来る理由なんて、今まで特に無かったと思うんだが。

大抵の場合、勝手にやってきて勝手に喚き散らす、というどこぞの性質の悪い女と変わらないことばかりしているのだ。
良く言えば“天真爛漫”な性格の彼女なら、意味もなくついてきてもおかしくはない。


俺の言葉に膨れっ面で怒る彼女を見ると、違うとわかっていてもその考えを肯定したくなる。


「と・に・か・くッ! わたしに考えがあるからそれに従ってよねッ!」

「…………本当に大丈夫か?」

「フッ、問題ない」


何故か顎の下に手を持っていきながらニヤリと口元に笑みを浮かべるほくと。
俺はその言葉に逆に不安が急増したような気がした。

その瞬間、


「あ〜ッ! わたしの実力を信頼してないでしょッ!?
 今“勘弁してくれ”って顔してたの分かってるんだからねッ!」

「……………………」


“アルビレオ”は表情を変えていない筈なんだが、彼女には俺のリアルの表情まで分かってしまうらしい。
どこかに監視カメラでもついているのか? などと邪推したくなってきた。

どうせ彼女のことだ、俺が呆れるのを分かってて尚“ほくと”を演じているに違いない。
リアルの彼女がどんな人物かは想像もつかないが、“ほくと”を完全に演じられる程に底抜けに明るい性格なのかもしれない。
若しくは余程の演技派である可能性も否定できないが。

尤も、彼女のリアルについて安易に決め付けるつもりもない。
そもそもリアルの彼女が本当に“彼女”なのかすら分からないのだ。
変な先入観は持つべきじゃない。


そうこうしている間に、ようやく案内役の女性双剣士が再び姿を現した。


「今現在、ほとんどの方が既に他の仕事に向かっているので、護衛に出られるのは補佐役の焔さんだけなんです。
 それで確認しておきたいんですけど、そちらの男性は同じパーティーに?」

「……ああ、そのつもりだが何故?」

「私達の護衛条件は、基本的に同じパーティに加わることなんです。
 お金やアイテムを取らない代わりにメンバーアドレスの交換を行うんですよ。
 そうして広がったネットワークを元に活動を活発化させようとしているわけです。
 それでもし貴方が加われないのなら、パーティーが2人になってしまうので念の為に確認をと思ったのですが……」

「大丈夫だよッ! アルはわたしにベッタリだからッ!」


誰がベッタリだ、誰がッ!

わけの分からないことを口走るほくとは、とにかく無視しよう。
それより今すぐ焔と出会え、更にメンバーアドレスまで貰えるのは僥倖だな。

それにしても、一般PCに受けがいいとは聞いていたがそこまで繁盛していたとは。
PK達が紅衣の騎士団以上に嫌うのも分かる話だ。やりたい放題が出来なくなってしまったのだから。


いつか彼等が暴発しなければいいが……。


「ふふ、仲がよろしいんですね……分かりました。
 焔さんはいつでも出られるそうですが、もしそちらの準備がまだでしたら待ちますが?」

「…………仲がいいわけじゃない。
 とにかく2人共準備は済んでいる。そうだな、ほくと?」

「勿論ッ! ……初期装備のまんまだから準備も何もないけどね」


俺の了承無しの問いかけに、きちんと合わせてくるほくと。
この時点で俺は彼女が意図していることを何となく理解していたので、ここからの動きは大体予想がつく。

彼女の計画も上手く進んでいるようだし、流れに身を任せるだけでいいだろう。

あとの問題は焔から何をどこまで聞き出すか、だ。


「では今から呼んできますので「あ、ちょっと待って」はい、何でしょう?」

「わたしの名前はほくと、せっかく会ったんだから自己紹介しようよ」

「……本当に好ましい方ですね。
 私の名前は“氷鏡(ひょうきょう)”、“黒闇の守護者”の受付を主な仕事としております。
 以後お見知りおきを」


ほくとの性格が“好ましい”だって?

まあ、裏の感じられない馬鹿みたいな明るさは第三者からすれば“好ましい”のかもしれない。
俺も外から見れば彼女の姦しさは“微笑ましい”と言えなくも無いようなそうでもないような……。


しかし俺は、“氷鏡”と名乗る目の前の女性双剣士を誤解していたようだ。
彼女はちぐはぐなPCに似合わず、中身は中々に出来た人物らしい。
氷鏡にはどこか大人の包容力のようなものが感じられるのだ。


「うん、よろしくねッ!」


…………少なくとも俺の隣でエへヘと子供っぽい反応を示すほくととは大違いだな。


その後俺達は、焔が出てくる前に先にカオスゲートへ向かい、そこで合流することにした。
念の為に、ほくととこれからについて話し合っておきたかったからだ。

ついでにあまり馬鹿なことを口走らないように念を押すことも。


「ほくと、ダンジョンに入ってからは俺に任せてもらうぞ?
 君にこれ以上任せると、何を言い出すかわかったもんじゃない」

「え〜」

「“え〜”じゃなくて「ってのは冗談」……」

「元々わたしもそのつもりだったから安心してよ。
 アルは“偏欲の咎狩人”について、わたしの知らないことを知ってるみたいだし。
 ……全然教えてくれないけど」

「……………………」


その件に関しては純粋にすまないと思っている。

一方的に情報だけ求めて、彼女には何も返そうとしていないのだ。
どう考えてもこの場合、俺に非があるの明らかだろう。


だが“偏欲の咎狩人”、特に黒い幽霊少女については出来る限り秘匿しておきたい。

リコリスに似た彼女が俺に、いやどちらかと言えば神槍ヴォーダンに向けた尋常ならざる憎悪。
彼女が微かに呟いていた言葉が、今でも俺の耳に鮮明に残っている。


“アイツが……消した……アタシが……消された……”


俺はあの時、心臓を締め付けられるような思いに駆られてしまった。

彼女が呟いた“アタシ”。
あれがもし、自分と同じ境遇のリコリスを消したことを意味するのなら。

自らの死を“抗い難い運命”と称し消えていったリコリス。
もしその運命に必死に抗おうとしていたのがあの時の少女であるのなら。

俺がやってきたこと、これからも続けるであろうこと。
即ち碧衣の騎士団として放浪AIを狩り続けることは、『The World』を良い方向へ導く。
俺はそう信じて今まで神の槍を振るい続けてきた。


しかし果たして本当にそれでいいのだろうか?
最近はいつもそればっかり考えているような気もする。

彼女達は人と変わらないように喜び、悲しみ、そして……怒る。
以前の俺にとって“人を装う削除されるべきバグ”を消す作業に過ぎなかった。
だが俺はリコリスと出会い、短いながらも共に過ごす中で彼女が“生きて”いるのを実感してしまった。

最早、彼女達を心の奥底から無機物と認識できなくなってしまっていたのだ。


「……アル、どうしたの? 何だか疲れてない?」

「…………気のせいだ」

「…………そう」


彼女が特に何も聞かないでくれたのが嬉しかった。

リコリスと俺の顛末について、彼女は全てを知っているわけではない。
何故ならリコリスの最期の瞬間、俺と彼女はほくとを置いていったまま全く別のエリアに飛ばされたから。
その時俺はこの世界に潜む“意思”を知ることになるのだが、それはまた別の話。とにかく彼女はそれを知らないのだ。
数日後に一応、ある程度ぼかした内容のメールを送ったがそれ以来あの話は話題に出てこない。

彼女のさりげない心遣いかもしれない。
だとすれば、有難いのと同時に申し訳なさも感じるが彼女に真実を話すわけにはいかない。
この問題は既に1プレイヤーに喋ってもいい内容ではなくなっているのだから。


“モルガナ”という『The World』に偏在する神。
その走狗としていい様に操られている碧衣の騎士団。
先頭に立っているのが神の槍を携えた俺、“アルビレオ”だった。

神の示すがままに異分子を排除する俺達。
『The World』の秩序を維持する為に『The World』の神の指示に従う。
ある意味、これ程名誉なことはないのかもしれない。

しかし同時に、再びリコリスのようなAI達を狩っていくことになる。
神の槍を一振りする度に、聞こえない断末魔が響き渡るのだ。


結局答えが出ないままにループしてしまう。

このまま神の意思のままに、生まれ続ける彼女達を狩るのか?

それとも……


「……ルッ! お〜いッ! ……離席中かな?」

「…………ん? どうした?」

「“どうした?”じゃないよ。さっきからずっと声かけてたのに……」


また思考の渦に巻き込まれてしまっていたらしい。


「済まない、少し席を外していた」


とりあえずそう誤魔化して、自らの頭も清算する。

今はそろそろやってくるであろう焔なる人物に集中しよう。


……デバッガーの“アルビレオ”として、“それとも”なんて選択肢は考えるべきじゃない。


時を待たずして、俺達の方へ向かってくる1人の男性重剣士の姿が見えてきた。

全身を妙に刺々しい黒い甲冑で包み、後ろにはこれまた黒いマント。
得物らしい自分の背丈程の大剣を肩に乗せるその姿は、さながら黒騎士と言ったところか。
なのに耳にかからない程度の金髪、中性的な顔立ち、更には常に振りまかれる笑顔……とギャップがありすぎる。

氷鏡のコスプレ忍者といい“黒闇の守護者”とやらはギャップ好きなのか?


「お待たせしました」

「いや、気にしなくていい」

「そーそー、それより早く行こうよッ!」


礼儀正しく律儀に一礼をする焔。

確かにさっさとダンジョンに向かうべきだな。


「では互いの自己紹介の方はフィールドに入ってからにしましょうか?」

「分かった。それならメンバーアドレスを渡すから俺のパーティーに加わってくれ」

「はい、有難うございます…………おや?」

「どうした?」


俺のパーティに加わったかと思うと、焔はにこやかな表情を崩すことなく首を傾げる。
別段、このPCそのものに他と違う部分は無いはずなんだが……通常の武器の中には存在しない神の槍以外は。
それもパラメータは他とそう変わらないもので、以前出会ったバルムンクやオルカには『fragment』時代の代物と言うだけで誤魔化せた。

それにしても、つい数日前までソロプレイヤーだった俺が僅かな間に、ほくと、オルカ、バルムンク、そして焔とアドレス交換か。
デバッガーである俺が一般プレイヤーと接触することはあまり好ましくない。下手をすると業務規定に抵触する。
だから鉄則と決めていたつもりなんだが、人と言うものの脆さを思い知らされた感じだ。


…………いや、俺自身の脆さだな。


「いえ、気分を害したようでしたら申し訳ありません。
 ただ貴方はかなりの高レベルプレイヤーのようですので、態々護衛を招く理由が少しばかり気になりまして……」

「あ、それはねぇ〜、わたしが提案したのッ!
 最近えっと……「PKだ」そう、それが増えてるって聞いて怖くなっちゃったんだ。
 ここはゲームの世界だけど、殺されるなんて絶対やだもんッ!」

「……俺はモンスター相手なら腐る程戦った経験がある。
 だがもしPK共に襲われたら、人特有の変則的な動きについていけるか不安になったのさ。
 それで理由としては成り立つだろう?」


俺はPKとの戦いの場から離脱したことはあっても、刃を交えた経験はない。
別に態々戦わなくても、“アルビレオ”が離脱した後に“渡会一詩”が外からそのPCを探索。
その後にPK行為をした者達の経緯を調べ、厳重注意処分を下すようGMに連絡するだけでいい。

被害者は俺自身であり通報、探索するのも俺。
卑怯かもしれないが、容認されていない行為を行う者達には当然の処置だと思っている。

この『The World』をいいゲームにする為には、彼等のような存在はいてはならない。
“デバッガー”がすべきことではないが、“システム管理者”としては見過ごせないことなのだ。


俺のその場凌ぎの理由付けに、焔は一瞬顎に手を据えながら考えているようだったが、


「……そうですか。ああ、安心して下さい。
 こちらも仕事を請け負った身ですから、理由が何であれ約束は絶対に果たしますよ。
 それでは行きましょうか?」

「ああ」

「よぉしッ! それじゃあ楽しい冒険の旅にしゅっぱーつッ!」


楽しい冒険の旅、か。

向かう先での話も楽しい類のものであればいいが、な。


……………………

………………

…………


俺達がやってきたのはレベル1やら2やらがゴロゴロ転がっている超初心者エリアの森林地帯。
ほくと自身はかなり前から『The World』に滞在しているものの、レベルはそこら辺のモンスターと大差ない。

だからここぐらいの場所が丁度いいくらいなのだ。


「それではダンジョンまで歩きつつ、自己紹介をしましょうか。
 僕はあくまで護衛ですので、基本的には貴方達で戦ってもらうことになります。
 主に回復役を引き受ける予定ですので、気にせずどんどん敵を倒しちゃってください」

「成る程な……それなら俺も回復呪紋に徹することにしよう。
 ほくと、せいぜい頑張って戦ってくれ」

「ええーーーーッ!!」


焔の提案は俺にとっても嬉しいものだった。

おそらく彼としては、初心者が戦いに慣れ易いように思っての配慮なんだろう。
なら初心者で無い俺が戦う必要も無し。いくらレベルが低くとも、ここの敵に一撃でやられる可能性は皆無。
彼女に戦闘は任せて、俺はひたすら初級回復呪紋『リプス』を唱え続けようじゃないか。

いつも俺を振り回す彼女には良い薬だ。


「ぶーぶーッ! 横暴だ横暴だぁーーッ!!」

「パーティーに入ったから分かるとは思うが、俺の名前はアルビレオ。
 ずっとソロでやってる重槍使いだ」

「僕は焔、見ての通り重剣士です。よろしくお願いしますよ」

「むぅ〜しぃ〜すぅ〜るぅ〜なぁ〜ッ! 泣いちゃうぞぉッ!」


全く……しつこいな。

実は彼女に戦闘を任せるのには、他にも理由がある。

これから話す内容に、出来る限り彼女に口出しはして貰いたくない。
焔から情報を聞き出す為には、ただ一方的に問い質すだけでは無理があり過ぎる。
彼の聞いた“世界の真実”が、この『The World』の神に繋がっている可能性もないわけではないのだ。

その為、こちらもある程度“偏欲の咎狩人”に関する情報を渡す必要がある。
他では聞けないような、デバッガーの俺にしか分からない類の情報と交換する形をとるべきだろう。
そうなると、第三者に過ぎないほくとの存在はあまり好ましくないと言える。

既に焔のメンバーアドレスは貰った。
だから後から連絡を取り合うことも出来るが、せっかくの機会をみすみす逃したくは無い。


だが同時に喚く彼女をどうにかしなくては、話すらままならない。
俺は周囲にも分かる程の深い溜息をつきながら、ほくとを宥めるべく近づいていく。


「分かった、分かったから君も自己紹介を済ませろ。
 俺も戦列には加わってやるから、君はその援護をしていればいい」

「うむ、それでよろしいッ!
 焔だっけ? わたしの名前は“ほくと”。
 初心者も初心者、呪紋なんてほとんど使ったことの無い呪紋使いでーすッ!
 護衛、よろしくねッ!」

「ははは、元気の良い方ですね。
 こちらこそよろしくお願いします」


姦しいほくとの言葉に、ここにも好意的な人間がいた。
氷鏡といい焔といい、どうしてこうも人の良さそうな反応をするのやら。

2人とも俺とは根本的に考え方が違うのだろうか?


俺が心の中で頭を悩ませ、ほくとが五月蝿いくらいの声で喋りちらし、それを焔が微笑ましそうに静かに聞く。

そんなある意味和やかとも空気が流れる中、


「…………ちょっと待って下さい」


突然焔からの静止の声が。

その声色はついさっきまでの穏やかなものと変わらないのだが、俺にはどこか違和感があった。
“どこ”と聞かれると答えに戸惑ってしまう類の、所謂“そんな予感がした”というものだ。

俺とは違い、ほくとはまるで気づいていない様子。


「どうしたの? もしかして離席する?」

「いえ、先程からチラチラとこちらの様子を伺う影が見え隠れしているようなのです。
 モンスターならマップに表示される筈なのに、全く反応無し……」

「……俺達が他のPCに付け狙われている?
 態々身を隠すということは…………つまりPKかッ!?」


まさかこんな時に限って奴等が出てくるとは思いにもよらなかった。

PKが増えてきているのは事実だが、それでも絶対数は少ない方。
全体から見て遭遇する確立はかなり低い筈なのに。


「え? ええッ!? 嘘ッ!?」

「ぴんぽ〜んッ!」

「あったり〜ッ!」


慌てて後ろを振り返るほくとの声に合わせるかのようにして次々と姿を現すPK達。
木の陰から、木の枝の上から……様々な形でやってくる奴等は、1人や2人で済むような数じゃない。

5人、6人…………おいおい、明らかに10人を超えてるぞ?


その様子を見てもあくまで沈着冷静な隣の黒騎士の姿に、俺は思わず問い質した。


「焔、この人数はどう考えても普通じゃないッ!
 俺も今まで何度かPKに襲われた経験はあるが、多くても2人程だった。
 …………この状況、君はどう見ている?」

「大方、僕が護衛に出ることをどこからか聞きつけた彼等が、尾行していたのでしょう。
“黒闇の守護者”の中でも、僕は人一倍多くのPK達と戦っていますからね。
 その分彼等の恨みも買ってしまっている訳です」

「ちょ、ちょっと〜〜〜〜ッ!! 何のんびり話し込んでんのッ!?
 これってどう考えてもやば過ぎだよ〜〜〜〜ッ!!」


確かにこちらに分が無さすぎる。
こうなったら今日のところはあの用件を諦めて、ゲートアウトするか?

ジリジリと近づいて来るPK達に俺が脱出を図ろうとしたのだが、


「ははは、ご安心ください」


焔は相変わらず沈着冷静、余裕すら感じられる口調で呟く。

切羽詰っている俺やほくとが彼にどうすべきか尋ねようとした時、


「だ、誰だッ!? <ザシュッ>ぐぅあッ!?」


PK達の後ろからそんな叫び声が辺りに響き渡った。


「ほくとさん、アルビレオさん。
 彼等のことは大丈夫ですので、僕達は僕達で“楽しい”旅を続けましょう」


何事も無いかのように俺達を促す焔の声は、何故かPK達の叫び声以上に俺の耳に届いたような気がする。


俺はこの時、焔が曲者であることを確信した。


あとがき

アルビレオの迷い&黒闇の守護者登場の巻。
主人公にシェリル、焔に氷鏡とオリキャラばっかり増えてるなぁと思う今日この頃。
だからこれから物語を動かす時には、原作で目立たなかったキャラを使おうかな……とか思ったり。

SIGN編までは残り2、3話になるかと思われます。
でも外伝っぽいのも入れてみたいなぁ……(某ドーベルマンとか)。


レス返しです。


>とほりすがりさん

シェリルが主人公をどのように戻すのか。
実はそれが物語における結構重要な鍵だったりしたりしなかったり。
焔さんがいつ、どこで出てきたのかは……まあ本編でってことでお願いします。


>TAMAさん

主人公はある意味で鈍感モテモテ男です(笑)。
あとシェリルの色んな秘密は本編で少しずつ明かされる予定。
それらも含めてこれからも見守ってくれると作者感激です。


>白亜さん

よく考えたらほくとって、黄昏の腕輪伝説の時代までゲームやってるんですよね。
だからおそらくこれからほぼ全編通して登場してくることになりそうです。
これからもお互い頑張りましょう。


>TAUさん

G.U.の本編再構成に関しては、正直少し迷ってます。
この話の続編にすべきか、全く別物にすべきか……。
まあ続編って言っても主人公変わるんですけど。世界観を受け継いだ再構成といった感じかも。

vol.2面白いです。無駄に熱中しています。
……下手すると執筆速度が落ちそうな程に。

焔さんの正体に関しては今は秘密って事で。
だけど見ず知らずの人じゃない、というのは鋭い予想だったりします。

ネットスラムの住人は誰を出すか検討中。
タルタルガは確定してるけど、スピリタスは……出せるように頑張ります。

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