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「サイボーグの宇宙(そら) 第三話(宇宙のステルヴィア+ゲスト一名)」

円舞曲 (2007-02-18 05:43)
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「楽しいかな?」
「……楽しいのが半分、憂鬱なのが半分かしら?」

王子の姫、男と女が一堂に集まって舞を魅せ合う場の中で、僕は踊りの相手に問いかけた。
返ってきた答えは半分予想外のもの。てっきり憂鬱マックスかと思っていた不安感が、綺麗に半分、宇宙の彼方に消えていく。
とはいっても、やよいさんの気分というか機嫌というか、まぁそんな感じの何かがよろしくないのは事実で、理由も解り切っている。
ずばりそれは、僕が直前まで踊っていた女性、町田初佳先輩と、やよいさんの関係によるものだ。

やよいさんと町田先輩は二年前まで、同等の、しかし他の生徒を遥かに凌駕した実力で、ステルヴィアの期待の星だった。
だからこそ二人は良いライバル同士……みたいな関係だったのだけど、それが、ある事件によって崩れ去ることになる。
その頃二人が新たに訓練を受けていた競技、ライトニングジョウストの自主練習にと、町田先輩がやよいさんを誘ったのが起因。
初めは普通に練習を重ねていただけだった。だけど、時間と共にその内容は過酷なものとなっていき、結果、大きなミスが生まれてしまったんだ。
損傷したやよいさんのビアンカがエラーを起こし、彼女は、果てしない宇宙へと放り出された。
奇跡的に一命を取り留めこそしたのだけども、その経験がやよいさんに与えた精神的な負荷は、大きすぎたんだ。
その後、恐怖の克服が困難だと理解したやよいさんはステルヴィアを降りて、地球に帰った。

そして今、今日のこの日に、やよいさんは帰ってきた。勇気の剣と意思の鎧で復活を果たし、ステルヴィアに戻ってきた。
それを知って僕……感動したんだ。

「その憂鬱を取り除くこと、僕には出来る?」
「わからないわ。あなたが意識して今の空気を作ったとは思えないし……」

『今の空気』とは、とてもわかりやすい表現をしてくれる。一言で表すならば、今この場に漂っている雰囲気は……修羅場。
先程まで一緒に踊っていた女性、町田先輩の視線が、時折僕とやよいさんを掠めているのもあり、非常にギクシャクした嫌な感じだ。
でも、わかっていた結果に対し、辛いという感情はそれほど抱かない。それ以上に罪悪感だ。

「それは誤解だよ。僕はしっかりと意識して行動したから、今に至った。これが事実ね」
「……どういうことかしら?」

うぅ……なんだかちょっとだけ怖いよぉ。

「えっとね……偶然ね……その……」

自分が嘘を付こうとしている。先程までと違って、冷静でいられない自分が怖い。
どうやら脳内のコンピューターが判断に困っているみたいだ。所詮僕なんて、機械の力なくしてはただの低脳バカに過ぎない、のかもしれない。

「ごめん」
「どうして謝るの?」

「その……ね、ちょっと嘘を付きそうだったから、それで。正直に話すから、よく聞いててね」
「うん」

正直に話そうと決めたとき、ついさっき、コンピューターが何も誤作動を起こしてなかった事実に直面する。
初めからコンピューターは僕に、嘘を付けと命令していたんだ。だけど僕の脳は、それを受け入れなかった。
要するに僕の脳、生前の道長 空が持っていたものと同じ脳は、正直者なんだ。

「僕は、二年前、やよいさんと町田先輩の間に起こった事件の内容を知っている」
「!!」

予想通り、やよいさんは驚いた。まぁステルヴィアの在校生でも知っている人が少ないらしいから、当然だ。

「それ以外にも、僕はたくさんの事を知っている。それを味噌に使って、町田先輩に近づいたんだよ」
「……一体それをどこで知ったの? 道長君……あなた、何と関係しているの?」

「ステルヴィアに関しての事には、もうあらかた……ね。
 知ったのは今日になってから。あらゆる情報を、たくさん教えられたよ。拒否権無効でね」

「……そう。わけが……わからないわね……」

本当だ……。本当に、ワケがわからない。僕は機械なのに、少々気まぐれ過ぎる。
理由は……わかっている。機械の僕と、生かされている僕の考え方が、根本的なところで違っているからなんだ。
だから、ちょっとした考えのすれ違いが蓄積していく。数ある物事が、どんどん深みに嵌っていく。最低だ。
自分の頭と考えがすれ違うなんて……ホント……ワケわかんないよ。

「やよいさん。足……止めないでね」
「…………」

「今止められたら、きっと……悲しくなるから。どうしようもなく」
「それじゃあ、止まってしまおうかしら?」

「……イジワルだよ」
「お互いさま。道長君も、相当意地悪な子よ。思わせぶりな態度ばかり、誰にでもぶつけるんだから。例えばそう……あの赤い髪の女の子とか」

「見てたの?」
「途中から。もちろん、キスシーンは心のシャッターに……カシャって、ね」

「……そんなこと言ってると今にバランスを崩して、予想外のキスシーンに突入するよ」
「ほっぺたかしら? それとも手先?」

「おでこっていう手もあるね」
「背伸びしないと、届かないわよ?」

「人が気にしてることをネタにするのは反則だよ」
「お互い様にね」

……どうしよう。面白い。

「……楽しいね」
「そうね……。でも、楽しい時間は直ぐに終わってしまうわ」

「それもそうだけど、思い出にはなるよ」
「そうかしら? それにはもうちょっと……印象強い出来事が必要だと思うけど……」

「例えば?」
「……バランスが崩れてしまうとか……かしら?」

「言葉遊びがお上手だね」
「お互い様」

「……曲……終わるね」
「最後くらい、男らしい姿を見せてくれるのかしら?」

「もう十分見せたつもりだけど……今の僕にはこれが精一杯」
「そう……。終わりがカンジンっていう言葉もあるのに……」

「過去の名作ほど、バッドエンドが多いものだよ」
「それは主に洋画の話。私たちは二人とも日本人よ?」

「……そうだね」

楽しい言葉遊びの時間に、終わりが訪れる。早すぎたのか……それとも遅すぎたのか、よくわからない。
でも……きっと、タイミングは悪くなかった。

「……だけど、エンディングを迎えるには早すぎるよ。まだ始まったばかり、なんだから」
「同意。それじゃあ……お互い、同時に足を止めましょう?」

曲の終わりがやってくる。
最後の一小節が来ても、僕が足を滑らせることはなかった。


「楽しそうだったね、道長君」
「うん……すごく、楽しかった」

なんだかよくわからない事になったけど……笑顔で迎えてくれた片瀬さんが、どうしてか、とても眩しかった。
キラキラしてるとかそういうのじゃなくて、純粋に……色が、美しいって思ったんだ。

「でも……心臓には悪かったよ」

追突に始まってしまった、胸躍らされる駆け引きの疲れが、僕の全身に寄りかかっている。

「それじゃあ、道長君。私とアリサちゃんはもう部屋に行くね」
「うん……また明日。同じクラスになれても、なれなくても、一緒に頑張ろう?」

「うん」


片瀬さんが音の鳴り止んだこの場所から離れて三分後、僕も、自分に割り当てられた部屋に戻った。


サイボーグである僕の身を隠すための、少し大きな個室部屋、のはずなのに……どうやら住人は、僕だけじゃなかったみたいだ。
そういえば『家』を出る前に、素敵なパートナーが待っていると父さんに言われた覚えがある。『彼女』がそうなのだろう。

「……幼女だ」

まったく知らない、たぶん僕と同じで人間じゃない人が、部屋の中に取り付けられた、少しスペースをとる専用機具……カプセルのような物の中で眠っている。
すごく綺麗な、桃色の髪を持っている女の子。僕より背が低い。僕と違って肌は肌色で、材質はおそらく人間並みの柔らかさ。
カプセル越しに見るだけでも、その構造の細かさが理解できるほどに、丁寧に、大切に作られたのだみたいだ。

「!」

途端、女の子の閉じた目蓋が開かれる。同時にカプセルが開いて、白い煙が中からあふれ出てきた。
ロボットの女の子の瞳は、紅い。真紅とまでは行かないけれど、まるで……そう、ルビーのような色をしている。
そんな女性が起き上がって、僕を見た。

「君は?」

紅い機械の瞳が、一度だけ、ぐるりと回る。

「ヴェクター・インダストリー社製、百式観測型アンドロイド01」

01……つまり、プロトタイプということ。

「通称、M.O.M.Oです。テスト運用ということで、これから一年間、道長さんのサポートを勤めることになりました」

彼女が自己紹介を終えると、その時になって、僕の頭の中に彼女の情報が送られてきた。
全部、彼女の答えた内容と一致している。試作段階のプロトタイプである彼女の試験運用のパートナーとして、僕が選ばれたようだ。
「仲良くやりなさい」という父さんのメッセージも、一緒に送られてきている。

「モモ……で、いいかな?」
「はい」

確かにこの子なら、仲良くやれそうな気がする。本当に素敵なパートナーだ。

「これからよろしく、モモ」
「はい。よろしくお願いします」

そう言ってモモは、礼儀正しく頭を下げた。


今回の教訓  『本当に女性に恵まれてるのは僕じゃない』  by光太


 作者戯言

何というか、やってしまった……ていう気分です。
やよい嬢のことしかり、予期せぬゲストキャラクターしかりです。
モモについてですが、知らない方も多いと思うのでご説明しますと、ゼノサーガシリーズに登場する『ロリの全て』です。
とはいっても、あくまでゲストなため、今作においてはゼノサーガシリーズとまったく関係ありません。スペシャルゲストです。
話に新鮮味を加えてかつ進めやすく出来る可愛いサポートキャラクターはいないかなぁと考えて、二番目に彼女が出てきました。ちなみに一番目に出てきたのは、ステルヴィア原作で監督を務めた方の生み出した名作、『機動戦艦ナデシコ』のホシノ・ルリその人だったという裏話もあります。
正直ルリを出した方が面白そうではありましたが、ナデシコは途中までしか見ていないのでやめました。
因みにモモはエピソード気了点でのモモに近い感じです。今作では、主に広範囲のサーチによって空をサポートしたり、家事のお手伝いをしたりなど、ステルヴィア原作にはあまり見られなかった分野で活躍してもらう予定です。
先程も言ったとおりゼノサーガ本編との関連性はないので、普通に小説の登場人物だと意識して下さると幸いです。

最後に、前回嬉しいご感想を下さったのっぽさん、イザークさん、樹海さん、どうもありがとうございました。

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