「へぇ……それじゃあ道長は、宇宙初めてなんだ?」
「うん。オーバビスマシンの操縦とかは、日本の訓練施設でみっちりしごかれてたけどね」
「え!? 道長、オーバミスマシン動かせるの?」
ステルヴィアの入学式が終わったあとの歓迎会で、僕と片瀬さんとアリサさんは、話をしていた。
やよいさんはちょっと用があるとかで、少し前に席を外している。音山君は、近くの男子グループの会話についさっき巻き込まれた。
聞こえる限りでは、入学早々美少女『四人』と話をしているのは何故かとかそんな内容。特にピエールっていう人がよく喋っている。正直殴りたい。
「まぁ、そのために生まれてきたようなもの、だからね。結構自信あるよ」
大抵の新入生は、ステルヴィアへ来て初めてオーバビスマシンに触れる。だから僕は珍しい部類に入る。
とはいっても、僕ほど珍しい存在なんてほとんどいない気がするんだけども。
オーバビスマシンの操縦には自信がある。何せ僕はサイボーグだから。秘密にしてるけど、事実だ。
それも、オーバビスマシンを含めたあらゆる宇宙を飛行する機体の性能を、限界まで引き出すことをコンセプトに造られたサイボーグ。
つまり、人間には絶対に手の届かない域を維持できる、生体兵器といったところ。初めから、誰よりも上手く動かせる。
知られたら間違いなく軽蔑されるような、そんな存在なんだ、僕は。
「すごいなぁ……。私なんて、今日始めて、実物のケイティを見たのに……」
羨ましそうっていう風はなくて、ただ純粋に尊敬の念を向けてくる片瀬さん。なんていうか、すごく可愛い人。
それは容姿も含まれて入るけど、彼女の場合はそれ以上に、性格の魅力が大きく上回ってる。その点なら、アリサさんもやよいさんも同じだけどね。
つまり、僕が今日友達になれた人達は、皆、いい人ばっかりなんだ。
「ていうか、一体どうやったらオーバビスマシンを操縦するために生まれてこれるのかが気になるわね。ねぇ、一体どうやったの?」
わりと痛いところに目をつけてくるのはアリサさん。一緒にいるだけで、心を楽しくしてくれる人。
容姿も、『美少女』の部類に含まれているだけあって、整ってる。特に、笑顔がすごく綺麗なんだ。
美しいっていう意味の綺麗じゃなくて、なんていうか、人間性を際立たせる感じの、つまり心を写し出す綺麗さ。もちろん可愛いさもあるけどね。
「機密事項。親友になったら教えてあげる」
「じゃあ今から親友ね。で、どうやったの?」
……え? 親友ってそんな簡単になれるものだったっけ? データベースでーたべーす!
『親友』 互いに心を許しあっている友。特に親しい友人。
えっと……これは今の僕とアリサさんの関係に一致するのだろうか? 心はある程度許しあってるとはいえ、とてもそんな風には思えない。
でもアリサさんは今から親友だって言ったし……あぁもう、なんて常識はずれなことを言ってくれる人なんだ! 僕に言えたことじゃないけど……。
……いや、違う。
「本気なの? 親友になるって……」
「本気も本気。マジのまじまじ。だから教えて!」
本気なんだ……アリサさんは。本気で言っている。おちゃらけてるように見えるけど、それでも真面目で、本気なんだ……。
でも……だからこそ、まだ教えちゃいけない。教えられない。
親友になったら教えるっていうのは、教えなければいけないほどに触れ合ってしまった時の事を意味してるんだ。少なくとも、僕の中では。
「ちょっと耳貸して」
「うんうん」
「……私も知りたいような知りたくなくもないような」
アリサさんの耳に口を近づけ、計算された角度で、周りに声が届かず彼女に聞き取れる程度の声量で、僕は呟いた。
「僕の事実を知るかどうかは、世界を変えるか、変えないかってことだよ」
「え?」
どういう意味だと言わんばかりに困惑するアリサさん。
「知れば今いる世界にはいられなくなる。確実にね」
僕の中には、一般人が絶対に触れちゃいけない情報が山ほど詰まってる。僕自身も、それに含まれるといえるだろう。
そしてその情報を所持する僕は、極力情報を漏らさぬよう注意しなくてはならないが、口外する権利がないわけじゃない。
だけど、それを知った者がそれを口外することは許されない。下手すりゃ監禁か牢獄行きだ。
「知った時点で表の世界から引きずり出される。だからまだ、絶対に知っちゃいけない」
今の世の中、一つの情報が爆弾よりもずっと危険視される事も少なくない。僕を歩く爆弾だと呼称してもいいだろう。
「まぁ、とはいっても、僕がアリサさんに教えられるのはどうせ、僕の正体ぐらいが限界だろうけどね」
口外できる範囲の情報と、絶対にもらすことの出来ない情報。それを抱えて僕は生きている。
サイボーグであることすら一握りの人しか知らない分、誰かに狙われたりとかはない。
それどころが、僕があらゆる情報を握っている事実を知る者こそほとんどいないだろう。
だって……『父さんのミス』で埋め込まれてしまった情報なんだから。父さんの一番の悩みだ。
僕の脳と直結しているデータベース内のデータの消去は不可能。でも、そのおかげで助かってる面が多いのも事実なんだけどね。
ただ、もしおおやけにばれたら地獄行き決定です。リアルなゴミにされます。
「それでも知りたいっていう命知らずも世界にはたくさんいるだろうけど、アリサさんはどうなのかな?」
耳に近づけた顔を離し、無言で僕の顔を見ているアリサさんに、一度微笑んで後ろを向いた。
「そろそろダンスパーティーが始まるころだよ。最初に踊ろうと思ってた人がいないから、片瀬さん、相手、お願いできるかな?」
「えぇ……恥ずかしいよぅ……」
いろんな意味で恥ずかしいのだと思う。踊りの経験はないだろうし、僕と踊るのは、変に見られるかとか気にしてしまうだろう。だって、僕がそうだから。
基本的に社交ダンスというものは、男性と女性で役割が全然違うため、同姓同士では踊らない。
だけど、周りからすれば僕は女。そんな僕と片瀬さんが踊るのは、ネタ的にそれはそれは愉快なことだろう。
でも、そんな危険(?)をおかしてでも踊る価値はある。理由は簡単……ただ単純に、女の子と踊りたい。
「アリサさんは?」
「…………」
「……アリサちゃん?」
何かを考えるように、ちょっと難しい、わりと似合う表情で数秒動きを止めたアリサさんが、頷いた。
「やっぱり、道長と友達になったのは正解だったかも」
その時彼女は笑ったんだ。不敵っぽい、そんな感じに笑った。
鳴り出す音楽。リズムへの乗りやすさと、心へ『楽』を送る軽い旋律に満たされた時間が始まる。
1、2、3、4 1、2、3、4 1、2、3、4
自然に乗ったリズムがリズムへと繋がり、僕の『記憶』の中のステップが流れるように導かれ、少し戸惑う少女を巻き込んだ。
僕より少し背の高いアリサさん。だけど今は、平和な不思議の国に迷い込んだ一人のお姫様。
僕の髪は白く長いけど構わない。白馬の王子には、そんな髪を持った人だっていたはずだ。
いや、あれは白銀の髪だったっけ? 真っ白い髪の王子は、御伽噺には出てこないみたいだ。
でも、あらゆるジャンルを巡ればそれも出てくる。王子の顔が女の子みたいでも、髪が真っ白くても、この場においてそれは全て許される。
……て、一体僕は何を考えているんだ? まぁ……いっか、楽しいし。
「ねぇ……さっきの話……」
楽しそうだとか言っても、やっぱり恥ずかしいらしい赤髪の少女の頬は淡い桃色。
「あまり焦らないほうがいいよ。慣れてくるまでは、目の前のことだけを見つめたほうがいい」
自分が痛くなるほどに、自分がこの状況を楽しんでいるのを自覚する。
どんどんドツボにはまって、役になりきってしまいそうだ。
「体全体でリズムを感じてみれば、そう難しくない。やってみて」
機械的なまでに完成されたリードを続ける自分に流されつつ、その重みを減らしていく少女の動きが、更に更により良い軽さを掴みだす。
周りを見えなくしてあげよう。とことんやってみよう。そんな、自分の中の男としての遊び心が呻いている。
回っても、視線が一直線で結ばれるように。
「やっぱり君は紅色だ。生活の楽しさを示すべく動きつつも、舞踏会では、その奥底にある乙女を呼び出さずにはいられない。そうでしょ?」
今のアリサさんは、まるで本物のアリス。流れに戸惑いながらも、より奥へ、より奥へ迷い込もうとする可愛らしさが僕を引き付けて放さない。
「どうしたんだろ……私」
「どうもしてないよ。君の足はもう一人で歩いてる。どうかしてるはずなんてないよ」
正直な話、まさかここまでアリサさんが乙女チックになるとは思わなかった。
おかげで少々行き過ぎている。本人に余裕が出てくる前に、そろそろ引いたほうが良さそうだ。
「でも、でも! 頭がグルグル回ってて、何も考えてない。何も考えられない」
……案外一番女らしいのかもね、アリサさん。
「大丈夫。それなら僕が、夢から覚ましてあげる」
今の僕の体は、僕のデータベースにある童話の王子を再現すべく動いている。サイボーグだからこそ出来る芸当だ。
だけどその時僕は、童話に出てくる『姫を目覚めさせるための方法』を考えておくべきだったのかもしれない。
「!」
驚くのも無理はないだろう。僕も驚いている。何せ僕の腕は勝手にアリサさんを引き寄せて、目覚めのキスを披露してしまったのだから。
眠りの森の美女を永遠の夢から解き放った魔法、多くの人が知っているはずだ。
アリサさんの顔が見る見るうちに紅く染まっていく。正に紅色。
「……ごめんね、アリサさん。ちょっとやりすぎた」
何かが切れたのか、紅い顔のアリサさんは僕にもたれかかってきて、そのまま気を失った。
「いい夢見てね、アリサさん」
「なんて事があったから、一度戻ってきたよ」
「うん。見てたから知ってる」
先程三人で放していた場所まで戻ってきて、今、僕たちを見守っていたらしい片瀬さんと話をしている。
「でもアリサちゃん、本当は乙女なんだね。ほっぺにキスされたら……確かに紅くなっちゃうと思うけど」
調子に乗ってしまったけれど、ファーストキスを奪ったわけじゃない。僕はアリサさんの頬に唇を付けたのだ。
「僕もビックリだよ。気が付いたら周りの注目買ってるし。アリサさんが起きた時このことを忘れていてくれると嬉しいよ」
普通に覚えてるだろうけど、かなりショックの大きい事件なのだと思う。実は無茶苦茶反省してます。
「でも、アリサちゃんすごく楽しそうだったよ?」
「そうだと少しは救われるよ。とんでもないことしちゃったもの」
どう考えても新入生の歓迎会でやることじゃない。一度調整してもらったほうがいいだろうか?
「道長君、初めて会ったときとなんか違うね」
自覚している。
「正直言うと、それに一番驚いてる」
……男道、一歩前進かな?
そんな事を考えて笑ったとき、その人と、目が合ってしまった。
見覚えのある紫色のショートカット。当たり前だ。彼女は此処ステルヴィアにおいて有名人なんだから。
「ねぇ片瀬さん。もう一度ダンスの申し込みをしたら受けてくれる?」
「へ? えっと……その……どうして私なの?」
なんとなく、なんて言ったら怒られるかな? どうしても今は、誰かと踊っていたくて仕方がない。
「踊りたい気分だし、片瀬さんとだったら楽しそうだもん」
それこそ周りも愉快だろう。女にしか見えずとも、せめて『男役』であると此処にいる男子に知らしめておくだけでも意味がある。
「でも、やっぱり私じゃ駄目だよ。踊ったこととかないし……」
無理に強制するつもりはまったくない。ただ踊りたいから頼むだけで、断られるなら、引けばいい。
「それじゃあ僕は、次の相手を探しに行くよ」
「なんか道長君、軟派してる男の人みたい……」
そうなんだろうか? それなら、それはそれで男らしくていい。
女性に踊りを申し込むのは男の役割だ。男道を極めるためにも、もっともっと踊りまくるぞ!
それじゃあ次のターゲットは……また目が会った。よし、決まりだ。分の悪い賭けかもしれないけど、当たってみる価値はある。
「始めまして、町田初佳先輩。道長 空、新入生です」
僕が狙いを付けたのはステルヴィアの最優秀生徒四人組『ビッグ4』に内の一人、町田初佳先輩。
四人の内では最年少でありながらも、その操縦センスの高さは最も高いとされている、努力型の天才。頑張り屋さん。
「さっき赤髪の女子と踊っていた子ね。ダンスパーティーは男女の組み合わせがマナーだから、注意しなさい。でもまぁ、歓迎するわ。よろしくね」
……なんていうか、予想通りの悲しい返答が返ってきたけれど、予想通り=狙っていた展開だ。
「町田先輩の言うマナーに照らし合わせるとすれば、僕とアリサさんはしっかり守っている気がするんですけど……」
おそらく、僕がただ普通の新入生だったらまず相手にされない。
だから僕は、自分の容姿が女性的であるのを逆手に取って彼女に強い印象を与えればいいんだ。これがステップ1。最も難易度の低い賭け。
「それは……どういうことかしら?」
「そのままの意味で取っていただいて正解です。僕は男ですからね。貰った学生手帳にだってほら、しっかり書いてあります」
言いながら取り出した学生電子手帳なる、近代文明を無駄に詰め込んだ高級アイテムを見せる。
身分証明書になるのは当然として、その他にも、ルールを破った際に全自動で通報してくれたり、禁止エリアへ侵入するとブザーが鳴ったりするなど、なんとも邪魔なシステムが多いので大抵の生徒は携帯しない。
「……え? 男……の、子?」
なかなかに驚いてくれる先輩。そこは驚くとこじゃないとか今更言うつもりはないし、悲しむのも飽きてきたから、そろそろ許容して暮らそうと思っております。
「はい、男です」
「……データの改ざんは重罪よ?」
「男です」
「それもこんな宇宙で……特別指導を受ける必要があるでしょうね」
「泣きますよ?」
「ごめん。事実なのよね。謝るわ」
……この人結構面白いかも。
「それで、その道長君が何のようかしら?」
そう言って見せるのは少々ぎこちなくなってしまっている営業スマイル。ステップ1はクリアしたと考えていいだろう。
「わかりませんか? 踊りの場で、男が女に近寄る理由」
「ごめんね。踊りには、あまり興味がないの」
優しく言ってくれてるけど、内心踊る気なんてさらっさらなんだろう。ここからステップ2に移行だ。
ステップ2は簡単に言うと、等価交換。踊りと同等になる何かを僕が提示する。
「あなたがおそらく知りたがってるであろう情報を教えてあげますよ」
「……素敵なお誘いね。何かしら?」
情報は重要だ。情報さえ持っていれば、今の世の中うまく渡り歩いていけるだろう。
「今年の新入生の内で、あなたの地位を脅かす人材のこと……では、駄目ですか?」
言った途端、営業スマイルで保てれていた町田先輩の表情に変化が生じる。やはりだ。彼女は、自分の地位に対するプレッシャーを感じている。
自信家のように見せている面は嘘ばかり。胸の内では、いつも自分の立ち位置に対し恐怖していて、だから日々努力を怠らない。
危なっかしく、それでいて、いやそれだからこそ可憐で、手を差し伸べる事を躊躇えない。
「今年の新入生には、驚くほどの才能を持った、いわゆる天才が『数人』います。知りたくないですか?」
このステップ2が、おそらく最も分の悪い賭け。何せ天秤の片側には、町田先輩の持つプライドが重くのしかかっている。
町田先輩がこの話に対して、プライドを傷つけられるか、または傷つけるのか、それとも、『癒すのか』は僕の行動次第だ。
「僕はあなたに近づくことを選んだ。ですから、頼んでいます」
「…………」
「今宵の一時、この僕と、少々舞を披露しては下さりませんか?」
僕の頭の中には、常に外部とアクセスしている部分があり、それによって僕は誰に聞くでもなく新たに情報を集めることが出来る。
入学式の長いお話の中、このシステムによって、僕の頭の中に回されてきた情報は新入生、在校生の詳しいデータもろもろ。
それこそプライバシーに関わる域にまで触れた情報が、僕の意思に関係なく入ってきた。僕は最低だ。
きっと、今の僕がこんななのも、せっかく友達になってくれた人のことを知る前から知っている、最低すぎる環境に嫌気が差しているから。
「……はぁ。いいわ。だけど一つ、条件を追加していいかしら?」
「何でしょう?」
「今日ステルヴィアに来た得体の知れない、女の子みたいな新入生についての情報を要求するわ」
「話せる限りで、お話します」
「男子二名、女子二名が今のところ判明してますが、どちらからがいいですか?」
踊りなれているのであろう、軽やかなステップを踏む町田先輩に合わせて、さり気ないリードを意識しながら機械的なミスのない足を動かす。
「男子の方からでお願い。男に追い抜かれるのは、ある程度許容しているつもりだから」
社交的な事とはいえ、近い距離で踊っている時点で、先輩から僕に対し少なからず信頼が生まれている。分の悪い賭けは、僕の勝ちだ。
「ではまず、僕と同じクラスになるはずの生徒、音山光太君。性格上他人と争うのを嫌っているみたいですが、内に秘めている才能はここの誰よりも上です。あっという間に抜かれるでしょう。ちなみに僕の友達です」
「……二人目は?」
「……僕です」
「!?」
驚くのも当たり前だろうけど、僕が二人のうちに含まれるのも、正直言って当たり前だ。
「これは先輩が追加で要求した情報にも触れますので、一緒にお話します」
「…………」
「僕は生まれたときから、いや生まれる前から、オーバビスマシンに乗るためだけに育てられてきました。
宇宙に上がったのは今回で初めてですが、操縦の経験は、日本の訓練施設で腐るほどあります。
努力の分だけ実力が実るのだとすれば、今の時点でも僕は、あなたに負ける気がしない。何故なら、それだけ乗ってきましたから。
幸い才能にも恵まれていたみたいで、自身を持って胸を腫れる程度の実力を確保しました。此処では、トップを目指すつもりです」
「偉く自信家ね」
「まぁ、ズルして強くなったようなもの、なんですけどね」
嘘は付いていないけれど、本当に話さなければならない部分が省略された、いわゆる上手い嘘の付き方。
自分がひどく汚い存在に思えるのと同時に、妙な自身が付いてくる。どうしようもない罪悪感から、機械の心が逃げている。
でも、逃げ切れなかった。
「すいません。少し情報に訂正がありました」
彼女が僕のことを知ったら、彼女はそれを使って僕を蹴落とすだろうか?
「僕は競い合う前からあなた、町田先輩に負けている。スポーツで言う、ドーピングに近いものを僕は持っていますから」
真実を全て打ち明けることが、果たして僕に出来るだろうか?
片瀬さんにも、アリサさんにも、やよいさんにも、音山君にも、秘密にしたまま生きていくのだろうか?
「僕はきっと、生まれたときから力を持っていた。持たされていた……と言った方が正しいでしょうか?
本当に詳しい話は出来ませんが、まぁ僕はロボットみたいなものなんですよ。人間の限界を超えられる存在、ロボットです。
限界を超えて、更にミスを犯さないよう造られた新製品。宇宙服無しで宇宙空間を生き抜けたりも出来ます。それほどに、僕はロボットなんですよ」
「……今の話、信じてもいいのかしら?」
「信じてくれないと何もかもが嘘になります。真実は、一つだけです」
少しだけ、心が軽くなる。話してしまった罪悪感と、やっと話せた解放感。全部じゃないけど、これが精一杯。
「それじゃあ、残りの女子二人のことを……」
「もういいわ」
「え?」
「もう、話さなくていいわ。そんなに辛そうに話をされても、こっちの気が滅入るだけよ」
「……ごめんなさい」
「いいのよ。そうまでして私と踊りたかったんでしょう? その気持ちだけで、十分だってわかったのよ」
何でこんなに、心に余裕がないんだろう。ここにいるだけで僕は一杯一杯で、落ち着かない。
「ありがとう」
でも、ここにいて良かったとも思えた。嬉しかったんだ……純粋に。
そして僕が嬉しい笑顔を向ける視線が、先輩の後方にいる女性を捉える。綺麗な髪が、少し悲しく揺れた。
「あなたを脅かす二人の女子の内の一人と、今目が合いました。先輩の背後、壁際の人ごみのなかにいます」
先輩から手を離す。すると先輩は振り返って、人ごみの中で、一際異彩を放つ美しい女性と目を合わせた。
町田先輩の表情から、完全に余裕が失われる。
「彼女の名前は藤沢やよい。僕の……友達です」
言い終わると僕は、先輩に軽く礼を言って、やよいさんに近づいていった。
「約束どおり、僕と踊ってくれる? やよいさん」
僕が差し伸べた手を、やよいさんは、迷いながらも握ってくれた。
藤沢やよいと、町田初佳。この二人の内にあった出来事を、僕は知っている。
今回の教訓 『道長君はタラシ』 by志麻
書き終えた感想など
今回全力で遊ばせて頂きました。ここまで遊んだのは久しぶりですね。
主にアリサと町田嬢をいじりまくっております。最後の教訓はオチのつもりです。
ところで次回、つまり第三話の話なんですが、やはりステルヴィアは完成度の高い作品ですので、何か要素を付け足さなければ話が面白くならない気がしています。なので、もしかしたら次回、怒涛の展開が予想されます。
第一話で感想を下さったAKIさん、のっぽさん、Irobotさん、どうもありがとうございました。
追記
重大過ぎる矛盾点があったので修正致しました。教えてくださった樹海さん、本当に助かりました。