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「サイボーグの宇宙(そら) 第一話 後編(宇宙のステルヴィア)」

円舞曲 (2007-02-10 10:52/2007-02-10 18:54)
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昔と今とでは、空の見られ方が異なるそうだ。特に大きさに関しては、恐ろしい違いがある。
今ではハッキリと宇宙は宇宙、空は空って分けられてるのだけども、昔の人にとっては、空と宇宙は同じ存在だった。
見上げることしか出来なかったもの全てが空で、きっと、どこまでも蒼が続いている存在、だったんだ。

だけど人類には、その空を飛ぶ力を作り出すことが出来た。これってすごいよね。
鳥にだって空を飛べない種族がいるのに、人間は、やろうと思えば誰でも空を飛べるんだ。

そして、挙句の果てに人間は、空を向こう側にまで到達した。それが宇宙。
いつも見上げられた青空とは全然違う色の広がる、広大な空間。果てがあるのか無いのか、まだ誰も知らないほどに大きい。
そんな宇宙に僕は惹かれていた。何よりも自由だけど、人間にとっては、何処よりも束縛される場所に。

だから僕はステルヴィアへ行って、青空になるんだ。束縛のない存在を見せ続けてきた、あの蒼みたいになれればいいと思ってる。
それでいつか、宇宙の果てに行く。空の外側から、宇宙の外側まで……。


         サイボーグの宇宙 第一話 後編
               空の外側


「……宇宙に来たんだね。僕たちは」

右隣の席の男子、音山君はそう言った。
ガラスなのかすら定かじゃない透明な壁の奥に見えるのは、ずっと見てみたかった果てしない空間の広がりで、自分は今そこにいる。
空の外側に。

「これが宇宙なんだ……。すごいや! 僕、宇宙に来たんだ」
「……そうね」

僕が嬉しがって見せても、やっぱりやよいさんは複雑そうな顔で、宇宙を眺めている。よくわからない。
何で宇宙をそんな目で見られるんだろう? 一体、どんな価値観を持って見ているんだろう?

「やよいさんは、宇宙が嫌いなの?」

問いかけてみる。答えがどうしても知りたかったから。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。良く、わからないの。自分が此処に来たかったのか、来たくなかったのか」

あぁ……そうか、だから複雑そうな顔をしてるんだ。わからないから、そうするしかないんだ。
でも、何でわからないんだろう? 宇宙に来たいから、ステルヴィアに行くんじゃないのかな?

「何ていうか……私はね、宇宙と戦いにきたの」

よくわからない表情で、よくわからない事を言う人。不思議だけど、惹かれるものを持ってる。

「宇宙と?」
「そう、宇宙。一度は負けてしまったから、リベンジ……なのかな?」

宇宙に負ける……なんとなくだけど、わかった気がする。
何に対してかはわからないけど、やよいさんは、この宇宙の何かと戦ったんだ。必死に。だけど負けてしまった。
だからまた此処に来て、もう一度戦いを挑もうとしている。次は負けないでいてほしいとそう思う。

「それなら頑張って! 僕、必死で応援するから」

言うと、それまで宇宙を見ていたやよいさんの視線が僕の方を向いて、一度だけ微笑んだ。嬉しかった。


「そういえば片瀬さん、どうしてるんだろ?」

席が離れてるから別れたけれど、彼女は今、何を思っているんだろう?

「片瀬さんって? 道長さ……道長君の友達?」
「うん。今の音山君と同じくらい失礼なことを言ってくれた人だよ」

言われたところで嫌いになったりはしないけど、精神的に堪える。言われなかったらそれはそれで、違和感とかあるかもしれないけれど。

「失礼だと思わなくてもいんじゃないかしら? あなたの容姿は、見方によってはずば抜けた長所よ」

どんな見方なのかが問題だ。不本意な点でずば抜けようなどとは思わない。不細工なのよりはマシだけどね。
だけど、やっぱり辛い。何か得体の知れない恐怖を感じてならないし、とにかく周りの目が気になってしまう。

「じゃあ聞くけどさ」
「何?」

自分の容姿によって生じるであろう問題について、思いついたことを述べてみようと、そんなことを考えた。
何の意味があるかとかは、特に考えず、思ったことを。

「こんな容姿でさ、可愛い彼女が出来ると思う?」
「……人によっては大歓迎なんじゃないかしら?」

ショタキャラとして扱われる気はない。対等な関係で、普通の恋愛を楽しんで見たいとか思ってる。まぁ……『駄目』なんだけどさ。

「男子の親友が作れると思う?」
「それは人間性の問題よ。道長君と気が合う人となら、親友になるのは難しくないわ」

人間性……今の自分に、そんなものがあるのだろうか? あるとしたら、どんな『人間性』なんだろう?
僕の頭の中は約八割が脳で、残りはコンピューターだと設計図には書かれていた。
だから何をするときも、コンピューターによる計算が一緒に行われているっぽい。そんな実感は特にないけれど。

「クラスで浮いたりしない?」
「……間違いなく浮くわ。だけど、だからこそ人気者にだってなれるし、意識されやすいものよ」

それもやっぱり『人間性』の問題だろうか? それとも何を成すか、だろうか……。
……幼稚な考えだよね。オトナになんかなれっこないよ。

「……じゃあさ」

別にオトナになれなくてもいい。クラスで浮いたとしても、居場所は作れると思うんだ。

「やよいさんは、いつまでも僕と友達でいてくれる?」

そう聞くと、やよいさんは少しの間表情を硬直させたけど、

「ええ、もちろんよ」

なんて言って頷いてくれる。

「それじゃあ、音山君は?」
「僕?」

考えているような、そうでもないような少しまぬけな仕草の音山君。普通なようで、普通じゃない人。

「まだわからないけど、友達でいたいとは思うよ」
「なるほど……」

明日を恐れていた考えがスーッと消えてなくなり、なんだか妙に安らいだ気持ちが胸のうちから込み上げてくる。
居場所をくれる人は確かにいて、そんな人が、とても優しい心を持っているんだから、怖がる必要なんかない。楽しもう。

「ありがとう、二人とも」

友達が出来たんだ。自分は隠し事ばかりしてるけど、そんなの誰だって大差ない事を僕は知っている。
大切なのは、手遅れになる前に打ち明ける勇気と意思。

「もし僕と親友になってくれたら、その時は、僕の大切な秘密、教えてあげるね」
「大切な……秘密?」

そう、大切な秘密。重くて、だけど明確に僕を僕だと定義するモノ。自分が、自分であるのに必要なモノ。
サイボーグが人と友達になって何が悪いんだ。

「それじゃあ僕、片瀬さんのところに行ってくるよ。行って、同じ事を聞いてくる」


「柔らかかったなぁ」
「柔らかかったって……何が?」

少年が去った後の事。

「道長君の髪よ。すごく柔らかくて、病み付きになっちゃった」

やよいが空を、ギュっと抱きしめていた時の事を、光太は思い出した。
今思えばやよいは、確かに髪ばかりを触っていた気がする。とても楽しそうにだ。

「それに、とっても冷たいのよ。氷とまではいかないけど、それくらいにヒンヤリしてて、不思議だった……」

やよいの言ったことが信じられなかった。そんなに冷たい髪、温かいこの場所では有り得ない。
それに、そんなに冷たい髪が柔らかいなんて、訳が解らなかった。

「でも、肌は温かかったの。人肌の温もり程度に、普通の人間と同じ温かさ」


僕の髪は、僕の脳を働かせるためのエネルギーを発生させる装置だ。
主な用途は二つで、大気中の熱を集めて脳を活性化させる事と、使用した後のエネルギー――人間で言う二酸化炭素だろうか――を体外に放す動作を行っている。
この時、大抵の場合は温かい熱を取り入れて、熱を失った冷たい気を放つよう調整されているからか、僕の髪は何時も、雪のように冷たい。
雪は空から降ってくるもの、僕も一度だけ見たことがある。その日は珍しく多くの雪が降って、あたり一面が銀の世界に変わってしまった。綺麗だった。
雪は空から降ってくる。宇宙に雪はない。だから僕の髪は冷たいんだ。雲、雪、雨、雷、その内の一つでも欠けてしまったら、本当の空とは違う気がしてならないから。
僕の心には雲がある。僕の髪には雪がある。僕の腕には雨がある。僕の中には、雷がある。それが僕の、僕なりの空の色の全て。
他の人ならもっと別の色を知ってるのだろうけど、僕なりの空には、今のところこれだけしかないんだ。


「……いないや」

片瀬さんの席に来て見たけれど、そこに目当ての人物の姿はなく、悲しい風が一陣心に吹き付けた。
見れば、片瀬さんの右隣の席も空いていて、それ以外にもぽつぽつ開いている席の存在を確認できる。
この場合はひとまず……、

「リチャード先生、お久しぶりです」

片瀬さんの席の二つ右にいる人物、VIPと証してもいいだろうその人に挨拶しとかないと。

「一ヶ月ぶりだね、空君。体の調子はどうかな?」
「えっと……んと……特に異常はありません。強いて言えば、週に何回も検査を受けないといけないのが異常です」

目の前にいる、豊かな白髪と白髭を蓄えた男性の名はリチャード・ジェームズといって、なんとステルヴィアの主任教授だ。
ビックリするくらい優しい人で、いつだって『人類』を信頼して生きて、何があっても諦めない男の中の男である。

「でも、検査を受ける理由はわかってるつもりだから、大丈夫。僕しかいないんだもんね」
「その通りだとも。また一段と、男に磨きがかかったみたいだね」

……感動した。僕に男らしいなんて言ってくれる人はリチャード先生と『ママさん』くらいだよ……。
ていうか良く考えたら、検査の話なんて『此処』でする話じゃない……気をつけないと。

「ところで先生、その席にいたはずの、茶色い髪の女の子がどこに行ったのか知りませんか?」
「片瀬志麻さんだね。知ってるとも。彼女なら隣にいたアリサ・グレンノースという少女と一緒に、宇宙を見に行ったよ」

宇宙を見る場所といえば、基本的に場所は限られる。その中で新入生が行くとしたなら、もう一つしかない。

「ありがとうございます、先生」

そう言いながら、深く頭を下げる。ちょっとモコモコした長い、白い髪が、顔の前に倒れ掛かった。これって失礼なんじゃないだろうか?

「行っておいで。彼女に会うのだろう?」
「はい。また、今度はステルヴィアで」

リチャード先生は本当にいい先生だ。それだけに彼の講義を受けられない予科生の立場が悔やまれる。本科生なら月に一回はあるっぽいから、それまで我慢だ。


「片瀬さん」
「え? ……あ、道長君」

その場所で『宇宙』を見ていた二人の少女の内の、茶色い髪の少女に、後ろから声をかけてみると、案の定彼女は驚いて振り向いた。
隣にいる赤い髪の少女が何事かと顔をこちらに向けている。おそらく彼女がリチャード先生が言っていたアリサ・グレンノースさんで間違いないだろう。

「ねぇねぇ、このすっごく可愛い人形みたいなの誰?」

言い方が物凄くモノ扱いなのは気にしない方向で行こうと思う……のだけれど、ちょっと反撃してみるのも悪くない。

「僕は道長 空。お二人と一緒でステルヴィアの新入生だよ。アリサ・グレンノースさん」
「……なんで名前知ってるの?」

人の名前を知るのってすごく簡単なことだと思うんだけどなぁ。難しい人もいるにはいるけどね。

「グレンノースさんの隣の席に座ってる、ステルヴィアの主任教授のリチャード・ジェームス先生に聞いたの」

聞いた途端、片瀬さんの表情が一変した。何か言っているみたいだけど、混乱しているようで良く聞き取れない。
聞き取れた限りで言えば、「おじさん」と呼んでしまったそうだ。

「別に焦る必要はないと思うよ。先生は、とても優しい人だもん」
「うんうん。雰囲気からしてそんな感じだよねぇあの人」

僕に続いて意見を述べたグレンノースさんの口調は妙に楽しそうで、たぶん片瀬さんの反応を面白がっているのだろう。ノリのいい人なのかな?

「それにしても志麻ったら、私の前にこんな可愛い『ボクっ娘』と出会ってたなんて、隅に置けないねぇ」
「ねぇ! それは子の方なの? そうだよね? 娘の方じゃないよね?」

聞き捨てならない事を言ったグレンノースさんにすかさず入れるツッコミ(?)で話の発展を彩りつつ、内心焦り始めた自分が空しい。

「娘の方。ていうかそれしか有り得ないし……」
「いや有り得るよ! むしろ子の方じゃないと駄目だよ! 僕生まれたときから男だよ!」


「え……マジ?」
「かける三乗しても足りないね」


「うそ……そんな……有り得ない! だって、だってこんなに可愛いのに!」

有り得ないとまで言われた……。もう何のために生きてるのかとか考えだしそうだ。無駄に説得力がある分余計辛い。

「道長君の言うとおりだよ。道長君、男の子だよ? 私も間違えちゃったけど……」

……そうさ。こうなる事くらい、初めからわかってたんだ。
研究所にいた時は、『生まれる前』から僕を知っている人としか会ったことがなかったけど、所詮現実的な観点からすれば僕は女の子扱いなんだ。
自分でも自覚してる。だって初めて自分の姿を見せられたとき、僕は言ってしまったんだから、「ねぇ、何で○ニス付いてるの?」て……。
どう思うよ? これ。挙句の果てには自分が男なのに絶望さえしちゃったね。
だってそうじゃないか。キャラとしては美味しくても、これじゃあ最早変態の域だよ。女物の服が気持ち悪いくらい似合うんだ。
それどころがステルヴィアの学生服着てみたときなんて、研究員の皆にコスプレ呼ばわりされた。最悪だよ。
ていうか……一体誰に向かって喋ってんだろ。痛いなぁ、僕……。

「だってだってしーぽん」
「そのあだ名で呼ばれるのはまだ早い気がするけど……て、何言ってるんだろ……」

ある意味この時点では禁句ってことなのかな?

「でもこの子ったら本当に可愛いよ? そりゃあもうショタだなんて言えないくらい女の子してるのに、それで男の子だなんて思うの苦しいって! 四十代でクリスマスプレゼントはア・タ・シとか言ってるおばさんくらい苦しいって!」
「そこまで言う? 失礼極まりないどころが最早自殺に追い込みそうな勢いだよ? マジで泣くよ? つうか誰も女の子してた覚えはないよ?」

あぁ……もう、空になるよりいっそお星様になりたい気分だ。

「でも、でもねアリサちゃん。道長君、言ってたよ?」
「言ってたって……何て?」

「髪と肌が白いのはそういう風に生まれてきたからで、髪が長いのは、お父さんが切らせてくれないからって」
「……要するに?」

その時、なんとなくだけど、感じた。
今日出会ったばかりの僕なんかのために、ちょっとだけど、必死になってくれてる片瀬さんの強い優しさって言うか、なんかそんなものを。

「人それぞれ、て……言うことだよ。アリサ・グレンノースさん。僕の髪も、肌も、生まれたときから白かったし、背は全然伸びなくて、声も女の子っぽいまま。だって僕は、そういう存在だから。アリサさんだって、赤い綺麗な髪を持ってるでしょ?」
「綺麗……じゃ、ないと思うけど……まぁ」

「それに顔の造詣も整ってて、ちょっと人間不信気味な僕でも信頼せずにはいられないような、素敵な表情を持ってる。だって君は、そういう存在だから」

まだ出会ったばかりの僕でもわかるぐらい明確に、彼女は自分の色を持っている。
言うなれば、彼女の色は紅。日常を彩って、人生の楽しさを教えてくれそうな色。

「有り得ないとか、常識の範囲とか、そんなものは、今の世の中じゃあ計れっこない程に膨らんでるから、あまり縛られてほしくないんだよ。鎖やロープなんて、君には似合わないもの」

いつも笑っていてほしいわけじゃない。人間として、悩んで、泣いて、そして笑えばいいんだ。

「見なければいけないのは常識じゃなくて、現実なんだ。現実において、僕は男でしかない。だから、そんな事は言わないで」

確かに僕の容姿は男から遠く離れているけれども、だからといって男の可能性が無いわけじゃない。ただ、その可能性に埋まったってだけだ。
正直……サイボーグに性別の概念があるのかとか思ったりもしてるけど……。

「こんな事で口論するよりさ、宇宙でも見てようよ。もう少しで、始まると思うから」
「始まる? 何が始まるの、道長君?」

「……パレードだよ」

僕が言ったのと同時くらいのタイミングで、同じ色ばかりの宇宙に色が走った。それも一色だけじゃない。
宇宙を彩るその色の主はケイティ。ステルヴィアの精鋭が駆る、あのケイティだ!
片瀬さんとグレンノースさんは、圧倒されたようにその光景を眺めている。

そんな二人の顔が、『ステルヴィアにようこそ』の文字が刻まれた時、自然と笑顔になった。

「ねぇ、道長……だったっけ?」
「うん、そうだよ」

何を思ったのか、グレンノースさんが振り向いて僕に言った。

「道長、私たち、お友達になりましょう?」
「え?」

突然の申し出。正直驚いた。いかにも突飛な話。彼女らしい……て、何故かそう思えもする。

「なんていうか……友達になれば、楽しそうな気がするの。駄目?」

彼女から繰り出されたのは、ちょっと子悪魔めいたプチ上目遣い。実際に受けてみて、初めてその威力を理解する。

「それじゃ、握手。片瀬さんもね」

言って差し出した手は直ぐに、僕と同じくらいの、ちょっと華奢な手で握られる。そのちょっと後に、少しプニプニした片瀬さんの手が重ねられた。


今回の教訓 『なんか目覚めそう……』  byアリサ


投稿直前に書いたもの

無駄にハイテンションなせいか書き辛かったこの後編でございます。あぁ早く学園生活を描きたい!

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