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「サイボーグの宇宙(そら) 第一話 前編(宇宙のステルヴィア)」

円舞曲 (2007-02-03 23:55/2007-02-10 10:53)
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空が好きです。たぶん、生まれたときから。
僕が生まれたのなんてここ最近の事なんだけど、起きて最初に見たのは、やっぱり空だった。
空の向こうには宇宙(そら)があって、その中にも、たくさんの人が住んでる。暮らしてる。
そんな空の世界を守るのが僕の存在意義なんだって、父さんは教えてくれたよ。
だから僕には、それを目指すことしか出来ないし、それを達成する力が与えられたんだ。
これってすごいことだよね。僕が、宇宙を守るんだから。
だけどそのためにはまず、多くを学ばないといけない。やる気はあるからたぶん大丈夫。
プログラミング、オーバビスマシンの操縦、それに普通の科目もいろいろ。
中でも一番大切なのが、人の心を学ぶこと。人の心が、僕を導いてくれるって父さんは言ったから。

『だから僕は、ステルヴィアに行く。知りたいことを勉強しに行くんだ』


    サイボーグの宇宙(そら)〜ステルヴィア〜  プロローグ 第一話
               空の内側


空はまだ青い。僕がまだ地球にいるんだから、当たり前だ。
青くない、写真では黒っぽかった宇宙を見るのは、これからのこと。
僕が向いている方向の先にある白い大きな宇宙船で、僕はステルヴィアに行くらしい。
宇宙に行くために生まれてきたけど、まだ本物の宇宙は見たことがない。
だからかな……すごく胸が熱いんだ。これが『ドキドキ』すること、なのだと思う。
ステルヴィアは宇宙の学校だから、たくさんの新入生と、それを見送りに来た親が、僕の周りを埋め尽くしている。
見回してみて初めて、自分の背の低さに気付いた。僕の身長といえば、女子より高いか低いか、みたいな感じだ。
男子のほとんどが僕より十センチは身長が高くて、それに、普通の体をしてる。
対して僕の体は普通じゃない。肌は白く作られて、髪はそれ以上に白く出来てる。父さんは雪の色だと言っていた。
父さん曰く、機械との『シンクロ』には色が邪魔らしい。着ている服は普通のだけど、パイロットスーツはきっと白の特注品だろう。

「なんだか一人ぼっちでいるのより嫌な感じ……」

この場所に感じる不快感はちょっと大きすぎて、自然と僕の目は地面を見つめた。
正確に言えば、地面じゃない。白く平らな人口の土地。
周りさえ見えていなければ、少しは楽な気持ちになれる。よし、このまま宇宙船まで歩こう。
一歩、二歩、三歩……前に人がいたらぶつかってしまうだろうか?
でも、一度伏せた顔を上げるのはなんだか難しく感じる。
やっぱり……このまま歩こう。ぶつかるくらい近づけば足元くらいは見えるし、大丈夫だと思う。

「……たぶん」

宇宙船の入り口、階段というか坂みたいになってる床に足をかける。
途端、背中に走った衝撃で世界が揺れた。というより、真っ暗になった。女の子の悲鳴が聞こえた気がしなくもない。
顔面が強く地面に打ち付けられる。覆いかぶさってきた重みでよけいに痛い。
それに、なんだか硬いものが後頭部に当たってる。たぶんガラス。
誰かにぶつかるのではなく、誰かにぶつかられたみたいだ。ちょっと面白い。
だけど、苦しい。

「あうぅ……」
「あ……ご、ごめんなさい!」

僕にぶつかったらしい少女の謝る声と共に、背中にかかる重みが消え去った。
痛む顔面を抑えながら、ゆっくり立ち上がる。何度も謝罪の声をあげている少女の方に僕は振り返った。
可愛い少女だ。長い茶髪を両側でくくっていて、柔らかそうな輪郭に良く合っている。思わず和んだ。

「本当にごめんなさい!」

すごく申し訳なさそうな表情で頭を下げられる。

「謝る必要は、ないと思うよ」
「え?」

謝ることはないと思う。それこそ、僕にだって非があるんだし。

「僕……なんだか自分が孤立してる気がして辛かったから、下向いて歩いてたんだ。
 それが直接君とぶつかった原因になったわけじゃあないけど、もしかしたら、
 僕が君にぶつかってたかもしれない。そう考えるとほら、謝る必要ないと思える……かな?」
「聞かれても、どう答えたらいいのか……」

人の心の勉強がまだまだ足りないなぁと心の中でため息をつく。
そういえば、人は具体的にどう思ったらため息をつくんだろう? 今の僕みたいなとき?

「まぁでも、やっぱりそんなに問題はないと思うから、大丈夫」
「問題ないなんて、そんなはずないよ! その、女の子なんだから顔を大切にしないと」

……はぁ。父さんの馬鹿。

「それこそ大丈夫だよ。だって僕、男だし」
「え? ……そうなの?」

ある意味ぶつかったときより驚いた様子で僕を見る少女。すごく複雑な気分だ。

「髪と肌が白いのはそういう風に生まれてきたから。髪が長いのは、父さんが切らせてくれないから。
 目が大きいのも、腕や足が細いのも、やっぱりそうやって生まれてきたから。僕にはそうとしか言えないよ」

にしても、父さんも父さんだ。何で男である僕をこんな容姿に『改造』しちゃうんだか……。

「うぅ……私よりずっと可愛いのに。こんなに可愛い人はじめて見たのに……」
「ごめん。それに関しては全力で謝罪を述べて欲しい」

かなり傷付いた。父さんの顔を一度本気で叩かないといけない、かもしれない。

「まぁそれは置いといて、君も新入生だよね? よろしく」

そう言い手を差し出す。握手をしたら友達になれると、父さんが言っていた。

「え……あ、うん。よろしくね」

自分と同じくらいの身長の少女が、両手で持っているガラス瓶を片手で抱えて、僕の手を握る。あ、いけない。名前言ってないや。

「僕は道長 空(みちなが そら)って言うんだよ。君は?」
「えと、片瀬志麻です」


少女、片瀬さんの少しぎこちない敬語に、なんともない違和感を感じる。
普通に話してくれていいのに、どうしてだろう?

「僕たちお友達だね」
「え?」

握手したからお友達。父さんが、そう教えてくれたから友達だ。

「道長君、友達になってくれるの?」
「違うよ。なってあげるんじゃなくて、もう友達なんだよ。だって、握手したんだから」

父さんが言ったんだから、間違いないはずだ。父さんは科学者なんだから。

「それじゃあ早く中に入ろう? もう少しでこの船出ると思うから」
「う、うん」

頷いた片瀬さんの手を『引いて』走り出す。引っ張られた片瀬さんが、慌てたように駆け足になった。

「お友達とは、手を繋いで歩くんだよね?」

これも、父さんが言っていたこと。

「えっと……それは少し違うと思うけど」

……!? 驚いて足を止める。どういうことだろう?

「違うの?」
「うん。手を繋いで歩くのは、恋人同士とかそういうのだと思う。
 友達同士で繋ぐことも、ないわけじゃあないと思うけど。でも男の子とはあまり繋がないよ」

だとすれば、父さんは嘘をついたのだろうか? そんなのひどい!

「でも、別に気にはしてないから……(恋人同士には絶対見えないと思うし)」
「? ……手、繋いでていいの?」

僕が問うと、片瀬さんは少しの間考える素振りをして、「うん」と頷いた。
心が温かくなった。これが、嬉しいという気持ちであることを、僕は知っている。
だからまた、走り出したんだ。僕と片瀬さんと席は、けっこう離れていたのだけども。


宇宙船が、今正に飛び立つ瞬間を迎えているらしく、シートベルトの装着を訴える放送が少しうるさい。
隣の席にいるのは、右側に僕より微妙に背が高いほどの男子と、左側に同じくらい(立たないと解らないけど)身長の女子。
この二人からも僕は女子に見えているのだろうか? そう考えると、なんだか居心地が悪い。

『当艦は、これより大気圏を離脱します。シートベルトをご着用下さい』

もう何度目かになる放送。右隣の男子も、左隣の女子もまったく動かない。
体に走る緩い衝撃が、昔よりずっと薄く見られている大気圏の壁を感じさせる。
初めての、空の外側への旅立ち。振動とは関係なしに、体が震えてしまう。
だけど、隣に座る二人は僕と全然違う。何の真意も読み取れないのだけれど、それだけはハッキリしている。
右側の男子は無表情。左側に座っている女子に関しては、無表情どころが浮かない顔をしている。何故だろう?

「宇宙に行くのが、辛い?」

そう、眼鏡をかけた長い茶髪の女子に問いかけて見る。
宇宙に行くのが嬉しくてたまらない僕と違う彼女。なんだか、とても複雑そうな表情をしていて、良くわからない。

「そう……ね。そうかも。あなたは?」

辛いかもしれない? どういうことだろうか。

「楽しみだよ。すごく、すごくね」

言うと、眼鏡の人の表情が少し軽くなった。理由がわからないけど、優しい人のような気がする。

「……理由、聞いていいかしら?」

二度目の、眼鏡の女子からの問いに頷く。頷くだけ。
詳しい話は、本当に相手のことを信頼していなければ話してはいけないって、父さんが言っていた。

「そう……宇宙が好きなのね。名前、聞いていいかしら?」
「……うん。僕は道長 空。お姉さんは?」

思わず、お姉さんと呼称してしまった自分に驚く。
でも確かに、今話している相手は同い年に思えない。

「私は藤沢やよい。女同士なんだから、名前で呼んでくれていいわ」

父さん……。始まって早々外の世界で生きる自身がなくなってきたよ……。

「……男の子……だった?」

コク、コク、と何度も頷く。目に涙が溜まってきて、開けていられない。

「え!?」

頷いた瞬間だったろうか、やよいさんの方を向いている僕の真後ろから、そんな声が聞こえた。
驚いて振り返る。右隣にいた男子の声であったのは、間違いないだろう。

「そうまで驚かれるとすごく複雑だよ。いやむしろ鬼だよ。泣くよ?」
「あ……ごめん。女の子だと思ってたから……」

誰か憎い人がいるとき、わら人形にその人の名前を書いて杭を打つといいって『お姉ちゃん』が言っていた気がする。
僕の場合は、一瞬の迷いもなく父さんの名が書けるだろう。

「本当ねぇ。あなたどこからどう見ても女の子にしか見えないもの。ある意味恵まれた容姿よ?」
「対人恐怖症になりそうだからそれ以上言わないで。お願いだから」

そうか、この艦に乗っている人は皆、僕を女の子として見ているんだ。そうなんだ。

「でも、そのままだとすごく困るわ。そうねぇ……新入生歓迎会のダンスで、たくさんの男に囲まれるレベルだもの」
「そうなの? そこまでなの?」

男から見た意見を聞くべく、右隣の男子に話を振ってみる。

「……否定はしないよ。実際、艦の外でも話題になってたし。絶世の美少女って」

もうダメだ。もうおしまいだ。父さんを何度叩いてもこの傷は拭いきれないよ。

「あんまり気を落とさないで。道長君なら、女の子にもモテモテよ。(ある意味で……だけど)」
「ちょっとまって! 最後になんて言ったの?」

良く聞き取れなかったけど、最後に何やら不吉な言葉が呟かれた気がする。
でもこのままじゃあ困るのは確かなのだろう。僕は、どうすればいい?

「髪……切ろうかな? 父さんが激怒しそうだけど」
「切ったら切ったで、ショタキャラかボーイッシュ系美少女ね」

こういうのお先真っ暗っていうんだろうか?
それに、髪を切るつもりなんて実はまったくない。切りたくても、『切れない』からだ。

「男キャラとの絡みなんてこれっぽっちも期待してない読者の、失笑を招くような展開はゴメンだよ……」

口走ってはいけない類に触れることでストレス解消を図る自分。無駄にテンション高い分ヤケクソになってる。

「そんなに心配しないの。ちゃんと、本当のことを知ってくれてる人もいるじゃない」
「え?」

言われて、左の席に座るやよいさんと、右の席に座る男子(そういえばまだ名前聞いてない)を見回す。
なんだか、片瀬さんと一緒にいたときみたいな温かさを感じる。

「うん。……エヘヘ」
「フフ」

少し照れてしまった僕につられるように笑うやよいさん。とても、上品な笑い方だ。
右の席の男子も、見れば柔らかな笑みをしていた。

「僕は音山光太。よろしく」
「うん。よろしく」

人の心って……こんなにも温かいものなんだ……。

「道長君。改めてよろしく。私たち、お友達になりましょう?」
「……うん!」

片瀬さんに、やよいさんに。二人の、僕のお友達……。(音山君はどうなんだろう?)

『大気圏を離脱しました。通常運行に入りましたので、シートベルトの装着は不要です』

そして今、空の内側から外側、つまり『宇宙』に僕は来た。
ずっとずっと待ち焦がれていた、見上げるだけしか出来なかった宇宙に。

「そういえば、新入生歓迎会ではダンスがあるの?」

社交界で困らない程度の知識と技術は叩き込まれたけど、不必要(であってほしい)な事で緊張してきた自分がいる。
もし、むさい男子に踊りを申し込まれでもしたら、僕のキャンパスライフが壊れてしまうような気がして……。

「あぁ……うん、そう。ステルヴィアの新入生には最初、ちょっとした歓迎会が待ってるの(せめて声だけでも男の子ならギリギリセーフなのに)」

……どうしよう? 自分が真に男として見られることを信じ、堂々と挑むべきだろうか?
打開策……何でもいいから、何か打開策を……そうだ!

「だったらやよいさん、僕と踊ってよ!」

え? と驚くやよいさんに対して放つ最終兵器、ズバリ、上目遣い!
父さんがこれさえやれば頷かない人はいないって言ってたもんね。

「…………」

相手の視線の中心を捕らえて、

「…………」

可能な限りの『表情』で目を反らさせないよう配慮し、

「…………」

心の奥底から湧き出る『お願いオーラ』を叩きつける!
途端、震えだすやよいさんの体。手ごたえ十分……今までの経験からして、もう絶対に断られないはず。
その確信を事実へと変えんばかりの勢いでやよいさんの手が近づいてきて……近づいてきて?

……三分後だったろうか? 解放されたのは。


今回の教訓   『可愛い子は抱きしめたくなるもの』   byお嬢


僕は作られた。十二歳で死んでしまったらしい『道長 空』を元に、父さんの手で。
生まれたその日からずっと、サイボーグの命は回り続けている。本当の命がもう亡くなっているにも関わらずに。
だから僕は人間を学びたい。自分の存在がただの機械だなんて、認めたくないんだ。

父さんはいつもこう言う。お前は、空の向こう側にある宇宙の中の、たった一つの青空になるんだって。
だから明るく在ろうと思う。青空を生み出すには、太陽が視界に入ってないと駄目だから。


 後に書いてみた後書き

初めまして。
ありとあらゆる二次創作の中でも少数、宇宙のステルヴィアではおそらく初だと思う『ショタ系ハーレム路線ジュブナイル的SF大活劇』にトライしてみた円舞曲です。わるつで変換しても出ないのでワルツと呼んでください。
全体的にテンション高めで、かつ随所にシリアスを交えながら突き進んで行こうと思います。
主人公はサイボーグです。詳しい設定は、


名前:道長 空(みちなが そら)
年齢:死後十年
身長:153cm(涙)
体重:33.3kg(特殊素材)


みたいな感じです。全然詳しくありませんね……。
この後の路線は、小説としての世界観の確立であります。

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