インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「サイボーグの宇宙(そら) 第四話(宇宙のステルヴィア+ゲスト一名)」

円舞曲 (2007-02-24 19:58/2007-02-24 21:35)
BACK<

視界が開いていく。微かな光が瞳に触れるけど、朝も夜も存在しない場所にいる時点で、それは日の光じゃない。
入ってきたのは青白い光。機械ばかりの部屋の中の、天井から発せられる機械的な光。
どうやら光は、目を瞑っていても脳内コンピューターに直接アクセスしてくるみたいで、なるほど、この部屋の住人専用目覚まし時計ということだ。

「……六時……かぁ」

サイボーグだからか、三時間も眠れば体の休憩には事足りる。だからこの時刻に起きるのは問題ない。
でも……早く起きたところで単にヒマな時間が長くなるだけだと思うんだけどなぁ……いや、そうでもないか。

「おはよう、モモ」

カプセルから、まだ少し眠たそうに起き上がる少女、モモ。
僕がステルヴィアで予科生として過ごす一年の間、僕のサポートを勤めてくれるらしいアンドロイドの女の子だ。

「おはようございます、道長さん」

でも、やっぱり眠そうで、礼儀正しい振る舞い以外には人間の女の子と大差がない。
余程、丁寧に愛情を込めて作られたんだろう。そういう点では、僕とそっくりだ。
まぁ……何というか、僕のほうは少々『歪んだ』愛情だったのだけども。普通自分の息子を美少女体型に改造したりしないよ……。

「調子はどう? まだ起動してからそんなに経ってないんでしょ?」
「はい。バッチリです! 道長さんはどうですか?」

「僕も調子いいよ。強いて言えば、ちょっとお腹が『空いてる』かな」

昨日の朝からメイン動力のチャージを行ってない分、今のままでは、残り稼動時間十一時間といったところだろう。
この大切な時期、僕には身体の健康管理に特に力を入れないと駄目だ。朝早いのも、たぶんそのため。

「あ! はい! 道長さんのお食事についてはしっかりと学んできたので、直ぐにお作りしますね」

「お願い……していいかな?」

モモは頷き微笑んでから、楽しそうに『キッチン』へと歩いていく。
きっと、誰かの役に立てる事に喜びを感じているんだ。素敵な『親』を持ったのだろう。

「朝の食卓に変なもの作らせて、ごめんね」

言うと、彼女は薬品を混ぜ合わせる作業を続けながら、首を振った。

「……変なものだなんて、そんなはずないです。あの……だってこれは……道長さんの立派な御飯です」

モモの言うとおりだった。僕にとってそれは必要不可欠なもので、命の源、なんだ……。ないと止まるから。

「そうだね……大好物だよ。最高のスパイスが入っていれば、もっと美味しく出来上がるんだけどね」
「最高のスパイス……それは、どこにあるんですか?」

……やっぱり通じなかったかぁ。でも、それはそれで彼女に似合って、より可憐に咲き誇る栄養素、なんだと思う。いやそうなんだ。

「聞いたことないかな? 二つあるんだけど……。ちなみに、片方はもう入ってるんだよ?」

知識があったとしても、モモはまだ生まれたばかりなんだ。

「空腹と愛情。人間にとっては、この二つに勝るスパイスはないって言うね。まぁ、僕はサイボーグだけど……」
「……愛……情……」

人間そっくりに頬を紅く染めるモモ。僕が知りえた情報によるとそれは、ヴェクターが人の持つ心にこだわり貫いて造り上げた人口知能によるもの。
それを僕は知っているし、受け止めているつもり。

「……でき、ました」

薬品を調合し終えたモモが、容器をテーブルの上に持ってきた。
太いストローのような食器を添えた後に、ちょっとモジモジとした動きを見せながら、口を開く。

「あ……愛情を込めて、作りました。どうぞお召し上がりくだ……さい」

ファーストフード店のCMでありそうな台詞を、目一杯緊張しながら告げられる。ロボット特有の冷静さも垣間見えるけれど、やっぱり、『生きる』のにまだ慣れていない。
しかし世の中には、それを魅力の一つにしてしまう存在も多くて、特にモモは格別だった。

「フフフ……愛情残さず食べきって見せるよ。いただきます」

フフフとか言ってる自分を情けなく思いながら、そんな動揺を悟られぬように、サイボーグらしい『冷静さ』でストローを吸う。
ボトルやカップに入ったのをそのまま飲むんじゃあ面白くないからっていう理由でストローを使い始めたのだけど、吸う様子が『可愛い』と不評なので実はちょっと恥ずかしい。

「……どうですか?」

一旦吸うのをやめて、言葉を捜す。

「四百点くらいかな」
「もしかしてそれ……千点満点、なんですか?」

「うんうん、違うよ。こういうのは百点満点に決まってるじゃない」
「でも……それじゃあ四百点っていうのは……?」

「『急所に当たった』と、『効果は抜群だ』が両方出た感じかな」
「……?」

某RPGでは即死の威力を持った言葉、だと思ってる。

「まぁ、モモが今緊張してるっぽいのが信じられない程度に『美味しい』から、僕は大満足だよ」

言うと、「よかったぁ……」みたいな言葉が聞こえそうなため息をつくモモ。
……緊張、しすぎだよ。

「ねぇ、モモ」
「はい。何ですか?」

「ちょっと僕の話、聞いててね」

何だろう? と疑問に思っている表情で律儀に「はい」と答える少女。僕は言葉をつむぎだす。

「モモには、何の遠慮もなしに『付き合っていい』相手がいる。わかるかな?」
「……道長、さん?」

「そう、その通り。料理に愛情を込めるのも、憎しみを込めるのもモモの自由で、僕はその全てを許容する。
 人肌の温もりが欲しいなら胸を貸してあげるし、ストレスを解消したいなら好きなだけ殴ってくれていい。
 モモが前を歩くなら僕が後ろか、または隣を歩いてる。君が後ろにいたいなら、僕が前を歩いてあげる。
 君の全てを僕が許容する。僕は、モモに最大の自由を提供する。モモの全てがもう受け入れられてるんだ。
 何故なら僕はモモのパートナー。無二の親友にも、恋人にだって、なってあげられる存在なんだよ。むしろ大歓迎だね」

言えるだけの事を、言ったつもりだ。緊張とか全部バカらしくなるようなくらいに、頑張ったつもり。
モモの表情が面白いように変化する。ロボットである彼女にとっては、解析に困る言葉なんだ。

「もっと素直に向き合いたいんだよ。いつだってありのままが素敵なんだ」

特に、僕らみたいな機械にしてみれば、ありのままの自分でいられるのはすごく幸せなこと。
ありのままに、なすがままに、やりたい事をやって、行きたい場所に行って、知りたいことを知れるなら、その自由は幸福だ。
自由は幸福だ。時間を有効活用出来なかった人にしてみれば辛いかもしれないけど、僕たちにとっては、幸福に違いない。

「だけど、もうレールは敷かれているから。だから、僕がモモの自由になれればいいって思うんだよね」

ロボットならば直ぐに判断できるわけじゃない。いや、むしろロボットには出せない答えが多すぎる。
でも彼女は違うんだ。モモは、ちゃんと悩んで、考えて歩ける。用意された答え以外の選択肢を持ってる。

「…………」
「ていうのが僕の考え。気にするしないはモモの自由だよ」

「……えっと……はい! わかりました!」

……何がどういう風にわかったのかよくわからない。けど、笑ってる。

「空さん! で……いいですか?」
「うん、なに?」

ハッキリした口調。これも無理してるように見えて仕方がないけど、変わるには、一度『崩れる』必要がある。
変わって、崩れて、別の形として生まれ変わること……つまり起承転結。あらゆる事象に対し活用できる、すごい四字熟語だ。

「改めて、よろしくお願いします!」

…………。

「……うん。よろしくね、モモ」

願わくば、一年後の別れが無きものになってほしい。あればきっと、悲しい思い出になってしまうから。


             サイボーグの宇宙(そら) 第四話  前編
                 スクール☆ライフ 入門編


用意されていた制服……男用と女用を見て、僕は苦い笑みをこぼした。
制服はどちらも同じサイズ。もちろん、僕用なのだろう。

「ま……ある程度は予想してたんだけどね」
「……予想……してたんですか?」

していた。だけど、『こんな』予想をしている時点で、自分が終わっているような気がしてならない。
どうせあの父親のことだ、半分はイタズラ、そしてもう半分は……本気なんだろう。

「父さんは冗談みたいなことでも平気でする人だから……。僕を造るのだって、常識で考えたら狂ってるとしか思えないもの」
「そんな……お父さんのことを悪く言ったら駄目です!」

息子に男子用と女子用の制服を用意する父親を悪く言っちゃいけない社会なんてゴミだ。

「悪く言ってるわけじゃないよ。……父さんには悪いところも多いけど、でも、明るくて優しい人なんだ。
 僕は父さんを尊敬してる。受け入れられないところもあるけど、本当に感謝してる。うん……僕は父さんに感謝してるし、大好きだよ」

言うと、モモはほっとしたように表情を緩くさせて、とても元気の出る笑顔を僕に向けてくれた。
すごく温かい表情。ヒマワリとか、アサガオとかを見たときのような、優しくて可憐な微笑み。

「モモにも、感謝してるよ」
「? ……モモ、空さんに感謝されるような事、してないです」

「まぁ、僕が君に感じている感謝の念はちょっと特殊だからね。何ていうか、いてくれるだけで嬉しんだよ。大好きだもん」

少しイタズラっぽく放った言葉。モモの頬が、文字通り桃色になる様はとても可愛らしく、それが面白くてたまらない。

「……モモ、女タラシさんは嫌いです」
「それじゃあ僕のことがだいっ嫌いってことになるよ。人間だったときの道長 空と同じで、僕はタラシらしいからね」

道長 空がまだ人間だったとき、僕は若くして、ガールハンターの称号を得ていたそうだ。
頭角を現し始めたのは小学五年生のころで、特に六年生の時なんて教師にさえ手を出してたみたいだし、相当な女好きといえる。
でも……中学に上がってから直ぐに、人間の道長 空は事故で亡くなった。きっとたくさんの女の子を傷つけたんだろう。もう、二十年も前のことだ。

「……空さんはせこいから嫌いです」

「自分でもそう思ってる。でも……言われてみるとけっこう傷付くね……」
「……空さん?」

「三年後までにロボットの法律が変わってたら、左手の薬指にアクセサリーをプレゼントするつもりだったのに」
「左手の薬……!?」

「一夫多妻制とか……すっごく憧れるね」
「妻は一人で十分です!」

「それじゃあ、学校生活と一緒に将来のパートナー探しもエンジョイしなきゃ!」
「私もパートナーです!」

「なら結婚してくれる?」
「え?」

煙を噴出さんばかりに上気したモモの顔は微笑ましくて……


その日僕は、目一杯の幸せを胸に抱えて、部屋を飛び出した。
身に纏うのは少し細工の施された制服(もちろん男子用)と、一風変わった『桃色の』帽子。
どうやらこの格好は、自分の、無駄に柔らかい長い髪に合わないらしく、いちいち視線が飛んできて辛い。

『……空さん……す、すごい視線です』

うん、悲しいくらいにね。


今朝の疑問  『背の低いアンドロイドが着れるウェディングドレスってあるんでしょうか?』   byM.O.M.O


おまけ  『その頃のシンデレラ』


「アリサちゃん、どうしたの? 顔、赤いよ?」
「え? な、な、何言ってるのしーぽん! そんなことないって。ないない、あるわけない!」

「……わかりやすいね、アリサちゃん」
「うっ」

「お城の舞踏会で王子様と踊るの、楽しかった?」
「ぐぐっ……」

「アリサちゃん可愛かったよぉ。お姫様みたいだったもん」
「そ、そそ……そう?」

「うんうん。きっと王子様もイチコロだよ!」
「……しーぽんがいじめる。そんなキャラじゃないと思ってたのに……」

……とまあ、そんな感じでした。


おまけのおまけ  『その頃のお嬢様』


「……楽しそうね、やよい」
「そうね……今日はとっても楽しくなりそう」

「その根拠は?」
「王子様がガラスのくつを返してくれるかもしれないわ」

「シンデレラは過去に人を殺してる極悪人だ」
「それじゃあ、目覚めのキスをプレゼントとか……かしら?」

「来るのはお姫様かもしれないぞ?」
「どっちでもいいわ」

「……恋に性別は関係ない……か……。痛い世の中になったものね」
「別にいいのよ……。ハッピーエンドで終われば、どんな結果でも納得できるもの」

「……もしかして、本気で狙ってる?」
「さぁ……どうかしら」

……真意は知れない。


 マイナー作品のあとがき

どもども、激マイナーアマチュア物書きこと円舞曲です。アン、ドゥ、トロワのリズムに乗る必要は特にありません。
書いていて思うのですが、二次創作としてはちょっと珍しい感じの雰囲気が立ち込めてるようなしないような、ちょっと逝ってる感覚にとらわれるような、そうでもないようなです。言葉遊びの要素を取り入れてるからですね、たぶん。もっと会話をユーモラスに仕上げていきたいです。

質問があったのでお答えしますと、モモは原作と同じく変身可能です。丁度、今回の終わりで空が被っている帽子がそれですね。
この後、いろいろな姿の変身して空をサポートするモモちゃんを応援してください。

のっぽさん、イクスピアリさん、ご感想どうもありがとうございました。ほんと励みになります。

BACK<

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI