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「Tales of the Negima! 第七節(TOA+魔法先生ネギま!)」

ローレ雷 (2007-02-18 00:47)
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「大丈夫ですか、このかさん!?」

 木乃香の悲鳴を聞きつけてネギと刹那が脱衣所に駆け込む。
 ちなみにシンクは未だにアリエッタに殺されかけている。

「いや〜ん!」
「ちょっ! ネギ! 何かおサルが下着を〜!」

 脱衣所では明日菜と木乃香が猿の集団に絡まれ、下着を脱がされていた。思わずネギはずっこける。

「や〜ん!!」

 やがて猿はブラとパンツまで取って木乃香は素っ裸になる。

「あ! せっちゃん、ネギ君!? あ〜ん、見んといて〜!」

 木乃香は言うとネギは慌てて目を隠す。一方の刹那はワナワナと震えて、夕凪を抜き放った。

「えうっ!? これは一体……!?」
「こ、この小猿ども……!! このかお嬢様に何をするか〜!?」
「え〜〜〜!?」
「きゃっ! 桜咲さん、何やってんの!? その剣、ホンモノ!?」

 明日菜が胸を手で隠しながら驚くと、ネギが刹那を止めた。

「ダメですよ、おサル切っちゃ可哀想ですよ〜!」
「あっ! 何するんですか、先生!? こいつらは低級な式神! 斬っても紙に戻るだけ……わっーーーー!?」

 すると猿が刹那のタオルを脱ぎ取り、ネギと一緒に転んでしまった。

「あたた……」
「うひゃ!?」

 刹那は頭を押さえるが、ネギの目の前で思いっ切り大股開きになっていた。刹那は顔を真っ赤にし、慌てて胸を隠して股を閉じた。

「あ……! な、なななな!? わ、私は味方と言ったでしょう! 邪魔をしないでください!!」
「え? べ、別にそんな……」

 邪魔するつもりはない、とネギが必死に弁明するが、明日菜が声を上げた。

「ま、待って二人とも! このかがおサルに攫われるよ〜!?」
「ええ〜〜〜!?」

 そう言われて二人は顔を上げると、サルどもが木乃香を連れ去ろうとしていた。

「お嬢様!!」

 刹那は夕凪を持って飛び出し、剣を振るった。

「神鳴流奥義……百烈桜華斬!!」

 凄まじい高速の斬撃がサルを切り裂き、紙に戻した。木乃香は刹那の腕の中で呆然としている。

「このか〜!」
「このかさん、大丈夫ですか!?」

 遅れてネギと明日菜もやって来ると、ガサッと木の枝が揺れた。

「え?」
「(ちっ! 逃がしたか!)」

 猿を操っていた術者が近くにいたようで、気配が消えたコトに刹那は舌打ちする。

「せ、せっちゃん」
「!」

 すると刹那の腕の中で、彼女に抱きかかえられていた木乃香が声を上げる。

「なんかよーわからんけど、助けてくれたん? あ、ありがとう」
「あ……いや……」

 礼を言われ、即座に赤くなる刹那。彼女は、木乃香から手を放すと何も言わずに風呂場から去って行った。

「あっ、せっちゃん!」
「???」
「ちょっ、何よー、今のは……」

 ネギと明日菜も呆然と、その背中を見送った。

「ったく……何やってんだか」

 と、そこへ素っ裸の木乃香に、いつの間にか服を着ているシンクがバスタオルをかけてやる。

「お兄ちゃん……その怪我どうしたの?」
「…………聞くな」

 頭に包帯を巻き、顔に絆創膏を張っているシンクは、ネギの質問をバッサリと切り捨てた。

「桜咲 刹那とかいう女の方はアリエッタに任せろ。アンタ達より事情に詳しい筈だ。僕は、あっちを追いかける」
「アリちゃんに?」

 そう言うや否や、シンクは風呂の壁を越えて去って行った。


 ホテルのロビーで木乃香は刹那との関係を話した。
 彼女は小さい頃、京都に住んでいた。広く大きな屋敷で彼女と同年代の友達はおらず、常に一人で遊んでいた。
 そこへやって来たのが刹那だった。木乃香にとって、刹那は初めての友達だった。
 彼女は剣道をやっており、犬などから守ってくれたりした。二人は、『せっちゃん』『このちゃん』と呼び合い、本当の親友だった。
 それから、刹那は剣の稽古で忙しくなり、また木乃香も麻帆良に引っ越したので疎遠になったが、中1のときに刹那が、こっちへ来て再会したのだ、と語った。

「何かウチ、悪いコトしたんかなぁ……せっちゃん、昔みたく、話してくれへんよーになってて……」

 目に薄っすらと涙を浮かべ、寂しそうに語る木乃香に、ネギと明日菜は何も言ってやれなかった。


「刹那も大変だね」

 その頃、ホテルの玄関では、刹那とアリエッタが、札を貼っていた。ちなみに2人とも浴衣姿である。

「いえ……私はお嬢様を守れればソレで……」
「…………」

 その事に関して、アリエッタには言いたいこともあったが、深く突っ込まない。

「な、何やってるんですか? 刹那さん、アリエッタさん?」

 と、そこへネギと明日菜とカモがやって来たので、2人は作業を中断する。

「これは式神返しの結界です」
「へぇー。えと、刹那さんも、その、日本の魔法を使えるんですか」
「ええ。剣術の補助程度ですが」
「なるほど。ちょっとした魔法剣士ってわけだな、つまり」

 つまりオコジョが喋っても驚かない世界の人間なのだと明日菜は認識する。

「あ、神楽坂さんには話しても?」
「ハ、ハイ、大丈夫です」
「もう思いっ切り巻き込まれてるわよ」

 アハハ、と苦笑いを浮かべて答える明日菜の返事に、刹那は遠慮なく話した。

「敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました。このままでは、このかお嬢様にも被害が及びかねません。
 ネギ先生は優秀な西洋魔術師と聞いていましたので、うまく対処してくれると思ったのですが……意外と対応が不甲斐なかったので、敵も調子に乗ったようです」

 ジト目で刹那に痛い所を突かれてネギは謝った。

「あうっ……ス、スミマセン! まだ未熟なもので……」
「シンクも役に立ってないです」
「お兄ちゃん、余り、こういうこと好きじゃないから……」
「(裏工作とか大好きなのに……)」

 他人を操ったり、心理的に揺さぶりをかけたりとか、そういう小細工とか大好きなシンクだったら、敵に嫌がらせされたら倍返しとかしそうな気がするアリエッタだった。

「じゃあ、やっぱりアンタは味方……!?」
「ええ。そう言ったでしょう」
「いや、すまねぇ! 剣士の姐さん! 俺とした事が目一杯疑っちまった!」

 カモは『刹那は敵だ』と断言していたので、深々と謝った。

「ごめんなさい、刹那さんっ。ぼ、僕も協力しますから襲って来る敵について教えてくれませんか!?」
「…………私達の敵は恐らく関西呪術協会の一部勢力で、陰陽道を使う『呪符使い』。そして、それが使う式神です」

 呪符使いとは陰陽道を基本として、呪文の詠唱時に無防備となるところは西洋魔法と同じだが、ガードするために西洋魔術師の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』にあたる、善鬼(前鬼)や護鬼(後鬼)という強力な式神がある。
 そして、関西呪術協会は刹那が所属する京都神鳴流と深い関係にあり、退魔の神鳴流が呪符使いの護衛に付くこともあり、そうなると非常に手強い相手だと刹那は説明した。

「うわわ……ちょっと何だかヤバそうじゃん?」
「まぁ今の時代、そんなことは滅多にありませんが……」
「じゃ、じゃあ神鳴流ってゆーのは、やっぱり敵じゃないですか」
「はい、彼らとってみらば、西を抜け東についた私は言わば『裏切り者』。でも、私の望みはこのかお嬢様をお守りすることです。仕方ありません。私は……お嬢様を守れれば満足なんです」

 そう言って満足そうな刹那の言葉に、アリエッタは眉を顰めた。が、明日菜は嬉しそうに声を上げた。

「よ〜し、分かったよ、桜咲さん! アナタが、このかを嫌って無くて良かった。それが分かれば十分! 友達の友達は友達だからね! 協力するわよ!」
「か、神楽坂さん……」
「よし! じゃあ、決まりですね! 3−A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)結成ですよ! 関西呪術協会からクラスの皆を守りましょう!」

 ネギ、明日菜、刹那、そしてアリエッタが手を重ね合う。ネーミングセンスはともかく、刹那は嫌そうではなかった。

「(よ〜し、アスナさんと桜咲さん、それにお兄ちゃんやアリエッタさんいれば怖い物ナシだ! これで後はこの親書を向こうの会長さんに渡せれば……)」

 ネギは心強い味方に胸が高鳴るのを感じた。

「でも、アリちゃんもいいの?」
「エヴァンジェリンさんの時に迷惑かけたから協力するです」
「それなら、いっそ仮契約もしちまえば……」
「…………」

 勝手なことを言うカモに、アリエッタは無言で召喚のカードを抜く。カモは「すんません!」と土下座して謝った。

「敵はまた今夜も来るかもしれませんからね! 僕、外の見回りに行ってきます!」
「あ、ちょっとネギ!」
「いえ、良いですよ。私達は班部屋の守りにつきましょう」

 興奮した勢いで飛び出して行くネギ。止めようとした明日菜だったが、刹那に言われ、残された3人は部屋に戻って行った。


「ちっ……ドコだ?」

 一方、敵を追っていたシンクだったが、完全に見失ってしまった。近くの自販機で紅茶を買って一気に煽ると、冷静になって考える。

「(途中で相手の逃げた形跡は消えていた。魔法でドコかに転移したか……それにしては魔力の形跡が……!? まさか……)」

 シンクは相手が逃げた形跡が感じられないというコトで発想を変えてみた。
 今回の一件は新幹線から起きている。つまり相手は、ずっと自分達と一緒にいたというコトだ。それは、ホテル内でも変わっていない。

「逃げたんじゃなくて……戻った」

 つまり、相手はまだホテルの中にいる。シンクは舌打ちすると、空き缶をゴミ箱に投げ入れ、ホテルに戻って行った。


「あ! シンク殿……」

 シンクがホテルに戻ると、刹那と鉢合わせた。

「今、お嬢様の部屋から妙な気配が……」
「やっぱり、敵は戻って来てたか……一杯、食わされたね」

 敵に騙されたというのにドコか楽しそうな笑みを浮かべるシンクに、刹那は眉を寄せながらも、2人は5班の部屋に向かう。

「あの……」
「ん?」
「私のコトは……」

 その途中、刹那は自分のコトをシンクには話していないコトを思い出し、尋ねると、意外な答えが返って来た。

「興味ない」
「え?」
「ネギのように敵か味方かで悩むなんて馬鹿げてる。アンタが敵なら倒す。僕にはそれだけでイイ」

 そう言われ、刹那は一瞬だけ身震いする。ほんの少しシンクの目が異様に冷たく感じられた。それは、それなりに修羅場を潜ってきた刹那ですら、より多くの死線を越えてきたと感じさせる程だった。
 敵か味方か、で悩むより、敵なら倒す。余りにシンプル、且つ真理的な返答に、刹那は何も返せなかった。

「それで……アンタは敵なの?」
「いえ……私は一応ネギ先生の味方です」
「ならそれでイイ」

 すぐに納得するシンクだが、刹那には『裏切れば、それだけ戦い易い』と言ってるようにも取れた。

 2人は5班の寝ている部屋に飛び込む。

「神楽坂さん! このかお嬢様は!?」

 部屋に入ると、トイレを我慢してモジモジしている夕映と明日菜が起きていた。アリエッタの姿が見えないが、どうやら他の班の見回りに行ってるらしい。

「え? そこのトイレに入ってるけど?」

 明日菜は血相を変えている刹那とシンクを見て不思議そうにトイレを指す。

「どれ位になる?」
「じゅ、十分くらいです〜!」

 夕映は我慢して飛び跳ねながらシンクの質問に答える。

「こ、このか〜。いるよね〜?」

 明日菜が恐る恐るノックすると、扉の向こうから「入っとりますえ〜」と声が返ってきた。その声を聞いてシンクは眉を顰める。

「どいてろ」
「ちょ、ちょっと……!?」

 明日菜を突き飛ばしてトイレの扉を開けるシンク。そして中を見て目を見開いた。トイレに木乃香の姿は無く、変なお札が一枚だけあって、「入っとりますえ〜」と声を出していた。

「し、しまった! やられました!」
「ど、ど、どうしよ〜!」
「何でもいいから私にオシッコさせてくださ〜い!!」


「……てわけさぁ」

 その頃、渡月橋では、ネギがカモから仮契約カードの説明を受けていた。
 仮契約カードの能力は―――。
 .僉璽肇福爾版囲辰任る。
 遠くから呼び出したりできる。
 パートナーの能力や道具の発動。
 etc……などである。

「折角だから早速使ってみろよ、兄貴」
「うん……じゃあ、アスナさんと念話してみるね。え〜と、オデコにカードを当ててと……念話(テレスパティア)!
 アスナさん、アスナさん、聞こえますか〜? テスト、テスト〜……もしも〜し……あれ? アスナさんからの声は聞こえないの?」
「ま、まあな」
「それって、ケータイの方が良くない?」
「うっ」

 その時、丁度、ネギの携帯が鳴った。ネギも恐らく念話したので明日菜だろうと思って、電話に出た。

「はい、もしもし―――」
<ネギ、ごめん! このかが誘拐されちゃった!! どうしよう!?>
「えーーーっ!!?」

 いきなり、とんでもないコトを言われて驚愕するネギ。

「ムッ!? 兄貴、あれは!?」
「えっ!?」

 不意にカモが声を上げて空を指す。見上げると、大きな影が落下して来た。

「わぁっ!? お、おサル!!?」
「でかっ!!」

 降りてきたのは巨大なおサルで、その腕の中には、木乃香が抱かれていた。

「あら、さっきはお〜きに……カワイイ魔法使いさん」
「こ、このかさん!?」

 咄嗟に予備の杖を出すネギ。だが、巨大おサルは飛び去って行った。

「ほな、さいなら」
「ま、待ちなさい! ラス・テル・マ・スキ……もがっ!?」

 逃げる巨大おサルを魔法で捕まえようとしたネギだが、小さなサルに邪魔されて魔法が唱えられなかった。

「ネギー!!」
「ネギ先生!!」
「何やってんの?」

 そこへ、明日菜、刹那、シンクがやって来た。シンクは呆れながらもネギの髪の毛を掴むと、一気に振り上げて、彼に群がる小ザルどもを振り払った。

「あ、あうぅ……お兄ちゃん、もう少し優しく……」
「うるさい。それより追うよ」
「う、うん」

 ネギを加え、4人は巨大おサルを追いかける。やがて、駅の前で追いついた。

「待て〜!」

 するとサルは振り返って舌打ちした。

「ち……しつこい奴は嫌われますどえ」
「何なのよ〜! あのデカいサルの着ぐるみは!」
「恐らく関西呪術協会の呪符使いです」

 周囲に人がいないのは、恐らく相手が人払いの呪符を使って、意識的に駅に近づけないようにしたのだろう。
 すると巨大おサルの入った電車が発車しかけていたので4人は何とか滑り込む。

「うわっと! 間に合った〜!」
「ネギ先生! 前の車両に追い詰めますよ!」

 刹那に言われてネギ達は前の車両に向かって走り出し、その途中で巨大おサルを見つけた。

「待て〜!」

 するとサルは振り返って肩に乗っている子ザルが呪符を取り出した。

「フフ……ほな、二枚目のお札さん行きますえ。お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」

 巨大おサルが呪文を唱えると、その車両に大量の水が発生した。4人は水で溢れた車両に閉じ込められ、的は前の車両でほくそ笑んでいる。

「ラステボゴボッ!」

 呪文を唱えようにも水の中なので詠唱が出来ないネギ。刹那も水が邪魔して剣が振れない。
 しかし、その中でシンクは、椅子を掴んで床に立ち、拳を扉に向かって振るった。すると、扉が吹き飛ばされ、水が一気に抜けて行く。

「あ〜れ〜!」

 その水は巨大おサルを巻き込んで流れていく。やがて電車はある駅で停まり、扉が開くと全員が水ごと外に流される。

「ふん。僕を溺れさせたいならマグマぐらいじゃないとね」

 濡れた髪を掻き上げ、相手を睨みつけるシンク。

「な、中々やりますな〜。しかし、このかお嬢様は返しまへんえ」

 そう言うと巨大おサルは再び木乃香を抱えて走り出した。4人も急いで追いかけた。

「刹那さん、一体どういう事ですか!?」
「タダの嫌がらせじゃなかったの!? あのおサル、何でこのか一人を誘拐しようとするのよ!?」

 ネギと明日菜に問われて、刹那は仕方なさそうに答えた。

「じ、実は以前より関西呪術協会の中に、このかお嬢様を東の麻帆良学園へやってしまった事を快く思わぬ輩がいて……。
 恐らく奴等は、このかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうとしているのでは……」
「えぇ〜!?」
「な、何ですかソレ〜!?」

 ネギと明日菜は驚きを隠せない。

「私も学園長も甘かったと言わざるを得ません。まさか修学旅行中に誘拐などという暴挙に及ぶとは……。
 しかし、元々、関西呪術協会は裏の仕事も請け負う組織。このような強行手段に出る者がいてもおかしくはなかったのです!」

 悔しそうに唇を噛み締める刹那。そんな話など、どうでも良さそうに先頭を走っていたシンクは、目の前の駅にも人払いの呪符が貼られているのを見つけた。

「やはり計画的な犯行だね」
「くっ! 私が付いていながら!」

 そう言って4人は改札口を飛び越えると、長い階段の所で眼鏡の女性がサルの着ぐるみを脱いでいた。眼鏡をかけた黒い長髪の女性で、ホテル嵐山の従業員の制服を着ていた。

「ふふ……よ〜、此処まで追って来れましたな」

 その女性は、ネギが先ほど、ホテルですれ違った女性であるのを思い出し、驚愕する。

「そやけど、あんさん達は此処で終わりや。三枚目のお札、いかせて貰いますえ」

 そう言うと女性は呪符を取り出した。刹那は呪符を発動させる前に斬りかかろうとする。

「おのれ、させるか!」
「お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」

 だが女性は呪符を発動させた。すると階段に巨大な大文字が発生した。

「喰らいなはれ! 三枚符術・京都大文字焼き!!」
「うあ!!」
「桜咲さん!」

 炎に包まれそうになった刹那を明日菜が庇うように抱き締める。

「ホホホ。並の術者では、その炎は越えられまへんえ。ほな、さいなら」
「ラス・テル マ・スキル マギステル! 吹け(フレット) 一陣の風(ウネ・ウェンテ)! 風花(フランス) 風塵乱舞(サルタティオ・ブルウェレア)!!!」

 しかし、ネギが即座に放った風で炎は一瞬で消し飛んだ。

「な、何やーーー!?」

 ネギは明日菜の仮契約カードを取り出し、明日菜と刹那の前に立つ。

「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で……大事な友達です!」

 その隣に無言でシンクが立ち、女性を睨みつける。

「契約執行(シス・メア・パルス) 180秒間(ペル・ケントウム・オクトーギンダ・セクンダース)!! ネギの従者(ミニストラ・ネギィ) 『神楽坂 明日菜』!!」
「んっ……」

 ネギとの仮契約が発動すると、明日菜は光に包まれた。明日菜は表情を引き締めると、呆然と2人を見ている刹那に振り返る。

「桜咲さん! 行くよ!」
「え、あ、はい!」

 明日菜はダッと階段を駆け上がり、女性に突っ込んで行く。

「も〜、さっきの火、下手したら火傷しちゃうじゃない! そこのバカ猿女〜! このかを返しなさ〜い!!」
「兄貴! アレだ!」
「うん!」

 カモに言われ、ネギは仮契約のカードを出す。

「アスナさん! パートナーだけが使えるアーティファクト(専用アイテム)を出します! 
 アスナさんのは『ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)』!! 武器だと思います! 受け取ってください!」
「武器!? よ、よ〜し、頂戴ネギ!」

 ネギは頷くと、明日菜に仮契約カードを向けた。

「能力発動(エクセルケアース・ポテンティアム) 神楽坂 明日菜!!」

 ネギがカードを明日菜に向けると、彼女の両手の中に光が発生し、剣の形を作った。

「きゃ! き、来たよ、何か凄そう!」

 手の中に現れた光に明日菜は目を輝かせる。が、手に収まったものを見て表情を引き攣らせた。

「な、何コレー!? ただのハリセンじゃない!」

 彼女の手の中に現れたのはツッコミの必需品であるハリセンだった。

「あ、あれ? おかしいな〜」
「え〜い! 行っちまえ、姐さん!!」
「もー! しょうがないわねー!」

 カモに言われ、明日菜はヤケクソ気味に刹那と一緒に女性に向かってハリセンを振り下ろした。
 だが、彼女らの攻撃は女性に届かなかった。女性の前にファンシーなサルとクマが現れて二人の攻撃を防いだ。

「な、何コレ!?」
「コレが呪符使いの善鬼と護鬼です! 間抜けなのは外見だけです! 気をつけて下さい、神楽坂さん!」
「ホホホホ! ウチの猿鬼と熊鬼は中々強力ですえ! 一生、そいつ等の相手でもしてなはれ!」

 女性は木乃香を担いで再び逃げ出そうとする。

「このか! このぉ〜!!!」

 明日菜は思いっ切り叫んでハリセンを振り下ろすと、猿鬼が弾け飛んだ。

「あ、あれ?」
「(な……こ、この子何者や!?)」

 まさか一般の中学生の明日菜が式神をアッサリと倒した事が信じられず驚く女性。

「な、何か良く分かんないけど行けそーよ! そのクマ(?)は任せて、このかを!」
「すみません! お願いします!」

 刹那は熊鬼を明日菜に任せ、女性に突っ込んで行く。

「このかお嬢様を返せ〜!」
「え〜い」
「な!?」

 その時、刹那に向かって一人の少女が突っ込んで来た。二人はぶつかり合い、弾き飛ばし合う。

「(しまった、この剣筋……まさか神鳴流剣士が護衛についていたのか! マズい!)」
「どうも〜、お初に〜」

 その少女は何処かおっとりした口調で喋る眼鏡の少女だった。西洋人形みたいな服を着ており、刹那とは違い右手に大刀、左手に小刀を持っている。

「え? お、お前が神鳴流剣士?」
「はい〜。月詠いいます〜。
 見たとこ、貴女は神鳴流の先輩さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気でいかせて貰いますわ〜」
「こんなのが神鳴流とは……時代も変わったものだ」
「で、では、お手柔らかに〜」

 ダッと月詠は刹那に向かって突っ込んで来る。

「(い、意外に出来る! マズいぞ!)」

 通常、大きな野太刀を振り回す神鳴流剣士にとって、小回りの効く二本の刀を相手に刹那は苦戦する。
 加勢しようとした明日菜も小ザルが群がって来て浴衣を脱がそうとして来た。

「ホホホ。これで足止めOKや」
「ドコが?」
「ひょええええええ?!」

 小ザルに刹那を連れさせて逃げようとする女性だったが、いきなり目の前にシンクが現れて驚きの声を上げる。
 しかし、シンクはハッとなる。背後に強い殺気を感じた。振り返ると同時に、巨大な鎌が振り下ろされた。紙一重で避けるシンクは、攻撃してきた相手を睨みつける。

「まさか、もう一人いたとはね……何者だ?」
「ふ〜。助かりましたわ……黒獅子さん」
「!? 何……」

 その名に強く反応するシンク。やがて雲が晴れ、月明かりが女性を助けた人物の姿を照らす。
 漆黒の革のコートに身を包み、巨大な鎌を肩に担ぎ、それに見合った体格の男だった。
 立派な顎鬚と逆立った髪、そして百獣の王の如き戦意と強い闘志に満ちた瞳をシンクは良く知っていた。

「ラルゴ!?」

 思わずその名を叫ぶ。その男は、間違いなく、かつてシンクやアリエッタと同じく六神将の一人に数えられていた男『黒獅子ラルゴ』だった。

「誰だ、お前は? 俺を知っているのか?」
「!?」

 が、黒獅子と呼ばれた男の口から出た言葉にシンクは目を見開き、驚愕した。

「俺に過去はない。俺はただ……依頼主の任務を遂行するのみ」
「(コイツ……)」
「ホホホ。黒獅子さんは、裏の世界じゃ有名な傭兵や。アンタ、この人知ってるようやけど、無駄でっせ。何せ、自分のコトも含めて、何もかも覚えてへんのやからな〜」

 記憶喪失。
 シンクは舌打ちし、黒獅子を睨む。ラルゴと呼ばれた男は記憶を失い、敵として立ちはだかる事実に表情を歪めた。
 黒獅子は、呆然としているシンクに向かって鎌を振り下ろす。シンクは鎌の柄の部分を両手を交差して受け止めるが、体格が違い過ぎ、圧されてしまう。

「く……!」
「お兄ちゃん!」
「来るな! 死ぬぞ!」

 助けようと階段を駆け上がろうとしたネギを制止するシンク。

「この……!」

 黒獅子の鳩尾に蹴りを放ち、力が緩んだ隙に硬直状態から抜け出す。ポンポンと服を叩いて鎌を構え直す黒獅子にシンクも拳を構えた。

「ラルゴ。本当に僕を覚えてないんだね?」
「知らん。俺にどんな過去があろうと関係ない。俺は俺の敵を倒すのみ」
「なるほど……」

 シンクは言葉に迷い一つ無い相手の瞳を見て笑みを浮かべた。

「アンタとは一度本気でどっちが強いか確かめたかったんだ」

 片や導師のレプリカとして生まれ、劣化しつつも第七音譜術士としての能力を兼ね備え、六神将の束ね役だったシンク。
 片や六神将随一のタフネスとパワーで敵を圧倒し、六神将の切り込み隊長として戦いの先陣を駆け抜けてきたラルゴ。
 果たして本気で戦い合えば、どちらが強いかは分からない。
 シンクの体から魔力が放出される。

「さぁ……やろうか、ラルゴ! 嫌でも僕のこと思い出させてやるよ!!」

 叫ぶと同時に地面を蹴り、黒獅子に向かって拳を放つシンク。が、黒獅子は鎌の柄で受け止めると、そのまま刃を振り下ろす。
 シンクは体を低くして彼の攻撃を避けると、拳に魔力を集中し、一気に放った。

「臥龍空破!!」
「ぬぅ!?」

 体全体を振り上げるアッパーに、ラルゴは紙一重で後ろに下がって避けるも体を掠めてしまう。
 シンクは地面に着地すると、拳と蹴りの乱打を放ちながらも、黒獅子の鎌を捌く。ソレに対し、黒獅子も巨大な鎌を、まるで手足のように変幻自在に操る。
 2人の攻防に思わず女性も木乃香を連れて行くことを忘れ、刹那と月詠も戦闘を中断し、明日菜やネギも注目してしまう。

 2人は凄まじい攻防を繰り広げながらも、互いにその戦いを楽しんでいるかのような笑みを浮かべる。

「強いな、坊主。何者だ?」
「『烈風のシンク』。良く覚えときな、記憶喪失さん!」

 互いに言葉を交わし合いながらも戦っていると、黒獅子が腰を落とした。

「喰らぇい!」
「! 離れろ!!」

 黒獅子の鎌に炎が宿る。思わずシンクは皆に向かって叫んだ。

「火龍爪!!」

 体を大きく回転させる黒獅子。すると、炎が円になって周囲を焼き払って行く。その威力は先ほどの女性の術とは比較にならないほどに強い。

「空破爆炎弾!!」

 シンクは足に力を入れると、炎を発生させるラルゴに向かって体ごと回転させる。すると、彼の体も炎に包まれた。
 互いの炎がぶつかり合い、周囲がその熱で溶けていく。

「! お嬢様!」
「させまへんえ〜」

 炎に巻き込まれまいと刹那が木乃香を助けに向かうが、月詠に邪魔をされてしまい、表情を歪めた。

「アスナさん! 僕の後ろに!」

 一方、明日菜の前にはネギが立ち、風障壁で炎を防いだ。木乃香の方は、女性が札の結界で守っている。

「ぐぅ!」
「ぬおおおおおお!!!!!」

 ぶつかり合っていた2人は一気に力を解放すると、炎が拡散した。2人が立っていた部分はクレーター状に溶けているが、当の本人達は無傷だった。そして、再び先程と同じように互いに決め手にならない攻防を続ける。

「な、何て奴らや……」

 何事も無かったかのように無傷で、更に戦いを続ける両者に女性は戦慄した。

「シンク君! この〜!」

 と、そこへ明日菜が熊鬼を一撃で粉砕し、その勢いでシンクを助けに入ろうとハリセンを振り被った。

「邪魔をするな!!」

 が、黒獅子は明日菜に向かって吼えると鎌を振るった。明日菜は相手の咆哮に身を竦ませ、ハリセンを止めてしまう。

「アスナさん!」
「しま……っ!」

 咄嗟に助けに入ろうとするネギと刹那だったが、黒獅子の鎌が明日菜に到達するまでには間に合わない。

 ザシュっという肉が切り裂かれる音が闇夜に響いた。思わず目を閉じてしまう明日菜だったが、全く痛みが襲って来ない。
 恐る恐る目を開けると、そのオッドアイを見開いた。いつの間にか、明日菜の前にはシンクが立っており、彼の胴体は斜めに切り裂かれ、血が垂れ流れていた。

「シ、シンク……くん?」
「く……! この!」

 シンクは自分の体に突き刺さっている鎌を抜くと、黒獅子の顔面を殴り、吹っ飛ばす。階段に叩きつけられる黒獅子。だが、シンクはよろめくと、そのまま後ろに倒れた。咄嗟に明日菜は彼を抱える。

「シンク君! だいじょう……」

 明日菜は最後まで言葉が出なかった。シンクの胴体は見事に切り裂かれ、血が止め処なく溢れ出ている。その余りにも無惨な姿に、明日菜の脳裏に、胸に血を滲ませている男性の姿がフラッシュバックした。

「い、いやあああああああああ!!!!!!」
「お兄ちゃん! アスナさん!」

 そこへ、ネギが駆け寄って来て、絶叫する明日菜を落ち着かせてシンクの傷を見る。

「おにい……ちゃん?」
「兄貴……この傷じゃ兄貴の治癒魔法じゃ……」

 余りにも深過ぎる傷にネギは恐る恐るシンクの頬に触れる。シンクの瞳には光が無く、焦点すら合っていない。

「愚かな。その小娘を庇わなければ、俺に隙が出来て倒せていたものを」

 いつの間にか黒獅子はネギ達の背後に立ってそう言った。その言葉に、ネギはプチッと何かが切れ、黒獅子に向かって攻撃を仕掛ける。

「兄貴! ちょっと待……!」

 真正面から挑んでも勝てるわけ無いとカモが止めるが、ネギの耳には届かない。黒獅子は突っ込んで来るネギに向かって鎌を振り上げた。

「来るか、坊主!? ならば容赦はせんぞ!!」

 記憶を失っていても戦士として、立ち向かってくる相手には女子供とて手加減はしない黒獅子の本能。刹那は「ネギ先生!」と叫ぶが、黒獅子の鎌がネギに襲い掛かる。

 しかしその時、ギィンという音が金属音が響いた。

「だ、誰や!?」

 女性が叫ぶ。ネギも思わず攻撃の手を止めた。
 黒獅子とネギの間に、一人の少年が割って入り、鎌を剣で受け止めていた。ニット帽を深くかぶり、表情は伺えない。
 その少年は笑みを浮かべると、低い声で言った。

「下がってろ、子供教師。この記憶喪失の屑野郎は俺がやる……そこで呑気に寝てる腑抜け野郎に代わってな」
「え……?」
「さぁ、来い! この屑が!!」

 少年は黒獅子の鎌を剣で弾くと、その切っ先を相手に向けて高らかと叫んだ。


 一方、頭を抱えて蹲る明日菜の傍らで血を流しているシンクの指がピクリ、と動き、その瞳に僅かながら輝きが宿り、そして小さく口を動かした。

「…………皆さんを……死なせ……」


 後書き
 ラルゴ、屑好きさんが登場です。そして次回、いよいよ様付け公式設定のあの人が登場します。アビスの裏ヒロインである、あの人です。

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